THAADとは|高高度迎撃の仕組み・PAC-3との違いを解説

高高度迎撃に備えて展開するTHAADミサイル防衛部隊
高高度迎撃に備えて展開するTHAADミサイル防衛部隊
発射機・AN/TPY-2レーダー・指揮統制装置で構成されるTHAAD部隊

THAADとは、飛来する弾道ミサイルを終末段階高高度で迎撃する、米陸軍の地上配備型ミサイル防衛システムである。読み方は「サード」。正式名称はTerminal High Altitude Area Defenseであり、短距離・準中距離・中距離級の弾道ミサイルを、大気圏内または大気圏外で直撃破壊する役割を担う。

THAADを理解するうえで、最も大切なのは「PAC-3より強い迎撃ミサイル」と単純化しないことだ。両者は別の高度を担当する兵器だ。THAADは高い層、PAC-3は低い層を受け持ち、弾道ミサイルに対して複数回の迎撃機会を作る。この記事では、高高度迎撃の流れ、AN/TPY-2レーダーの役割、PAC-3やSM-3との違い、日本への導入論まで整理する。

この記事の要点

〔内部リンク:target_slug="japan-bmd-pac3-sm3-guide"〕

目次

THAADとは何か

THAADは、弾道ミサイルの飛翔終末段階を狙う迎撃システムである。弾道ミサイルは上昇、宇宙空間を飛ぶ中間段階、目標へ落下する終末段階を経る。THAADが待ち受けるのは、弾頭が目標地域へ向けて降下し、再突入してくる時間帯だ。

狙う場所が高い。

米陸軍の解説では、THAADは短距離、準中距離、中距離級の弾道ミサイルを対象とし、大気圏の内側と外側の双方で交戦する。航空機や巡航ミサイルを幅広く処理する一般的な防空システムより、弾道ミサイル防衛へ任務を絞った装備と考えた方が実態に近い。米陸軍の教育記事も、THAADを「純粋なミサイル防衛」と説明し、Patriotの方が多様な脅威へ柔軟に対処すると整理している。

THAADは単体のミサイル名として語られやすいが、実際にはレーダー、指揮統制装置、発射機、迎撃ミサイルをまとめた一つのシステムである。高性能な弾だけを買っても動かない。探知から射撃判断、誘導、戦果確認までを一つの流れに結ぶ必要がある。

私は、THAADを理解する入口はミサイル本体よりレーダーだと見ている。迎撃弾の速度がどれほど高くても、落下してくる弾頭を早く見つけ、破片や囮と見分け、正確な未来位置を計算できなければ直撃は成立しないからだ。

THAADを構成する4つの要素

標準的なTHAADシステムは、AN/TPY-2レーダー、射撃管制・通信装置、発射機、迎撃ミサイルの四要素で構成される。発射機は車載式で、一基あたり8発の迎撃ミサイルを搭載する。周囲には電源、冷却、通信、整備を担う支援車両も必要となる。

AN/TPY-2レーダー

AN/TPY-2はXバンドを使う高解像度フェーズドアレイレーダーである。飛来目標を探知・追尾するだけでなく、弾頭、ロケットの残骸、囮などを識別し、迎撃に必要な精密データを作る。THAADの目に当たる装置だ。

このレーダーには、前方配備モードと終末モードがある。前方配備モードでは想定発射地域に近い場所から弾道ミサイルを早期探知し、他のミサイル防衛システムへ追尾・識別情報を送る。終末モードではTHAAD部隊と一体で運用され、飛来目標の探知から迎撃弾の誘導まで担う。

日本にも米軍のAN/TPY-2レーダーが配備されているが、レーダーの存在とTHAAD迎撃部隊の配備を同一視できない。たとえば京都府の経ヶ岬では、米陸軍部隊がAN/TPY-2を運用し、弾道ミサイルの早期警戒を支えている。これは前方センサーとしての役割であり、発射機と迎撃弾を備えたTHAAD一個中隊の配置を意味しない。

射撃管制・通信装置

射撃管制装置は、レーダーが得た情報を基に脅威度、予測落下地点、迎撃可能範囲を計算し、どの発射機から何発を撃つか判断する。外部センサーや上級司令部との通信も重要だ。現代のミサイル防衛では、自分のレーダーだけで全てを見るより、複数のセンサーをネットワークで結び、早い段階から射撃準備へ入る方が有利になる。

ここが神経系だ。

米陸軍はTHAADのAN/TPY-2情報を用い、Patriot発射機からPAC-3 MSEを発射する統合試験にも成功している。高高度用と低高度用を別々に並べるだけでなく、一方の目で他方の迎撃弾を動かす段階へ進んでいるわけだ。

発射機

発射機は大型トラックに搭載され、展開先へ空輸・陸送できる。固定サイロに比べれば配置を変えやすく、危機地域へ部隊ごと移動させられる。2024年10月には米国防総省がTHAAD一個部隊と米軍要員をイスラエルへ展開し、弾道ミサイル防衛を増強した。地上配備型でありながら、同盟国の危機へ持ち込める点はTHAADの戦略的価値である。

とはいえ、車載式という言葉からHIMARSのような「撃ってすぐ逃げる」機動戦を想像するとずれる。米陸軍の訓練記事は、THAAD陣地の展開には相応の時間がかかり、支援車両も多いと説明している。THAADは移設できる大型防衛拠点であり、小回りの利く野戦ロケット部隊とは性格が異なる。

迎撃ミサイル

迎撃ミサイルは炸薬弾頭で周囲を吹き飛ばす方式を採らない。最終段階で赤外線シーカーが標的を捉え、迎撃体そのものを弾頭へ衝突させる。高速の運動エネルギーで目標を破壊する「ヒット・トゥ・キル」である。BAE Systemsは、同社の赤外線シーカーが降下・再突入中の弾道目標へロックし、誘導装置が迎撃体を目標へ向かわせると説明している。

直撃が前提だ。

弾頭の近くで爆発し、破片を浴びせる方式に比べ、運動エネルギー迎撃は弾道ミサイル弾頭を物理的に大きく破壊しやすい。非爆発式であるため、迎撃弾自身の炸薬による誘爆リスクも抑えられる。もっとも、迎撃に成功しても地上の危険は残る。破片は落下し、核・化学・生物弾頭なら残骸や汚染への対処も必要になる。非爆発式の迎撃弾は、自ら大きな炸薬を持たないという利点を示すにとどまり、弾頭由来の被害までゼロにする装置ではない。

試験場から上昇するTHAAD級迎撃ミサイル
終末段階の弾道目標へ向けて発射される高高度迎撃弾

THAADが高高度で迎撃する仕組み

THAADの迎撃キルチェーン

THAADの迎撃は、探知、識別、射撃判断、発射、中間誘導、終末誘導、直撃という順に進む。秒単位の処理だが、各段階には異なる装置が関わる。

最初にAN/TPY-2が飛来物を探知する。弾道、速度、高度、レーダー反射などを連続的に測り、コンピューターが予測軌道を更新する。ミサイル本体が分離した後は、弾頭、ブースター、破片、囮が同じ空域へ現れるため、識別精度が射撃成否を左右する。

射撃管制装置は、その目標が防護地域へ落下するか、THAADの交戦範囲へ入るかを判定する。迎撃が必要と判断されれば、発射機が迎撃ミサイルを射出する。飛翔中はレーダーと射撃管制側から得た情報を使いながら、予測会合点へ向かう。

目標へ接近すると、迎撃体の赤外線シーカーが弾頭を捕捉する。そこで細かな姿勢修正を重ね、最後は正面または交差角から衝突する。相対速度が極めて大きいため、炸薬を使わなくても大きな破壊エネルギーが生じる。

難所は最後だ。数千キロ級の速度で動く小さな目標へ、別の高速飛翔体を直接ぶつける。弾道予測だけでなく、センサーの分解能、通信遅延、制御精度、目標識別が一つでも崩れれば外れる。THAADは巨大なミサイルというより、レーダーと計算機と迎撃体を一瞬だけ完全同期させるシステムである。

なぜ高い場所で迎撃するのか

高高度迎撃の最大の利点は、PAC-3が担当する低い層へ到達する前に、一度迎撃を試みられることだ。THAADが外した場合でも、条件が整えば下層のPatriotが次の射撃機会を持つ。米陸軍はTHAADとPatriotの統合について、上層と下層の双方で交戦機会を作り、脅威に応じて適切な迎撃弾を選ぶ狙いを示している。

時間を買える。

THAADは城壁を高くする兵器ではない。城門に到達する前に、もう一度矢を放つ時間を買う兵器だ。私は、この「再挑戦の余地」こそTHAADの価値だと考える。一発の命中率を神格化するより、異なる高度、異なるセンサー、異なる迎撃弾を重ねた方が、全体としての失敗確率を下げやすい。

高い場所で迎撃できれば、地上の防護範囲も広げやすい。低高度の迎撃は目標へ迫った弾頭を狙うため、守れる範囲が重要施設の周辺へ寄りやすい。THAADはより上空で交戦するため、一個部隊が都市圏、基地群、港湾、飛行場などをまとめて防護する地域防衛に向く。公式資料は具体的な最大射程や最大迎撃高度を常に明示していないため、広く流通する数値だけで能力を断定するのは避けたい。確実に言える軸は「終末段階」「高高度」「大気圏内外」「地域防衛」である。

もう一つは、弾頭を地上から遠い場所で破壊できる点だ。残骸の落下は避けられないものの、防護対象の直上まで弾頭を通すより、早い段階で軌道と構造を崩す余地が増える。迎撃高度は単なるスペック競争に収まらず、次の射撃、守る面積、被害局限をまとめて左右する。これは公式資料が示す高高度・地域防衛能力から導ける運用上の利点である。

高高度のTHAADと低高度のPAC-3による多層ミサイル防衛
THAADが上層、PAC-3が下層を担当して迎撃機会を重ねる多層防衛

THAADとPAC-3の違い

THAADとPAC-3を比較するときの注意点

THAADとPAC-3は、どちらも直撃型の迎撃弾を使うが、担当する高度と脅威の幅が異なる。米陸軍はPAC-3 MSEをPatriotシステム内で使うヒット・トゥ・キル迎撃弾と位置づけ、戦術弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機への対処能力を示している。THAADは高高度の弾道ミサイル防衛へ重点を置く。

〔内部リンク:target_slug="pac3-mse-interceptor-guide"〕

比較項目THAADPAC-3 MSE
主な迎撃層終末段階の高高度、大気圏内外終末段階の下層、大気圏内
主な対象短距離・準中距離・中距離級の弾道ミサイル戦術弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機
防護の性格都市圏や基地群を覆う地域防衛重要拠点周辺の局地・拠点防護
中核センサーAN/TPY-2 XバンドレーダーPatriotのレーダーと射撃管制装置
迎撃方式非爆発式のヒット・トゥ・キルヒット・トゥ・キル
装備上の位置レーダー、管制、発射機、迎撃弾を含む独立システムPatriot武器システムで使う迎撃ミサイル
得意な役割高い層で弾道弾を早めに処理漏れた弾道弾と航空脅威を低い層で処理
日本の公開配備防衛省が示す現行構成には含まれない全国のPAC-3部隊が運用

第一の違いは高度だ。日本の防衛省は、イージス艦による上層迎撃とPAC-3による下層迎撃をJADGEで連携させる構成を説明している。THAADを加えるなら、海上のSM-3と地上のPAC-3の間に、地上配備の高高度終末迎撃層を置く発想になる。

第二の違いは対象の幅である。PAC-3 MSEは弾道ミサイルだけでなく、巡航ミサイルや航空機にも対応する。Patriot全体はレーダー、指揮統制、複数種類の迎撃弾を組み合わせ、弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機、航空機へ対処する統合防空システムとして運用される。THAADの主眼は弾道ミサイルだ。

第三の違いは守り方だ。PAC-3は重要地点の近くへ機動展開する下層防衛に向く。THAADは高い位置で交戦し、より広い地域を覆う。そこで「どちらが強いか」という質問には、役割が違うと答えるのが正確だ。

私は「THAADはPAC-3の上位互換」という表現を避けたい。上位互換なら一方を置き換えれば済むが、実際の統合防空では両方を残し、上と下から同じ脅威を削る。比較の結論は勝敗より階層の違いにある。

THAADとSM-3の違い

THAADとSM-3は高い場所で弾道ミサイルを迎撃するため、混同されやすい。差は迎撃する飛翔段階と発射基盤にある。

段階が違う。

SM-3はイージス艦から発射され、主に弾道ミサイルのミッドコース段階を大気圏外で迎撃する。防衛省も、SM-3ブロックIAとブロックIIAが試験で大気圏外の標的へ命中したと公表している。THAADは地上から発射され、弾頭が目標地域へ降下する終末段階を大気圏内外で迎え撃つ。

〔内部リンク:target_slug="sm3-interceptor-missile-guide"〕 〔内部リンク:target_slug="jmsdf-aegis-destroyers-complete-guide"〕

整理すると、SM-3は海上から遠い段階で狙う第一線、THAADは地上から高高度終末段階を狙う中間線、PAC-3は低高度で最後に守る線となる。実際の射撃順序は目標の種類、発射地点、軌道、センサー配置、部隊位置で変わるが、多層防衛の考え方はこの三段構成でつかみやすい。

SM-6も弾道ミサイルの終末段階へ対応する能力を持つが、艦隊防空、巡航ミサイル対処、対水上攻撃まで任務が広い。THAADと同じ「終末迎撃」という言葉だけでまとめず、搭載基盤と任務範囲を分けて見る必要がある。

〔内部リンク:target_slug="sm6-standard-missile-guide"〕 〔内部リンク:target_slug="aegis-system-equipped-vessel-spy7-guide"〕

THAADの強み

THAADの第一の強みは、高高度終末迎撃という独自の層を作れることだ。SM-3とPAC-3だけでも多層防衛は成立するが、THAADが加われば地上配備の高高度迎撃機会が増える。艦艇の位置や稼働状況だけに依存せず、陸上から地域防衛を組める。

第二の強みはAN/TPY-2の高い追尾・識別能力である。レーダーはTHAAD自身の射撃だけでなく、前方配備モードで他のシステムへデータを供給できる。迎撃ミサイルを撃たない日でも、早期警戒と弾頭識別の価値が残る。

第三の強みは統合余地だ。米陸軍はAN/TPY-2のデータでPAC-3 MSEを誘導する能力を検証し、高高度用レーダーと低高度用迎撃弾を組み合わせた。ミサイル防衛の性能は、個々の迎撃弾のカタログ値より、センサーと射手をどこまで横断接続できるかで変わる。

第四の強みは展開性である。輸送機や陸路で危機地域へ移し、同盟国の既存防空網へ追加できる。2024年のイスラエル展開は、米国がTHAADを地域情勢に応じて動かす戦略資産として扱っている例だ。

強みは高さに限らない。私が注目するのは、THAADが「一発の高性能ミサイル」より「他の防空システムへ時間と情報を渡す中継層」として価値を増している点だ。

THAADの弱点と限界

THAADを万能防空システムとは呼べない。主な任務は弾道ミサイル迎撃であり、地形に沿って低空飛行する巡航ミサイル、小型無人機、航空機を広く処理する設計から外れる。これらはPatriot、短・中距離地対空ミサイル、戦闘機、対ドローン装備などで別に守る必要がある。

〔内部リンク:target_slug="type03-chu-sam"〕

弾数にも限界がある。発射機一基の搭載数は8発で、確実性を上げるため一目標へ複数弾を割り当てれば、同時対処できる目標数は減る。相手が弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機を時間差で大量投入する飽和攻撃では、高価な迎撃弾をどの脅威へ使うかが厳しく問われる。防衛省も、ミサイル技術の高度化と飽和攻撃により、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつあると説明している。

〔内部リンク:target_slug="world-strongest-missile-ranking"〕

レーダー配置も政治・軍事上の課題を生む。AN/TPY-2は遠距離の弾道目標を高精度で追跡できるため、配備国の防衛だけでなく、周辺国のミサイル活動を監視するセンサーと受け取られやすい。高性能レーダーは盾であると同時に、地域の戦略情報を集める目でもある。配備場所、電波管理、住民説明、同盟国との情報共有まで含めた政策判断が必要になる。

極超音速兵器への評価も慎重であるべきだ。メーカーはTHAADが極超音速で飛来する弾道ミサイル型の脅威へ対処すると説明するが、極超音速滑空兵器や極超音速巡航ミサイルは、通常の弾道軌道から外れ、低い高度で機動する場合がある。防衛省もHGVとHCMを新たな複雑な脅威として区別している。THAADという名前だけで、あらゆるマッハ5超の飛翔体を迎撃できると受け取るのは危険だ。

〔内部リンク:target_slug="china-hypersonic-weapons-explained"〕 〔内部リンク:target_slug="pla-rocket-force-overview"〕

最後に、迎撃成功率は固定値にならない。試験条件、標的の軌道、囮、同時弾数、センサー配置、交戦距離、部隊練度で結果が変わる。「命中率100%」のような宣伝的数字を、そのまま実戦の保証へ置き換えられない。ミサイル防衛は確率を積み上げる仕事であり、絶対安全など約束しない。

日本にTHAADは配備されているのか

少なくとも防衛省が公開する現在の日本の弾道ミサイル防衛構成に、THAAD迎撃部隊は示されていない。日本はイージス艦による上層迎撃と、全国のPAC-3部隊による下層迎撃をJADGEで連携させる体制を基本としている。

ここは混同が多い。

日本国内には米軍のAN/TPY-2レーダーがあるため、「日本にもTHAADがある」と説明される場合がある。だが、AN/TPY-2は単独で前方配備レーダーとして運用できる。THAADの発射機、射撃管制、迎撃ミサイルを備えた部隊が公開配備されていることとは別問題だ。

〔内部リンク:target_slug="japan-missiles-complete-guide"〕

日本はTHAADを導入すべきか

日本がTHAADを導入した場合、地上配備の高高度終末迎撃層を加えられる。北朝鮮や中国から飛来する弾道ミサイルに対し、イージス艦のSM-3が迎撃できなかった後、PAC-3より前にもう一度交戦する構想は合理性を持つ。海上部隊の整備、補給、天候、配置に左右されにくい地上の地域防衛拠点を作れる点も魅力だ。

判断は重い。

だが、導入の是非は迎撃高度だけで決められない。日本列島は南北に長く、守る対象も首都圏、在日米軍基地、自衛隊基地、原子力施設、港湾、航空拠点へ分散する。一個部隊で全国を覆う構想には無理があり、どこを優先するかという厳しい選択が生じる。レーダーの視界、山地、部隊防護、輸送経路、弾薬備蓄、米軍との指揮関係も設計し直さなければならない。

私は、日本のTHAAD論では「買うか買わないか」より先に、何発の同時攻撃に何回撃てる体制を求めるのかを決めるべきだと考える。高価な一個部隊を導入しても、迎撃弾の備蓄が少なく、他のセンサーやPAC-3と接続できなければ、厚い城壁にはならない。

また、日本は既存イージス艦、PAC-3、各種センサー、反撃能力の強化を並行している。THAADへ予算と人員を振り向ける場合、他のどの能力を遅らせるのかまで比較する必要がある。導入論は「一層増えるから安心」という足し算では終わらない。

〔内部リンク:target_slug="aegis-system-equipped-vessel-spy7-guide"〕 〔内部リンク:target_slug="raytheon-rtx-stock-guide"〕 〔内部リンク:target_slug="lockheed-martin-lmt-stock-guide"〕

結論として、日本にとってTHAADは技術的に魅力のある選択肢だが、単独で答えにはならない。防衛省自身が、極超音速兵器や飽和攻撃に対し、迎撃網だけで完全対応する難しさを認めている。センサー、迎撃弾、指揮統制、基地防護、反撃能力を一体で組む中で、THAADが最も費用対効果の高い中間層になるかを検証すべきである。

よくある質問

THAADは何の略か

Terminal High Altitude Area Defenseの略で、日本語では終末高高度地域防衛などと訳される。旧称のTheater High Altitude Area Defenseが使われた時期もあるが、現在の正式名称はTerminalである。

THAADの読み方は何か

一般に「サード」と読む。英字を一文字ずつ読む方式を採らない。

THAADの迎撃高度と射程はどのくらいか

少なくとも本稿で確認した米陸軍とメーカーの現行公開資料は、最大交戦距離や最大迎撃高度を一貫した最新数値として示していない。確実に確認できるのは、終末段階に大気圏内外で交戦し、地域防衛を担うという性格である。

THAADはICBMを迎撃できるか

THAADは主に短距離、準中距離、中距離級の弾道ミサイルを終末段階で迎撃する設計であり、米本土へ飛来する大陸間弾道ミサイルを主対象とする戦略級迎撃システムの代替にはならない。特定条件で高速目標へ対処する余地と、ICBM防衛を主任務にすることは分けて考える必要がある。

THAADは航空機やドローンも撃墜できるか

主目的から外れる。THAADは弾道ミサイル防衛へ特化しており、航空機、巡航ミサイル、無人機を含む防空にはPatriotや各種地対空ミサイル、戦闘機、対ドローン装備を組み合わせる。

THAADとPAC-3はどちらが強いか

強弱より担当層が違う。THAADは高高度の弾道ミサイル、PAC-3 MSEは低高度の弾道ミサイルに加えて巡航ミサイルや航空機も狙う。両者を重ねることで、同じ弾道目標へ複数回の迎撃機会を作れる。

THAADとイージス艦のSM-3はどう違うか

SM-3はイージス艦から発射され、主にミッドコース段階の弾道ミサイルを大気圏外で迎撃する。THAADは地上から発射され、降下・再突入する終末段階を高高度で迎撃する。

日本にTHAADは必要か

地上配備の高高度迎撃層を増やす利点はあるが、全国を守る部隊数、弾薬備蓄、レーダー配置、既存のイージス・PAC-3との統合、予算と人員を含めて判断すべきだ。少なくとも現在の防衛省公開資料は、イージス上層迎撃とPAC-3下層迎撃を日本の基本構成として示している。

まとめ

THAADは、短距離から中距離級の弾道ミサイルを、終末段階高高度で直撃破壊する地上配備型ミサイル防衛システムである。AN/TPY-2レーダーで目標を探知・識別し、非爆発式の迎撃体を赤外線誘導で衝突させる。大気圏内外で交戦できる点が、低高度を守るPAC-3との大きな違いだ。

答えは多層化だ。

PAC-3は戦術弾道ミサイルだけでなく、巡航ミサイルや航空機も対象とする下層防衛の要である。SM-3はイージス艦から大気圏外のミッドコース段階を狙う。THAADを加えた多層防衛では、SM-3、THAAD、PAC-3が異なる高さで迎撃機会を重ねる。

THAADの本当の価値は「最強の迎撃ミサイル」という肩書きにない。上の層で一度止め、外した場合にも下の層へ時間と情報を残すことにある。城門前の最後の一矢だけに賭けず、遠い場所から矢を重ねる。その構造こそ、現代のミサイル防衛を理解する核心である。

主な参照資料

  • <a href="https://www.mda.mil/system/thaad.html">米ミサイル防衛局:THAADシステム概要</a>
  • <a href="https://www.mda.mil/global/documents/pdf/thaad.pdf">米ミサイル防衛局:THAAD Fact Sheet</a>
  • <a href="https://www.lineofdeparture.army.mil/Journals/Air-Defense-Artillery/ADA-Archive/2024-Edition/THAAD-and-Patriot-Integration/">米陸軍:THAADとPatriotの統合</a>
  • <a href="https://www.army.mil/article/291670/u_s_army_advances_accelerated_pac_3_mse_production_through_contract_action">米陸軍:PAC-3 MSEの増産契約</a>
  • <a href="https://www.army.mil/article-amp/195977/fort_sill_trains_thaad_batteries">米陸軍:THAAD部隊の教育と多層防衛</a>
  • <a href="https://www.defense.gov/News/Releases/Release/Article/3934493/statement-by-pentagon-press-secretary-maj-gen-pat-ryder-on-the-deployment-of-a/">米国防総省:THAAD部隊のイスラエル展開</a>
  • <a href="https://files.gao.gov/reports/GAO-25-108187/index.html">米会計検査院:グアム防衛とTHAAD運用</a>
  • <a href="https://www.mod.go.jp/j/policy/defense/bmd/index.html">防衛省:統合防空ミサイル防衛について</a>
  • <a href="https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2025/html/n310202000.html">防衛省:令和7年版防衛白書・統合防空ミサイル防衛能力</a>
  • <a href="https://www.lockheedmartin.com/en-us/products/thaad/thaad-media-kit.html">ロッキード・マーティン:THAAD Media Kit</a>
  • <a href="https://www.lockheedmartin.com/en-us/news/features/2026/Lockheed-Martin-and-the-U-S-Department-of-War-Expand-THAAD-Interceptor-Production.html">ロッキード・マーティン:THAAD迎撃弾の生産拡大</a>

参考資料・主な出典

米ミサイル防衛局:THAADシステム概要|資料を確認

米ミサイル防衛局:THAAD Fact Sheet|資料を確認

米陸軍:THAADとPatriotの統合|資料を確認

米陸軍:PAC-3 MSEの増産契約|資料を確認

米陸軍:THAAD部隊の教育と多層防衛|資料を確認

米国防総省:THAAD部隊のイスラエル展開|資料を確認

米会計検査院:グアム防衛とTHAAD運用|資料を確認

防衛省:統合防空ミサイル防衛について|資料を確認

防衛省:令和7年版防衛白書・統合防空ミサイル防衛能力|資料を確認

ロッキード・マーティン:THAAD Media Kit|資料を確認

ロッキード・マーティン:THAAD迎撃弾の生産拡大|資料を確認

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