VSSヴィントレスとは|9×39mm弾と一体型サプレッサーを持つ特殊狙撃銃

博物館の展示台に安全に固定されたVSSヴィントレス特殊狙撃銃
博物館の展示台に安全に固定されたVSSヴィントレス特殊狙撃銃
VSSは9×39mm亜音速弾、銃本体、一体型サプレッサーを一つの専用システムとして設計した

VSSヴィントレスは、9×39mm亜音速弾一体型サプレッサーを組み合わせ、長距離より発射音・発射炎・携行性の均衡を優先したソ連製の特殊狙撃銃である。

本稿のテーマは一つだ。VSSは「遠くへ撃つ普通の狙撃銃」ではなく、弾薬・銃・減音装置を最初から一つの任務専用システムとして設計した兵器である。 歴史、名称、公開諸元、AS ValSVDとの違い、限界を、公的資料の条件差を明示して読み解く。

VSS ヴィントレスの要点
目次

VSSヴィントレスとは|先に結論

VSSヴィントレスとは|先に結論

VSSはロシア語の「Винтовка Снайперская Специальная(特殊狙撃銃)」を略した名称で、ソ連の研究機関TsNIITochMash(中央精密機械工学研究所)が開発した。ロシア国家親衛隊(Rosgvardiya)の公式装備解説は、1980年代初頭の要求から開発が進み、1987年にソ連軍、内務省、KGBへ採用されたと記す。

最大の特徴は、9×39mmの亜音速弾と一体型の減音・減炎装置を組み合わせたことだ。公開資料では初速282〜292m/s、照準距離は最大400mとされる。ただし、これはRosgvardiyaが原型VSSについて示す参考値であり、「400mまで常に同じ命中・効果を保証する」「弾が400mで止まる」という意味ではない。

VSSを理解する鍵は、サプレッサー付き狙撃銃という外見ではない。私の評価では、VSSの銃身にサプレッサーが付いたのではない。任務要求がサプレッサーを中心に銃と弾を引き寄せた。 ここが、後付けの減音装置を備えた通常小銃との決定的な違いである。

この論点を広く比較するなら、「銃の種類完全ガイド|拳銃・ライフル・サブマシンガン・機関銃の違いと代表的な名銃を徹底解説【保存版】」もあわせて確認したい。

VSS・Vintorez・6P29の呼び方|名称だけで役割が見える

VSS・Vintorez・6P29の呼び方|名称だけで役割が見える

「VSS」「Vintorez」「6P29」は、別々の銃を指すとは限らない。VSSは制式名称の略称、6P29はGRAUインデックス、Vintorezは開発名に由来して広く定着した呼び方と整理できる。チェコ国防省系のvhu.czも、1987年採用、VSSまたはGRAU 6P29という表記を示している。

日本語では「ヴィントレス」「ヴィントレズ」「ビントレズ」など表記が揺れる。本稿は検索で一般的な「ヴィントレス」を用いるが、ロシア語の音写に唯一絶対の正解があるという意味ではない。

名称に「狙撃銃」が含まれるため、SVDやボルトアクション式の長距離狙撃銃と同じ役割を想像しやすい。しかしソ連・ロシアの装備分類では、専門射手が用いる銃であることと、長距離射撃に最適化された銃であることは同義ではない。VSSの「特殊」という語は、むしろ任務条件が通常の狙撃銃から外れていることを告げている。

VSS・Vintorez・6P29の名称関係を示す博物館風の系統図
VSSは制式名称の略、Vintorezは広く定着した呼称、6P29はGRAUインデックスである

開発の歴史|なぜ通常小銃へサプレッサーを足すだけではなかったのか

開発の歴史|なぜ通常小銃へサプレッサーを足すだけではなかったのか

1970年代から1980年代にかけ、ソ連の特殊部隊向けには、発射音と発射炎を抑えながら携行できる専用兵器が求められた。既存の軍用小銃へ減音装置を追加する方法は、開発費や教育の共通化では有利でも、全長、重量、弾薬特性、作動の余裕を一体で最適化しにくい。

RosgvardiyaのAS Val公式解説も、従来の制式銃へ減音・減炎装置と亜音速弾を組み合わせる方法には、重量・寸法の増加と有効距離低下という難点があったと説明する。その課題へ、特殊狙撃銃VSSと特殊自動小銃AS Valという専用設計で応えたというのが公式の位置づけだ。

プラハ軍事史研究所は、1980年代初頭にTsNIITochMashでP. I. Serdyukovを中心に開発が進み、V. F. Krasnikovも関与したとする。初期試作から要求が変化し、最終的に9×39mm弾を用いる体系へ収束した。細かな試作機構の再現より重要なのは、要求変更が弾薬開発まで巻き込んだ点である。

1987年という採用年はRosgvardiyaとプラハ軍事史研究所が一致する。一部の二次資料には1988年表記もあるが、本稿は公的機関が明記する1987年を採る。採用決定、部隊配備、公開のどの日付を指すかで年がずれる可能性があるため、資料の年だけで「誤り」と断定しない。

1970年代の要求研究から1987年採用までのVSS開発史を示す年表
既存銃への追加装置では解けない要求が、専用弾薬と専用銃の同時開発へつながった

VSSの設計思想|銃・弾薬・サプレッサーを一体で考える

VSSの設計思想|銃・弾薬・サプレッサーを一体で考える

VSSの設計思想は、部品単位ではなく三つの要素の交換条件で読むと分かりやすい。本稿は分解、組立、装填、照準、射撃、調整、改造に関わる手順を扱わず、公開資料から確認できる一般概念だけを説明する。

システム要素優先したもの引き受けた代償
9×39mm亜音速弾超音速飛翔に伴う衝撃波を避ける弾道の落下が大きくなり、距離変化へ敏感になる
一体型サプレッサー銃口側の発射音と発射炎を低減する重量・熱・整備性・耐久という設計課題を抱える
専用の小型銃装置込みの全長と携行性を整える通常小銃との完全な共通化を捨てる
狙撃銃としての構成限られた距離での精密性を重視するSVD級の中長距離性能を狙わない

一般的な作動分類では、VSSは発射ガスを利用して作動し、単発と連発の機能を持つ自動装填式の銃である。しかし、それを「連射できる狙撃銃だから万能」と読むのは逆だ。自動機構は閉鎖音や作動音という別の音源を残し、亜音速弾は距離上の制約を残す。設計は魔法のように制約を消したのではなく、任務に合わせて制約の置き場所を変えた。

サプレッサー内部の正確な構造、ガス経路、寸法、材料、製作・改造方法は記さない。それらは歴史的な設計思想を理解するために不要であり、危険な再現性だけを高めるからである。

9×39mm亜音速弾・VSS本体・一体型サプレッサーの関係を示す概念図
弾薬、銃、減音装置を別々の付属品ではなく相互依存する三要素として設計した

VSSの公開諸元|数字は「原型・条件付き参考値」として読む

VSSの公開諸元|数字は「原型・条件付き参考値」として読む

Rosgvardiyaとプラハ軍事史研究所の公開値を並べると、原型VSSの輪郭が見える。ただし、軍用装備は生産時期、照準器、弾倉、改良型、測定条件で値が変わる。VSSMの数値と混ぜない。

項目公開値読むときの注意
口径9mm(弾薬は9×39mm)口径だけでは弾薬互換性を意味しない
全長894mm原型VSSの公的所蔵・装備資料で一致
質量約2.6kg空弾倉付き、照準器なしというRosgvardiya条件
初速282〜292m/s弾種・温度・測定条件で変動し得る
弾倉10/20発Rosgvardiyaの掲載値。典型的なVSSは10発型で説明されることが多い
照準距離最大400m最大飛翔距離や常時保証される命中距離ではない
採用年1987年Rosgvardiyaとプラハ軍事史研究所の記述

プラハ軍事史研究所の所蔵品は軍用原型そのものではなく、ソ連崩壊後に製造された半自動のKO-VSS-01Mである。同館は全長894mm、空弾倉付き質量2,622g、10発弾倉と記録する。外形や寸法の照合には有用だが、その個体の来歴については確認困難な部分があると同館自身が明示する。所蔵品があるからといって、軍用型の全仕様をそのまま代表するわけではない。

数字を多く並べるほど正確になるとは限らない。VSSでは「どの型の、何を付けた、どの弾薬の値か」を添える方が、桁を細かくするより誠実である。

9×39mm亜音速弾はなぜ必要だったのか|低速と大口径の交換条件

9×39mm亜音速弾はなぜ必要だったのか|低速と大口径の交換条件

亜音速弾とは、一般に弾丸の速度をその場の音速より低く抑える弾薬をいう。音速は気温などで変化するため、固定した一つの数値ではない。Rosgvardiyaの282〜292m/sという初速は、標準的な大気条件の音速を下回る領域に置かれている。

超音速の弾丸は飛翔中にも衝撃波を生み、銃口の発射音だけを抑えても、その音はサプレッサーで消せない。そこでVSSは亜音速を前提とし、9mm径の比較的重い弾丸で、速度を抑えた際のエネルギー不足を補う方向を選んだ。ここでは弾頭内部の構造、装薬、貫徹性能の向上方法、弾薬製造に関わる情報は扱わない。

9×39mmにはSP-5、SP-6など複数の公刊名称がある。RosgvardiyaはVSSの使用弾薬としてこれらを掲載し、RosoboronexportのAS公式製品ページAS ValについてSP-5とSP-6を示す。ただし、公開資料の「精密用」「防護対象用」といった区分を、どの対象のどこを狙うかという助言へ変換してはならない。本稿は歴史上の弾薬ファミリー名だけを確認する。

亜音速化の代償は弾道に表れる。飛翔時間が長くなり、重力による落下と横風の影響が相対的に大きくなる。距離推定の誤差も結果へ響きやすい。これは具体的な照準方法ではなく、低速飛翔体に共通する物理上の限界である。

亜音速弾が衝撃波を避ける一方で飛翔時間と落下を増やす物理関係
亜音速化は超音速衝撃波を避けるが、距離とともに飛翔時間と落下の制約を大きくする

一体型サプレッサーでも「無音」ではない|残る4種類の音

一体型サプレッサーでも「無音」ではない|残る4種類の音

映画やゲームでは、消音銃が乾いた小音量だけを残す表現が多い。しかしサプレッサーは音を消去する装置ではなく、主に銃口から急膨張する高温ガスの圧力を緩和して、発射音と発射炎を低減する装置である。

音の発生源サプレッサーとの関係VSSでの位置づけ
銃口ガス主な低減対象一体型装置で抑える
弾丸の衝撃波超音速なら銃口装置では消せない亜音速弾で発生を避ける設計
機関部の作動音銃口ガスとは別に残る自動装填機構のためゼロにはならない
弾丸の着弾音・周囲の反射装置の外側で生じる環境により聞こえ方が変わる

米国CDC/NIOSHの銃器用サプレッサーと低速弾の研究は、複数の銃・弾薬で騒音低減量が大きく変わり、サプレッサー付き銃でも累積曝露は重大な聴覚リスクになり得ると結論づけた。これはVSSそのものの測定値ではないため、研究中のdB値をVSSへ転用しない。利用できるのは、「減音効果は銃・弾薬・測定位置で変わり、無音や聴覚安全を意味しない」という一般原則である。

したがって「VSSは何m離れれば聞こえない」といった単一の断言は避けるべきだ。地形、建物、気温、風、背景騒音、測定位置、弾薬、個体状態で結果が変わる。Rosgvardiyaの「無音・無炎」という公称分類も、物理的な絶対無音ではなく、通常銃に比べた機能上の呼称と読む必要がある。

私見では、VSSのすごさを「音がしない」と誇張するほど、本当の工学的価値は見えなくなる。価値はゼロを実現したことではなく、複数の音源のうち、設計で減らせるものと弾薬で避けるものを分けたことにある。

銃口ガス・衝撃波・機関部・着弾という四つの音源を示す概念図
サプレッサーが主に減らすのは銃口ガスの音で、機関部や着弾など別の音源は残る

VSSの射程と限界|400mという数字を過大評価しない

VSSの射程と限界|400mという数字を過大評価しない

VSSの公称照準距離「最大400m」は、検索で最も誤解されやすい数値である。照準器に目盛りがある距離、試験条件で期待される有効距離、弾丸が飛ぶ物理的な距離、特定の大きさの標的へ高確率で命中できる距離は、それぞれ別の概念だ。

亜音速弾は超音速の小銃弾より飛翔時間が長く、距離が増すほど落下量と風の影響が大きくなる。弾道は弧を描き、距離推定の小さな差が上下方向のずれへ結びつく。これがVSSを長距離狙撃銃として扱えない根本理由である。

さらに一体型サプレッサーは熱を受ける。連続した発射では熱による視界の揺らぎ、部品への負荷、減音性能の変化が設計上の課題になる。VSSに連発機能があることは、長時間の持続射撃へ最適化されたことを意味しない。弾倉容量だけを火力の優劣へ直結させるのも不適切だ。

一方で、長距離を捨てたこと自体は欠陥ではない。限定距離で音・炎・全長を抑えることが要求なら、別の性能を犠牲にするのは合理的である。問題は、専門兵器を万能銃として評価することにある。

VSSの静粛性・携行性と長距離性能の交換関係を示す比較図
最大400mという公称値は万能な命中保証ではなく、静粛性を優先した設計上の境界を示す

VSSとAS Valの違い|同じ9×39mmでも「狙撃銃」と「特殊自動小銃」

VSSとAS Valは外形と弾薬が近く、混同されやすい。RosgvardiyaはAS ValをVSSの「姉」に似た銃と表現し、構造の70%が共通すると説明する。プラハ軍事史研究所も70%という値を記す。ただし、何を一部品と数えるかで共通化率は変わり得るため、厳密な部品表の代わりにする数字ではない。

比較軸VSSAS Val
制式上の分類特殊狙撃銃特殊自動小銃
中心となる考え方限定距離での精密性小型の自動小銃としての汎用性
銃床木製固定型で知られる折り畳み式金属銃床で知られる
典型的弾倉10発型20発型
公開照準距離最大400m最大400m
共通点9×39mm、一体型減音装置、共通化された機構群同左

RosoboronexportのAS公式値は、全長878mm(銃床展開)/615mm(折り畳み)、空弾倉付き・照準器なし2.5kg、20発弾倉、最大400m、初速最大295m/sである。VSSと近い数値だが、分類と人間との接点が異なる。

VSSの10発弾倉とAS Valの20発弾倉は、役割の違いを象徴する。しかしRosgvardiyaのVSSページは10/20発、AS Valページは10/20/30発を掲載しており、弾倉の互換性を示唆する。典型構成と使用可能な構成を混同しないことが大切だ。本稿は装填方法や射撃モードの使い分けを説明しない。

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VSSとSVDドラグノフの違い|同じ狙撃銃でも任務距離が違う

VSSを理解するには、同じソ連系のSVDと比較するとよい。両者は専門射手が扱う自動装填式狙撃銃という大枠を共有するが、優先順位は大きく異なる。

比較軸VSSSVD
弾薬思想9×39mm亜音速弾7.62×54mmR小銃弾
発射音への設計一体型サプレッサーを体系の中心に置く通常の軍用小銃としての性能を中心に置く
公称距離の方向性最大400mの限定距離中長距離を担う分隊狙撃銃
全体の優先音・炎・携行性射程・弾道・部隊火力の延伸
代償飛翔時間と弾道落下が大きい発射音・発射炎をVSSほど優先して抑えない

SVDは通常小銃部隊の射程を延ばす「分隊狙撃銃」に近く、VSSは特殊な条件へ作られた短距離側の精密銃である。どちらが強いかではなく、何を犠牲にして何を残したかで比べるべきだ。

M110A1 CSASSのような西側の現代セミオート狙撃銃も、通常弾薬による中距離精密射撃、光学照準器、部隊運用を軸にしており、VSSとは出発点が違う。外見や「セミオート狙撃銃」という分類だけでは検索意図が重ならない。

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VSSの採用組織と拡散|特殊兵器が長く残った理由

Rosgvardiyaの公開資料は、VSSが1987年にソ連軍、内務省、KGBへ採用されたとする。プラハ軍事史研究所は内務省内務軍とKGB配下のSpetsnazを挙げる。組織名の範囲は資料で異なるが、通常歩兵全員へ配る制式小銃ではなく、軍・治安・情報系の特殊部門へまたがる装備だった点は共通する。

ソ連崩壊後もVSSとAS Valの系譜が残った理由は、単に秘匿性が魅力だったからではない。専用弾薬、一体型装置、小型の銃、光学照準というシステムが、他の一挺では置き換えにくい任務の隙間を埋めたからだ。共通化されたAS Valが同時に存在することも、弾薬・教育・補給の小さなファミリーを形成する助けになったと考えられる。これは公開資料からの推論であり、採用機関の内部評価書を確認した結論ではない。

一方、VSSの「拡散」を、現在の紛争でどの部隊がどの地形でどう使うかという戦術解説に変えてはならない。本稿では歴史上の採用組織と公的展示の確認に留め、現在進行中の戦闘、具体的配置、標的選定、攻撃手順を扱わない。武器の歴史を説明することと、現実の被害をゲームの性能表へ変えることは別である。

AK-74やPP-19 Vityazのようなロシア系制式銃器と比べても、VSSは弾薬と減音を含めた専用性が高い。通常の制式小銃・短機関銃の系譜と並べると、その特殊さがはっきりする。

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VSSMヴィントレスMとは|原型を置き換えるのではなく更新する

VSSには近代化型VSSM(Vintorez-M、9mm special purpose modernized precision rifle)がある。Rostecの2014年年次報告書は、VSSMをTsNIITochMashが開発・製造する「Ratnik」関連の研究開発品目として掲載した。2022年のRostec発表はVSSMをArmy-2022で紹介する新装備に含め、2024年のRostec発表はRosgvardiya向けにASMとVSSMが供給されていると述べている。

公表写真とRosgvardiyaの原型VSSページにある近代化説明からは、調整可能な銃床、現代的な照準器や付属装備に対応する搭載基盤、異なる容量の弾倉などが確認できる。更新の焦点は、9×39mmと減音という中核思想を捨てることではなく、現代の照準器、人間工学、装備統合へ合わせることにある。

ただし、原型VSSの894mm・2.6kg・282〜292m/sという表を、そのままVSSMの仕様として再掲してはいけない。名称が似ていても銃床、外装、搭載装備、測定条件が異なる。公式資料で型が明示されない写真や数値は、原型か近代化型かを断定しない。

私の見方では、VSSMの存在はVSSが「冷戦の珍銃」に終わらなかった証拠である。同時に、近代化しても亜音速弾の物理限界は消えない。レールや照準器が新しくなっても、400m級の専用システムが長距離狙撃銃へ変身するわけではない。

原型VSSからVSSMへ装備統合が変化したことを示す博物館展示
VSSMは9×39mmと一体型減音という中核を維持し、照準器搭載と人間工学を現代化した

VSSの資料はどう読むべきか|公式値・所蔵品・一般研究を分ける

VSSは長く秘匿性の高い装備として語られ、二次資料の数値が相互引用されやすい。そこで本稿は、証拠を四層に分けた。

証拠の層本稿で使った資料確認できることできないこと
採用組織の公式資料Rosgvardiya開発機関、製造者、1987年採用、原型諸元独立した性能監査
公的博物館・研究所プラハ軍事史研究所開発史、所蔵個体、寸法、名称全軍用ロットの仕様代表
国営企業・輸出機関Rostec、RosoboronexportVSSMの継続、AS Valの公称値利害から独立した比較評価
公衆衛生研究CDC/NIOSHサプレッサーが無音・聴覚安全ではない一般原則VSS固有の音圧値

米陸軍ODINのWorldwide Equipment Guideは外国装備識別の訓練・教育用データベースとして更新されているが、今回確認できた公開ページからVSS固有の独立データカードは取得できなかった。そのため、ODINの一般説明をVSSの諸元根拠として水増ししていない。

また、メーカー・採用機関の「高性能」「無音」といった評価語は公式見解として示し、独立測定の結果とは書かない。音、命中、耐久は試験条件がなければ比較できない。未確認の性能をもっともらしい数字で埋めるより、空白を空白のまま残す方が高品質である。

採用機関・博物館・国営企業・公衆衛生研究というVSS資料の四層
公式諸元、所蔵個体、企業発表、一般研究は答えられる問いが異なる

よくある質問

VSSは何の略ですか?

ロシア語の「Винтовка Снайперская Специальная」、日本語では特殊狙撃銃に相当する名称の略である。Vintorezは開発名に由来する通称として定着し、GRAUインデックスは6P29とされる。

VSSは本当に無音なのですか?

<span class="swl-marker mark_yellow">無音ではない</span>。<span class="swl-marker mark_yellow">一体型サプレッサー</span>は主に銃口ガスの音と発射炎を減らし、亜音速弾は超音速衝撃波を避ける。しかし機関部の作動音、着弾音、周囲の反射音は残り、聴覚リスクもゼロにならない。

VSSの射程は400mですか?

Rosgvardiyaの原型VSS資料は照準距離を<span class="swl-marker mark_green">最大400m</span>とする。これは条件付きの公称値であり、弾丸の最大飛距離や、どんな条件でも命中を保証する距離ではない。

なぜ9×39mm弾を使うのですか?

亜音速を維持して飛翔中の衝撃波を避けつつ、低速化で失われるエネルギーを比較的重い9mm弾で補う設計思想だからである。弾頭内部や製造・性能向上の方法は扱わない。

VSSとAS Valの違いは何ですか?

VSSは特殊狙撃銃、<span class="swl-marker mark_yellow">AS Val</span>は特殊自動小銃として設計された。同じ9×39mm弾と一体型減音装置を共有し、機構の共通化も大きいが、銃床、典型的弾倉、中心任務が異なる。

VSSとSVDはどちらが高性能ですか?

目的が違うため単純比較できない。VSSは<span class="swl-marker mark_green">最大400m</span>級で音・炎を抑える専用銃、<span class="swl-marker mark_green">SVD</span>は通常小銃部隊の中長距離能力を伸ばす分隊狙撃銃である。

VSSには連射機能がありますか?

公的資料は単発と連発の機能を記す。ただし、連射機能があることは持続射撃へ最適化されたことや、狙撃銃より自動小銃に近いことを意味しない。本稿は操作・射撃方法を説明しない。

VSSMはVSSと同じ銃ですか?

<span class="swl-marker mark_yellow">VSSM</span>はVSSの中核思想を継承した近代化型で、現代的な照準器搭載、人間工学、装備統合が更新されている。原型VSSの諸元を無条件にVSSMへ当てはめてはいけない。

まとめ|VSSは「静かな長距離銃」ではなく「距離を交換した専用システム」

VSSヴィントレスは、TsNIITochMashが1980年代に開発し、1987年にソ連軍、内務省、KGBへ採用された特殊狙撃銃である。原型の公的参考値は、9×39mm、全長894mm、空弾倉付き・照準器なし約2.6kg、初速282〜292m/s、照準距離最大400mである。

本質は数値ではない。9×39mm亜音速弾で超音速衝撃波を避け、一体型サプレッサーで銃口音と炎を抑え、銃本体をその前提へ合わせた。代わりに、弾道落下、飛翔時間、風の影響、熱、専用弾薬といった制約を引き受けた。

AS Valは同じ系統の特殊自動小銃、SVDは中長距離の分隊狙撃銃であり、VSSとは役割が違う。VSSMは装備統合を近代化したが、亜音速弾の物理法則を消したわけではない。

したがって記事の背骨は、最初の一文へ戻る。VSSは長距離精密射撃の銃ではなく、音・炎・距離のバランスを任務専用に振り切った兵器である。 「無音の暗殺銃」という物語ではなく、何を得るために何を捨てた設計かを見れば、その価値と限界を同時に理解できる。

参考資料

  • <a href="https://rosguard.gov.ru/page/index/vintovka-snajperskaya-specialnaya-vintorez">rosguard.gov.ru</a>
  • <a href="https://rosguard.gov.ru/page/index/specialnyj-avtomat-val">Rosgvardiya: Специальный автомат «Вал»</a>
  • <a href="https://www.vhu.cz/exhibit/ruska-specialni-odstrelovacska-puska-vintorez-ko-vss-01m/">vhu.cz</a>
  • <a href="https://www.roe.ru/en/production/assault-rifles/asval/?PAGEN_2=14&amp;sort=name">Rosoboronexport: AS 9mm special assault rifle</a>
  • <a href="https://www.rostec.ru/upload/iblock/2c5/2c5b458cd9eedd83fe4c4393a21d8c62.pdf">rostec.ru</a>
  • <a href="https://rostec.ru/media/news/rosoboroneksport-prezentuet-novinki-rossiyskogo-oboronproma-na-armii-2022/">rostec.ru</a>
  • <a href="https://rostec.ru/media/news/rosgvardiya-vsegda-na-strazhe/">Rostec: Rosgvardiya—always on guard</a>
  • <a href="https://stacks.cdc.gov/view/cdc/111710">stacks.cdc.gov</a>
  • <a href="https://odin.t2com.army.mil/How-To/WEG/Worldwide_Equipment_Guide?term=1v13">U.S. Army ODIN: Worldwide Equipment Guide</a>

参考資料・主な出典

公式装備解説|資料を確認

vhu.cz|資料を確認

AS Val公式解説|資料を確認

AS公式製品ページ|資料を確認

銃器用サプレッサーと低速弾の研究|資料を確認

2014年年次報告書|資料を確認

Worldwide Equipment Guide|資料を確認

rostec.ru|資料を確認

Rostec: Rosgvardiya—always on guard|資料を確認

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