幼女戦記の将軍にモデルはいる?ゼートゥーアとルーデルドルフを名前・外見・役割・思想で検証したら、ゼートゥーアは「二人の将軍の合成」だった

幼女戦記の将軍にモデルはいる?ゼートゥーアとルーデルドルフを名前・外見・役割・思想で検証したら、ゼートゥーアは「二人の将軍の合成」だった

ゼートゥーアとルーデルドルフ。幼女戦記の参謀本部を支える二人の将軍は、2期でいよいよ物語の主役級になった。公式サイトの2期のあらすじも、終盤はほとんどルーデルドルフの話だ。

この二人には、史実のモデルがいるのか。ミリタリー好きなら、名前を見た瞬間にピンとくる人もいると思う。ルーデルドルフはルーデンドルフ、ゼートゥーアはゼークト。第一次大戦とその後のドイツ軍を動かした将軍たちの名前だ。

ただ、名前が似ているからといって、それがそのままモデルだとは限らない。この記事では、二人を名前、外見、役割、思想の四つに分けて、史実の将軍と一つずつ照らし合わせてみる。そして、どこまでが「似ている」で、どこからが「モデルだと言える」のかを、できるだけ区別して書く。

調べてみて私が出した答えは、こうだ。ルーデルドルフは、名前も役割も思想も、かなりの部分がルーデンドルフに重なる。一方ゼートゥーアは、名前はゼークトに近いが、仕事ぶりと立ち位置は別の将軍、ヴィルヘルム・グレーナーにそっくりだ。ゼートゥーアは、二人の将軍を合わせたような人物に見える。

ネタバレは2期の公式あらすじの範囲までにとどめ、原作の先に触れる部分は見出しで分けて注意書きを入れる。

この記事のポイント
目次

結論|二人のモデル検証の早見表

先に結論を表にしておく。◎はかなり近い、○は近い、△は少し似ている、×は似ていない、の目安だ。

モデル説を四つの軸で読む。名前・外見・役割・思想を分ける
本文の比較に基づく見立て。公式に確定したモデル一覧ではない。

表の判定は、作中の設定と史実の記録を比べた私の評価だ。公式の答えではないので、その前提で読んでほしい。

まず前提|「モデル」と「似ている」は違う

最初に、確かさの話をしておく。

作者のカルロ・ゼンが、ゼートゥーアやルーデルドルフのモデルを明言した資料は、私が調べた範囲では見つからなかった。日本語版のウィキペディアにも、二人の実在のモデルについての記述はない。中国語のファン向け百科事典には、ゼートゥーアの名前はゼークトから取ったという記述があるが、出典は示されていない。

つまり、ここから先は「作者が認めたモデル」ではなく、「史実の誰に似ているか」の検証だ。名前が似ているのは偶然ではないだろう。それでも、名前だけで決めつけず、ほかの要素とあわせて判断していく。

二人は作中でどんな将軍か

検証の前に、作中の二人を整理しておく。原作の設定では、二人とも帝国軍参謀本部の参謀次長だ。

地図と測定具が置かれた作戦机。
地図と測定具が置かれた作戦机。

ゼートゥーアは戦務参謀次長で、補給や輸送など、軍が戦い続けるための裏方を受け持つ。初老に差しかかった静かな物腰の人物で、軍人というより学者のような雰囲気を持つ。頭が切れすぎるせいで、主流派の方針とぶつかることが多い。ターニャを高く買っている、いわば後ろ盾のような存在だ。後世に「恐るべきゼートゥーア」と呼ばれることになる、とも書かれている。

ルーデルドルフは作戦参謀次長で、作戦を立てて戦いを動かす側の責任者だ。男盛りの精悍な軍人として描かれ、アニメでは立派な口ひげが目を引く。ゼートゥーアとは同期で、互いをよく知る仲であり、二人そろって機動戦と兵站の権威として知られる。ただし、軍事以外のことになると視野が狭くなり、ゼートゥーアから心配されている。

2期のあらすじでは、終わりの見えない総力戦の中で、ルーデルドルフが戦争を終わらせる道を独自に探り始め、その決断が「一人の友」を激怒させる。この友がゼートゥーアであることは、作品を見ている人なら想像がつくと思う。

ルーデルドルフの検証|相手はエーリヒ・ルーデンドルフ

名前

ルーデルドルフとルーデンドルフ。違いは一文字だけと言っていい。第一次大戦のドイツ軍で最も強い力を持った将軍の名前を、ほとんどそのまま使っている。名前の上では、ここまで近い組み合わせはほかにない。

外見と人柄

史実のルーデンドルフは、口ひげをたくわえたがっしりした軍人で、写真を見ると押しの強さが伝わってくる。働き者で冗談を言わず、近寄りがたい人物だったとされる。作中のルーデルドルフの「精悍な軍人」という描かれ方とは、方向がよく合う。ただし、作中のルーデルドルフは同期の友と気安く語り合う人間味のある人物で、史実のルーデンドルフの気難しさまでは写していない。

役割

役割の重なりは、名前と同じくらい強い。ルーデンドルフは、1914年にベルギーのリエージュ要塞の攻略で名を上げ、続いて東部戦線のタンネンベルクの戦いでヒンデンブルクの参謀長としてロシア軍を包囲殲滅した。1916年からは、参謀総長ヒンデンブルクのもとで第一兵站総監という参謀次長にあたる職に就き、ドイツ軍の作戦を一手に握った。

作戦を立てて大攻勢をしかける参謀本部の実力者。これは、作中で作戦参謀次長として大きな作戦を動かすルーデルドルフの立ち位置とほぼ同じだ。

思想と行動

ここがいちばん面白い。

ルーデンドルフは、作戦の天才であると同時に、政治や外交が見えない軍人だった。1916年以降はヒンデンブルクとともに経済や政治にまで口を出し、歴史家からは事実上の独裁者とまで呼ばれる。アメリカの参戦を招いた無制限潜水艦作戦を後押しし、1918年春には西部戦線で最後の大攻勢をかけた。西部戦線がどんな戦場だったかは第一次世界大戦の激戦地ランキングにまとめている。そして、それが行き詰まると、1918年9月29日、一転して皇帝に即時の休戦が必要だと告げる。

作中のルーデルドルフにも、軍事以外が見えなくなる危うさが設定されている。2期では、講和の機運がありながら有利な条件を求めて大攻勢を重ね、終盤では戦争を終わらせる道を自分で探り始める。勝つための大攻勢から、終わらせるための決断へ。この揺れ方は、1918年のルーデンドルフとよく似ている。

さらに、戦後のルーデンドルフは、この言葉を有名にした『総力戦』(1935年)という本を書いている。2期のあらすじで繰り返し使われる「総力戦」という言葉と、その中で苦しむルーデルドルフ。作品がこの将軍に何を背負わせているかは、ここからも読み取れる。

ただし、二人の結末は同じではない。史実のルーデンドルフは1918年10月に職を解かれ、戦後はヒトラーの一揆に加わるなど、右派の政治にのめり込んでいった。作中のルーデルドルフの行く末は、2期の終盤で描かれたとおりで、史実とは別の道をたどる。

判定

名前、役割、思想・行動の三つがそろっている。モデルを明言した資料はないものの、ルーデルドルフの下敷きにルーデンドルフがいると見るのは、かなり自然だと思う。

ゼートゥーアの検証その1|名前の候補、ハンス・フォン・ゼークト

名前

ゼートゥーアのフルネームはハンス・フォン・ゼートゥーア。史実のハンス・フォン・ゼークトと、名がハンスで同じ、姓も「ゼー」で始まる響きが近い。ルーデルドルフほどではないが、名前の元ネタとしては最有力だ。

外見と人柄

ゼークトは、寡黙で感情を表に出さず、「スフィンクス」とあだ名された将軍だった。作中のゼートゥーアの、静かな物腰で学者のような雰囲気とは、方向が合う。

役割

ゼークトの第一次大戦での仕事は、作戦の参謀長だった。1915年、東部戦線でマッケンゼンの軍の参謀長としてゴルリッツェ・タルヌフの突破作戦を練り、ロシア軍の戦線を大きく崩した。のちにオスマン帝国軍の参謀長も務めている。名が知られるのはむしろ戦後で、1920年から1926年まで陸軍統帥部長官としてドイツ軍を率い、ヴェルサイユ条約で10万人に縛られた軍隊を、いつでも大きく広げられる精鋭の骨組みとして作り直した。ソ連と秘密に協力して、禁じられた兵器の研究や訓練を続けたことでも知られる。

ただ、補給と輸送の専門家という作中のゼートゥーアの役回りとは、少しずれる。ゼークトは、どちらかといえば作戦と組織づくりの人だ。

思想

ゼークトは、軍を政治から切り離し、どの政党にも属さない国家の柱にしようとした。ゼートゥーアの合理的で冷静な考え方と通じるところはあるが、作中のゼートゥーアの悩みである「補給と国力の限界」とは、重なりが弱い。

判定

名前と人柄は近い。役割と思想は少し似ている程度。ゼートゥーアの「名前の元ネタ」としては有力だが、中身のモデルとまでは言い切れない。

ゼートゥーアの検証その2|仕事のそっくりさん、ヴィルヘルム・グレーナー

名前ではまったく似ていないのに、仕事ぶりと立ち位置がゼートゥーアにそっくりな将軍がいる。ヴィルヘルム・グレーナーだ。

ヴィルヘルム・グレーナーの肖像写真。
ヴィルヘルム・グレーナー。Bain News Service/米国議会図書館所蔵。

役割

グレーナーは、ドイツ参謀本部の鉄道部門で長く働き、1912年にその長になった。1914年の開戦では、数百万の兵士を鉄道で前線へ送り込む計画を動かし、評価を高めた。1916年には、戦争に必要な物資と経済を取りまとめる戦時庁の長官になっている。鉄道、輸送、物資、経済。軍が戦い続けるための裏方を一手に担った将軍だ。

これは、作中の戦務参謀次長ゼートゥーアの仕事そのものだ。原作でターニャと補給や戦争全体を語り合い、国力の限界を誰よりも冷静に見ているゼートゥーアの姿は、グレーナーの経歴と驚くほど重なる。

立ち位置

もう一つの重なりは、主流派とのぶつかり方だ。グレーナーは戦時庁で、企業の利益を抑え、労働組合を交渉相手として扱おうとして工場主たちの反感を買った。ドイツが本当に勝てるのかを疑ったことで、ヒンデンブルクやルーデンドルフともぶつかっていたとされる。そして1917年8月、中央から外されて前線の指揮へ回された。その後は、占領下のウクライナにいた軍集団の参謀長として、東方へ送られている。

作中のゼートゥーアも、頭が切れすぎて主流派とぶつかることが多い人物だ。原作では、連邦の資源地帯を狙う大攻勢に無謀だと反対したあと、参謀本部から東部へ「栄転」させられる。2期6話のあらすじに、ターニャたちが東部でゼートゥーアの救援を待つ場面が出てくるのは、この流れの先にある。中央で正しいことを言った専門家が、東へ回される。ここまで経歴が重なるのは、偶然とは思いにくい。

判定

名前は似ていないが、役割と立ち位置は、ゼークトよりグレーナーのほうがずっと近い。私はゼートゥーアを「名前はゼークト、中身はグレーナー」の合成として読むのが、いちばん腑に落ちると思っている。

※原作のネタバレ注意|史実の二人の関係に重ねると

原作小説の先の展開を読む

ここからは原作の先の展開に少し触れる。気にする人は次の見出しまで飛ばしてほしい。

史実では、1918年10月にルーデンドルフが解任されたあと、その後任の第一兵站総監に就いたのがグレーナーだった。作戦の実力者が去ったあと、補給と経済の専門家が、敗戦の後始末を含めた軍のかじ取りを引き継いだのだ。グレーナーは皇帝に退位を進言し、新しい政府と手を結んで軍を保つという、つらい役目を担うことになる。

日本語版ウィキペディアの原作設定によると、ゼートゥーアは物語の後半で、作戦と戦務を兼ねる参謀次長になる。ルーデルドルフの担っていた仕事まで、ゼートゥーアが背負うことになるわけだ。作戦の実力者のあとを、補給の専門家が継ぐ。この構図は、ルーデンドルフとグレーナーの関係にぴったり重なる。

ゼートゥーアとルーデルドルフを、ヒンデンブルクとルーデンドルフの名コンビになぞらえる見方もあると思う。ただ、作中の二人は同期の対等な仲間で、片方が飾りの上司という関係ではない。史実で同じ時期の参謀本部にいて、片方のあとをもう片方が継いだルーデンドルフとグレーナーのほうが、二人の関係の写し絵としては近い。これが、私がこの記事でいちばん伝えたかったことだ。

ほかの将軍たちのモデル

参謀本部の二人以外にも、名前から元ネタが分かる人物がいる。国ごとの元ネタは『幼女戦記の国とモデル一覧』で整理したので、ここでは人物だけ短くまとめておく。

作中の人物 似た史実の人物 似ているところ
ロメール(帝国、南方大陸派遣軍の軍団長) エルヴィン・ロンメル 名前、北アフリカにあたる南方大陸での戦い、上の受けが良くない若い将軍という人物像
ド・ルーゴ(共和国、自由共和国の指導者) シャルル・ド・ゴール 名前、本国を失ったあと植民地で抗戦を続ける筋書き
ロリヤ(連邦の秘密警察の長) ラヴレンチー・ベリヤ 名前、秘密警察を握るスターリンの側近という立場
レルゲン(帝国、参謀将校) はっきりした候補は見当たらない 常識的で有能な若手参謀という人物像

ロメールについては、ターニャがゼートゥーアと並んで理想の上司と見ている将軍だ。史実のロンメルについてはエルヴィン・ロンメル将軍とは何者かで書いた。第二次大戦のドイツの将軍たちをまとめて知りたいなら、第二次世界大戦ドイツ軍名将ランキングもどうぞ。

なぜモデルを「混ぜる」のか

ここまで見てきて、幼女戦記の将軍たちのモデルの扱い方には、一つの傾向があると思う。名前は史実からはっきり借りる。しかし中身は、一人の人物を写すのではなく、複数の人物や時代を混ぜている。

史実の三人と、作中の二人。名前と仕事の両方から比較する
似ている要素を分けて読むと、「一人の史実人物がそのままモデル」とは限らない。

これは、前の記事『幼女戦記の帝国はドイツがモデル?』で書いた、帝国そのものの作られ方と同じだ。帝国は、第一次大戦のドイツ帝国の体制のまま、第二次大戦の戦場で戦う。将軍たちも、名前で史実を思い出させながら、中身は作品の都合に合わせて組み替えられている。

だから、「ゼートゥーアのモデルはゼークトだ」と言い切るのも、「モデルはいない」と言い切るのも、どちらも少し足りない。名前の手がかりと、仕事の手がかりを分けて考えると、作者が史実のどこからどんな部品を持ってきたのかが見えてくる。それが、この作品の将軍たちを見るいちばん面白い方法だと思う。

幼女戦記と史実の将軍をもっと知るなら

2期はABEMAとdアニメストアが最速の配信先で、11月5日からはNetflixでの配信も始まる。配信の状況は時期によって変わるので、見る前に各サービスで確かめてほしい。今回の比較を頭に入れて2期の終盤を見直すと、ゼートゥーアとルーデルドルフの会話の一言一言が重く聞こえるはずだ。

漫画版は、ゼートゥーアとルーデルドルフが参謀本部で作戦を練る場面を、アニメよりじっくり読める。

ゼートゥーアとグレーナーが向き合った「補給」という問題を史実から知りたいなら、補給の歴史を描いた古典『補給戦』をすすめたい。鉄道で大軍を動かしたドイツ参謀本部の計算と、その限界が読める。

よくある質問

ゼートゥーアのモデルは誰?

作者が明言した資料は見つからなかった。名前はハンス・フォン・ゼークトに近い。一方、補給と輸送の専門家で、主流派とぶつかって東へ回されるという役割と経歴は、ヴィルヘルム・グレーナーにそっくりだ。二人を合わせたような人物と見るのが自然だと思う。

ルーデルドルフのモデルは誰?

名前、作戦を担う役割、総力戦や攻勢へのこだわりがそろうので、第一次大戦のドイツ軍を動かしたエーリヒ・ルーデンドルフと見るのが自然だ。ただし作者の明言はなく、結末も史実とは違う。

ゼートゥーアとルーデルドルフの関係は?

原作の設定では、二人は同期で、互いをよく知る仲だ。ゼートゥーアは戦務(補給・輸送)、ルーデルドルフは作戦を担う参謀次長として、参謀本部を支えている。

「恐るべきゼートゥーア」とは?

原作で、ゼートゥーアが後世にそう呼ばれることになると書かれている異名だ。どうしてそう呼ばれるのかは、原作の先の展開に関わる。

ロメールのモデルは?

名前と、南方大陸での戦いぶりから、北アフリカで戦ったドイツのエルヴィン・ロンメルが元ネタと見られる。

まとめ|名前は借りて、中身は混ぜる

幼女戦記の参謀本部を支える二人の将軍には、作者が明言したモデルは見当たらない。それでも、史実と照らし合わせると、はっきりした手がかりがある。

ルーデルドルフは、名前、作戦を担う役割、総力戦と攻勢へのこだわりがそろい、第一次大戦のルーデンドルフとよく重なる。ゼートゥーアは、名前と人柄はゼークトに近いが、補給の専門家として主流派とぶつかり東へ回される姿は、グレーナーそのものだ。そして史実では、ルーデンドルフのあとを継いだのがグレーナーだった。

名前は史実から借り、中身は複数の人物を混ぜて作る。幼女戦記の将軍たちは、帝国という国そのものと同じ作られ方をしている。

次は、ターニャの「中佐」がどれほど偉いのか、帝国軍の階級と役職を整理する。

最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。

出典・参考資料

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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