「女性・生命・自由」運動への無差別攻撃と、ネット遮断下の「2026年イラン大虐殺」──ラシュトで何が起きたのか【徹底解説】

〈イランの処刑と人権侵害 連載第2回〉

2022年9月、22歳のクルド系イラン人女性マフサ・アミニが、ヒジャブの着用方法が不適切だとして風紀警察に逮捕され、拘束中に死亡した。

この一人の女性の死が、イラン全土150以上の都市を揺るがす「女性・生命・自由(Woman, Life, Freedom)」運動を巻き起こした。そして体制側の回答は、実弾だった。

前回の第1回では、「工業的規模」と国連が非難する死刑執行の急増と密室裁判の実態を解説した。第2回となる今回は、街頭での超法規的殺害(裁判を経ない恣意的な殺害)と、2026年にインターネット完全遮断下で行われた全国規模の大虐殺の真実に迫る。


目次

「顔面」と「両目」を意図的に狙う射撃

マフサ・アミニの死をきっかけに全国に広がった「女性・生命・自由」運動に対して、イラン治安部隊は最初から致命的な武力で応じた。

街頭における超法規的殺害の手法は極めて残虐だった。無防備な抗議者への実弾の無差別発砲、女性の髪を掴んでの引きずり回し、女子小学校の敷地内への催涙ガスの意図的な撃ち込み。

多くの市民が、自分の携帯電話で抗議活動を撮影している最中に治安部隊に撃たれた。ガザレ・チャラビは平和的なデモの最中に頭部を撃たれて死亡。シリン・アリザデは車内からデモを撮影中に首を撃たれた。自分自身の死の瞬間を意図せず録画してしまうという悲劇が頻発した。

さらに衝撃的なのは、イラン人権文書センター等の調査で明らかになった事実だ。治安部隊は散弾銃やペイントボール銃を使用し、デモ参加者の「顔面」や「両目」を意図的に標的にして発砲していた。

これは群衆コントロールなんかじゃない。若者から視力を永久に奪い、回復不能な身体的障害を負わせることで、生涯にわたる見せしめとするための計算された「拷問」だ。国際法の専門家たちは、この眼球を狙った意図的な射撃が「人道に対する罪」を構成すると指摘している。

僕はこのブログで様々な戦場の話を扱ってきたけれど、武器を持たない自国民の目を、狙って撃つ。これはもう「治安維持」という言葉で説明できる行為じゃない。


2026年大虐殺――インターネット完全遮断の闇で何が起きたのか

2025年末から2026年初頭にかけて、イランの状況はさらに破滅的な段階に突入した。

通貨リアルの崩壊と物価高騰という深刻な経済危機を直接のきっかけとして、イラン全土で抗議デモが爆発。デモは速やかに体制の打倒と最高指導者ハメネイの退陣を求める政治的蜂起へと発展した。

最高指導者ハメネイの直接的な命令のもと、治安部隊は全国の主要都市で抗議者を無差別に殺害し始めた。

情報を殺す――インターネット完全遮断

この大虐殺を「見えなくする」ために、イラン当局は2026年1月8日、ほぼ完全なインターネットおよび通信網の遮断を実施した。

その目的は明確だ。国際社会の監視の目を逸らし、国内の市民が惨劇の状況をSNSやメディアで共有できないようにする。真実を闇に葬るための、計画的な情報統制だ。

日本が保有するミサイルのような物理的な兵器も脅威だが、現代においては「情報を遮断する」こと自体が、大量殺害を可能にする最も効果的な「武器」として機能する。この事実を、私たちは深く認識しておく必要がある。

ラシュトの虐殺――バザールが戦場になった日」

通信遮断下で発生した最も凄惨な事件が「ラシュトの虐殺」だ。

2026年1月8日から9日にかけて、体制側の部隊はラシュトの歴史的なグランドバザールに放火した。火災から逃れようとするデモ参加者に実弾を発砲。さらに出動した消防車が現場に接近するのを物理的に妨害した。

放火して、逃げる人間を撃ち、消防車を止める。

この一連の行為により、ラシュトのバザール周辺だけで392人から、最大で3,000人以上が死亡したと報告されている。地元テレビ局の記者は、現場の状況を「まるで爆撃された戦争の光景のようだ」と描写している。

同時期にケルマン等の他都市でも実弾使用による多数の死者が報告された。さらにウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーカーの報道によれば、治安部隊は負傷したデモ参加者を処刑しただけでなく、彼らを治療しようとした医師や看護師などの医療従事者までも標的にして殺害した。これは戦時国際法上の重大な違反に相当する。


隠蔽される死者数――真実はどこにあるのか

この2026年大虐殺の死者数は、情報源によって桁違いの乖離が存在する。それ自体が、当局による隠蔽の深刻さを物語っている。

情報提供元推計・確認死者数データの性質
イラン政府公式発表3,117名うち2,447名が市民・治安部隊、残りを「テロリスト」と分類。人権団体は検証不可能と指摘
HRANA(人権活動家通信)7,007名(確認済)氏名等が確認された実数。抗議参加者6,488名、未成年者236名、治安部隊207名。さらに11,744件が調査中
現地医療当局・海外メディア30,000〜36,500名現地の医師ネットワーク、Time、The Guardian等による推定。政府の公式リストは実際の犠牲者の10%未満の可能性

政府発表の3,117名と、現地推定の最大36,500名。この10倍以上の乖離が、インターネット遮断という「情報の暗殺」がどれほど効果的に機能したかを端的に示している。


死者の尊厳すら踏みにじる隠蔽工作

当局の弾圧は、被害者の殺害で終わらない。

治安機関は遺族に対し、死亡した家族が「反体制派のデモ参加者」ではなく、体制側の民兵組織「バシジ」のメンバーであり、暴徒によって殺害されたのだという虚偽の主張を公に行うよう強要している。

「あなたの子供は私たち(体制側)の味方でした。敵に殺されたのです」と言え、と。

さらに遺族が愛する者の遺体を引き取る対価として高額な金銭を要求する。死者の尊厳と遺族の悲しみを、徹底的に踏みにじり、利用する。組織的な隠蔽工作と心理的搾取が、国家の方針として実行されている。


私たちが「見ること」の意味

戦争や弾圧の最も恐ろしい側面は、加害者が「なかったこと」にしようとすることだ。歴史を消し、証拠を隠し、証人を黙らせる。

イラン当局がインターネットを遮断した理由は明白だ。見られたくないからだ。国際社会の目が届かない暗闘の中でなら、何をしても許されると考えたからだ。

だからこそ、「見ること」「知ること」「伝えること」が、私たちにできる最初の抵抗になる。

次回の第3回では、イランの刑務所内で組織的に行われている、想像を絶する性暴力と拷問の実態に踏み込む。「処女は天国に行く」という教義を悪用した、処刑前強姦のプロトコルについて詳しく解説する。

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