ターニャたち帝国の航空魔導師が抱えている小銃を、なんとなく「ドイツ軍だからKar98k」と思っていなかっただろうか。私も最初はそう思っていた。
ところが、銃器の愛好家たちの間では、あれはKar98kではないとされている。メキシコの将軍が設計し、スイスで作られた半自動小銃「モンドラゴン」によく似ているのだ。公式のミニチュア商品の名前も「M1908モンドラゴン」になっている。そしてこの銃は、第一次世界大戦のドイツ帝国が、飛行機に乗る兵士のために買い入れた銃でもあった。空を飛ぶ魔導師が、史実で空の兵士が持った銃を持っている。偶然にしては出来すぎている。
この記事では、幼女戦記に出てくる銃を陣営ごとに整理し、外観がよく似た実銃と並べて比べる。ただし、銃の「モデル」には確かさの段階がある。公式の商品名で確認できるものと、ファンや銃器の愛好家が見た目から特定したものは、きちんと分けて書く。
ネタバレは2期の公式あらすじの範囲までにとどめる。
- 公式に名前を確認できたのは、トミーテックの「リトルアーモリー」の幼女戦記コラボ商品に出てくるM1897トレンチガン(アンソン)、M1908モンドラゴン(帝国の航空魔導師)、MKMS(ターニャ)、M1ライフル(メアリー)の4種
- それ以外は、海外の銃器データベースなどが見た目から特定した「似た実銃」として扱う
- 帝国の歩兵はGew98、機関銃はMG08と、第一次大戦のドイツ軍の装備がそのまま並ぶ
- 連邦と合州国の兵士が持つ銃は、1930年代の新しい銃が多い。あとから参戦した国ほど銃が新しい
- 幼女戦記の銃は、1/12のミニチュアやエアガンで手元に置いて比べられる
まず前提|「公式」と「似ている」は分けて考える
幼女戦記の銃の多くは、作中で型式名を名乗るわけではない。そのため「〇〇のモデルは××」という話には、確かさの段階がある。この記事では次の二つを分けて書く。
一つめは、公式に確認できたモデルだ。トミーテックの1/12スケールのミニチュア銃シリーズ「リトルアーモリー」から、幼女戦記の銃が商品化されている。商品名にはっきり実銃の名前が入っていて、パッケージには原作者カルロ・ゼンによる銃の解説カードも付いている。これは公式の情報と言っていい。
二つめは、外観がよく似た実銃だ。こちらは、海外の銃器データベース「IMFDB」などで、愛好家がアニメの画面から特定したものになる。かなり精度は高いが、公式が「この銃だ」と言ったわけではない。この記事では「似た実銃」として扱う。
幼女戦記の銃のモデル一覧【早見表】

ここからは、陣営ごとに見ていく。
帝国軍の銃|第一次大戦のドイツ軍がそのまま並ぶ
航空魔導師の小銃|モンドラゴン M1908
帝国の航空魔導師が標準で持つのが、モンドラゴンによく似た半自動小銃だ。リトルアーモリーでは「M1908モンドラゴン」の名前で商品化され、ヴィーシャたち帝国の航空魔導師が使う小銃として紹介されている。ここは公式に確認できる数少ない銃だ。

モンドラゴンは、メキシコの将軍マヌエル・モンドラゴンが設計した小銃で、1908年にメキシコ軍が採用した。製造したのはスイスのSIG社だ。引き金を引くたびに弾が送り込まれる半自動の仕組みを持ち、軍に正式採用された最初期の半自動小銃として知られている。
この銃が面白いのは、そのあとだ。第一次大戦が始まると、ドイツ帝国はこのモンドラゴンを買い入れ、飛行機に乗る兵士のための小銃として使った。機関銃がまだ飛行機に行き渡っていなかった時代、偵察機の乗員が空で身を守るための銃だった。
幼女戦記の帝国では、空を飛ぶ兵士は飛行機の乗員ではなく、魔導師だ。その魔導師が、史実でドイツ帝国が空の兵士に持たせた銃を手にしている。作者の意図までは分からないが、第一次大戦のドイツを知っていると、思わずうなる選択だ。なお、作中では弾倉の形など、史実のモンドラゴンとは細かいところが違って描かれている。
歩兵の小銃|Gew98
帝国の歩兵が持つのは、モーゼルのGew98によく似たボルトアクション小銃だ。2期6話では、ゼートゥーアまでこれを手にしている場面がある。
ここで気をつけたいのは、Kar98kではないことだ。Gew98は1898年に採用された長い小銃で、第一次大戦のドイツ軍の標準装備だった。その銃身を短くして1935年に採用されたのが、第二次大戦のドイツ軍でおなじみのKar98kだ。幼女戦記の歩兵の銃は長いほう、つまり第一次大戦の小銃に近い。Kar98kのほうについてはKar98k狙撃型とはで詳しく書いた。
機関銃|MG08
帝国軍の陣地で弾幕を張るのは、マキシム式のMG08によく似た重機関銃だ。MG08は第一次大戦のドイツ軍の主力機関銃で、西部戦線の塹壕戦を象徴する兵器の一つだった。ライン戦線の陣地の場面にぴったりの銃だ。第二次大戦のドイツ軍の機関銃MG42とは、世代がまるで違う。
ターニャの拳銃|ルガーP08とC96
ターニャの拳銃は、場面によって二つある。1期のエンディングで手にしているのは、ルガーP08によく似た拳銃だ。P08は1908年にドイツ陸軍が採用した拳銃で、第一次大戦のドイツ軍の顔のような銃だった。くわしくはルガーP08とはに書いた。
一方、劇場版と2期でターニャが使っているのは、モーゼルC96によく似た拳銃だ。箱のような弾倉を引き金の前に持ち、ほうきの柄のような握りで知られる独特の拳銃で、こちらも第一次大戦のころのドイツで広く使われた。
戦利品の短機関銃|SIG MKMS
ターニャが1期でアンソン・スーから奪った短機関銃は、スイスのSIG社が1930年代に作った短機関銃MKMSによく似ている。弾倉を前に折りたためる変わった仕組みを持ち、生産数も少ない珍しい銃だ。作中では、アンソンが娘のメアリーから贈られた銃という設定で、それを倒したターニャが自分のものにする。帝国の標準装備ではなく、ターニャの個人的な武器だ。
大砲と戦車
銃ではないが、帝国軍の重い兵器にも触れておく。主力の野砲は、第一次大戦のドイツ軍の10cmカノン砲K14によく似ていて、高射砲は第一次大戦の8.8cm高射砲によく似ている。ところが戦車だけは、第二次大戦の前半にドイツ機甲部隊の主力だったIII号戦車によく似た姿で描かれている。歩兵の装備は第一次大戦、戦車は第二次大戦。この組み合わせにも、帝国の「二つの時代の重ね合わせ」がよく出ている。III号戦車についてはIII号戦車とはで書いた。
協商連合とアンソンの銃
アンソンの散弾銃|ウィンチェスター M1897 トレンチガン
協商連合の魔導師アンソン・スーが、連合王国の部隊に加わってから使う散弾銃は、ウィンチェスターM1897のトレンチガンだ。リトルアーモリーでは「アンソン M1897トレンチガン」として商品化されていて、老舗のモデルガンメーカー、タナカの協力で作られたことも紹介されている。これも公式に確認できる銃だ。
M1897は、第一次大戦でアメリカ軍が塹壕戦に持ち込んだポンプアクションの散弾銃だ。銃剣を付けられるように改造されたものはトレンチガンと呼ばれ、塹壕の中の近接戦闘で恐れられた。あまりの威力に、ドイツが国際法違反だとして抗議したという逸話もある。作中のアンソンは、魔法で強化した特製の弾を撃ち込み、銃剣まで付けて戦う。
散弾銃の仕組みや、その後のポンプアクション散弾銃の歩みは、モスバーグM500とはでも触れている。
協商連合の歩兵と爆撃機
協商連合の歩兵の小銃は、スウェーデンのモーゼルM1896ではないかと見られている。ただ、これは確度の低い推定だ。協商連合の爆撃機には、イギリスのルイス機関銃によく似た機関銃が積まれている。
共和国とダキアの銃
共和国の歩兵が持つのは、フランスのルベルM1886によく似た小銃だ。ルベルは、煙の少ない無煙火薬の弾を最初に使った軍用小銃として知られ、第一次大戦のフランス軍の主力だった。塹壕の機関銃は、イギリスのヴィッカース機関銃によく似ている。
面白いのは、共和国の航空魔導師が持つ小銃だ。こちらは、第一次大戦の末期にフランス軍が採用した半自動小銃RSC M1917によく似ている。帝国の魔導師がモンドラゴン、共和国の魔導師がRSC。どちらも、第一次大戦のころの数少ない半自動小銃だ。空の兵士には連射のきく半自動小銃を持たせるという発想が、両陣営に共通しているのが分かる。
ダキア大公国の歩兵が持つのは、ルーマニア軍が使ったマンリッヒャーM1893によく似た小銃だ。ダキアのモデルがルーマニアだということは、銃からも確かめられる。
合州国と多国籍義勇軍の銃|メアリーのM1ガーランド
劇場版と2期でメアリー・スーが持つのは、M1ガーランドだ。リトルアーモリーでも「メアリー M1ライフル」として商品化されている。連合王国の魔導士官ドレイクや、多国籍義勇軍の魔導師たちも同じ銃を使う。
M1ガーランドは、アメリカ軍が1936年に採用した半自動小銃だ。8発をまとめて装填し、撃ち切ると空のクリップが「キン」という音を立てて飛び出す。第二次大戦で、半自動小銃を歩兵に大量に配った軍隊の代表がアメリカ軍だった。くわしくはM1ガーランドとはに書いた。
つまりメアリーは、第一次大戦の装備で戦う帝国の魔導師の前に、第二次大戦の新しい小銃を持って現れたことになる。合州国という国の豊かさと、遅れて加わった勢力の新しさが、銃一丁に表れている。
連邦の銃|1930年代のソ連軍
連邦の歩兵が持つのは、ソ連軍の標準小銃モシン・ナガンM91/30によく似た小銃だ。もともと帝政ロシアの小銃を、1930年にソ連が改良したものだ。モシン・ナガンについてはモシン・ナガン狙撃銃とはで書いた。

2期の新キャラクター、ミケルたち連邦の航空魔導師が持つのは、シモノフAVS-36によく似た小銃だ。AVS-36は1936年にソ連軍が採用した自動小銃で、連射もできた。機関銃は、軽機関銃のDP-27と、大口径の重機関銃DShKによく似たものが出てくる。DShKは、空を飛ぶ帝国の魔導師を撃ち落とすために向けられている。史実では対空にも使われた機関銃なので、使い方まで理にかなっている。
戦車は、ソ連の快速戦車BT-5によく似た車両だ。劇場版では、ソ連が1938年に作った巨大な列車砲によく似た兵器まで登場する。
イルドアの銃
2期で登場するイルドア王国の兵士は、イタリア軍の標準小銃カルカノM91によく似た小銃を持っている。1891年に採用され、二つの大戦を通してイタリア軍が使い続けた銃だ。イルドアのモデルがイタリアであることは、ここでもはっきりする。
並べて分かること|あとから来た国ほど、銃が新しい
こうして陣営ごとに並べると、一つの傾向が見えてくる。
最初から戦っている帝国、共和国、協商連合、ダキアの銃は、どれも1880年代から1910年代の、第一次大戦のころの銃だ。ところが、あとから戦争に加わった連邦と合州国の兵士が持つのは、1930年代の新しい銃が多い。
魔導師の小銃で比べると、それがいちばんよく分かる。
| 陣営 | 魔導師の小銃に似た実銃 | 採用年 |
|---|---|---|
| 帝国 | モンドラゴン M1908 | 1908年 |
| 共和国 | RSC M1917 | 1917年 |
| 連邦 | シモノフ AVS-36 | 1936年 |
| 合州国・多国籍義勇軍 | M1ガーランド | 1936年 |

帝国の魔導師は、敵が増えるたびに、自分たちより一世代新しい銃と向き合うことになる。帝国の側だけ時間が止まっているわけではないが、少なくとも見た目の上では、帝国は第一次大戦の道具で、第二次大戦の道具を持った相手と戦っているように描かれている。
これは、前の記事『幼女戦記の帝国はドイツがモデル?』で書いた「第一次大戦のドイツ帝国が、第二次大戦の戦場に放り込まれた国」という見方とぴったり重なる。銃を見るだけで、帝国の置かれた立場が分かるのだ。
例外は、ターニャのC96とMKMSだろう。前者は古い型の拳銃の新しい版で、後者は敵から奪った1930年代の短機関銃だ。新しい装備は自分で手に入れるしかない、というのも、なんだかターニャらしい。
手元で比べるなら|ミニチュアとエアガン
幼女戦記の銃は、形の違いを手元で見比べると面白い。
いちばん手軽なのは、さきほど紹介したリトルアーモリーの1/12スケールのシリーズだ。アンソンのM1897トレンチガン、帝国の魔導師のM1908モンドラゴン、ターニャのMKMS、メアリーのM1ライフルが出ていて、原作者による銃の解説カードも付いている。並べて置くだけで、第一次大戦の銃と第二次大戦の銃の違いがよく分かる。
実物に近い大きさで触れてみたいなら、エアガンやモデルガンという手もある。2期の放送中には、サバイバルゲームのフィールド、射撃場、エアソフトショップとの公式タイアップも行われていた。ターニャが1期のエンディングで手にしていたルガーP08なら、金属製のモデルガンがある。
エアガンやモデルガンは、年齢制限や扱いのルールを守って楽しんでほしい。
幼女戦記を見る・読むなら
2期はABEMAとdアニメストアが最速の配信先で、11月5日からはNetflixでの配信も始まる。配信の状況は時期によって変わるので、見る前に各サービスで確かめてほしい。銃の違いを頭に入れてから見ると、同じ戦闘の場面でも、陣営ごとの装備の差が目に入ってくる。
1期の戦いを細かく追いたいなら、東條チカによる漫画版もいい。アニメでは一瞬で過ぎる戦闘の場面も、コマなら銃の形までじっくり見られる。
よくある質問
ターニャの銃のモデルは?
ターニャたち帝国の航空魔導師の小銃は、モンドラゴンによく似ている。リトルアーモリーでは「M1908モンドラゴン」として商品化されている。拳銃は、1期のエンディングではルガーP08に、劇場版と2期ではモーゼルC96によく似たものを使っている。
帝国軍の小銃はKar98k?
歩兵の小銃は、Kar98kではなく、その前の長い小銃Gew98によく似ている。第一次大戦のドイツ軍の標準小銃だ。
メアリー・スーの銃は?
M1ガーランドだ。リトルアーモリーでも「メアリー M1ライフル」として商品化されている。
アンソンの散弾銃は?
ウィンチェスターM1897のトレンチガンだ。リトルアーモリーで「アンソン M1897トレンチガン」として商品化されている。
幼女戦記の銃は公式にモデルが発表されている?
すべての銃ではない。リトルアーモリーの商品名で確認できるのは、M1897トレンチガン、M1908モンドラゴン、MKMS、M1ライフルなど一部だけだ。ほかの銃は、愛好家が画面の見た目から特定したものになる。
まとめ|銃を見れば、帝国の立場が分かる
幼女戦記の銃は、陣営ごとに史実の国の銃とよく対応している。帝国はモンドラゴン、Gew98、MG08、ルガーP08と、第一次大戦のドイツ帝国の装備。共和国はルベルとRSC、ダキアはマンリッヒャー、イルドアはカルカノ。そして、あとから加わった連邦はモシン・ナガンやAVS-36、合州国はM1ガーランドと、1930年代の新しい銃を持っている。
なかでも、帝国の航空魔導師がモンドラゴンを持っているのは、史実でドイツ帝国が空の兵士に持たせた銃だったことを思うと、とてもよくできた設定だ。公式に名前を確認できる銃は一部だが、それ以外の銃も、見た目だけで陣営のモデルを語ってくれる。
次は、ターニャの「中佐」がどれほど偉いのか、帝国軍の階級と役職を整理する。
最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。







コメント