世界で最も多く作られた散弾銃は何か。答えはモスバーグM500で、2021年の時点で1,100万丁を超えている。同じアメリカのレミントンM870が長く「散弾銃の代名詞」だったのに、数で上回ったのはモスバーグの方だ。
面白いのはその経緯で、M500は1970年代にアメリカ軍の耐久試験に落ちている。それでも軍はM500を少数買い続け、モスバーグは落ちた理由を全部直したM590を作り、1987年にその試験に通り、以来40年近くアメリカ軍の標準散弾銃の座にいる。2025年12月にはアメリカ陸軍がM590A1の追加調達で約1,160万ドルの契約を結んだばかりで、これは終わった銃の話ではない。
この記事では、M500がなぜ安くて壊れないのか、M590やM590A1と何が違うのか、レミントンM870とどこで分かれるのか、そして猟銃としてもエアガンとしても日本でどういう位置にいるのかを、順に追っていく。
M500を一言で言うと

O・F・モスバーグ&サンズが1961年から作り続けているポンプアクション式の散弾銃だ。先台を前後に動かして装填と排莢をする、昔ながらの手動式で、12番、20番、410番の口径があり、銃身の長さも銃床の形も交換できる。狩猟用、警察用、軍用、家庭の護身用と、同じ機関部でありとあらゆる用途に対応する。
基本の数字を並べておく。
| 項目 | M500(12番・標準) | M590A1(軍用) |
|---|---|---|
| 作動 | ポンプアクション | 同じ |
| 装弾数 | 5+1発(銃身と弾倉による) | 8+1発(20インチ銃身) |
| 銃身長 | 18.5〜28インチ | 14/18.5/20インチ |
| 重量 | 約3.2kg | 約3.5kg |
| 機関部 | アルミ合金 | アルミ合金 |
| 用心金・安全装置 | 樹脂 | 金属 |
| 銃身 | 標準 | 肉厚 |
| 設計 | 1961年(カール・ベンソン) | 1987年(M590)→強化型 |
| 生産数 | 1,100万丁以上(シリーズ合計) | 軍・警察向け |
新品でも日本円で数万円台から買える。銃の中で最も安い部類でありながら、60年間ほとんど設計を変えていない。安いから壊れやすいのではなく、安く作れる構造を最初から考えた結果、壊れにくくなった。ここがM500の全てだ。
なぜ安くて壊れないのか──1961年、カール・ベンソンの引き算
M500を設計したのはモスバーグの技師カール・ベンソンで、狙ったのは狩猟用の安い散弾銃だった。当時、散弾銃の機関部は鋼鉄の塊から削り出すのが当たり前で、それが値段の大半を占めていた。
ベンソンの答えは、機関部をアルミ合金にすることだった。ただしアルミは弱い。そこで発射の圧力を受ける部分を機関部ではなく、銃身の根元に付けた鋼鉄の延長部と、そこに噛み合うボルトのロッキングラグで受け持たせた。機関部は部品を収める箱でしかなく、力を受けない。だからアルミでいい。今では当たり前の設計だが、1961年にこれをやったのは早い。
もう一つの特徴が安全装置の位置だ。M500は機関部の上面、親指で触る場所にスライド式の安全装置がある。右利きでも左利きでも同じように使える。これに対してレミントンM870は用心金の後ろに押しボタン式の安全装置があり、左利きには使いにくい。この違いは60年後の今でも、M500派とM870派を分ける一番の論点になっている。
さらに、先台を動かすアクションバーが左右に2本ある。1本だと力が偏って引っかかるが、2本なら真っ直ぐ動く。排莢も、薬莢を掴む爪が2つあり、片方が欠けても抜ける。安く作ったが、動かなくなる原因を一つずつ二重にしてある。
「12番」とは何か──1丁で全部やれる理由
散弾銃の口径は「番」で表す。12番は、1ポンド(約454g)の鉛から作った球12個分の直径、つまり約18.5mmの内径を意味する。数字が小さいほど太い。M500の主力である12番は、拳銃弾の2倍以上の太さの筒で、その中に何を詰めるかで別の銃になる。
| 弾の種類 | 中身 | 用途 |
|---|---|---|
| バードショット | 直径2〜3mmの小さな粒を数百個 | 鳥猟、クレー射撃 |
| バックショット | 直径8mm前後の粒を9個前後 | 大型獣猟、警察・軍の近接戦闘 |
| スラッグ | 約28gの一発弾 | 鹿・猪・熊、ドアの破壊 |
| ブリーチング弾 | 粉末金属を固めた弾。ドアで砕けて跳ねない | 軍・警察の突入 |
| 非致死弾 | ゴム弾、ビーンバッグ | 暴動鎮圧、警備 |
同じM500で、朝は鴨を撃ち、昼は鹿を撃ち、夜は家の護身に使える。軍で言えば、同じM590A1がドアを壊し、暴徒を止め、近接戦闘で撃つ。小銃はこれができない。小銃の弾は1種類で、それを速く遠くへ飛ばすことに特化している。散弾銃は遅く近いが、中身を変えられる。M500が1,100万丁売れたのは、性能が高いからではなく、1丁でこれだけ違う仕事ができて、それが数万円で買えるからだ。
軍への道──試験に落ちて、それでも買われた

1970年代、モスバーグはM500をアメリカ軍の制式散弾銃候補として提出した。ここで受けたのがMIL-SPEC 3443Eという規格の耐久試験で、内容は3,000発を撃って作動不良2回以内、というものだった。M500は落ちた。樹脂製の安全装置と用心金、それに緩い部品の嵌め合いが、軍の求める頑丈さに届かなかった。
ここからが面白い。落ちたのにアメリカ軍はM500を買った。最初の注文は海軍と沿岸警備隊向けの約5,900丁で、その後も少数の調達が続く。安く、部品交換が簡単で、艦艇の警備や倉庫の番に使うにはそれで十分だった。試験の合否と現場の必要は別だった。
モスバーグ側も黙っていなかった。軍・警察向けの改良型がM590で、弾倉の先端を掃除しやすいキャップに替え、20インチ銃身に6発の延長弾倉を付け、表面はパーカライジング処理にした。1987年、M590はMIL-SPEC 3443Eに通り、陸海空軍と海兵隊に採用された。さらに軍は「もっと過酷な環境で大量に撃っても持つ型を作れ」と要求し、それに応えたのがM590A1で、銃身を肉厚にし、用心金と安全装置をアルミ製にした。これが今のアメリカ軍の標準散弾銃だ。
つまりM500は「軍のテストに落ちた民間銃」で、M590A1は「その民間銃を軍が育てた銃」だ。同じ機関部から出ている。
実戦──ドアの破壊と、致死性を抑える用途

アメリカ軍の散弾銃の使い方は、ベトナム戦争の頃とは変わった。ベトナムではジャングルの近接戦闘で散弾をばら撒く「塹壕掃除」の延長として使われていたが、今の主な仕事は2つある。
一つはドアの破壊だ。イラクとアフガニスタンで、建物に突入する際にドアの蝶番や錠前を至近距離から撃って吹き飛ばす。専用の破壊弾があり、M590A1の14インチ銃身型はこのために作られている。歩兵の分隊に散弾銃が1丁あると、ドアを壊す道具として最も確実で、しかも爆薬より安全だった。
もう一つは非致死弾だ。ゴム弾やビーンバッグ弾は致死性を抑える目的で使われるが、死亡や重傷の危険がなくなるわけではない。海兵隊の非致死兵器訓練で写っている散弾銃はほぼM590A1で、暴動や検問での使用がこの銃の想定任務に入っている。2025年12月の陸軍契約で買われたM590A1も、17インチ銃身、6+1発の基本型で、こうした任務に回るものと見られている。
散弾銃は主武器にはならない。だが分隊に1丁あると、小銃ではできない仕事を全部引き受ける。アメリカ軍がM4カービンを何十万丁も持ちながら、散弾銃を捨てない理由はここにある。M4の話はM16・M4の記事に、ベトナムの分隊火力の話はM60の記事に書いた。
ある突入の風景──ドアの前の3秒
イラクの市街戦でM590A1がどう使われたかを、典型的な場面として組み立ててみる。
分隊が民家の前に着く。ドアは金属製で、内側から施錠されている。蹴っても開かない。爆薬を使えば開くが、中に誰がいるか分からず、隣の家まで壊れる。ここで散弾銃を持った兵士が前に出る。M590A1の14インチ銃身の先を、蝶番から数cmの位置に斜め45度で当てる。跳弾を避けるためで、真っ直ぐ撃てば中の人間に当たる。ブリーチング弾を撃つ。粉末金属の弾は蝶番を砕いた瞬間に自分も砕けて、その先には飛ばない。先台を引いて、次の蝶番。2発でドアが傾き、蹴ると倒れる。散弾銃の兵士は下がって、小銃を持った仲間が入る。ここまで3秒。
散弾銃は突入の主役ではない。だがこの3秒がなければ突入は始まらない。M590A1の役目は撃ち合うことではなく、撃ち合いが始まる場所を作ることで、これは1961年にカール・ベンソンが狩猟用に設計した銃が、40年後に見つけた新しい仕事だった。
レミントンM870との違い──60年続く「どっち派」論争

散弾銃の世界で、M500はM870と比べられる運命にある。M870は1950年に出た鋼鉄製機関部のポンプアクションで、アメリカの警察とハンターの標準だった。M500はそれより11年遅れて出た、安い挑戦者だ。
| 項目 | モスバーグM500 | レミントンM870 |
|---|---|---|
| 機関部 | アルミ合金 | 鋼鉄 |
| 安全装置 | 上面スライド式(左右対称) | 用心金後ろの押しボタン式 |
| アクションバー | 2本 | 2本(初期型は1本) |
| 排莢の爪 | 2つ | 1つ |
| 装填口 | 機関部下面、リフターが上がった状態 | 機関部下面、リフターが下がった状態 |
| 重量 | 軽い | やや重い |
| 価格 | 安い | やや高い |
| 生産数 | 1,100万丁以上 | 1,100万丁以上(2009年時点で1,000万丁超) |
| 軍の採用 | M590/M590A1として1987年〜 | 海兵隊等でM870MCSほか |
構造の違いで一番効くのは、実は装填のしやすさだ。M870は装填の際に弾倉に弾を押し込むと、リフターという部品が指を挟むことがある。M500はリフターが上に退避しているので、指を挟まない。射撃場でM500に変えた人が最初に言うのがこれだ。
もう一つは会社の運命だ。レミントンは2018年と2020年に2度破産し、銃器部門は分割売却された。M870の品質が落ちたと言われた時期が2010年代にあり、その隙にM500と、モスバーグが2010年代に出したM590の派生型が市場を取った。今は再建されたレミントンが新しいM870を作っているが、「一番売れている散弾銃」の座はモスバーグに移ったままだ。
弱点──安さの代償
M500にも欠点はある。一番言われるのは部品の緩さで、先台にガタがあり、機関部の嵌め合いも精密ではない。これは意図的で、泥や砂が入っても動くように隙間を取っている。ただし精密な銃に慣れた人には安っぽく感じる。
樹脂製の安全装置と用心金は民間型では今も残っていて、落とすと割れることがある。金属に替えたいなら最初からM590A1を買えということになる。
そしてポンプアクションであること自体が、2020年代には弱点になりつつある。半自動散弾銃が安く信頼できるようになり、ベネリやモスバーグ自身の半自動が軍や警察に入り始めた。手動で先台を引く銃は、連射では絶対に半自動に勝てない。M500が今も売れているのは、故障しないこと、安いこと、そして何十年も同じ部品が手に入ることの3点で、性能の話ではない。
日本での立ち位置──猟銃としてのM500
ここからは日本の話をする。日本では猟銃や空気銃の所持に許可が必要で、ライフル銃には用途などに応じた追加の要件がある。散弾銃は狩猟でも使われており、M500もその選択肢の一つだ。
2025年から2026年にかけて、東北や北海道で熊による被害が相次ぎ、猟友会と自治体の対応が問題になった。熊を止めるのに使われるのは散弾銃のスラッグ弾か大口径ライフルで、M500のような安い散弾銃を持つハンターが現場の多くを支えている。熊対策の記事で書いた「誰が撃つのか」という問題の裏側には、こういう銃の事情がある。
自衛隊はどうか。自衛隊には制式の散弾銃がない。歩兵の分隊にドアを壊す銃を持たせる発想が、専守防衛の装備体系には入っていない。市街戦を想定した特殊作戦群や海上自衛隊の特別警備隊が何を持っているかは公開されていないが、少なくとも普通の部隊にはない。警察の特殊部隊や機動隊には散弾銃があるので、日本で「軍用散弾銃」に一番近いのは自衛隊ではなく警察の装備ということになる。
投資の目で見るモスバーグ──家族経営の会社が1,100万丁
投資家として言うと、モスバーグは上場していない。1919年の創業から今もモスバーグ家が経営する非公開企業で、株は買えない。これは銃器業界では珍しくなく、H&Kもベネリも直接は買えない。上場していたレミントンは2度破産した。銃器メーカーは景気と規制と訴訟で業績が激しく振れ、しかも1丁数万円の商品を何十万丁も売って利益を積む薄利の商売で、投資対象としては筋が悪い。
むしろM500の話から学べるのは、「軍のテストに落ちた民間製品が、民間で数を売って軍に育てられる」という構造だ。日本で小火器を自衛隊に納める豊和工業が、猟銃と防衛の両方を持っているのはこれと似ていて、民間の猟銃で稼ぎながら防衛需要を待つ形になっている。ただし小火器は防衛産業の中で最も金額の小さい分野で、防衛株全体は予算と政治で大きく動く。この記事は特定銘柄の売買を推奨するものではなく、投資判断は自分で情報を集めたうえで行ってほしい。
サバゲーでのM500──ポンプアクションの楽しさ
エアガンの世界では、M500そのものよりレミントンM870やベネリM3のモデルが主流で、東京マルイのガスショットガンは1回の操作で3発か6発のBB弾が同時に出る。散弾を「面」で撃つ感覚を再現していて、屋内フィールドの近距離戦では小銃より強い場面がある。M500の外観を再現したモデルは海外メーカーから出ていて、値段は安いが精度はまちまちだ。
散弾銃をサバゲーで使う一番の魅力は、先台を引く動作そのものにある。速くはないが、1発ごとに撃つ実感がある。初心者が最初に買う銃ではないが、2丁目として選ぶ人は多い。サバゲーの始め方は初心者完全ガイドに、ガスと電動の違いはこちらにまとめてある。
まとめ──落ちた試験が、一番売れる理由になった
モスバーグM500は、安く作るためにアルミの機関部と鋼鉄の銃身延長部を組み合わせ、壊れないように動作の要所を二重にした、1961年の設計の散弾銃だ。1970年代に軍の耐久試験に落ち、その落ちた理由を直したM590が1987年に軍の標準になり、M590A1は2025年の今もアメリカ陸軍が買い足している。
M870との違いは「アルミか鋼鉄か」「安全装置がどこにあるか」「指を挟むかどうか」で、どちらが上という話ではなく、どちらの癖に慣れたかの話だ。そして日本では、この銃は軍の銃ではなく猟師の銃で、熊を止める現場の一番安い道具でもある。
銃の種類そのものから知りたい人は銃の種類完全ガイドを合わせて読んでもらえると、散弾銃が銃の系譜のどこにいるのかが見えてくるはずだ。







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