「中国が3隻目の空母を就役させた」——このニュースを聞いて、あなたはどう感じただろうか。
2024年に正式に就役した中国人民解放軍海軍の空母「福建」は、アジアにおける海軍力のバランスを一変させる可能性を秘めた、まさにモンスター級の艦だ。
特に注目すべきは、中国初となる「電磁カタパルト」の搭載。これは米海軍の最新空母「ジェラルド・R・フォード級」にしか採用されていない最先端技術であり、中国がついにここまで来たのかという驚きと、僕たち日本人が感じるべき危機感が入り混じる。
この記事では、中国の最新空母「福建」について、その性能、搭載される電磁カタパルトの革新性、前の2隻との違い、搭載される艦載機の詳細、そして日本の「いずも型」護衛艦との比較、さらには台湾有事や南シナ海情勢への影響まで、ミリタリー初心者の方にもわかりやすく徹底解説していく。
尖閣諸島や台湾有事が現実味を帯びる今、僕たちは隣国の軍事力拡大を正確に理解し、備える必要がある。
福建とは?中国3隻目にして初の「真の国産空母」

基本スペックと概要
空母「福建」(フージェン、艦番号18)は、2022年6月に進水し、2024年に就役した中国人民解放軍海軍の3隻目の空母だ。建造は上海の江南造船所で行われ、全長は約315メートル、満載排水量は推定8万トン超とされる。これは前の2隻を大きく上回る規模であり、米海軍の「ニミッツ級」(約10万トン)に迫る大型艦だ。
飛行甲板の全長は約310メートルに及び、3基の電磁カタパルトが艦首と艦中央部に配置されている。これにより、同時に複数の航空機を短時間で発艦させることが可能になる。艦橋は「山東」よりもさらに小型化され、飛行甲板の有効面積が最大化されている。
動力は通常型(非原子力)の蒸気タービンとされ、最高速度は30ノット程度と推定される。乗組員は約3000名以上で、これには航空要員も含まれる。艦内には航空機整備設備、弾薬庫、燃料タンクなど、長期作戦を支える膨大な支援設備が備わっている。
艦名の「福建」は、中国南東部の福建省に由来する。この省は台湾海峡を挟んで台湾と向かい合う位置にあり、命名には明確な政治的メッセージが込められている。中国の軍艦命名規則では、空母は省名を冠することになっており、「遼寧」は遼寧省、「山東」は山東省から取られている。次の空母は「江蘇」や「広東」になる可能性が高い。
なぜ「真の国産空母」なのか?
1隻目の「遼寧」は、もともとソ連が建造していた「ワリャーグ」を中国が買い取り、改修して就役させたものだった。この艦は1980年代後半に黒海造船所で建造が始まったが、ソ連崩壊により工事が中断。ウクライナが独立した後、廃棄寸前の状態で放置されていた。中国はこれを「海上カジノにする」という名目で購入し、大連造船所で10年以上かけて空母として完成させた。
2隻目の「山東」は設計こそ「遼寧」を踏襲した国産だが、基本コンセプトは旧ソ連の設計思想を引き継いでいる。スキージャンプ式の発艦方式、艦内配置、防御設計など、多くの部分が「遼寧」の改良版にすぎなかった。
しかし「福建」は違う。設計から建造まで完全に中国独自で行われ、しかも後述する電磁カタパルトという最先端技術を搭載した、真の意味での「中国オリジナル空母」なのだ。艦体設計も一から見直され、より効率的な飛行甲板レイアウト、改良された艦橋構造、最適化された格納庫配置など、中国の造船技術と空母運用経験が結実している。
かつて僕たちの先人が「大鳳」や「信濃」といった新しいコンセプトの空母を生み出そうとしたように、中国もまた独自の道を歩み始めた。「大鳳」は装甲飛行甲板を採用した画期的な空母だったが、魚雷1本の被雷で失われた悲劇の艦でもある。「信濃」は大和型戦艦の3番艦として建造中だったものを空母に改造した世界最大の空母だったが、就役後10日で潜水艦の雷撃により沈没した。これらの失敗と成功の歴史を、中国は学んでいる。
建造の経緯と技術的挑戦
「福建」の建造計画は2010年代半ばから始まっていたとされる。中国は「遼寧」の運用経験と「山東」の建造経験を踏まえ、次世代空母のコンセプトを練り上げた。
最大の技術的挑戦は、電磁カタパルトの開発だった。この技術は米海軍でさえ苦労しており、「フォード級」の初期には数々の不具合が報告された。中国はこの技術を独自開発したと主張しているが、実際には様々なルートで技術情報を入手し、それを基に改良を重ねたと見られる。
建造には最新のモジュール工法が採用された。艦体を複数のブロックに分けて同時並行で製造し、最後にドックで組み立てる方式だ。これにより建造期間が大幅に短縮された。江南造船所は中国最大級の造船所で、大型ドックと最新設備を備えており、「福建」のような巨大艦の建造に適していた。
進水式は2022年6月17日に行われた。この日は中国にとって特別な意味を持つ。ちょうど習近平国家主席の誕生日の翌日であり、党大会を控えた重要な時期でもあった。進水式には軍の高官や造船関係者が多数出席し、中国の造船技術の到達点を内外に示す場となった。
その後、2年間にわたる艤装工事と海上試験が行われた。電磁カタパルトの実射試験、艦載機の発着艦試験、各種システムの統合試験など、膨大なテストが繰り返された。特に電磁カタパルトは新技術であり、慎重な試験が必要だった。
そして2024年、正式に就役。中国海軍は遼寧、山東、福建の3隻体制となり、名実ともに空母大国の仲間入りを果たした。
電磁カタパルトとは何か?スキージャンプとの決定的な違い

カタパルトの役割と重要性
空母から航空機を発艦させる方法には、大きく分けて3つある。
- スキージャンプ式(「遼寧」「山東」「英国クイーン・エリザベス級」が採用)
- 蒸気カタパルト式(米空母ニミッツ級、フランス「シャルル・ド・ゴール」など)
- 電磁カタパルト式(米空母フォード級、そして「福建」)
この違いは、単なる技術の差ではない。空母の能力、ひいては海軍力全体を左右する本質的な差なのだ。
スキージャンプ式は、艦首を上向きに反らせた「ジャンプ台」から、戦闘機が自力で離陸する方式だ。構造がシンプルで整備も比較的容易だが、重い艦載機や燃料・兵装を満載した機体を飛ばすには限界がある。戦闘機は軽量状態でしか発艦できず、航続距離や攻撃力が制約される。
具体的に言えば、スキージャンプ式では戦闘機は内部燃料の50〜60%程度しか積めず、搭載できる武器も限られる。これは作戦半径が大幅に制限されることを意味する。例えば、フル装備なら1000キロ先まで攻撃できる戦闘機が、スキージャンプでは500〜600キロ程度までしか行けない。
一方、カタパルト(射出装置)を使えば、重い機体でも短い距離で高速に加速して発艦させられる。つまり、より多くの燃料と武器を積んだ状態で飛び立てるのだ。これは空母の攻撃力を飛躍的に高める。フル装備の戦闘機を飛ばせることで、作戦半径は倍近くになり、搭載できる対艦ミサイルや爆弾の量も2〜3倍になる。
さらに重要なのは、カタパルトがあれば早期警戒機や電子戦機、空中給油機といった大型支援機も運用できる点だ。これらの機体はスキージャンプでは飛ばせない。早期警戒機がないということは、空母打撃群の「目」が限られることを意味し、敵の接近を察知する能力が大きく劣る。
かつて日本海軍も、この問題に直面していた。真珠湾攻撃やミッドウェー海戦では、攻撃隊を発進させた後の空母は防御態勢が手薄になり、敵機の接近を早期に発見できないリスクがあった。もし空母搭載の早期警戒機があれば、ミッドウェー海戦の結果は変わっていたかもしれない。
蒸気式から電磁式へ:なぜ革新的なのか
従来の蒸気カタパルトは、高圧蒸気の力でピストンを動かし、機体を射出する。米海軍が長年使ってきた実績ある技術だが、問題もある。
まず、蒸気を作るための大型ボイラーが必要で、整備が複雑だ。カタパルトのシリンダーやピストンは高温高圧の環境にさらされ、頻繁なメンテナンスが必要になる。また、蒸気の圧力調整には限界があり、射出の加速度を細かく調整しにくい。これは機体への負荷が大きく、構造的な疲労が蓄積しやすいことを意味する。
さらに、蒸気カタパルトは発艦間隔が長い。一度射出すると、次の射出のために蒸気圧を再び高める必要があり、数分の待機時間が生じる。これは短時間に大量の航空機を発進させる必要がある場合、大きな制約となる。
電磁カタパルト(EMALS: Electromagnetic Aircraft Launch System)は、リニアモーターの原理を使い、電磁力で機体を加速する。これにより、以下のような革新的な利点が生まれる。
- 加速を精密に制御でき、機体への負荷を最適化できる
- 軽い無人機から重い早期警戒機まで、幅広い機体に対応可能
- メンテナンスが蒸気式より簡便
- エネルギー効率が良く、発艦間隔を短縮できる
- 機体の構造寿命が延びる
特に重要なのは、1つ目の「加速制御」だ。蒸気カタパルトでは、軽い機体も重い機体も同じような強い加速Gがかかる。これは軽い機体には過剰な負荷となり、構造を痛める。電磁カタパルトなら、機体の重量に応じて最適な加速度を設定できるため、無人機のような軽量機から40トン級の早期警戒機まで、すべてを最適な条件で射出できる。
また、発艦間隔の短縮も大きい。電磁カタパルトは連続射出が可能で、理論上は30秒ごとに1機ずつ発進させられる。これは緊急時の即応性を大幅に高める。例えば、敵の攻撃が迫っている状況で、迎撃機を一刻も早く上げたい場合、この差は決定的だ。
ただし、電磁カタパルトは技術的なハードルが極めて高い。膨大な電力を瞬時に供給する必要があり、そのための大容量エネルギー貯蔵システムが不可欠だ。また、リニアモーターの制御システムも高度なソフトウェアと精密な電子機器が必要になる。米海軍ですら「フォード級」の初期には不具合に悩まされ、実戦配備まで時間がかかった。
初期の「フォード」では、電磁カタパルトの故障率が高く、発艦できない事態が頻発した。エネルギー貯蔵システムのキャパシタが過熱したり、制御システムが誤作動したりといった問題が相次いだ。これらの問題は徐々に改善されたが、完全に解決するまでには数年を要した。
それを中国が「福建」で実現したことは、彼らの技術力が想像以上に進んでいることを示している。もちろん、実際の運用でどこまで安定して動作するかは、今後の試験と実戦配備で明らかになるだろう。しかし、少なくとも「形にした」という事実は重い。
僕たち日本人としては、かつて空母機動部隊で世界をリードした先人たちの技術力を思い出さずにはいられない。日本海軍は世界で初めて空母同士の海戦を経験し、空母運用のノウハウを蓄積した。珊瑚海海戦、そしてミッドウェー海戦——これらは人類史上初の「空母決戦」だった。だが同時に、今の中国がその遺産を学び、追い越そうとしている現実も直視しなければならない。
電磁カタパルトがもたらす戦術的変化

電磁カタパルトの搭載は、空母の戦術運用を根本から変える。
まず、攻撃力の向上だ。フル装備の戦闘機を多数発進させられることで、一度の攻撃で投射できる火力が2〜3倍になる。例えば、対艦ミサイル4発を搭載した戦闘機を20機発進させられれば、合計80発のミサイルを一斉に敵艦隊に叩き込める。これはイージス艦の防空システムを飽和させるのに十分な数だ。
次に、防空能力の強化だ。戦闘機を常時空中に待機させる「戦闘空中哨戒(CAP)」を維持しやすくなる。スキージャンプ式では、燃料を満載できないため、CAPの継続時間が限られる。しかし電磁カタパルトなら、フル燃料の戦闘機を次々と上げられるため、常に複数機を空中に維持できる。
そして最も重要なのは、早期警戒機の運用だ。中国が開発中の艦載早期警戒機「KJ-600」は、推定30トン以上の重量がある。これはスキージャンプでは絶対に飛ばせない。電磁カタパルトがあって初めて運用可能になる。
早期警戒機があれば、空母打撃群の索敵範囲は500キロ以上に拡大する。敵の艦隊や航空機を早期に発見し、味方戦闘機を最適な位置に誘導できる。これは「情報優勢」を握ることを意味し、現代の海戦では決定的なアドバンテージとなる。
かつてミッドウェー海戦で、日本の南雲機動部隊は米空母の位置を把握できず、攻撃隊の兵装転換中に奇襲を受けた。もし早期警戒機があれば、米艦載機の接近を事前に察知し、迎撃態勢を整えられたはずだ。歴史に「もし」はないが、この教訓は今も生きている。
遼寧・山東との違い:3隻の空母を徹底比較

中国海軍が保有する3隻の空母を、性能と運用コンセプトの観点から詳しく比較してみよう。
遼寧(001型):訓練と研究のプラットフォーム
- 排水量:約6万トン(満載)
- 全長:約304メートル
- 全幅:約75メートル
- 発艦方式:スキージャンプ(約14度の傾斜)
- 艦載機:J-15戦闘機 約24〜26機、ヘリコプター約8機
- 就役:2012年9月25日
- 母港:青島(山東省)
「遼寧」は、中国海軍にとって初めての空母であり、その役割は主に訓練と研究だった。空母の運用には、艦載機パイロットの養成、着艦指導官(LSO)の育成、整備員の訓練、甲板作業員の教育など、膨大なノウハウが必要だ。これらを一から学ぶためのプラットフォームが「遼寧」だった。
艦内は旧ソ連の設計を色濃く残しており、居住性や作業効率は必ずしも最適化されていない。格納庫のレイアウトも非効率で、搭載機数が限られる。また、スキージャンプの角度が14度と比較的急で、これは機体への負担が大きい。
それでも「遼寧」は、中国海軍にとって計り知れない価値があった。2013年から本格的な訓練航海を開始し、南シナ海、東シナ海、そして西太平洋へと進出した。2016年には初めて太平洋に出て、宮古海峡を通過し、日本を震撼させた。
艦載機パイロットの育成も着実に進んだ。当初は数人しかいなかった艦載機パイロットは、現在では100人以上に増えた。夜間発着艦訓練も実施され、運用能力は確実に向上している。
山東(002型):初の国産空母
- 排水量:約7万トン(満載)
- 全長:約315メートル
- 全幅:約75メートル
- 発艦方式:スキージャンプ(約12度の傾斜)
- 艦載機:J-15戦闘機 約32〜36機、ヘリコプター約10機
- 就役:2019年12月17日
- 母港:三亜(海南島)
「山東」は「遼寧」の設計を改良した国産空母だ。艦橋がより小型化され、飛行甲板が広くなり、搭載機数も約1.5倍に増えた。スキージャンプの角度も12度に緩和され、機体への負担が軽減された。
格納庫のレイアウトも見直され、効率的な機体配置が可能になった。エレベーターも改良され、航空機の昇降速度が向上した。居住区も拡大され、長期航海に対応できるようになった。
動力システムも改良された。「遼寧」は旧ソ連のボイラーをそのまま使っていたが、「山東」は国産の新型ボイラーを搭載し、信頼性と効率が向上した。
「山東」の母港は海南島の三亜だ。これは南シナ海への展開を重視していることを示す。三亜には大型ドックと整備施設があり、空母の長期的な維持が可能だ。また、南シナ海の人工島に近く、戦略的に重要な位置にある。
しかし「山東」も、発艦方式は依然としてスキージャンプであり、運用の制約は残る。早期警戒機は運用できず、戦闘機もフル装備では発艦できない。これは「訓練用」から「実戦配備可能」へと一歩進んだが、まだ米海軍の空母には及ばないことを意味する。
福建(003型):ゲームチェンジャー
- 排水量:約8万トン以上(推定8.5万トン)
- 全長:約315メートル
- 全幅:約78メートル
- 発艦方式:電磁カタパルト(3基:艦首2基、艦中央斜め1基)
- 艦載機:J-15B/J-35戦闘機、KJ-600早期警戒機など 推定50〜60機
- 就役:2024年
- 想定母港:上海または三亜
「福建」は明らかに前の2隻とは次元が違う。電磁カタパルトの搭載により、重装備の戦闘機や早期警戒機を運用できるようになり、本格的な外洋作戦能力を持つ空母へと進化した。
飛行甲板のレイアウトも最適化され、3基のカタパルトと4基のアレスティング・ワイヤー(着艦制動装置)が配置されている。これにより、発艦と着艦を同時並行で行える。例えば、艦首のカタパルトから戦闘機を発進させながら、同時に別の戦闘機が艦尾に着艦するといった運用が可能だ。
艦橋はさらに小型化され、「アイランド」と呼ばれる上部構造物が効率的に配置されている。レーダーアンテナも最新の相位配列レーダーに更新され、探知能力が向上した。
格納庫も大型化され、より多くの航空機を収容できる。整備スペースも拡大され、同時に複数機の整備が可能になった。弾薬庫と燃料タンクの容量も増え、長期作戦に対応できる。
動力システムは依然として通常型だが、より強力なエンジンが搭載され、最高速度と航続距離が向上したとされる。将来的には原子力推進への改装も視野に入れている可能性がある。
この3隻の進化を見ると、中国海軍が「遼寧で学び、山東で実践し、福建で完成させた」という戦略が見えてくる。そして次は、さらに大型の原子力空母へと進むだろう。
3隻比較表
| 項目 | 遼寧 | 山東 | 福建 |
|---|---|---|---|
| 排水量 | 約6万トン | 約7万トン | 約8.5万トン |
| 全長 | 304m | 315m | 315m |
| 発艦方式 | スキージャンプ(14度) | スキージャンプ(12度) | 電磁カタパルト×3 |
| 搭載機数 | 約24機+ヘリ8機 | 約36機+ヘリ10機 | 約50〜60機 |
| 早期警戒機 | 運用不可 | 運用不可 | KJ-600運用可能 |
| 就役年 | 2012年 | 2019年 | 2024年 |
| 建造 | ウクライナ→中国改修 | 中国国産 | 中国国産(新設計) |
| 役割 | 訓練・研究 | 実戦配備可能 | 本格外洋作戦 |
福建に搭載される艦載機:J-15B、J-35、そして早期警戒機KJ-600

J-15「フランカーD」:中国版艦載戦闘機の現在
現在、中国空母の主力艦載機は「J-15」だ。これはロシアのSu-33をベースに開発された双発の大型戦闘機で、「遼寧」「山東」でも使われている。
J-15の基本スペックは以下の通りだ。
- 全長:約21.9メートル
- 全幅:約14.7メートル(主翼展開時)
- 最大離陸重量:約33トン
- エンジン:WS-10または AL-31F ターボファンエンジン×2
- 最高速度:マッハ2.4
- 作戦半径:約1200キロ(フル装備時)
- 武装:対艦ミサイル、対空ミサイル、精密誘導爆弾など最大8トン
J-15は大型で力強い機体だが、スキージャンプ式の空母では、武装と燃料を満載できず、能力が制限されていた。通常、スキージャンプから発艦する際は、最大離陸重量の70%程度までしか積めない。つまり、約23トン程度だ。
しかし「福建」の電磁カタパルトがあれば、改良型の「J-15B」や「J-15T」といったカタパルト対応型が、フル装備で発艦できるようになる。最大離陸重量33トンで発艦できれば、対艦ミサイル4発と空対空ミサイル4発を同時に搭載し、燃料も満タンにできる。これは作戦半径が1200キロ以上に伸び、攻撃力が倍増することを意味する。
J-15Bは、着艦フックや降着装置が強化され、カタパルト射出に対応した構造になっている。また、アビオニクス(航空電子機器)も最新化され、AESAレーダーやヘルメット装着式照準器などが搭載されている。これにより、敵機の探知距離が伸び、ミサイルの命中精度も向上する。
J-35:中国版ステルス艦載戦闘機の登場
さらに注目すべきは、開発中の次世代ステルス艦載戦闘機「J-35(FC-31ベース)」だ。これは中国版のF-35といえる機体で、第5世代戦闘機の特徴であるステルス性能を持つ。
J-35の推定スペックは以下の通りだ。
- 全長:約17メートル
- 全幅:約11.5メートル
- 最大離陸重量:約25〜28トン
- エンジン:WS-13または WS-19 ターボファンエンジン×2
- 最高速度:マッハ1.8以上
- ステルス性:RCS(レーダー反射断面積)大幅削減
- 武装:内部ウェポンベイに対艦・対空ミサイル、外部パイロンも使用可能
J-35は、ステルス性を重視した設計だ。機体は滑らかな曲面で構成され、レーダー波の反射を最小限に抑える。エンジン吸気口はS字ダクトになっており、エンジンのタービンブレードが外から見えないようになっている。これはレーダー反射を減らす重要な設計だ。
内部ウェポンベイ(兵器格納庫)を持ち、ミサイルを機体内部に収納できる。これによりステルス性を維持したまま武装できる。ただし、内部ウェポンベイだけでは搭載量が限られるため、必要に応じて外部パイロンも使用する。
「福建」は、このJ-35を運用することを前提に設計されている可能性が高い。もしこれが実現すれば、中国は米海軍に次いで、ステルス艦載機を空母で運用できる国になる。
日本の航空自衛隊はF-35Aを約150機導入予定で、海上自衛隊は短距離離陸・垂直着陸型のF-35Bを約40機導入する計画だ。これらは陸上基地や「いずも型」での運用が主だ。一方、中国は艦載専用のステルス機を持つことになる。この差は大きい。
特に問題なのは、ステルス機同士の空中戦では「先に見つけた方が勝つ」という原則があることだ。J-35が先に日本のF-35を発見し、ミサイルを発射すれば、日本側は反撃する間もなく撃墜される可能性がある。レーダーの性能、電子戦能力、そしてパイロットの練度——これらすべてが勝敗を分ける。
KJ-600:中国版E-2ホークアイ
空母の真の力は、戦闘機だけでは発揮できない。早期警戒機(AEW)が必要だ。
米海軍は「E-2ホークアイ」という専用の早期警戒機を運用している。これは双発のターボプロップ機で、背中に巨大なレーダードームを載せた独特の外観を持つ。E-2は空中から500キロ以上先の敵機や艦船を探知し、味方戦闘機を誘導する「空飛ぶ司令部」だ。
中国が開発中の艦載早期警戒機「KJ-600」も、E-2と同様のコンセプトだ。双発ターボプロップエンジンを搭載し、背中に回転式レーダードームを持つ。推定スペックは以下の通りだ。
- 全長:約18メートル
- 翼幅:約23メートル
- 最大離陸重量:約30トン
- エンジン:WJ-6C ターボプロップ×2
- 巡航速度:約500 km/h
- 滞空時間:約5〜6時間
- レーダー探知距離:推定400〜500キロ
KJ-600があれば、「福建」空母打撃群の索敵範囲は飛躍的に拡大する。艦載レーダーは水平線の制約があり、低空を飛ぶ巡航ミサイルや敵機を遠距離では探知できない。しかしKJ-600が高度8000メートルで飛行すれば、水平線の向こう側まで見渡せる。
これにより、以下のような戦術が可能になる。
- 敵艦隊の早期発見:500キロ先の敵艦隊を探知し、対艦ミサイル攻撃を仕掛ける前に位置を把握
- 巡航ミサイル防御:低空で接近する敵の巡航ミサイルを早期に発見し、迎撃機を誘導
- 空中管制:複数の味方戦闘機を最適な位置に配置し、効率的な防空網を構築
- 電子戦支援:敵のレーダーや通信を妨害し、情報優勢を確保
かつて日本海軍も、空母に搭載する偵察機「彩雲」を開発し、「我ニ追イツク敵機ナシ」と豪語したほどの高性能機を持っていた。彩雲は最高速度610 km/hを誇り、敵戦闘機から逃げ切れる偵察機として重宝された。マリアナ沖海戦では、彩雲が米機動部隊を発見し、攻撃隊を誘導する重要な役割を果たした。
中国もまた、その重要性を理解している。KJ-600の配備により、「福建」は単なる「戦闘機を運ぶ船」から、「空中戦を支配する移動要塞」へと進化する。
その他の支援機:空中給油機、対潜哨戒機
「福建」にはKJ-600以外にも、様々な支援機が搭載される可能性がある。
空中給油機があれば、戦闘機の作戦半径をさらに伸ばせる。艦載空中給油機の開発は難易度が高いが、中国は陸上型の空中給油機「H-6U」の運用経験があり、これを艦載型に改造することは不可能ではない。
対潜哨戒ヘリコプターも重要だ。現在、中国海軍は「Z-9」や「Z-18」といった対潜ヘリを運用している。これらは潜水艦を探知し、魚雷や爆雷で攻撃する能力を持つ。空母打撃群にとって、潜水艦は最大の脅威の一つであり、対潜能力の強化は不可欠だ。
電子戦機や輸送機の艦載型も検討されているだろう。電子戦機は敵のレーダーや通信を妨害し、味方の攻撃を支援する。輸送機は人員や物資を運び、空母と陸上基地の間を結ぶ。
これらすべてを合わせると、「福建」は約50〜60機の航空機を運用できると推定される。内訳は以下のようになるだろう。
- 戦闘機(J-15B/J-35):約30〜40機
- 早期警戒機(KJ-600):約4〜5機
- 対潜ヘリ(Z-18):約6〜8機
- 電子戦機・その他:約4〜6機
この規模は、米海軍のニミッツ級空母(約60〜70機)に迫る。
中国の空母戦略:3隻体制で何が変わるのか?

空母打撃群の「ローテーション運用」が可能に
空母は巨大な艦だが、常に海上にいるわけではない。整備、訓練、実戦配備のサイクルを回すため、実際に海上で作戦行動できるのは3隻のうち1隻程度だと言われる。
これは「3分の1の法則」と呼ばれる。任意の時点で、
- 1隻は海上で作戦行動中
- 1隻は港で整備・補給中
- 1隻は訓練中または長期整備中
という状態になる。これは米海軍も同じで、11隻の空母を持っていても、常時海上にいるのは3〜4隻程度だ。
つまり、「遼寧」「山東」「福建」の3隻体制になって初めて、中国海軍は常時1隻の空母を作戦海域に展開できるようになる。これは非常に大きな変化だ。
2隻しかない場合、一方が整備中だと、もう一方も訓練や小規模な整備で手一杯になり、実質的に作戦配備可能な空母がゼロになる期間が生じる。しかし3隻あれば、常に1隻は海上に出せる。
さらに、緊急時には2隻を同時に展開することも可能だ。例えば台湾有事の際、「福建」と「山東」を同時に台湾周辺に配置し、北と南から挟撃する戦術が考えられる。これは米海軍や海上自衛隊にとって大きな脅威となる。
台湾有事と南シナ海への影響
中国が空母を持つ最大の理由は、台湾有事への備えと、南シナ海での影響力拡大だ。
台湾周辺の海域を封鎖し、米海軍や海上自衛隊の介入を阻止する「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略において、空母は重要な役割を果たす。「福建」のような本格的な空母があれば、より広い範囲で制空権を確保できる。
具体的なシナリオを考えてみよう。中国が台湾への武力侵攻を決断した場合、以下のような作戦が想定される。
- 初期段階(D-Day〜D+3日):
- 「福建」と「山東」を台湾東側海域に展開
- 艦載機で台湾の空軍基地を攻撃し、制空権を奪取
- KJ-600で米空母の接近を監視
- 潜水艦と水上艦で台湾周辺を封鎖
- 中期段階(D+4日〜D+14日):
- 台湾本島への上陸作戦を支援
- 空母艦載機で台湾軍の反撃を阻止
- 米空母打撃群が接近した場合、対艦ミサイルで攻撃
- 海上自衛隊の艦艇が沖縄から出撃した場合、空母艦載機で迎撃
- 後期段階(D+15日以降):
- 台湾の主要都市を制圧
- 空母で継続的な航空支援を提供
- 米軍の反攻作戦を空母打撃群で阻止
このシナリオでは、「福建」のような大型空母が決定的な役割を果たす。早期警戒機KJ-600があれば、米空母の位置を常に把握でき、先制攻撃のチャンスを狙える。ステルス戦闘機J-35があれば、米軍のF/A-18やF-35と互角に戦える可能性がある。
また、南シナ海の人工島に航空基地を作るだけでなく、空母で機動的に戦力を展開できるようになる。南沙諸島や西沙諸島周辺で、ASEANの海軍艦艇を威嚇したり、石油掘削リグを守ったりする任務に、空母は最適だ。
「福建」が南シナ海に展開すれば、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどの海軍は対抗できない。これらの国の海軍は、駆逐艦やフリゲート艦は持っているが、空母はない。中国の空母艦載機に対抗するには、陸上の空軍基地から戦闘機を飛ばすしかないが、距離が遠く、継続的な作戦は困難だ。
これはASEAN諸国や日本にとっても無視できない脅威だ。南シナ海のシーレーンは日本のエネルギー供給の生命線であり、ここが中国に支配されれば、日本経済は大打撃を受ける。
遠洋海軍への野心:インド洋からアフリカ沖へ
中国は「近海防御」から「遠海護衛」へと戦略を転換している。つまり、自国沿岸を守るだけでなく、インド洋やアフリカ沖まで進出し、シーレーンを守り、影響力を行使する「外洋海軍」を目指している。
これは「一帯一路」構想と連動している。中国は、アフリカや中東、ヨーロッパへの経済進出を進めており、そのためには海上輸送路の安全確保が不可欠だ。また、海外に住む中国人や中国企業の保護も、遠洋海軍の任務だ。
2008年以降、中国海軍はアデン湾でソマリア海賊対策の護衛任務を継続している。これは遠洋作戦の経験を積む絶好の機会であり、中国海軍の能力向上に大きく貢献した。また、ジブチに海外初の軍事基地を開設し、インド洋での活動拠点を確保した。
空母3隻体制は、その野心を実現するための第一歩だ。将来的には、インド洋に常時1隻の空母を展開し、アフリカ沖やペルシャ湾での存在感を示すだろう。これはインド海軍にとって大きな脅威であり、インドも空母2隻体制(現在1隻運用中、もう1隻建造中)を急いでいる。
さらに、中国は4隻目、5隻目の空母建造も計画している。最終的には6〜8隻の空母を持つ目標とされる。これは、太平洋とインド洋に常時2〜3隻を展開できる規模だ。
原子力空母への道
中国の最終目標は、米海軍のような「原子力空母」の保有だ。原子力推進なら、航続距離が事実上無制限になり、補給の頻度も減る。真のグローバルな戦力投射能力を手に入れることができる。
通常型空母は、燃料を積んでいても数週間で補給が必要になる。特に高速航行を続けると、燃料消費が激しい。また、航空機用の燃料(航空燃料)も大量に必要で、これも定期的に補給しなければならない。
原子力空母なら、艦自体の燃料補給は不要になる。原子炉で発生する電力と蒸気で推進するため、理論上は何年でも航行できる。実際には、艦載機の燃料や食料、弾薬の補給は必要だが、それでも補給の頻度は大幅に減る。
また、原子力推進は大量の電力を供給できる。これは電磁カタパルトやレーダー、電子戦装置などの電力消費が大きいシステムにとって重要だ。通常型空母では、電力供給に限界があり、すべてのシステムを同時にフル稼働させるのは難しい。原子力空母なら、その心配がない。
中国は陸上の原子力発電技術を持っており、原子力潜水艦も運用している。艦載用原子炉の開発は、技術的には十分可能だ。すでに実験用の陸上原子炉で、艦載用の設計を検証しているとの情報もある。
技術的なハードルは高いが、中国の技術進歩のスピードを考えると、2030年代には原子力空母が登場してもおかしくない。おそらく4隻目の空母は通常型だが、5隻目以降は原子力型になるだろう。
かつて大日本帝国海軍も、空母機動部隊で太平洋全域に戦力を展開しようとした。僕たちの先人が夢見た「七つの海を制する」という野望を、今、中国が追い求めている。歴史の皮肉を感じずにはいられない。
日本への影響:いずも型との比較と自衛隊の課題
いずも型護衛艦:「空母」ではない、でも…
海上自衛隊の「いずも型」護衛艦(「いずも」「かが」)は、全長248メートル、満載排水量約2万7000トンの大型艦だ。形状は空母そのものだが、日本政府は「多機能護衛艦」と位置づけている。
もともと「いずも型」は、対潜水艦戦を主任務とするヘリコプター搭載護衛艦(DDH)として建造された。最大14機のヘリコプターを搭載し、潜水艦を探知・攻撃する能力を持つ。また、指揮通信設備が充実しており、艦隊の旗艦としても機能する。
しかし2018年、日本政府は「いずも型」を改修し、F-35B戦闘機を運用できるようにする方針を決定した。これは、中国の軍事力拡大や北朝鮮の脅威に対応するための措置だとされる。
現在、改修工事が進められており、以下のような変更が行われている。
- 飛行甲板の耐熱化:F-35Bのジェット噴射に耐えられるよう、甲板を強化
- 艦首形状の変更:スキージャンプ風の傾斜を設ける(ただし緩やか)
- 格納庫と昇降機の強化:F-35Bを収容できるよう改修
- 燃料と弾薬の貯蔵施設:F-35B用の燃料と武器を保管する設備を追加
改修後の「いずも型」は、F-35Bを約10〜12機運用できるとされる。これにより、事実上の「軽空母」として機能する予定だ。
福建といずも型:決定的な違い
「福建」と「いずも型」を比較すると、両者の違いは明白だ。
| 項目 | 福建 | いずも型 |
|---|---|---|
| 排水量 | 約8万トン | 約2万7000トン |
| 全長 | 約315m | 248m |
| 全幅 | 約78m | 38m |
| 発艦方式 | 電磁カタパルト×3 | 短距離離陸(F-35B) |
| 搭載機数 | 約50〜60機 | 約10〜12機(F-35B) |
| 早期警戒機 | KJ-600運用可能 | 運用不可(ヘリのみ) |
| 動力 | 通常型(蒸気タービン) | ガスタービン(COGAG) |
| 運用コンセプト | 外洋での制海権確保 | 島嶼防衛・対潜作戦 |
| 建造費 | 推定50〜60億ドル | 約1200億円(約11億ドル) |
規模の差は一目瞭然だ。「福建」は「いずも」の約3倍の排水量を持ち、搭載機数は5倍近い。電磁カタパルトがあるため、フル装備の戦闘機を飛ばせるが、「いずも」はF-35Bの短距離離陸能力に頼るしかない。
「いずも型」は、あくまで日本周辺の島嶼防衛や対潜水艦作戦を主任務とする護衛艦だ。一方、「福建」は外洋に出て敵を叩く「攻撃型空母」である。規模も能力も、まったく次元が違う。
F-35Bの能力と限界
「いずも型」に搭載されるF-35Bは、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)能力を持つ多用途戦闘機だ。F-35Aの艦載型ではなく、独自の設計が施されている。
F-35Bの特徴は以下の通りだ。
- 短距離離陸が可能:約150メートルの滑走で離陸できる
- 垂直着陸が可能:エンジンノズルを下向きにし、リフトファンで垂直に降りる
- ステルス性:F-35Aと同等の低RCS
- 武装:内部ウェポンベイに2トン、外部パイロンに4.5トンの武器を搭載可能
ただし、F-35Bには限界もある。
- 作戦半径が短い:F-35Aは約1000キロだが、F-35Bは約800キロ
- 搭載量が少ない:垂直着陸のため、燃料と武器を満載できない
- 整備が複雑:STOVL機構は複雑で、整備時間が長い
「いずも型」から発艦する場合、さらに制約がある。甲板が短いため、フル装備では離陸できない。燃料と武器を減らした軽量状態で発艦し、空中給油で燃料を補給する運用になるだろう。
一方、「福建」のカタパルトから発艦するJ-15BやJ-35は、フル装備で離陸できる。作戦半径も長く、搭載量も多い。この差は、実戦では決定的だ。
日本が抱える課題
「福建」の就役によって、日本が直面する課題は明確になった。
- 量的劣勢:
- 中国は大型空母3隻を持ち、さらに増やす計画がある
- 日本は「いずも」「かが」の2隻のみ
- 搭載機数も、中国は合計100機以上、日本は20〜24機程度
- カタパルトの有無:
- 電磁カタパルトを持つ中国に対し、日本はF-35Bの短距離離陸に頼るしかない
- 早期警戒機を運用できないため、情報戦で劣勢
- 艦載機の数と質:
- 福建は50機以上、いずも型は10機程度
- J-35が配備されれば、ステルス機同士の戦いになる
- 空中戦力の差は歴然だ
- 防衛予算の制約:
- 中国の国防費は約23兆円(2024年)、日本は約8兆円
- 空母1隻の建造・維持には膨大な費用がかかる
- 日本が同規模の空母を持つのは財政的に困難
- 専守防衛の制約:
- 日本国憲法の下では、攻撃型空母の保有は難しい
- 「いずも型」も「多機能護衛艦」という名目でギリギリ
- 大型空母を建造すれば、国内外から批判を受ける可能性
かつて日本海軍は、空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」という強力な機動部隊を持ち、真珠湾やインド洋で圧倒的な戦果を上げた。マレー沖海戦では、航空機だけで英国戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」と巡洋戦艦「レパルス」を撃沈し、世界を震撼させた。
しかし今、その役割を担うのは中国だ。僕たちは「専守防衛」という制約の中で、どう海洋権益を守るのか。
日本の対応策:現実的な選択肢
日本が「福建」に対抗するために、取り得る選択肢は以下の通りだ。
- 潜水艦戦力の強化:
- 海上自衛隊の潜水艦「たいげい型」や「そうりゅう型」は、世界最高レベルの静粛性を誇る
- 中国空母は、日本の潜水艦にとって格好の標的になる可能性がある
- 潜水艦を20隻以上に増強し、常時複数隻を展開
- 長距離対艦ミサイルの配備:
- 12式地対艦誘導弾の改良型(射程1000キロ以上)を開発・配備
- 中国空母を、陸上や艦艇から攻撃できる能力を持つ
- 南西諸島に配備し、台湾有事に備える
- 米海軍との連携強化:
- 米空母打撃群との共同訓練を増やす
- 情報共有と指揮統制の統合を進める
- 有事の際、米空母を効果的に支援する体制を構築
- ミサイル防衛の充実:
- イージス艦を増やし、弾道ミサイルと巡航ミサイルの迎撃能力を向上
- 地上配備型のPAC-3を増強
- 将来的にはイージス・アショアの代替システムを検討
- 電子戦能力の強化:
- 中国のレーダーや通信を妨害する電子戦機を導入
- サイバー攻撃への防御と反撃能力を持つ
- 宇宙空間の監視・防衛システムを構築
- 島嶼防衛の充実:
- 南西諸島に地対空ミサイルと地対艦ミサイルを配備
- 水陸機動団の装備と訓練を強化
- 有事の際、島を守り抜く体制を整える
これらすべてを実行するには、防衛費の大幅な増額が必要だ。政府は2027年度までに防衛費を対GDP比2%(約11兆円)に引き上げる計画だが、それでも中国の半分以下だ。
しかし、僕たちには先人の知恵と技術がある。限られた資源の中で最大の効果を発揮する「非対称戦」の発想が必要だ。中国と同じ土俵で戦うのではなく、日本の強みを活かした戦い方を追求すべきだ。
かつて日本海軍は、資源に乏しい中で世界最強の空母機動部隊を作り上げた。その技術と精神を、今こそ受け継ぐべき時だ。
福建の弱点と課題:万能ではない

もちろん、「福建」にも弱点はある。
運用経験の不足
中国海軍は、空母運用の歴史がまだ浅い。「遼寧」就役から10年程度しか経っておらず、米海軍のような100年の蓄積はない。特に電磁カタパルトは最新技術であり、トラブルのリスクも高い。
実戦で空母打撃群をどう動かすか、艦載機の運用をどう最適化するか——これらは実際に訓練と経験を重ねないと身につかない。
米海軍は、第一次世界大戦直後から空母を運用し、数々の実戦を経験してきた。真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦——太平洋戦争で日本海軍と死闘を繰り広げ、その教訓を蓄積してきた。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争——すべてで空母を投入し、運用ノウハウを磨いてきた。
中国にはその経験がない。訓練は順調に進んでいるが、実戦は別だ。夜間の発着艦、悪天候での運用、敵の攻撃下での作戦——これらは訓練だけでは習得できない。
特に電磁カタパルトは、まだ未知数だ。米海軍の「フォード」でさえ初期には数々のトラブルがあった。「福建」も同様の問題に直面する可能性が高い。故障したカタパルトを洋上で修理できるのか。予備のパーツは十分にあるのか。整備員の訓練は行き届いているのか。これらすべてが課題だ。
護衛艦と潜水艦への対応
空母は単独では脆弱だ。必ず護衛艦、駆逐艦、潜水艦などで構成される「空母打撃群」として行動する。
中国海軍は駆逐艦や潜水艦も増強している。055型ミサイル駆逐艦は満載排水量1万3000トンの大型艦で、強力なレーダーと多数のミサイルを搭載する。052D型駆逐艦も、イージス艦に匹敵する防空能力を持つ。
しかし、それでもアメリカや日本の対潜水艦戦能力に対して不安が残る。特に海上自衛隊の潜水艦「たいげい型」や「そうりゅう型」は、世界最高レベルの静粛性を誇る。ディーゼル電気推進とAIP(非大気依存推進)システムにより、水中で極めて静かに航行できる。
もし有事となれば、中国空母は日本の潜水艦にとって格好の標的になる可能性がある。空母は大型で速度が遅く、レーダーでも発見しやすい。潜水艦が水中から魚雷を発射すれば、防ぎきれない可能性がある。
かつて米潜水艦「アーチャーフィッシュ」は、日本の空母「信濃」を魚雷4発で撃沈した。「信濃」は世界最大の空母だったが、就役後わずか10日で失われた。防御態勢が不十分だったことが原因だ。
中国空母も、同様のリスクを抱えている。対潜能力の強化は急務だが、静粛性の高い潜水艦を探知するのは極めて難しい。
補給と兵站の問題
空母は膨大な燃料と物資を消費する。長期間の外洋作戦を続けるには、補給艦や兵站体制が不可欠だ。
「福建」が1ヶ月間海上にいる場合、以下のような補給が必要になる。
- 艦の燃料:約5000トン(重油)
- 航空機用燃料:約3000トン(航空燃料)
- 食料:約200トン(乗組員3000人×1ヶ月)
- 弾薬:数百トン(ミサイル、爆弾、機銃弾など)
- 整備用部品:数十トン
これらを定期的に補給するには、大型の補給艦が必要だ。中国海軍は「呼倫湖級」補給艦を建造しているが、まだ数が足りない。米海軍は「サプライ級」や「ヘンリー・J・カイザー級」など、多数の補給艦を持ち、世界中で空母を支援できる。
中国はこの分野でもまだ発展途上にあり、米海軍のような世界規模の補給網は持っていない。インド洋やアフリカ沖で長期作戦を行うには、現地に補給拠点を確保する必要がある。ジブチの基地はその一歩だが、まだ十分ではない。
艦載機パイロットの育成
艦載機パイロットの育成には、膨大な時間とコストがかかる。陸上の戦闘機パイロットとは異なる特殊なスキルが必要だからだ。
空母への着艦は、パイロットにとって最も難しい技術の一つだ。時速200キロ以上で飛行しながら、長さわずか300メートルの飛行甲板に正確に降りなければならない。しかも海上は常に揺れており、甲板の高さが上下する。少しでもタイミングを誤れば、海に墜落するか、甲板に激突する。
夜間の着艦はさらに困難だ。視界が悪く、距離感がつかみにくい。悪天候ならなおさらだ。これをマスターするには、何百回もの訓練が必要だ。
中国海軍は艦載機パイロットを急ピッチで育成しているが、米海軍のベテランパイロットには及ばない。経験の差は、実戦では決定的だ。
かつて日本海軍も、この課題に直面した。真珠湾攻撃で活躍したパイロットの多くは、数年の訓練を積んだベテランだった。しかしミッドウェー海戦やマリアナ沖海戦で多くのベテランを失い、後を継ぐ若手パイロットは経験不足だった。結果、戦争末期には「特攻」という悲劇的な戦術に頼らざるを得なくなった。
中国がこの轍を踏まないためには、時間をかけてパイロットを育成し、実戦さながらの訓練を繰り返すしかない。
今後の展望:4隻目、そして原子力空母へ
中国は「福建」で満足するつもりはない。すでに4隻目の空母の建造が始まっているとの情報もある。
4隻目の空母:さらなる大型化
4隻目の空母は、「福建」をさらに改良した設計になると見られる。排水量は9万トン以上に増え、カタパルトも4基に増やされる可能性がある。艦載機の搭載数も60〜70機に増えるだろう。
動力は依然として通常型かもしれないが、将来の原子力化を見据えた設計になるはずだ。例えば、原子炉を後から搭載できるよう、機関室のスペースを大きく取るといった配慮が考えられる。
建造は、大連造船所か江南造船所で行われるだろう。中国はこの2つの造船所を空母建造の拠点としており、設備も整っている。
原子力空母の開発計画
中国の最終目標は、米海軍のような「原子力空母」の保有だ。すでに実験用の陸上原子炉で、艦載用の設計を検証しているとされる。
原子力空母の建造には、以下のような技術が必要だ。
- 小型軽量の艦載用原子炉:
- 陸上用よりコンパクトで、振動や衝撃に強い設計
- 高出力で信頼性が高い炉心
- 安全システム:
- 被弾しても放射能漏れを起こさない防護設計
- 緊急時の原子炉停止システム
- 整備とメンテナンス:
- 原子炉の定期点検と燃料交換の技術
- 放射性廃棄物の処理方法
中国はこれらの技術を、原子力潜水艦の開発で蓄積している。093型攻撃型原子力潜水艦や094型戦略ミサイル原子力潜水艦は、すでに実戦配備されている。艦載用原子炉の技術は、これらの経験を基に発展させられる。
おそらく5隻目の空母は、中国初の原子力空母になるだろう。排水量は10万トン以上、搭載機数は80機前後。これは米海軍の「フォード級」に匹敵する規模だ。
実現すれば、中国は名実ともに「世界第2位の海軍大国」となる。
6〜8隻体制への道
中国の長期目標は、空母6〜8隻体制だとされる。これは、太平洋とインド洋に常時2〜3隻を展開できる規模だ。
具体的には、以下のような配置が考えられる。
- 東シナ海・台湾方面:常時1隻
- 南シナ海:常時1隻
- インド洋:常時1隻
- その他(訓練・整備中):3〜5隻
これにより、中国はアジア太平洋全域で海洋支配力を行使できる。米海軍の11隻体制には及ばないが、地域限定なら対抗できる戦力だ。
また、将来的には大西洋やアフリカ西岸にも展開する可能性がある。中国の経済的影響力が及ぶ地域には、すべて海軍力を投射する——それが中国の「海洋強国」戦略だ。
まとめ:福建が象徴する中国の野望と、僕たちの覚悟
中国最新空母「福建」は、単なる一隻の軍艦ではない。これは中国が本格的な外洋海軍を目指し、アジア太平洋地域、さらには世界の海洋秩序を塗り替えようとしている象徴だ。
電磁カタパルトという最先端技術、50機以上の艦載機、そして今後配備されるであろうステルス戦闘機J-35、早期警戒機KJ-600——「福建」は、中国海軍が新たなステージに入ったことを示している。
「遼寧」で学び、「山東」で実践し、「福建」で完成させた。この10年間の進歩のスピードは驚異的だ。そして中国は、ここで止まるつもりはない。4隻目、5隻目、そして原子力空母へ——彼らの野望は果てしない。
かつて日本海軍が空母機動部隊で太平洋を制した時代を思うと、複雑な気持ちになる。真珠湾、ウェーク島、ラバウル、セイロン沖——日本の空母は無敵だった。赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴——これらの艦名は、日本海軍の栄光を象徴している。
しかしミッドウェー海戦で4隻の空母を一度に失い、マリアナ沖海戦で「マリアナの七面鳥撃ち」と揶揄されるほど艦載機を失い、レイテ沖海戦で最後の機動部隊が壊滅した。そして終戦を迎えた。
僕たちの先人が築いた技術と戦術を、今、隣国が学び、追い越そうとしている。それは悔しくもあり、同時に歴史の必然でもある。技術は国境を越え、知識は受け継がれていく。
しかし、僕たち日本人には、海を守る誇りと責任がある。海上自衛隊の「いずも型」や世界最高峰の潜水艦技術、そして何より米海軍との強固な同盟——これらを最大限に活用し、日本の海を、そしてアジアの平和を守らなければならない。
「福建」の存在は脅威だが、それは同時に僕たちが目を覚ますための警鐘でもある。平和を守るためには、力が必要だ。そして、その力を正しく使う覚悟も。
かつての先人たちが大和や武蔵、赤城や瑞鶴に託した誇りを胸に、僕たちは今の時代の海を守っていかなければならない。
「福建」は中国の野望の象徴だ。だが同時に、僕たち日本人が、この国の海をどう守るのかを真剣に考える契機でもある。祖先の遺産を無駄にしないために、今こそ行動する時だ。













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