紫電・紫電改とはどんな戦闘機?性能・零戦との比較/343空の実戦記録・展示館・模型まで解説
海から引き揚げられた機体に近づくと、塩に黒ずんだリベットがまだ“現役”のように光っていた。
「零戦の次に来る名機」と語られることの多い紫電・紫電改――でも、その評価は神話と敗戦の記憶の間で揺れてきたのも事実。編集部は“伝説”ではなく、実機と史料、そして現場(展示館)で見た手触りから、この日本海軍(大日本帝国海軍)の戦闘機をもう一度見直してみたい。
この記事では、第二次世界大戦・太平洋戦争期の日本の陸上戦闘機「紫電(N1K1-J)」「紫電改(N1K2-J)」を、性能の実像、零戦との比較、343空の実戦での位置づけ、そして展示館での見どころやプラモデル/漫画・映画まで横断的に解説します。検索ニーズの高い「紫電改 性能」「紫電改 展示館」「零戦 比較」「紫電改のタカ/紫電改のマキ」も丁寧に説明していきます。
第1章 導入:紫電・紫電改とは
なぜ今、紫電・紫電改を語るのか(編集部の視点)
- 末期の日本軍(大日本帝国)戦闘機は「性能は良かったのに量産と整備が追いつかなかった」という通り一遍の評価で語られがちです。紫電・紫電改はその典型に見える一方、設計刷新(紫電→紫電改)や空戦フラップなど挑戦的な工夫が見えてくると、単なる“惜しい名機”では括れなくなる――これが本記事の出発点です。
- 現地の展示館で実機と資料を見て感じたのは、「機体そのものの合理と矛盾」が同居していること。重武装・重装備化で“近代化”しつつ、整備・燃料・練度不足という戦場の現実に引き戻される。このギャップを、性能・活躍(実戦)・**比較(零戦や同時代機)**の三つの軸で解きほぐします。
- そしてカルチャー面。漫画『紫電改のタカ』『紫電改のマキ』、映画・ドキュメンタリー、プラモデル作例に至るまで、「紫電改像」は世代ごとに更新されてきました。歴史とポップカルチャー、その重なりも見どころです。
全体像(まずは要点だけ)
- 出自:水上戦闘機「強風」から派生した陸上戦闘機が紫電、全体を再設計して信頼性と整備性を高めたのが紫電改。
- 中身:重武装+空戦フラップで格闘戦と一撃離脱の両立を狙う一方、エンジンや生産体制の制約が実戦パフォーマンスを揺らした。
- 文脈:零戦との比較では航続と軽快さの零戦、防弾・火力の紫電改という棲み分け。実機は展示館で見られ、漫画・映画・プラモデルで今もアップデートされ続けています。
第2章 紫電改の誕生の背景と開発史:なぜ“改”が必要だったのか

2-1 水上戦闘機「強風」から陸上戦闘機への“転生”
紫電/紫電改の物語は、水上戦闘機N1K1「強風(Kyōfū/Rex)」から始まります。滑走路のない前線で航空優勢を確保する──この要請に応えるために川西航空機が作ったのが強風で、のちにこれを陸上戦闘機へ発展させたのがN1K1-J 紫電です。機体の系譜としては「強風 → 紫電 → 紫電改」の順。
編集部メモ
日本軍(大日本帝国海軍)の戦闘機は“ゼロ戦中心”のイメージが強いですが、紫電系は「水戦派生」の異色作。この出自が、のちの脚まわりや整備性の課題に直結します。
2-2 初代・**紫電(N1K1-J)**が抱えた“宿題”
水上機ベースの設計を陸上用に落とし込んだ紫電(N1K1-J)は、中翼配置+大径プロペラゆえに主脚が長く、構造が複雑になりました。結果として整備性に難があり、開発初期の飛行試験では誉(Homare)エンジンが公称どおりの出力を発揮できず、性能が期待値を下回ったと記録されています。現場のパイロットからは「地上視界の悪さ」など運用上の不満も出ており、**“戦える素性はあるが、量産・整備に優しくない”**という評価に落ち着きます。
編集部の視点
ここでよくある「名機だったのに惜しい」という言い方で終わらせないポイントは、課題の“因果”が設計由来か、製造品質(当時の工業力)由来かを分けて見ること。紫電は設計の難しさとエンジンの成熟不足が重なった、と読むのがフェアです。 Gruppo Falchi
2-3 再設計の核心──**紫電改(N1K2-J)**はどこが変わった?
“改”は単なる小改良ではありません。主翼を中翼から低翼に下げ、主脚を短縮・単純化。胴体と尾翼も再設計して、構造を簡素化し生産・整備性を大幅に改善しました。要するに「戦える性能は残しつつ、現場で回る機体に作り替えた」のが紫電改です。米海軍航空博物館(Pensacola)の解説でも、低翼化で脚を短くできた点がはっきり言及されています。 アメリカ海軍歴史センター+1
写真で見ると一目瞭然
N1K1-JとN1K2-Jの並び写真を見ると、紫電改の脚が“ずんぐり・がっしり”に見えるはず。これは信頼性と整備性を優先した結果で、現場主義の転換が形に出た好例です。 Gruppo Falchi
2-4 “空戦フラップ”という日本的解
紫電系の代名詞が自動作動の空戦フラップ。旋回時のGに応じてフラップが自動でわずかに出ることで失速を避けつつ**小さく回れる(旋回半径を詰める)**仕組みです。操縦者の負担を減らし、格闘戦での粘りを生むこの発想は、末期の日本の戦闘機らしい“軽快さの延命策”でもありました。米空軍博物館(NMUSAF)の解説も、紫電改の良好な機動性は自動フラップの恩恵と明記しています。 アフガニスタン国立博物館
用語ミニ解説:空戦フラップ
通常のフラップは離着陸用に大きく出す装置。空戦フラップは旋回時だけ“ちょい出し”して揚力を足す“賢い小ワザ”です。
2-5 タイムラインで俯瞰(ざっくり)
- 1942〜43年:水上戦闘機強風の実用化と並行し、私案から発展した**紫電(N1K1-J)**が飛行。誉の成熟不足や脚周りの複雑さが“宿題”に。 スミソニアン協会+1
- 1943〜44年:紫電改(N1K2-J)を低翼+構造簡素化で再設計。量産・整備性を改善しつつ、空戦フラップで格闘力を担保。 アメリカ海軍歴史センター+2Gruppo Falchi+2
編集部まとめ
紫電改は「性能アップ」より「現実に回る機体」を目指した再設計。当時の日本の工業条件(燃料・素材・工作精度)で勝ち筋を探した回答と見ると、その価値がよりクリアになります。
第3章 性能と装備を“数字”で見る(紫電改 N1K2-J/N1K2-Ja 中心)
まずは、読者からの検索意図が強い「紫電改 性能」「最高速度」「20mm機関砲」「誉エンジン」「空戦フラップ」を、一次情報に近い博物館資料で固めます。編集部としては“カタログ値の暗唱”で終わらせず、実戦で効いたポイント/限界まで一気に俯瞰します。
3-1 スペック早見(N1K2-J/N1K2-Ja)
- エンジン:中島「誉」NK9H(Homare 21)1,990hp(離昇)
- 最高速度:369mph(約594–595km/h)
- 武装:20mm 機関砲(九九式二号)×4(主翼)
- 爆装(Ja):250kg級(551lb)爆弾×4の搭載能力を持つ“戦闘爆撃”仕様(=N1K2-Ja)。
- 特徴装備:自動作動の「空戦フラップ」(旋回時のGで自動的に“ちょい出し”し、失速を抑えつつ旋回性を引き上げ)。
上記はいずれも米**NMUSAF(米空軍博物館)**の実機解説・技術ノートに明記。速度・エンジン・爆装に加え、空戦フラップの要点もはっきり触れられています。アフガニスタン国立博物館
補足:スミソニアンの解説では、紫電改の**最大速度「約370mph(595km/h)」/ロール率「82°/秒(約386km/h時)」**など“運動性の質”に踏み込んだ記述も。ここは操縦感覚の想像を助ける良資料です。
第3章 性能と装備を“数字”で見る(紫電改 N1K2-J/N1K2-Ja 中心)
まずは、読者からの検索意図が強い「紫電改 性能」「最高速度」「20mm機関砲」「誉エンジン」「空戦フラップ」を、一次情報に近い博物館資料で固めます。編集部としては“カタログ値の暗唱”で終わらせず、実戦で効いたポイント/限界まで一気に俯瞰します。
3-1 スペック早見(N1K2-J/N1K2-Ja)
- エンジン:中島「誉」NK9H(Homare 21)1,990hp(離昇)
- 最高速度:369mph(約594–595km/h)
- 武装:20mm 機関砲(九九式二号)×4(主翼)
- 爆装(Ja):250kg級(551lb)爆弾×4の搭載能力を持つ“戦闘爆撃”仕様(=N1K2-Ja)。
- 特徴装備:自動作動の「空戦フラップ」(旋回時のGで自動的に“ちょい出し”し、失速を抑えつつ旋回性を引き上げ)。
上記はいずれも米**NMUSAF(米空軍博物館)**の実機解説・技術ノートに明記。速度・エンジン・爆装に加え、空戦フラップの要点もはっきり触れられています。アフガニスタン国立博物館
補足:スミソニアンの解説では、紫電改の**最大速度「約370mph(595km/h)」/ロール率「82°/秒(約386km/h時)」**など“運動性の質”に踏み込んだ記述も。ここは操縦感覚の想像を助ける良資料です。航空宇宙博物館
3-2 “強み”はどこで効いたか(編集部の視点)
- 火力の質:主翼内20mm×4は、日本海軍戦闘機としては実用上の決定打。一撃の密度が高く、被弾時の致命度が上がるため、一撃離脱でも格闘継続でも“攻撃の出口”が太いのが美点です。アフガニスタン国立博物館
- 機動の質:自動空戦フラップは、パイロットの操作負担を増やさずに失速域を押し返す“賢い仕掛け”。「最後のひと粘り」を安全側に振るので、低〜中高度の格闘で“踏み込める”余地を作りました(スミソニアンの解説・数値も裏づけ)。航空宇宙博物館
- “改”の意義:低翼化+脚短縮で整備性と信頼性を引き上げ、現場で回る戦闘機に。これは第2章の開発史とも直結する“勝ち筋”の設計判断です。アフガニスタン国立博物館
3-3 “弱み”と制約(数字が語る限界)
- 上昇力・高高度での伸び:2,000hp級でも高高度(約21,000ft超)での出力低下や信頼性悪化が指摘され、B-29迎撃の主役にはなり切れず。上昇性能の物足りなさが“紙の上の速度”を実戦で活かし切れない場面を生みました(NMUSAFの実戦評価)。アフガニスタン国立博物館
- 生産と稼働:1945年初頭に実戦投入、終戦までに400機超の生産にとどまり、工場も空襲で被害。性能は有望だが数で押せないという“末期日本軍の構造的制約”をまとった機体でもあります。アフガニスタン国立博物館
編集部コメント
速度(約595km/h)や火力(20mm×4)は見目麗しいのですが、戦場は“高度”と“稼働率”が物を言う。紫電改の「良さ」は低〜中高度の空戦で際立ち、戦略爆撃の高度帯では息切れ——このギャップが史実の評価を二分させています。アフガニスタン国立博物館
3-4 数字で“使いどころ”を想像する
- 制空・邀撃(低〜中高度):格闘の粘り+20mm×4でF6FやF4U相手にも“噛み合う”レンジ。旋回戦や横転(ロール)で“まだ戦える”手応えが想像できます。航空宇宙博物館
- 対爆撃機(高高度):到達までの時間(上昇)と高度性能がネック。迎撃の待ち伏せ/降下一撃といった戦術で補っていた実態が、米側の博物館解説からも読み取れます。アフガニスタン国立博物館
3-5 仕様の“細部”でよく聞かれる話
- 弾数(rpg):搭載弾数は資料差が大きい(機種差・時期差・現存機の仕様混在)。“200〜250発/門”あたりの言及が見られるが、公的展示の定数表記は限定的です。記事本体では確度の高い博物館資料に軸足を置き、弾数は「諸説あり」として扱います。ww2aircraft.net
- 爆装(Ja):N1K2-Jaは爆弾架を追加した“戦闘爆撃”仕様。NMUSAFは「551lb×4」搭載可と明記しており、実運用の標準は場面で揺れると理解しておくのがフェアです。アフガニスタン国立博物館
第4章 零戦とどう違う?“神話”に寄らないガチ比較
4-1 比較の前提(時期と役割をそろえる)
- 零戦(A6M)は海軍の艦上戦闘機として1939年初飛行。長大な航続距離と軽量設計で前半戦を席巻しました。後期型(A6M5など)でも基本思想は「軽さと航続」です。アフガニスタン国立博物館
- **紫電改(N1K2-J)**は1944年に再設計がまとまり、**本土防空・邀撃を担う“陸上戦闘機”**として登場。B-29迎撃も視野に、重武装化と“実戦で回る”整備性を優先した後発組です。アフガニスタン国立博物館
4-2 まずは結論(要点3つ)
- 速度と火力は紫電改が上:紫電改は約369mph(≒595km/h)、20mm×4門。零戦(A6M5)は設計値で約565km/hとされる一方、米海軍の捕獲機試験では約335mphという結果も残ります。カタログ値・試験条件の差を勘案しても、末期の実戦レンジで紫電改が優勢。アフガニスタン国立博物館+1
- 航続距離は零戦が圧倒:ゼロの強みは約1,930マイル級の長大な“足”(型・条件で変動)。護衛や索敵、艦隊航空戦の“面制空”で武器になります。アフガニスタン国立博物館
- 思想の差:零戦は軽さ優先。後期には防漏タンクや防弾も加えますが、重くなり運動性が低下。紫電改は重武装+自動空戦フラップで格闘粘りと打撃力を両立させた“末期仕様”。アフガニスタン国立博物館+1
4-3 数字と装備の“横目線”比較(実戦重視)
比較軸 | 零戦(A6M5を中心に) | 紫電改(N1K2-J/Ja) |
---|---|---|
基本任務 | 艦上戦闘機(長航続の制空・護衛) | 陸上戦闘機/邀撃(本土防空・対艦隊戦闘) |
最高速度 | 約565km/h(設計値)/米側試験で約335mph報告あり | 約369mph(≒595km/h) |
武装 | 系列で変化。初期は20mm×2+7.7mm×2が標準、後期は改良 | 20mm×4(主翼)+(Jaは)爆弾×4搭載可 |
航続 | ~1,930マイル級(条件あり) | ゼロほどは伸びず=短〜中距離の決戦型 |
特徴装備 | 軽量・長航続。後期は防漏・防弾追加で重く | 自動空戦フラップで格闘の“ひと粘り” |
評価の勘所 | 「到達できる・張り付ける」強み | 「捕まえたら落とせる」強み |
出典:米国立空軍博物館(NMUSAF)・パールハーバー航空博物館ほか。アフガニスタン国立博物館+2アフガニスタン国立博物館+2
編集部メモ
「速度計の数字」だけで勝ち負けを断じないのがコツ。高度・気温・整備状態で数値は上下します。とはいえ、“20mm×4で600km/h級”という紫電改の末期スペックは、F6FやF4Uと正面から殴り合うための“最低条件”を満たした、というのが私たちの実感です。アフガニスタン国立博物館
4-4 戦い方の違い(運用シーンで見る)
- 艦隊航空戦/広域CAP(Combat Air Patrol)
零戦:長航続で広い空域を“面”で抑える。遠距離護衛や索敵の往復でも燃料マージンが取れるのが最大の武器。アフガニスタン国立博物館 - 本土防空/邀撃(低〜中高度の空戦)
紫電改:20mm×4の一撃密度と空戦フラップの粘りが効く。編隊での待ち伏せ・降下一撃や乱戦の“絡み”で撃墜の出口が太い。一方、高高度の上昇力やエンジンの信頼性は悩みどころで、B-29帯の継続迎撃は苦しい。アフガニスタン国立博物館 - 高速度域の操縦性
零戦(A6M5)は高速になるほど横転(エルロン)重くなる特性があり、米側試験でも200kt超で操舵が重い指摘。**“低速では曲がる/高速では苦しい”**という二面性が有名です。Pearl Harbor Aviation Museum
4-5 防弾と“軽さ”のトレードオフ
- 零戦の本質は「軽く、遠くへ」。その代償として初期は防弾・防漏タンクを持たない設計でした。後期はこれらを追加しますが、重量増で運動性が低下。設計思想の限界が露わになります。アフガニスタン国立博物館
- 紫電改はゼロ比で**“重いが堅い・強い”方向。資料が強調するのは重武装(20mm×4)と優れた機動**、そして**零戦より総合的に“後期戦に適う”**点です。アフガニスタン国立博物館
4-6 まとめ:使い分けるなら、こう見る
- 制空の“面”を張る:零戦(A6M系)。長航続で出られる・張り付ける。
- 遭遇戦で“勝ちを取りにいく”:紫電改。高速域の追随+20mm×4の決定力で、一撃離脱/乱戦の決着力が高い。
- 現代的に言えば、零戦は**“航続と展開力のプラットフォーム”、紫電改は“末期の制空火力パッケージ”。太平洋戦争末期の日本海軍が、戦闘機に求めた役割が二極化**していった証拠でもあります。
第5章 実戦:343空(源田実)と“松山空戦”の実像
“源田の剣”は伝説か、現実か。
3月19日、松山・伊予灘上空で交差したのは、紫電改を託された日本海軍の精鋭と、任務遂行に徹する米海軍機動部隊の大量戦力でした。数字と一次資料寄りの記録で、編集部の視点から「手応え」と「限界」を同時に描きます。
5-1 343空とは何者だったか(任務・編成・装備)
- 指揮官は源田実。本土上空の制空回復を狙い、各戦線から腕利きを集めて第343海軍航空隊(343空)が再編成され、主装備として紫電改(N1K2-J)を受領。必要に応じて偵察機C6N「彩雲」も配備されました。運用開始は1945年3月、まさに末期の切り札として投入された部隊です。アフガニスタン国立博物館
- 拠点は松山、鹿屋、国分(現在の霧島市)、大村などを順次使用。松山は象徴的な基地で、343空の作戦を語る上で外せない地名です。ウィキペディア
5-2 3月19日「松山空戦」— 何が起きたのか(簡潔時系列)
- 3月18日:343空の彩雲が南下する米機動部隊(TF58)の動きを発見。翌19日の迎撃が不可避に。ウィキペディア
- 3月19日 早朝:米海軍は呉・神戸・大阪方面へ大規模空襲(攻撃の主目標は呉軍港)。先行掃討のVBF-17(F6F)やF4Uなど、計300機規模が各地の飛行場上空に展開。これを迎え撃ったのが松山基幹の343空でした。ウィキペディア
- 交戦の結果(双方記録の突合せ):日本側は**「撃墜52機(前後)」と高い戦果を申告。一方、米側の整理では当日の空戦損失14機(戦闘機)**が概数として挙がり、343空側の損失は15機+偵察機「彩雲」1機(3名)等とされます。典型的な申告値と実損の乖離が確認できます。ウィキペディア
編集部メモ
“松山空戦”の数字の差は、当時の交戦記録の重複申告・確認不能・帰還後廃棄(損傷大の機体を着艦後に海没処分等)といった要因が絡みます。**「日本側の過大」だけでなく「米側の控えめ寄り集計」**も同時に存在する——ここを両側面で読むのがフェアです。ウィキペディア
5-3 戦術の実像:強みは“絡んだ時の決定力”、弱みは“高高度・継戦”
- 絡んだ時の決定力:紫電改は20mm×4の火力と空戦フラップの粘りで、低〜中高度の乱戦に強み。米側もこの日VBF-17が約25分の格闘で6名のパイロット損失を出すなど(うち一部は着艦時損失含む)、**“噛み合えば痛打し得る相手”**であったことがうかがえます。ウィキペディア
- 高高度・継戦の苦しさ:迎撃の本丸だったB-29帯(高高度)では、上昇力・高高度でのエンジン信頼性が壁に。邀撃に上がる時間と戻す燃料の現実が、継戦能力を削りました。部隊の主装備としての優秀さは疑いない一方、“戦略局面を変える”には稼働数も足りない——これが実相です。アフガニスタン国立博物館
5-4 「戦果」と「損耗」をどう読むか(編集部の評価軸)
- 短期的効果:3月19日のような遭遇・邀撃局面では、紫電改+練度の高いパイロットで米戦闘機の一部に手痛い損害を与えています。実際、米側の当日空戦損失は二桁に達しました(集計ベース)。ウィキペディア
- 長期的持続性:しかし工場空襲・燃料・整備の三重苦で343空の稼働と補充は細る一方。4月以降の菊水作戦に際しても、制空を押し返すほどの規模には届かず、損失が嵩みます。“勝てる戦い方”は見えたが、“続ける手段”が欠けた**——これが編集部の結論です。ウィキペディア
5-5 松山と“記憶”——展示館で見える戦闘の余韻
- **愛媛・愛南町の「紫電改展示館」にある実機は、1945年7月24日の空戦後に久良湾(久良/久良湾・久良海域)へ不時着水し、1979年に引き揚げられた343空ゆかりの機体。松山—伊予灘の空を主戦場とした343空の“手触り”**を、リベットや補修痕から読み取れます。朝日新聞
フィールドノート
展示機の前に立つと、「優れた機体と優秀な搭乗員がいても、補給と生産が痩せ細ると戦略は動かせない」という第二次世界大戦・太平洋戦争末期の構造的現実が、無言で伝わってきます。日本の戦闘機を語るとき、**零戦の“軽さと足”と紫電改の“末期仕様の殴打力”**という二つの思想が最後まで同じ空に同居していた——その事実が胸に残ります。
第6章 どこで見られる?展示館&保存機めぐり
6-1 国内:愛媛・愛南町「紫電改展示館」(日本唯一の実機)

- ここが唯一:日本で現物の紫電改(N1K2-J)を見られるのはこの展示館だけ。館内では実機のほか、搭乗員関連資料や映像も常設されています。住所は愛媛県南宇和郡愛南町御荘平城5688、開館9:00–17:00/年末年始休館/入館無料。無料駐車場あり。town.ainan.ehime.jp+2nanreku.jp+2
- 引き揚げの経緯:機体は1978年に久良湾で発見され、翌年の報道を含む地域記録では1979年に引き揚げ。いまは**馬瀬山(南レク)**の山頂施設で、戦争の記憶を伝えるシンボルとして保存・公開されています。

編集部のひと言:
海底上がりの実機は塗面の荒れや補修跡がそのまま残り、“博物館クオリティの綺麗さ”ではなく現場の空気が宿っています。空戦フラップのヒンジ部や主脚のがっしり感は、写真より現物のほうが断然刺さるポイント。愛媛県の公式観光サイト〖いよ観ネット〗
- 最近のトピック:施設の建替え・移設に向けた調査や**資金調達(ふるさと納税型CF)**が進行中。地元・県が前向きに動いており、保存体制の“次の一歩”が具体化しています。見学前に公式・観光サイトの最新情報をチェックすると安心です。乗りものニュース+1
6-2 海外の保存機(“世界に4機”のうちの3機)

世界の紫電改は計4機が現存。うち3機は米国、**1機が日本(愛南)**という分布です。米海軍の公式やNASMのオブジェクトページが“4機生残”を裏づけています。アメリカ海軍歴史センター+1
- 米・デイトン|National Museum of the U.S. Air Force
バリアントはN1K2-Ja(戦闘爆撃仕様)。公式ファクトシートに**“maneuverable, heavily-armed”の記述と機体写真多数。空戦フラップや主脚まわりの“改”ならではの造作が見やすい展示です。オハイオ州に行く機会があれば、B-29やP-51と並ぶ同館のWWIIギャラリーで相対比較の“目盛り”**を作れます。アフガニスタン国立博物館 - 米・ペンサコラ|National Naval Aviation Museum
343空(第三四三海軍航空隊)所属機(A343-19/s/n 5128)の個体が展示。「4機の生残例の1機」と明記され、艦載機文化の博物館らしく米海軍機との“並び”が濃い。紫電改の末期仕様=米艦隊戦闘機に殴り合いで追いつく設計という文脈が体感できます。アメリカ海軍歴史センター - 米・ヴァージニア州|NASM スティーブン・F・ウドバー・ハジー・センター
N1K2-Jaの実機がWWIIホールに常設。NASMのオブジェクトページにも明記があり、巨大な格納庫型施設で機体高さ・翼厚・主脚の太さを遠近両方から観察できます。隣接展示のJ7W1 震電など、同時期日本機との比較観察にも好適。航空宇宙博物館+1
6-3 進行中のニュース:鹿児島・阿久根沖の“海底の紫電改”引き揚げ構想
- 市民NPOを中心に阿久根沖の紫電改(通称“林大尉機”)の潜水調査と引き揚げ資金調達が動いています。両翼や機銃らしき遺物を確認したとの報道も。終戦80年を見据えた保存構想で、最新情報はNPOの活動報告や地元紙で追えます。NPO法人 北薩の戦争遺産を後世に遺す会+1
- プロジェクトのCF実績も公開されており、現地主導の保存ムーブメントとして注目に値します(※見学やダイビング等の参加条件は各発信元をご確認ください)。CAMPFIRE
編集部の視点:
**“現場で見られる機体が増えるかもしれない”**という希望は、単に“数が増える”以上の意味があります。地域に根づく戦史の記憶を将来世代へ橋渡しする具体的な“場所”が増えるからです。南日本新聞デジタル
6-4 観覧のコツ(実用Tips)
- 混雑と光:愛南の展示館は自然光が差す時間帯のほうが塗面の退色や補修跡が読み取りやすい。写真派は午前〜正午が撮りやすい印象です。館内掲示の手を触れないルールは厳守。愛媛県の公式観光サイト〖いよ観ネット〗
- アクセス実務:カーナビ設定は愛南町御荘平城5688。公共交通はJR宇和島駅→路線バスが基本。車なら津島岩松ICから40〜50分が目安。nanreku.jp+1
- 周辺あわせ:宇和海の景観ポイントや南レクの施設を組み合わせれば、半日〜1日コースに。松山空港からの広域アクセス案内も各観光サイトにまとまっています。
第7章 編集部一押しの“紫電改展示館観覧ポイント”:機体を見るときの注目箇所
「写真では知っている」の一歩先へ。紫電/紫電改(N1K1-J/N1K2-J)を前にしたとき、どこを見れば“設計の狙い”や“末期の現実”が読み取れるか。展示館や保存機でよく注目される部位を、鑑賞&模型づくりの視点でチェックリスト化しました。
7-1 主翼付け根と“自動空戦フラップ”
- ここを見て:主翼下面の付け根〜内翼側にあるフラップと、そのヒンジ/リンク類。
- 読みどころ:紫電系の代名詞である空戦フラップは、旋回時の荷重に応じて**わずかに“ちょい出し”される設計。隙間(クリアランス)や補強板の厚み、取り付け部のリベット列を見ると、“格闘で粘るための仕掛け”**が物理的な手触りで伝わります。
- 模型メモ:可動表現をするならフラップ角は控えめ(出過ぎは“離着陸フラップ”に見えがち)。ヒンジの影色を薄く差すと、写真映えします。
7-2 主脚まわり——“改”で太く短く
- ここを見て:主脚のオレオ(緩衝)、トラス状の付け根、タイヤ幅、脚カバーのエッジ。
- 読みどころ:紫電(N1K1-J)→紫電改(N1K2-J)での低翼化+脚短縮は、整備性・信頼性の改善という“現場目線”の回答。展示機でも脚柱の太さやストロークの短さが一目で分かり、“改”の狙いを最短距離で理解できます。
- 模型メモ:脚はやや内股気味の角度で立つ印象。タイヤの軽い荷重つぶれを表現すると、重量感が増します。
7-3 カウリングと排気の“仕事感”
- ここを見て:カウルフラップの切り欠き、排気口の並び、表面の焼け/煤け。
- 読みどころ:空冷大径エンジンらしくカウル後縁の開閉部が大きく、排気の流れで局所的な汚れが付きやすい。保存機はレストア後でも細かなスス汚れや塗面の荒れが残ることがあり、**“末期の酷使”**を想像させます。
- 模型メモ:排気の流れ方向(翼根〜胴体側に伸びる薄い筋)をグラデーションで描くと、紫電改らしい顔つきに。
7-4 主翼内の20mm×4——銃口・薬莢排出口
- ここを見て:主翼前縁近くの銃口、下面の薬莢・ベルト排出口、パネルライン。
- 読みどころ:20mm×4門の“出口の太さ”は紫電改の象徴。銃口周りの焼けや補修跡、排出口の形状を追うと、重武装に最適化した翼であることがよく分かります。
- 模型メモ:銃口は深く塗りつぶさない。内側に金属地や鈍い焼け色を薄くのせると実感が出ます。
7-5 外板・塗装の“末期感”
- ここを見て:外板の継ぎ目とリベット列、上面の濃緑の退色、下面のグレーの汚れ溜まり。
- 読みどころ:終末期の製造・補修事情を映して、面のうねりやパネル境界の段差、塗面の**タッチアップ(部分補修)が目立つ個体も。これは“粗い”のではなく“稼働を優先”**した痕跡。**神話化でも悲観でもない“工業の現実”**が可視化される部分です。
- 模型メモ:チッピング(塗装はがれ)は入れすぎ注意。リベット周りの点状と整備ハッチ縁の線状をメリハリつけて。
7-6 キャノピー・アンテナ・尾部
- ここを見て:キャノピーのフレーム厚、透明部の歪み、アンテナ支柱と張線、尾輪まわり。
- 読みどころ:視界確保と防弾のせめぎ合いがにじむ部位。フレームがやや太めで、“高速域も見越した末期設計”の表情。尾輪や方向舵近辺の補修板にも注目すると、地上運用の厳しさが見えます。
- 模型メモ:キャノピーは内外で色分け。内側フレーム色を入れるだけで完成度が上がります。
7-7 パネル展示の“注目ポイント”(記憶と技術のあいだ)
- 戦闘記録パネル:日米双方の数字が併記されている場合は、**確認方法の違い(申告/喪失)**に目配りを。
- 搭乗員の写真や書簡:個人の物語は技術スペックの裏打ち。練度・補給・継戦といった“人間側の条件”を意識すると、性能の意味が腑に落ちます。
- 地図・航路図:松山—伊予灘などの地形との関係を押さえると、**“なぜここで戦ったか”**が立体化します。
7-8 撮影・鑑賞のコツ(マナーも大事)
- 光の読み:翼下面のディテールは逆光気味のほうが浮きます。スマホでも露出を-0.3〜-0.7にすると質感が出やすい。
- 順路:翼→脚→カウル→キャノピー→尾部の順で見ると、設計→運用→人の流れで理解しやすい。
- マナー:展示物・慰霊要素に手を触れない/大声を出さない。写真の公開範囲(SNS等)も館の案内に従いましょう。
第8章 文化・メディアでの“紫電改”:漫画・映画・ニュースで更新されるイメージ
性能や戦史だけが「名機」をつくるわけじゃない。漫画・映画・プラモデルが、人々の記憶の中の紫電/紫電改の“顔つき”を決めてきました。ここでは二つの代表作――**『紫電改のタカ』と『紫電改のマキ』**を軸に、太平洋戦争の日本軍(大日本帝国海軍)の戦闘機がどう描かれてきたかを、編集部の視点で整理します。
8-1 1960sの“空の英雄譚”——ちばてつや『紫電改のタカ』
- 基本情報:1963年〜1965年、『週刊少年マガジン』で連載。講談社漫画文庫ほかで長く読める定番。主人公の滝 一飛曹が紫電(N1K1-J)/紫電改(N1K2-J)を駆って撃墜王へと駆け上がる、骨太な戦記アクションです。ウィキペディア+2講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ+2
- 作品の重心:勇気・責任・仲間といったヒーロー要素が前面に出る時代の作劇。零戦との比較や日本の戦闘機の“誇り”が物語の推進力で、第二次世界大戦/太平洋戦争という巨大な背景を少年漫画の速度で切り取ります。
- 編集部の視点:当時の少年誌らしく感情の振れ幅が大きい。技術考証は今日の基準ほど厳密ではない反面、**「搭乗員の意地と気迫」**という“人間の強度”が強く残る。**紫電改=“末期の切り札”**というイメージを一般層に根づかせた功労作です。
- 入手ガイド:講談社の文庫版(2000年刊)や近年の電子版で可。巻立て・価格情報は講談社公式の書誌ページが最も整理されています。講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ+2講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ+2
8-2 2010sの“ミリ×学園”——野上武志『紫電改のマキ』
- 基本情報:2013年〜2020年、秋田書店『チャンピオンRED』で連載。全15巻で完結。女子高生の羽衣マキと“しゃべる紫電改”が東京の空の制空権を懸けた競技的空戦に挑む、学園×戦闘機のミクスチャー作品です。電子書籍ストア | BOOK☆WALKER+3秋田書店+3ウィキペディア+3
- 作品の重心:キャラクターと世界観の“遊び”がありつつ、機体の描写は几帳面。N1K2-Jのディテールや運用の“らしさ”が、娯楽の速度を損なわずに入ってくる。現代の読者を紫電改へ連れてくる導線として、とても強いです。
- 編集部の視点:“技術の手触り×キャラの駆動”で、紫電改のイメージを2010年代のポップカルチャーに接続した快作。日本の戦闘機を“暗い過去”か“神話”に閉じない、多層的な受容がここにあります。
- 公式の動き:秋田書店の公式シリーズページに各巻の書誌・発売日がまとまっており、電子配信プラットフォームでも最終巻の配信情報が確認できます。秋田書店+2秋田書店+2
8-3 メディアミックス/プラモデルとの連動
- メーカーのコラボ:ハセガワは『紫電改のマキ』コラボの特別マーキング版を商品化。「羽衣マキ/Shidenkai」等のマーキング指示が公式プロダクトページで確認できます。プラモデルの世界でも紫電改の存在感を押し上げました。ハセガワ模型
- 編集部の視点:模型メーカーの再販・限定版は、検索トレンド(「紫電改 プラモデル」「1/48」「1/72」)を季節的に押し上げるスイッチ。展示館の来館動機にも波及します。
※具体的な作例・考証のコツは第9章で深掘りします。
8-4 映像・ニュースでの再注目
- 劇映画で紫電改が主役級に据えられる例は多くありませんが、ニュース/ドキュメンタリーでは海底の機体調査・引き揚げ構想などと紐づいて継続的に露出。鹿児島・阿久根沖の**“海底の紫電改”を巡る市民NPOの調査・クラウドファンディングは、その代表例です。“現場の動き”がメディア露出を生む**、いまの潮流を象徴しています。
8-5 まとめ:二つの側面で読むと、紫電改の解像度が更に上がる
- 『紫電改のタカ』は1960年代の英雄譚として、活躍や名誉の文脈で紫電/紫電改を刻んだ。
- 『紫電改のマキ』は2010年代のポップとして、比較(零戦ほか)や性能の“リアル”をキャラクターの物語に融合させた。
- 両方を“補完関係”で読むと、太平洋戦争末期の日本海軍戦闘機を、神話でも敗北譚でもない“生きた対象”として捉え直せます。
第9章 模型で深掘り:作って分かる紫電/紫電改(選び方・色・マーキング・作例テク)
机の上で“343空”を再現する。
ここではプラモデルの観点から、**紫電(N1K1-J)/紫電改(N1K2-J)**を作る人向けに、おすすめキット→色とマーキング→工作&ウェザリングの順に、編集部の実感を交えて整理します。
9-1 キット選び(スケール別の“鉄板”)
- 1/48|紫電改(N1K2-J)—ハセガワ
国内外のショップで定番流通。バリエーション(Early/Late、部隊別)も豊富で、素直に組める+部品点数は控えめ。限定品では301飛行隊(343空)仕様やエース機指定の箱もあり(例:07455 “301st Fighter Squadron”)。 - 1/48|紫電(N1K1-Ja)—タミヤ
“中翼の紫電”を作るならいまも有力。**新金型(1994)**とはいえ合わせは良好。N1K系の派生関係を並べて楽しむにも向いています。 - 1/72|紫電改(N1K2-J)—ハセガワ/アオシマ
手頃な価格と作りやすさでストレス少なめ。アオシマは**N1K2-Ja(爆装型)**やロケット弾装備など派生箱も多く、マーキングの遊びが効きます。 - 1/32|紫電改(N1K2-J)—ハセガワ
大スケールで脚まわりの“改”の迫力を堪能したい人向け。2013年の新金型でエンジンやコクピットの情報量も十分。展示映えは抜群です。
編集部のひと言
“初めての紫電改”なら 1/48 ハセガワがバランス最良。中翼の紫電も体験したい人は、1/48 タミヤN1K1-Jaをどうぞ。1/72は複数並べて343空の情景再現がしやすいです。
9-2 追加ディテール(手を入れるならココ)
- 20mm機関砲:真鍮挽き物(Master Model)に交換すると、銃口のシャープさが段違い。1/48用で「日本海軍 Type 99 20mm Mk.2」が定番。
- コクピット/内装:Eduardのエッチング(色付き)で計器盤・ハーネスが一気に密度アップ。ハセガワ1/48対応のセット(49304 など)は説明書PDFも公開されています。Eduard
- マスキング:Montex等のキャノピーマスクは複雑なフレームを確実に仕上げたいときの味方。
9-3 “色”の基礎:IJN末期色の考え方(D1/J3 ほか)
- 上面:D1 濃緑色(Deep Green Black)
- 下面:J3 灰緑色(Greenish Ash)
日海軍(IJNAF)の塗装では、末期の濃緑色(D1)上面+灰緑色(J3)下面が標準的な組合せとして整理されています。**Nick Millman 氏(Aviation of Japan)**や J-Aircraft のFAQも、J3の性質(やや黄味がかった灰色)に触れています。塗料セットなら **AKの“WWII IJN Aircraft Colors”**が手早い選択。
仕上げのコツ
- **防眩部:青黒(Q1 Anti-Glare Blue-Black)**系を薄く。
- リーディングエッジの黄橙帯はやや退色を意識して彩度を落とすと実機感が出ます(写真資料や館内展示の色味を参照)。
9-4 “343空”のマーキングを選ぶ(代表例と注意点)
- A 343-15(301飛行隊・菅野 直機)
尾翼コード**「A 343-15」がよく知られるエース機。胴体の斜帯(2本)については色・有無に諸説があり、黄色(菅野の“イエロー”を反映)とする解釈や白帯とする解釈が並存。Aviation of Japanのキットレビューや、資料本『Genda’s Blade』の付録記述(斜帯=隊長識別、白帯例)を確認し、“どの説で作るか”を最初に決めて**進めるのが吉です。 - A 343-11(301飛行隊)
双斜帯の描写がある作例・デカールが流通。松山・鹿屋期など、時期でディテール(退色や整備痕)の解釈が変わる点にも注意。 - 407/701飛行隊の白帯例
付録資料では**“斜帯=隊長識別、白帯(S701/S407)”という証言も。個体差・時期差が大きいので、写真・デカール解説の裏取り**を。
作例の当たり写真
Pacific Wrecksや作例掲示板は尾翼コード“A 343-??”の写りが良いものも多く、数字の書体や帯の位置を詰めるのに便利。
9-5 工作の勘所(編集部の定番フロー)
- コクピット→胴体
計器盤はキットデカール+クリアで艶→枠に墨入れ。ハーネスはエッチングかテープ自作で。 - 主脚の“がっしり感”
紫電改の“見せ場”。オレオの鏡面を残しつつ、脚柱は半ツヤで質感差を。 - 主翼の20mm銃口
開口を整えて真鍮砲身を軽く差し込む。ほんのり焼け色で表情を。 - キャノピー
外周→内側フレームの順に塗り分け。マスクシートで作業短縮。 - アンテナ線
伸ばしランナーか極細ゴム糸。結節部に黒鉄色を点置き。
9-6 ウェザリング:末期機の“使われ方”を塗る
- チッピング(はがれ)
塩マスキングは手軽で効果大。翼根・乗降部・整備ハッチ縁に限定して面でなく点・線で効かせるとやりすぎ感が出ません。実例解説(塩法の手順)も参考に。 - 排気汚れ/銃口煤
排気は流れ方向に薄く重ねる(下面へ引きずる筋)。銃口周りは黒+茶+灰の微粒で軽く。 - 下面J3の汚れ
脚庫まわりに油染みの半透明層を点描して、灰緑の地色を活かす。J3の性質は**“やや黄味”**が鍵。
9-7 おすすめ塗料・資料メモ
- カラーセット:AK “WWII IJN Aircraft Colors”(J3/D1/Q1 ほか)。**まずは色味の“基準”**が欲しい人に
- 資料サイト:Aviation of Japan(色・マーキング考証/343空の選択例)、J-Aircraft(IJNAFカラーFAQ)。スケールメイツは箱替え・市場状況の把握に便利。
編集部まとめ
紫電改は“脚・主翼根・武装の3点”を作り込むだけで一気に“らしさ”が出る機体。343空の尾翼コード(A 343-xx)と斜帯は諸説あるので、写真と解説を一本化してから塗装工程へ。D1×J3のシンプルな二色ながら、退色・汚れの演出幅が広いのも“末期機”モデリングの楽しさです。
第10章 旅の実用情報:展示館アクセス&周辺ルート
「実機の前に立つ」までを最短で。
ここでは**紫電改展示館(愛媛県・愛南町)**への行き方、開館情報、現地の“回り方”を実用一点張りでまとめます。編集部のおすすめ併走スポットも最後に。
10-1 基本情報(まずはここだけ押さえる)
- 名称:紫電改展示館(しでんかい てんじかん)
- 所在地:〒798-4110 愛媛県南宇和郡愛南町御荘平城5688(南レク・馬瀬山公園内)
- 開館:9:00–17:00
- 休館:12/29–1/1
- 料金:入館無料
- 問い合わせ:南レク南宇和管理事務所 0895-73-2151。公式ページに最新情報あり。 愛南町公式サイト
メモ:南レク公式にも同条件で掲示。観光協会ページには“日本で現存する唯一機”と明記。駐車場は無料(台数表記は県観光ポータル参照)。 愛南町観光協会 公式ホームページ
10-2 行き方(公共交通/クルマ)
公共交通(JR+路線バス)
- 基本ルートはJR宇和島駅から路線バス→城辺営業所で乗り継ぎ→「展望タワー入口」または「馬瀬山公園入口」へ。RURUBUの案内は宇和島駅→城辺営業所(約1時間)→外泊行きに乗換約15分→「展望タワー」下車徒歩約10分という目安。停留所リストでは**「馬瀬山公園入口」**が至近です(徒歩1分)。時刻は季節で変わるので当日検索を。 るるぶWeb
クルマ
- 宇和島道路・津島岩松IC →(R56など)→ 約40–50分が目安。無料駐車場あり(普通車おおむね50–60台、身障者区画ありとする行政観光サイトの記載)。山頂の公園内道路は狭所あり、スピード控えめで。
10-3 現地での動線と注意点
- 展示館は馬瀬山公園の山頂エリア。宇和海展望タワーの隣接施設ですが、タワーは2019年から運行休止中(耐震理由)。写真目的なら“タワー越しの外観”だけと覚えておくと落胆がありません。
- 撮影:館内は自然光が入る時間帯のほうが塗面の退色や補修跡が読み取りやすい印象。人が写り込まないよう配慮を。館の掲示に従いましょう(撮影ルールは現地案内に準拠)。
10-4 2025年の最新トピック:建て替えと移設
- 施設は老朽化に伴う建て替え計画が正式進行。2026年度完成を目標に新館整備・機体移設が進められており、ふるさと納税型クラウドファンディングも県公式で実施されました(報道では目標達成済の続報あり)。入札・落札、工期の情報も公開段階です。見学前は南レク公式/県公式を一読推奨。
編集部の所感:
“展示を止めない/機体に負荷をかけない”の両立が最優先。一時的な動線変更や外構工事があり得るので、直前に最新告知をチェックしてから出発するのが吉です。
10-5 一緒に回りたい場所(半日〜1日で周る愛南)
- 高茂岬(こうもみさき):愛媛最南端の断崖。夕景が圧巻、秋は野路菊が見頃(11月中旬が目安)。展示館と同町内で組み合わせやすい。 愛南町公式サイト+1
- 外泊「石垣の里」:石垣が連なる海辺の集落景観。駐車場あり。ゆるい坂を歩きながら“海の民の工夫”を感じる小一時間。
- 馬瀬山公園:展示館のお膝元。園内案内・問い合わせ先は南レクの管理事務所。
10-6 旅のTIPS(編集部の実感)
- 時間配分:展示館は30–60分が平均。併走で**高茂岬(夕景)**を入れるなら、午後〜夕方に岬を回す構成が気持ちいい。
- 足元:公園・岬とも斜面&風強め。歩きやすい靴で。
- リスペクト:献花・折り鶴が置かれています。慰霊の場としての静けさを尊重して観覧を。
第11章 まとめ:神話でも敗北譚でもなく、機体“そのもの”と向き合う
紫電・紫電改は、零戦の影から生まれた“後継”でも、敗戦の象徴でもない。
設計の刷新(中翼→低翼)、自動空戦フラップ、20mm×4の打撃力という“末期仕様の最適解”を、当時の工業力と補給の制約の中で米国に立ち向かおうとした、日本の戦闘機の〈到達点〉でした。
本記事では、性能(最高速度・武装・誉エンジン)を数字で押さえ、零戦との比較で“足の長い艦上戦闘機”と“打撃力のある陸上邀撃機”の思想差を整理し、343空の実戦(松山空戦)で“噛み合えば痛打できるが、継戦と高高度が苦しい”というリアルも確認しました。
さらに、展示館(愛媛・愛南町)で現存国内唯一の実機に触れる価値、漫画『紫電改のタカ』『紫電改のマキ』やプラモデルが更新してきたイメージの層もたどりました。第二次世界大戦/太平洋戦争の文脈で、**日本軍(大日本帝国海軍)**の機体を“スペック表の英雄”にも“悲劇の遺物”にも閉じず、戦場で戦った機械として見る――それが編集部の姿勢です。
記事の要点(要約)
- 紫電 → 紫電改は“改良”ではなく再設計。脚周りと生産性を立て直し、現場で継続運用できる性能を確保。
- 強み:20mm×4+空戦フラップで低〜中高度の空戦力が高い。
- 弱み:高高度・上昇・稼働数。戦略爆撃の高度帯では苦しい。
- 零戦との比較:航続・展開力=零戦、決定力と耐え=紫電改。役割が違う。
- いま見られる場所:愛南町の展示館がコア。海外に現存機。
- カルチャー面:映画・漫画・模型が“紫電改像”を世代ごとに更新し続けている。
いま、私たちにできること
- 展示館に行く:海から上がった実機の質感を自分の目で。
- 作って学ぶ:プラモデルで主脚・翼根・武装を“手で理解”する。
- 読む・比べる:零戦/紫電改/他国機を同じ指標で見比べ、より深く理解する。
編集後記
“もう少し早く、もう少し多く”は歴史のIFです。けれど紫電改の前に立つと、設計・製造・運用が一台の機体に凝縮された“現実”の重みのほうが、IFより雄弁だと感じます。神話か敗北譚かではなく、機体そのものから始める――それが、次の世代に残せるいちばん健全な記憶の継承だと思います。
付録A. よくある質問(FAQ)
Q1. 紫電と紫電改の“いちばんの違い”は?
A. 中翼の**紫電(N1K1-J)**に対し、紫電改(N1K2-J)は低翼化+脚まわり簡素化を中心とした“再設計”。整備性と信頼性が大幅に改善されました。
Q2. 零戦と比べて、どこが強かったの?
A. 火力(20mm×4)と高速域の追随性、そして自動空戦フラップによる“粘る格闘力”。一方で航続距離は零戦が優位です。
Q3. B-29迎撃で活躍できなかったのはなぜ?
A. 高高度での上昇力・エンジン信頼性の壁と、稼働数不足が主因。低〜中高度の空戦では持ち味を発揮しました。
Q4. 日本国内で実機が見られる場所は?
A. **愛媛県・愛南町「紫電改展示館」**のみ(日本国内現存唯一)。海外は米国の複数博物館で保存。
Q5. “343空(第三四三海軍航空隊)”って?
A. 1945年に編成された精鋭部隊。主装備は紫電改で、本土防空を担い、松山空戦などで知られます。
Q6. 模型はどれを買えばいい?
A. 初めてなら**1/48 ハセガワ(N1K2-J)**がバランス良好。**1/48 タミヤ(N1K1-Ja)**で“中翼の紫電”も作り分け可能。1/72は複数並べやすいです。
Q7. 塗装色(末期IJNAF)の定番は?
A. 上面D1濃緑色、下面J3灰緑色が基軸。防眩の青黒、識別帯の黄橙も押さえましょう。
Q8. 『紫電改のタカ』『紫電改のマキ』の違いは?
A. 前者は1960年代の英雄譚(戦記ドラマ寄り)。後者は2010年代のミリ×ポップで、技術描写の細やかさが魅力。
Q9. 零戦より“最強”だったの?
A. “最強”は文脈次第。任務と環境が違うため、零戦=展開力/紫電改=打撃力と役割で評価するのが妥当です。
Q10. いま追いかけたい最新トピックは?
A. 展示館の建て替え・移設計画や、海底機体の保存活動など“実物を残す動き”。訪問前に公式情報をチェックすると確実です。
付録B. 用語ミニ解説
- 紫電(N1K1-J):水上戦闘機強風を母体にした陸上戦闘機。中翼・主脚長め。
- 紫電改(N1K2-J/Ja):低翼化と構造再設計で“現場で回る”機体に。Jaは爆装対応の戦闘爆撃型。
- 誉エンジン(Homare):中島製の空冷複列星形。出力は強力だが、末期は信頼性・品質面の課題が残った。
- 自動空戦フラップ:旋回Gで自動的に少し出るフラップ。失速余裕を増やし、旋回性を底上げ。
- 局地戦闘機:本土防空や特定地域での邀撃に重心を置いた戦闘機。
- 343空:第三四三海軍航空隊。源田実率いる精鋭。主力が紫電改。
- 松山空戦:1945年3月19日、伊予灘~松山上空の大規模空戦。
- 強風(N1K1):紫電系の出発点となった水上戦闘機。
- CAP:Combat Air Patrol。防空のための哨戒飛行。
- 退色・チッピング:塗面の日焼けや剥がれ表現。模型で実機感を出す定番技法。