クボタンについて調べると、たいていこう書いてある。「キーホルダーとして扱われるので完全合法」「職務質問で問題になることはまずない」。
実は、このブログの護身グッズの記事でも、以前は同じように書いていた。調べ直してみると、クボタンを「完全合法」と言い切れる根拠は見つからなかったからだ。
クボタンは、持っているだけなら違法ではない。ところが、カバンやポケットに入れて持ち歩くと、話が変わる。この記事では、クボタンがどこから来た道具なのかを振り返ったうえで、法律の線引きと、持つならどう持つかを整理する。
- クボタンを買って家に置いておくのは問題ない。問題になるのは、外で持ち歩くとき
- 正当な理由なく隠して持ち歩けば、軽犯罪法1条2号の対象になりうる。「キーホルダーだから合法」は言い過ぎ
- とがった先、突起、刃や針の仕込み、スプレー付きなど、形しだいで一気に危うくなる
- 使い方を習っていないクボタンは、役に立たないうえに奪われる危険もある
- 護身が目的なら、先に防犯ブザーとライト。クボタンを持つなら、鍵を付けて毎日使う、刃も突起もない単純な物を1本だけ
クボタンとは:熊本生まれの空手家が考えた「警官のキーホルダー」
クボタンは、長さ14cm前後の棒状の護身具だ。名前は考えた人の名字、窪田から来ている。

考えたのは、空手家の窪田孝行氏だ。1934年に熊本で生まれ、日本でも警察官に護身術を教えていた。1964年にアメリカの大会に招かれたのをきっかけに移り住み、ロサンゼルス市警の警察学校で数年にわたって護身術を指導した。クボタンは、そこで女性警官のための道具として考えられたもので、1978年に商標登録されている。窪田氏は2024年に89歳で亡くなった。
日本人が考えた護身具が、アメリカの警察で育ち、日本に「逆輸入」されている。ミリタリー好きとしては、ちょっと面白い経歴だと思う。
さらにさかのぼると、クボタンには先輩がいる。1930年代にカリフォルニア州バークレーの警察で、日系移民のフランク・松山氏が教えていた「ヤワラ棒」だ。松山氏は1937年にアメリカで特許を取っていて、そのころ作った改良型は、両端に金属の突起がついていた。クボタンはその流れをくみながら、樹脂製で、とがったところのない形になっている。
警棒を腰に下げられない場面でも、鍵束として手の中に収まる。装備に見えない装備、という発想は、軍や警察の道具としてはよくできている。ただし、それはあくまで、訓練を受けた警官が、職務として持つ前提での話だ。
寸鉄、十手、仕込み杖:日本の「武器に見えない武器」の系譜
クボタンはアメリカ生まれだが、手の中に収まる短い棒という発想そのものは、日本人にはなじみ深い。

古武術には、寸鉄と呼ばれる道具がある。手のひらに握り込む短い金属の棒で、握った拳を固くしたり、相手を押さえたりするのに使う。形も使い方も、クボタンとよく似ている。
江戸時代の町奉行所の同心たちは、十手を持っていた。相手を斬らずに捕らえるための道具で、身分を示す印でもあった。武士が持った鉄扇は、見た目は扇だが、骨を鉄で作った護身の道具だ。刀を抜けない場面で身を守るためのもの、と語られることが多い。
明治9年(1876年)の廃刀令で、武士の魂とまで言われた刀を差して歩くことができなくなると、杖の中に刀を仕込んだ「仕込み杖」が出回ったという話もある。日本刀がどれほどの武器だったかは、ロングソードと日本刀の比較で書いた。持てない武器を、持てる物の形に隠す。人間の考えることは、昔からあまり変わらない。
ここで大事なのは、仕込み杖が今どう扱われるかだ。杖の形をしていても、中身が刀なら、銃刀法の問題になる。法律は、外側の形ではなく中身と使い方を見る。クボタンを「キーホルダー」と呼んでも同じことで、名前や見た目が日用品でも、それだけでは守ってもらえない。この先の法律の話は、すべてこの一点につながっている。
クボタンは違法?法律の答え
持つのは自由、持ち歩くと問題になりうる
クボタンを買うこと、家に置いておくことを禁じる法律はない。銃刀法の対象でもない。

問題になるのは外へ持ち出したときで、関係するのが軽犯罪法1条2号だ。
正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
クボタンに当てはめると、ポイントは3つになる。
- 器具:護身のために作られ、握って使う硬い棒は、使い方しだいで「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に入りうる
- 隠して携帯:カバンやポケットに入れて持ち歩けば、この条件はそろう
- 正当な理由:残る争点はここになる
「正当な理由」はどう判断されるか
「正当な理由」について、最高裁は2009年の判決で判断のしかたを示している。深夜のサイクリング中に、小型の催涙スプレーをポケットに入れていた会社員について、正当な理由を認めて無罪とした事件だ。
最高裁は、器具の用途・形・性能、持っている人の仕事や生活との関係、持ち歩いた日時・場所・持ち方、周りの状況と、動機・目的を合わせて判断するとした。つまり、物の名前ではなく、その人の事情と持ち方を全部見る、ということだ。判決のくわしい中身は、護身用グッズは持ち歩くと違法?合法に使える7選で書いた。
クボタンそのものの判断はあるのか
正直に書くと、クボタンが軽犯罪法の「器具」に当たるかを正面から判断した裁判例は、私が調べた範囲では見つからなかった。
ただ、法律相談のサイトを見ると、気になる相談がいくつもある。護身用に持っていた寸鉄(クボタンに近い、手の中に握る短い棒)が見つかって任意同行を求められ、取り調べを受けたという相談。懐中電灯が、警棒のように使える器具として軽犯罪法に触れると言われたという相談。特殊警棒が職務質問で見つかって検挙されたという相談もある。
裁判にならなくても、職務質問で見つかれば、警察署まで行って話を聞かれる、という展開は十分にありうる。「完全合法」と書いてあるのを信じて毎日持ち歩くのは、その可能性を知らずにいるのと同じだ。
「キーホルダーだから合法」が危ない3つの理由
理由1:法律は名前ではなく、使い方と持ち方を見る
商品名が「キーホルダー」でも、法律はそれで判断しない。見るのは、その物が何に使えるか、どう持っていたか、なぜ持っていたかだ。
ここで皮肉なことが起きる。職務質問で「護身用です」と答えると、それは「人を打つための物です」と自分で言うのに近くなる。もちろん、うそをつけと言っているのではない。護身目的があること自体は、正当な理由を考えるときの事情のひとつになる。ただ、警察の実務では、護身目的だけでは正当な理由と認められない場合がある、と弁護士も指摘している。「キーホルダーだから」と「護身用だから」は、どちらも決め手にはならない。
理由2:形しだいで一気に危うくなる
クボタンと名乗る商品には、いろいろな形がある。
- 先がとがっている、両端に突起やギザギザがある
- 中に刃や針が仕込まれている
- 催涙スプレーが一体になっている
- 金属製で重く、拳の中で鈍器のように使えるもの
窪田氏のクボタンは、とがったところのない樹脂製だった。突起や刃のついた物は、本家の考え方からも外れているし、「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」にずっと近づく。刃が仕込まれていれば、刃物としての問題も出てくる。
持つなら、形がシンプルな物を選ぶ。これだけで、説明に困る場面はかなり減るはずだ。
理由3:使えば過剰防衛になりやすい
クボタンは、硬い物で相手を押したり打ったりする道具だ。刑法の正当防衛は、差し迫った攻撃から身を守るために「やむを得ずにした行為」だけを罰しない。相手が素手なのに、硬い物で頭や顔を強く打てば、過剰防衛と見られやすい。相手が逃げたあとに追いかけて打てば、なおさらだ。
逃げる時間を作るための道具ではなく、相手を痛めつけるための道具として使った瞬間に、守ってくれるはずの法律が自分に向いてくる。ここは、ほかのどの護身グッズよりも気をつけたいところだと思う。
使いこなせる?道具より体の使い方
クボタンにはもうひとつ、法律とは別の問題がある。習わないと使えない、ということだ。
クボタンは、それ自体に力があるわけではない。握った手の力を補う芯でしかなく、どこをどう押すか、どう握って離れるかを体が覚えていないと、とっさの場面では何の役にも立たない。慣れない人が振り回せば、取り上げられて自分に向けられる危険もある。
軍隊では、装備を渡す前に、必ずその使い方を体に入れる。訓練していない装備は、持っていないのと同じか、それより悪い。クボタンも同じで、買うなら護身術の教室などで基本を習う前提で考えてほしい。
護身術を教えている人の中にも、クボタンをわざわざ持ち歩くことはすすめず、ボールペンや小さな懐中電灯のような日用品をとっさに使う発想を勧める人がいる。道具に頼るより、身近な物で何ができるかを知っておくほうが、法律の面でも無理がない。
クボタンより先に持つべき物
護身が目的なら、クボタンより先にそろえたい物がある。持ち歩いても説明にほとんど困らず、誰でもすぐ使える物だ。

クボタンをほかの護身グッズと並べると、立ち位置がよくわかる。
スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
| 道具 | 持ち歩く理由の説明 | 習う必要 | 相手との距離 |
|---|---|---|---|
| 防犯ブザー | ほぼ要らない | 要らない | 触れずに使える |
| ライト | 夜道を照らす、で足りる | ほぼ要らない | 数メートル離れて使える |
| 催涙スプレー | 具体的な事情が要る | 少し練習したい | 数メートル離れて使える |
| クボタン | 鍵束として使っている、などの事情が要る | 習わないと使えない | 相手に触れる距離 |
クボタンは、4つの中で唯一、相手に触れる距離まで近づかないと使えない。しかも、習わないと使えず、持ち歩きの説明も要る。「逃げる時間を作る」という護身の目的から見ると、いちばん後回しにしていい道具だとわかる。
防犯ブザーは、ピンを抜くだけで周りに異変を知らせられる。相手に触れずに、助けを呼べる。
ライトは、夜道を照らすという普段使いの理由があり、強い光で相手の目をくらませて、離れる時間を作れる。ただし、相談サイトには懐中電灯が警棒のように見られたという例もあった。毎日持ち歩くなら、手のひらに収まるくらいの大きさにしておきたい。
この2つで足りない事情があるときに、はじめてクボタンや催涙スプレーを考える。順番を間違えないことが、いちばんの護身だと私は思う。
それでもクボタンを持つなら
護身術を習っている、鍵束としても使いたい、という人に向けて、持ち方の心得をまとめておく。
- 刃も突起もない、樹脂かアルミの単純な形の物を選ぶ
- 1本だけにする。何本も持てば、身を守るためという説明は苦しくなる
- 家の鍵を付けて、毎日の鍵束として本当に使う。カバンの奥にしまい込むより、使っている物であることがはっきりする
- 人前で振り回したり、見せびらかしたりしない
- 職務質問では、隠さずに出して、なぜ持っているのかを落ち着いて話す
- 飛行機に乗る日は持っていかない。保安検査で止められることがある
それでも、これで大丈夫という保証にはならない。判断は、その場の事情を全部見て行われる。
コールドスチールのKOGA SD1は、手になじむ形で握りやすいクボタンだ。買う前に、販売ページの写真で形と素材を確かめてほしい。
よくある質問
クボタンは違法?
持つこと自体は違法ではない。ただ、正当な理由なく隠して持ち歩けば、軽犯罪法1条2号の対象になりうる。「キーホルダーだから完全合法」という説明は言い過ぎだ。
通販で普通に売っているのに、違法になるの?
なりうる。売ること、買うこと、家に置いておくことは問題ない。軽犯罪法が問題にするのは、正当な理由なく隠して持ち歩くことだ。包丁もホームセンターで売っているが、理由なくカバンに入れて街を歩けば問題になる。それと同じ理屈になる。
クボタンと催涙スプレー、持つならどっち?
どちらも持ち歩くには事情が要る点は同じだ。違いは距離で、催涙スプレーは数メートル離れて使えるが、クボタンは相手に触れる距離まで近づかないと使えない。習っていない人が身を守るためなら、離れて使える物のほうが向いている。ただ、どちらより先に、防犯ブザーとライトをそろえてほしい。
職務質問でクボタンが見つかったらどうなる?
その場の事情しだいだ。法律相談のサイトには、似た護身具を持っていて警察署への同行を求められたという相談もある。隠さずに出して、なぜ持っているのかを正直に話すしかない。
女性が護身用に持つのはあり?
窪田氏が女性警官のために考えた道具ではあるが、それは訓練を受けた警官の話だ。習っていないなら、まず防犯ブザーとライトを。夜道で不安が強い事情があるなら、催涙スプレーとの比べ方は、上で紹介した護身用グッズの記事を見てほしい。
ヤワラ棒とクボタンの違いは?
ヤワラ棒は1930年代にアメリカの警察で使われた、手の中に握る短い棒で、1937年ごろの改良型は両端に金属の突起があった。クボタンはその流れをくむ道具で、樹脂製の、とがったところのない形にしたものだ。
クボタンで正当防衛になる?
差し迫った攻撃から身を守るために、やむを得ず使ったのなら正当防衛になりうる。ただ、硬い物で強く打つほど、必要な程度を超えたと見られやすい。逃げる時間を作るために使い、相手が離れたら自分も離れる。
クボタンは飛行機に持ち込める?
保安検査で止められることがある。旅行の日は家に置いていくのが無難だ。
まとめ:装備に見えない装備ほど、持ち方が問われる
クボタンは、熊本生まれの空手家が、アメリカの警官のために考えた、よくできた道具だ。ただし、その前提は「訓練を受けた警官が、職務として持つ」ことだった。
- 持つのは自由。持ち歩くと、軽犯罪法の「正当な理由」が問われる
- 「キーホルダーだから合法」も「護身用だから大丈夫」も、決め手にはならない
- 突起や刃のある物は選ばない。単純な形を1本だけ
- 習っていないなら、使えない。奪われる危険もある
- 護身が目的なら、先に防犯ブザーとライト
装備に見えない装備ほど、持つ人の事情と持ち方が問われる。クボタンを鍵束に付けるなら、それが本当に鍵束として使われていること、そして自分の身を守る道具は、まず逃げる足と大きな声だということを忘れないでほしい。







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