自衛隊に入りたい人から相談を受けると、筆記や面接より先に、だいたいこう聞かれる。
「自分、目が悪いんですけど大丈夫ですか」 「背が低いんですが」 「子どもの頃ぜんそくだったんですが」
気持ちはよく分かる。筆記は勉強すれば何とかなるが、身体のことは努力でどうにもならない気がするからだ。
先に答えを言っておくと、いまの自衛隊の身体検査は、世間のイメージよりずっと間口が広い。メガネでもいい。身長は男子150cmからでいい。小児ぜんそくも、条件を満たせば問題にならない。その代わり、意外なところで引っかかる人がいる。虫歯と、痩せすぎだ。
この記事では、防衛省の令和8年度採用要項に載っている公式の基準をもとに、項目ごとに整理していく。
大事な注意を1つだけ。基準は年度や採用区分で変わることがある。受験を決めたら、必ず最新の採用要項と、最寄りの自衛隊地方協力本部(地本)で確認してほしい。持病については、最後は医官の判断になる。
合格基準の早見表
まず全体を一覧で。2等陸・海・空士(任期制自衛官)の令和8年度採用要項に載っている「主な身体検査の合格基準」である。一般曹候補生なども基本的な考え方は同じだ。
ちなみに、制度の名前が最近変わったので補足しておく。長く「自衛官候補生」と呼ばれていた任期制の入口は、令和8年3月の受付分から、入隊と同時に2士に任命される「2等陸・海・空士(任期制自衛官)」に切り替わった。詳しくは自衛官候補生の給料の記事で触れている。採用区分ごとの違いは自衛官採用試験の解説を見てほしい。
身長|男子150cm、女子140cmから
身長の基準は男子150cm以上、女子140cm以上。
以前は男子155cm以上、女子150cm以上だった。2019年4月に引き下げられ、同じタイミングで胸囲と肺活量の基準もなくなった。昔の資料やネットの古い記事を見て「自分は足りない」と思い込んでいる人がいまもいるが、その数字はもう使われていない。
上限はない。目安表は191cm以上の欄まである。
ここで少し歴史の話をさせてほしい。旧軍の徴兵検査でも、いちばん上の区分である甲種合格の身長基準はおおむね150cm台とされ、戦争が長引いて兵隊が足りなくなるにつれて引き下げられていった。人が足りなくなると、基準は下がる。いまの自衛隊の基準緩和も、少子化で応募者が減っているという事情と無関係ではないだろう。
ただ、私はこれを悪い話だとは思っていない。小銃を担いで走るだけが自衛隊の仕事ではなくなった。通信、サイバー、整備、補給、無人機の操作。身長が5cm低いことが任務の支障になる仕事は、昔よりずっと少ない。
体重|太りすぎより「痩せすぎ」に注意
体重の基準は「身長と均衡を保っているもの」。これだけだと何のことか分からないが、要項に身長ごとの目安表が付いている。主なところを抜き出すとこうなる。
| 身長 | 下限 | 体重超過の判定基準 |
|---|---|---|
| 140cm〜(女子) | 33.3kg以上 | 68.6kg |
| 145cm〜(女子) | 35.7kg以上 | 73.6kg |
| 150cm〜 | 38.3kg以上 | 78.8kg |
| 155cm〜 | 40.8kg以上 | 84.1kg |
| 161cm〜 | 44.1kg以上 | 90.7kg |
| 164cm〜 | 45.7kg以上 | 94.1kg |
| 167cm〜 | 47.4kg以上 | 97.6kg |
| 170cm〜 | 49.1kg以上 | 101.2kg |
| 173cm〜 | 50.9kg以上 | 104.8kg |
| 176cm〜 | 52.7kg以上 | 108.4kg |
| 179cm〜 | 54.5kg以上 | 112.1kg |
| 185cm〜 | 58.2kg以上 | 119.8kg |
実際の表は2〜3cm刻みでもっと細かい。150cm以上は男女とも同じ数字だ。
私が電卓を叩いてみたところ、下限はBMIでおよそ17、上限はおよそ35にあたる。BMI35というのは、170cmで100kgを超える水準だ。上はかなり余裕がある。
しかも、上限を超えたら即アウトではない。要項には、体重超過の判定基準を超えた場合でも、体脂肪を測って男性30%未満、女性35%未満なら合格になると明記されている。ラグビーや柔道で体を大きくしてきた人が、体重だけで落とされないための仕組みである。
一方で、下限のほうには体脂肪率のような救済の記載がない。170cmで49kgを切る人はそう多くないが、細身の高校生や女性では現実にありうる数字だ。「自衛隊の身体検査で体重」と聞くと太っているほうを心配しがちだが、気をつけたいのはむしろ逆である。
だからといって、試験の直前に無理に食べたり、逆に食事を抜いたり、という調整はやめておいたほうがいい。体調を崩せば血圧や尿検査のほうで引っかかる。時間をかけて、きちんと食べて、きちんと動く。王道しかない。体を大きくしたい人は、食事を基本にしたうえで、足りないたんぱく質を補う程度に考えてほしい。
視力|メガネ・コンタクトでOK

視力の基準は「両側の裸眼視力が0.6以上、または矯正視力が0.8以上」。
つまり、裸眼がどれだけ悪くても、メガネやコンタクトで両目とも0.8以上出ればいい。昔は裸眼0.1未満だとレンズの度数にまで条件が付いていたが、2019年の改正でいまの形にすっきりした。
「目が悪いと自衛隊に入れない」は、もう昔の話である。
当日は、ちゃんと0.8以上が出るメガネかコンタクトを持っていくこと。何年も前に作ったメガネで度が合っていない、というのはいちばんもったいない落ち方だ。受験前に眼鏡店か眼科で確認しておくといい。
注意が必要なのはパイロットを目指す人だ。航空学生などの飛行要員は「航空身体検査」という別の厳しい基準で見られる。矯正の方法にも決まりがある。これは航空学生の身体検査の記事に詳しく書いたので、そちらを読んでほしい。
色覚|赤・青・黄が見分けられるか
基準は「色盲または強度の色弱でないもの」。
要項の注記によれば、陸上自衛隊は、運転免許と同じ基準、つまり赤色・青色・黄色の識別ができることを合格基準にしている。海上自衛隊と航空自衛隊でも同じ基準にする試行が行われている。
信号の色が見分けられて運転免許が取れる人なら、基本的には大丈夫だと考えていい。学校の検査で色弱と言われたことがあっても、それだけであきらめる必要はない。ただし、入隊後に就ける職種には色覚の条件が付くものがある。気になる人は地本で聞いておこう。
聴力|「正常なもの」とは

聴力の基準は「正常なもの」の一言だ。
普通に会話ができて、学校や会社の健康診断で聴力を指摘されたことがなければ、まず心配はいらない。
耳に関しては、聴力そのものより病気のほうが問題になる。防衛省が公開している不合格疾患の一覧表には、耳だれを繰り返す慢性中耳炎、メニエール病など繰り返すめまいの既往、鼓膜に穴が開いている状態、といった項目が並んでいる。鼓膜については、海上自衛官になる人を除き、聴力に問題がなく隊務に支障がなければこの限りでない、というただし書きが付いている。海自だけ厳しいのは、水に関わる仕事だからだろう。
あと、地味だが、検査の前に耳あかの掃除はしておくこと。詰まっているだけで聞こえが悪く出ることがある。
歯|いちばん「もったいない」落ち方

基準は「多数の虫歯または欠損歯(治療を完了したものを除く)のないもの」。
身体検査でつまずく原因として、昔からよく挙がるのがこれだ。ポイントはカッコの中で、治療が終わっていれば問題にならない。引っかかるのは、治していない虫歯がたくさんある場合である。
なぜ軍事組織が歯にうるさいのか。演習場や艦の上、災害派遣の現場では、歯が痛くなってもすぐ歯医者に行けないからだ。歯痛で動けなくなった隊員は、その間、戦力にならない。これは旧軍の時代から変わらない、現場の切実な事情である。
歯の治療は回数がかかる。受験を考え始めたら、願書より先に歯医者の予約を入れるくらいでちょうどいい。
持病・既往歴|「あったら即アウト」ではない
いちばん不安に思う人が多いところだ。要項に挙がっている主なものを、ただし書きと一緒に整理する。
| 項目 | 基準とただし書き |
|---|---|
| 気管支ぜんそく | 不合格の対象。ただし、小児期に診断されたが最近3年間は無治療で発作がないものは除く |
| アトピー性皮膚炎 | 対象は、常時治療が必要、または感染症を伴う重症のもの |
| 腰痛 | 腰痛とその既往歴は対象。ただし、2年以上無症状で再発のおそれがないものは除く。脊椎の手術を2年以内に受けたものは対象 |
| てんかん・意識障害 | 既往歴は対象。ただし、乳幼児期の熱性けいれんなどは除く(条件と診断書が必要な場合あり) |
| 肥満 | 過度の肥満症 |
| 血圧 | 高血圧症、低血圧症 |
| 開腹手術 | 既往歴は対象。ただし、癒着症状を残さない虫垂切除(いわゆる盲腸)、腹腔鏡手術で1年以上再発・後遺症がないもの、開腹手術後5年以上再発・後遺症がないもの、などは除く |
| 食物アレルギー | 重い症状を起こす可能性が高いものは、不合格となることがある |
読んでもらうと分かるが、ほとんどの項目に「ただし」が付いている。病名が付いたことがあるかどうかではなく、いまどうなのか、任務に支障があるかどうかで判断する、というのが基本の考え方だ。
血圧についても、不合格疾患の一覧表を見ると、高血圧は薬での治療が必要なものや合併症があるもの、低血圧は症状があって治療が必要なもの、と中身が書かれている。当日、緊張で少し高く出た、という程度の話とは別である。
要項にはこのほか、刺青がないこと、妊娠中でないこと、精神疾患やその既往歴に関する項目なども挙げられている。刺青については、美容目的で眉やまぶたに入れたアートメイクは対象外だ。細かい扱いは自衛隊とタトゥーの記事にまとめた。
心や体のことで、自分が当てはまるのかどうか判断がつかない人もいると思う。そういうときは、ネットで答えを探して一人で悩むより、地本の広報官や、かかりつけの医師に相談してほしい。相談したこと自体が不利になるわけではない。
絶対にやってはいけないこと
持病や手術歴を隠すこと。これだけはやめてほしい。
要項にははっきりこう書いてある。既往歴、手術歴、身体上の不安がある人は問診表に確実に記載し、身体検査のときに必ず申し出ること。事実と異なる申告をした場合は、採用予定通知が出ていても、判明した時点で取り消されることがある、と。
隠して入っても、つらいのは自分だ。教育隊では毎日走り、重い物を持ち、野外で寝る。隠した持病が訓練中に出れば、自分だけでなく周りの仲間も危険にさらす。正直に書いて、ただし書きに当てはまるかどうかを医官に判断してもらうのが、結局いちばんの近道である。
当日の流れと持ち物

検査の中身は、学校や会社の健康診断とほとんど同じだ。身長・体重、視力、色覚、聴力、歯、血圧、尿検査、胸部X線、そして医師の問診。腕立て伏せや持久走のような体力テストは、採用試験の段階ではない。体力が試されるのは入隊してからで、それは体力検定の記事に書いた。
持ち物で忘れてはいけないのは次の3つ。
- Tシャツと短パン(要項に持参するよう明記されている)
- メガネまたはコンタクト(矯正視力で受ける人)
- 受験票
前の日は、夜更かしと暴飲暴食を避ける。寝不足だと血圧が高く出やすいし、前日の食事や激しい運動は尿検査に影響することがある。特別なことをする必要はなく、普段どおりに過ごして早く寝ればいい。
女性の受験者は、検査日と生理が重なりそうなら、あらかじめ広報官に伝えておくと安心だ。女性ならではの話は女性自衛官の記事も参考にしてほしい。
合格したあとも油断しない
見落とされがちだが、身体検査は1回で終わりではない。
要項には、入隊時にもう一度身体検査を行い、異常があれば不採用となることがある、と書かれている。このとき、薬物使用検査と、女性には妊娠反応検査も行われる。
合格から入隊までは数か月あく。その間にケガをしたり、体調を大きく崩したりしたら、黙っていないで地本に連絡すること。部活の引退後に急に太る、卒業旅行で無茶をする、というのもよくある話なので気をつけたい。
この期間は、入隊後に備えて少しずつ体を作っておく時期でもある。何から始めればいいかは入隊前にやることチェックリストと体力検定の8週間トレーニングにまとめた。走る習慣をつけるなら、ペースと距離が分かる時計が1つあると続けやすい。
教育隊がどんなところかを先に知っておきたい人は教育隊の記事をどうぞ。
採用区分による違い
ここまで書いた基準は、一般曹候補生や任期制自衛官など、多くの区分に共通するものだ。ただし、区分によって上乗せや違いがある。
| 区分 | 身体検査の特徴 |
|---|---|
| 2等陸・海・空士(任期制自衛官) | 本記事の基準。受験者全員が身体検査を受ける |
| 一般曹候補生 | 基準は同様。身体検査は筆記を通過した人が2次試験で受ける |
| 航空学生・飛行要員 | 航空身体検査という別基準。視力などがはるかに厳しい |
| 防衛大学校・防衛医科大学校 | 基本の考え方は同じ。詳細は各募集要項で確認 |
| 陸上自衛隊高等工科学校 | 年齢が低いため、身長などは生徒用の基準 |
任期制と一般曹候補生のどちらを受けるか迷っている人は自衛官候補生と一般曹候補生の違いを、パイロット志望の人は航空自衛隊パイロットになる3ルートを、防大志望の人は防衛大学校の入試の記事を読んでほしい。
筆記試験の対策がまだの人は、問題集を1冊決めて早めに回し始めるのがいい。
よくある質問
メガネやコンタクトでも受かる?
受かる。矯正視力が両目とも0.8以上あればいい。度の合ったものを当日持っていくこと。
身長が150cmに少し足りない場合は?
基準は男子150cm以上、女子140cm以上と明記されている。足りない場合の扱いは要項に書かれていないので、地本に直接確認してほしい。
体重が上限を超えていたら不合格?
超えていても、体脂肪率が男性30%未満、女性35%未満なら合格になると要項に書かれている。
子どもの頃ぜんそくだった。受けられる?
小児期に診断されたが最近3年間は無治療で発作がない、という場合は対象から除かれる。問診表には正直に書いたうえで、医官の判断を受けること。
盲腸の手術をしたことがある
腸管の癒着症状を残していない虫垂切除は、対象から除かれている。
身体検査だけで落ちることはある?
ある。ただし、治していない虫歯、体重、当日の体調のように、前もって手を打てる原因も多い。落ちる理由の全体像は自衛隊の合格率が低い理由でまとめている。
身体検査に体力テストはある?
採用試験の段階ではない。
まとめ
自衛隊の身体検査の基準は、この数年でかなり現実的になった。身長は男子150cm、女子140cmから。視力はメガネで0.8あればいい。体重は上に広く、超えても体脂肪率で見てもらえる。持病も、病名ではなく「いまどうなのか」で判断される項目が多い。
逆に、自分で何とかできるのに落ちてしまうのが、虫歯と、痩せすぎと、当日の体調だ。受験を決めたら、まず歯医者。次に目安表で自分の体重を確認。そして、既往歴は隠さず書く。この3つを押さえておけば、身体検査を必要以上に怖がることはない。
体のことで迷ったら、一人で抱え込まず、地本の広報官に聞いてしまうのが早い。彼らはそのためにいる。
自衛官になるまでの全体の流れは自衛官になるにはの記事にまとめてある。
あわせて読みたい
出典・参考資料
- 防衛省「令和8年度 2等陸・海・空士(任期制自衛官)採用要項」
- 防衛省 自衛官募集サイト「身体検査等の基準について」
- 防衛省「身体検査の合格基準の一部変更に関するお知らせ」(2019年4月1日以降の変更)
- 防衛省「自衛官等の採用のための身体検査に関する訓令」不合格疾患一覧表
- 防衛省 自衛官募集サイト「2等陸・海・空士(任期制自衛官)」
※本記事は公開資料にもとづく一般的な情報の整理で、医学的な助言ではない。基準は年度・採用区分によって変わることがあるため、受験の際は最新の採用要項と最寄りの自衛隊地方協力本部で必ず確認してほしい。







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