T-90M戦車とは|性能・防御力・T-72系からの進化を解説

泥濘地を走行するT-90M級主力戦車
泥濘地を走行するT-90M級主力戦車
低い車体と新型砲塔、防御モジュールを組み合わせたT-90Mの基本構成

T-90M戦車とは、ロシアがT-72系で培った量産性と整備基盤を残しながら、砲塔、照準装置、防御システム、通信能力を大幅に更新した主力戦車である。

「古いT-72を少し改良した戦車」と見るだけでは、T-90Mの本質を見誤る。確かに車体配置や3名乗員、自動装填装置などにはT-72以来の設計思想が残る。しかし、T-90Mは新型砲塔、マルチチャンネル照準器、車長用の独立照準装置、遠隔操作式機銃、レリークト爆発反応装甲、デジタル通信を組み合わせ、索敵から射撃、情報共有までを再構成した車両だ。

この記事の要点

本記事を貫くテーマは明快である。T-90Mの価値は、完全新規の夢の戦車を目指したことではなく、既存の工業基盤で作り、直し、戦場へ送り続けられる範囲でT-72系を21世紀化した点にある。

目次

T-90M「プラルィーフ」とは何か

T-90Mは、ロシア語で「突破」を意味する「プラルィーフ」の名で呼ばれるT-90系列の最新量産型である。ロシア国営企業ロステックによれば、最初のT-90Mは2020年4月に部隊への引き渡しが始まった。ロステックは、従来型と比べて根本的に新しい砲塔、より強力なエンジン、昼夜を問わず使用できるマルチチャンネル照準器、他車両とのリアルタイム情報交換能力を主要な特徴として挙げている。

T-90という名称は新しいが、その血統はT-72Bへさかのぼる。T-90の原型である「オブイェークト188」は、T-72Bを基礎に火器管制装置や防御力を高める計画から生まれた。つまりT-90は、T-72と無関係な新設計戦車ではなく、T-72系を発展させた別系列と考えるのが正確だ。

私はT-90Mを、ロシア戦車技術の最高傑作というより「ロシアが大量配備できる範囲で選んだ現実解」と見る。試作車がどれほど高性能でも、量産できず、部品を補給できず、乗員を教育できなければ戦力にはならない。T-90Mは、その冷徹な条件を満たすための戦車である。

現代戦車を横断的に比べる場合は、世界最強戦車ランキングもあわせて確認すると、T-90Mの立ち位置をつかみやすい。

T-90Mの性能・主要諸元

T-90Mの詳細諸元は、生産時期、改修ロット、戦場で追加された装備によって差がある。また、ロシア側が詳しい数字を公開しているのは輸出型T-90MSであり、ロシア軍向けT-90Mと完全に同一ではない。そのため、次の表は公式のT-90MS公開値と複数の公開資料を突き合わせた目安として見るべきだ。

項目T-90Mの公開情報上の目安読み方
乗員3名車長、砲手、操縦手。装填手は置かない
戦闘重量約46.5〜48トン追加装甲や対ドローン装備で変動する
主砲125mm滑腔砲、2A46M系列資料により枝番表記が異なる
即応弾自動装填装置内22発が一般的総搭載弾数は資料・仕様で差がある
副武装7.62mm同軸機銃、12.7mm遠隔操作式機銃車長が車外へ身をさらさず射撃できる
エンジンV-92S2F系ディーゼル、約1,130馬力が広く報じられる生産ロットによる差に注意が必要
最高速度約60〜70km/h条件と仕様で変わる
航続距離約500〜550km外部燃料タンクや路面条件で変動する
防御複合装甲、レリークトERA、スラット/ネット装甲など戦場改修で外観が大きく変わる
火器管制昼夜兼用マルチチャンネル照準器、車長用独立照準器、デジタルFCST-90Mの進化を象徴する部分

ロソボロンエクスポルトが公開するT-90MSの値は、戦闘重量48トン、乗員3名、最高速度70km/h、航続距離500km、出力重量比23馬力毎トンである。同社は新型砲塔、125mm砲、デジタル火器管制装置、砲手・車長用のマルチスペクトル照準器、最大5kmの砲発射式誘導ミサイル、モジュール式爆発反応装甲も説明している。T-90Mそのものの保証値ではないが、両型が共有する設計思想を理解する基準にはなる。

ここで重要なのは、最高速度や砲口径だけを見ないことだ。現代戦車の性能は、敵を先に発見し、正確な射撃諸元を作り、味方と位置情報を共有し、被弾しても乗員と車両の損害を抑える一連の能力で決まる。T-90Mの進化は、単独の数字よりシステム全体に表れている。

T-72系戦車とT-90M級戦車の設計比較
T-72系の車体基盤を継承しながら砲塔・センサー・防御を更新した発展

T-90MはT-72系からどう進化したのか

T-90Mの近代化ポイント

T-72は1970年代に登場した量産向け主力戦車である。低い車高、3名乗員、車体中央の戦闘室、床下のカルーセル式自動装填装置、後部のディーゼルエンジンという基本構成は、T-90Mにも受け継がれた。

この共通性があるため、T-90Mを「T-72の派生型」と呼ぶ説明は間違いではない。ただし、派生型という言葉から小規模な改修を想像すると実態から離れる。T-90Mでは砲塔が新設計となり、照準・通信・弾薬収納・防御モジュールまで手が入った。ロステック自身も、T-90Mの特徴として「根本的に新しい砲塔」を明記している。

進化を段階で整理すると、次のようになる。

車種設計上の位置づけ主な特徴T-90Mとの差
T-72BT-72系列の冷戦期発展型低い車体、自動装填、125mm砲、複合装甲火器管制、夜間視察、通信、全周防御が旧世代
T-72B3/B3M既存T-72Bの費用対効果重視改修熱線映像照準器、新型無線機、砲・エンジン・ERAの更新旧来の砲塔構造と車内配置を強く残す
T-90AT-90系列の2000年代型溶接砲塔、熱線映像装置、1,000馬力級エンジン車長の全周監視、砲塔後部収納、デジタル統合で劣る
T-90MT-72/T-90系の包括的再設計新砲塔、レリークトERA、車長用独立照準、RWS、情報共有系列の量産基盤を維持しつつ戦闘システムを刷新

T-72B3は、保管・配備済みのT-72Bを比較的安価に再生する発想が強い。新しい照準器や無線機、後期型では強化エンジンや追加防御を得た一方、車長席や砲塔の基本的な人間工学は旧設計の制約を受ける。T-90Mは同じ血統にありながら、新砲塔を用いてその制約を一段深く解消しようとした車両だ。

言い換えれば、T-72B3は「古い家の配線と設備を更新する改修」であり、T-90Mは「基礎と柱を残しながら上屋を建て替える大改装」に近い。どちらもT-72系だが、投じた費用と狙う性能水準が異なる。

火力|125mm砲より照準・指揮能力の進化が大きい

125mm滑腔砲と自動装填装置

T-90M125mm滑腔砲を装備し、徹甲弾、対戦車榴弾、榴弾、砲発射式対戦車誘導ミサイルを運用できる。公開資料では主砲の細かな型式表記に揺れがあるため、2A46M系列と捉えるのが安全である。輸出型T-90MSの公式資料では、125mm砲の搭載弾数を40発、砲発射式誘導ミサイルの射程を最大5,000mとしている。

床下のカルーセル式自動装填装置には、一般に22発の即応弾が収められる。装填手を必要としないため、乗員は3名で済み、砲塔を小さくして車高と重量を抑えられる。一方で、弾薬が乗員区画の近くに置かれる構造は、弾薬誘爆時の危険を完全には解消できない。T-90Mは収納方法を改善したが、西側戦車のように全弾を砲塔後部の隔離区画へ置く設計へ転換したわけではない。公開資料は、砲塔後部バスルへの予備弾収納と、カルーセル内22発の併用を示している。

車長が次の目標を探すハンター・キラー能力

T-90Mの火力で、私は砲そのもの以上に照準系を重視する。砲手が現在の目標を追尾している間に、車長が独立した全周照準器で次の目標を探し、優先順位を付け、砲塔を指向させるハンター・キラー能力は、交戦のテンポを変えるからだ。

T-90MSの公式説明では、砲手と車長のマルチスペクトル照準器により、停止・走行中を問わず、昼夜に目標を発見、識別、攻撃できるとされる。ロシア軍向けT-90Mでも、新型マルチチャンネル照準器は主要改良点として公式に説明されている。

戦車砲は鉄の槍だが、先に敵を見つける照準器は、その槍を振るう時間そのものを買う。T-90Mの火力向上とは、貫徹力だけではなく、発見から初弾発射までの時間を削ったことだ。

遠隔操作式機銃

砲塔上には12.7mm遠隔操作式機銃が置かれる。従来の対空機銃では、車長がハッチから上体を出して操作する場面があった。遠隔化により、小型車両、歩兵、低空目標へ車内から対処できる。ドローンを確実に撃墜できる万能装備ではないが、車長の露出を減らす意味は大きい。

T-90M級戦車の砲塔と複合防御装備
モジュール式防御、車長用照準器、遠隔操作銃塔を集約した新型砲塔

防御力|新砲塔とレリークトERAは何を変えたのか

防御力を評価するときの注意点

新型溶接砲塔とモジュール式防御

T-90Mの外観で最も目立つ変化は、角張った新型溶接砲塔である。従来のT-72や初期T-90が持つ丸みの強い砲塔とは輪郭が異なり、前面と側面へ爆発反応装甲を配置しやすい構造になった。

T-90Mにはレリークト爆発反応装甲が使われる。ERAは、被弾時に装甲モジュール内部の反応を利用し、成形炸薬弾のメタルジェットや運動エネルギー弾の侵徹体へ作用する追加防御である。公開資料では、旧来のコンタークト5より性能と整備性を高め、前面モジュールを野外で交換しやすくしたと説明されている。車体・砲塔の側後部には、金網、スラット装甲、追加装甲板も組み合わされる。

ただし、ERAの存在を「被弾しても無傷になる装甲」と理解してはいけない。ERAは一度作動した区画に防御上の穴が生じ、複数方向からの連続攻撃、地雷による履帯損傷、上面への攻撃、砲塔や車体のセンサー破壊までは一枚で防げない。現代の戦車防御は、装甲厚だけでなく、煙幕、警報装置、地形利用、歩兵・防空部隊との協同、損傷車両の回収まで含む体系である。

弾薬誘爆対策は改善したが、根本問題は残る

T-72系が批判される理由の一つが、戦闘室床下の自動装填装置と弾薬配置である。車体側面を貫通され、弾薬が激しく燃焼・誘爆すると、砲塔が吹き飛ぶ壊滅的損傷につながり得る。

T-90Mでは、カルーセル外の予備弾を砲塔後部バスルへ移す設計が採られ、乗員区画に無造作に置かれる弾薬を減らす方向へ進んだ。これは明確な改善である。一方、即応弾を収める床下カルーセルは残っている。したがって「T-90Mは西側戦車と同じ完全隔離式弾薬庫になった」と説明するのは誤りだ。

防御力を評価する際は、車両が撃破されたかだけでなく、乗員が脱出できたか、損傷後に回収・修理できたかも見る必要がある。車両生存性と乗員生存性は重なるが、同じ指標ではない。

アクティブ防護システムは標準装備なのか

T-90MにはアレーナMなどのハードキル型アクティブ防護システムを搭載できるという報道がある。しかし、公開写真と公式説明だけでは、すべての量産車に同一の迎撃システムが標準装備されているとは確認しにくい。資料によっては搭載を断定する一方、「類似するように見える」と慎重な書き方もあり、実車の生産ロット差も大きい。

したがって、T-90Mの確実に確認できる防御の中核は、基礎装甲、レリークトERA、煙幕・警報系、側後部の追加装甲と考えるべきだ。APSの有無を一律に断定すると、試験車、展示車、実戦配備車を混同する。

機動力|重すぎないことがロシア戦車の強み

T-90Mの重量は公開資料で約46.5〜48トンとされる。輸出型T-90MSの公式値は48トン、出力重量比23馬力毎トンで、最高速度70km/h、航続距離500kmである。T-90Mの公開値は資料によって最高速度60〜70km/h、航続距離500〜550km程度の幅がある。

60トンを超える西側主力戦車と比べれば軽く、橋梁、鉄道輸送、軟弱地盤、回収作業で有利になり得る。低い車体は発見されにくさにもつながる。1,130馬力級エンジンを前提にすれば、出力重量比はおおむね23〜24馬力毎トンで、主力戦車として不足のない水準だ。

一方、T-72系の小型車体を受け継いだため、車内は狭く、長時間任務での乗員負担は小さくない。変速機や後退性能も、西側最新戦車と比べて弱点として語られやすい。近代化で操縦支援は改善したが、車体の基本寸法まで変えた新設計ではないため、古い設計上の妥協は残る。

私はT-90Mの機動力を、舗装路上の最高速度ではなく「鉄道で運べるか、泥濘で沈みにくいか、故障時に既存部隊が扱えるか」で評価する。戦場で重要なのはカタログ上の瞬間速度より、部隊全体が移動と整備を繰り返せることだからだ。

T-90MとT-90A、T-72B3の違い

T-90Aとの違い

T-90Aは溶接砲塔、熱線映像装置、1,000馬力級エンジンを備え、初期T-90から大きく進歩した車両だった。しかしT-90Mでは、砲塔そのものを再設計し、レリークトERA、車長用独立照準器、遠隔操作式機銃、デジタル火器管制・通信、砲塔後部の弾薬収納を統合した。T-90Aが「従来T-90の完成度を高めた型」なら、T-90Mは「T-90の戦闘システムを組み直した型」である。

T-72B3との違い

T-72B3の最大の長所は、膨大なT-72B在庫を再生できる費用対効果にある。熱線映像照準器、デジタル無線、改良砲、新型エンジン、追加装甲を導入でき、旧型T-72を現代戦へ戻す効果は大きい。

しかしT-72B3は旧砲塔の基本形を残すため、車長の視察、装備配置、弾薬収納、全周防御を一体で最適化する余地が限られる。T-90Mは新砲塔により、この部分へより大規模な投資を行った。T-72B3が数を埋める中核改修車なら、T-90Mは精鋭部隊へ優先配備する上位車種という役割分担が見える。

比較点T-72B3/B3MT-90AT-90M
目的既存車の低コスト近代化T-90系列の量産・性能向上新砲塔を含む包括的近代化
砲塔T-72B由来を維持溶接砲塔新設計溶接砲塔
車長の索敵型・ロット差が大きい旧世代構成独立全周照準で強化
防御Kontakt-5または追加ReliktなどKontakt-5中心Reliktとモジュール式追加防御
機銃車長露出を伴う仕様が多い従来式遠隔操作式12.7mm機銃
情報共有無線・航法を更新限定的リアルタイムデータ交換を重視
弾薬収納旧来配置の制約が大きい旧来配置砲塔後部収納を追加、ただし床下カルーセルは維持

この量産性を重視する系譜は、ソ連戦車史の出発点となったT-34中戦車にも通じる。

ウクライナ戦争で見えたT-90Mの実力と限界

T-90Mはウクライナ戦争へ実戦投入され、撃破、損傷、放棄、鹵獲された車両も多数確認されている。写真・映像で確認できる損失だけを集計するOryxは、閲覧時点でT-90Mを156両記録している。内訳は破壊104両、損傷16両、損傷・放棄または放棄29両、鹵獲7両である。Oryx自身が、映像のない損失を含まないため実数は記録より多いと説明している。

別の視覚資料データベースWarSpottingにも、2026年5月8日にクピャンスク地区で破壊されたT-90Mが登録されており、最新型の損耗が2026年も続いていることが分かる。

ここから「T-90Mは弱い」と即断するのは早い。最新戦車であっても、地雷で履帯を切られ、砲撃でセンサーを壊され、FPVドローンに上面や機関室を繰り返し攻撃され、回収できなければ喪失する。対戦車ミサイル一発だけで勝敗が決まるのではなく、偵察ドローン、砲兵、地雷、徘徊型弾薬、歩兵、電子戦がつながった「撃破の連鎖」に捕まるのである。

私が実戦評価で重視するのは、撃破映像の派手さではない。何両が投入され、どの任務で使われ、何回の被弾に耐え、乗員が脱出し、何両が回収・再生されたかである。公開映像は損失の存在を証明できても、稼働率、修理復帰率、総出撃回数までは示さない。そのため、156両という視覚確認数は重大な情報だが、単独でT-90Mと他戦車の優劣を決める数字ではない。

実戦から読み取れる四つの教訓

第一に、上面防御は依然として弱点である。砲塔前面のERAを厚くしても、ハッチ、照準器、機関室上面、砲塔上面を完全に覆うことは難しい。

第二に、機動不能は撃破に近い。地雷や砲撃で履帯が外れた車両は、その場で無傷に見えても、ドローンや砲兵の再攻撃を受ける。回収車、煙幕、対ドローン防護が到着できなければ放棄される。

第三に、センサーは装甲より脆い。車長照準器、砲手照準器、気象センサー、アンテナを失えば、主砲とエンジンが生きていても戦闘力は急落する。T-90Mが強化した電子・光学装備は、能力の源であると同時に守るべき急所でもある。

第四に、単車性能より諸兵科連合が重要である。戦車の周囲に歩兵、工兵、短距離防空、電子戦、砲兵、無人機がいなければ、高価な最新戦車も孤立する。この点はT-90Mだけでなく、M1エイブラムスレオパルト2、チャレンジャー2にも共通する。

西側戦車との思想差は、M1エイブラムスレオパルト2の設計と比べるとより明確になる。

対ドローン追加装備で姿が変わるT-90M

ウクライナ戦争では、T-90Mを含むロシア戦車に砲塔上のケージ、金網、側面スクリーン、追加ERA、電波妨害装置が取り付けられるようになった。WarSpottingの記録でも、ロシア戦車に「cope cage」「jammer」「additional armour」といった装備タグが頻繁に付いている。

これらは見栄えを損ない、砲塔旋回、視界、重量配分、整備性へ悪影響を与える場合がある。それでも装着されるのは、FPVドローンや徘徊型弾薬が従来の戦車設計で想定した方向以外から襲来するためだ。

ケージは万能ではない。成形炸薬弾を車体から離れた位置で起爆させる、プロペラや信管を損傷させる、投下弾を跳ね返す可能性はあるが、攻撃角度、弾頭、命中位置、複数回攻撃で効果が変わる。電子妨害装置も、周波数を変更する機体、自律航法、光ファイバー誘導型ドローンには限界がある。

T-90Mの戦場改修は、戦車が完成品ではなく、脅威に合わせて外皮を変え続ける兵器になったことを示している。今日の最適解が、半年後には新しい攻撃手段で陳腐化する。この速度こそ、現代装甲戦の厳しさである。

T-90Mはなぜ量産され続けるのか

T-90Mの強さを理解するには、一両の性能だけでなく工業生産を見る必要がある。IISSは2025年の分析で、ロシアがT-90Mの新造を増やしており、2025年以降は年間150〜200両を生産できる可能性があると推定した。これは公式確定値ではなく、IISSの分析値である点に注意が必要だ。

重要なのは、T-90MT-72/T-90系の生産・整備資産を活用できることだ。完全新設計戦車では、専用部品、専用工具、教育課程、回収・整備体系を一から整えなければならない。T-90Mは新砲塔や電子装備を導入しつつ、長年蓄積されたディーゼルエンジン、走行装置、自動装填装置125mm弾薬、訓練体系との連続性を確保した。

この連続性は、性能上の妥協と引き換えである。車内の狭さや弾薬配置の根本構造まで刷新するには、別の車体が必要になる。それでも戦時生産では、理想的な一両より、一定水準の車両を継続的に補充できる能力が戦力を左右する。

T-90Mは「未来の戦車」ではなく、「現在の戦争に間に合う最新戦車」だ。この違いは大きい。最新技術の展示会では前者が目立つが、消耗戦では後者が部隊編制を支える。

T-90Mは世界最強戦車なのか

結論から言えば、公開情報だけでT-90Mを世界最強と断定することはできない。複合装甲の材質、最新徹甲弾の性能、熱線映像装置の解像度、電子戦環境での通信能力、乗員練度、整備状態など、比較に必要な情報の多くが非公開だからだ。

M1A2エイブラムスやレオパルト2系列は、より大きな車体と4名乗員を前提に、重防御、デジタル電子装備、120mm砲を発展させてきた。一方、T-90Mはより軽量で、低いシルエット、3名乗員、既存のT-72/T-90系インフラ、継続生産という強みを持つ。比較すべきなのは単純な装甲厚ではなく、各国がどの運用体系へ戦車を組み込んでいるかである。

K2ブラックパンサーは、120mm55口径砲、自動装填装置、統合火器管制、油気圧式サスペンションを組み合わせた別の近代化思想を持つ。一方、T-90Mには大規模戦争での運用・損耗・現地改修データが蓄積されている。兵器としての新しさと、戦時に得られる学習量は別の尺度である。

私は「最強戦車」を一対一の決闘で決める考え方に慎重である。戦車はボクサーではなく、補給、偵察、工兵、砲兵、防空、無人機から成るチームの一員だからだ。T-90Mの危険さは、すべての性能で首位に立つことではなく、十分に高い性能の車両を既存体系へ組み込み、損失が出ても補充しようとする工業力にある。

自動装填とネットワーク化を重視した別解として、K2ブラックパンサーも比較対象になる。

T-90Mの弱点

T-90MT-72系の弱点を減らしたが、消し去ったわけではない。

車内が狭い

低いシルエットと軽量化は被発見率や輸送性に利点がある一方、乗員空間を圧迫する。防寒装備、防弾装備、通信機器を身につけた乗員が長時間活動する場合、疲労は判断と射撃速度へ影響する。

床下カルーセルに即応弾が残る

砲塔後部収納の追加は改善だが、自動装填装置の即応弾22発は戦闘室床下に残る。側面・上面から深く貫通された場合、誘爆リスクをゼロにはできない。

上面と外部センサーを守り切れない

ドローン時代には、従来なら比較的安全とされた上面が繰り返し攻撃される。追加ケージで覆っても、照準器、アンテナ、機関室の吸排気、ハッチ、砲の可動範囲を完全に塞ぐことはできない。

公開仕様の不透明さ

T-90Mは生産ロットと現地改修で装備差が大きく、エンジン出力、照準器、APS、電子妨害装置、追加装甲を一つの固定仕様として語りにくい。展示車の装備を全量産車へ当てはめると、実態を過大評価する恐れがある。

よくある質問

T-90MはT-72を改造した戦車なのか

設計血統としてはT-72Bを基礎とするが、単に既存T-72へ装甲板を追加しただけではない。T-90系列として新造された車両があり、T-90Mでは新砲塔、照準装置、通信、弾薬収納、防御モジュールを包括的に更新している。T-72系の発展型であると同時に、T-72B3より深い再設計を受けた別格の近代化型である。

T-90MとT-14アルマータは何が違うのか

T-90Mは有人砲塔とT-72系由来の車体配置を持つ現実的な量産型である。T-14は無人砲塔と車体前部の装甲乗員カプセルを採る、設計思想から異なる別系統の戦車だ。T-90Mは既存インフラとの連続性と生産性を優先し、T-14は将来技術を先行させた車両と整理できる。

T-90Mの主砲は西側120mm砲より強いのか

口径だけでは決まらない。125mm砲は自動装填と砲発射式誘導ミサイルに強みがある一方、実際の貫徹力は使用する徹甲弾、砲身、射撃距離、命中角、相手の装甲で変わる。西側120mm砲も弾薬と火器管制の改良を続けており、機密データなしに一方を断定的に上とすることはできない。

T-90Mはドローンに弱いのか

T-90Mだけが特別に弱いのではなく、すべての戦車が小型ドローンによる上面攻撃と反復攻撃へ苦しんでいる。T-90Mは追加ケージ、金網、ERA、電子妨害装置で対策するが、完全防御は難しい。重要なのは戦車単体ではなく、短距離防空、電子戦、歩兵、偵察、回収部隊を含む防護体系である。

T-90Mは何両あるのか

ロシアは正確な保有数と新造・改修の内訳を公開していない。IISSは2025年以降に年間150〜200両を新造できる可能性を示したが、これは分析上の推定である。また、Oryxは閲覧時点で156両の視覚確認損失を記録しているが、これも総配備数を直接示す数字ではない。

まとめ|T-90Mは「古い戦車の延命」ではなく、量産可能な再設計である

T-90M戦車は、T-72Bから続く低い車体、3名乗員、125mm砲、自動装填装置、ディーゼル機関という基本思想を受け継いでいる。その意味では、確かにT-72系の末裔である。

しかし進化の中心は、新型砲塔、レリークトERA、昼夜兼用照準器、車長用独立照準装置、遠隔操作式機銃、デジタル通信、砲塔後部の弾薬収納にある。T-72B3が既存車両を費用対効果重視で近代化する型なら、T-90Mは砲塔と戦闘システムまで踏み込んで作り直した上位型だ。

ウクライナ戦争では多数の損失が確認され、最新戦車でも地雷、砲兵、ドローン、対戦車兵器の連携から逃れられない現実が示された。一方、損失が続いても生産と配備が継続していることは、T-90Mがロシア軍の装甲戦力で重要な位置を占める証拠でもある。

T-90Mを理解する鍵は、「T-72の古さ」と「最新装備の新しさ」のどちらか一方へ寄せないことだ。古い骨格を残したから大量生産と整備が可能になり、古い骨格を残したから弾薬配置や居住性の限界も残った。その長所と弱点は、同じ設計判断の表裏である。

T-90Mは無敵の戦車ではない。だが、無敵ではない兵器を大量に作り、修理し、改修し、再び戦場へ戻す仕組みこそ、長期戦では恐ろしい。これがT-90Mという戦車の本質である。

東アジアの戦車設計との違いは、中国99式戦車と日本10式戦車の比較で整理している。

主な参照資料

  • <a href="https://rostec.ru/en/news/russian-army-receives-first-t-90m-proryv-tanks/">rostec.ru</a>
  • <a href="https://rostec.ru/en/media/news/uralvagonzavod-delivered-the-t-90m-and-t-72b3m-tanks-to-the-field-on-the-eve-of-the-victory-day/">rostec.ru</a>
  • <a href="https://elements.rostec.ru/en/media/news/a-contract-for-supply-of-uralvagonzavod-s-t-90s-tanks-to-india-marks-it-25th-anniversary/">elements.rostec.ru</a>
  • <a href="https://www.roe.ru/en/production/land-forces/tanks/tank-t-90ms/?theme=theme-green">roe.ru</a>
  • <a href="https://www.moore.army.mil/armor/eARMOR/content/issues/2001/SEP_OCT/ArmorSeptemberOctober2001web.pdf">U.S. Army Armor:T-90 development background</a>
  • <a href="https://www.benning.army.mil/Armor/eARMOR/content/issues/1995/MAR_APR/ArmorMarchApril1995web.pdf">U.S. Army Armor:T-90 historical assessment</a>
  • <a href="https://www.army.mil/article/153124/transforming_into_t_90_mbts">U.S. Army:Transforming into T-90 MBTs</a>
  • <a href="https://rostec.ru/media/news/uralvagonzavod-postavil-v-armiyu-partiyu-t-90m-proryv/">Rostec:T-90M Proryv delivery announcement</a>
  • <a href="https://roe.ru/upload/pdf/47009_post.pdf">roe.ru</a>
  • <a href="https://www.gov.uk/government/groups/defence-intelligence">UK Government:Defence Intelligence</a>

参考資料・主な出典

世界最強戦車ランキング|資料を確認

T-34中戦車|資料を確認

M1エイブラムス|資料を確認

レオパルト2|資料を確認

K2ブラックパンサー|資料を確認

中国99式戦車と日本10式戦車の比較|資料を確認

rostec.ru|資料を確認

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U.S. Army Armor:T-90 development background|資料を確認

U.S. Army Armor:T-90 historical assessment|資料を確認

U.S. Army:Transforming into T-90 MBTs|資料を確認

Rostec:T-90M Proryv delivery announcement|資料を確認

roe.ru|資料を確認

UK Government:Defence Intelligence|資料を確認

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