「ペンは剣よりも強し」という言葉がある。イギリスの作家ブルワー=リットンが、1839年の戯曲『リシュリュー』に書いた一節だ。言論は武力より強い、という意味で、ペンを本当に武器にしろという話ではない。
タクティカルペンは、この言葉を文字どおりにしてしまった道具だと思う。見た目はごつめのボールペンで、ちゃんと字が書ける。それでいて硬い金属で作られていて、いざという時には身を守る道具にもなる、とうたわれている。
ネットでは「完全合法の護身具」「どこにでも持ち込める」と紹介されることが多い。でも、ここは少し立ち止まって考えたい。タクティカルペンは、ペンとして使うほど合法に近づき、武器として持つほど違法に近づく。この記事では、その境目を整理する。
- タクティカルペンを買って持っているのは問題ない。問題になるのは、持ち歩き方と持つ理由
- 正当な理由なく隠して持ち歩けば、軽犯罪法1条2号の対象になりうる。「ペンだから大丈夫」とは言い切れない
- 毎日メモを取るのに使っている人と、護身のためだけに持っている人とでは、同じペンでも見え方が違う
- ナイフが仕込まれた物や、先がむき出しでとがった物は選ばない
- 飛行機の機内には持ち込めないことがある。アメリカやカナダの空港では、預け荷物に入れるよう案内されている
- 護身が目的なら、先に防犯ブザーとライト。タクティカルペンは「非常用の機能がついた丈夫なペン」くらいに考える
タクティカルペンとは:ペンの形をした非常用の道具
タクティカルペンは、アルミやチタンなどの硬い素材で作られたボールペンだ。決まった定義はないが、多くの製品に次のような特徴がある。
- 軸が金属で、普通のボールペンよりずっと丈夫
- 後ろの端や先端が硬い素材でできていて、車の窓ガラスを割る非常用の道具としてうたわれている
- 一部の製品には、先端にギザギザの溝がついている(相手の皮膚を削り取って証拠を残す「DNAキャッチ」とうたう物もある)
- ライトや、ナイフが仕込まれた物まである
アメリカでは、ナイフを持ち込めない場所にも持っていける道具として人気が出た。元CIA職員で護身術の講師をしている人物が、ナイフの代わりにタクティカルペンを持って講演会に行ったと話していたこともある。日用品に見える道具を身につけるという発想は、諜報の世界とよく似ている。
ただ、ここでいう「持っていける」は、あくまでアメリカの話だ。日本では、法律の考え方がまったく違う。
「航空機グレードのアルミ」って何?
タクティカルペンの商品説明には、よく「航空機グレードのアルミ」と書いてある。いかにもミリタリーな響きだが、中身は、飛行機の機体にも使われるような、軽くて強いアルミ合金という意味だ。

航空機用のアルミ合金といえば、日本人には縁の深い話がある。1936年(昭和11年)、住友金属工業が「超々ジュラルミン」(ESD)を開発した。零戦の主翼の桁に使われたことで知られる合金だ。今の日本の規格では、アルミ合金でいちばん強い部類に入るA7075が、超々ジュラルミンの名前で呼ばれている。アメリカのアルコア社がこの7075のもとになる合金を開発したのは1943年で、日本のほうが先に同じ系統の合金を実用化していたことになる。零戦の強さと弱さは零戦の記事にまとめた。
とはいえ、「航空機グレード」の表示だけでは、どの合金かはわからないことが多い。軽くて丈夫なペン、という以上の意味はないと考えておけばいい。航空機の材料だから武器として強い、という話ではない。
タクティカルペンは違法?法律の答え
持つのは自由、持ち歩くと問題になりうる
タクティカルペンを買うこと、家に置いておくこと、仕事で使うことを禁じる法律はない。ナイフが仕込まれていなければ、銃刀法の対象でもない。

問題になるのは、外で持ち歩くときだ。関係するのは、これまでの記事でも書いてきた軽犯罪法1条2号になる。
正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
硬い金属でできていて、先がとがった棒状の物は、使い方しだいで「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に入りうる。カバンやポケットに入れて持ち歩けば、「隠して携帯」に当たりうる。器具の形や性能に加え、「正当な理由」があるかも問われる。
西日本新聞の防災新聞も、タクティカルペンの購入や所有は違法ではないとしたうえで、持ち歩きは軽犯罪法に触れる可能性があると書いている。一方で、メモを取るなど筆記用具として持つ場合は、違法にならないこともあるとしている。
ほかの護身具と違うところ
クボタンや催涙スプレーと違って、タクティカルペンには「本当にペンとして使える」という大きな特徴がある。ここがほかの護身具と決定的に違う。
最高裁は2009年の判決で、正当な理由の判断では、器具の用途や形、持っている人の仕事や生活との関係、持ち方、動機などを合わせて見るとした(判決のくわしい中身は護身用グッズは持ち歩くと違法?合法に使える7選で書いた)。
ペンとして毎日使っているなら、「仕事でメモを取るため」という生活上の理由が、そのまま持ち歩く理由になる。逆に、字を書いたことがなく、護身のためだけに持っているなら、その理由はなくなる。同じペンでも、持つ人と持ち方で、扱いが変わりうるということだ。
「ペンだから大丈夫」が通る人、通らない人
具体的に並べると、こうなる。あくまで「そう見られやすい」という目安で、どちらの列も、その場の事情を全部見て判断される。

スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
| 見るところ | 理由として通りやすい | 理由として通りにくい |
|---|---|---|
| 使い方 | 仕事や勉強で毎日メモを取っている | 字を書いたことがない。インクが切れたまま |
| 本数 | 1本だけ | 何本も持っている |
| 形 | キャップがある、先が隠れる、普通のペンに近い | 先がむき出しでとがっている、ギザギザの突起がある |
| 仕込み | 何も仕込まれていない | ナイフが仕込まれている |
| 持ち方 | 手帳と一緒に胸ポケットやペンケース | ズボンのポケットに、すぐ握れるように入れている |
| 説明 | 「仕事で使うペンです」 | 「護身用です」「いざとなったら使う」 |
最後の「説明」は大事だと思う。職務質問で「護身用です」と答えるのは、自分で「人に向けて使う物です」と言うのに近い。うそをつく必要はないが、本当にペンとして使っているなら、まずそう説明すればいい。逆に、ペンとして使っていないのに「ペンです」と言っても、インクが切れていれば説得力はない。
ナイフが仕込まれた物は、話が別だ。刃の長さによっては銃刀法の問題になるし、6cm以下でも軽犯罪法の「刃物」に当たりうる。タクティカルペンを選ぶなら、仕込みのない物にする。
職場・車・飛行機で気をつけること
職場:会社のルールと、まわりの目
会社にタクティカルペンを持っていくこと自体は、ふつうは問題にならない。ただ、会社や施設によっては、持ち込める物を決めているところもある。入館の検査がある建物では、止められることもありうる。
もうひとつは、まわりの目だ。「これ、いざとなったら武器にもなるんだよ」と見せびらかせば、同僚はいい気がしない。せっかくの「日用品に見える」という利点を、自分でつぶしてしまう。職場では、ただのペンとして使えばいい。
車:ガラス割りが目的なら専用の道具を
タクティカルペンの窓ガラス割りの機能は、車に閉じ込められたときの脱出用としてよく紹介される。ただ、本当に割れるかは製品しだいで、試すのも難しい。西日本新聞の防災新聞の記者も、実際のガラスでは試せなかったと書いている。
車の脱出用なら、窓ガラスを割るハンマーとシートベルトのカッターがついた専用の脱出ツールを、車のガラスに対応するか確かめて選びたい。車に積んでおく理由もはっきりしている。逆に、「護身用」として車にタクティカルペンや木刀を積んでおくのは、車の中でも問題になりうる。法律相談のサイトには、護身用に木刀を車に積んでいて任意同行を求められたという相談もある。
飛行機:機内には持ち込めないことがある
日本の国内線でも、とがった物や武器に似た物は機内に持ち込めず、預けることになっている。凶器などを機内に持ち込めば、航空法で罰金の対象になりうるとも案内されている。タクティカルペンは保安検査で止められることがあるので、飛行機に乗る日は預け荷物に入れるか、家に置いていくのが無難だ。
アメリカの運輸保安庁(TSA)やカナダの空港保安当局は、タクティカルペンは機内持ち込みができず、預け荷物にだけ入れられると案内している。海外旅行でうっかり手荷物に入れると、保安検査で持ち込みを断られる。
そもそも護身に使える?
タクティカルペンを護身具として見たときの弱点も書いておきたい。
まず、相手に触れる距離でしか使えない。クボタンと同じで、相手との間に距離を作れる道具ではない。軍隊でいえば近接戦闘で、それは本来、ほかの手段がすべて尽きたあとの最後の手段だ。
次に、使う人に覚悟が要る。アメリカで護身術を教えている講師は、タクティカルペンを使うには、硬い金属を人の体に向ける覚悟が要り、誰にでも向く道具ではないと話している。そのうえで、防犯ブザーや防犯アプリ、催涙スプレーのような、使うハードルの低い物を先に挙げている。
そして、使えば過剰防衛になりやすい。硬くとがった物で相手の顔や頭を強く打てば、大けがをさせかねない。正当防衛は、身を守るために「やむを得ずにした行為」までしか認められない。
だから私は、タクティカルペンを護身具の主役にはしないほうがいいと思う。先にそろえるなら、相手に触れずに使える防犯ブザーとライトだ。
選ぶならこの基準:まず「ペンとして良いか」
タクティカルペンを選ぶなら、護身の性能より先に、ペンとしての出来を見る。毎日使うペンであることが、そのまま持ち歩く理由になるからだ。
- 書き心地:毎日使いたくなるか。替え芯が手に入りやすいか
- 先端:キャップ式か、使わない時に先が隠れるか
- 仕込み:ナイフなどが仕込まれていないこと
- 見た目:会議の机に置いても浮かない、落ち着いた色と形
- 重さ:胸ポケットに挿して、シャツが垂れない程度
スミス&ウェッソンのM&Pタクティカルペンは、拳銃メーカーの名前を冠したアルミ製の1本だ。ミリタリー好きなら、名前だけでも気になる1本だ。
UZIのタクティカルペンは、短機関銃UZIの名前を持つペンだ。設計者が自分の名前をつけられるのを嫌がった、というUZIの名前の話はUZIの解説記事に書いた。
迷ったら「丈夫な普通のペン」で十分
ここまで読んで、「それならタクティカルペンでなくてもいいのでは」と思った人もいると思う。私もそう思う。

軸が金属の丈夫なボールペンなら、ふつうの文房具として胸を張って持ち歩ける。その代表が、フィッシャーのスペースペンだ。
スペースペンは、フィッシャー社が自分たちで開発した、インクをガスで押し出すボールペンだ。無重力でも、上向きでも書ける。1968年、初めて人を乗せたアポロ計画の宇宙船、アポロ7号で宇宙へ行った。宇宙飛行士が船内で浮かぶペンを見せた映像も残っている。
よく「NASAが何億円もかけて宇宙で書けるペンを作ったのに、ソ連は鉛筆を使った」という話がある。これは作り話だ。開発したのはフィッシャー社で、NASAは試験をしただけだった。鉛筆は芯が折れて船内に浮かぶ危険があったので、むしろ避けられていた。ソ連の宇宙飛行士も、1969年からスペースペンを使っている。
ちなみに、アポロ7号が大西洋に着水したあと、宇宙飛行士を拾い上げたのは、太平洋戦争を戦ったエセックス級の空母「エセックス」だった。その話はエセックス級空母の記事に書いた。戦争の道具だった空母が、宇宙からペンを持ち帰った、というのはなかなかいい話だと思う。
護身の機能はないが、どこに持っていっても説明に困らない。ミリタリーや宇宙が好きな人へのプレゼントにもいい。
よくある質問
タクティカルペンは違法?
持つこと自体は違法ではない。ただ、正当な理由なく隠して持ち歩けば、軽犯罪法1条2号の対象になりうる。ペンとして毎日使っているなら、それが持ち歩く理由になる。
職務質問で見つかったらどうなる?
その場の事情しだいだ。ペンとして使っているなら、隠さずに出して、仕事で使っているペンだと説明すればいい。ナイフが仕込まれている、何本も持っている、といった事情があれば、警察署で話を聞かれることもありうる。
会社に持っていってもいい?
ふつうは問題ない。ただ、入館の検査がある建物や、持ち込める物を決めている職場もあるので、そのルールに従う。職場では護身具としてではなく、ただのペンとして使う。
飛行機に乗せられる?
機内に持ち込めないことがある。日本の国内線でも、とがった物や武器に似た物は預けることになっている。アメリカやカナダの空港では、タクティカルペンは預け荷物にだけ入れられると案内されている。
女性の護身用に向いている?
あまり向いていないと思う。相手に触れる距離まで近づかないと使えず、硬い金属を人に向ける覚悟も要る。夜道の不安が強いなら、相手に触れずに使える防犯ブザーとライトを先にそろえ、事情があれば小型の催涙スプレーを考えるほうが現実的だ。
窓ガラスは本当に割れる?
製品しだいで、試すのも難しい。車からの脱出が目的なら、窓ガラス割りとシートベルトのカッターがついた専用の脱出ツールを、車のガラスに対応するか確かめて選びたい。
プレゼントにしてもいい?
ペンとして贈るなら問題ない。ミリタリー好きには喜ばれると思う。ただ、渡すときに「持ち歩くときは、ペンとして使っていることが大事」とひと言添えておくと親切だ。迷ったら、スペースペンのような丈夫な普通のペンにすれば、何の心配もない。
まとめ:ペンとして使うほど、合法に近づく
タクティカルペンは、ペンでもあり、ペンの形をした道具でもある。どちらとして扱われるかは、持つ人しだいだ。
- 持つのは自由。持ち歩くと、軽犯罪法の「正当な理由」が問われる
- 毎日ペンとして使っていることが、いちばんの持ち歩く理由になる
- ナイフ入り、先がむき出しの物は選ばない
- 飛行機の機内には持ち込めないことがある
- 護身が目的なら、先に防犯ブザーとライト
「ペンは剣よりも強し」は、ペンを剣のように使えという意味ではなかった。タクティカルペンも、ペンとしてちゃんと使っている人の手の中で、いちばん強くなる道具だと私は思う。







コメント