ベレッタAPXとは|M9の後継を目指し生まれた、ベレッタ流グロックを徹底解説

ベレッタAPXをイメージした近代ポリマー拳銃のアイキャッチ

ベレッタAPXとは、イタリアのベレッタ社が開発した、同社として初となるフルサイズのポリマーフレーム・ストライカー式拳銃だ。「APX」は「Advanced Pistol X」の略で、末尾の「X」は口径を交換できるモジュール性を意味する。2015年、中東アブダビの兵器見本市IDEXで初披露されたこの銃は、アメリカ軍の次期制式拳銃を選ぶXM17トライアルへの再挑戦として送り出された、ベレッタ社にとって特別な意味を持つ一挺だ。

そして日本の読者にとって見逃せないのが、このAPXが2017年からの自衛隊拳銃更新トライアルで、SFP9・グロック17と最終候補を争いながら敗れた「落選組」の一角だという事実だ。500年企業ベレッタが満を持して送り出したこの銃が、なぜ勝ちきれなかったのか。本記事では、APXの開発経緯・XM17トライアルでの顛末・モジュラー設計の技術・世界各国への広がり・自衛隊選定での敗退までを一本で解説する。

この記事でわかること
ベレッタAPXをイメージした近代ポリマー拳銃のアイキャッチ
ベレッタAPXは、M9の後継を目指して開発された同社初の本格フルサイズ・ストライカー式拳銃である。
目次

ベレッタAPXの基本スペック

M9系からAPXへの近代化をイメージした比較展示
APXは、金属フレームのM9系からポリマーフレーム・ストライカー方式へ進むベレッタの再挑戦だった。
まず押さえる特徴

APXという名前は、Advanced Pistol Xの略とされる。重要なのは、末尾のXが単なる飾りではなく、サイズや口径を変えられるモジュール性を示す記号として語られている点だ。つまりAPXは、M9の後継候補であると同時に、ベレッタが現代の軍・警察用拳銃に必要な拡張性をどう解釈したかを示すモデルでもある。

観点APXの位置づけ見方
世代M9系の後に出たポリマー・ストライカー式金属フレームDA/SAからの大きな転換
用途軍・警察・民間市場向けのフルサイズ拳銃XM17と自衛隊トライアルの候補になった
思想FCU型シャシーを中心にしたモジュラー拳銃グロック型の単純さとは違う拡張性を狙った
項目内容
開発ベレッタ社(開発はベレッタUSA、設計指揮はイタリア本国から)
初披露2015年2月(IDEX 2015、アブダビ)
名称の由来Advanced Pistol X(Xは口径可変を意味する)
口径9×19mmパラベラム(9×21mm IMI・.40 S&Wにも対応)
作動方式ショートリコイル・ティルトバレル式、ストライカー撃発
フレームポリマー(交換式バックストラップ)
スライドステンレス鋼
装弾数17発(9mm)/10発(.40 S&W)
トリガープル約2.8kg
市販開始2017年

まず注目したいのが装弾数と口径可変性だ。ベレッタの看板拳銃92F/M9が長らく15発だったのに対し、APXは17発まで積める。しかも交換式のシャシー構造により、口径そのものを変更できる柔軟性を持つ。この設計思想を理解するには、APXが生まれた経緯を知る必要がある。

開発経緯|M9A3の「門前払い」から生まれた再挑戦

開発の出発点

APX誕生の直接のきっかけは、屈辱的な出来事だった。2010年代、アメリカ軍はM9(ベレッタ92FS)の後継となる次期制式拳銃を選ぶXM17トライアルの準備を進めていた。ベレッタは当初、既存のM9を近代化改修した「M9A3」をこのトライアルに提示する。しかしアメリカ軍の反応は素っ気なかった。「検討に値しない」として、事実上の門前払いを受けたのだ。500年の歴史を持つベレッタ社にとって、これは看過できない一撃だった。ベレッタ92F/M9の系譜と、この改修モデルM9A3の位置づけについてはベレッタ92F/M9とはで詳しく扱っている。

この屈辱をばねに、ベレッタはまったく新しい設計に踏み切る。時代はすでにポリマーフレーム・ストライカー式の拳銃が世界の主流になりつつあり、グロックがその頂点に君臨していた。ベレッタにもコンパクトなコンシールドキャリー用拳銃「Nano」でストライカー式の経験はあったが、フルサイズの本格的な戦闘用拳銃としては未経験の領域だった。開発はベレッタUSAで進められたが、設計を指揮したのは本国イタリア・ガルドーネ・ヴァル・トロンピアから派遣されたデザイナーたちだ。500年企業の伝統と、アメリカ市場の要求を融合させる形で、APXは形になっていった。

XM17トライアルでの敗北|勝者はSIG P320

XM17トライアル候補をイメージした拳銃比較卓
XM17トライアルでは、APX、グロック系、SIG P320系など多数の候補が米軍制式拳銃の座を争った。
XM17で見るポイント

XM17トライアルは、APXの評価を考えるうえで避けて通れない。ただし、ここで敗れたからといってAPXが失敗作だったと決めつけるのは早い。軍の制式拳銃選定では、銃単体の撃ち味だけでなく、価格、補給、部品供給、訓練体系、メーカーの提案力まで含めた総合点で決まるからだ。

候補の系統代表例XM17での意味
ベレッタAPXM9系からの脱却を狙った新世代ポリマー拳銃
SIG SAUERP320モジュラー性を前面に出し、M17/M18として採用された勝者
グロックG17/G19系世界標準級の実績を持つが、この時点では採用を逃した

2014年に始まったXM17(モジュラー・ハンドガン・システム)トライアルには、APXのほか、CZ P-09、FNファイブセブンMk2、S&W M&P、グロック17・19、そしてSIG SAUER P320など、実に12機種が参加した。2年間、1,700万ドル(当時のレートで約20億円)という予算をかけた大規模な選定作業だ。

結果、2017年1月19日、アメリカ陸軍はSIG SAUERのP320を「M17」「M18」として制式採用することを発表する。APXは、グロックとともにこのトライアルで敗れることになった。もっとも、この時点でのグロックはまだ「Gen5」ではなかった点は記憶しておきたい。のちに自衛隊トライアルで候補となるグロック17 Gen5とは、条件が異なっていたのだ。

敗れはしたものの、ベレッタはAPXの開発を無駄にしなかった。2017年、民間市場向けに製品化して販売を開始する。ある業界誌の取材に対し、設計者は「XM17を通過することがAPXの目指すものではない」と語ったとされ、実際に射撃した記者もその言葉に納得せざるを得なかったという。トライアルでの敗北が、必ずしも銃そのものの価値を否定するものではないことを示すエピソードだ。

モジュラー設計という強み|「着せ替え」できる拳銃

APXのモジュラー拳銃ファミリーをイメージした展示
APXの特徴は、FCU型シャシーを中核にサイズや仕様を変えられるモジュラー思想にある。
APXの強み

APXのFCU型シャシー構造は、現代拳銃の流れを理解するうえで重要だ。従来の拳銃はフレームそのものが銃の中心だったが、モジュラー拳銃では中核部品を基準に、グリップサイズやスライド、バレルの組み合わせを変える思想が強くなる。これは部隊ごとの任務や手の大きさに合わせやすい一方、兵站と部品体系の管理も重要になる。

要素APXでの意味読者が見るポイント
FCU型シャシートリガーメカニズムを中心に仕様変更しやすいP320系に近い現代的な考え方
交換式バックストラップ手の大きさに合わせて握りを調整しやすい多数の隊員が使う制式拳銃向き
左右対応操作系左利きや片手操作への配慮がある軍・警察採用品として重要な実用性

APXの技術的な核心は、SIG SAUER P250・P320に似た「ファイアコントロールユニット(FCU)」型のシャシー構造にある。トリガーメカニズムを内蔵したこのシャシー部分こそが法的に「銃」として扱われるシリアルナンバー付きの中核部品で、これをグリップフレーム・スライド・バレルごと組み替えることで、フルサイズ・コンパクト・サブコンパクト・タクティカルといった仕様に自由自在に変えられる。9×19mmパラベラムから9×21mm IMI、.40 S&Wまで口径すら変更可能だ。

興味深いのは、この「着せ替え機能」を、ベレッタがなぜかあまり積極的に宣伝してこなかったという指摘があることだ。ある業界誌は、この特徴だけを見ればAPXはグロックよりも進んだ最新のハンドガンだと評している。交換式バックストラップによるグリップサイズ調整、ファイアリングピンブロックとトリガーセーフティの二重安全機構、左右両側で操作可能なアンビ仕様のスライドストップとマガジンキャッチ、握った際に自然と親指や引き金指を置けるフレーム前方の3本のグルーヴなど、随所に人間工学への配慮が行き届いている。派生型には、サプレッサー対応の延長バレルとマイクロドットサイトを標準装備した「APXコンバット」もある。

敗れてもなお広がる採用実績

APXの法執行機関採用をイメージした装備保管庫
APXは米軍トライアルで敗れた後も、ポーランドやブラジルなど各国の警察・法執行機関へ広がった。
採用実績の意味

XM17敗北直後、APXの民間・法執行機関からの引き合いはしばらく低調だった。しかし時間をかけて評価は着実に広がっていく。2019年、ポーランド国家警察が4,600丁を発注。2020年12月には、ブラジル警察との間で実に15万9,000丁という大型契約が成立した。運用面では、イタリア国内の特殊作戦部隊や要人警護チームで、伝統的な92FSからAPXへの更新が進められている。

興味深いのは、ベレッタの母国イタリアの正規軍自体では、2021年4月時点でようやく運用検証(実戦配備に向けた適合性の確認)が始まったばかりだったという点だ。500年の歴史を持つ自国の銃器メーカーの新型拳銃であっても、自国軍への正式採用には慎重な手順を踏むことがうかがえる。このほか、インドネシア海軍の特殊部隊(タイフィブ、コパスカ、デンジャカ)、アルバニアの特殊警察部隊など、世界20カ国以上の軍・警察に採用が広がっている。

自衛隊トライアルでの再敗退|「性能と価格の差」

自衛隊拳銃トライアルでAPX・SFP9・グロックを比較するイメージ
自衛隊拳銃更新では、APXはSFP9、グロック17と候補を争ったが、最終的にSFP9が選ばれた。
自衛隊トライアルの見方

自衛隊トライアルでAPXが候補に入ったことは、単なる脇役扱いにするには惜しい。SFP9、グロック17、APXはいずれも現代ストライカー式拳銃であり、P220からの更新にふさわしい候補だった。最終的にはSFP9が選ばれたが、APXはベレッタが同じ市場へ本気で挑んだことを示す存在として見ると面白い。

候補メーカー記事内での位置づけ
SFP9H&K自衛隊が選定した勝者
グロック17グロック世界標準級の実績を持つ比較対象
APXベレッタM9後継を狙った老舗の新世代候補

APXにとって、日本の自衛隊拳銃トライアルは、いわば「二度目の大舞台」だった。2017年から始まった選定で、APXはSFP9・グロック17という強力な候補と最終評価を争う。しかし2019年12月、防衛省が選んだのはH&K社のSFP9(VP9)だった。公表されている理由は「性能および価格面の差」による敗退とされている。

この結果について、興味深い視点を示す業界誌の分析がある。APXは、その設計だけを見ればグロックより進んだモジュラー式拳銃であり、防衛省がこれを候補に加えたこと自体は合理的な判断だった。しかしAPXは、そのグロックにXM17トライアルで既に敗れているという経緯がある。この点を踏まえたうえで改めて評価を行ったのか、詳細な選定基準が公開されていない以上は推測の域を出ない、という指摘だ。また自衛隊が重視したとみられる耐水・水中射撃性能についても、グロックやワルサーが対応オプションを持つことを踏まえれば、SIG・ベレッタ・FNといった各社にも同様の解決策があった可能性が高く、最終的な決め手は公表されていない技術的な詳細にあったのではないか、という見方も示されている。

ベレッタ社という企業と防衛産業の視点

APXは、創業500年のベレッタ社が、拳銃市場の潮流変化に対応するために送り出した意欲作だ。M9A3の門前払いという屈辱から立ち上がり、ポーランドやブラジルといった新たな大口顧客を獲得していった軌跡は、老舗企業が時代に適応していく過程そのものと言える。

兵器を「企業の製品」として見ると、ミリタリーの知識は投資のテーマへとつながっていく。ベレッタ社は非上場の同族企業であり個人投資家が直接株式を売買できる銘柄ではないが、視野を防衛産業全体に広げれば、株式市場で投資できる企業は数多く存在する。防衛費増額を背景に、日本でも防衛関連企業への関心が高まっている。どの企業が恩恵を受けるのかを体系的に押さえたいなら防衛関連銘柄 完全投資ガイドが出発点になる。

もっとも、投資は自己責任が原則だ「銃に詳しいこと」と「関連企業の株で利益が出ること」は別の話で、株価は受注動向や為替、地政学リスクに左右され、上昇も下落もする。値上がりを保証するものは何もない。まずは少額から仕組みを学ぶのが賢明で、証券口座はそのための道具にすぎない。

拳銃市場の競争構造、各国トライアルの舞台裏、老舗企業の変革——こうした知識を体系的に学ぶには良書が近道だ。通勤や移動中に耳から聴けるオーディオブックは、ミリタリーファンの知識を効率よく広げてくれる。

ベレッタAPXをエアガンで楽しむ

APX系エアガンを楽しむ趣味用ディスプレイ
日本では実銃ではなく、エアガンや模型を通じてAPX系の造形を安全に楽しむのが現実的だ。
日本で楽しむなら

実銃を所持できない日本でも、いずれエアガンでAPXのあの近代的なフォルムを体験できる日が来るはずだ。本記事執筆時点で、当ブログのカタログにはAPX専用の決定版と呼べる商品がまだ揃っていない。海外メーカーからはガスブローバックモデルも発売されているため、今後カタログの拡充を進めていきたい。

サバゲーで最新のストライカー式拳銃を比較したいなら、サバゲー用ハンドガンおすすめTOP10も参考にしてほしい。銃の作動方式の基礎を押さえたいなら電動ガン・ガスガン・エアコキの違いも合わせて読んでほしい。

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よくある質問(FAQ)

ベレッタAPXとは何ですか?

ベレッタ社が開発した、同社初のフルサイズ・ポリマーフレーム・ストライカー式拳銃だ。「APX」はAdvanced Pistol Xの略で、口径やサイズを交換できるモジュール性を意味する。2015年に発表され、アメリカ軍の次期制式拳銃を選ぶXM17トライアルへの再挑戦として開発された。

なぜAPXは開発されたのですか?

ベレッタが既存のM9を近代化改修した「M9A3」をXM17トライアルに提示したが、アメリカ軍に「検討に値しない」として却下されたことが直接のきっかけだ。この屈辱を受け、ベレッタはまったく新しいポリマーフレーム・ストライカー式拳銃としてAPXを開発した。

APXはなぜアメリカ軍に採用されなかったのですか?

2017年1月、アメリカ陸軍はXM17トライアルの結果、SIG SAUERのP320を「M17」「M18」として制式採用した。APXはグロックなど他の候補とともにこのトライアルで敗れている。敗北後、APXは2017年に民間市場向けとして製品化され、その後ポーランドやブラジルなどでの大口採用につながっていった。

自衛隊はなぜAPXを選ばなかったのですか?

2017年から始まった自衛隊の拳銃更新トライアルで、APXはSFP9・グロック17とともに最終候補となったが、2019年12月、防衛省は「性能および価格面の差」を理由にH&K社のSFP9を選定した。APXの詳細な敗因については公式に公表されていない。

APXは今、どの国で使われていますか?

ポーランド国家警察(4,600丁)、ブラジル警察(15万9,000丁)で大口採用されているほか、インドネシア海軍特殊部隊、アルバニアの特殊警察部隊など、世界20カ国以上の軍・警察に採用が広がっている。ベレッタの母国イタリアでは、2021年時点で自国軍への正式採用に向けた運用検証が進められている段階だった。

まとめ|二度の敗北を越えて広がる、老舗の再挑戦

ベレッタAPXは、M9A3の「門前払い」という屈辱をばねに、ベレッタ社が満を持して送り出したフルサイズ・ストライカー式拳銃だ。アメリカ軍のXM17トライアルでSIG P320に敗れ、日本の自衛隊トライアルでもSFP9に敗れるという、二度の大きな挫折を味わっている。

それでもAPXは、ポーランドやブラジルといった新たな市場で大口契約を勝ち取り、着実にその存在感を広げてきた。トライアルでの敗北が、必ずしも銃そのものの実力を否定するものではないという事実を、この一挺は物語っている。SIG SAUER P250・P320に通じるモジュラーシャシー構造は、グロックを上回るとさえ評される先進性を持ちながら、なぜかあまり宣伝されてこなかった——そんな「隠れた実力派」としての魅力も、APXの興味深いところだ。

拳銃の世界をさらに広げたい読者は、世界で最も使われる拳銃グロック17の徹底解説へ、特殊部隊に選ばれた拳銃SIG P226の徹底解説へ、銃器全体のカテゴリを俯瞰した銃の種類完全ガイドへと読み進めてほしい。一挺の銃から、技術・歴史・産業・投資へと、視界はどこまでも広がっていく。

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