24式対空電子戦装置は何を無力化する?陸自電子戦の新たな切り札

南西諸島の高地から早期警戒機へアンテナを向ける車載電子戦装置

24式対空電子戦装置が狙うのは、敵航空機そのものではない。公開資料で最も明確に示されている標的は、早期警戒管制機(AWACS)などが搭載するレーダーだ。陸上から強力な妨害電波を送り、空域監視に使うレーダーの能力を低減・無力化する。つまり、撃墜するのではなく「空の目」を曇らせる装備である。

この違いは大きい。AWACSは広い空域を監視するだけでなく、味方航空機への航空管制や指揮統制にも関わる。そこへ地上から電子妨害を加えられれば、相手の戦闘機を一機も撃墜していない段階から、航空戦全体の見通しを悪化させられる可能性がある。防衛省が南西地域に対空電子戦部隊を置こうとしている理由も、ここにある。

24式対空電子戦装置の要点

ただし、妨害可能な距離、周波数帯、出力、特定機種に対する効果は公表されていない。「中国のKJ-500を確実に無力化できる」「ドローンの操縦電波も止められる」といった断定は、現在の公開情報からはできない。24式の強さは、分かっていることと分かっていないことを分けて見た方がよく見える。

対象24式対空電子戦装置で確認できるか公開情報からの判定
早期警戒管制機(AWACS)等の大型レーダー確認できる中心的な妨害対象
敵航空部隊のレーダー確認できる防衛省は「航空部隊のレーダー等」と説明。ただし具体的機種は未公表
航空機・艦艇の通信24式の中心任務としては不明NEWSは通信・レーダー妨害を担当
小型ドローン確認できない防衛省はレーザー・高出力マイクロ波を別系統の対処手段として整理
ミサイルのシーカー・誘導電波確認できない24式の具体的な妨害対象としては未公表
目次

24式対空電子戦装置とは何か|JTSQ-S28として量産が始まった車載電子戦システム

24式は二つの装置で働く

24式対空電子戦装置は、陸上自衛隊が運用する車載型の電子戦装置で、防衛装備庁の公示では「JTSQ-S28」という名称も確認できる。開発を担当したのは三菱電機で、同社の公開資料によれば、既存のネットワーク電子戦システム(NEWS)などで培った車載電子戦システム技術を活用して開発された。

開発の流れも比較的新しい。2020年度から「対空電子戦装置I型(自隊研)」として試作機の開発・製造が始まり、2022年度から実フィールドで評価試験を実施。2024年度から量産に入った。防衛省は2024年1月の重要装備品選定時点で、量産単価を約28億円、約10式取得した場合のライフサイクルコストを約459億円と見積もっていた。これはあくまで当時の選定手続上の見積もりだが、電子戦装置としてかなり大規模なシステムであることは分かる。

2026年度予算でも24式対空電子戦装置2式、52億円が計上されている。取得開始から数年で終わる単発装備ではなく、対空電子戦部隊の新編と歩調を合わせて整備が続いている装備だ。

装置の構成も単純な「巨大アンテナ付きトラック1台」ではない。三菱電機の説明では、強力な妨害電波を発射してレーダーの無力化を担う装置と、他システムから受け取った情報を処理・解析し、指揮統制を担う装置で構成される。電子戦というと電波を強く出せば勝ちという印象を持ちやすいが、24式は最初からネットワークとの連接を前提にしたシステムである。

日本のレーダー・電子戦企業を俯瞰すると、三菱電機がセンサーだけでなく妨害・指揮統制まで担う位置づけも分かりやすい。

24式対空電子戦装置、NEWS、高出力レーザー・マイクロ波の任務比較表
同じ電磁波領域でも、空中レーダー・通信・小型無人機で対象と手段が異なる

無力化するのはAWACSの「レーダー覆域」|空の目を狭める意味

24式の価値を理解するには、早期警戒管制機が何をしているかを見る必要がある。

三菱電機は、早期警戒管制機について、大型レーダーによる空域監視に加えて、友軍への航空管制や指揮統制が可能な装備だと説明している。戦闘機自身のレーダーだけに頼るのではなく、高高度から広い範囲を見渡すAWACSが後方で状況を整理し、味方航空機へ情報を渡す。現代の航空戦では、単なる「レーダー機」ではなく、空中に浮かぶ情報中枢に近い。

防衛省が与那国町向けに示した説明資料は、24式の狙いをかなり直感的に描いている。電子妨害前には広く伸びている早期警戒機のレーダー覆域が、妨害後には縮小するイメージが示され、「電子妨害により、相手早期警戒機等のレーダーを低減・無力化」と説明されている。

ここで重要なのは、「無力化」が必ずしもレーダーを完全停止させることだけを意味しない点だ。探知できる距離が短くなる、目標の識別や追尾が不安定になる、レーダー画面上で必要な情報を得にくくなる。そうした能力低下でも、航空戦では十分に意味がある。

敵の戦闘機が飛んでいるかどうかより、敵がこちらをどれだけ正確に見ているかの方が先に効く場面がある。24式は、その「見る能力」へ直接手を突っ込む装備だ。

早期警戒管制機の電波探知から位置予測、追尾、妨害までの流れ
遠距離妨害には、弱い電波を拾い、動く目標を予測し、強い電波を正確に向ける処理が要る

遠距離の移動目標へどう妨害を当てるのか|24式の本当の技術的難所

遠距離妨害の技術的難所

24式で私が最も面白いと感じるのは、単純な出力競争ではなく「遠くを飛び続ける目標へ、妨害を正確に当て続ける」ことを開発課題としている点だ。

三菱電機の公開資料によれば、遠距離にいる早期警戒管制機を妨害するには、まず相手から到来する非常に微弱なレーダー波を確実に探知しなければならない。そのうえで、高出力の妨害電波を高精度に追尾・発射し、移動し続ける目標の位置を正確に把握する必要がある。

しかも装置は車載型である。巨大な固定施設ならアンテナを好きなだけ大きくできるが、24式は道路を自走できる寸法に収めなければならない。送信アンテナは高出力の妨害電波を出し、受信アンテナは遠方から届く弱いレーダー波を拾う。この二つを近接配置すると、自分が出した強力な電波で自分の受信側を邪魔しかねない。

そこで開発側は、送信アンテナの不要な後方放射を抑え、受信側を小型化して送信アンテナの背後に配置するなど、自らの妨害電波が受信系へ与える影響を減らす設計を採ったとしている。外見上の大きなアンテナは目立つが、その裏では「強く出す」と「弱く拾う」を同じ車載システムで両立させる必要があるわけだ。

もう一つの鍵が情報処理である。24式は、早期警戒管制機の位置情報などを複数の他システムから受信し、その情報を使って遠方の移動目標を追尾する。ところが、接続先ごとに情報の形式や更新周期は異なる。最新位置が届くまでの空白をそのままにすれば、高速で移動する航空機への指向はずれていく。

三菱電機は、この空白を補うため、次の位置情報が届くまでの間に外挿処理で目標位置を予測する方式を導入したと説明している。つまり24式は、巨大な電波砲というより、センサー情報・追尾計算・高出力送信を束ねたネットワーク兵器と見た方が実態に近い。

NEWSとは何が違う?「対空」の名前でもドローン妨害装置ではない

陸自には、24式より前からネットワーク電子戦システム(NEWS)がある。両者は同じ電子戦装備でも、公開資料上の役割はかなり違う。

装備主な公開任務特徴
24式対空電子戦装置早期警戒機等のレーダー妨害遠距離の航空目標に対するレーダー妨害を重視
NEWS平素の電波収集・分析、有事の通信・レーダー妨害艦艇や航空機を含む相手の電波利用を広く低減・無効化
高出力レーザー・HPM小型無人機などへの対処レーザーは熱で損傷、HPMは電子機器の誤作動・破壊を狙う研究系統

防衛省は2024年の資料で、NEWSについて「平素から電波の収集・分析を行い、有事には主に艦艇や航空機への通信・レーダー妨害を行う」と説明する一方、24式については「相手の早期警戒機等へのレーダー妨害を行う」と明確に分けている。

この区分を見ると、「対空電子戦」という名称から想像しやすい誤解も解ける。24式は、飛来するドローンを近距離で落とす対空兵器ではない。小型無人機への対処は、防衛省の整理でも高出力レーザーや高出力マイクロ波などが別枠で研究されている。

また、24式が通信妨害を一切できないと断定することもできないが、少なくとも公開資料が繰り返し強調している中心任務はレーダー妨害である。NEWSが「相手の電波利用全般」へ広く触れるのに対し、24式は「空中の大型センサーを遠距離から狙う」という役割が際立つ。

世界の電子戦機・電子戦装備と比べると、24式が航空機ではなく地上から空中レーダーへ圧力をかける装備であることが際立つ。

24式対空電子戦装置の開発・量産と部隊配備計画の年表
試作と実地評価を経て量産へ移り、南西地域の対空電子戦部隊へ展開される

なぜ与那国・健軍・那覇なのか|南西地域に地上電子戦の線を引く

24式は装備単体より、どこへ置かれるかを見ると狙いが分かりやすい。

防衛省は2025年9月、2026年度に熊本県の健軍駐屯地と沖縄県の与那国駐屯地へ、それぞれ対空電子戦部隊を配備する予定だと公表した。与那国については、2026年度に第303電子戦中隊(仮称)の一部を対空電子戦部隊として新編する計画が示され、既存の電子戦部隊も増強される。さらに那覇駐屯地には2027年度、24式を運用する対空電子戦部隊を配備する予定が公表されている。

2026年8月時点で重要なのは、これらをすべて「配備済み」と書かないことだ。公表資料が示しているのは年度内の新編・配備計画であり、少なくとも与那国については2026年度末の部隊編成として示されている。

では、なぜ最西端の与那国なのか。防衛大臣自身が、南西地域へ侵攻する相手航空機等のレーダーを無力化するには、まず南西地域の西端に位置する与那国へ配備し、既存の電子戦部隊と組み合わせることに意義があると説明している。

ここから「特定の海峡の上空まで何km届く」と計算したくなるが、それは避けるべきだ。24式の実用的な妨害距離は公表されておらず、地図上の距離だけで特定空域への効果を判定することはできない。

それでも、南西諸島の地上部隊が、ミサイルやレーダーだけでなく電子妨害まで担う方向へ進んでいることははっきりしている。島に置かれた一両の車両が空中戦へ直接参加するのではない。地上の電子戦部隊が、空を飛ぶ相手のセンサーへ圧力をかけ、陸海空の戦闘をやりやすくする。この役割の変化こそ重要だ。

陸上自衛隊第15旅団と沖縄防衛を合わせて見ると、南西地域でミサイル・警戒監視・電子戦を重ねる全体像をつかみやすい。

24式は本当に「切り札」なのか|射程も妨害効果も未公表という現実

公開情報だけでは分からないこと

24式を「AWACSを一発で盲目にする装置」と考えるのは危険だ。

公表されていない情報が多い。妨害電波の出力、対応周波数、実用的な妨害距離、同時対処可能な目標数、特定レーダーに対する妨害方式、相手側の電子防護や妨害対抗技術に対する有効性は確認できない。したがって、特定国の早期警戒管制機を名指しして「何kmから無力化できる」といった評価は成立しない。

そもそも電子戦は、一方が妨害を出して終わる世界ではない。レーダー側も周波数や波形を変え、妨害を避けながら情報を得ようとする。妨害側は相手の電波を把握し、適切な妨害を選ばなければならない。防衛省が電子戦支援能力、つまり相手の電波を収集・分析する能力を同時に強化しているのは、そのためである。

24式自身も、三菱電機の説明を見る限り、他システムから受け取る位置情報や情報処理に大きく依存する。強い送信機だけを置けば完成する兵器ではない。電波を見つける側、位置を渡す側、妨害を指向する側がつながって初めて本領を発揮する。

私は、24式の価値を「AWACS撃墜の代替」とは見ない。敵の空域認識を一時的に崩し、その間に味方の航空機、地対空ミサイル、地上部隊が動ける時間を作る装備と見る方が自然だ。撃墜数ではなく、相手のレーダー画面に生まれた不確実性が戦果になる。これは従来の陸上自衛隊装備とはかなり違う発想である。

まとめ|24式が無力化しようとしているのは「敵機」ではなく「敵が空を見る能力」

24式対空電子戦装置について、公開情報から最も強く言えることは一つだ。主な標的は早期警戒管制機などのレーダーであり、陸上から高出力の妨害電波を送り、その空域監視能力を低減・無力化することを目的としている。

しかも、その実現には遠方の微弱なレーダー波の探知、高出力妨害、移動目標の追尾、複数システムから受けた位置情報の処理が必要になる。24式は単独完結の「電波砲」ではなく、他システムや指揮統制系と連接して初めて本領を発揮する電子戦システムだ。

南西地域への対空電子戦部隊の展開が進めば、陸自は地上から敵航空部隊の「目」へ働きかける手段を持つことになる。ミサイルが見えた目標を撃つ兵器だとすれば、24式は敵に正しく見せない時間を作る装備である。その時間を他の戦力へ渡せるかどうかが、この装置の本当の価値を決める。

よくある質問

24式対空電子戦装置は何を妨害する装備ですか?

公開資料で中心的な対象として示されているのは、早期警戒管制機など航空部隊が使うレーダーです。陸上から妨害電波を送り、探知・追尾などの能力を低減または無力化します。

24式対空電子戦装置はドローンを撃墜できますか?

小型ドローン迎撃用の装備とは確認されていません。防衛省は小型無人機への対処として、高出力レーザーや高出力マイクロ波などを別系統で整理しています。

24式対空電子戦装置の射程は何kmですか?

実用的な妨害距離、出力、周波数帯、同時対処数は公表されていません。特定の早期警戒管制機を何kmから無力化できるかを公開情報だけで断定することはできません。

出典・参考資料

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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