20式小銃とは、豊和工業が開発し、2019年12月にドイツのHK416、ベルギーのFN SCAR-Lという世界的な名銃2挺を退けて選定された、陸上自衛隊の次期制式小銃だ。正式名称は「20式5.56mm小銃」、開発時の呼称は「HOWA 5.56」。89式小銃の後継として、2021年度から部隊配備が始まり、2025年度には航空自衛隊の旧式64式小銃の更新にも充てられるなど、自衛隊全体への波及が進んでいる。
前回の記事では、この銃を89式との比較という切り口で扱った。今回は視点を変え、20式そのものの物語——なぜ世界的な名銃を退けて国産が選ばれたのか、その選定プロセスの舞台裏、そして配備開始から現在までの調達の歩みを、正面から掘り下げていく。
- 20式小銃の基本性能と89式からの進化点がわかる
- HK416・SCAR-Lを退けて国産小銃が選ばれた理由を整理できる
- 水陸機動団から陸海空へ広がる配備状況を追える
- 豊和工業、防衛産業、エアガン情報まで一気に確認できる

20式小銃の基本スペック

- 20式小銃は、89式小銃の後継として選定された国産5.56mm小銃である
- ショートストロークガスピストン式、伸縮式ストック、レールシステムを備える
- 水陸機動団など、島しょ防衛や現代的な装備運用を意識した設計と見られる
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 20式5.56mm小銃(開発名:HOWA 5.56) |
| 製造 | 豊和工業 |
| 口径 | 5.56×45mm NATO |
| 作動方式 | ショートストロークガスピストン式 |
| 全長 | 783〜854mm(伸縮式ストック) |
| 銃身長 | 330mm |
| 装弾数 | 30発(STANAGマガジン互換) |
| 弾倉 | MAGPUL製(残弾確認窓付き) |
| 部隊使用承認 | 2020年(令和2年) |
| 計画調達数 | 約15万丁 |
| 事業総額 | 439億円 |
作動方式に注目してほしい。89式から続くショートストロークガスピストン方式を踏襲しながら、ハンドガードの造形はHK416を思わせる4面レール、ストックの形状はFN SCARに近いと評されるなど、複数の先進的小銃のいいところを吸収したような外観を持つ。海外メディアからは、SCARやCZ 805 BREN、HK433といった同世代の欧州製小銃とよく比較される。ただし内部構造はブッシュマスターACRに近いとする分析もあり、豊和工業が長年培った89式のノウハウを土台にしていることは間違いない。
選定の舞台裏|HK416・SCAR-Lを退けた28万円の攻防

- HOWA 5.56、HK416A5、FN SCAR-Lはいずれも実用性能の要求を満たした
- 最終的な差は、後方支援と経費の評価で生まれた
- 国内メーカーで整備・補給を回せることは、長期運用では大きな強みになる
ここで重要なのは、20式がHK416やSCAR-Lを「単純な射撃性能だけで圧倒した」という話ではないことだ。評価試験では、候補3機種がいずれも実用性能の要求を満たしたうえで、長期運用に必要な整備性、補給のしやすさ、国内で継続的に面倒を見られるか、そして調達コストまで含めて比較された。小銃は一度選べば何十年も使う装備なので、採用時点の性能だけでなく、部品供給や修理体制まで含めた総合点がものを言う。
その意味で20式の勝利は、派手なスペック競争というより、国産装備らしい堅実な勝ち方だった。現場で壊れたときに直せるか、弾倉や付属品を安定してそろえられるか、教育体系に組み込めるか、今後の改良を国内で積み上げられるか。こうした地味な条件はカタログ上では目立たないが、自衛隊全体へ約15万挺規模で行き渡らせる装備では、むしろ決定的な意味を持つ。
20式誕生の物語は、2014年8月にさかのぼる。陸上自衛隊が89式の後継となる新型小銃の検討を始めたと報じられたのがこの時期だ。当初の候補にはH&K G36、HK416、シュタイヤーAUG、FN SCARといった外国製小銃が挙がる一方、国産の新規開発も模索されていた。
2015年、防衛省は試験用に各種外国製小銃を調達すると同時に、豊和工業とも試験用小銃の納入契約を結ぶ。興味深いのは、この年の5月と9月、豊和工業がライフルのデザインに関する意匠を相次いで出願していることだ。日本の意匠法では意匠権を最大3年間秘匿できるため、この時点ではまだ新型小銃の外観は世に出ていない。水面下で、後の20式につながる設計が静かに進行していたことになる。
選定が本格化するのは2018年度予算だ。防衛省は試験用の小火器を追加調達し、最終候補は3機種に絞られた。豊和工業の「HOWA 5.56」、H&Kの「HK416A5」(14.5インチモデル)、FNハースタルの「FN SCAR-L J STD」である。評価は2段階で行われた。第1段階は有効射程や命中精度といった実用性能の試験で、ここでは3機種すべてが要求水準を満たしていた。世界的に実績のあるHK416・SCAR-Lと肩を並べる性能を、国産の新型が示したということだ。
勝負を分けたのは第2段階、「後方支援」(整備・補給)と「経費」の評価だった。1挺あたりの量産単価は、HOWA 5.56が約28万円だったのに対し、HK416は約37万円、SCAR-Lは約36万円(いずれも当時の小売価格をベースにした概算)とされる。もちろん軍の大量調達では価格は下がるが、それでもこの価格差は大きい。整備・補給網を国内メーカーで完結できるという後方支援上の利点も加わり、HOWA 5.56が最高評価を獲得した。2019年12月6日、防衛省はHOWA 5.56の採用を正式発表する。世界的な名銃を性能で並び、価格と兵站で上回るという、地味だが堅実な勝ち方だった。
もう一つ、あまり知られていない事実がある。20式の開発初期には、SCAR-Hのような7.62mm仕様の派生型——つまりDMR(マークスマンライフル)として使う大口径バージョンの構想もあったとされる。しかし、この構想は実現せず、代わりにドイツ製のHK G28を導入する形で決着した。国産化にこだわらず、必要な部分は輸入で埋めるという合理的な判断だ。このG28導入の経緯はHK417とは|自衛隊も選んだ、HK416の7.62mm大口径版を徹底解説で詳しく扱っている。
89式からの進化点|3点バースト廃止とアンビ化

20式を理解するときは、89式の単純な改良型ではなく、運用思想を現代化した後継小銃として見るとわかりやすい。3点バーストを廃止して機構を簡素化し、レールシステムで光学照準器や各種アクセサリーを前提にし、操作系をアンビ化することで、隊員の利き手や姿勢に左右されにくい設計へ寄せている。
| 比較軸 | 89式小銃 | 20式小銃 |
|---|---|---|
| 射撃モード | 単発・3点バースト・連射 | 単発・連射 |
| 拡張性 | 旧来型の被筒と限定的な装着性 | レールシステムで光学機器やアクセサリーを想定 |
| 操作性 | 右利き前提の部分が残る | 左右切り替え可能な操作系を採用 |
| 運用思想 | 冷戦後期の国産制式小銃 | 島しょ防衛や現代装備との連携を意識した新世代小銃 |
20式と89式の詳細なスペック比較は89式小銃とはに譲るとして、ここでは設計思想の転換点を押さえておきたい。
最も象徴的なのが、89式の代名詞だった3点制限点射(3点バースト)機構の廃止だ。機械式でこれを実現する構造は複雑で、コストと故障要因になるとされ、単発と連射のみのシンプルな構成に改められた。もう一つの大きな変化が、操作系の両利き対応(アンビ化)だ。89式は右側面にコッキングハンドルがあり、左利きの隊員や逆手保持での操作に難があるという批判があった。20式ではこのハンドルを、SCAR-Lのユーザーのように左右どちらの向きにも切り替えられる設計に改めている。
面白いのは、銃床が折りたためない点だ。同じくAR-18系の内部構造を持つSCARやCZ BREN2、HK433は軒並み折りたたみ銃床を採用しているが、20式は伸縮のみで折りたたみ機構を持たない。公式な説明はないが、生産基盤の限られる自衛隊の事情を踏まえ、可動部を減らして耐用年数を延ばす狙いがあるのではないかと推測されている。その代わり、伸縮式ストックで全長をM4カービンに近い水準まで短縮できるため、実用上の不便は小さいと見られる。
弾倉もMAGPUL製に刷新され、残弾確認は64式や89式のような「穴」ではなく「小窓」形式になった。異物が入り込みにくくする、地味だが実戦的な改良だ。ベレッタ製グレネードランチャーGLX160A1を被筒部分に装着できる点も見逃せない。状況に応じて小銃弾と40mm擲弾を撃ち分けられる、現代的な統合火力の思想がここに表れている。
配備の歩み|水陸機動団から空自まで

配備は一気に完了するものではなく、まず一部部隊で慣熟し、年度ごとの調達で少しずつ広がっていく。20式小銃も、水陸機動団や普通科部隊での運用を起点に、海上自衛隊・航空自衛隊の旧式小銃更新へ波及する段階にある。
この広がりは、単に同じ小銃を増やすというだけではない。陸海空で弾倉、教育、整備、付属装備の考え方がそろえば、長期的には補給や訓練の標準化につながる。20式の調達は、個々の部隊の更新であると同時に、自衛隊全体の小火器運用をそろえていく作業でもある。だからこそ、年度ごとの調達数と配備先を追う意味がある。更新は、数字の積み重ねとして進んでいく。その積み重ねが、旧式小銃から新世代小銃への本当の世代交代を形にする。
| 時期 | 動き | 意味 |
|---|---|---|
| 2019年12月 | HOWA 5.56の採用決定 | 国産の20式小銃が次期制式小銃として選ばれる |
| 2020年 | 部隊使用承認 | 20式5.56mm小銃として正式な装備化が進む |
| 2021年度以降 | 配備開始 | 水陸機動団などを起点に慣熟と普及が進む |
| 2022年以降 | 海自・空自にも調達の動き | 自衛隊全体の旧式小銃更新へ広がる |
| 2025年度計画 | 空自64式小銃更新分を含む調達 | 陸上自衛隊だけでなく全自衛隊の標準化へ近づく |
制式化された20式は、当初2020年度中の納入を予定していたが、実際には2021年度へと延期された。令和2年度予算では初回3,283挺、予算額約10億円が計上され、このうち約7,000挺が水陸機動団へ優先的に配備される計画だった。
配備の記録を追うと、その広がりがよく分かる。2022年3月3日、水陸機動団で貸与式と慣熟訓練が実施された。同年4月22日には普通科教導連隊が全国の部隊に先駆けて実射を行い、5月19日には富士総合火力演習に射撃部隊として初参加している。年末までには全国の普通科(歩兵)部隊への普及も確認された。
そして陸上自衛隊にとどまらない広がりも興味深い。2022年6月、海上自衛隊での調達が確認され、2023年3月には海自向け36丁の契約が判明した。さらに2024年3月、航空自衛隊向けにも35丁の契約が確認されている。海自・空自ともに、警備部隊などが保有する旧式小銃の更新需要に応える形での導入と見られる。
調達規模は年を追うごとに拡大している。令和5年度(2023年度)予算では生産数が8,577挺に増え、量産単価は約38万4千円へと上昇、総額33億円が計上された。当初の28万円前後から単価が上がっている点は、正直に記しておくべきだろう。生産数の増加や部材コストの変動が影響していると考えられる。令和7年度(2025年度)予算では、航空自衛隊の老朽64式小銃の更新分も含め、総額54億円で12,907挺が調達される計画だ。89式とほぼ同数となる約15万挺という最終的な調達目標に向け、着実に数を積み上げている段階にある。
現場の声と残る課題
20式の評価は、手放しの称賛ばかりではない。水陸機動団を除隊した元自衛官がブログで語ったところによれば、配備初期の現場では「扱いづらい」「一般の隊員向けではない」という声も一部にあったという。新しい操作系への習熟には時間がかかるという、装備更新につきものの摩擦がここにも表れている。
構造的な課題を指摘する声もある。防衛ジャーナリストからは、グレネードランチャーや光学照準器といった付属装備の調達数量・調達方針がまだ確定していないという指摘がなされてきた。20式の調達完了までには長い年月がかかる見通しで、その間、グレネードランチャーを装着できない89式装備部隊と20式装備部隊とのあいだで、部隊ごとの火力に差が生じる可能性も指摘されている。装備更新とは、単に「新しい銃に持ち替える」だけでなく、こうした過渡期の火力バランスまで含めて設計しなければならない、息の長い事業なのだ。
一方で明るい話題もある。2023年のDSEI Japan(幕張メッセで開催された防衛装備の展示会)では、豊和工業の幹部が、複数の海外から20式の輸出可能性について問い合わせがあったことを明らかにしている。実現するかどうかはまだ分からないが、国産小銃が海外の関心を集めるというのは、もがみ型護衛艦の豪州輸出とも重なる、日本の防衛装備移転をめぐる新しい局面を感じさせる話題だ。
豊和工業という企業と投資の視点

20式を生んだ豊和工業は、64式・89式と、戦後日本の主力小銃を60年以上にわたり一手に担ってきた企業だ。今回の選定でも、HK416・SCAR-Lという世界的な競合を性能で並び、価格と兵站で上回るという結果を出した。国産防衛産業の底力を示す事例と言っていいだろう。同社の歴史や事業構造の詳細は豊和工業の防衛事業と株価の解説にまとめている。
兵器を「企業の製品」として見ると、ミリタリーの知識は投資のテーマへとつながっていく。防衛費増額を背景に、日本でも防衛関連企業への関心が高まっている。どの企業が恩恵を受けるのかを体系的に押さえたいなら防衛関連銘柄 完全投資ガイドが出発点になる。
もっとも、投資は自己責任が原則だ。「銃に詳しいこと」と「その企業の株で利益が出ること」は別の話で、株価は受注動向や為替、地政学リスクに左右され、上昇も下落もする。値上がりを保証するものは何もない。まずは少額から仕組みを学ぶのが賢明で、証券口座はそのための道具にすぎない。
自衛隊の装備調達、国産兵器産業の歩み、防衛政策の裏側――こうした知識を体系的に学ぶには良書が近道だ。通勤や移動中に耳から聴けるオーディオブックは、ミリタリーファンの知識を効率よく広げてくれる。
20式小銃をエアガンで楽しむ

実銃を所持できない日本でも、いずれエアガンで20式の造形を楽しめる日が来るはずだ。本記事執筆時点で、当ブログのカタログには20式専用のエアガンがまだ存在しない。造形の系譜としてHK416の意匠を強く受け継いでいるため、姉妹的な存在としてHK416Dで同じ設計思想の一端を体感するのも一つの選択肢だ。今後、正式なライセンス品が登場すれば、いち早く紹介していきたい。
サバゲーで最新の自衛隊装備に近づけたいなら、まず銃の方式の理解から始めたい。電動ガン・ガスガン・エアコキの違いを押さえたうえで、最初の主武装に迷ったら電動ガンおすすめランキングを参考にしてほしい。
命中精度はBB弾の質にも左右される。安定した品質のものを選びたい。
よくある質問(FAQ)
20式小銃はなぜHK416やSCAR-Lではなく選ばれたのですか?
2018年度の評価試験では、有効射程や命中精度といった実用性能の面で、20式(HOWA 5.56)・HK416A5・SCAR-Lの3機種すべてが要求水準を満たしていた。決め手になったのは「後方支援」と「経費」の評価で、20式の量産単価が約28万円と、外国製2機種(37万円・36万円程度)より安価だったこと、そして国内メーカーによる整備・補給網を維持できる兵站上の利点が高く評価された。
20式小銃と89式小銃の一番の違いは何ですか?
89式の象徴だった3点制限点射(3点バースト)機構が廃止され、単発と連射のみになった点が大きい。また89式では右側面固定だったコッキングハンドルが左右切り替え可能なアンビ仕様になり、ハンドガードには4面レールが標準装備された。詳しい比較は89式小銃の解説記事にまとめている。
20式小銃はいつから配備されていますか?
2020年(令和2年)に部隊使用承認され、当初は2020年度中の配備を予定していたが、実際の配備開始は2021年度にずれ込んだ。2022年3月に水陸機動団への貸与式が行われたのを皮切りに、同年中に全国の普通科部隊へと配備が広がった。2022年には海上自衛隊、2024年には航空自衛隊への調達も確認されている。
20式小銃はいつ全部隊に行き渡りますか?
89式とほぼ同数の約15万挺の調達が計画されているが、年間の調達数は数千〜1万数千挺規模にとどまっており、完了には長い年月を要する見通しだ。この移行期間中は、89式装備部隊と20式装備部隊のあいだで、グレネードランチャー対応など装備面の差が生じる可能性も指摘されている。
20式小銃は海外に輸出される予定はありますか?
2023年のDSEI Japan(防衛装備の展示会)で、豊和工業の幹部が複数の海外国から20式の輸出可能性についての問い合わせがあったことを明らかにしている。ただし本記事執筆時点で、具体的な輸出契約が成立したという公式発表はなく、あくまで打診・照会の段階にとどまっている。
まとめ|派手さより、堅実さで勝ち取った国産の座
20式小銃は、世界的な名銃HK416・SCAR-Lを性能で並び、価格と兵站という地味だが実戦的な指標で上回ることで選ばれた、国産小銃の新しい到達点だ。3点バーストの廃止、アンビ対応、モジュラーなレールシステムと、89式が抱えていた課題に真正面から向き合った設計になっている。
配備開始から数年を経て、陸海空すべての自衛隊へと裾野を広げつつあるが、約15万挺という調達目標にはまだ長い道のりが残る。単価の上昇や過渡期の火力差といった現実的な課題を抱えながらも、海外からの輸出照会という新しい可能性も見え始めている。この一挺の歩みは、これからも追いかけていく価値があるはずだ。
自衛隊装備の系譜をさらに知りたい読者は、銃器全体のカテゴリを俯瞰した銃の種類完全ガイドへ、現役最強を比較した世界最強アサルトライフルランキングへ、東側の宿命のライバルを知るならAK-47の徹底解説へと読み進めてほしい。一挺の銃から、技術・歴史・産業・投資へと、視界はどこまでも広がっていく。
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