〈イランの処刑と人権侵害 連載第3回〉
この記事には、性暴力と拷問に関する記述が含まれる。つらいと感じた場合は読むのを中断してほしい。1980年代の処刑前強姦は元収容者・遺族・人権団体が記録した証言を中心とし、2022年以降の拘禁中性暴力は国連調査が合理的根拠を認定した事実として、両者を区別して扱う。
第1回では死刑の異常な急増を、第2回では「女性・生命・自由」運動への弾圧と2026年大虐殺を解説した。第3回となる今回は、この問題の中で最も衝撃的な部分に踏み込む。イランの刑務所で組織的に行われている性暴力と拷問の実態だ。
「天国に行かせない」とされた処刑前強姦の証言

- 1980年代の処刑前強姦は、元収容者・遺族・人権団体が記録した証言として扱う
- 2022年以降の拘禁中性暴力は、国連独立調査団が合理的根拠を認定している
- 時期と証拠の強さを分け、被害者の尊厳を守りながら読むことが重要である
重要:『処女は処刑できない』という規則がイラン法に明記されているわけではない。本記事は、その信念を口実に一時結婚と性暴力を強要されたという1980年代の証言を扱う。宗教一般と、収容施設での加害の正当化を混同しない。
1980年代の女性政治犯をめぐっては、処刑前に看守との一時結婚を強制され、性的暴行を受けたという証言が複数の人権調査に収録されている。
体制側の特定の解釈によれば、「処女のまま死亡した女性は、生前の罪や政治的立場に関わらず、純潔であるがゆえに直ちに天国(楽園)へ行く」とされている。
自らを神の代理人と見なす体制側は、体制に反逆した若い女性たちが「殉教者」として天国へ迎えられることを神学的に許容できなかった。そこで彼女たちに現世での死以上の「永遠の罰」を与えるという目的で、死刑が確定した処女の少女たちを処刑の前夜に強姦するという非人道的な行為を「正当化」した。
これらは単なるネット上の噂として退けられない一方、イランの成文法に明記された手続きでもない。Justice for IranやIran Human Rights Documentation Centerが集めた証言、国連特別報告者へ提出された資料を根拠とする『記録された申立て』として、確認できる範囲を明示する必要がある。
「強制的一時結婚」という名の犯罪
この非道な行為は、表向きの法的な体裁を整えて実行される。
イスラム法上の罪(姦通罪など)を看守側が回避するために、「強制的な一時結婚(シィーゲ)」という名目が使われる。独房に収監された少女に対し、看守や宗教裁判官が一方的に婚姻の手続きをでっち上げ、その夜のうちに「夫の合法的な権利」を名目に強姦を遂げるのだ。
多くの女性政治犯や収容者にとって、死刑そのものによる命の喪失よりも、この処刑前夜に行われる制度化された性的暴行に対する恐怖のほうがはるかに大きいと報告されている。
結納金という名の「死の宣告」

複数の遺族・元収容者は、処刑後に婚姻を示す書類、菓子、少額の金銭を渡されたと証言している。証言は組織的関与を検討する重要資料だが、個々の事例を独立に検証できない場合がある。
処刑後に遺族に送りつけられる「結納金」だ。
イランの社会慣習において、正当な結婚の際には夫側から妻(またはその家族)へ結納金(マフリーエ)が支払われる。刑務所当局は、処刑と強姦を終えた直後、家族を呼び出し、「あなたの娘が処刑された」という通知とともに、「婚姻証明書」と象徴的な額の結納金を送りつける。わずか数ドル程度の現金やキャンディの箱、儀式用の硬貨とともに。
これは事務手続きの通知なんかじゃない。「あなたの娘は処女のまま死んだのではなく、我々の看守と”結婚”してから死んだため、天国には行けない」というメッセージを遺族に突きつける、極めて悪意に満ちた心理的拷問だ。
人権団体Justice For Iranの調査によれば、処刑場に向かう少女たちが、ボールペンやマジックで自分の衣服や足裏に名前と「強姦された」という事実を書き残して死んでいった事例が多数記録されている。遺体を引き取った家族が、凄惨な性的暴行の痕跡を確認した事例も枚挙にいとまがない。
国連の人権特別報告者レイナルド・ガリンド・ポールも、1980年代後半の公式報告書の中で、刑務所当局が処刑された若い女性の家族に対して婚姻文書を提示している事実について言及し、この「強制結婚という名の処刑前強姦」を国際社会に向けて公式に告発している。
1980年代から「制度化」されていた

処刑前強姦の証言は主に1980年代の政治弾圧を対象としている。2022年以降について国連独立調査団が確認したのは、抗議者への強姦、集団強姦、性的拷問など広範な性暴力である。歴史的な一時結婚の手口が現在も同じ形で続くと断定せず、時期と証拠を分けて読む必要がある。
1981年から1982年にかけての大量処刑や、1988年の政治犯数千人規模の大虐殺の際にも、この手法が広範かつシステマティックに用いられた。
当時の最高指導者ルーホッラー・ホメイニは、反体制派の若い少女たちへの強姦を許可(あるいは義務化)するファトワ(宗教的布告)を出したと広く証言されている。革命防衛隊はこの布告を宗教的義務として実行した。
この極端な方針に対し、当時ホメイニの後継者に指名されていた高位聖職者モンタゼリ師が「若い少女への凌辱と非人道的な尋問」として激しく抗議する書簡を送った。結果として彼は後継者の地位を剥奪され、長年にわたり自宅軟禁下に置かれた。正義を訴えた者が罰せられる――体制の本質がここに凝縮されている。
元エヴィン刑務所長ホセイン・モルタザヴィ自身も近年、この1980年代に行われていた「天国へ行かせないための処女の強制結婚と強姦」が事実であったことを公に認めている。
現在も続く性暴力の構造

性暴力を拘束者の威嚇・処罰・自白強要に使う構造は、2022年以降の『女性・生命・自由』運動を調べた国連独立調査団でも確認された。ただし、被害規模や個別施設の状況は検証可能性に差がある。
国家の「道具」としての強姦
エヴィン刑務所やカフリザク収容所、さらには各地の非公式な秘密拘置所において、性暴力は看守個人の犯罪ではなく、国家の「道具」としてシステマティックに使用されている。
その目的は、拘束された市民の精神を根本から破壊すること。屈辱感を与え、将来の反体制活動への参加意欲を削ぎ落とし、他の市民を威嚇し、さらには監視カメラの前で虚偽の自白を強制することだ。
「女性・生命・自由」運動に関連して逮捕された数万人の抗議者たち(その多くが10代から20代の若い女性や学生)は、逮捕直後から法的支援や家族との連絡から完全に遮断されたまま、凄惨な拷問に晒されている。
国連独立調査団は、女性・男性・子どもの拘束者に対する強姦、集団強姦、電気ショック、性器への暴力、裸にする行為などを記録し、一部は拷問や人道に対する罪を構成すると評価した。個別証言の詳細は被害者の安全と尊厳に配慮して扱う必要がある。
男性・少年への性暴力
被害者は女性だけではない。
デモに参加して逮捕された若い男性の活動家や、未成年の少年に対しても、同様に深刻な強姦や性的虐待が計画的に行われている。
2009年の大統領選挙後の抗議デモ(グリーン・ムーブメント)の際にも、カフリザク収容所で若い男性に対する広範な強姦が報告され社会に衝撃を与えたが、現在の運動でもこの手法は踏襲されている。
ある少年の証言では、収容施設において40人の他の少年たちの前で見せしめとして強姦された。さらにこの少年が別の尋問官にその事実を告発したところ、保護されるどころか、告発したことへの「罰」としてその尋問官からも再び強姦されたと記録されている。
イランのような保守的で家父長制の価値観が強い社会において、男性や少年への性暴力は、女性の場合とはまた異なる極度のスティグマと精神的苦痛を伴う。被害者は家族や友人にその事実を告白することが極めて困難であり、表面化している証言は氷山の一角に過ぎないと推測される。
身体と精神の破壊

これらの性拷問の結果、多くの収容者が生命に関わる深刻な身体的損傷を負っている。
過酷な強姦により内臓破裂、激しい出血、重篤な感染症を引き起こし、緊急手術を余儀なくされた女性の事例が多数報告されている。2003年にエヴィン刑務所で死亡したカナダ系イラン人の写真家ザフラ・カゼミも、残酷な強姦と広範な身体的損傷が死因であった。殴打や拷問により失明、難聴、身体の麻痺といった不可逆的な障害を一生抱えることになった若者も数え切れない。
肉体的な苦痛が癒えたとしても、釈放された若者たちの多くは重度のPTSDや極度のうつ病に苦しむ。社会復帰できずに自宅に引きこもり、最悪の場合、耐え難いトラウマから逃れるために自ら命を絶つケースも後を絶たない。
これは、体制がたとえ死刑を執行せずとも、刑務所内の拷問を通じて「生き延びた者」にも社会的な死を与え、反体制の芽を完全に摘み取ることに成功していることを意味する。
これが「21世紀の国家」の所業だということ
正直に言おう。この記事を書いていて、何度も手が止まった。
処刑された少女が自分の服に名前を書き残して死んでいった話。遺族に送りつけられる「結納金」。40人の前で見せしめにされた少年。これらは、国連調査で認定された近年の性暴力と、元収容者・遺族・人権団体が記録した1980年代の証言から見える。時期と証拠の強さを区別しても、拘禁下の性暴力が重大な人権侵害であることは変わらない。
独ソ戦や通州事件の記事を書いた時にも感じたことだが、国家権力が暴走した時、その暴力は底なしになる。80年前の教訓が、今もイランの刑務所で繰り返されている。
次回の最終回・第4回では、国連が「人道に対する罪」と認定した法的評価、国際社会の対応と限界、そして日本にいる私たちにできることについて解説する。
参考資料と証拠の読み方
イラン刑務所の性暴力に関するFAQ
処女の女性はイラン法で処刑できないのですか?
そのような一般規則が成文法に明記されているとは確認できない。処刑前強姦は、1980年代の元収容者や遺族が証言した加害の正当化として扱うべきである。
処刑前強姦は国連が確認したのですか?
国連文書は婚姻書類や性暴力の証言を記録しているが、個々の1980年代事例には独立検証の限界がある。近年の拘禁中性暴力は国連独立調査団が合理的根拠を認定した。
近年の被害者は女性だけですか?
違う。国連調査は女性・男性・子どもに対する性暴力を記録している。性暴力は性別を問わず拷問と威嚇の手段にされうる。
被害証言を読む際に注意することは?
被害者の尊厳を守り、刺激的な細部を消費しないこと、証言・人権団体の調査・国連の認定を同じ確度として扱わないことが重要である。
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