MPMS(改)は96式の何を変える?対舟艇・対戦車能力を徹底分析【2026年】

島嶼沿岸で舟艇を監視する車載誘導弾システムと指揮車両

MPMS(改)が96式多目的誘導弾システムから変える最大のポイントは、単純な「ミサイルの威力」ではない。射程を延ばし、高速で接近する複数目標へ同時に対処し、敵の上陸部隊が海岸へ到達する前に射撃の密度を高めることにある。

96式MPMSは、目標を直接見通せない場所から上陸用舟艇や戦車を攻撃できる、登場時としてはかなり先進的な兵器だった。誘導弾が捉えた赤外線画像を光ファイバで地上へ送り、隊員が画像を見ながら目標を選択する仕組みは、遠距離から「見て、選んで、当てる」能力を陸自にもたらした。一方で、その高性能を支える地上装置は大がかりだった。

MPMS(改)の進化点

防衛省は2025年12月にMPMS(改)の量産取得を決定し、2026年度予算では「96式多目的誘導弾システム等の後継」として11式・242億円を計上した。つまりMPMS(改)は、96式を少し延命する改修型ではなく、島嶼防衛での対舟艇戦そのものを組み直す次世代システムと見るべきだ。

比較項目96式多目的誘導弾システムMPMS(改)
主な任務達着前の上陸用舟艇、地上戦闘の戦車等を遠距離から撃破96式等の後継。島嶼へ侵攻するエアクッション艇等の上陸阻止・撃破を重視
射程絶対値は公式には明示されていない射程延伸を公式に要求。絶対値は非公表
多目標対処光ファイバ経由の画像を隊員が確認して目標を選択同時多目標対処能力を向上
高速目標主要な公式改良項目としては示されていない高速目標への対処能力向上を明記
システム構成発射、地上誘導、射撃指揮、情報処理、装填など複数の地上装置を使用。一般に6両1組として知られる機能を大幅に整理。2026年総火演で公開された構成は発射・指揮統制・捜索標定の3両と報じられた
取得コスト高性能だが大規模なシステム開発当初から取得コスト低減を要求
2026年時点現役装備量産取得へ移行。2026年度予算で11式・242億円

※MPMS(改)の構成車両数について、防衛省の量産選定資料は具体的な「3両1組」まで明記していない。3両構成は2026年の富士総合火力演習で公開された装備を取材した報道に基づく。

目次

96式MPMSは何がすごかったのか――「見えない敵」を画像で選べる誘導弾

96式が実現した遠隔交戦

96式多目的誘導弾システムの役割を理解しないと、MPMS(改)の進化点は見えにくい。

陸上自衛隊は96式MPMSについて、「戦車等を遠距離から撃破するシステム」と説明している。北海道の第2対舟艇対戦車中隊はさらに具体的で、目標を直視できない地点から射撃できる遠戦火力を持ち、海上では達着前の上陸用舟艇、陸上では敵戦車等を撃破する装備だとしている。

誘導方式も特徴的だった。防衛白書の資料では、96式の誘導弾は重量約59kg、全長約2mで、誘導方式は「慣性誘導+赤外線画像光ファイバTVM」とされる。防衛庁技術研究本部の資料によれば、飛翔中の誘導弾が赤外線センサーで捉えた画像を光ファイバ経由で地上装置へ送り、隊員がその映像から目標を選択する。地上誘導装置が飛翔指令を計算し、その信号を再び光ファイバで誘導弾へ返す仕組みだった。

これは単なる「古い有線誘導」ではない。発射地点から目標を直接見通せなくても、誘導弾の目を前方へ送り込める。遮蔽物や地形を利用して発射側を隠しつつ、終末段階では人間が画像を確認して目標を選べることが96式の強みだった。

ただし、その仕組みは射撃の一連の流れに人間と地上誘導装置を深く組み込む。1発を慎重に誘導するには強いが、高速舟艇が複数方向から短時間に押し寄せる局面では、今度は「何発を、何目標へ、どれだけ早く回せるか」が問題になる。

自衛隊ミサイルの全体像と並べて見ると、MPMSが対空・対艦・対戦車のどこを受け持つ装備なのか整理しやすい。

96式多目的誘導弾システムとMPMS改の能力比較表
改良の中心は単純な威力ではなく、射程・速度・多目標処理・機動性にある

MPMS(改)の本命は「射程」より同時多目標対処にある

2019年度に開発が始まった時点で、防衛省はMPMS(改)について「現有装備品に比べて射程や同時多目標対処等の機能・性能を向上しつつ、取得コストを低減する」と説明していた。防衛装備庁は現在、さらに高速目標への対処や、搭載弾を連続して活用する能力の向上も開発目標として掲げている。

ここで重要なのは、射程延伸だけを見ないことだ。

島嶼防衛で本当に厄介なのは、一隻の上陸用舟艇が遠くにいる状況ではない。複数のエアクッション艇や上陸用舟艇が時間差を詰めて接岸し、短い時間に人員・車両を浜へ送り込もうとする状況である。射程が伸びれば最初の射撃を始められる位置は遠くなる。しかし一つの目標に手間取れば、後続はその間にも海岸へ近づく。

同時多目標対処と高速目標対処がセットで要求された理由は、ここにある。

96式が「一発を遠くまで運び、最後まで目標を選べる兵器」だったとすれば、MPMS(改)は「敵の上陸テンポそのものを崩す兵器」へ進化した――私はこの違いが、射程の数字以上に重要だと考える。

絶対射程が何kmなのかは、防衛省・防衛装備庁の公表資料では確認できない。ネット上で特定の数字を断定するより、「射程延伸は公式に確認済み、具体値は非公表」と整理する方が正確だ。

島嶼へ接近する上陸用舟艇を捜索し複数目標へ対処する流れ
捜索・指揮統制・発射を連携し、複数の高速目標へ短時間で対処する

対舟艇能力はどう変わる?狙うのは軍艦より「上陸の瞬間」

島嶼防衛で問われる時間

MPMS(改)の量産選定資料で、防衛省が最も具体的に名前を挙げた標的は「敵エアクッション艇等」だった。ここに、この装備の性格がはっきり表れている。

対舟艇ミサイルと聞くと、12式地対艦誘導弾のように海上の大型艦艇を遠距離から攻撃する兵器を連想しやすい。しかしMPMS(改)の仕事はそれとは違う。敵艦隊そのものを海の彼方で叩くのではなく、島へ部隊を運び込む舟艇や水陸両用戦力を、上陸が成立する前に止める火力だ。

この役割では「射程の長さ」だけでなく「高速で動く比較的小さな目標をどれだけ処理できるか」が効く。エアクッション艇は通常の排水型舟艇とは運動特性が異なり、海面から陸上へそのまま進出できる。海岸線に到達させれば、戦車や装甲車、人員を陸上戦闘へ移すための時間が一気に短くなる。

だからMPMS(改)の高速目標対処と同時多目標対処は、別々のスペックではない。上陸部隊が「海上目標」でいられる限られた時間に、より多くの輸送手段を潰すための一つの能力と見るべきだ。

これは弾頭威力を比べるだけでは見えない変化である。敵戦車を浜に降ろしてから1両ずつ撃つより、その戦車を積んだ舟艇を海上で止められれば、防御側は一発で上陸後の戦闘そのものを減らせる可能性がある。MPMS(改)が島嶼防衛で重視される理由は、まさに「敵が陸戦を始める前」を狙えるからだ。

12式地対艦誘導弾が艦艇を遠距離から阻止する装備なのに対し、MPMS(改)は上陸用舟艇や地上目標へ、より部隊に近い場所から対処する。国産スタンド・オフ・ミサイルの比較と比べても、任務と射程帯の違いが分かる。

対戦車能力は強くなるのか――「装甲貫徹力」だけでは答えられない

では、MPMS(改)は96式より戦車に強いのか。

ここは断定しすぎない方がいい。2026年8月時点で、防衛省はMPMS(改)の弾頭形式や装甲貫徹力を公表していない。したがって「最新主力戦車の正面装甲を何mm貫通する」「96式より弾頭威力が何倍になった」といった比較には、公表情報上の根拠がない。

一方で、対戦車戦に効く改善は確認できる。

射程が延びれば、戦車側の直接照準火器が届きにくい位置から交戦できる余地が広がる。同時多目標対処が強化されれば、1両の戦車を撃破した後に次の目標へ移るだけでなく、複数の装甲車両が同時に動く状況へ対応しやすくなる。さらに96式が持っていた、目標を直接見通せない地点から射撃する思想を後継システムが受け継ぐなら、地形を利用した待ち伏せ火力としても価値が高い。

ただ、MPMS(改)の開発思想を「より強力な対戦車ミサイル」とだけ表現すると本質を外す。防衛省が量産選定で最初に示したのは、戦車ではなく島嶼へ侵攻するエアクッション艇等の上陸阻止だった。

つまり対戦車能力は消えないが、任務の優先順位は「上陸後の戦車を倒す」より「戦車や部隊を運ぶ上陸手段を、できるだけ海上で減らす」方向へ寄ったと読む方が自然である。対戦車火力としての強化は、装甲貫徹力よりも交戦距離、処理目標数、射撃テンポの改善に現れている可能性が高い。

96式の弱点だった「大がかりなシステム」はどこまで小さくなる?

地上装置の整理も近代化

96式MPMSは誘導弾だけで完結する兵器ではない。技術研究本部の資料では、発射装置、地上誘導装置、射撃指揮装置、情報処理装置、装填機などの地上装置で構成される。一般に観測機材を含む6両1組として運用されることで知られており、高性能な代わりに展開規模が大きいシステムだった。

2026年の富士総合火力演習で公開されたMPMS(改)について、現地取材した媒体は、発射装置、指揮統制装置、捜索標定装置の3両構成と報じている。防衛省の量産選定資料そのものは車両数を明記していないため、現段階では「公式諸元として3両」と言い切るより、公開された量産型に近い構成では地上装置の統合が大幅に進んだ、と見るのが安全だ。

この変化は地味だが、実戦では大きい。

車両が多ければ、移動時の車列は長くなり、陣地進入にも離脱にも時間がかかる。隠すべき車両も増える。島嶼の限られた道路、森林、集落周辺で分散配置するなら、システムがコンパクトなほど射撃位置の選択肢は増える。

しかも防衛省は開発開始時から「取得コスト低減」を要求していた。これは単に1セットを安く買いたいという話だけではない。高価で複雑な装備を少数だけ持つより、必要な正面へ複数の射撃単位を分散できる方が、同時多目標対処というMPMS(改)の強みを生かしやすい。

もちろん、実際に何個部隊へ何式配備されるかはまだ分からない。しかし、私はMPMS(改)の本当の近代化はミサイル本体だけでなく、「撃った後に移動し、別の場所でまた撃てるシステム」へ地上装置まで作り直した点にあると見る。

MPMS改の開発開始から量産取得までの年表
MPMS(改)は研究開発を終え、2026年度から本格調達の段階へ入った

11式・242億円は「1セット22億円」という意味ではない

MPMS(改)は2019年度に35億円の開発費を計上して研究開発が始まり、2025年12月に防衛省が量産取得を選定した。2026年度予算ではMPMS(改)および地上装置等として11式・242億円が計上されている。

ここで242億円を11で割ると約22億円になる。しかし、これをそのまま「MPMS(改)の1セット価格は22億円」と断定するのは危険だ。予算項目は「MPMS(改)及び地上装置等」であり、初度費や構成品の契約方法によって単純な平均単価とは一致しない可能性がある。

防衛省が新たな重要装備品として量産選定した際のライフサイクルコスト見積りは約735億円。ただし弾薬費は含まれない。弾薬の量産単価を公表すると保有数量を推定される懸念があるため、弾薬経費は非公表とされた。

この数字から分かるのは、MPMS(改)が試作品の段階を終え、部隊装備として本格的に調達されるフェーズへ入ったことだ。一方、総調達数や最終的な配備先、誘導弾1発の価格までは公表されていない。

MPMS(改)で「確実に変わること」と、まだ分からないこと

公開資料から強く言える変化は明確だ。

MPMS(改)は96式等の後継であり、射程を延ばし、同時多目標対処を強化し、高速目標への対応能力を高め、取得コストを下げる方向で開発された。防衛省は量産選定の理由として機動性能と火力性能などが要求を満たしたと評価し、島嶼防衛では敵エアクッション艇等の上陸阻止・撃破に使うと明記している。

私の評価では、96式からの最大の変化は「ミサイルが遠くまで飛ぶこと」ではなく、「短い交戦時間の中で、より多くの目標を処理できる火力システムへ変わること」だ。96式の光ファイバ画像誘導は、一発を人間が見ながら選ぶことに強みがあった。MPMS(改)はその思想を、現代の島嶼防衛で求められる多数・高速目標への対処へ拡張している。

一方で、絶対射程、飛翔速度、弾頭形式、装甲貫徹力、誘導方式の詳細、最終的な調達数は公表されていない。これらを推測で埋めて「96式より何倍強い」と表現するのは避けるべきだ。

MPMS(改)が変えるのは、96式という一つの装備だけではない。敵が海岸へ着いてから戦車を撃つのではなく、上陸戦力が海上にいる間に、複数の輸送手段をより遠くから削る。陸自の対舟艇対戦車火力は、単発の精密射撃から「上陸の時間軸を潰す火力」へ移ろうとしている。

よくある質問

MPMS(改)と96式多目的誘導弾システムの最大の違いは何ですか?

公式に示されている主な違いは、射程延伸、同時多目標対処、高速目標への対応、取得コスト低減です。単に弾頭威力を増すのではなく、島嶼へ接近する複数の舟艇を短時間で処理する方向へ進化しています。

MPMS(改)は戦車にも使えますか?

96式等の後継として対地目標への能力も引き継ぐと考えられます。ただし装甲貫徹力や弾頭形式などの詳細は公表されていないため、特定戦車に対する効果を断定することはできません。

2026年度の11式・242億円は1式約22億円という意味ですか?

単純な車両本体価格とは限りません。予算項目はMPMS(改)と地上装置等を含み、初度費や構成品の契約方法も影響するため、242億円を11で割った数字を公式単価として扱うのは不適切です。

出典・参考資料

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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