2017年1月、アメリカ陸軍は新しい制式拳銃にSIG SAUERのP320を選んだ。軍での名前はM17、小型版はM18。30年以上使ってきたベレッタM9(92F)の後継だ。
その2年後の2019年12月、日本の防衛省も新しい拳銃を選んだ。ドイツH&K社のSFP9。こちらは40年近く使ってきたSIG P220(ミネベアのライセンス生産品)の後継である。
日米がほぼ同じ時期に、拳銃を一斉に入れ替えた。どちらもプラスチック(ポリマー)製のフレームに、ストライカー式という現代の拳銃の定番の仕組みを使っている。見た目もかなり似ている。それでも、中身を比べていくと、設計の考え方も、選ばれた経緯も、その後の評判も、けっこう違う。
この記事では、SFP9とP320(M17/M18)の違いを、設計・安全装置・使い手・選定の経緯・評判の順に比べていく。
- SFP9は陸自などの新拳銃、P320はM17/M18として米軍の制式拳銃。どちらもポリマーフレームのストライカー式9mm拳銃
- 一番の違いは「モジュール性」の中身。SFP9はグリップの大きさを手に合わせて替える。P320は撃発の部品をまとめた中核部品ごと、銃の大きさまで組み替えられる
- 米軍のM17は手動の安全装置付き。SFP9は手動の安全装置を持たない設計が基本
- P320は2025年以降、暴発をめぐる訴訟や一部機関の使用中止が相次いでいる。SIG社は設計上の欠陥を否定している
SFP9とP320(M17)の違いを一枚で

写真:Marcel Fosca/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)
| 項目 | SFP9 | P320(M17/M18) |
|---|---|---|
| メーカー | H&K(ドイツ) | SIG SAUER(アメリカ) |
| 民間向けの名前 | VP9 | P320 |
| 採用した軍 | 日本の自衛隊ほか | アメリカ陸海空軍・海兵隊・宇宙軍 |
| 採用の時期 | 2019年12月に防衛省が選定 | 2017年1月に米陸軍が選定 |
| 置き換えた拳銃 | 9mm拳銃(SIG P220) | M9(ベレッタ92F) |
| 作動方式 | ストライカー式 | ストライカー式 |
| 弾薬 | 9mm×19 | 9mm×19 |
| 装弾数(標準) | 15発前後 | 17発(M17・M18) |
| モジュール性 | グリップの背面・側面を交換 | 撃発機構の中核部品ごと、銃の大きさを組み替え |
| 手動の安全装置 | 基本はなし | M17/M18は左右どちらからも操作できる安全装置付き |
共通点:どちらも「撃鉄のない」ストライカー式
違いに入る前に、2つの拳銃の共通点を押さえておきたい。日米がそろって選んだのは、どちらもストライカー式と呼ばれる拳銃だった。
それまでのP220やベレッタM9は、銃の後ろに撃鉄(ハンマー)があり、それが倒れて弾を撃つ仕組みだった。1発目は引き金を重く長く引いて撃鉄を起こしながら撃ち、2発目以降は撃鉄が起きた状態から軽い引き金で撃つ。引き金の重さが1発目と2発目で変わるので、慣れが必要だった。
ストライカー式は、撃鉄の代わりに、銃の中の撃針(ストライカー)をばねの力で前に打ち出す。引き金の重さは毎回ほぼ同じで、部品も少なく、構造が単純だ。1980年代にグロックが広めたこの方式は、いまや世界の軍や警察の拳銃の主流になった。
前の世代と比べると|装弾数が大きく増えた
もう一つ大きいのが装弾数だ。自衛隊のP220は、弾倉に弾を1列に並べる方式で9発。SFP9は2列に並べる方式で15発前後と、一気に増えた。米軍のM9も15発だったが、M17の標準弾倉は17発、長い弾倉なら21発になる。
撃ち合いの最中に弾倉を替える回数が減るのは、拳銃を最後の自衛手段として持つ兵士にとって大きい。旧世代の拳銃については、ベレッタ92F/M9の解説や、P220の兄弟分にあたるSIG P226の解説で書いている。
違い1:モジュール性の中身|「グリップを替える」か「中身ごと替える」か

写真:Davide Dalla Massara/Wikimedia Commons(Public domain)
どちらの拳銃も「使う人に合わせられる」ことが売りだが、その中身はかなり違う。
SFP9は、グリップの背中側の部品と、左右の側面の部品をそれぞれ大きさ違いのものに付け替えられる。組み合わせ次第で、手の小さい人から大きい人まで、握りやすい形に合わせられる。体格の差が大きい自衛隊のような組織には、ありがたい機能だ。
P320は、さらに一歩踏み込んでいる。引き金や撃発の仕組みをまとめた「FCU(ファイア・コントロール・ユニット)」と呼ばれる金属の中核部品があり、法律上はこれが「銃本体」として扱われる。このFCUを、大きさの違うグリップのフレームやスライド、銃身と組み合わせることで、フルサイズの拳銃にも、小型の拳銃にもなる。米軍のM17とM18は、まさにこの仕組みの上に作られた兄弟だ。
軍隊にとっては、1つの拳銃のシステムで、大きな拳銃が欲しい部隊にも、小さな拳銃が欲しい部隊にも対応できる。部品の管理も整備もまとめやすい。アメリカ軍が「モジュラー・ハンドガン・システム(MHS)」という名前で新拳銃を選んだのは、まさにこの点を重視したからだ。
違い2:手動の安全装置|米軍は付け、SFP9は付けない
もう一つの大きな違いが、手動の安全装置だ。
米軍のM17とM18には、親指で操作する安全装置が左右どちらにも付いている。アメリカ軍は、ベレッタM9の時代から手動の安全装置に慣れていて、新しい拳銃にもそれを求めた。民間向けのP320には、安全装置付きと、なしの両方がある。
SFP9は、グロックなどと同じく、手動の安全装置を持たないのが基本の設計だ。引き金にある小さなレバーや内部の安全機構で暴発を防ぎ、抜いてすぐ撃てることを優先している。自衛隊がそれまで使っていたP220も、親指で操作する安全装置ではなく、撃鉄を安全に戻すレバー(デコッカー)で安全を確保する拳銃だった。手動の安全装置にあまり頼らない文化は、もともと自衛隊の拳銃にあったと言える。
どちらが正しいかは、昔から拳銃の世界で意見が分かれるところだ。手動の安全装置があれば、うっかり引き金に触れたときの事故を防げる。一方で、とっさに撃つ場面で安全装置を外し忘れるおそれもある。
違い3:大きさと撃ちやすさ
大きさでは、フルサイズのM17がSFP9より一回り大きく、重い。M17は重さ約830g、全長約20cmで、銃身も長い。SFP9はそれより軽く、銃身も短めだ。小型版のM18は、ちょうどSFP9に近い大きさになる。
SFP9のスライドの後ろには、指をかけやすい小さな出っ張りがあり、手袋をしていてもスライドを引きやすい。弾倉を抜くボタンは、引き金を守る枠の下側にあるレバー式で、左右どちらの手でも操作できる。H&Kの拳銃らしい作りだ。M17は、弾倉を抜くボタンがグリップの横にある、アメリカの拳銃に多いタイプである。
どちらも、スライドの上に小型の光学照準器(ドットサイト)を載せられる型があり、現代の拳銃らしい拡張性を持っている。
違い4:選ばれた経緯

写真:Hunini/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
日本のSFP9|グロック、ベレッタAPXと比べて選定
防衛省は、2018年度の予算でSFP9、グロック17、ベレッタAPXの3つの拳銃を買って比べ、2019年12月にSFP9を選んだ。同じタイミングで、小銃は国産の20式小銃に決まっている。
最初の調達の要求は323丁・約3,000万円だった。単純に割ると1丁あたり9万円あまり。国産のライセンス生産から輸入に切り替えたことで、拳銃1丁の値段はかなり安くなったと見られる。
候補になった拳銃については、ベレッタAPXの解説とグロック17の解説で書いている。
アメリカのP320|大型競争でグロックを破る
アメリカ陸軍の新拳銃選びは、もっと大がかりだった。「モジュラー・ハンドガン・システム」と名付けた競争には、グロックやベレッタなど有名メーカーが参加し、2017年1月にSIG SAUERのP320が勝った。契約の上限は約5億8,000万ドル。グロックは結果に異議を申し立てたが、認められなかった。
アメリカ軍が求めたのは、1つのシステムで大きさを変えられること、左右どちらの手でも操作できること、消音器を付けられること、そして何より信頼性だった。グロックは、軍向けに手を加えた17と19を出したが、総合評価でP320に届かなかった。米政府の監査機関は2017年6月に、グロックの異議を退けている。
最終的に、陸軍・海軍・空軍・海兵隊・宇宙軍が、M17かM18を使うことになった。調達の計画は最大で40万丁を超える。一方で、沿岸警備隊はグロック19を選んでいて、アメリカの全軍がP320でそろったわけではない。
違い5:評判|P320をめぐる議論
ここは、比べるうえで避けて通れない話だ。
P320は、2017年に、落としたときに暴発するおそれがあると指摘され、SIG社は自主的な改修を行った。さらに2020年代に入ると、アメリカでは「引き金を引いていないのに発砲した」と訴える訴訟が相次いでいる。いくつかの裁判では、設計に欠陥があったとする陪審の判断も出た。
2025年7月には、ワイオミング州の米空軍基地で、隊員がM18の発砲で亡くなる事案があった。空軍の一部の部隊はM18の使用をいったん止めて全数を点検し、部品の摩耗などが見つかった一部の銃を修理に回したうえで、約1か月後に使用を再開している。点検では、故障による発砲は確認されなかったとされ、この件では別の隊員が刑事責任を問われた。
一方、アメリカの一部の州や警察機関は、P320の使用や訓練での持ち込みをやめている。2025年10月には、ニュージャージー州が回収と販売禁止を求めてSIG社を訴えたと報じられている。SIG社は「P320は引き金を引かなければ撃てない」として、設計上の欠陥を一貫して否定している。米陸軍も、自軍のM17/M18に変更を加える予定はないと報じられている。
真相は、まだ裁判の場で争われている最中だ。ただ、軍や警察の拳銃に対する信頼が、これほど公の場で揺らいだ例はそう多くない。SFP9については、2026年時点でこうした大きな議論は起きていない。
使い手と現在の状況

写真:Davide Dalla Massara/Wikimedia Commons(Public domain)
SFP9は、ドイツの警察などでも使われていて、陸自では40年近く使ってきたP220からの更新がゆっくり進んでいる。拳銃は自衛隊では幹部や車両・航空機の乗員などが持つものなので、小銃ほどの数は必要なく、更新のペースも穏やかだ。
P320は、米軍だけでなく、アメリカの警察や民間市場でも大量に売れた。軍用だけでも20万丁前後が作られたとされる。アメリカで最も売れた拳銃の一つだが、そのぶん、先に書いた議論の影響も大きい。
日本の自衛隊の銃全体の中でのSFP9の位置づけは自衛隊の銃一覧【2026年版】、各国の軍の拳銃は世界の軍用拳銃一覧で整理している。
私見:日本の自衛隊に合っているのはどっちか
ここからは私の個人的な見方だ。
自衛隊にとっては、SFP9は理にかなった選択だったと思う。理由は3つある。
まず、体格の幅に合わせられること。自衛隊は女性隊員も増えていて、手の大きさの差は大きい。グリップを細かく調整できるSFP9は、その点で扱いやすい。
次に、拳銃の使われ方。自衛隊では、拳銃は幹部や車両・航空機の乗員が身を守るための装備で、数も多くない。アメリカ軍のように、1つの拳銃システムで大きさの違う何十万丁をそろえる必要はない。P320の最大の売りである「中身ごと組み替える」柔軟さは、自衛隊ではそこまで生きない。
最後に、選定の時期だ。日本が候補を比べていた2018〜2019年ごろには、P320の落下時の暴発の問題がすでに話題になっていた。日本の比較試験の候補にP320が入っていなかった理由は公表されていないが、結果的には、議論の渦中にある拳銃を避けた形になった。
旧軍ファンとして|日本の拳銃は「国産」から「輸入」へ
少し視点を引いてみたい。
旧日本陸軍の拳銃は、南部麒次郎が設計した南部十四年式など、国産が基本だった。戦後は米軍から貸与されたM1911A1(コルト・ガバメント)を使い、1982年からはスイス設計のP220を、日本のミネベアがライセンス生産した。そして2020年代、ついにドイツ製のSFP9を輸入する形になった。
設計は外国でも、日本で作る。そこから、完成品をそのまま買う形へ。小銃では国産の20式を守った一方で、拳銃は輸入に踏み切った。部隊の中で拳銃が持つ役割の小ささと、調達数の少なさを考えれば合理的な判断だが、「日本の兵士が日本製の拳銃を持つ」時代は、ここでいったん区切りを迎えたことになる。
旧軍の拳銃は南部十四年式拳銃の解説、戦後の米軍貸与品はM1911の解説で書いている。
エアガンで比べるなら
日米の制式拳銃を手に取って比べたいなら、エアガンが手軽だ。日米の「前の世代」の拳銃も含めて並べると、時代の変化がよく分かる。米軍がM17の前に使っていたベレッタM9と、自衛隊のP220の兄弟にあたるSIG P226は、東京マルイからガスブローバックが出ている。
SFP9の選定で比べられたグロック17も、ポリマーフレームのストライカー式という点で、SFP9やP320と同じ系統の拳銃だ。
サバゲー用のハンドガン選びはサバゲー用ハンドガンおすすめ10選にまとめている。
よくある質問
SFP9とP320はどっちが優れている?
用途による。銃の大きさまで組み替えられる柔軟さではP320が上で、大きな組織で1つのシステムに統一したいアメリカ軍の考え方に合っている。手に合わせた握りやすさや、2026年時点での評判の安定感ではSFP9に分がある。
M17とM18の違いは?
どちらもP320をもとにした米軍の拳銃で、M17がフルサイズ、M18が小型版だ。中核部品は共通で、スライドや銃身、グリップの大きさが違う。
自衛隊のSFP9に安全装置はある?
SFP9は、手動の安全装置を持たない設計が基本だ。内部の安全機構や引き金のレバーで暴発を防ぐ。自衛隊向けの細かい仕様は公開情報が少ない。
P320の暴発問題は解決した?
2026年時点で、訴訟や一部の機関での使用中止が続いていて、決着はついていない。SIG社は設計上の欠陥を否定し、米陸軍も変更の予定はないとしている。
SFP9とVP9の違いは?
基本的に同じ拳銃で、主にヨーロッパの軍や警察向けがSFP9、アメリカの民間向けがVP9という名前で売られている。
まとめ|同じ時代の兄弟、違う哲学
SFP9とP320は、どちらもポリマーフレームのストライカー式という、現代の拳銃の王道で作られた兄弟のような存在だ。ただ、SFP9は「1人1人の手に合わせる」ことを、P320は「1つのシステムで軍全体の要求に応える」ことを重視した。安全装置の考え方も、日米の拳銃文化の違いをそのまま映している。
そして、評判では明暗が分かれた。P320は大量に売れた一方で、暴発をめぐる議論の渦中にある。SFP9は大きな話題にこそならないが、静かに自衛隊の新しい拳銃として配られ続けている。地味でも、信頼されることこそ軍用拳銃の一番の性能なのかもしれない。
SFP9とP320、それぞれの詳しい解説はSFP9の解説とSIG P320/M17の解説にある。拳銃全体の比較は世界最強の拳銃ランキングもどうぞ。
最後まで読んでくれてありがとう。
出典・参考資料
表紙の写真素材:
写真:Marcel Fosca/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)
写真:Davide Dalla Massara/Wikimedia Commons(Public domain)。背景・レイアウト・文字を編集。加工版:CC BY-SA 3.0







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