2期5話のタイトルは「貧乏籤」。この回で、帝国は連邦の資源地帯を押さえるための大攻勢「アンドロメダ計画」に踏み切る。
そして6話でターニャたちは「囮」になり、7話の「煉獄」でアンドロメダ計画は頓挫する。たった3話の間に、大攻勢が始まり、行き詰まり、終わっていく。見ていて、何がどう失敗したのかがつかみにくかった人もいると思う。
ミリタリーの目で見ると、この作戦にははっきりした下敷きがある。第二次大戦中の1942年、ドイツ軍がソ連の油田を狙って南へ攻め込んだ「ブラウ作戦」だ。資源を狙った大攻勢、反対して中央から外される参謀、伸びきった補給線、むき出しの側面。並べてみると、筋書きがほとんど同じなのに驚く。
この記事では、アンドロメダ計画の目的、戦線、補給を整理し、史実のブラウ作戦と比べる。さらに、第一次大戦にもあった「東の資源」を狙う動きにも触れる。ネタバレは2期の公式あらすじと、原作8巻の公式の紹介文の範囲までにとどめる。
- アンドロメダ計画は、連邦の資源地帯を押さえるための帝国の大攻勢。講和の条件をさらに有利にする狙いもあった
- 原作では、ゼートゥーアが無謀だと反対し、参謀本部から東部へ「栄転」させられる。補給線は伸びきり、兵站は崩壊寸前、側面は大きくむき出しになっていた
- 史実で最も近いのは、1942年にドイツ軍がソ連の油田を狙ったブラウ作戦。燃料を取りに行った軍隊が、燃料不足で止まった
- ターニャたちはソルディム528陣地を守り抜くが、アンドロメダ計画そのものは頓挫する。戦場で勝っても作戦は救えなかった
- 第一次大戦の1918年にも、ドイツは東の穀物と油田に手を伸ばしている
アンドロメダ計画とは
2期のあらすじで見る流れ
まず、公式サイトの2期のあらすじから、作戦の前後の流れを整理しておく。

ここから分かるのは、アンドロメダ計画が、軍事だけでなく外交の駆け引きと結びついた作戦だったということだ。講和の話が出ているのに、帝国は「もっと有利な条件で」と攻勢を重ねる。その延長線上に、資源地帯への大攻勢がある。
原作8巻の紹介文で見る作戦の中身
原作でこの作戦が描かれるのは8巻だ。KADOKAWAの公式の紹介文は、作戦の危うさをはっきり書いている。
ゼートゥーアは、この作戦を無謀だと説いていた。その結果、参謀本部から東部への「栄転」を言い渡される。紹介文がわざわざかぎかっこを付けているとおり、実態は中央からの追い出しだ。補給線は伸びきり、兵站は崩壊寸前で、長い側面が大きくむき出しになっている。そしてゼートゥーアは、ターニャの率いる戦闘団に、撤退を許されない籠城戦という特別な任務を与える。人も食料も砲弾も足りない中で、火力の不足を血と覚悟で補えと迫られる戦いだ。
2期6話でターニャたちが守るソルディム528陣地は、この籠城戦の舞台にあたる。
アンドロメダ計画の目的
アンドロメダ計画の目的は、公式のあらすじによれば、連邦の資源地帯を制圧することだ。ただ、その裏には二つの狙いが重なっているように見える。
一つは、戦争を続けるための資源だ。四方を敵に囲まれた帝国は、長い総力戦の中で、人も物も足りなくなっている。資源地帯を手に入れれば、戦い続ける力が増える。
もう一つは、交渉の材料だ。5話のあらすじは、帝国が「さらに有利な条件」を得ようとして攻勢に踏み切ったと書く。相手の大事な資源地帯を押さえれば、講和の席で強く出られる。
この二つの狙いは、どちらも筋は通っている。問題は、資源地帯が遠いことだ。遠い目標に向かって大軍を進めるほど、補給線は伸び、側面は薄くなる。資源を手に入れるための作戦が、資源を食いつぶしていく。アンドロメダ計画の失敗は、この矛盾の中にあった。
史実で最も近いもの|1942年のブラウ作戦
全部は攻められないから、南だけを攻めた
ブラウ作戦を理解するには、その前の年の冬から見る必要がある。1941年、ドイツ軍はソ連に攻め込んだが、冬のモスクワの前で止められ、大きな損害を出した。その様子はモスクワの戦いで書いた。
1942年のドイツ軍には、もう長い東部戦線の全体で攻勢をかける力は残っていなかった。そこで、戦力を南に集め、いちばん価値のある目標、つまり石油に賭けることにした。全体では勝てないから、一か所に賭ける。資源地帯を狙う大攻勢は、強さの表れではなく、むしろ苦しさの表れだった。
アンドロメダ計画も、2期の早すぎる冬とゲリラに消耗し、四方を敵に囲まれた帝国が選んだ大攻勢だ。追い詰められた側が、一発逆転を狙って資源に賭けるという構図は、ここでも同じだ。この大攻勢と並行して、ドイツ軍がクリミア半島の要塞を落とし、南の側面を固めた戦いについては、セヴァストポリ包囲戦とはを見てほしい。
油田を目指した大攻勢
1942年の夏、ドイツ軍はソ連の南部で大攻勢を始めた。作戦名は「ブラウ(青)」。目標は、コーカサス地方のマイコープ、グロズヌイ、そしてバクーの油田だった。石油を手に入れてドイツの戦争を支え、同時にソ連から石油を奪う。それが作戦の柱だった。
ヒトラーは1942年4月5日の指令でこの作戦の方針を示し、6月28日に攻勢が始まる。7月には南方軍集団を二つに分け、23日の指令で、一方をコーカサスの油田へ、もう一方をヴォルガ川とスターリングラードへ同時に向かわせた。限られた戦力で、二つの目標を同時に追う形になったのだ。
燃料を取りに行った軍隊が、燃料不足で止まる
ブラウ作戦の皮肉は、補給にあった。攻勢が始まってまもない7月には、もう燃料不足が始まっている。ドイツ軍は油田を目指して進めば進むほど、自分たちの燃料を使い果たしていった。
8月9日には、マイコープの油田を手に入れる。しかしソ連軍は、退く前に施設を徹底的に壊していた。修理には1年ほどかかる状態で、石油はすぐには取れなかった。その先のグロズヌイには届かず、バクーに至っては、ドイツの戦闘機が届く範囲の外だった。コーカサスへ向かった軍は、11月には進撃の限界に達している。
むき出しの側面と、反対した参謀
さらに、伸びきった戦線の側面は、主にルーマニア、ハンガリー、イタリアの軍が守っていた。装備も兵力も十分ではない部隊だった。1942年11月19日、ソ連軍はこの弱い側面を突いて大反撃に出て、スターリングラードのドイツ第6軍を包囲する。ブラウ作戦はここで決定的に崩れた。その結末はスターリングラードの戦いで詳しく書いた。
そして、作戦の進め方をめぐってヒトラーと対立した陸軍参謀総長ハルダーは、1942年9月に解任されている。無謀を説いた参謀が、中央から外される。ゼートゥーアの「栄転」と、驚くほどよく似ている。
並べて比べる
| 項目 | アンドロメダ計画(幼女戦記) | ブラウ作戦(1942年) |
|---|---|---|
| 目標 | 連邦の資源地帯 | ソ連のコーカサスの油田 |
| もう一つの狙い | 講和の条件を有利にする | ソ連から石油を奪い、戦争を有利にする |
| 反対した人物 | ゼートゥーア。参謀本部から東部へ「栄転」 | 陸軍参謀総長ハルダー。1942年9月に解任 |
| 補給 | 補給線は伸びきり、兵站は崩壊寸前 | 攻勢の始まった7月から燃料不足 |
| 側面 | 長い側面が大きくむき出し | 同盟国の軍が守る弱い側面 |
| 結果 | ソルディムは守ったが、作戦は頓挫 | 油田はほとんど手に入らず、スターリングラードで大敗 |

もちろん、アンドロメダ計画は作品の中の作戦で、ブラウ作戦をそのまま写したわけではない。戦場の地名も、戦いの細部も違う。それでも、「資源を狙う大攻勢が、補給の限界とむき出しの側面に阻まれる」という骨組みは、ほぼ同じだと言っていい。
第一次大戦にもあった「東の資源」
幼女戦記の帝国は、第一次大戦のドイツ帝国の体制で、第二次大戦の戦場を戦う国だ。その見方は、この特集の『幼女戦記の帝国はドイツがモデル?』で書いた。アンドロメダ計画についても、実は第一次大戦の側にも似た話がある。
1918年、ロシア革命で東部戦線の戦いが終わると、ドイツはウクライナに軍を進め、その穀物を手に入れようとした。イギリスの海上封鎖で食料に苦しんでいたドイツにとって、ウクライナの小麦は命綱になるはずだった。さらにドイツは、コーカサスのジョージアにも部隊を送り、バクーの油田にも目を向けている。
しかし、ウクライナから期待したほどの穀物は集まらず、バクーの油田がドイツの手に入ることもなかった。そして同じ年の秋、ドイツは西部戦線で力尽きる。
東の資源を押さえれば、戦争を続けられる。ドイツは二つの大戦で、同じ夢を二度見て、二度とも届かなかった。アンドロメダ計画は、その二つの夢を一つに重ねたような作戦に見える。
補給の目で見ると、なぜ届かないのか
資源を狙う大攻勢が失敗しやすいのは、補給の仕組みを考えるとよく分かる。

まず、距離だ。資源地帯は、たいてい前線から遠い。進めば進むほど、弾や燃料や食料を運ぶ距離が伸びる。しかも、運ぶためのトラックや機関車も燃料を使う。
次に、道と鉄道だ。史実の独ソ戦では、ソ連の鉄道の線路の幅がドイツやヨーロッパの多くの国より広く、ドイツ軍は占領した線路を自分たちの車両が走れる幅に付け替えながら進まなければならなかった。道路も舗装されていないところが多く、雨が降れば泥の海になった。
そして、相手の動きだ。ソ連軍は退く前に油田や施設を壊した。手に入れた資源地帯が、すぐには使えない。作戦の成功が、そのまま資源の獲得にはつながらないのだ。
戦務参謀次長として補給を担うゼートゥーアが、この作戦に反対した理由は、ここにある。補給の専門家ほど、資源攻勢の危うさがよく見えていた。ゼートゥーアと、史実で同じく補給を担った将軍との重なりは、『幼女戦記の将軍にモデルはいる?』で書いた。独ソ戦の補給の問題は、バルバロッサ作戦とはでも詳しく扱っている。
ソルディムを守っても、作戦は救えない
2期7話のあらすじは、短い一文で残酷な現実を突きつける。ソルディムは持ちこたえたが、アンドロメダ計画は頓挫した。

ターニャたちは、撤退を許されない陣地で、囮として敵を引きつけ、守り抜いた。戦場の一つの戦いとしては、勝ったと言っていい。それでも、作戦全体は失敗する。どれほど現場が奮戦しても、補給と側面という作戦の骨組みが崩れていれば、作戦は救えない。
包囲された陣地で救援を待つ戦い方は、史実のドイツ軍の戦闘団もよく経験したものだ。その例は『幼女戦記2期のサラマンダー戦闘団とは?』で紹介した。
7話の後半で、帝都に戻ったターニャは、後方がなお勝利に執着していることに衝撃を受ける。前線では作戦が頓挫しているのに、後方はまだ大きな勝利を信じている。このずれこそ、アンドロメダ計画が残した最大の教訓なのかもしれない。
「アンドロメダ」という名前
最後に名前の話をしておく。アンドロメダは、ギリシア神話に出てくる王女の名前だ。神々の怒りを鎮めるため、海の怪物への生け贄として岩に鎖でつながれ、英雄ペルセウスに救われる。
作者がこの神話を意識して名付けたのかは分からない。ただ、撤退を許されない陣地に部隊を縛りつけ、囮にする作戦の名前として見ると、少しぞっとする。岩に鎖でつながれたのは、ソルディム528陣地のターニャたちだったのかもしれない。そして、そのターニャたちが救援を待った相手が、作戦に反対して東部へ追いやられたゼートゥーアだったというのも、どこか神話めいている。
幼女戦記と独ソ戦をもっと知るなら
2期はABEMAとdアニメストアが最速の配信先で、11月5日からはNetflixでの配信も始まる。配信の状況は時期によって変わるので、見る前に各サービスで確かめてほしい。4話から7話までを続けて見ると、講和の駆け引きからアンドロメダ計画の頓挫までが一本の線でつながって見える。
アンドロメダ計画の失敗を補給の目で理解したいなら、補給の歴史を描いた古典『補給戦』がいちばんの近道だ。独ソ戦でドイツ軍の補給がなぜ伸びきったのかが、よく分かる。
ブラウ作戦の行き着いた先、スターリングラードの戦いを映像で知りたいなら、映画『スターリングラード』もある。
よくある質問
アンドロメダ計画とは?
『幼女戦記Ⅱ』で、帝国が連邦の資源地帯を制圧するために始めた大攻勢だ。講和の条件をさらに有利にする狙いもあった。2期5話で始まり、7話で頓挫する。
アンドロメダ計画は原作の何巻?
原作8巻『In omnia paratus』で描かれる。公式の紹介文では、ゼートゥーアがこの作戦を無謀だと説いて、参謀本部から東部へ「栄転」させられたとされている。
アンドロメダ計画の元ネタは?
作者が明言したわけではないが、1942年にドイツ軍がソ連のコーカサスの油田を狙ったブラウ作戦によく似ている。資源を狙う目標、反対した参謀が外される流れ、伸びきった補給線、弱い側面まで共通している。
なぜアンドロメダ計画は失敗したの?
公式の紹介文では、補給線が伸びきり、兵站は崩壊寸前で、側面が大きくむき出しになっていたとされる。遠い資源地帯を狙う作戦は、進むほど補給が苦しくなる。史実のブラウ作戦も、同じ理由で行き詰まった。
ソルディム528陣地とは?
2期6話で、ターニャたちが包囲されながら守った陣地だ。ゼートゥーアの救援を待ちながら持ちこたえたが、アンドロメダ計画そのものは頓挫した。
まとめ|資源を取りに行く作戦が、資源を食いつぶした
アンドロメダ計画は、連邦の資源地帯を押さえ、戦争を続ける力と講和の材料を手に入れようとした帝国の大攻勢だった。しかし、補給の専門家ゼートゥーアが無謀だと説いたとおり、補給線は伸びきり、側面はむき出しになり、作戦は頓挫した。ターニャたちがソルディム528陣地を守り抜いても、作戦は救えなかった。
この筋書きは、1942年にソ連の油田を狙ったブラウ作戦とほとんど同じだ。そして1918年にも、ドイツは東の穀物と油田に手を伸ばして届かなかった。資源を取りに行く作戦が、資源を食いつぶしていく。アンドロメダ計画は、二つの大戦でドイツがたどった失敗を、一つの作戦に凝縮して見せている。
これで、幼女戦記特集はひと区切りだ。最初から読みたい人は『幼女戦記の国とモデル一覧』からどうぞ。
最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。







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