結論から言えば、能力向上後のF-15Jでも、F-35Aと真正面から1対1の長距離空戦を行えばF-35Aが有利だ。F-35Aには低被探知性、APG-81 AESAレーダー、複数センサーを統合して表示する設計があり、「相手より先に状況をつかむ」こと自体が機体の武器になっている。
しかし、ここから「F-15Jはステルス機に何もできない」と結論するのも早い。航空自衛隊は近代化済みF-15に対し、レーダー更新、電子戦能力の向上、搭載ミサイル数の増加などを進めている。さらに実際の防空戦では、戦闘機1機のレーダーだけで空を探すわけではない。JADGE、地上レーダー、早期警戒機、ほかの戦闘機から得た情報が加わるからだ。
- 正面からの長距離空戦では、低被探知性とセンサー統合を持つF-35Aが有利
- 能力向上F-15Jはレーダー・電子戦・搭載ミサイル数を強化する
- F-15Jの強みは速度と搭載力で、F-35Aと同じ戦い方をすることではない
- 日本の防空では、F-35Aの情報力とF-15Jのシューター能力をつなぐ運用が重要
近代化で若返るのはイーグルの目と耳と爪であって、翼そのものがステルスになるわけではない。F-35Aと同じ方法で戦えば不利だが、F-15Jの速度と搭載力をネットワークの中で使えば、ステルス機にとって無視できないシューターになり得る。
| 比較項目 | 能力向上後のF-15J | F-35A | 判定 |
|---|---|---|---|
| 基本設計 | 第4世代F-15を大幅近代化 | 低被探知性を前提に設計された第5世代機 | F-35A |
| レーダー | JSI構想ではAPG-82(V)1 AESA、現在の防衛省資料でも多数目標への能力向上を明記 | APG-81 AESA | 単純な探知距離比較は不可 |
| ステルス性 | 機体形状は非ステルス | 低被探知設計+機内兵装 | F-35A |
| 電子戦・センサー統合 | 能力向上事業で電子戦能力を強化 | レーダー・電子戦・赤外線系センサーを統合 | F-35A |
| 最高速度公表値 | 約マッハ2.5 | 約マッハ1.6 | F-15J |
| ミサイル搭載 | 防衛省が搭載ミサイル数の増加を計画 | ステルス維持時は機内搭載、必要に応じ外装可能 | 目的次第 |
| 1対1のBVR空戦 | 自機レーダーだけなら先に捕捉されるリスクが大きい | 低被探知性で先手を取りやすい | F-35A |
| 防空ネットワーク内 | 高速・大搭載量のシューターとして価値が上がる | センサー兼シューターとして強力 | 組み合わせが強い |

近代化F-15Jは何が変わる?レーダーと電子戦が別物になる
- AESAレーダー更新による多数目標対処能力の向上
- 高脅威環境での残存性を高める電子戦能力
- スタンド・オフ・ミサイル対応
- 搭載するミサイル数の増加
F-15Jは1980年代から航空自衛隊の防空を支えてきた機体だ。機体そのものは古いが、能力向上型まで「昔のF-15」と同じ感覚で語ると比較を誤る。
米国のDSCAが2019年に公表したF-15J近代化のFMS通知では、日本向けスーパー・インターセプター、いわゆるJSI構成としてAPG-82(V)1 AESAレーダー、ADCP IIミッションコンピューター、デジタル電子戦装置などが示された。APG-82(V)1は、メーカーのRTXが複数の空中・地上目標を同時に探知・識別・追尾する能力を説明しているF-15用の新世代レーダーだ。
日本側の現在の防衛力整備計画でも、近代化改修済みF-15について電子戦能力の向上、スタンド・オフ・ミサイルの搭載、搭載ミサイル数の増加を進める方針が明記されている。防衛装備庁の資料も、レーダー更新による多数目標への対処能力向上と、高脅威環境での残存性を高める電子戦強化を能力向上の柱に挙げている。
つまりF-15Jの近代化は、古いレーダーを少し見やすくする程度の延命ではない。敵を見つけ、情報を処理し、妨害下で生き残り、より多くの兵装を使うまでの戦闘システム全体を作り直す事業に近い。
一方で注意したいのが「F-15JSIは98機」という古い数字だ。2019年のDSCA通知は最大98機を対象とする「可能性のある売却」の承認で、文書自身が売却成立を意味しないと明記している。その後の日本側計画とは数字の範囲が異なるため、今回の比較では特定の改修機数ではなく、能力向上後のF-15Jが持つ戦闘能力に絞る。
F-15Jの近代化改修とJSIの詳細では、レーダー・電子戦・兵装の更新を個別に整理しています。
それでもF-35Aが先に撃ちやすい|ステルスは「透明」ではなく探知距離を削る
- ステルスはレーダー反射を抑え、探知距離と反応時間を削る技術
- 探知条件は方位・周波数・高度・外装・電子戦環境で変わる
- F-35Aに対する具体的な探知距離は公開されていない
- 高性能レーダーを積んでも低被探知性が無意味になるわけではない
能力向上したF-15Jが強力なAESAレーダーを積めば、F-35Aのステルスは無意味になるのか。ここが比較の核心だが、答えはノーだ。
ステルスはレーダーから完全に消える技術ではない。レーダー反射断面積、飛行方向、周波数、距離、外装品、相手レーダーの性能などによって見つかりやすさは変わる。F-35Aが何kmでF-15Jに探知されるかという数字は公開されておらず、ネット上で見かける「○kmで見える」という断定には根拠が乏しい。
重要なのは、レーダー反射が小さくなると探知距離が大きく縮むことだ。単純なレーダー方程式では最大探知距離は目標RCSの4乗根に比例する。仮に同一条件でRCSが100分の1になれば、理論上の探知距離は約3分の1になる。F-35Aの実際のRCSをこの例に当てはめられるわけではないが、「高性能レーダーならステルスを普通の戦闘機と同じ距離で見られる」という理解が成立しない理由はここにある。
しかもF-35A側もAPG-81 AESAを持つ。Northrop GrummanはAPG-81について、長距離の能動・受動空対空モード、電子戦機能を備え、相手より先に探知・追尾・射撃することを狙ったシステムだと説明している。これはメーカー表現なので実戦結果そのものではないが、F-35Aの設計思想は明確だ。
F-15Jがレーダー出力を上げて遠くを探そうとするほど、その電波を相手側の電子支援装置に拾われる可能性も生まれる。対してF-35Aは、自機レーダーだけでなく赤外線系センサーや電子戦装置、他機からの情報を統合して状況をつかめる。長距離空戦では「ミサイルの射程が何kmか」より前に、「どちらが先に相手の存在と位置を戦闘に使える精度で把握するか」という勝負が始まっている。
航空自衛隊のF-35A/Bについては、機体性能と国内配備の全体像を別記事で解説しています。

F-15Jの反撃カードは速度と搭載力|マッハ2.5は今も意味がある
ここまで読むとF-15Jに勝ち目がないように見えるが、F-35AにもF-15Jと同じ長所があるわけではない。
航空自衛隊の公表値では、F-15Jの最高速度は約マッハ2.5、F-35Aは約マッハ1.6だ。もちろん最高速度は武装、燃料、高度によって変わり、実戦で常時その速度を出すわけではない。それでも高速性能は、警戒空域への急行、戦闘位置の変更、離脱、そしてミサイル発射時の運動エネルギーという形で効いてくる。
空対空ミサイルは、自分で加速する前から発射母機の速度と高度という「初期条件」を受け取る。高く速く飛ぶ戦闘機から撃てば、それだけミサイルは有利なエネルギー状態で飛び始められる。F-15という大型機が長年「ミサイルを遠くへ運ぶ母機」として価値を保ってきた理由の一つだ。
さらに防衛省はF-15能力向上で搭載ミサイル数の増加を明記している。従来型F-15Jも空対空ミサイルを複数搭載できたが、能力向上型はその「弾数を持てる大型戦闘機」という特徴をさらに伸ばす方向にある。
F-35Aはステルス性を最大限生かすなら兵装を機内に収める必要がある。外部搭載を使えば兵装量を増やせるが、その場合は低被探知性とのトレードオフが生じる。F-15Jはそもそもステルス形状ではないため、外部搭載による低被探知性の悪化をF-35Aほど気にせず、速度と搭載力を優先できる。
だからF-15Jの勝ち筋は「F-35Aより見つかりにくくなる」ことではない。先に得た目標情報を使い、速い位置取りと多い弾数を攻撃力へ変換することにある。
ドッグファイトならF-15Jが逆転する?近距離戦はリセットボタンではない
「遠距離ならF-35A、接近戦ならF-15J」という説明もよく見かける。F-15は強力な双発エンジンと優れた運動性能を持つため、そう考えたくなるのは自然だ。
ただし、現代の近距離空戦は第二次大戦のように機首を相手の真後ろへ向けて機銃を撃つだけではない。ヘルメット照準、広い射角を持つ短距離ミサイル、赤外線センサー、電子戦装置によって、機体の旋回性能だけでは勝敗を説明できなくなった。
F-35Aは機体周囲を監視するセンサー群と統合表示を前提に設計されている。目視距離まで接近すればステルスによるレーダー探知距離の優位は小さくなるが、センサーによる状況認識まで消えるわけではない。F-15J側も近距離戦能力を持つため一方的な勝負ではないものの、「ドッグファイトに持ち込めば旧世代機が自動的に逆転する」というほど単純ではない。
むしろF-15Jにとって重要なのは、F-35Aが得意な情報優位の条件で無理に1対1を始めないことだ。近距離戦を勝敗のリセットボタンとして期待するより、味方のセンサーと編隊全体で先に有利な位置を作る方が現代的な答えになる。

本当に怖いのはF-35AとF-15Jの「対決」ではなく組み合わせだ
- F-35Aが前方で情報を集める
- 早期警戒機と地上レーダーが空域全体を支える
- F-15Jが速度と搭載ミサイル数を攻撃力へ変える
- 具体的な交戦手順は非公開なので可能性と確定事実を分ける
F-15JとF-35Aは航空自衛隊では味方同士であり、この比較を現実の防空へ戻すと見え方が変わる。
航空自衛隊はJADGEの能力向上、F-35Aの整備、F-15の能力向上、E-2D早期警戒機の導入などを同時に進めている。これは1機の戦闘機だけで空戦を完結させるのではなく、地上・空中のセンサーと戦闘機をネットワークでつなぐ方向だ。
たとえば日本周辺で低被探知目標に対応する場面を考える。F-15J自身のレーダーが何もない空域を最初から広く捜索する場合と、JADGEや早期警戒機、ほかのセンサーから「この方位、この高度帯に注目すべき」という情報を受けて捜索する場合では負担がまるで違う。ステルス機を見つけにくいという問題を、F-15J単機のレーダー性能だけで解こうとしない発想だ。
そこでF-15Jの速度と搭載力が生きる。F-35Aが前方で情報を集め、F-15Jが後方または別方向からミサイルを多数運ぶ。あるいはE-2Dや地上センサーが空域全体の状況を支え、F-15Jが必要な方向へ高速で移動する。私は、近代化F-15Jの価値は「ステルス機の代用品」ではなく、「ステルス機だけでは持ちにくい弾数と運動エネルギーを足す存在」にあると見る。
ただし、ここは公開情報の限界も大きい。どのセンサーの航跡情報を、どの精度でF-15Jへ送り、どこまで第三者情報だけで兵器使用につなげられるかという具体的な交戦手順は公開されていない。したがって「F-35Aが見つければF-15Jが必ずレーダーを使わず発射できる」とまでは断定できない。
それでも、防衛省がF-35、F-15能力向上、JADGE、早期警戒機を別々ではなく同時に整備している事実は重い。現代防空の強さを測る単位は、戦闘機1機ではなくセンサーとシューターを結んだシステムへ移っている。
日本の戦闘機一覧では空自4機種の役割を、世界最強戦闘機ランキングでは各国の現役機を同じ基準で比較しています。
近代化イーグルはステルス機と戦えるのか|「戦えるが、同じ土俵では勝ちにくい」
史料から強く言えることは三つある。
第一に、F-35Aは低被探知性と統合センサーを前提に設計されており、正面からの長距離空戦で先手を取りやすい。第二に、F-15Jは能力向上によってレーダー、電子戦、搭載兵装を大幅に強化される。第三に、日本は近代化に適さないF-15をF-35へ置き換える一方、近代化済みF-15にはさらに能力向上を施す方針を取っている。つまり防衛省自身が「F-35があるからF-15は不要」とは考えていない。
私の判定は、「近代化F-15Jはステルス機と戦える。ただしF-35Aと同じやり方では勝ちにくい」だ。
F-15J単機が自前のレーダーだけを頼りにF-35Aと正面からBVR戦を始めるなら、F-35Aの低被探知性とセンサー統合が大きな優位になる。逆に、地上レーダー、早期警戒機、ほかの戦闘機から得た情報でF-15Jの捜索範囲を絞り、高速と搭載ミサイル数を生かせるなら、評価は変わる。F-15Jはステルス機を正面から打ち負かす「ステルスキラー」ではなく、防空ネットワークの中でステルス機にも対抗し得る大型シューターとして見る方が実態に近い。
一方、公開資料だけではF-35Aの実際のRCS、F-15Jによる探知距離、電子戦装置の具体的な妨害効果、ミサイルの実戦命中率、ネットワーク経由の射撃手順までは確定できない。したがって「F-15JならF-35を○kmで撃墜できる」「F-35なら絶対に見つからない」といった数字遊びは避けるべきだ。
F-35Aが「見つかりにくさと情報」で戦う機体なら、能力向上後のF-15Jは「速さと弾数を、味方の情報につなげて戦う機体」になる。両者の差は世代の優劣だけではなく、何を自分で担当し、何をネットワークに任せるかという役割分担の差なのである。
よくある質問
F-15JのレーダーはF-35Aを何kmで探知できる?
信頼できる公開値はない。探知距離は目標の向き、使用周波数、高度、電子戦環境、外装品、レーダーのモードなどで変化する。APG-82(V)1の一般的な性能向上は公表されているが、F-35Aに対する具体的な探知距離は公開されていないため、単一の数字で断定するのは不適切だ。
F-15Jはいずれ全部F-35Aに置き換えられる?
現在の防衛力整備計画は、近代化改修に適さないF-15をF-35A/Bへ代替する一方、近代化済みF-15には電子戦、スタンド・オフ兵器、ミサイル搭載数などの能力向上を続ける方針を示している。少なくとも現行計画では、F-15とF-35を役割分担させながら併用する考え方だ。
単機同士の比較ならF-35Aが必ず勝つ?
F-35Aが長距離空戦で先手を取りやすいのは確かですが、必勝を保証する公開データはありません。高度、方位、兵装、支援センサー、電子戦環境、搭乗員の判断で結果は変わります。本稿の結論は「F-35Aが有利」であり、絶対的な勝敗の断定ではありません。
出典・参考資料
- 防衛省「防衛力整備計画について」
- 防衛装備庁「取得戦略計画の概要(F-15能力向上)」
- DSCA「Japan – F-15J Modernization」
- 航空自衛隊「F-15J/DJ」
- 航空自衛隊「F-35A」
- 航空自衛隊「日本を守るための体制整備」
- RTX「AN/APG-82(V)1 AESA Radar」
- Northrop Grumman「AN/APG-81 AESA」
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