映画『トップガン マーヴェリック』の冒頭、空母の甲板から戦闘機が次々に飛び立っていく場面を覚えているだろうか。轟音と蒸気の中を、黄色や緑、赤、紫の服を着た乗員たちが走り回り、手ぶりだけで巨大な機体を動かしていく。
初めて見たとき、私は「なんて派手な職場なんだ」と思った。でも、あの色はおしゃれでも、部隊ごとの好みでもない。アメリカ海軍の空母では、飛行甲板で働く乗員の服の色が、その人の役割をそのまま表している。黄色なら機体の交通整理、紫なら燃料、赤なら爆弾や消火、というように。
声がまったく届かない轟音の中で、何十機もの航空機と何百人もの乗員が、狭い甲板の上で同時に動く。そんな場所で、誰が何の担当なのかを一瞬で見分けるための仕組みが、この色分けだ。
この記事では、アメリカ海軍の空母の飛行甲板で使われている服の色を、色ごとに役割を整理して解説する。空母の大きさや艦級、保有数の話ではなく、甲板の上で働く人たちの話だ。
- アメリカ海軍の空母の飛行甲板では、主に黄・青・緑・赤・紫・茶・白の7色で役割を見分ける
- 色分けの理由は、声が届かない轟音、命にかかわる危険、狭い甲板での同時作業、責任の所在をはっきりさせること
- ヘルメットと救命胴衣も服と同じ色で、どの方向から見ても役割が分かる
- 1機を発艦させるだけでも、ほぼすべての色の乗員が順番に関わっている
結論|色は「この人に何を頼めるか」を伝える名札

写真・素材:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Travis K. Mendoza/Wikimedia Commons(Public domain)
まず7色と役割を表にまとめておく。
色はいわば、遠くからでも読める名札だ。甲板の上で何か困ったとき、誰に頼めばいいかが、顔を見なくても服の色で分かる。
なぜ色分けが必要なのか
声がまったく届かない
空母の飛行甲板は、世界でも指折りの騒がしい職場だ。ジェット機のエンジンがすぐそばで唸り、カタパルトが機体を打ち出し、着艦した機体がワイヤーに引っかかって止まる。耳を守る装備なしではいられない轟音の中では、声で指示を出すことはほぼ不可能だ。
だから甲板の上の会話は、手ぶりと色が中心になる。誰が指示を出す人で、誰が従う人なのか。それが色で分かれば、手ぶりだけでも仕事が回る。
一瞬の油断が命にかかわる
飛行甲板には危険があふれている。エンジンの空気取り入れ口は人を吸い込みかねず、後ろからの排気は人を吹き飛ばす。着艦した機体を止めるワイヤーが切れれば、鞭のように甲板をなぎ払う。ヘリコプターの回転翼、満載の燃料、爆弾やミサイル。どこを向いても危ないものばかりだ。
そんな場所では、「その作業に関係のない人が、そこにいない」ことが何より大切になる。色を見れば、そこにいるべき人かどうかがすぐ分かる。
狭い甲板で、大勢が同時に動く
空母の飛行甲板は広く見えるが、何十機もの航空機を並べ、発艦と着艦を同時に回すには決して広くない。その上で何百人もの乗員が、燃料を入れ、武器を積み、機体を動かし、カタパルトにつなぐ。色で役割が分かれていれば、自分の持ち場と他人の持ち場を混同せずに済む。
責任の所在をはっきりさせる
アメリカ海軍の記事でも、色分けは「誰がどこにいるべきか、誰がどの装備に責任を持つのかを分かりやすくするため」と説明されている。過去の事故や失敗から学んだ結果として、今の形になったという。
ヘルメットと救命胴衣も同じ色
色が表すのは服だけではない。乗員がかぶる耳当てつきのヘルメット(クラニアル)と、海に落ちたときに膨らむ救命胴衣(フロートコート)も、服と同じ色になっている。前から見ても、後ろから見ても、上から見ても役割が分かるようにするためだ。服には所属部隊や担当を示す文字が書き込まれていることも多い。
色別ガイド|7色の役割

写真・素材:U.S. Navy photo by Photographer's Mate Airman Joshua Karsten./Wikimedia Commons(Public domain)
黄|甲板の交通整理と司令塔「イエローシャツ」
黄色は、甲板の上で航空機の動きに責任を持つ人たちの色だ。機体を誘導する誘導員(エアクラフト・ディレクター)、甲板全体の機体の配置を管理するハンドラー、カタパルトや着艦装置の指揮をとる士官などがここに入る。
なかでも有名なのが、カタパルト士官、通称「シューター」だ。発艦の直前、シューターはパイロットにエンジンを全開にするよう合図を出す。パイロットは計器や操縦翼面を確かめ、準備ができると敬礼で応える。シューターは周りの安全を確かめたうえで、甲板に手をつくように身をかがめ、前方を指さす。これが発艦の合図だ。映画でもおなじみの、あのかっこいい仕草である。
黄色の誘導員は、甲板の上で機体を一機ずつ受け渡しながら、カタパルトや駐機位置まで導く。パイロットは誘導員の手ぶりだけを頼りに、数十トンの機体を数十センチ単位で動かしていく。
ハンドラーは、甲板の一角にある管制室で、飛行甲板を小さく再現した模型の上に機体の駒を並べて、すべての機体の位置と状態を管理してきた。この盤は「ウィジャ・ボード」と呼ばれ、駒に刺したピンの色で、燃料が必要な機体、整備が必要な機体といった状態を示したという。アナログだが、確実な方法だ。
青|機体を動かし、つなぎとめる「ブルーシャツ」
青は、甲板の上の力仕事を支える人たちの色だ。着艦した機体や駐機中の機体に車輪止め(チョーク)をかませ、鎖で甲板に固定する。牽引車を運転して機体を動かす。格納庫と飛行甲板を結ぶエレベーターを操作する。電話や伝令で連絡を受け渡す。
空母は揺れる。固定されていない機体は、波で滑り出せば大事故になる。青の乗員がいなければ、機体は甲板の上に一秒もじっとしていられない。
青は、甲板で働き始めた若い乗員が最初に着ることの多い色でもある。黄色の誘導員の下について経験を積み、やがて誘導員になる者も多い。
緑|カタパルトと整備の「グリーンシャツ」
緑は、発艦と着艦の機械を動かす人たちと、機体の整備を担う人たちの色だ。
カタパルトの乗員は、機体の前脚をカタパルトにつなぎ、発艦の準備を整える。最新のジェラルド・R・フォード級では、蒸気ではなく電磁力で機体を打ち出すカタパルトが使われている。着艦装置の乗員は、機体を止めるワイヤーの状態を管理する。着艦した機体のフックがワイヤーから外れたかを確かめるのも緑の仕事だ。
ほかにも、各飛行隊の整備員、地上支援機材の故障対応、写真撮影の担当、ヘリコプターの着艦を誘導する下士官、貨物の取り扱いなども緑を着る。緑は、甲板の上でいちばん幅広い仕事をまとめる色かもしれない。
赤|危険物と火に向き合う「レッドシャツ」
赤は、甲板の上でいちばん危険なものを扱う人たちの色だ。
一つは武器の担当者。爆弾やミサイル、機関砲の弾薬を運び、機体に積み、降ろす。重く、扱いを誤れば大惨事になるものを、揺れる甲板の上で正確に扱わなければならない。不発弾などを処理する爆発物処理の担当者も赤を着る。
もう一つは、事故や火災に立ち向かう人たちだ。着艦に失敗した機体や、炎上した機体に真っ先に駆けつけ、消火や救助にあたる。甲板には小型の消防車も用意されている。赤い服は、危険な作業がそこで行われていることを周りに知らせる色でもある。
紫|燃料係の「グレープ」
紫は、航空燃料を扱う人たちの色だ。紫色の服から、ブドウを意味する「グレープ」という愛称で呼ばれている。
ジェット機は大量の燃料を使う。発艦の前に、そして着艦して次の出撃の準備をするたびに、グレープたちが太いホースを引きずって機体に燃料を入れていく。燃料は火災の元にもなるので、漏れやこぼれにも目を光らせる。甲板だけでなく、格納庫でも給油を担当する。
茶|担当機の主治医「プレーン・キャプテン」
茶色は、各飛行隊の「プレーン・キャプテン」と呼ばれる人たちの色だ。プレーン・キャプテンは、決められた機体を受け持ち、その機体を清潔に保ち、飛行の前後に点検や整備が済んでいるかを確かめる。
その日、最初にその機体に触れるのも、最後に触れるのも、プレーン・キャプテンだ。パイロットが乗り込む前に一緒に機体を見て回り、発艦の準備を手伝う。必要なら操縦席に座って、機体の移動を担うこともある。
驚くのは、プレーン・キャプテンの多くが、新兵教育を終えて間もない若い水兵だということだ。1機数十億円、あるいは100億円を超える機体を、20歳前後の若者が「自分の機体」として預かる。アメリカ海軍の人の育て方がよく表れている仕組みだと思う。
白|安全と着艦の目「ホワイトシャツ」
白は、安全を見張り、品質を確かめる人たちの色だ。
いちばん有名なのは、着艦信号士官(LSO)だろう。LSOの多くはパイロット出身で、着艦してくる機体の進入を甲板の端から見守り、無線でパイロットに助言を送る。パイロットは、甲板の脇にある光学着艦装置の光を見て、正しい角度で降りているかを確かめながら進入してくる。LSOはその最後の数十秒を見届け、危ないと判断すれば着艦のやり直しを命じる。
ほかにも、安全監視員、品質保証の担当者、飛行隊の機体検査員、液体酸素を扱う乗員、郵便や貨物、乗客の積み下ろしを担当する士官なども白を着る。医療担当者は、白い服に赤十字の印をつけている。機体検査員の中には、白黒のチェック柄の服を着る人もいる。艦を訪れる要人やゲストが白を着ることもある。
1機を発艦させるまでに何色が関わるか

写真・素材:Department of Defense. American Forces Information Service. Defense Visual Information Center. 1994/Wikimedia Commons(Public domain)
色の役割が分かったところで、戦闘機1機が発艦するまでの流れを追ってみよう。
| 順番 | 作業 | 担当する色 |
|---|---|---|
| 1 | 機体を点検し、飛べる状態に整える | 茶・緑 |
| 2 | 燃料を入れる | 紫 |
| 3 | ミサイルや爆弾を積む | 赤 |
| 4 | 固定を外し、駐機場所から動かす | 青 |
| 5 | カタパルトまで誘導する | 黄 |
| 6 | 前脚をカタパルトにつなぐ | 緑 |
| 7 | 最終の外観点検をする | 白 |
| 8 | 発艦の合図を出す | 黄(シューター) |
着艦のときは逆の流れになる。白のLSOが進入を見守り、緑の乗員が整えたワイヤーで機体が止まる。緑がフックの外れを確かめ、黄が駐機位置まで誘導し、青が車輪止めと鎖で固定する。そして茶が機体を受け取り、次の出撃の準備が始まる。
たった1機を飛ばし、迎え入れるだけでも、ほぼすべての色が順番にバトンをつないでいる。空母の航空団には、戦闘機のF/A-18スーパーホーネットだけでなく、早期警戒機のE-2Dホークアイやヘリコプターなど大きさも性格も違う機体がそろっている。それらが入れ替わり立ち替わり発着艦する中で、このリレーが一日に何十回、何百回と繰り返される。
色の外側で全体を見ている人たち

写真・素材:U.S. Navy photo by Photographer’s Mate 3rd Class Joshua Karsten./Wikimedia Commons(Public domain)
甲板の上の色の世界を、上から見守っている人たちもいる。
艦橋の上部にある航空管制所(プライマリー・フライト・コントロール、通称プライフライ)には、「エアボス」と呼ばれる航空部門の責任者がいて、空母の周りの空域と飛行甲板の動きを指揮する。甲板の機体の配置は、さきほどのハンドラーが管制室で管理する。
一方で、色に関係なく全員が同じ仕事をする時間もある。発着艦の前に行われる「FODウォークダウン」だ。乗員がずらりと横一列に並び、ゆっくり甲板を歩きながら、ボルトや小石、ゴミなどの異物を拾い集める。小さな異物でも、エンジンに吸い込まれれば大きな損傷につながるからだ。色とりどりの服の乗員が肩を並べて甲板を歩く光景は、空母の朝の風物詩でもある。
晴れ舞台の「レインボー・サイドボーイズ」
色分けは、儀式の場でも使われる。艦長の交代や要人の送迎などの場面で、各色の服を着た乗員が並んで敬意を表す「レインボー・サイドボーイズ」という伝統がある。
黄、青、緑、赤、紫、茶、白。甲板を支えるすべての色が一列に並ぶ姿は、空母が多くの役割の積み重ねで動いていることを、何より分かりやすく示している。
旧日本海軍の空母甲板はどうだったか
ここで少し、旧日本海軍の話もしておきたい。
旧海軍の空母にも、もちろん発着艦を支える大勢の乗員がいた。ただ、アメリカ海軍のような7色の色分けが旧海軍にあったという話を、私は見たことがない。むしろ旧海軍が先を行っていたと言われるのは、着艦の誘導の仕組みだ。
旧海軍の空母は、赤と緑のランプを並べた「着艦指導灯」を早くから使っていた。パイロットはランプの見え方で、自分が正しい角度で降りているかを判断できた。同じ時代のアメリカ海軍は、甲板の端に立った誘導士官が手旗で合図を送る方式が中心だった。いまの空母の光学着艦装置は、考え方としては旧海軍の着艦指導灯に近い。
1941年12月8日の真珠湾攻撃で、赤城をはじめとする空母から攻撃隊が発艦していくとき、甲板の乗員たちが帽子を振って見送った「帽振れ」の光景はよく知られている。色分けこそなかったが、甲板の上の一体感は、今の米空母とも通じるものがあったのだと思う。
海上自衛隊と飛行甲板

写真・素材:MCSN Liam Kennedy/Wikimedia Commons(Public domain)
日本の空にも、この話は無縁ではなくなってきた。海上自衛隊のいずも型護衛艦は、F-35Bを運用できるよう改修が進められている。2021年10月には、アメリカ海兵隊のF-35Bが「いずも」で発着艦の試験を行い、このとき艦に掲げられた国際信号旗の「F」も話題になった。
戦闘機が日常的に発着艦するようになれば、甲板の上の役割分担と、それを一目で見分ける工夫は欠かせなくなる。海上自衛隊の甲板で、どのような装いと合図の体系が定着していくのかは、これからの見どころの一つだ。なお、この記事で解説した7色の体系はアメリカ海軍のものであり、海上自衛隊が同じ色と役割の対応を使っていると確認できる公開資料は、私の調べた範囲では見つからなかった。
映画と模型で甲板を眺める
甲板の色分けを知ってから『トップガン マーヴェリック』を見直すと、冒頭の発艦シーンがまったく違って見える。黄色の誘導員の手ぶり、紫のグレープのホース、シューターの発艦の合図。一人ひとりの動きに意味があることが分かって、何度でも見たくなる。
最新のフォード級空母の甲板を手元で再現するなら、1/700の模型がいい。甲板の上にどれだけの機体が並び、どれだけ限られた空間でやりくりしているのかが、上から眺めるとよく分かる。
よくある質問
空母の甲板員の服は何色ある?
アメリカ海軍では、主に黄・青・緑・赤・紫・茶・白の7色だ。白の仲間に白黒のチェック柄があり、医療担当者は白に赤十字の印をつける。
黄色の服の人は何をしている?
航空機の動きに責任を持つ人たちだ。機体の誘導、甲板全体の機体の配置の管理、カタパルトや着艦装置の指揮をとる。発艦の合図を出すカタパルト士官「シューター」も黄色を着る。
紫の「グレープ」とは?
航空燃料を扱う乗員のことだ。紫色の服がブドウを連想させるため、こう呼ばれる。
ヘルメットの色も服と同じ?
同じだ。耳当てつきのヘルメットと救命胴衣も服と同じ色になっていて、どの方向から見ても役割が分かるようになっている。
いちばん危険なのは何色の仕事?
飛行甲板では全員が危険と隣り合わせだ。そのうえで、爆弾やミサイルを扱い、事故や火災に真っ先に駆けつける赤は、特に危険な仕事を担う色と言える。
海上自衛隊の護衛艦でも同じ色分けをしている?
この記事で解説したのはアメリカ海軍の体系だ。海上自衛隊が同じ色と役割の対応を使っていると確認できる公開資料は、調べた範囲では見つからなかった。いずも型でのF-35Bの運用が本格化するなかで、甲板の運用がどう整えられていくかに注目したい。
まとめ|色を知ると、空母の甲板が「読める」ようになる
アメリカ海軍の空母の飛行甲板では、黄・青・緑・赤・紫・茶・白の7色が、それぞれの役割を表している。声が届かない轟音、命にかかわる危険、狭い甲板での同時作業。そんな環境で、誰が何をする人なのかを一瞬で伝えるための仕組みだ。
1機の戦闘機が飛び立つまでに、茶が整え、紫が燃料を入れ、赤が武器を積み、青が動かし、黄が導き、緑がつなぎ、白が確かめ、最後に黄のシューターが送り出す。空母の強さは、艦の大きさや搭載機の数だけでなく、この色とりどりのリレーの正確さに支えられている。空母の艦級や性能が気になったらニミッツ級空母の解説を、トップガンの世界を深掘りしたいならF-14トムキャットの解説もあわせて読んでみてほしい。
最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。
出典・参考資料
表紙の写真素材:
写真・素材:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Travis K. Mendoza/Wikimedia Commons(Public domain)。背景・レイアウト・文字を編集。







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