1304年、スコットランドのスターリング城を包囲したイングランド王エドワード1世は、城兵が降伏を申し出た後も攻撃を止めなかった。理由は一つ。完成したばかりの巨大トレビュシェット「ウォーウルフ」を、どうしても撃ちたかったからだ。
記録では、ウォーウルフの建造には5人の熟練大工と50人の作業員が投入され、約140kgの投射物がスターリング城の城壁を破壊したとされる。中世の攻城兵器は人を狙う巨大パチンコではない。石造城壁そのものを壊し、守備側が安全だと思っていた空間を消し去る兵器だった。
- 釣り合い錘式トレビュシェットは重力を使い、大型石弾を反復して城壁へ当てる
- ねじり式カタパルトは機種の幅が広く、対人・対設備・支援射撃で使い分けられる
- 城壁破壊ではトレビュシェットが優位だが、巨大化すると建造・運搬・弾薬が制約になる
- 実際の攻城は投石機だけでなく、坑道・破城槌・射手・兵糧攻めを組み合わせる総力戦だった
では、トレビュシェットとカタパルトを同じ条件で比べたら、城壁を砕くのはどちらなのか。結論から言えば、石造城壁への破壊力では釣り合い錘式トレビュシェットが上だ。ただし、機動性や射撃テンポまで含めると、カタパルトにも明確な強みがあった。
| 比較項目 | トレビュシェット | ねじり式カタパルト |
|---|---|---|
| 主な動力 | 落下する釣り合い錘の重力 | 腱・毛・縄などをねじった束の弾性力 |
| 得意な投射物 | 大型の石弾、焼夷物など | 石弾、矢・大型ボルトなど |
| 一撃の重量 | 大型化しやすい | 機構への負荷から大型化に限界がある |
| 射程・再現性 | 大型機では優秀 | 機種差が大きい |
| 発射テンポ | 遅い | 相対的に速い |
| 設置・建造 | 大規模で時間がかかる | 比較的コンパクトにできる |
| 城壁破壊 | 非常に強い | 攻撃可能だが主役になりにくい |
| 対人・制圧 | 面的な威圧には有効 | ボルト射撃など用途が広い |
| 総合判定 | 重攻城戦の主砲 | 汎用性の高い投射兵器 |
そもそも「トレビュシェット vs カタパルト」は少し変な比較である
- catapultは投射兵器全般の総称にもなる
- 本記事では主にねじり式投射兵器を比較対象とする
- トレビュシェットは重力と長い腕・スリングを使う
- 動力方式を分けると性能差が見えやすい
最初に用語を整理しておきたい。「カタパルト」は現代では投射兵器全般をゆるく指す言葉として使われることがあり、巨大なトレビュシェットまで「カタパルト」と呼ばれる場合がある。中世ヨーロッパの武器を比べる場合と同じく、分類と役割をそろえなければ比較そのものがずれる。一方、軍事史では動力方式の違いを分けた方が実態を理解しやすい。
そこで、ここでいうカタパルトは、古代ギリシャ・ローマ世界で発達したねじり式投射兵器を中心に考える。二本腕で大型の矢やボルトを射出するバリスタ系、一本腕で石を投げるオナガー系などだ。これに対し、比較するトレビュシェットは、中世に大型攻城兵器として発達した釣り合い錘式を指す。
違いは外見よりも動力にある。
古代ローマの建築家ウィトルウィウスは、カタパルトやバリスタの力を生む部分として、ねじった腱や毛の束を説明している。左右のねじり束は、叩いたときに同じ音が出るよう調整する必要があった。つまり古代のカタパルトは、単純な木製機械ではない。巨大な「ねじりばね」を職人が調律する精密兵器だった。
4世紀の歴史家アンミアヌス・マルケリヌスも、オナガーについて、腕を縄束のねじれに差し込み、巻き上げてから解放し、先端のスリングから石を飛ばす構造を記している。発射時の衝撃が強烈で、石造構造物の上に置けば機械自身の振動で下を壊しかねないほどだったという。
対してトレビュシェットは、短い腕側に重い錘を下げ、その落下で長い腕を跳ね上げる。人やねじり束ではなく、重力そのものを動力源にした点が決定的に違う。

城壁破壊ならトレビュシェットが強い|理由は「重い石を同じ場所へ落とし続けられる」から
- 大型の石弾を扱いやすい
- 同じ質量の錘で出力を再現しやすい
- 長い腕とスリングで速度を稼げる
- 同じ防御区画へ反復して損傷を蓄積できる
石の城壁を壊すには、派手な一撃より、同じ区画へ大きな運動エネルギーを何度も与えることが重要になる。表面の石を少し欠けさせるだけでは城は落ちない。外装石を割り、目地を崩し、内部の充填材を露出させ、壁の一部を不安定化させて初めて突破口になる。
この仕事にトレビュシェットは向いていた。
釣り合い錘は、同じ高さから同じ質量を落とせば、毎回ほぼ同じ量の位置エネルギーを機械へ供給できる。さらに長い投射腕とスリングを使って速度を稼げるため、重い石弾を遠距離へ送り込みやすい。Royal Armouriesも、トレビュシェットはねじり式カタパルトより大きな岩を、より遠く、より高い精度で投げられたと説明している。
スターリング城のウォーウルフは、その思想を極端なところまで拡大した例だ。エドワード1世は巨大な木材、鉄、鉛、石材、職人を集め、城の前に一基の「重砲」を組み上げた。Historic Environment Scotlandによれば、約140kgの投射物が城壁を破壊したとされる。
私がトレビュシェットを中世の攻城兵器で最も恐ろしい存在だと思うのは、単に石が大きいからではない。城壁を「防御施設」から「照準点」に変えたからだ。高く厚く積んだ石壁は、本来なら兵士を守る資産である。ところが大型トレビュシェットが十分な時間と弾薬を得れば、その巨大さゆえに狙いやすい固定目標へ変わる。
カタパルトが弱かったわけではない|むしろ戦場では使い勝手がよかった
ここまで読むと、カタパルトはトレビュシェット以前の未完成兵器に見えるかもしれない。しかし、それでは古代軍が長期間ねじり式兵器を使い続けた理由を説明できない。
カタパルトの強みは、兵器としての幅にある。
バリスタ型なら大型ボルトを高速で撃ち込み、人員、盾、木製設備などを狙える。一本腕のオナガーなら石弾を曲射できる。機種によって性格は大きく違うが、いずれも巨大な釣り合い錘を持つ攻城専用機ほど場所を取らず、比較的小さな規模でも成立する。
さらに、トレビュシェットの大型機は発射後に錘を再び持ち上げ、長い腕を巻き下ろし、スリングへ石を装填しなければならない。強烈な一撃と引き換えに、射撃テンポは高くない。カタパルトは巻き上げ動作こそ必要だが、軽量な投射物を使う型では射撃回数を増やしやすい。
つまり役割が違う。
城壁の特定箇所を何日も砕くならトレビュシェット。守備兵を頭を上げられなくする、門周辺を撃つ、木製設備を壊す、矢やボルトを送り込むならカタパルト系にも出番がある。現代兵器に置き換えるなら、前者は攻城用の重砲、後者は用途に応じて口径を変えられる野戦砲・対人火器に近い。

「一発で城壁が崩壊」は誇張|実際の攻城戦は兵器の総力戦だった
映画やゲームでは、巨大な石弾が一発命中すると塔が崩れ落ちる。しかし、現実の城壁はそこまで素直ではない。
厚い石壁は、外側の切石だけでできているわけではない。複数の石材と内部の充填物を組み合わせ、衝撃を受けても全体が一気に崩れない構造になっている。攻城側が欲しいのは「映える一撃」ではなく、守備兵が塞げない規模の破口だ。
だから中世の攻城戦では、投石機だけでなく、破城槌、坑道掘削、火攻め、包囲による兵糧攻めが並行して使われた。Royal Armouriesも、攻城兵器で壁を破れない場合、攻撃側は壁の下を掘って崩すか、長期包囲で住民を飢えさせる方法を取ったと説明している。
1191年のアッコン包囲戦でも、城壁攻略は投射兵器だけでは完結しなかった。十字軍が繰り返された背景まで見ると、包囲戦が一度限りの技術勝負ではなかったことも分かる。攻撃側は地下から城壁を弱体化させる坑夫に報奨金を出し、要所の塔を崩している。
この点は「最強攻城兵器」を考えるうえで重要だ。最強とは、一発の威力が最大という意味ではない。城壁を崩し、守備側の修復速度を上回り、最終的に歩兵が突入できる穴を作れるかで決まる。トレビュシェットが強かったのは、他の攻城手段と組み合わせたときに、その破壊工程を大きく加速できたからだ。
トレビュシェットにも弱点がある|巨大化するほど兵站兵器になる
- 大型木材・金属・ロープ・錘が必要
- 熟練大工と多数の作業員を長期間拘束
- 大量の石弾と運搬手段を確保
- 設置後は夜襲・火攻め・悪天候から守る
トレビュシェットは強力だが、持って歩ける兵器ではない。大型機になるほど、木材、金属、ロープ、錘、職人、運搬手段、そして大量の石弾が必要になる。
スターリング城のウォーウルフでは、5人の熟練大工と50人の作業員が建造に関わった。さらにエドワード1世の軍は各地から鉛や鉄、大石を集めている。これは武器というより、小さな土木プロジェクトに近い。
しかも巨大な木造兵器は、組み上げた場所から簡単に逃げられない。守備側の出撃、火矢、夜襲、逆襲から守る必要がある。雨や湿気はロープや木材に影響し、地盤が悪ければ重量級の機械を安定して設置することも難しい。
ここではカタパルトの小型性が効いてくる。もちろん大型バリスタやオナガーも軽くはないが、巨大な釣り合い錘式トレビュシェットほど戦場を選ばない。古代ローマ軍がさまざまな口径の投射兵器を運用したのは、城壁破壊だけではなく、軍団の戦闘を支える火力として価値があったからだ。
トレビュシェットは「最強」だが、どこへでも連れていける万能兵器ではない。敵城の前まで兵站を通し、十分な時間を確保し、現地で建造・運用できる軍だけが、その強さを引き出せた。

1304年のウォーウルフが示したのは、破壊力より国家の動員力だった
スターリング城の守備隊は約25人。対するエドワード1世は、13基のカタパルトやトレビュシェットを昼夜にわたって撃ち込み、それでも城が耐えると、さらに巨大なウォーウルフを建造した。
ここで興味深いのは、城兵が完成前に降伏を申し出たことだ。つまりウォーウルフは、実際に発射される前から軍事効果を発揮していた。
エドワードはその降伏をすぐには受け入れず、巨大兵器を発射して見せた。これは攻城戦であると同時に政治的な演出だった。王は「この城を壊せる」だけでなく、「これほど巨大な兵器を建造する木材、人員、金属、輸送力を集められる」と見せつけたのである。
中世の城は、領主が石を積めば完成する単なる建物ではない。地域支配の象徴であり、行政拠点であり、反乱時の抵抗拠点だった。その城を外から壊せる兵器は、軍事技術だけでなく権力関係まで変える。
トレビュシェットの本当の怖さは、錘の重さではなく、その錘を戦場まで持って来られる国家の重さだった。
2026年に浮上した「トレビュシェット直撃」の痕跡
トレビュシェットが人間へ直撃したらどうなるのか。史料には凄惨な攻城戦の描写が残るが、投石機の一撃と結びつけられる人骨はほとんど確認されてこなかった。
ところが2026年8月、スターリング城の礼拝堂下から1997年に発掘されていた「Skeleton 150」と呼ばれる男性骨について、新たな分析結果が発表された。頭蓋骨や肋骨などに160か所を超える骨折があり、研究者は高速かつ大質量の物体による一度の強烈な衝撃とみている。1304年の包囲戦で使われたトレビュシェット弾が原因だった可能性が提示された。
ただし、これがウォーウルフの直撃だったと確認されたわけではない。スターリング城では複数の攻城兵器が使用されており、研究結果も学会発表段階である。重要なのは、城壁を破壊するための投射物が人体に当たれば、剣や矢とはまったく異なるレベルの鈍的外傷を生むという点だ。
城壁を狙う兵器だから人には当たらない、という安全地帯はない。石弾そのものだけでなく、砕けた石材や崩落する壁も守備兵を襲った。攻城兵器は城の外形を壊すと同時に、内部で戦う人間の心理も削っていた。
結論|城壁を砕く最強攻城兵器はトレビュシェット。ただしカタパルトは「弱い旧式」ではない
城壁破壊という一点に限定するなら、勝者は釣り合い錘式トレビュシェットだ。重力を利用して大型投射物へ安定してエネルギーを与え、長い腕とスリングで速度を稼ぎ、同じ防御区画へ反復して打撃を加えられる。大型化したときの破壊力は、ねじり式カタパルトより明確に高い。
一方、カタパルト系は、より小型にでき、投射物や機種によって対人・対設備・支援射撃へ使い分けられる。トレビュシェットが攻城戦の「城壁破砕機」なら、カタパルトはもっと広い用途を持つ投射火器だった。
そして最も重要なのは、どちらの兵器も単独で城を落としたわけではないことだ。石を集める兵站、機械を組む職人、敵の修復を妨害する射手、壁を掘る坑夫、突入する歩兵まで揃って初めて城は落ちる。
「最強の一基」を選ぶならトレビュシェット。しかし「最強の攻城戦」を作ったのは、兵器ではなく、それを何週間も撃ち続けられる軍隊そのものだった。
よくある質問
トレビュシェットとカタパルトは何が違う?
狭い意味での比較では、トレビュシェットは長い腕とスリングを重力で動かす投石機、カタパルトはねじった綱などの弾性を使う投射機を指す。ただし英語のcatapultは投射兵器全般の総称にもなるため、文献によって分類が異なる。
城壁を壊すならどちらが強い?
大型の石弾を同じ区画へ反復して当てる用途では、釣り合い錘式トレビュシェットが有利だった。とはいえ実際の攻略には坑道、破城槌、射手、兵糧攻めなども必要で、一基だけで城が落ちるわけではない。
ウォーウルフは本当にスターリング城を壊した?
Historic Environment Scotlandは、約140kgの投射物が城壁を破壊したと紹介している。一方、兵器の正確な寸法や構造は残っていないため、現代の復元図は史料に基づく推定を含む。
出典・参考資料
- The Hundred Years' War 1337–1453, Royal Armouries.
- The War Wolf at Stirling Castle, Historic Environment Scotland.
- nature.com, Nature, 2026.
- Vitruvius, De architectura, Book X, Perseus Digital Library, Tufts University.
あわせて読みたい関連記事
この記事が参考になったら、応援の意味で以下のリンクから何か購入いただけると幸いです。執筆の励みになります。リンク先以外の商品でも構いません。







コメント