
M110A1 CSASSとは、ドイツのH&Kが開発したHK417・G28系統を基礎に、米陸軍の狙撃手向けとして小型化と取り回しを重視した7.62mm半自動狙撃銃である。名称だけを見ると、ナイツ・アーマメント製M110 SASSを少し改修した銃に思える。しかし、メーカーも設計系統も異なり、実態はG28を米陸軍仕様へ仕立て直した別系統のライフルだ。
さらに話を難しくするのが、同じM110A1という名称で分隊選抜射手向けのSDMRも配備された点である。CSASSとSDMRは同じ銃を違う呼び方で表したものではない。母体は近いが、照準器、任務、射手、想定交戦距離が異なる。
- M110A1 CSASSとは、ドイツのH&Kが開発したHK417・G28系統を基礎に、米陸軍の狙撃手向けとして小型化と取り回しを重視した7.62mm半自動狙撃銃である
- 名称だけを見ると、ナイツ・アーマメント製M110 SASSを少し改修した銃に思える
- しかし、メーカーも設計系統も異なり、実態はG28を米陸軍仕様へ仕立て直した別系統のライフルだ
- さらに話を難しくするのが、同じM110A1という名称で分隊選抜射手向けのSDMRも配備された点である
この記事では、M110A1 CSASSの系譜、公開されている性能、米陸軍が採用した理由、旧M110 SASSとの違い、M110A1 SDMRとの関係を整理する。結論を先に置けば、M110A1の核心は最大射程の更新ではない。狙撃手が車両、路地、階段、屋上を移動する一連の行動へ、7.62mm級の精度を持ち込んだことにある。

M110A1 CSASSとは何か
- CSASSはCompact Semi-Automatic Sniper Systemの略で、日本語では「小型半自動狙撃システム」といった意味になる
- 米陸軍は2016年4月、H&K Defenseに最大3,643挺、上限4,450万ドルの契約を与えた
- H&K側は、この銃をドイツ軍向けG28の軽量型と説明している
- ここで重要なのは、M110A1が単体の銃だけを指す名称ではない点だ
名前がややこしい。
CSASSはCompact Semi-Automatic Sniper Systemの略で、日本語では「小型半自動狙撃システム」といった意味になる。米陸軍は2016年4月、H&K Defenseに最大3,643挺、上限4,450万ドルの契約を与えた。H&K側は、この銃をドイツ軍向けG28の軽量型と説明している。[1]
ここで重要なのは、M110A1が単体の銃だけを指す名称ではない点だ。狙撃銃本体、照準器、サプレッサー、バイポッド、弾薬、携行・整備用品を組み合わせて初めて「狙撃システム」になる。CSASSという要求名にも、その考え方が表れている。
米陸軍が求めたのは、7.62×51mm NATO弾を使う半自動狙撃銃の火力を保ちながら、従来のM110 SASSより短く、軽く、狭い場所で扱いやすい装備だった。空挺降下、車両からの展開、市街地での移動を考えれば、銃身長やカタログ上の命中精度だけで採否を決められない。[2]
私がまず注目するのは、CSASSの頭文字に「Compact」が置かれたことだ。米陸軍は新しい弾薬や極端な長射程より先に、狙撃手が長銃身の装備を抱えて動く不便を問題にした。これは地味に見えるが、要求の重心をよく示している。
M110A1はHK417系統だが、市販HK417をそのまま米軍へ納入した銃ではない。HK417から精密射撃用G28が生まれ、そこから米陸軍の要求に合わせて軽量化、短縮、装備統合を進めたものと捉えるのが正確である。
詳しくはHK417の作動方式と派生型を詳しく見るを参照したい。
HK417からG28、M110A1へ続く系譜
- HK417は、5.56mmのHK416を拡大し、7.62×51mm NATO弾へ対応させたライフルである
- H&K公式資料では、ショートストローク式のガスピストンとロータリーボルトを採用し、10発または20発弾倉を使用する
- 銃身長には複数の選択肢があり、歩兵用ライフルから精密射撃用まで展開できる設計だ
- G28は、そのHK417系をドイツ連邦軍の選抜射手・精密射撃用途へ発展させたモデルである
系譜は一本だ。HK417は、5.56mmのHK416を拡大し、7.62×51mm NATO弾へ対応させたライフルである。H&K公式資料では、ショートストローク式のガスピストンとロータリーボルトを採用し、10発または20発弾倉を使用する。銃身長には複数の選択肢があり、歩兵用ライフルから精密射撃用まで展開できる設計だ。[3]
G28は、そのHK417系をドイツ連邦軍の選抜射手・精密射撃用途へ発展させたモデルである。H&KはG28について、7.62×51mm弾、10発または20発弾倉、半自動作動、最大800m級の有効射程を公表している。精密弾を使った100m・10発射撃では、再現可能な精度として最大1.5MOAを示す。[4]
1.5MOAは、100mでおよそ4.4cmの範囲に相当する。一発だけの最良値を示す数字ではない。10発のまとまりを基準にしたメーカー公表値である点が大切だ。もっとも、この数値はG28系の説明であり、米陸軍M110A1 CSASSの全個体に同じ試験条件と合格基準が適用されたと断定する資料ではない。
M110A1は、このG28を土台として米陸軍向けに再構成された。外観や基本作動はG28と近いが、米軍の照準器、サプレッサー、アクセサリー、運用要求へ合わせた一式として採用されている。米陸軍が後に分隊選抜射手用SDMRへ同じ基礎設計を利用したため、「M110A1」という名称が二つの役割をまたぐことになった。
私の見方では、HK417、G28、M110A1を別々の銃として暗記するより、「汎用7.62mmライフルを精密射撃へ寄せ、さらに米軍の携行性要求へ絞り込んだ流れ」と見る方が理解しやすい。三者の違いは血統を断ち切るものではない。任務に合わせた枝分かれである。

米陸軍がCSASSを必要とした理由
- ナイツ・アーマメント製M110 SASSは、7.62mm半自動狙撃銃として米軍の狙撃手に連続射撃能力を与えた
- メーカー資料に示される輸出仕様では、20インチ銃身、20発弾倉、サプレッサー、二段階式トリガー、フリーフロート銃身を備える
- 一方、長い銃身と固定的な全長は、建物内、車両内、航空機内、降下装備との併用で負担になる
- 米陸軍の運用試験部隊は、従来の狙撃システムが20インチ銃身、サプレッサー、フルサイズのストックを組み合わせるため、都市部や装甲車両内で扱いにくいと説明した
要求は明快だった。ナイツ・アーマメント製M110 SASSは、7.62mm半自動狙撃銃として米軍の狙撃手に連続射撃能力を与えた。メーカー資料に示される輸出仕様では、20インチ銃身、20発弾倉、サプレッサー、二段階式トリガー、フリーフロート銃身を備える。[5]
一方、長い銃身と固定的な全長は、建物内、車両内、航空機内、降下装備との併用で負担になる。米陸軍の運用試験部隊は、従来の狙撃システムが20インチ銃身、サプレッサー、フルサイズのストックを組み合わせるため、都市部や装甲車両内で扱いにくいと説明した。CSASSでは全長を抑え、調整式ストックを使い、狭い場所でも安定した射撃姿勢へ入りやすくすることが狙われた。[2]
空挺部隊による試験では、静的索降下と軍用自由降下の後に照準器のゼロが維持されるかも確認された。狙撃銃は射場で小さな集弾を作れば終わりではない。降下の衝撃、携行、展開を経た後も、照準と着弾の関係を保たなければならない。
短さは性能だ。
狙撃銃の評価では、長い銃身、高倍率照準器、遠距離の命中率が目立つ。だが、実戦で射手が銃を構えるまでには、車両から降り、扉を抜け、階段を上り、観測位置へ入る工程がある。M110A1の価値は射程表の右端ではなく、その移動全体に精度を持ち込んだ点にある。私はここに、従来型M110からの最大の変化を見る。
半自動方式も要求と噛み合う。ボルトアクション狙撃銃に比べて次弾を素早く撃てるため、標的を外した場合の修正、複数目標への対応、味方部隊への精密な援護に向く。サプレッサーとマズルブレーキの組み合わせは、発射位置の露見を抑え、反動を軽減し、次弾の照準復帰を助ける目的で導入された。[6]
M110A1 CSASSの性能と公開スペック
- M110A1 CSASSの正確な構成は、配備時期や契約、照準器、付属品によって差がある
- 米陸軍が現在公開するM110A1の詳細値は、主に分隊選抜射手用SDMRのポートフォリオに基づく
- 銃本体の基礎を読む参考にはなるが、CSASSの高倍率照準器を含む一式重量と同じではない
- 7.62×51mm弾を使う意味 M110A1は7.62×51mm NATO弾を使用する
数字には条件がある。
M110A1 CSASSの正確な構成は、配備時期や契約、照準器、付属品によって差がある。米陸軍が現在公開するM110A1の詳細値は、主に分隊選抜射手用SDMRのポートフォリオに基づく。銃本体の基礎を読む参考にはなるが、CSASSの高倍率照準器を含む一式重量と同じではない。[7]
| 項目 | 公開内容 | 読み方 |
|---|---|---|
| 口径 | 7.62×51mm NATO | 米陸軍資料ではM118LR精密弾を記載 |
| 作動方式 | 半自動、ショートストローク・ガスピストン | ロータリーボルトで閉鎖するHK417系 |
| 弾倉 | 10発または20発 | 任務や姿勢により使い分けられる |
| 銃身長 | 16.3インチ、約41.4cm | 現行M110A1 SDMR公式値 |
| 全長 | 40.12インチ、約101.9cm | サプレッサー込みのSDMR公式値 |
| 重量 | 9.15ポンド、約4.15kg | 弾倉・照準器・サプレッサーなし |
| システム重量 | 14ポンド、約6.35kg | 20発弾倉・照準器・サプレッサー込みのSDMR値 |
| 公式任務射程 | 600m | 米陸軍が分隊用M110A1に示す基準 |
| G28系の最大有効射程 | 最大800m | H&K公表値。弾薬・射手・環境に左右される |
7.62×51mm弾を使う意味
M110A1は7.62×51mm NATO弾を使用する。米陸軍の現行資料は、精密射撃用としてM118LRを挙げている。[7] 5.56mm弾より弾頭が重く、遠距離で速度とエネルギーを残しやすいため、風の影響を抑えながら300〜600m級の目標へ精密射撃を行う用途に適する。
代償もある。弾薬一発が重く、同じ重量で携行できる発数は減る。銃本体、照準器、サプレッサーを含めれば、5.56mmカービンより明確に重い。M110A1は分隊の全員へ配る小銃ではない。長い射程と識別能力を必要とする射手へ割り当てる装備である。
ショートストローク・ガスピストン
作動方式はHK417系に共通するショートストローク・ガスピストン式である。発射ガスの力をピストンへ伝え、ボルトキャリアを後退させる。H&KはHK417について、サプレッサー使用に合わせてガス調整ができる構成も示している。[3]
この方式だけで命中精度や信頼性が自動的に決まるわけではない。銃身、弾薬、トリガー、照準器、取り付け剛性、整備状態が一体となって性能を作る。私は「ピストン式だから高性能」と一語で片付ける説明には慎重である。M110A1の評価点は作動方式単独ではなく、サプレッサー常用を前提に全体をまとめた設計にある。
16.3インチ銃身と取り回し
現行M110A1 SDMRの公式値では、銃身長は16.3インチである。[7] 旧M110 SASSのメーカー資料にある20インチより短く、サプレッサーを装着した状態でも全長を抑えやすい。調整式ストックと合わせ、射手の体格、防弾装備、姿勢へ合わせやすくなった。
銃身を短くすれば、一般に弾速は下がる。遠距離では弾道落下と風偏差への影響が増えやすい。それでも米陸軍が短縮を選んだのは、射程だけを最大化するより、600m級の精度と携行性の均衡を優先したからだと読める。
600mか800mか
ここは混同されやすい。
米陸軍の現行ポートフォリオは、M110A1 SDMRの任務射程を600mとしている。[7] 一方、H&KはG28の最大有効射程を800mまでと公表し、米陸軍・州兵の訓練記事にも800m級の射撃への言及がある。[4][8]
二つの数字は矛盾しない。600mは部隊が装備へ期待する標準的な任務範囲、800mは条件が整った場合にG28系が届き得る上限側の目安と考えればよい。射手の技量、使用弾、気温、標高、風、目標の大きさ、照準器で結果は変わる。
射程を一本の数字で決めると、装備の役割を誤る。M110A1は800m先へ弾を飛ばせるかどうかだけで評価する銃ではない。米陸軍が埋めたかったのは、主に標準小銃と本格的な狙撃システムの間に残った300〜600mの空白だった。[6][9]

M110A1 CSASSとM110A1 SDMRの違い
- M110A1 CSASSとM110A1 SDMRは、同じG28E系の基礎設計を共有する
- 見た目も名称も近いため混同されるが、配る相手と任務が異なる
- CSASSは狙撃手向けである
- 高倍率の昼間照準器を使い、遠距離の監視、目標識別、精密射撃を担う
役割が違う。M110A1 CSASSとM110A1 SDMRは、同じG28E系の基礎設計を共有する。見た目も名称も近いため混同されるが、配る相手と任務が異なる。
CSASSは狙撃手向けである。高倍率の昼間照準器を使い、遠距離の監視、目標識別、精密射撃を担う。米陸軍はCSASSについて、従来のM110と同じ弾薬を使いながら、小型化、軽量化、反動低減、命中確率の向上を狙ったと説明した。[6]
SDMRは歩兵、偵察、工兵などの分隊へ配る選抜射手向けである。現行公式構成はSIG SAUER TANGO6T 1〜6倍照準器を装着し、分隊の標準小銃では難しい300〜600mの射撃を補う。[7][9]
| 比較項目 | M110A1 CSASS | M110A1 SDMR |
|---|---|---|
| 主な使用者 | 狙撃手 | 分隊選抜射手 |
| 中心任務 | 監視、目標識別、精密狙撃 | 分隊火力の射程延伸 |
| 照準器 | 高倍率昼間照準器を中心とする構成 | TANGO6T 1〜6倍 |
| 想定距離 | 遠距離精密射撃を重視 | 主に300〜600mの空白を補完 |
| 部隊内の位置 | 狙撃チームの専門装備 | 歩兵分隊などに一挺規模で付加 |
| 基礎設計 | G28E系 | G28E-110 CSASSを基礎に派生 |
SDMRは単なる「低倍率版CSASS」でもない。米陸軍資料では、ストックや銃身のツイストなどにも差があると説明されている。[6] 同じ母体を使いながら、CSASSは専門狙撃、SDMRは分隊支援へ重心を移した。
私なら両者を、同じ車体に違う砲塔を載せた装備に近いものとして捉える。基礎部品が共通でも、見える範囲、交戦判断、部隊内での責任は変わる。名称より照準器と配備先を見る方が、役割を早く判別できる。
M110 SASSとM110A1 CSASSの違い
- M110 SASSはナイツ・アーマメント製、M110A1 CSASSはH&K製である
- 「A1」が付くため同じ銃の小改修型に見えるが、AR系7.62mm半自動狙撃銃という大枠を共有するだけで、設計系統は別だ
- KACが公表するM110 SASS輸出仕様は、20インチ銃身、全長46.75インチ、20発弾倉、サプレッサーを備える
- 表示重量は弾倉なしで13.84ポンドだが、照準器や付属品の条件がM110A1の陸軍公表値と一致しないため、単純な重量差として引き算はできない
短さが武器だ。M110 SASSはナイツ・アーマメント製、M110A1 CSASSはH&K製である。「A1」が付くため同じ銃の小改修型に見えるが、AR系7.62mm半自動狙撃銃という大枠を共有するだけで、設計系統は別だ。
KACが公表するM110 SASS輸出仕様は、20インチ銃身、全長46.75インチ、20発弾倉、サプレッサーを備える。表示重量は弾倉なしで13.84ポンドだが、照準器や付属品の条件がM110A1の陸軍公表値と一致しないため、単純な重量差として引き算はできない。[5]
| 比較項目 | M110 SASS | M110A1 CSASS |
|---|---|---|
| メーカー | Knight’s Armament Company | Heckler & Koch Defense |
| 系統 | SR-25系 | HK417・G28系 |
| 公開銃身長 | 20インチ | 16.3インチ級のM110A1系 |
| 設計の重心 | 半自動狙撃能力と精度 | 精度を保ちながら小型化・携行性を改善 |
| ストック | 従来型の長い構成 | 調整範囲の大きい短縮型構成 |
| サプレッサー | システムに含む | より短い全長での常用を重視 |
M110A1の採用理由は、M110が命中しないからではない。旧システムは精度と連続射撃能力を備えていたが、長さと重量が運用上の制約になった。そこで米陸軍は、同じ7.62mm級の精密火力を、より小さい包みに収め直した。
なお、M110A1が登場した後も、M110系統が米軍から一斉に消えたわけではない。KACはM110ファミリーが米軍各軍種のプログラムに残ると説明している。[10] 装備更新は、旧型を一日で全廃して新型へ置き換える単純な交代ではない。

M110A1 CSASSの強み
- 第一は、7.62mm半自動狙撃銃としての精度と連射性である
- G28系の1.5MOA級という公表精度、M118LRのような精密弾、二脚、高倍率照準器を組み合わせ、観測から射撃、次弾の修正までを一つのシステムで行える
- 16.3インチ級の銃身、調整式ストック、サプレッサー込みで全長を抑えた構成は、車両や建物内で扱いやすい
- 空挺部隊の試験が示すように、運搬後のゼロ保持まで含めて評価されている
強みは均衡にある。第一は、7.62mm半自動狙撃銃としての精度と連射性である。G28系の1.5MOA級という公表精度、M118LRのような精密弾、二脚、高倍率照準器を組み合わせ、観測から射撃、次弾の修正までを一つのシステムで行える。[4][7]
第二は携行性だ。16.3インチ級の銃身、調整式ストック、サプレッサー込みで全長を抑えた構成は、車両や建物内で扱いやすい。空挺部隊の試験が示すように、運搬後のゼロ保持まで含めて評価されている。[2]
第三は、HK417・G28系の成熟した設計を利用した点である。完全な新規銃をゼロから作るより、既存の7.62mmプラットフォームを基礎に米軍仕様へ適合させる方が、開発リスクを抑えやすい。H&Kはドイツ軍向けG28で得た経験を、米陸軍向け軽量型へつないだ。[1]
第四は、狙撃手用と分隊用の二つの役割へ同じ基礎設計を広げたことだ。照準器や細部は異なるものの、教育、整備、部品、操作体系で共通化できる余地がある。完全共通ではないが、別々の銃を一から抱えるより運用上の利点が生まれる。
私が評価するのは、M110A1が「最長射程の王者」を狙わなかった点である。600m級の実用範囲、サプレッサー、半自動、短い全長を一つにまとめた。派手な単一性能より、部隊が毎日使う場面を優先した銃だ。
M110A1 CSASSの弱点と限界
- 最大の弱点は重量である
- 現行SDMRの公式値でも、20発弾倉、照準器、サプレッサーを含むシステム重量は約6.35kgに達する
- CSASSでは高倍率照準器など構成が異なるため単純比較はできないが、5.56mm小銃より重いことは変わらない
- 射手は銃だけでなく、予備弾倉、観測機材、通信機材も運ぶ
万能ではない。最大の弱点は重量である。現行SDMRの公式値でも、20発弾倉、照準器、サプレッサーを含むシステム重量は約6.35kgに達する。[7] CSASSでは高倍率照準器など構成が異なるため単純比較はできないが、5.56mm小銃より重いことは変わらない。射手は銃だけでなく、予備弾倉、観測機材、通信機材も運ぶ。
7.62mm弾の携行負担も大きい。遠距離性能と引き換えに、一人が持てる弾数は減る。近距離で大量の火力を必要とする場面では、M4系カービンの軽さと弾数が有利になる。M110A1は標準小銃を置き換える装備ではない。
短銃身化には弾速低下という代償がある。20インチ級より16.3インチ級の方が取り回しは良いが、遠距離での弾道余裕は小さくなる。米陸軍はその不利を受け入れ、600m級の任務と携行性を優先した。ここにCSASSの性格が最もよく表れる。
また、名称の混乱は資料を読む際の実害になる。M110A1という語だけでは、CSASSかSDMRか、どの照準器を装着した構成か判断できない。重量、全長、射程を引用するときは、どの仕様の数字かを確認する必要がある。
最後に、半自動狙撃銃はボルトアクション銃の全領域を置き換えない。より大口径の弾薬、極端な長射程、特殊な任務では別の狙撃システムが必要になる。M110A1が得意なのは、歩兵戦闘に近い距離で、観測と素早い精密射撃を両立する領域である。
答えは分かれる。名称が近くても、質問ごとに基準を切り替える必要がある。
よくある質問
M110A1 CSASSはHK417そのものか
HK417そのものではなく、HK417を精密射撃用に発展させたG28系を基礎とする米陸軍仕様である。基本作動や口径は近いが、照準器、サプレッサー、ストック、アクセサリー、受入要求を含むシステムとして別物だ。[1][3][4]
M110A1はM110 SASSの改修型か
改修型ではない。M110 SASSはKAC製SR-25系、M110A1はH&K製HK417・G28系で、メーカーと設計系統が異なる。名称上は後継関係を示すが、同じ本体へ部品を追加した「A1改修」と考えると誤る。
CSASSとSDMRは同じ銃か
基礎設計は共通するが、任務と構成が異なる。CSASSは狙撃手向けで高倍率照準器を中心に構成され、SDMRは分隊選抜射手向けで1〜6倍TANGO6Tを用い、300〜600mの火力を補う。[6][7][9]
有効射程は600mか800mか
米陸軍が現行M110A1 SDMRへ示す任務射程は600mである。H&KはG28系の最大有効射程を800mまでとしており、訓練でも800m級への言及がある。600mを標準的な任務範囲、800mを条件次第の上限側と見るのが妥当だ。[4][7][8]
M110A1 CSASSはフルオート射撃できるか
狙撃用途のG28・M110A1系は半自動射撃を基本とする。引き金を一度引くごとに一発を発射し、作動機構が次弾を自動装填する。精密射撃と素早い追撃の両立が目的である。[4]
旧M110はすべてM110A1へ置き換えられたか
一斉に全廃されたわけではない。新旧装備は配備先、予算、整備、任務に応じて併存する。KACもM110ファミリーが米軍内の複数プログラムに残ると説明している。[10]
まとめ|M110A1は「短くした狙撃銃」以上の存在
評価軸は射程だけではない。
M110A1 CSASSは、HK417からG28へ続く7.62mmガスピストン式ライフルの系譜を、米陸軍の狙撃手向けに小型化した半自動狙撃システムである。2016年の契約では最大3,643挺が対象となり、従来のM110 SASSより小さく、軽く、狭い場所で扱いやすい装備が求められた。[1]
基本性能は7.62×51mm弾、10発・20発弾倉、半自動、ショートストローク・ガスピストン、16.3インチ級銃身で整理できる。現行M110A1 SDMRの公式任務射程は600m、母体となったG28系の最大有効射程は800m級であり、両者は用途と条件の異なる数字だ。[4][7]
CSASSとSDMRは同じM110A1の名称を使うが、前者は狙撃手、後者は分隊選抜射手を中心に運用される。高倍率照準器で監視と精密射撃を担うCSASSに対し、SDMRは1〜6倍照準器で300〜600mの火力不足を埋める。[6][7][9]
旧M110との違いも、単純な命中精度の優劣ではない。M110A1は20インチ級の長い狙撃銃を16.3インチ級へ縮め、調整式ストックとサプレッサーを組み合わせ、車両、市街地、空挺運用へ適応させた。長距離射撃の道具を、移動する狙撃手の道具へ作り直したのである。
M110A1の本質は、遠くへ撃てることより、必要な場所まで持って行きやすく、到着後すぐに精密火力を出せることにある。最大射程の数字だけでは見えない、その「移動と射撃の連続性」こそがCSASS採用の答えだ。
詳しくは世界の軍用小銃・狙撃銃を体系的に見るを参照したい。
参考資料
以下は公式資料を中心に整理した。確認の軸は一次資料だ。
[1] Heckler & Koch USA, “Heckler & Koch to Produce New Army Sniper Rifle”, 2016年4月6日。
[2] U.S. Army Operational Test Command, “82nd Airborne snipers jump, testing new Compact Sniper rifle system”, 2019年10月8日。
[3] Heckler & Koch, “HK417” 公式製品資料。
[4] Heckler & Koch, “G28” 公式製品資料。
[5] Knight’s Armament Company, “M110 SASS Export Version” 公式データシート。
[6] U.S. Army, “Army to field Squad Designated Marksman Rifle in September”, 2018年6月6日。
[7] U.S. Army, Capability Program Executive Ground, “M110A1 Squad Designated Marksman Rifle” 公式ポートフォリオ。
[8] Virginia National Guard, “116th IBCT Soldiers train on new M110A1 Squad Designated Marksman Rifle”, 2021年8月2日。
[9] U.S. Army, “Raiders field new Squad Designated Marksman Rifle”, 2020年6月10日。
[10] Knight’s Armament Company, “M110” 公式製品・プログラム情報。
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