【AC8】名監督・片渕須直氏の戦争観とは?AC04「手紙」・AC5「平和」からAC8のストーリーを予想する

エースコンバット8「WINGS OF THEVE」の開発に、あの片渕須直氏が復帰する──この報せを聞いた瞬間、私は思わず声を上げてしまった。

「この世界の片隅に」で世界を泣かせた名監督が、再びストレンジリアルの空に帰ってくる。AC04で「敵国の少年の手紙」という革命的な語り口を生み出し、AC5で「歌われぬ英雄」の悲哀を描いた男が、今度は「偽りの名声」を背負う主人公の物語を紡ぐのだ。

本記事では、片渕須直氏がエースコンバットシリーズで築いてきた「戦争の描き方」を振り返りながら、AC8のストーリーがどのような方向に向かうのかを考察していく。

目次

1. 片渕須直とは何者か?──アニメ界の異端にしてエースコンバットの魂

片渕須直(かたぶち すなお)は、1960年生まれのアニメーション監督・脚本家である。

一般的には2016年公開の映画「この世界の片隅に」の監督として知られているが、ミリタリーファンやエースコンバットシリーズのファンにとっては、AC04・AC5・AC7のシナリオを手がけた「エースコンバットの物語の核」を作り上げた人物として記憶されている。

作品役割特徴
エースコンバット04 シャッタードスカイズ(2001年)シナリオ敵国の少年視点という革新的手法
エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー(2004年)シナリオ「平和」をテーマにした群像劇
エースコンバット・ゼロ ザ・ベルカン・ウォー(2006年)監修インタビュー形式の回想録スタイル
エースコンバット7 スカイズ・アンノウン(2019年)シナリオ協力無人機と有人機の対立構図
エースコンバット8 ウイングス・オブ・シーヴ(2026年予定)シナリオ「偽りの英雄」の物語(予想)

片渕氏の特徴は、「戦争を英雄譚として描かない」ことにある。

多くの戦争ゲームが「敵を倒す爽快感」や「祖国防衛の大義」を前面に押し出す中、片渕氏は常に「戦争の中で生きる普通の人々」に焦点を当ててきた。プレイヤーが操る無敵のエースパイロットではなく、その戦闘機が飛び去った後の地上で何が起きているのか──それを描くのが片渕須直という作家なのだ。


2. AC04「シャッタードスカイズ」──敵国の少年が綴る「手紙」という革命

「メビウス1」を讃えない物語

2001年に発売されたエースコンバット04は、シリーズの方向性を決定づけた金字塔である。

プレイヤーは「メビウス1」というコールサインを持つISAF(独立国家連合軍)のエースパイロットとして、エルジア共和国の侵攻からユージア大陸を解放していく。ゲームプレイ自体は王道の「敵を撃墜して勝利を掴む」フライトシューティングだ。

しかし、片渕氏が紡いだストーリーは全く異なるアプローチを取った。

ミッション間に挿入されるカットシーンは、敵国エルジアに住む名もなき少年の視点で語られる。少年は戦争で家族を失い、バーのウェイトレスである「バーテンダーの女性」に引き取られて暮らしている。そこにエルジア空軍のエースパイロット「黄色の13」が駐留してくる──。

この構造が革命的だったのは、プレイヤーが「倒すべき敵」として戦う黄色中隊を、「人間」として描いたことにある。

黄色の13という「敵」の人間性

黄色の13は、少年にとって占領者であると同時に、優しさを見せる大人でもあった。彼は戦争を憎みながらも、パイロットとして空を飛ぶことしかできない男だった。

ゲーム中盤、プレイヤー(メビウス1)は黄色中隊を次々と撃墜していく。その爽快感の裏側で、カットシーンでは少年が黄色の13の仲間たちの「死」を目撃していく様子が描かれる。

最終的に、プレイヤーは黄色の13を撃墜する。

ゲームとしては「勝利」である。しかし、カットシーンで語られるのは、少年が見上げた空に黄色の機体が落ちていく光景であり、彼の心に残った「戦争の傷」である。

「手紙」という形式の意味

片渕氏がこの物語を「少年が大人になってから振り返る手紙」という形式で語らせたのには明確な意図がある。

戦争は終わっても、その記憶は消えない。少年は大人になり、バーテンダーの女性は老い、黄色の13は墓の下だ。しかし、かつて空を見上げた記憶──敵味方に分かれて殺し合った者たちの記憶──は、手紙という形で後世に残される。

これは「この世界の片隅に」の主人公・すずが、戦争の記憶を「絵」として残したことと通底する片渕氏の一貫した姿勢である。

戦争を「なかったこと」にしない。英雄譚で塗り潰さない。地上に残された者の視点から、空の戦いを見つめ直す──それがAC04の革命だった。

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3. AC5「ジ・アンサング・ウォー」──「平和」を問い続けた歌われぬ英雄たち

「歌われぬ英雄」とは誰か

2004年発売のエースコンバット5は、片渕須直の戦争観がさらに深化した作品である。

タイトルの「The Unsung War(歌われぬ戦争)」は、歴史に名を残さない者たちの戦いを意味する。プレイヤーはオーシア国防空軍のパイロット「ブレイズ」として、突如始まったユークトバニアとの戦争に巻き込まれていく。

AC04が「敵国の少年」という外部視点を採用したのに対し、AC5は「仲間たちの群像劇」という内部視点を採用した。

キャラクターコールサイン特徴
ブレイズ主人公(プレイヤー)無言の英雄、ラーズグリーズとして覚醒
ケイ・ナガセエッジ女性パイロット、平和を願う心を持つ
アルヴィン・H・ダヴェンポートチョッパー陽気なムードメーカー、悲劇的な最期
マーカス・スノーアーチャー冷静な判断力を持つベテラン
ハンス・グリムベルカ出身の新人、複雑な過去を持つ

「Yes/No」システムが問いかけるもの

AC5の革新的な要素の一つが、ミッション中に挿入される「Yes/No」の選択肢である。

仲間が「俺たちは何のために戦っているんだ?」と問いかけてくる。プレイヤーは「Yes」か「No」で答える。この選択がゲームの結末を大きく変えるわけではない。しかし、片渕氏が意図したのは「プレイヤー自身に考えさせる」ことだった。

戦争の大義とは何か。平和とは何か。敵とは誰か。

これらの問いに対して、ゲームは明確な答えを与えない。代わりに、仲間たちとの会話を通じて、プレイヤー自身が答えを見つけていく構造になっている。

チョッパーの死──「英雄」の真実

AC5で最も印象的なシーンの一つが、チョッパーことアルヴィン・H・ダヴェンポートの戦死である。

彼は被弾した機体でスタジアムへの墜落を避けるため、脱出せずに海へ向かう。陽気で愛されたキャラクターが、誰にも讃えられることなく死んでいく。

この場面は、片渕氏の「歌われぬ英雄」というテーマの象徴である。

戦争には「勝利」と「敗北」しかないように見える。しかし、その裏側には無数の「名もなき死」がある。チョッパーは英雄として讃えられることなく死んだ。しかし、彼の犠牲は確かにそこにあった。

私がこのシーンで思い出すのは、太平洋戦争における数多くの「名もなき英雄」たちである。硫黄島の戦いで玉砕した兵士たち、沖縄戦で散った特攻隊員たち──彼らもまた「歌われぬ英雄」だった。

片渕須直は、ゲームという媒体を通じて、そうした「忘れられた犠牲」に光を当てようとしているのだ。

ラーズグリーズ伝説と「悪魔」の再解釈

AC5のもう一つの重要な要素が「ラーズグリーズ」の伝説である。

ラーズグリーズとは北欧神話に登場する悪魔であり、「死と再生」を象徴する存在として語られる。ゲーム中盤、プレイヤーたちは一度「死んだ」ことにされ、敵味方双方から追われる存在となる。しかし、その後「ラーズグリーズ」として復活し、真の敵に立ち向かっていく。

ここで重要なのは、「英雄」と「悪魔」の境界線の曖昧さである。

プレイヤーたちは味方からは「悪魔」と呼ばれ、敵からも恐れられる。しかし、その本質は「平和を願う者たち」に過ぎない。片渕氏は「英雄か悪魔か」という二項対立を超えて、「戦争の中で何を信じるか」というテーマを提示した。


4. 「この世界の片隅に」に見る片渕須直の戦争観

6年の歳月をかけた「呉」の再現

エースコンバットシリーズの話から少し離れて、片渕須直の代表作「この世界の片隅に」について触れておきたい。この作品を理解することで、AC8のストーリーがどのような方向に向かうのかが見えてくるからだ。

「この世界の片隅に」は、こうの史代の同名漫画を原作とした2016年公開のアニメ映画である。広島から呉に嫁いだ主人公・すずの日常を、太平洋戦争末期の1943年から1945年にかけて描いている。

片渕監督はこの作品のために6年以上の歳月をかけて徹底的な時代考証を行った。呉の街並み、当時の食事、空襲の日時と被害状況──すべてが史実に基づいて再現されている。

私がこの映画で最も心を打たれたのは、「戦争の日常化」の描写である。

すずは戦争を「非日常」として体験しない。配給の減少、空襲警報、灯火管制──それらは彼女の「日常」の一部となっている。そして、その日常の中で彼女は絵を描き、笑い、泣き、生きていく。

「加害」と「被害」の両面を見つめる目

片渕監督の戦争観において重要なのは、「被害者」としてだけでなく「加害者」としての日本を直視する姿勢である。

「この世界の片隅に」では、呉軍港に停泊する戦艦大和や戦艦武蔵が登場する。これらは「日本の誇り」であると同時に、「戦争の象徴」でもある。すずの義姉・径子は「この戦争に何の意味があるのか」と問いかける。

片渕監督は、日本が「被害者」であったことを否定しない。広島への原爆投下、呉への空襲──それらは紛れもない悲劇である。しかし同時に、日本が「加害者」であったことも忘れない。戦争を始めたのは日本であり、アジア各地で多くの命が奪われた。

この「両面を見つめる目」こそが、片渕須直の戦争観の核心である。

そして、この視点はエースコンバットシリーズにも一貫して反映されている。AC04の「敵国の少年」、AC5の「歌われぬ英雄」──どちらも「勝者」と「敗者」、「英雄」と「犠牲者」の境界線を曖昧にする物語だった。

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5. AC8「WINGS OF THEVE」ストーリー予想──「名声は真実ではなかった」の意味

公式が明かしたストーリーの核心

ここからは、AC8のストーリーがどのような方向に向かうのかを考察していこう。

まず、公式が発表しているストーリーの要点を整理する。

要素内容
時代設定2029年7月
舞台ストレンジリアル、ユージア大陸
主人公救難ボートで漂流中に空母エンデュアランスに救助されたパイロット
状況FCU(中央ユージア連合)がソトア共和国の電撃侵攻で壊滅
キーワード「シーヴの翼」──FCU首都シーヴの名を冠した伝説のエース
核心「その名声は真実ではなかった」

最後の一文が極めて重要である。

公式サイトには「プレイヤーは『シーヴの翼』という名を託される。FCU首都シーヴの名を冠した希望の象徴として語られる伝説のエースだが、その名声は真実ではなかった」と記されている。

これが意味するところは何か。

予想①:「シーヴの翼」は実在しなかった

最も素直な解釈は、「シーヴの翼」という伝説のエースが実在しなかった、あるいは大きく誇張されていたというものである。

崩壊寸前のFCUには「希望」が必要だった。難民を乗せた旧式空母エンデュアランス、壊滅した海軍、占領された国土──絶望的な状況の中で、人々は「英雄」を求めた。

そこで生み出されたのが「シーヴの翼」という虚像である。

プレイヤーは、その虚像を「本物」にするために戦うことになる。自分は伝説のエースではない。しかし、人々がその名を信じている限り、その名を背負って戦わなければならない──。

これは片渕須直が得意とする「英雄の虚実」というテーマの発展形と言える。AC04の黄色の13も、AC5のラーズグリーズも、「英雄」と「人間」の狭間で苦悩するキャラクターだった。AC8では、その構造がさらに先鋭化されるのではないか。

予想②:プロパガンダとしての「英雄」

もう一つの解釈は、「シーヴの翼」がFCU政府や軍部によって意図的に作り上げられたプロパガンダであるというものである。

戦時中、各国は「英雄」を必要とした。現実の太平洋戦争においても、日本は「軍神」と呼ばれるエースパイロットや艦長を宣伝に利用した。アメリカも同様に「英雄」を作り上げ、戦意高揚に利用した。

AC8の「シーヴの翼」も、同様の構造を持っている可能性がある。

つまり、主人公は「本物の英雄」ではなく、「英雄の役割を演じさせられる者」として描かれるのではないか。そして、その「偽りの名声」と「本当の自分」の間で葛藤しながら、最終的には「名前」ではなく「行動」で真の英雄になる──そんな物語が予想される。

予想③:「名声」と「真実」の対立構造

片渕須直の作品に共通するのは、「表面」と「本質」の対立構造である。

  • AC04:メビウス1の「英雄としての活躍」vs 黄色の13の「人間としての死」
  • AC5:ラーズグリーズの「悪魔としての評判」vs 仲間たちの「平和への願い」
  • この世界の片隅に:戦争の「国家的大義」vs すずの「日常の営み」

AC8では、この構造が「名声」と「真実」という形で提示されると予想する。

「シーヴの翼」という名声は、FCUの人々にとって希望である。しかし、その名声は真実ではない。では、「真実」とは何か? それは、名もなき一人のパイロットが、仲間とともに奪われた土地を取り戻すために戦う姿──それこそが「真実」なのではないだろうか。

予想④:3人の仲間との群像劇

公式サイトには「新しい3人の仲間とともに、奪われた土地を取り戻すため再び空へ向かう」と記されている。

AC5が4人の仲間との群像劇だったことを考えると、AC8もチームの絆を描く物語になると予想される。

片渕須直は「仲間の死」を描くことを恐れない作家である。AC5のチョッパーの死は、プレイヤーに強烈な印象を残した。AC8でも、3人の仲間のうち誰かが命を落とす展開があるかもしれない。

そして、その死が「名声」ではなく「真実」──つまり、共に戦った記憶として主人公の心に刻まれる。それこそが、片渕須直が描こうとしている「戦争の本質」なのではないだろうか。


6. まとめ:片渕須直が描く「空の戦争」の本質

片渕須直がエースコンバットシリーズで一貫して描いてきたのは、「英雄譚の裏側」である。

プレイヤーは無敵のエースパイロットとして敵を撃墜し、ミッションをクリアしていく。その爽快感は紛れもなくゲームの魅力である。しかし、片渕氏はその爽快感の「裏側」を描くことで、プレイヤーに「戦争とは何か」を問いかけてきた。

作品表の物語裏の物語
AC04メビウス1の英雄譚敵国の少年が見た「英雄の影」
AC5ラーズグリーズの復活劇仲間たちの犠牲と「平和への問い」
AC8(予想)シーヴの翼の奪還戦「偽りの名声」と「真実の絆」

AC8「WINGS OF THEVE」は、片渕須直の集大成になる可能性を秘めている。

「名声は真実ではなかった」という一文に込められた意味──それは、英雄譚を超えた「人間の物語」への扉である。

私は、AC8が単なる「敵を倒して祖国を解放する」ゲームにはならないと確信している。片渕須直が描くのは、戦争の中で「名前」を背負わされた一人の人間が、「真実」を見つけていく物語だ。

2026年の発売が、今から待ち遠しくてたまらない。


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