NTTデータの防衛事業とは|海自の指揮統制・デジタルツイン・AW3Dと「NTT株で買う防衛」を解説

NTTデータの防衛事業とはの記事表紙
要点

三菱重工の護衛艦や川崎重工の潜水艦と比べれば、20億円は小さい。だが私はこの契約を、日本の防衛産業の重心が「鉄」から「データ」へ動いていることを示す象徴的な案件だと見ている。そしてそのデータの側で最も深く防衛省に食い込んでいるのが、海上自衛隊の情報処理システムを四半世紀にわたって支えてきたNTTデータだ。

ただし東芝と同じで、NTTデータの株は買えない。2025年9月にNTTの完全子会社になって上場廃止になった。この記事では、NTTデータの防衛事業が何をやっていて、どこへ向かっていて、投資家がNTTという親会社を通じてそれをどう見るべきかを、私なりに整理する。

目次

NTTデータの防衛部門はどこにあるのか

サーバーラックが並ぶデータセンター
情報を処理し、蓄積し、共有するための情報基盤。
NTTデータの防衛部門はどこにあるのか

NTTデータ自身の言葉を借りると、同社は海上自衛隊の情報処理システムを四半世紀にわたって提供し続けてきた。国の意思決定に不可欠な情報を、世界最高水準のセキュリティを担保しながら素早く一元化し、データドリブン型のシステムをどう構築するか。これが防衛部門のミッションだと明言している。

もう一つ、NTTデータは自社の防衛ビジネスの領域として、システム本体のほかに宇宙、衛星、サイバーを挙げている。つまり「海自のシステムを作る会社」であると同時に「衛星画像とサイバー防御を防衛省に売る会社」でもある。この二面性がNTTデータの防衛事業の特徴になる。

逓信省・電電公社・NTTデータ|通信は国家のものだった

NTTデータの系譜は、明治の逓信省まで遡る。

電信と電話は近代国家の神経であり、日本ではそれを逓信省が一手に握っていた。日清・日露戦争では海底ケーブルと電信網が艦隊と大本営をつなぎ、日本海海戦の「敵艦見ユ」も、その後の勝報も、逓信省の回線を通って東京へ届いた。太平洋戦争期には軍用回線の整備や無線の運用で逓信省が陸海軍を支え、敗戦後の1952年に日本電信電話公社、いわゆる電電公社として独立する。1985年に民営化されてNTTになり、そのデータ通信本部が1988年に分離したのがNTTデータ通信、現在のNTTデータだ。

つまりNTTデータは、国家の通信を100年以上担ってきた組織の「計算機部門」が独立した会社であり、銀行のオンラインシステムや官公庁の基幹システムを作る中で、防衛省とも早くから付き合いがあった。海自のシステムを四半世紀というのは、電電公社時代からの官公庁との関係を考えれば、むしろ短い方かもしれない。

そして2025年、そのNTTデータはNTTに再び取り込まれた。電電公社から分かれた会社が、40年後に一つに戻っていく。防衛の文脈でこの動きを見ると、通信と計算とデータを一体で国に提供する体制への回帰にも見える。

海自の指揮統制|四半世紀の蓄積

航海用シミュレーターの操作室
複数の画面で状況を把握する航海シミュレーター。

NTTデータの防衛事業の背骨は、海上自衛隊の指揮統制系のシステムにある。

海自のC4Iシステムは、1975年に稼働した自衛艦隊指揮支援システムから始まり、航空集団や地方隊のシステムを統合した海上作戦部隊指揮管制支援システム、通称MOFシステムを経て、2014年度末からは海上自衛隊指揮統制・共通基盤システム、MARSシステムへと発展してきた。護衛艦隊の旗艦から地方総監部まで、海自の意思決定を支える情報の背骨だ。

NTTデータが自社の採用記事で語っているのは、この系譜の中の海自向けシステムの更改プロジェクトで、護衛艦に加えて日本の海域を航行するすべての船舶の位置情報や航海予定、さらに未確認の船といった脅威情報を地図上で一元的に管理し、指揮官の意思決定に寄与するシステムだという。要するに、海自の司令部の画面に「今、日本の海に何がいるか」を映し出す部分をNTTデータが作っている。

海自の指揮統制

NTTデータは今後の方向として、多様なIoTデバイスと高度なシステム群を連携させてあらゆるデータを一元化し、共通作戦状況図の上で可視化して陸海空の統合ミッションを支援したい、と述べている。さらにAIでどこまで人の判断を介さず情報伝達を速められるかを追求する、とも書いている。これは米軍が進める統合全領域指揮統制、JADC2の日本版そのものであり、NTTデータはその海自側の入口に立っている。

リアルタイムデジタルツイン|2026年の20億円契約

立体地形を表示した開発用モニター
地形と空間情報を画面上で扱うシミュレーション開発。

冒頭で触れた2026年2月の契約に戻る。

防衛省は2025年7月に「防衛省次世代情報通信戦略」と「宇宙領域防衛指針」を策定し、民間事業者と連携して指揮統制の防衛能力を強化する方針を打ち出した。その具体策の一つが、防衛省・自衛隊のリアルタイムデジタルツイン環境の整備で、その調査検討と試作環境の構築をNTTデータが19億9100万円で受注した。

デジタルツインという言葉は製造業でよく聞くが、防衛での意味はもっと生々しい。敵味方の部隊、艦艇、航空機、ミサイル、衛星、そして気象や地形を、一つのデジタル空間に同時に表現し、そこで作戦を試して結果を予測し、実際の指揮に反映する。ウクライナで起きているのはまさにこれで、ドローンの映像と衛星画像と地上センサーを統合して、どこに何を撃つかをデータで決めている。防衛省がNTTデータにこの試作を任せたということは、海自の指揮統制で積み上げた「データを統合して画面に出す」技術を、全自衛隊に広げる足掛かりを与えたということだ。

20億円は試作の値段にすぎない。だがここで基盤を握れば、その先の本格整備で数百億円規模の案件に化ける可能性がある。防衛省のシステム調達は一度採用したベンダーが更改でも継続しやすい構造なので、入口を押さえた意味は金額以上に大きい。

AW3D|世界を3Dで丸ごと持っている会社

NTTデータのもう一つの武器が衛星画像だ。

AW3D

AW3Dは当初5m解像度の全世界データとして始まり、その後2.5m、さらに商用高解像度衛星を組み合わせた0.5m級の都市モデルまで整備が進んだ。利用先は世界100を超える国と地域に広がり、地図会社や通信会社、航空・防災分野で使われている。日本の民間企業が持つ地理空間データとしては最大級のものだ。

これが防衛でどう効くかは説明するまでもない。ミサイルの地形照合航法、航空機の低空飛行訓練、上陸作戦の地形分析、敵基地の3Dモデル化。すべて「世界の正確な3D地図」が前提になる。米軍が国家地理空間情報局を持ち、莫大な予算で世界の地形データを整備しているのはそのためだ。日本の民間企業が独自にこれを持っているというのは、実は相当に珍しい。

NTTデータはグループ全体でも宇宙に深く入っている。親会社のNTTとスカパーJSATが2022年に設立したSpace Compassは、光通信を使った宇宙データセンターや衛星間の高速通信網を構想しており、防衛省の宇宙領域防衛指針とも方向が重なる。衛星で撮った画像を宇宙空間で処理して地上に落とす、という流れの中で、NTTグループは画像の解析側にも通信側にもいる。

サイバー・IOWN|NTTグループとしての防衛

沿岸に設置された衛星通信アンテナ
離れた拠点を結ぶ通信設備。

NTTデータ単体を超えて、NTTグループ全体で見ると防衛との接点はさらに広がる。

サイバー防衛はNTTデータの防衛領域の一つとして明記されており、防衛省が2027年度までにサイバー専門部隊を4000人規模へ拡充する計画の中で、民間の技術と人材への依存は避けられない。日本の防衛サイバー企業の全体像は別記事にまとめているが、NTTグループはその中で最大級の存在だ。

そして2026年8月末、日経は次期の防衛力整備計画に、自衛隊の情報基盤へNTTの次世代通信基盤IOWNを導入する方針が明記される見通しだと報じた。IOWNは光技術で通信の大容量化と低遅延を実現する構想で、AIを使った指揮統制に必要な大容量通信を自衛隊の基盤に持ち込む狙いだ。これが実現すれば、NTTデータが作る指揮統制システムの下に、NTTの光通信網が敷かれることになる。上から下までNTTグループ、という構図だ。

サイバー・IOWN

投資家目線で見るNTTデータ|買えない会社をNTTで買う

投資家目線で見るNTTデータ

NTTデータグループは2025年5月、親会社のNTTによるTOBの対象になった。買付価格は1株4000円で、公表前日の終値に34%のプレミアム。買付代金は約2兆3700億円。TOBは6月に成立し、株式併合を経て9月26日に東証プライムを上場廃止になった。NTTは2020年にドコモを完全子会社化したのに続き、これで上場子会社をゼロにした。

つまりNTTデータの防衛事業を単独で買う手段はない。買うならNTT(9432)だ。

ここで冷静に見ておくべきことがある。NTTの連結売上高は13兆円を超え、そのうちNTTデータグループが4兆円台。さらにその中の国内公共分野の中の防衛部門となると、NTT全体から見れば1%どころか小数点以下の世界だ。デジタルツインの20億円も、AW3Dも、IOWNの防衛導入も、NTTの株価をそれ単体で動かす規模ではない。NTT株の値段を決めるのはドコモの通信料と海外データセンターと金利であって、海自の指揮統制システムではない。

それでも私が防衛の文脈でNTTを見ておく理由は3つある

一つ目は、防衛がNTTの「国策企業」としての性格を強めている点だ。NTTは政府が3分の1以上の株式を持つ会社で、NTT法によって国との関係が規定されている。防衛省の情報基盤にIOWNが入り、サイバーと宇宙で防衛省の依存が深まるほど、NTTは「潰せない」「手放せない」企業になる。これは業績には効かないが、株を長期で持つ人にとってのダウンサイド、つまり最悪の事態が起きにくいという意味では効く。

投資家目線で見るNTTデータ

三つ目はリスクで、NTTデータの完全子会社化で少数株主が締め出されたように、NTTグループの意思決定は今後さらに持株会社に集中する。防衛部門がどれだけ稼いでいるかは、上場していた頃よりさらに見えにくくなった。「NTTの防衛が伸びている」という話は、少なくとも決算数字では検証できないと思っておいた方がいい。

では何を見ればいいのか。私が追っているのは決算ではなく、防衛省と防衛装備庁が毎月公表する契約情報だ。中央調達の随意契約や一般競争の一覧に「株式会社NTTデータ」の名前がどの事業名で、いくらで出てくるか。デジタルツインの19億9100万円もそこで分かった。上場廃止で決算からは消えたが、国との契約は公開情報として残る。NTTの防衛事業を追う唯一の窓はここにある。

東芝と並んで「株が買えない防衛企業」になったNTTデータは、防衛産業の重心がデータへ移るほど重要になる一方で、投資家からは見えなくなっていく。この非対称性は、日本の防衛産業を株で追う人間にとって、今後ますます厄介な問題になると思う。

防衛関連株全体の見方は防衛関連銘柄の完全投資ガイドにまとめている。

NEC・富士通・日立との棲み分け

防衛省向けのシステムインテグレーションは、日本の大手SIerが分け合っている領域だ。

NECは通信とネットワーク、そして陸自の指揮システムやC4Iで最大手。富士通は空自の指揮システムや防衛省の基幹業務システム、そしてスパコン。日立は電子装備とC4Iの一部。そしてNTTデータは海自の指揮統制系と衛星画像、サイバー。ざっくり言えば陸のNEC、空の富士通、海のNTTデータという住み分けが長年続いてきた。

NEC・富士通・日立との棲み分け

ただしデジタルツインやJADC2のように陸海空を統合する方向に防衛省が動くほど、この住み分けは崩れる。統合の基盤をどこが握るかが、この先10年のSIer各社の防衛事業の勝敗を決める。NTTデータがデジタルツインの試作を取ったことは、その競争の先手を打った、と読むこともできる。

全体像は日本の防衛産業・軍需企業一覧と、無人アセットで防衛省が構想するSHIELDの記事も合わせて見ると、データ側の企業がどこに入っていくかが見えやすい。

まとめ

まとめ

だが株は買えない。2025年9月の上場廃止以降、NTTデータの防衛事業はNTT(9432)の中に沈み、決算数字からは見えない。NTTを買う人は防衛を理由に買うべきではないし、防衛を理由に売るべきでもない。それでも、日本の防衛の重心が鉄からデータへ動くとき、その動きの一番深いところにNTTグループがいることは覚えておいていい。

電電公社の時代、日本の電話網は国家のものだった。民営化から40年経って、通信は再び国家の防衛に組み込まれようとしている。NTTデータの防衛事業は、その大きな円環の一部だと私は思っている。

投資に関する免責事項:本記事は公開情報に基づく個人的な分析であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。株式投資には元本割れのリスクがある。投資判断は必ず自身の責任で行ってほしい。

出典・参考資料

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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