※2026年9月5日時点、『VIVANT』第2シーズン第16話までの内容に触れる。
『VIVANT』に登場するゴルバド共和国は実在するのか。結論から言えば、現実世界にゴルバド共和国という国家は存在しない。『VIVANT』第2シーズンのために用意された架空国家と考えてよい。
しかし、単純に「全部フィクション」で片付けると、この舞台設定の面白さを半分ほど見落とすことになる。作中のゴルバド共和国はアゼルバイジャンの隣国とされ、シルクロード、一帯一路、中国との経済関係といった現実の地政学が大量に組み込まれている。さらにTBSは、第2シーズンで実際にアゼルバイジャンにおける2か月超の大規模ロケを実施したと公表している。(TBS公式X、TBS・2025年10月キャスト発表)
私の見方では、ゴルバド共和国には「一つのモデル国」があるというより、アゼルバイジャンの地理と景観、南コーカサスの交易史、中国の一帯一路をめぐる現実の国際関係を重ね、その上に架空の主権国家を置いたと捉えるのが最も正確である。
| 項目 | 『VIVANT』の設定 | 現実との対応 |
|---|---|---|
| ゴルバド共和国 | アゼルバイジャンの隣国 | 実在しない |
| 位置 | カスピ海周辺 | 二次資料では現実のカスピ海に当たる付近と解説されている |
| ルモー地区 | シンシーの重要拠点が存在 | 架空 |
| シルクロード | かつて交易路として繁栄 | アゼルバイジャンには実際にシルクロード交易の歴史がある |
| 一帯一路 | 中国との結びつきを強める要因 | アゼルバイジャンも現実に一帯一路へ協力 |
| 中国からの巨額融資 | ゴルバドの対中関係を説明する設定 | 現実のアゼルバイジャンをそのまま描いたものとは言えない |
| 映像上のモデル候補 | 街並み、自然、文化 | アゼルバイジャンが最有力 |
| 「公式モデル国」 | 明示なし | アゼルバイジャンがモデルと公式認定された事実は確認できない |

ゴルバド共和国は実在しない|TBS公式では「アゼルバイジャンの隣国」
ゴルバド共和国が登場するのは、第2シーズン第14話以降である。
TBS公式Xは第14話放送後、野崎守が樊林杏とともに「アゼルバイジャンの隣国 ゴルバド共和国」にいることが判明したと説明している。したがって、少なくともドラマ内ではアゼルバイジャンとは別の独立国家として設定されている。(TBS公式X)
一方、現実のアゼルバイジャン外務省が示す国境を見ると、北にロシア、北西にジョージア、西にアルメニア、南にイランがあり、ナヒチェヴァン自治共和国を通じてトルコとも接している。そして東側にあるのは国家ではなくカスピ海である。ゴルバド共和国という隣国は存在しない。(アゼルバイジャン外務省)
つまり、
「ゴルバド共和国=アゼルバイジャンの別名」
ではない。
現実のアゼルバイジャンをゴルバドと呼び替えて撮影しているわけでもないのである。
『VIVANT』の世界では、現実のアゼルバイジャンを残したまま、その近くにもう一つの国家を追加している。この違いは、モデル国を考える上で非常に重要である。

ゴルバド共和国は地図のどこ?現実ではカスピ海に当たる
第14話の作中地図を解説した複数の二次資料によれば、ゴルバド共和国はアゼルバイジャンの東から南東側、現実のカスピ海に当たる付近に設定されている。ここでは放送映像を独自に照合した結果ではなく、放送後の解説に基づく位置関係として扱う。(作中地図・融資設定の解説、ロケTV・作中地図の解説)
ところが現実のアゼルバイジャン東岸にはカスピ海が広がっている。
カスピ海の沿岸国はアゼルバイジャン、ロシア、カザフスタン、トルクメニスタン、イランであり、ゴルバド共和国に相当する国土は存在しない。アゼルバイジャン政府の資料でも、同国のカスピ海沿岸が約955kmに及ぶことが示されている。(アゼルバイジャン公式ポータル)
ここがゴルバド共和国を理解する最大のポイントである。
制作側は、現実に存在する小国の名前だけを変更したのではなく、現実の地図そのものへ「存在しない国土」を挿入しているのである。
この方法には大きな利点がある。
アゼルバイジャン、カスピ海、ロシア、イラン、中央アジア、ヨーロッパという現実の位置関係をほぼそのまま利用しながら、国内政治、治安機関、外国情報機関の活動、秘密施設などについては完全な創作が可能になるからだ。
ゴルバド共和国は「地図にない国」というより、地図の現実味だけを借りて、そこへ架空の主権を一枚差し込んだ国なのである。
モデルはアゼルバイジャン?景観モデルとしては最有力だが断定はできない
ゴルバド共和国のモデルとして最も強く連想されるのがアゼルバイジャンである。
その最大の根拠は、単なる雰囲気の類似ではない。TBS自身が第2シーズンでアゼルバイジャンを重要ロケ地として選んでいるからである。
TBSは2025年10月の続編キャスト発表時点で、アゼルバイジャンにおいて「二ヶ月超に及ぶ大規模ロケ」を敢行中だと公表した。さらに、同国を選んだ理由について「親日国ということ以上」の意味があると予告し、「歴史と近代が融合するアゼルバイジャンの独特な世界観」を強調している。(TBS・2025年10月キャスト発表)
現地側の報道によれば、撮影は2025年8月から10月にかけて行われ、バクー、スムガイト、ギャンジャ、ナヒチェヴァン、シャマヒ、ガバラ、シェキ、グバなど複数地域が使用された。(Trend・現地撮影報道)
第1シーズンでは、モンゴルの実景を使って架空のバルカ共和国に説得力を持たせた。第2シーズンでは、それとよく似た手法をアゼルバイジャンで行っていると見ることができる。
ただし、ここで線を引く必要がある。
TBSが「ゴルバド共和国のモデル国はアゼルバイジャンである」と公式に明言した資料は、2026年9月5日時点では確認できない。
したがって、
「ゴルバド共和国のモデルはアゼルバイジャンで確定」
と書くのは強すぎる。
より正確なのは、「景観・地理・歴史を構成する主要な参照元として、アゼルバイジャンが極めて強く反映されている」とする表現である。
国家としてのゴルバドは架空だが、その国を実在しているように見せる皮膚の部分には、アゼルバイジャンがかなり使われているのである。
シルクロード国家という設定は現実のアゼルバイジャンとよく重なる
作中では、ゴルバド共和国がかつてシルクロードの通過国として栄えたと説明される。
これは架空国家に歴史らしさを与えるためだけに適当に付け加えられた設定ではない。
アゼルバイジャン自体がヨーロッパとアジアの接点にあり、東西交易路として長い歴史を持っている。
特に興味深いのが、第2シーズンの撮影地にも含まれたシェキである。
ユネスコ世界遺産「シェキ歴史地区とハーン宮殿」は、シェキがアジアとヨーロッパを結ぶ交易都市であり、シルクロードのルート上に位置していたことを公式に説明している。古くから養蚕と絹交易が盛んで、隊商宿、商店、倉庫などが形成された。(UNESCO・シェキ歴史地区)
『VIVANT』第16話では「シャキ城」という名称も物語上の重要地点として登場する。
実在のシェキと作中のシャキ城を同一視することはできない。公式にモデル関係が明言されているわけでもない。
それでも、実際の海外ロケ地に「Sheki」という歴史都市があり、その都市がシルクロード交易で繁栄していたという事実は興味深い。
架空国家の歴史を「かつてシルクロードで栄えた国」とし、その映像をシルクロードの実在都市を抱えるアゼルバイジャンで撮る。この組み合わせによって、ゴルバド共和国は地図には存在しないのに、どこかで聞いたことがある国のように感じられるのである。

中国の「一帯一路」に協力する設定はどこまで現実なのか
ゴルバド共和国でもう一つ重要なのが、中国との関係である。
第14話では、ゴルバド共和国が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に協力しており、インフラ整備などを通じて中国との関係を深めているという背景が示されている。(TVマガ・設定解説、作中地図・融資設定の解説)
この部分には、明確な現実の下敷きがある。
アゼルバイジャンと中国は2024年に戦略的パートナーシップを樹立し、2025年4月には関係を「包括的戦略的パートナーシップ」へ格上げした。
両国の共同声明では、一帯一路とアゼルバイジャン側の国家開発戦略を連携させること、交通インフラや物流を発展させること、中国―ヨーロッパ間の輸送を担うカスピ海横断ルートを強化することなどが明記されている。(アゼルバイジャン大統領府・共同声明、中国外交部・2025年首脳会談)
さらに2026年5月の中国外務省発表でも、中国とアゼルバイジャンが一帯一路を共同建設し、協力を深化させる方針が改めて確認されている。(中国外交部・2026年外相会談)
つまり、
「アゼルバイジャン周辺」 「シルクロード」 「中国」 「一帯一路」 「交通インフラ」
という組み合わせ自体は、ほとんどフィクションではない。
アゼルバイジャンはカスピ海を挟んで中央アジアと向き合い、さらにジョージアやトルコ方面へ抜ければヨーロッパにつながる。中国から中央アジア、カスピ海、南コーカサス、欧州へ貨物を送る「ミドル・コリドー」の要所でもある。
ゴルバド共和国が物語の舞台として妙にリアルなのは、架空の国を現実の物流地図のど真ん中へ置いたからである。
「中国から巨額融資を受けている国」はアゼルバイジャンそのものではない
一方で、ドラマ内設定と現実を混同してはいけない部分もある。
ゴルバド共和国は中国からインフラ整備などで巨額の融資を受け、中国の影響力が強く及んでいる国として描かれる。
この描写を、そのまま現実のアゼルバイジャンに当てはめるのは適切ではない。
IMFの2025年国別報告書に収録された当局側の声明によれば、2025年1月1日時点のアゼルバイジャンの公的債務はGDP比21.7%であり、そのうち対外債務はGDP比6.9%だった。ただし、この総額だけでは中国向け債務の内訳や政治的影響力までは判断できず、ドラマの巨額融資への依存を現実の国家へそのまま当てはめる根拠にはならない。(IMF掲載・アゼルバイジャン当局声明)
現実の中国・アゼルバイジャン関係で確認できるのは、交通、物流、再生可能エネルギー、デジタル経済、投資などを拡大する戦略的な協力である。
一方、
「中国資本への大きな依存」 「その関係を背景に外国情報組織が巨大な秘密拠点を構築する」
という部分は『VIVANT』の物語上の増幅と見るべきである。
ここを分けないと、「ゴルバド=アゼルバイジャン」「現実のアゼルバイジャンも中国の債務依存国」と誤読してしまう。
『VIVANT』は現実の外交関係の方向性を借りているが、その強度までコピーしているわけではないのである。
なぜ実在国ではなくゴルバド共和国を作ったのか
ここからは確認済み事実ではなく、以上の材料から導ける考察である。
私は、ゴルバド共和国という架空国家を作った最大の理由は、「現実の地政学を使いながら、現実の国家には背負わせにくい役割を持たせるため」だと考えている。
仮にシンシーの巨大拠点を実在するアゼルバイジャン国内に設定した場合、作品上のフィクションとはいえ、「外国情報機関の活動を事実上容認している国」という極めて具体的な政治的意味が生じる。
まして、外国人の拘束、秘密施設、監視網、諜報機関の活動といった設定まで加われば、実在国をそのまま舞台にする制約は大きくなる。
架空国家なら、この問題を回避できる。
同時に、完全な架空世界にしてしまうと『VIVANT』特有の「もしかすると本当にありそうだ」という感覚が失われる。
そこで、
現実のアゼルバイジャンを置く。
現実のカスピ海を置く。
現実の中国と一帯一路を置く。
その間に、ゴルバド共和国だけを追加する。
この設計なら、視聴者は実在する国際情勢を足場にしながら、存在しない国の諜報戦へ入っていける。
第1シーズンのバルカ共和国も、実在するモンゴルの景観を使いながら架空国家を作り上げた。第2シーズンのゴルバド共和国は、その手法をさらに一歩進め、現実の「景色」だけではなく「外交関係と物流網」まで借りているように見える。
ゴルバド共和国の地政学が『VIVANT』第2シーズンに向いている理由
ゴルバド共和国が置かれた南コーカサスとカスピ海周辺は、そもそも情報戦を描く舞台として非常に使いやすい。
北にはロシアがある。
南にはイランがある。
西へ向かえばジョージア、トルコ、ヨーロッパへつながる。
東へカスピ海を渡れば中央アジアであり、その先には中国がある。
しかも現実のアゼルバイジャンはエネルギー輸送と東西物流の要衝でもある。
つまりこの地域は、単なる「異国情緒のある場所」ではない。
ロシア圏、中東、トルコ圏、中央アジア、中国、ヨーロッパが接する地点なのである。
『VIVANT』第1シーズンのバルカ共和国では、広大な砂漠や国境を越える逃走劇が物語の物理的制約になっていた。
ゴルバド共和国では、別の制約が前面に出ている。
通信網、監視カメラ、民間企業を装った施設、国外の情報機関、国境を越える資金と人間、輸送ルートである。
舞台が砂漠からカスピ海周辺へ移ったことで、物語そのものも「追跡と逃走」から「国家と国家の情報網がぶつかる場所」へ変わった。
この点で、アゼルバイジャン周辺という選択は映像映え以上の意味を持っている。

結局、ゴルバド共和国のモデルはどこなのか
現時点で最も妥当な結論は、「アゼルバイジャンを中心に複数の現実要素を組み合わせた架空国家」である。
史料から強く言えるのは、ゴルバド共和国自体は現実の地図に存在せず、作中ではアゼルバイジャンとは別の隣国として扱われていること、そして第2シーズンがアゼルバイジャンで大規模撮影されたことである。(TBS公式X、TBS・2025年10月キャスト発表)
また、シルクロード交易、一帯一路、中国との関係、カスピ海を介した東西物流という背景は、現実のアゼルバイジャンと驚くほどよく一致する。(UNESCO・シェキ歴史地区、アゼルバイジャン大統領府・共同声明)
その一方、中国からの巨額融資への依存やシンシーの秘密拠点などは、現実のアゼルバイジャンを直接描写した事実ではない。
したがって私なら、
「景観モデルはアゼルバイジャン、地政学モデルは南コーカサスと一帯一路、国家そのものは創作」
と整理する。
単純にアゼルバイジャンの国名だけを変えたのではない。
現実の世界地図をほとんど崩さず、物語に必要な国家だけを一つ増やした。それがゴルバド共和国の正体である。
まとめ
『VIVANT』のゴルバド共和国は実在しない。作中ではアゼルバイジャンの隣国として設定されているが、現実のアゼルバイジャン東側にはカスピ海が広がっており、同名の国家も国土も存在しない。
一方で、その背景に使われている材料はかなり現実的である。第2シーズンは実際にアゼルバイジャンで大規模撮影され、同国にはシルクロード交易の歴史がある。現在も中国との一帯一路協力やカスピ海横断物流が進められている。
ただし、中国への巨額債務依存やシンシーの拠点まで現実のアゼルバイジャンと重ねるのは誤りである。
ゴルバド共和国は、アゼルバイジャンをそのまま架空化した国ではない。
現実の南コーカサスという舞台装置に、中国・欧州・中央アジアを結ぶ現実の地政学を載せ、最後に『VIVANT』だけの国家を一つ置いたのである。
主な確認資料
- TBSテレビ 日曜劇場『VIVANT』公式サイト
- TBSテレビ『VIVANT』第14話あらすじ
- TBS公式X「アゼルバイジャンの隣国 ゴルバド共和国」投稿
- TBS『VIVANT』公式お知らせ・アゼルバイジャン大規模ロケ発表
- アゼルバイジャン外務省 General Information
- UNESCO「シェキ歴史地区とハーン宮殿」
- アゼルバイジャン大統領府「中国との包括的戦略的パートナーシップ共同声明」
- 中国外交部「2025年4月・習近平とアリエフの会談」
- 中国外交部「2026年5月・王毅とバイラモフの会談」
- IMF「アゼルバイジャン2025年国別報告書」
※ゴルバド共和国の作中地図、一帯一路・巨額融資など第14話内で示された個別設定については、TBS公式あらすじに台詞全文が掲載されていないため、複数の放送後の二次資料を照合した。放送映像そのものを独自に検証したという意味ではない。公式資料で確認できる事実と、モデルに関する考察は本文中で分離している。
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