よう、俺だ。
今回はファンタジー作品には必ずと言っても良いほどに登場する「弓」についての記事だ。
一口に弓と言っても、そこそこ種類があるんだが、この記事ではその中でも「ロングボウ」に絞って解説するぞ
甲冑を着た兵士達を遠くからバッサバッサと倒しているイメージのあるロングボウだが、実際はそんな事はないんだ。この記事を見れば、それがよく分かるぞ!
目次だぜ
概要
和訳は長弓であり、長い弓であればなんでもロングボウと呼べるが、大抵はイギリスで発達したロングボウの事だ。ここで解説するのも、イギリスのロングボウだぞ!
中世風のファンタジー映画や小説に弓が出てきたら、まずこのロングボウと考えてもらって構わないぞ
名前のとおり長さが4-6フィート(120-180cm)程もある世界的に見ても大きな弓だ。日本の和弓も同じくらい大きいから、あまり大きいとは思えないかも知れんがな……。世界的には大きいんだぞ?
海外では、イングリッシュロングボウ、又はウェールズロングボウと呼んで明確にすることもある。
ロングボウの生まれた理由
長弓として有名なのが、イギリスのロングボウと、日本の和弓だ。どちらも歴史が非常に深く、その発展の歴史を書ききるのはとても大変だ。
しかし、長い弓が生まれた理由に関してはだいたいの国が以下のような共通点を持っている。
まずは大きければ大きいほど、矢の威力が強力になる事が帰納的に分かったからだ。
弓は基本的に張力が強ければ強いほど、矢も遠く飛んで貫通力も増加する事は皆も知っていると思う。そこで、大体の人間が引ける限界まで大きくしたのがロングボウって訳だな。
また、弓の耐久性を考えて大きくした理由もある。時代が進んで知識が蓄積するとどの木が弓に適しているのかが分かってくるが、そうではなくとりあえず木を拾って弓を量産していた時期は弓の耐久性に問題があった。
そのため、大きく作ることにより低級材料でもある程度の耐久性は備えるようにしたのだ。
当然のことだが、弓が大きければ大きいほど、張力が大きければ大きいほど扱うのが難しくなる。ファンタジーではこれを上手く利用して、「洞窟に眠っている誰も扱えない剛弓を主人公が使える!➡️主人公すげえ!英雄だあ!」となるのが鉄板だぞ!
ロングボウの強さとその戦術
フランス軍を粉砕するロングボウ
エドワード1世のウェールズ征伐が行われた時のウェールズ軍の主力武器であり、イギリスの記録によると、ウェールズ人が放ったロングボウの矢が鎖帷子(くさりかたびら)で重武装した騎士の足を貫通してこれを殺したという事象が出てくるほど強力で、これに衝撃を受けたエドワード1世はウェールズ軍を打ち破った後に、イギリス軍の本格的な主力武装に採用したという。
それまでの通常の弓兵に比べ、ロングボウ射手の養成は時間がかかったが、イギリス王室は弓を奨励するためにロングボウの大会もよく開いて勝者に多くの賞金を与えたり、一部の市民に対して日曜日にロングボウを練習する事を義務化までした。
そのおかげで百年戦争が開戦された当時、イギリス軍はかなりの数のロングボウ射手を編成することができ、クレシーの戦いとアジャンクールの戦いでフランス軍を粉砕することができた。このようにロングボウは百年戦争の主導権を握るために効果的な手段となったんだ。
この当時、フランスはイギリス軍の弓兵捕虜がもう弓を射ることができないように人差し指と中指を切り取った。
今でもイギリスでは人差し指と中指でVサインを作って手の甲が相手に見えるようにすると悪口として通じるんだが、それはここから来ているんだ。
百年戦争時のイギリス弓兵がフランス軍に対して、「私はまだ指を切り取られずにお前達を殺しているぞ?」って感じで始めたんだな。(諸説あるぞ)
ロングボウの活躍は戦術のおかげ?
ただしさっき記述したように、ロングボウは既にイギリス軍が用いる前から確実に使われていた武器だったという点を考えると、これらのイギリス軍の華々しい勝利はロングボウそのものではなく、ロングボウを利用した戦術から来たと見るのがより正確だな。
フランスとイギリスの百年戦争において、しばしばロングボウが中世のプレートアーマーを貫通して、フランスの騎士を虐殺したと言われているが、実際はちょっと違う。
まず、百年戦争初期の時期はまだプレートアーマーが本格的に登場する前で、フランスの騎士はほとんど鎖帷子に一部だけ鉄板で補強した程度の類の鎧を身に着けていた。
このような鎧は、まだ鉄板熱処理技術が発達していない後代の全身プレートアーマーよりも防御力が低かった。さらに、少数の騎士はただの鎖帷子を着ている場合もあった。
また、ロングボウの攻撃に被害を受けたのは人のようにしっかりと鎧を着ていない軍馬の割合が高かった。
例えば、ポワティエの戦いでフランスの騎士達はロングボウの威力にもかかわらず、何回もイギリスの陣営に向かって無闇に突撃を繰り返した。
そんな騎兵に対する長弓兵の役割は、騎士の突撃力をロングボウと木柵を使って阻止するものであり、そうした突撃力を失ったフランスの騎士を屠殺したのは槍兵等だった。馬に矢が刺されば騎士も落馬せざるを得ないからな。
つまり、知られているものとは異なり、ロングボウの矢は、鉄板を貫通したというよりは鎖の間を抜けて刺さったり、人ではなく馬にダメージを与えて落馬させた場合の方が多く、被害を累積させて敵騎兵の突撃力を削ることでフランスの軍を撃破したものであると言えるんだ。
(ここで、「じゃあ普通の弓と変わんないじゃん」なんて思ったらダメだぞ。矛盾するようだが、厚さによっては鉄板を貫通する事は無い事ではなかったし、何より飛距離が大事なんだ。突撃してくる敵にそれだけ多くの矢を浴びせられるからな)
そう聞けば、「有利な地形」と「障害物の構築」を使用して騎兵が突撃してこないようにした戦術、兵の配置がなければ不可能だった事がなんとなく分かるだろう?
最たるものが百年戦争の半ばに起こったアジャンクールの戦いで、フランスの騎士のプレートアーマー着用率が大々的に増えただけでなく、熱処理技術が導入されて鉄板鎧をロングボウで打ち抜くことが更に困難になったにも関わらず、イギリス軍はフランス軍にロングボウを使って圧勝したんだ。
反対に、ジャンヌ・ダルクが参加したパテーの戦いでは、有利な地形を確保できず、障害物の設置もまだしていない英国長弓兵がフランスの騎士に一方的に虐殺され、アジャンクールの戦いとは対照的だったんだぞ。
ジャンヌダルク最強説!
衰退していくロングボウ
さて、とにかく中世の武器としては連射能力と威力を兼ね備えた武器だったから、(英国限定だが)長期間使用されており、16世紀になってマスケット銃等が開発されてもイギリス軍の武器リストに上がっていたぐらいだった。まあ、初期の銃は品質も安定しないし、高いからな。
しかし、ロングボウを作成するのに適したイギリスの木が少なくなり、ロシアなどの国から輸入し始めると、価格が上がって生産量が減少した。
結局、材料の木が急減した上に銃の性能が向上した為にロングボウは淘汰された。
なんでも、一時期はロングボウ二本と銃一本の価格が同等になってたらしい。
あともうひとつ、熟練したロングボウ使いの不足も大きな問題であった。一般的にロングボウ使いは10年以上の訓練をしなければ戦争で使えるレベルにならないが、マスケット銃の場合は短期間の練習でも射手を確保することができるという利点があった。
一ヶ月程度の練習でマスケット銃は100ヤード以内である程度の命中率を確保することができたと言われる。
実際、1980年代にオーストリアで行われた実験では、16世紀〜18世紀の先込め式マスケット銃は100mほど離れた人サイズのターゲットに対して平均50%程度の命中率を示した。
これに比べて、非熟練者が扱うロングボウは深刻なほど命中率と射程距離が落ちた。弓自体が曲射に矢を放って標的に当てる武器だから照準自体が難しく、何よりも弦を引きながら照準を合わせること自体が筋力が強い人でなければ非常に手にあまるからな。
そうして結局、エリザベス1世の治世だった1595年には、枢密院はイギリス軍の制式武器リストからロングボウを除いてしまったんだ。
余談だが、第二次世界大戦のダンケルク撤退戦でジャック・チャーチルという英国の将校が鋼製のロングボウ、バスケットヒルトクレイモア(片手剣)を持って参戦していたぞ!
それで戦果を上げてるんだから、おかしいよなあ……
右下の人剣持ってるの分かるか?
この人についても、今度解説してみるか
ロングボウの実際の貫通力
さて、一般的に知られているロングボウの貫通力。さっきは「ロングボウが直接騎士を殺すことはあまりなかった」と言ったが、実際に鎧にロングボウで矢を放ったらどうなるのか?
それを検証した動画を紹介しよう。
① 穴は空くけど……
イギリスのドキュメンタリー番組で検証が行われた。
重量100グラムの矢を機械に装填し、張力63キロの弓と同じ出力で発射する実験である。(ちなみに、イギリスで使われていたロングボウの平均的な張力は50キロほど)
対象は厚さ1.21 mmの中炭素鋼を曲面に加工して急冷したもので、20mの近距離から入射角0度(という設定を機械に入力して)で発射された。
その結果は、鉄板の表面に穴が生じたものの矢印は弾かれて内部の木にはほとんど傷がつかなかった。騎士は鎧の下にも防護服を着ていたからな。
映像の説明は「矢は騎士に何の被害も与えない」とのこと。実験結果であるプレートは、現在グラスゴー博物館で所蔵している。
②ロングボウなんかじゃ鎧に傷一つつかねえぞ!
弓は張力130ポンド(約60キロ)で戦争で実際に使わたものと同じレベルのロングボウであり、射手はイギリスの弓術コミュニティの専門家である。実験に使用した鎧もスウェーデン製プレートアーマーとほぼ同じもの。その結果は上のとは異なり、直径12.7mmの4オンスもの矢は簡単にはじかれて飛んで行き、鎧には傷も付かなかった。
こうして見ると、イングランドの長弓兵が直接フランスの騎士を撃って無力化させることができた時代は、フランスの騎士がチェーンメールや低質な半プレートアーマーを着用していた時代だけで、味方の兵と連携する事によって撃破していたと考えられる。
総合的に見ると、長弓兵の百年戦争での直接の活躍は過大評価されており、逆に、より重要な戦術的な優位性が低く評価されていたと言えるだろう。
(ちなみに、これは騎士相手の話で、大した鎧を身につけていない雑兵達には脅威であっただろう)
ロングボウの使い手は骨格が変形していた
通常、英国ロングボウの長さは1.8メートルと呼ばれ、メアリーローズ号で発見された百点を超えるロングボウ遺物を調査した結果、2メート前後の弓が相当数存在した。
また、16世紀半ばに沈没した英軍戦艦メリーローズ号で発見された百数十余点のロングボウ遺物を分析した結果、平均張力がなんと150ポンド(68.03kg)であることが明らかになり、多くの人々に衝撃と恐怖を与えた。
こうした強力なロングボウは通常の弓と同じ撃ち方ではまともに撃てなかったためにロングボウ兵は特殊な撃ち方をしていた事が、変形した遺骨が大量に見つかった事から分かっている。
他の国の長弓
さて、ロングボウはイギリスのものだが、似たようなものは世界中に存在した。理由は最初に記述した通りだ。
アフリカや太平洋諸島の多くの先住民は、英国ロングボウと同じように、木で作られた単一の材料のロングボウをたくさんつくっていた。もちろん英国ロングボウほどよく工夫されたものではなく、素材の限界のためはるかに原始的な弓であった。
日本のロングボウもまた有名で、最も広く知られている肥後ユミは木と竹を重ねて作り弾性を高めただけではなく、英国ロングボウよりも長い225センチメートルほどの長さを誇るとんでもない弓だ。
日本の長弓については、今度別に解説しようと思う。是非楽しみにしてくれ。
複合弓との比較
さて、弓の話をするとだいたい出てくるのが、複合弓と単弓を比較するとどちらが強いかという話だ。
この記事でも、最後にその話に触れようと思う。
複合弓、単弓とは
元祖複合弓
複合弓というのは複数の木や材料を組み合わせて作り上げた弓。単弓というのは、一つの木を加工して作り上げた弓の事だ。ロングボウは単弓にあたるぞ。
複合弓は素材によっては小さなサイズで大きな張力を持つ事が出来るため、小回りがきくな。
ネットでは、複合弓の方が強いというイメージが普及しがちだが、当時のものを比べると、軍隊で使うとなるとそうは言い切れない。(現代のコンパウンドボウのような物は除く)
複合弓よりロングボウが優れている訳
複合弓の方が小さい為、弓騎兵にとっては複合弓の方が楽だっただろうが、歩兵が使うのであれば問題はない。
それに使おうと思えばロングボウも十分馬上で使うことができたはずだ。戦国時代より前から馬に乗って戦闘を行っていた日本の武士は、長さ2.2メートルを超える長弓を使って戦闘を繰り広げ、その伝統が「流鏑馬(流鏑馬)」として残っているんだからな。
それに、軍事的運用と普及の面でもロングボウは複合弓に比べて、より高く評価される。細心の管理をしなければなら複合弓に比べ、単一の材料でできた長弓は、耐久性、管理性の面で優越しているし、またロングボウはよく乾燥された木材があれば、いつでも安く生産が可能なのに対して複合弓は動物の腱+牛の角+膠(にかわ)のような材質を準備しなければため、コストが高く天気が寒く乾燥した冬に合成宮を作成すると、簡単に割れたりした為、軍隊として運用するにはロングボウは優れていたのだ。
もちろん、同じサイズの複合弓と単弓を比べれば複合弓の方がより強力であるのは言うまでもない。
しかしながら、そんな大きな複合弓はアジアにも存在しなかったし(日本を除く)、激しい戦場であれば複合弓の故障は顕著に目立ったであろうから、武器として優れていたのはロングボウであると俺は考えている。
ちなみに、現代において最強の弓は金属性のコンパウンドボウだ(複合弓の一種)。ロングボウに比べれば故障はしやすいが、扱いも難しくなく、少ない体力の消費で強力な矢が放てる。
コンパウンドボウについては今度解説するから、楽しみにしていてくれ。
最後に
今回も最後まで読んでくれた事を嬉しく思う。
ロングボウについての解説、楽しんでもらえただろうか?
映画や漫画等の影響で、甲冑を着た騎士達をグサグサと葬っているようなイメージがあるロングボウだが、実際はそんなことがないという事を知っておいてほしい。
そこまで強力な兵器だったら、後からでもヨーロッパ中の国がロングボウ兵だらけになってるはずだからな
ちょっと残念な話だが、これを知っておけば中世好きとして十分やっていけるぞぉ!笑
これからも様々な国や時代の武器や兵器、戦争や軍事ニュースについて解説していこうと思う。
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それじゃあ、またな。