西太平洋の海が、いま大きく動いている
2025年11月5日――この日、中国人民解放軍海軍の最新鋭空母「福建」が正式に就役した。中国初の電磁カタパルト搭載空母の登場は、単なる艦艇の増加に留まらない。遼寧、山東に次ぐ3隻目の空母が実戦配備されたことで、中国海軍は「ついに」空母ローテーション運用という、かつて米海軍だけが独占していた戦略的優位性を手に入れたのだ。
2025年6月、統合幕僚監部が発表した情報は、この新たな現実を如実に示していた。空母「遼寧」と「山東」が初めて同時に太平洋で活動し、合計1,050回もの艦載機発着艦を実施。しかも遼寧は南鳥島沖、つまり小笠原諸島から硫黄島に至る「第二列島線」を越えて展開した。中国空母がここまで来たのは初めてだ。
僕たちが心配していた事態が、現実になりつつある。3隻の空母が揃ったとき、中国海軍は何を目指し、日本や米国にどんな影響をもたらすのか。そして僕たちはどう備えるべきなのか――この記事では、中国空母3隻体制の戦略的意味を、過去と現在、そして未来の視点から徹底的に解き明かしていく。
「空母の父」劉華清が描いた夢――中国空母の40年戦略

中国の空母計画を語る上で、避けて通れない人物がいる。「中国海軍の父」「中国空母の父」と呼ばれる劉華清(りゅうかせい)提督だ。
1982年、当時の最高指導者・鄧小平の指示を受けて、劉華清は壮大な海軍近代化計画を打ち出した。その中核にあったのが「第一列島線」「第二列島線」という概念だ。第一列島線とは、九州から台湾、フィリピンに至るライン。第二列島線は、伊豆諸島から小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインを指す。
劉華清が示したタイムスケジュールは、こうだ:
- 「再建期」1982-2000年:中国沿岸海域の完全な防備態勢を整備
- 「躍進前期」2000-2010年:第一列島線内部の制海権確保
- 「躍進後期」2010-2020年:第二列島線内部の制海権確保。航空母艦建造
- 「完成期」2020-2040年:米海軍による太平洋・インド洋の独占的支配を阻止
- 2040年:米海軍と対等な海軍建設
2025年の今、このスケジュールを見返すと背筋が寒くなる。多少の遅れはあるものの、中国は確実にこの計画を実行してきた。そして2025年、福建の就役によって、彼らは「躍進後期」から「完成期」への移行を果たしたのだ。
遼寧から福建へ――3隻の空母が示す技術的進化
空母「遼寧」――ウクライナから来た”先生”

中国最初の空母「遼寧」は、実は中国が一から作ったものではない。1998年、中国はウクライナから未完成の旧ソ連空母「ワリヤーグ」を購入。「海上カジノにする」という名目で4年がかりで大連港へ曳航し、そこから10年以上をかけて改修・研究した末、2012年9月25日に就役させた。
艦番号16、満載排水量約6万7千トン。スキージャンプ式発艦を採用し、J-15戦闘機を約24機搭載できる。ソ連時代の設計のため艦橋(アイランド)が巨大で、高緯度の低温海域での行動を前提としていた。
遼寧は中国にとって「練習艦」だった。空母の運用ノウハウを一から学び、艦載機パイロットを育成し、空母打撃群の編成方法を習得する――そのための教材だ。しかしその価値は計り知れない。遼寧がなければ、中国の空母計画は始まらなかった。
空母「山東」――初の「純国産」の誇り
2019年12月17日、中国初の国産空母「山東」が就役した。艦番号17、満載排水量は遼寧とほぼ同じだが、設計は大幅に改良されている。
最大の変更点はアイランドの小型化だ。中国海軍は中・低緯度での行動を想定しているため、艦上機を露天係止で運用することも可能。そのため格納庫を縮小し、アイランドを遼寧より約10%小型化した。これによって飛行甲板のスペースが広がり、J-15戦闘機の搭載数が約36機に増えた。
山東は、遼寧で学んだ教訓を活かした「実用型」だ。しかし、スキージャンプ式という基本設計は変わらない。発艦時の最大重量やソーティー数(出撃回数)には依然として制約がある。それでも、中国が独力で空母を建造できると証明した意義は大きい。
就役から4年間、山東は一度も西太平洋に進出しなかった。2021年には飛行甲板に穴が開いている衛星写真が公開され、手抜き工事疑惑も持ち上がった。「性能に問題があるのでは?」という見方が広がったが、2023年4月、ついに台湾東方370kmの海上で台湾包囲攻撃訓練を実施。そして2025年6月には太平洋で遼寧との合同演習を成功させた。山東は確実に戦力化していた。
空母「福建」――電磁カタパルトという飛躍

そして2025年11月5日、福建が就役した。艦番号18、満載排水量約8万トン。これは山東よりも若干大きく、米海軍の初代「ジョン・F・ケネディ」とほぼ同サイズだ。
福建の最大の特徴は、中国初の電磁式カタパルト(EMALS)を3条装備していることだ。スキージャンプではなく、カタパルトで戦闘機を射出する。これによって何が変わるのか?
まず、発艦時の重量制約が大幅に緩和される。スキージャンプ式では、戦闘機は自力で加速して飛び上がる必要があるため、燃料や兵装を満載できない。しかしカタパルトなら、最大離陸重量に近い状態でも発艦可能だ。戦闘行動半径が広がり、攻撃力が大幅に向上する。
次に、ソーティー数が飛躍的に増える。遼寧や山東では、1機が発艦するたびに次の機体が発艦位置に移動する必要があり、時間がかかる。福建は3条のカタパルトを持つため、理論上は同時に3機を発艦準備できる。空母航空戦力の真価は「短時間にどれだけの機数を発艦させられるか」で決まる。福建は、この点で遼寧・山東とは次元が違う。
さらに、福建は艦載早期警戒管制機「KJ-600」を運用できる。これは米海軍のE-2Cに相当する機体だ。遼寧・山東には早期警戒機がなく、ヘリコプターで代用していた。KJ-600の搭載によって、福建の空母打撃群は「目」を手に入れた。遠距離の敵機や艦艇を早期に探知でき、防空能力と攻撃能力が格段に向上する。
そして、福建はステルス艦載戦闘機「J-35」を搭載する。2025年9月、福建の甲板でJ-35、J-15T、KJ-600の3機種が電磁カタパルトを使った発着艦訓練に成功した映像が公開された。J-35は中国版F-35Cとも言える第5世代ステルス戦闘機だ。レーダーに捕捉されにくく、敵の防空網を突破して攻撃できる。
福建の登場は、中国空母が「学習段階」から「実戦能力」へと進化したことを意味する。もはや米海軍の独占物だった「カタパルト搭載空母+早期警戒機+ステルス艦載機」という組み合わせを、中国も手に入れたのだ。
3隻体制が可能にする「常続的展開」――これが本当の脅威だ

さて、ここからが本題だ。空母3隻が揃ったとき、何が変わるのか?
空母の運用には「3隻ローテーション」という鉄則がある。1隻が展開中、1隻が訓練・整備中、1隻が長期整備中というサイクルだ。つまり、3隻あって初めて「常に1隻を海外展開できる」体制が整う。
米海軍が11隻の空母を保有するのは、この原則に基づいている。常時3~4隻を海外展開し、残りは整備と訓練に充てる。中国も、3隻目の福建が加わったことで、ついにこの「常続的展開」が可能になった。
具体的に何ができるようになるのか?
第一に、台湾周辺での「常時プレゼンス」だ。これまでは遼寧か山東のどちらか1隻が台湾東方海域に展開すると、他方は母港に戻って整備が必要だった。しかし3隻あれば、1隻が台湾海峡、1隻が南シナ海、1隻が東シナ海というように、同時に複数海域で活動できる。あるいは、福建を台湾東方に常駐させ、遼寧と山東を交代で訓練・整備に回すことも可能だ。
第二に、第二列島線を越えた「遠洋展開」の常態化だ。2025年6月、遼寧が南鳥島沖まで進出したのは象徴的な出来事だった。第二列島線を越えることで、中国海軍はグアムの米軍基地を視野に入れた作戦行動が可能になる。3隻体制なら、この遠洋展開を「たまにやる特別任務」ではなく「定期的にやる通常任務」にできる。
第三に、南シナ海での「支配の強化」だ。中国は南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島)やパラセル諸島(西沙諸島)に人工島を建設し、軍事基地化してきた。空母が常駐すれば、この海域での航空優勢はほぼ確実なものになる。フィリピンやベトナム、インドネシアといった周辺国は、中国の圧力をより強く感じることになる。
「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」戦略の完成形
中国の空母3隻体制を理解するには、「A2/AD(Anti-Access/Area Denial)戦略」という概念を知る必要がある。
A2/AD戦略とは、敵の接近を阻止し、特定海域への立ち入りを拒否する戦略だ。具体的には、弾道ミサイル、巡航ミサイル、潜水艦、機雷、対艦ミサイルを組み合わせて、敵艦隊が近づけない「聖域」を作る。中国が目指すのは、第一列島線の内側を「中国の海」にすることだ。
空母はこの戦略の要となる。弾道ミサイルや潜水艦は強力だが、「面」をカバーできない。空母は、数百キロ四方の海域に航空優勢を確保し、敵の艦艇や航空機を寄せ付けない。3隻の空母があれば、東シナ海、台湾海峡、南シナ海の3正面で同時に制空権を握れる。
さらに重要なのは、A2/AD戦略が「米軍の介入を阻止する」ことを目的としている点だ。台湾有事が起きたとき、米海軍の空母打撃群が台湾海峡に急行しようとするだろう。しかし、中国が3隻の空母と強力なミサイル戦力で第一列島線を封鎖していたら、米軍はどう動くか? 相当なリスクを覚悟しなければ介入できない。中国はそこを狙っている。
台湾有事シナリオ――3隻の空母はどう使われるか

では、具体的に台湾有事が起きたとき、中国は3隻の空母をどう使うのか? シンクタンクや軍事専門家が想定するシナリオを元に考えてみよう。
開戦初日、中国は台湾全土に弾道ミサイルと巡航ミサイルの飽和攻撃を仕掛ける。滑走路、レーダー基地、指揮統制施設を破壊し、台湾空軍の戦闘能力を削ぐ。同時に、空母「遼寧」と「山東」が台湾東方海域に展開。J-15戦闘機が次々と発艦し、台湾東部の空域を制圧する。台湾空軍の残存機が東部の基地から反撃しようとしても、中国の艦載機が待ち構えている。
台湾は東西を山脈で分断されており、西側に主要都市と軍事施設が集中している。しかし東部には花蓮空軍基地など重要拠点がある。中国が台湾東方に空母を配置する理由は、この東部ルートを封鎖するためだ。米軍が台湾を支援しようとすれば、太平洋側から接近する必要がある。その進路を空母で塞ぐのだ。
一方、最新鋭の「福建」は南シナ海に展開。米海軍がフィリピン海から台湾へ向かおうとする動きを牽制する。福建のJ-35ステルス戦闘機と早期警戒機KJ-600が、米空母打撃群の接近を探知し、対艦ミサイルを搭載したH-6爆撃機や055型駆逐艦と連携して攻撃する。米海軍にとって、ステルス戦闘機を持つ空母は厄介な相手だ。通常の防空レーダーでは探知しにくい。
このシナリオで恐ろしいのは、中国が3隻の空母を「同時に」使えることだ。遼寧と山東が台湾東方を抑え、福建が南シナ海で米軍を牽制する。もし中国が空母2隻しか持っていなければ、米軍は「今は整備中で動けない1隻がある」と判断し、そのタイミングを突くことも考えられる。しかし3隻あれば、「常に最低2隻は動ける」という前提で作戦を組める。米軍の介入リスクは格段に上がる。
日本への影響――南西諸島が最前線になる日
台湾有事は、日本にとって「対岸の火事」では済まない。南西諸島、特に与那国島、石垣島、宮古島、沖縄本島は、台湾からわずか100~400kmの距離だ。中国空母が台湾周辺で活動すれば、南西諸島も作戦範囲に入る。
実際、2024年9月には空母「遼寧」が与那国島と西表島の間の接続水域を航行した。中国空母として初めてのことだ。2025年6月には遼寧と山東が沖縄・宮古島間を通過し、太平洋で大規模な訓練を実施した。これは明らかに「いつでも来られる」という示威行動だ。
日本政府は、台湾有事が「存立危機事態」に該当する可能性があると明言している。存立危機事態とは、日本と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け、日本の存立が脅かされる事態を指す。この場合、集団的自衛権を行使して自衛隊が出動できる。
しかし、自衛隊が介入すれば、中国は当然、日本の米軍基地や自衛隊基地を攻撃対象にするだろう。沖縄の嘉手納基地、三沢基地、岩国基地――これらは米軍の主要拠点であり、中国にとって第一の脅威だ。中国のロケット軍が保有する数百発の弾道ミサイルと巡航ミサイルが、開戦と同時にこれらの基地に降り注ぐ可能性がある。
南西諸島の住民はどうなるのか? 政府は避難計画を策定しているが、実際に数十万人を短時間で避難させるのは極めて困難だ。しかも、中国空母が周辺海域を支配していたら、避難船や民間機の航行すら危険になる。
これは決して絵空事ではない。2025年現在、中国空母は確実に日本周辺での活動を活発化させている。僕たちは、この現実を直視しなければならない。
米海軍への影響――「空母ギャップ」という悪夢
米海軍にとって、中国の空母3隻体制は厄介な問題だ。
米海軍は現在、原子力空母11隻を保有している。しかし、常時すべてが稼働しているわけではない。整備中、訓練中、あるいは太平洋以外の海域に展開している艦もある。インド太平洋地域に常時展開できる空母は、多くて3~4隻だ。
ここに「空母ギャップ」が生じる。米海軍の空母は世界中に展開しなければならない。中東、地中海、大西洋――どこかで紛争が起きれば、空母を派遣する必要がある。しかし中国海軍の空母は、インド太平洋に集中している。局地的には、米中の空母数が拮抗する、あるいは中国が優位に立つ状況が生まれうる。
さらに、中国は4隻目、5隻目の空母も建造中とされる。次は原子力空母になる可能性が高い。原子力空母は航続距離が無限で、補給の制約が少ない。中国が原子力空母を複数保有すれば、米海軍の優位性はさらに揺らぐ。
米国防総省は、中国の軍拡を「最大の脅威」と位置づけている。しかし、米国内では国防予算の削減圧力もある。空母の建造には1隻あたり1兆円以上かかる。米海軍が空母を増やすのは容易ではない。
日本の対応――「いずも型」空母化とF-35Bの導入

この状況に対して、日本はどう対応しているのか?
鍵となるのが、海上自衛隊の「いずも型」護衛艦だ。いずも型は、もともとヘリコプター搭載護衛艦として建造された。しかし、中国の軍拡を受けて、政府は2018年、いずも型を「事実上の空母」に改修する方針を決定した。
改修の内容は、飛行甲板の耐熱強化、艦首の矩形化(四角い形状への変更)、電源設備の増設など。これによって、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)が可能なF-35B戦闘機を運用できるようになる。
2021年10月、米海兵隊のF-35Bが「いずも」で発着艦試験を実施。成功した。そして2025年8月7日、航空自衛隊のF-35B 3機が新田原基地(宮崎県)に初配備された。最終的には42機を導入する計画だ。
F-35Bは、米国製の最新鋭ステルス戦闘機だ。レーダーに映りにくく、敵の防空網を突破できる。しかも垂直着陸できるため、滑走路が短い島嶼部の基地や、いずも型護衛艦でも運用できる。南西諸島には長い滑走路が少ない。中国のミサイル攻撃で那覇基地が使えなくなったとき、F-35Bを搭載したいずも型が「海上を移動する飛行場」として機能する。これが政府の構想だ。
ただし、いずも型はあくまで「軽空母」だ。満載排水量は約2万6千トン、F-35Bの搭載数は約10機。中国の福建(8万トン級)とは規模が違う。カタパルトもなく、早期警戒機も搭載できない(航空自衛隊のE-2Dに頼る形)。
それでも、「ないよりはマシ」だ。いずも型2隻(「いずも」と「かが」)が完全に空母化されれば、日本も複数の軽空母を持つことになる。南西諸島防衛や台湾有事での米軍支援において、選択肢が広がる。
英国との協力――「クイーン・エリザベス」との共同運用構想
興味深いのは、英国との協力だ。2021年9月、英海軍のニック・チャイルズ氏は、日英が空母を共同使用し、F-35Bを統合運用することを提案した。英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」も、F-35Bを搭載している。日英の空母が協力すれば、インド太平洋での抑止力が高まる。
実際、2021年には空母「クイーン・エリザベス」が東アジアに展開し、日本と共同訓練を実施した。2025年にも同様の展開があった。英国は「グローバル・ブリテン」戦略の一環として、インド太平洋への関与を強めている。中国の膨張に対抗するため、日英米の三カ国が空母を中心に連携する構図が見えてくる。
それでも足りない――専守防衛の壁
しかし、冷静に見れば、日本の対応は「焼け石に水」かもしれない。
中国は3隻の大型空母を持ち、さらに2隻を建造中だ。一方、日本のいずも型は軽空母2隻。搭載機数も能力も桁違いだ。しかも、日本は憲法9条と専守防衛の制約がある。敵基地攻撃能力(反撃能力)は認められたが、先制攻撃は許されない。空母を持っても、積極的に敵地に攻め込むような使い方はできない。
元海上自衛隊の幹部は、こう指摘している。「F-35Bは本来、艦隊防空のための機体だ。しかし航空自衛隊の管轄になっており、海自との連携がスムーズにいくか不透明だ。開戦劈頭に中国のミサイル攻撃で沖縄の基地が使えなくなったとき、F-35Bを誰が、どう指揮するのか? 曖昧なままだ」
加えて、F-35Bは1機あたりのライフサイクルコストが856億円にも上る。42機導入すれば3兆5千億円を超える。財政的な負担も無視できない。
米国の「オフショア・コントロール」戦略――封鎖で中国を締め上げる
米軍は、中国との全面戦争を避けつつ、効果的に対抗する戦略を検討している。その一つが「オフショア・コントロール(Offshore Control)」戦略だ。
これは、第一列島線の外側で海上封鎖を行い、中国への物資輸送を遮断する構想だ。中国は石油、天然ガス、鉄鉱石などを海外からの輸入に頼っている。マラッカ海峡、ロンボク海峡、スンダ海峡を封鎖し、中国向けのタンカーや貨物船を止めれば、中国経済は麻痺する。
この戦略では、中国本土への直接攻撃を避けることで、核戦争へのエスカレーションを防ぐ。同時に、長期戦に持ち込んで中国に「紛争を収拾した方が賢明だ」と判断させる。米国は世界中の海上交通路をコントロールできる。パナマ運河、マゼラン海峡、北極海ルート――どこを通っても、米海軍が監視できる。
しかし、この戦略が成立するには、第一列島線を「封鎖ライン」として確保する必要がある。もし中国が空母3隻を使って第一列島線を突破し、第二列島線まで勢力圏を広げたら? 封鎖ラインがグアムまで後退してしまう。そうなれば、日本や台湾、フィリピンは中国の勢力圏に取り込まれ、米国の戦略は破綻する。
だからこそ、中国の空母3隻体制は米国にとって看過できない脅威なのだ。
終わりに――僕たちが直視すべき現実

2025年11月、福建の就役によって、中国は空母3隻体制を確立した。これは単なる「艦艇が増えた」という話ではない。中国海軍が、米海軍だけが独占していた「常続的な空母展開」能力を手に入れたことを意味する。
遼寧、山東、福建――この3隻が揃ったとき、中国は台湾周辺、南シナ海、東シナ海で同時に制空権を握れる。第二列島線を越えて遠洋展開し、米軍の介入を阻止できる。台湾有事が起きたとき、日本の南西諸島は最前線になる。米海軍は、中国との「空母ギャップ」に直面する。
日本は、いずも型護衛艦の空母化とF-35Bの導入で対応しようとしている。しかし、規模も能力も中国には遠く及ばない。専守防衛の制約もある。現実を直視すれば、僕たちはまだ十分に備えられていない。
かつて、大日本帝国海軍は世界有数の空母機動部隊を持っていた。真珠湾攻撃、珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦――空母が戦争の勝敗を決めた時代だった。しかし、先の大戦で僕たちは敗れた。戦後80年、日本は空母を持つことを封印してきた。
いま、西太平洋の空母勢力図が塗り替わろうとしている。中国が3隻の空母を握り、米国の優位が揺らぎ、日本が「事実上の空母」を持ち始めた。歴史は繰り返すのか? それとも、僕たちは別の道を選べるのか?
答えは、僕たちがこの現実にどう向き合うかにかかっている。無関心ではいられない。過度に恐れる必要もない。ただ、事実を知り、考え、備える。それが、この時代を生きる僕たちの責任だ。
中国の空母3隻体制は、終わりではなく、始まりだ。4隻目、5隻目が控えている。この流れは止まらない。僕たちは、変わりゆく世界の中で、どう生き延びるかを真剣に考えなければならない。













コメント