航空自衛隊の最新ステルス戦闘機F-35A/B完全解説――透明な死神が日本の空を守る

「見えない戦闘機」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。

SF映画の世界?未来の兵器?

いや、違う。それは今、日本の空を守っているのだ。

航空自衛隊が配備を進めているF-35A/B戦闘機――。この第5世代ステルス戦闘機こそ、21世紀の空戦の主役であり、日本の防空体制を根底から変えつつある革命児なのである。

「日本は戦闘機を自分で作れないのか」

そんな声も聞こえてくる。確かに、F-35はアメリカ製だ。しかし、この選択は日本の防衛にとって極めて合理的であり、そして戦略的な判断だった。

この記事では、F-35A/Bの全貌を徹底解説する。技術的な特徴から、なぜ日本がこの戦闘機を選んだのか、F-15やF-2との役割分担、中国のJ-20との比較、そしていずも型護衛艦での運用まで――。

ゲームやアニメで戦闘機に興味を持った方も、ガチの航空ファンの方も、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。F-35の物語は、そのまま現代日本の防衛戦略の物語なのだから。

目次

「見えない戦闘機」の衝撃――ステルス技術が変えた空戦の常識

レーダーに映らない、それは魔法か科学か

1991年の湾岸戦争。世界の軍事関係者を震撼させる映像が流れた。

F-117ナイトホークというコウモリのような黒い戦闘機が、イラクの防空網をすり抜け、次々と目標を破壊していく。イラク軍のレーダーは、この戦闘機をほとんど捕捉できなかった。

これが「ステルス技術」の実戦デビューだった。

レーダーに映らない――。それは航空戦の常識を根底から覆す革命だった。どれほど優れたパイロットでも、どれほど高性能なミサイルを持っていても、敵を「見つけられなければ」戦えない。

ステルス戦闘機の登場は、空戦の概念を「見つけて撃つ」から「見つからずに撃つ」へと変化させたのである。

第5世代戦闘機とは何か

航空業界では、ジェット戦闘機を「世代」で分類する。

第1世代:1940年代後半~1950年代(ジェットエンジンの導入)
第2世代:1950年代~1960年代(レーダー・ミサイルの搭載)
第3世代:1960年代~1970年代(マッハ2級の高速性能)
第4世代:1970年代~(マルチロール化、高い機動性)
第5世代:2000年代~(ステルス性、高度なセンサー統合)

第5世代戦闘機の定義は明確だ:

ステルス性:レーダー反射断面積(RCS)の大幅な削減 スーパークルーズ:アフターバーナーなしで超音速飛行 高度なアビオニクス:センサーフュージョン、データリンク 高い状況認識能力:360度の脅威探知

そして、この第5世代戦闘機の代表格こそが、F-35なのである。

なぜ日本はF-35を選んだのか

2000年代後半、日本は重大な決断を迫られていた。

老朽化するF-4ファントムⅡの後継機を選定しなければならない。候補は複数あった:

F-22ラプター(アメリカ):最強のステルス戦闘機だが、輸出禁止
F-35ライトニングⅡ(アメリカ):F-22より廉価で多用途
ユーロファイター タイフーン(欧州共同開発):高い機動性
F/A-18E/F スーパーホーネット(アメリカ):艦載機としての実績

日本の選択は、F-35Aだった。

この決断の背景には、冷徹な戦略計算があった。

理由①:ステルス性の必要性

中国のJ-10、J-11、Su-27/30といった第4世代戦闘機が急増していた。数で圧倒される可能性がある以上、質で優位に立つ必要があった。ステルス性は、数的劣勢を覆す切り札になりうる。

理由②:F-22の入手不可能性

本当は最強のF-22が欲しかった。しかしアメリカ議会は、機密保持を理由にF-22の輸出を認めなかった。ならば、次善の策としてF-35しかない。

理由③:国際協力と情報共有

F-35は多国籍開発プログラムだ。日本が参加することで、最新の航空技術情報にアクセスできる。また、米軍や他の同盟国とのデータリンクで、より強固な防空網を構築できる。

理由④:長期的なコストパフォーマンス

F-35は世界で3,000機以上が生産される予定だ。大量生産により単価が下がり、維持コストも抑えられる。独自開発では、この経済性は得られない。

2011年12月、日本政府は正式にF-35Aの導入を決定した。42機の調達が決まり、後に数度の追加が決定。現在では、F-35AとF-35Bを合わせて147機の調達が計画されている。

F-35の誕生――史上最大の戦闘機開発プログラム

JSF計画の始まり

F-35の物語は、1990年代初頭に遡る。

アメリカ国防総省は、ある問題に直面していた。空軍、海軍、海兵隊がそれぞれ異なる次世代戦闘機を開発しようとしており、開発コストが膨大になる見込みだったのだ。

そこで考案されたのが、JSF(Joint Strike Fighter:統合打撃戦闘機)計画だった。

コンセプトは単純だ:3軍が共通のプラットフォームを使用し、それぞれの要求に応じて派生型を開発する。これにより、開発コストと維持コストを大幅に削減できる。

1996年、ボーイングとロッキード・マーチンの2社がコンペに選ばれた。それぞれが試作機を製作し、性能を競った。

そして2001年10月26日、勝者が発表された。

ロッキード・マーチンのX-35だ。

この機体が、F-35ライトニングⅡとして制式採用されることになる。

3つのバリエーション

F-35の独特な点は、3つの派生型が存在することだ。

F-35A(CTOL:通常離着陸型)

空軍向けの基本型 通常の滑走路から離着陸 内部兵器庫に2,000ポンド爆弾×2+空対空ミサイル×2を搭載可能 最もシンプルで軽量な設計

F-35B(STOVL:短距離離陸・垂直着陸型)

海兵隊向け 短距離離陸と垂直着陸が可能 リフトファンとスイベルノズルを装備 強襲揚陸艦や軽空母から運用可能

F-35C(CV:空母艦載型)

海軍向け カタパルト射出とアレスティングワイヤー着艦に対応 主翼面積が最大で、燃料搭載量も多い 空母での運用に最適化

日本が導入したのは、F-35AとF-35Bだ。F-35Aは空自の基地から、F-35Bはいずも型護衛艦から運用される。

開発の苦難――予算超過と遅延

しかし、F-35の開発は決して順調ではなかった。

当初の予定では、2010年頃には各軍への配備が始まるはずだった。だが実際には、初期作戦能力(IOC)の獲得は2015年~2019年にずれ込んだ。

問題は山積していた:

ソフトウェアの複雑性:F-35のアビオニクスは800万行以上のコードで構成される。バグの修正と機能の統合に膨大な時間がかかった。

エンジンの問題:F135エンジンにタービンブレードの亀裂が発見され、改修が必要になった。

ヘルメット搭載ディスプレイの不具合:パイロットが視認する情報を表示するヘルメットに、画像の遅延やジッターが発生した。

コストの高騰:開発費用は当初予定の2倍以上に膨張。1機あたりの価格も高騰した。

アメリカ議会では、「F-35は史上最悪の兵器調達プログラムだ」という批判も出た。

しかし、ロッキード・マーチンと国防総省は諦めなかった。問題を一つずつ解決し、試験を重ね、改良を続けた。

そして2015年7月、ついに海兵隊のF-35Bが初期作戦能力を獲得。以後、空軍のF-35A、海軍のF-35Cも順次実戦配備された。

現在、F-35は世界18カ国で運用され、1,000機以上が既に配備されている。開発の苦難を乗り越え、F-35は真の意味で「グローバル・スタンダード」となったのである。

F-35A――航空自衛隊の新たなエース

スペックから見る性能

まずは、F-35Aの基本スペックを確認しよう。

F-35A ライトニングⅡ

主要スペック:
全長:15.67m
全幅:10.7m
全高:4.38m
最大離陸重量:31,800kg
エンジン:プラット&ホイットニー F135-PW-100 ターボファンエンジン×1
推力:191kN(アフターバーナー使用時)
最高速度:マッハ1.6(約1,960km/h)
実用上昇限度:15,000m以上
戦闘行動半径:1,093km
乗員:1名

数字だけ見ても、その凄さは伝わりにくいかもしれない。だが、F-35の真価は数字では測れない部分にある。

ステルス性――「見えない」ことの圧倒的優位

F-35の最大の特徴は、やはりステルス性だ。

レーダー反射断面積(RCS)は公表されていないが、推定では0.001~0.005平方メートル程度とされる。これは、レーダーには「カラス1羽」程度の大きさにしか見えないということだ。

一方、通常の第4世代戦闘機のRCSは1~5平方メートル。つまり、F-35は従来の戦闘機の1,000分の1以下の被探知性しかないのである。

この「見えない」ことが、どれほど有利か。

想像してみてほしい。あなたが戦闘機のパイロットだとする。レーダーには何も映らない。しかし敵は確実にそこにいて、あなたを狙っている。そして突然、ミサイルが飛んでくる――。

これが、ステルス機と対峙する恐怖だ。

F-35は、敵に発見される前に敵を発見し、敵の射程外から攻撃できる。これを「First Look, First Shot, First Kill(最初に見つけ、最初に撃ち、最初に倒す)」という。

センサーフュージョン――究極の状況認識

しかし、F-35の革新性はステルス性だけではない。

F-35が真に革命的なのは、センサーフュージョン技術だ。

F-35には、数多くのセンサーが搭載されている:

AN/APG-81 AESA(アクティブ電子走査アレイ)レーダー AN/AAQ-40 EOTS(電子光学照準システム) AN/AAQ-37 DAS(分散開口システム):機体周囲6箇所にカメラ AN/ASQ-239 電子戦システム センサー融合コンピュータ

これらのセンサーから得られる膨大な情報を、コンピュータが統合・処理し、パイロットに最適な形で提示する。これがセンサーフュージョンだ。

パイロットは、コックピットの大型タッチスクリーンに、周囲360度の状況が一目で表示される。敵機の位置、味方機の位置、地上の脅威、すべてがリアルタイムで把握できる。

さらに驚くべきは、ヘルメット搭載ディスプレイ(HMD)だ。

パイロットのヘルメットのバイザーに、情報が直接投影される。パイロットが頭を動かすと、その方向の情報が表示される。つまり、パイロットは「機体を透視」できるのだ。

例えば、真下を見れば、機体の下にいる敵機が表示される。まるでSF映画のような技術だが、これは現実だ。

この圧倒的な状況認識能力により、F-35のパイロットは常に戦場の全体像を把握できる。「知らないうちに背後に敵が回り込んでいた」という悪夢のようなシチュエーションは、F-35では起こりえないのである。

内部兵器庫――ステルスを保ったまま武装

従来の戦闘機は、ミサイルや爆弾を主翼や胴体の下にパイロンで吊り下げる。

しかしこれでは、レーダー反射が増大し、ステルス性が損なわれる。

F-35は、この問題を内部兵器庫で解決した。

機体内部に4つの兵器ステーションがあり、ここにミサイルや爆弾を格納する。扉は必要なときだけ開き、武器を発射したらすぐに閉じる。これにより、ステルス性を維持したまま攻撃できる。

標準的な装備は:

内部兵器庫:AIM-120 AMRAAM(空対空ミサイル)×2+GBU-31 JDAM(誘導爆弾)×2

ステルス性を犠牲にしてもよい状況では、外部パイロンに追加の兵器を搭載できる。この場合、最大搭載量は約8,000kgに達する。

ネットワーク戦闘能力

F-35のもう一つの強みは、ネットワーク戦闘能力だ。

F-35は、MADL(Multifunction Advanced Data Link:多機能先進データリンク)という専用のデータリンクを持つ。これは、ステルス性を損なわない指向性の高い通信システムだ。

複数のF-35が編隊を組むと、それぞれが収集した情報を瞬時に共有し、まるで一つの巨大なセンサーネットワークのように機能する。

また、LINK-16という既存のデータリンクにも対応しており、E-767早期警戒管制機やE-2D早期警戒機、そしてイージス艦とも情報を共有できる。

これにより、F-35は単なる「戦闘機」ではなく、「飛行する情報ノード」としても機能する。敵の位置情報を他の部隊に伝達し、統合的な作戦を可能にするのだ。

三沢基地での運用

日本で最初にF-35Aが配備されたのは、青森県の三沢基地だ。

2018年1月、最初の4機が三沢基地に到着。第302飛行隊が、F-35Aの運用を開始した。

三沢基地は、アメリカ空軍も駐留する日米共同使用基地だ。アメリカ空軍もF-35AやF-16を配備しており、日米が協力して訓練を実施できる利点がある。

現在、三沢基地には約30機のF-35Aが配備されている。パイロットたちは日々訓練を重ね、戦闘技術を磨いている。

2019年4月、悲劇が起きた。三沢基地所属のF-35Aが太平洋上で墜落し、パイロットの細見彰里3等空佐が殉職した。原因は、空間識失調(パイロットが自機の姿勢を正しく認識できなくなる状態)と推定されている。

この事故は、F-35といえども完璧ではないこと、そしてパイロットの命が常に危険にさらされていることを、私たちに思い起こさせた。

細見3佐の犠牲を無駄にしないためにも、空自はF-35の安全運用に万全を期している。

国内最終組立の意義

日本が導入するF-35Aのうち、初期の38機はアメリカで製造された。

しかし、その後の機体は日本国内で最終組立(FACO:Final Assembly and Check Out)が行われている。

場所は、愛知県の三菱重工業小牧南工場だ。

ここでは、世界各地で製造された部品が集められ、組み立てられ、検査される。日本企業も、F-35のサプライチェーンに参加しており、主翼や機体構造部品などを製造している。

「なぜわざわざ日本で組み立てるのか?」

理由は複数ある:

技術習得:最新の航空技術を日本の技術者が学べる 産業基盤の維持:国内の航空機産業を維持・発展させる 即応性:国内に整備拠点があれば、迅速な対応が可能 戦略的自律性:アメリカへの依存度を多少なりとも下げる

ただし、コア技術(ステルス技術やエンジンなど)は依然としてブラックボックスだ。完全な技術移転ではない。それでも、日本がF-35の製造に関与できることは、防衛産業にとって意義深い。

F-35B――いずも型護衛艦と共に空母打撃群へ

なぜF-35Bが必要なのか

2018年12月、日本政府は重大な決定を下した。

いずも型護衛艦を改修し、F-35B戦闘機を運用できるようにする――。

この決定は、ある意味で「タブー」を破るものだった。戦後日本は、憲法第9条の制約から、「攻撃型空母」を保有しないという方針を貫いてきた。しかし、安全保障環境の変化は、この方針の見直しを迫ったのである。

特に、南西諸島(沖縄から鹿児島にかけての島々)の防衛が喫緊の課題だった。

これらの島々は、中国からの距離が近い。もし有事が発生した場合、本土の基地から戦闘機を展開するには時間がかかりすぎる。また、中国の弾道ミサイル攻撃で基地が破壊される可能性もある。

「固定基地に依存しない、機動的な航空戦力」

それが、F-35Bといずも型の組み合わせが実現する能力だった。

F-35Bの特殊能力――STOVL

F-35Bの最大の特徴は、STOVL(Short Take-Off and Vertical Landing:短距離離陸・垂直着陸)能力だ。

どのような仕組みか?

F-35Bには、F-35Aにはない特別な装置が搭載されている:

  • リフトファン:コックピット後方に垂直リフトファン。エンジンからシャフトで駆動され、下向きに強力な気流を吹き出す。
  • 3ベアリング・スイベル・ノズル:エンジンの排気ノズルが最大95度下向きに回転し、推力を下向きに変換。
  • ロール制御用スラスター:主翼下面に小型ノズル。ロール(横回転)を制御。

これらのシステムが協調して作動することで、F-35Bは地面から垂直に浮上できる。

離陸時は、短距離滑走して浮上。着陸時は、空中で減速し、垂直に降下する。

まるでヘリコプターのような機動だが、これは厳然たる戦闘機なのだ。

いずも型との運用

いずも型護衛艦は、全長248m、満載排水量27,000トンの大型艦だ。

元々はヘリコプター搭載護衛艦(DDH)として建造されたが、F-35B運用のために改修が行われている。

主な改修内容:

  • 飛行甲板の耐熱化:F-35Bの排気熱に耐えられるよう、甲板を耐熱塗装・耐熱パネルで強化
  • 艦首のスキージャンプ化:短距離離陸を支援するため、艦首部分を上向きに傾斜
  • 格納庫と昇降機の改修:F-35Bを格納・移動できるよう調整
  • 航空管制機能の強化:F-35Bの運用に必要な管制システムを追加

改修後のいずも型は、最大で10機程度のF-35Bを搭載できると推定される(ただし通常は2~4機程度の運用が想定される)。

運用イメージは次のようなものだ:

平時:いずも型は通常のヘリコプター搭載護衛艦として対潜作戦を実施 有事・準有事:F-35Bを搭載し、南西諸島方面に展開。航空優勢を確保し、島嶼防衛を支援

これにより、固定基地に依存しない、柔軟な航空戦力投射が可能になる。

「空母」なのか?

ここで、デリケートな問題に触れざるを得ない。

「いずも型にF-35Bを載せたら、それは空母ではないのか?」

確かに、機能的には軽空母そのものだ。しかし日本政府は、これを「多用途運用護衛艦」と呼び、「攻撃型空母」ではないとしている。

理屈はこうだ:

いずも型は主に防空・対潜任務に従事する F-35Bの搭載は、護衛艦隊の防空能力を高めるためのもの 相手国の領土を攻撃する「攻撃型空母」とは性質が異なる

この説明に、どこまで説得力があるかは議論がある。しかし重要なのは、日本が戦略的に必要と判断した能力を、憲法の範囲内で獲得しようとしているという事実だろう。

個人的には、言葉遊びに過ぎないとも思う。しかし同時に、日本が「専守防衛」という枠組みの中で、最大限の防衛能力を追求する姿勢は理解できる。

いずれにせよ、いずも型とF-35Bの組み合わせは、日本の防衛力を大きく向上させることは間違いない。

岩国基地での訓練

F-35Bの操縦訓練は、主に山口県の岩国基地で行われている。

岩国基地には、アメリカ海兵隊のF-35B部隊が駐留しており、空自パイロットは米海兵隊と共同で訓練を実施している。

STOVL操縦は、通常の固定翼機とは大きく異なる。垂直着陸は特に難しく、パイロットには高度な技量が求められる。

空自のパイロットたちは、米海兵隊の豊富な経験から学びつつ、日々技能を磨いている。

2024年現在、日本のF-35B調達数は42機の予定だ。これらの機体は、岩国基地を拠点としつつ、必要に応じていずも型・かが型に搭載される。

F-35の戦闘力を徹底解剖――何が凄いのか?

空対空戦闘――圧倒的な先制攻撃力

F-35の空対空戦闘能力は、第4世代機とは次元が異なる。

典型的な交戦シナリオを考えてみよう。

F-35 vs 第4世代戦闘機(例:Su-35)

距離200km:F-35のAN/APG-81レーダーが敵機を探知。敵のレーダーはまだF-35を捕捉できない。

距離100km:F-35がAIM-120D AMRAAMを発射。ミサイルは慣性誘導で飛翔。

距離80km:敵機のレーダーが、ようやくF-35を微弱に捕捉。しかし既にミサイルが接近中。

距離50km:敵機がミサイル接近を察知し、回避機動を開始。しかしAMRAAMのアクティブレーダー誘導が作動し、回避は困難。

距離30km:AMRAAMが敵機に命中。撃墜。

距離20km:F-35は敵の射程外から攻撃を完遂。自らは一度も脅威にさらされなかった。

これが、ステルス機の戦い方だ。

敵に発見される前に敵を発見し、敵の射程外から攻撃する。格闘戦(ドッグファイト)に持ち込まれる前に決着をつける。

もちろん、F-35が格闘戦に弱いわけではない。むしろ、優れた状況認識能力により、格闘戦でも有利に戦える。しかし、そもそも格闘戦に持ち込まれないのが理想なのだ。

空対地攻撃――精密誘導爆撃

F-35は、優れた空対地攻撃能力も持つ。

EOTS(電子光学照準システム)により、地上目標を高精度で識別・追尾できる。また、内部兵器庫にJDAM(統合直接攻撃弾薬)やSDB(小直径爆弾)を搭載し、精密爆撃が可能だ。

ステルス性により、敵の防空網を突破して目標に接近できる。そして精密誘導兵器により、目標だけを破壊し、付随的被害(コラテラルダメージ)を最小化できる。

これは、現代の戦争において極めて重要だ。市民を巻き込まない、病院や学校を破壊しない――そうした配慮が、国際法上も、また道義的にも求められる。

F-35は、そうした「人道的な戦争」(矛盾した言葉だが)を可能にする兵器なのである。

電子戦能力

F-35のAN/ASQ-239電子戦システムは、極めて高度だ。

このシステムは、敵のレーダー電波を探知・分析し、自動的に対抗措置を実施する。

具体的には:

敵レーダーの電波を探知し、種類を識別 脅威レベルを判定 適切な対抗措置(電波妨害、チャフ・フレア放出など)を実施 必要に応じて、敵レーダーサイトの位置を味方に通報

F-35は、単に「見えない」だけでなく、敵の電子的な目を潰すこともできるのだ。

生存性――撃たれても生き残る

どれほどステルスでも、完全に発見されないわけではない。運が悪ければ、ミサイルを撃たれることもある。

その場合でも、F-35は生存性が高い。

理由①:フレア・チャフディスペンサー 赤外線誘導ミサイルを欺瞞するフレア、レーダー誘導ミサイルを欺瞞するチャフを大量に搭載。

理由②:機動性 推力重量比が高く、高G旋回が可能。ミサイルの回避機動ができる。

理由③:DAS(分散開口システム) ミサイル発射の赤外線サインを瞬時に探知し、パイロットに警告。即座に回避行動に移れる。

理由④:構造的強度 機体構造は、一定の被弾に耐えられるよう設計されている。小口径の対空砲弾程度なら、致命傷にならない。

航続距離と作戦半径

F-35Aの戦闘行動半径は、約1,093kmとされる。

これは、基地から1,093km離れた場所まで飛行し、戦闘を行い、帰還できるということだ。

日本列島の長さは約3,000kmだが、F-35Aの行動半径なら、日本のほぼ全域をカバーできる。また、空中給油を受ければ、さらに行動範囲を拡大できる。

航空自衛隊はKC-767空中給油機を保有しており、F-35との組み合わせで長距離作戦が可能だ。

F-15J/F-2との比較と役割分担

日本の戦闘機戦力は、F-35だけではない。

F-15J戦闘機とF-2戦闘機が、依然として主力だ。これらの機体とF-35は、どう違うのか?そして、どのように役割分担するのか?

F-15J――ベテランの主力戦闘機

F-15Jは、1980年代から配備されている第4世代戦闘機だ。アメリカのF-15Cをライセンス生産したもので、優れた空対空戦闘能力を持つ。

F-15J 主要諸元:

全長:19.43m
全幅:13.05m
最大速度:マッハ2.5
戦闘行動半径:約1,967km
武装:20mm機関砲、AIM-9サイドワインダー×4、AIM-7スパロー×4(または AIM-120 AMRAAM×8)

F-15Jの強みは:

高速性:マッハ2.5の高速で敵を追尾できる 大量の武装:最大8発の空対空ミサイルを搭載 長い航続距離:長時間の哨戒任務が可能 実績:40年以上の運用で蓄積されたノウハウ

一方、弱点もある:

ステルス性皆無:レーダーに丸見え 旧式のアビオニクス:センサーフュージョンなし 大型で重い:機動性はF-35に劣る

現在、空自は約200機のF-15Jを保有している。ただし、うち約半数は旧式で改修が困難なため、順次退役予定だ。残りの約100機は「F-15J改」として近代化改修が行われ、2030年代まで使用される見込みだ。

※F-15J改について詳しくは、姉妹記事「F-15J改完全ガイド」をご覧いただきたい。

F-2――日本独自の支援戦闘機

F-2は、1990年代に開発された国産戦闘機だ(正確には、F-16をベースにした日米共同開発)。

主な任務は対艦攻撃と対地支援だが、空対空戦闘能力も持つマルチロール機である。

F-2 主要諸元:

全長:15.52m
全幅:11.13m
最大速度:マッハ2.0
戦闘行動半径:約830km(対艦ミサイル4発搭載時)
武装:20mm機関砲、ASM-2対艦ミサイル×4、AAM-5空対空ミサイル×2など

F-2の特徴は:

大型のレーダー:J/APG-2レーダーは、海上の小目標(艦船)を遠距離から探知できる 対艦ミサイル4発搭載:ASM-2を4発同時運用し、敵艦隊を攻撃
複合材主翼:世界初の一体成型複合材主翼で、軽量かつ高強度

F-2は、中国海軍の艦艇が日本近海に侵入した場合の対艦攻撃を主任務とする。その意味で、F-35やF-15Jとは役割が異なる。

空自は約90機のF-2を保有しているが、こちらも老朽化が進んでおり、後継機(F-X、後継支援戦闘機)の開発が進められている。

3機種の役割分担

では、F-35、F-15J、F-2はどのように役割分担するのか?

理想的なシナリオは次のようなものだ:

F-35:制空権奪取 ステルス性を活かして敵地に深く侵入し、敵の戦闘機や防空システムを先制攻撃。制空権を確保する。

F-15J:制空維持・哨戒 F-35が切り開いた制空権を維持。長い航続距離を活かし、広範囲の防空任務を担当。

F-2:対艦攻撃・対地支援 制空権が確保された後、敵艦隊や地上目標を攻撃。

つまり、F-35が「槍の穂先」、F-15Jが「盾」、F-2が「打撃力」という役割だ。

この3機種を有機的に連携させることで、日本の防空体制は大きく強化される。

世界の第5世代機との比較

F-35は、世界唯一の第5世代機ではない。他にも、いくつかの第5世代機が存在する。それらと比較してみよう。

F-22ラプター(アメリカ)

F-22は、世界最強の戦闘機と称される。

F-35より先に開発され、2005年から配備されている。ステルス性、機動性、速度、すべてでF-35を上回るとされる。

F-22の優位点:

スーパークルーズ:アフターバーナーなしでマッハ1.8の超音速飛行が可能 より高いステルス性:RCSはF-35よりさらに小さい 優れた機動性:推力偏向ノズルにより、極めて高い機動性

一方、F-22の弱点:

極めて高価:1機約150億円 輸出禁止:アメリカのみが保有 対地攻撃能力が限定的:空対空戦闘に特化

F-22は、「空対空戦闘の絶対王者」だが、多用途性ではF-35に劣る。また、生産数が限られており(187機のみ生産)、コストも高い。

F-35は、F-22ほど突出した性能はないが、より安価で、多用途で、世界中で運用できる。この「バランスの良さ」がF-35の強みなのだ。

Su-57(ロシア)

ロシアの第5世代戦闘機、Su-57は、2010年に初飛行した。

ステルス性、超音速巡航、高機動性を備えるとされるが、実際の性能は不明な点が多い。

西側の評価では、Su-57のステルス性はF-35やF-22に大きく劣るとされる。特に、エンジン排気口の処理が甘く、後方からのレーダー反射が大きいという。

また、生産数も限られており、2024年現在で20機程度しか配備されていない。ロシアの経済状況と技術的課題により、大量生産は困難とみられる。

実戦での評価はまだなく、「紙の上の性能」がどこまで実現されているかは疑問が残る。

J-20(中国)

そして、日本にとって最も気になるのが、中国のJ-20だろう。

J-20は、2011年に初飛行し、2017年から配備が始まった中国初の第5世代戦闘機だ。

J-20の特徴:

大型機:全長約21m。F-35やF-22より大きい。 カナード翼:機首にカナード(前翼)を装備。高い機動性を実現。 長い航続距離:大型機体により、燃料搭載量が多い。

しかし、J-20にも弱点がある:

エンジンの問題:当初はロシア製エンジンを使用。国産エンジンWS-10/WS-15は開発中だが、信頼性に疑問。 ステルス性への疑問:カナード翼はレーダー反射を増大させる。ステルス性がどこまで実現されているか不明。 アビオニクスの質:センサー技術で欧米に遅れをとっているとされる。

2024年現在、J-20は約200機以上が生産されたと推定される。数ではF-35に及ばないが、中国は急速に生産を拡大している。

J-20 vs F-35、どちらが優れているか?

この問いに明確に答えるのは難しい。実戦で戦ったことがないからだ。

ただし、一般的な評価としては:

ステルス性:F-35が優位 センサー・アビオニクス:F-35が優位 機動性:J-20がやや優位(大型機体とカナード翼の効果) 航続距離:J-20が優位 実績と信頼性:F-35が圧倒的に優位

総合的には、F-35の方が完成度が高いというのが西側の評価だ。しかし、J-20も着実に改良されており、将来的にどうなるかは予断を許さない。

※中国軍の戦闘機について詳しくは、姉妹記事「中国空軍の戦闘機戦力完全ガイド」をご覧いただきたい。

KF-21(韓国)

韓国が開発中のKF-21は、「第4.5世代機」と位置づけられる。

完全なステルス機ではなく、限定的なステルス性(セミステルス)を持つ多用途戦闘機だ。

2022年に初飛行し、2026年頃の配備を目指している。性能的にはF-35には及ばないが、F-16やF/A-18の後継として十分な能力を持つとされる。

調達計画と配備状況

日本の調達計画

日本のF-35調達計画は、段階的に拡大してきた。

2011年:F-35A 42機の調達決定(FMS:対外有償軍事援助) 2018年:F-35A追加18機、F-35B 42機の調達決定 2024年現在の計画:F-35A計105機、F-35B計42機

合計147機――。これは、アメリカ以外では最大規模のF-35調達数だ(イギリスの138機を上回る)。

調達費用は膨大だ。1機あたりの価格は、F-35Aで約140億円、F-35Bで約160億円と推定される。147機の総額は約2兆円を超える。

しかし、これは必要な投資だ。F-35なくして、21世紀の空戦を戦うことはできない。

配備スケジュール

F-35の配備は、段階的に進んでいる。

2018年:三沢基地に最初の4機到着 2019年:第302飛行隊がF-35Aの運用開始 2020年:F-35A 13機体制に拡大 2024年現在:三沢基地約30機、新田原基地に配備開始 2025年以降:順次追加配備、F-35Bも岩国基地に配備予定

最終的には:

F-35A:三沢基地、新田原基地(宮崎県)、小松基地(石川県)などに配備 F-35B:岩国基地に配備、いずも型・かが型で運用

これにより、日本全域をカバーする第5世代機の防空網が完成する。

各国の配備状況

世界のF-35配備状況(2024年時点)は:

アメリカ:約600機(3軍合計) 日本:約50機(2024年時点、最終的に147機予定) イギリス:約40機(最終的に138機予定) イタリア:約30機(最終的に90機予定) 韓国:約40機(最終的に60機予定) オーストラリア:約35機(最終的に72機予定)

その他、ノルウェー、オランダ、イスラエル、ポーランド、ベルギー、デンマーク、シンガポールなども調達中だ。

F-35は、文字通り「グローバル・スタンダード」となりつつある。

F-35の課題と批判

しかし、F-35は完璧ではない。いくつかの課題と批判も存在する。

①コストの高さ

F-35の開発・生産・維持コストは膨大だ。

アメリカ政府会計検査院(GAO)の試算では、F-35プログラムの総コスト(開発費+調達費+50年間の維持費)は約1.7兆ドル(約250兆円)に達するとされる。

1機あたりの調達コストも、当初の予定より大幅に高騰した。開発初期には「F-16並みの価格」を目指していたが、実際には2倍以上になった。

さらに、維持費も高い。1飛行時間あたりの運用コストは、F-35Aで約44,000ドル(約650万円)とされる。これはF-16の約1.5倍だ。

ただし、生産数が増えるにつれ、単価は低下傾向にある。ロット14(2020年契約分)では、F-35Aの単価は約7,900万ドル(約115億円)まで下がった。

②技術的問題

F-35の開発過程では、数多くの技術的問題が発生した。

ソフトウェアのバグ:複雑なソフトウェアにバグが頻発。アップデートで対応しているが、完全には解消されていない。

酸素供給システムの不具合:パイロットが低酸素症状を訴える事例が発生。改修で対応。

F-35Bのクラッチ問題:リフトファンのクラッチに不具合が見つかり、全機が一時飛行停止。

エンジンの耐久性:F135エンジンのタービンブレードに亀裂が発見され、検査・交換が必要に。

これらの問題は、徐々に解決されつつある。しかし、最新鋭の技術を詰め込んだ結果、信頼性の確保に時間がかかっているのも事実だ。

③整備の複雑性

F-35の整備は、従来の戦闘機より遥かに複雑だ。

特に、ステルス・コーティングの維持が大変だ。機体表面の特殊塗料やパネルは、損傷しやすく、頻繁なメンテナンスが必要。整備に時間とコストがかかる。

また、高度な電子機器やソフトウェアの整備には、専門的な知識と設備が必要。整備員の訓練も、従来より長期間を要する。

このため、F-35の稼働率(実際に飛行可能な機体の割合)は、当初の目標より低くなっている。アメリカ空軍の目標は80%だが、実際には50~60%程度にとどまっているとされる。

④A-10の代替としての不適性

アメリカ空軍は、F-35AでA-10サンダーボルトⅡ(対地攻撃機)を代替する計画だった。

しかしA-10パイロットや陸軍からは、「F-35はA-10の代わりにはならない」という批判が出ている。

A-10は、低速で低空を飛行し、地上部隊を直接支援する近接航空支援(CAS)に特化した機体だ。30mm機関砲で敵の戦車や陣地を攻撃し、味方地上部隊を守る。

一方、F-35は高速・高高度での戦闘を前提とした設計だ。低空をゆっくり飛んで地上を観察する、というA-10的な運用には向いていない。

ただし、日本の場合、A-10のような近接航空支援機は保有していないため、この批判は当てはまらない。

⑤「万能機」の限界

F-35は、3軍の要求を統合した「万能機」だ。

しかしこれは、裏を返せば「どの任務でも妥協がある」とも言える。

空軍は、より高性能な制空戦闘機が欲しかった(F-22のような)。 海兵隊は、より積載量の多い攻撃機が欲しかった。 海軍は、より長い航続距離が欲しかった。

F-35は、これらの要求を「そこそこ」満たす機体だ。どの任務でも平均点以上だが、突出した性能はない。

これが、「ジャック・オブ・オールトレーズ、マスター・オブ・ナン(何でも屋だが、何の達人でもない)」という批判につながる。

ただし、現代の戦場では、多様な任務に対応できる汎用性こそが重要だ。専用機を多種類揃えるより、1機種で多くをこなせる方が、運用・整備の面で有利だ。

F-35の「そこそこ万能」という特性は、欠点であると同時に、大きな利点でもあるのだ。

F-35が示す未来――ネットワーク中心の戦争

F-35は、単なる「高性能戦闘機」ではない。

それは、新しい戦争の形――ネットワーク中心の戦争(NCW:Network Centric Warfare)を体現する兵器なのである。

従来の戦争:プラットフォーム中心

従来の戦争では、個々の兵器の性能が重視された。

より速い戦闘機、より強力な戦車、より大きな軍艦――。こうしたプラットフォームの性能が、戦闘の勝敗を左右した。

情報の共有は限定的で、各部隊は基本的に独立して戦った。

新しい戦争:ネットワーク中心

しかし21世紀の戦争では、情報の共有と統合が決定的に重要になった。

個々の兵器の性能より、システム全体としての能力。 独立した戦闘より、連携した作戦。 物理的な破壊より、情報的な優位。

これが、ネットワーク中心の戦争だ。

F-35は、まさにこの新しい戦争のために設計された。

高度なセンサーで情報を収集 データリンクで情報を共有 味方全体の状況認識を向上 統合的な作戦を可能に

F-35単体の性能も高いが、真価は「ネットワークの一部」として機能するときに発揮される。

日本の統合防空体制

日本は、F-35を中核とした統合防空体制を構築しつつある。

F-35A/B:前線で情報収集、敵を攻撃 E-767/E-2D早期警戒機:広域の航空状況を監視 イージス艦:海上から弾道ミサイル・航空機を監視・迎撃 地上レーダー:日本全土を覆うレーダー網 PAC-3:重要施設の防空

これらが、データリンクで情報を共有し、一体として機能する。

例えば、E-767が探知した敵機の情報を、F-35がリアルタイムで受信。F-35はステルス性を活かして接近し、敵に気づかれる前に攻撃――。こうした連携が可能になる。

※日本のミサイル防衛システムについて詳しくは、姉妹記事「日本のミサイル防衛システム完全解説」をご覧いただきたい。

AIとの融合

さらに将来的には、AIとの融合も進むだろう。

AIがセンサーデータを解析し、最適な戦術を提案 パイロットの負担を軽減 半自律的な無人機との協調

アメリカ空軍は、「ロイヤル・ウィングマン」構想を進めている。これは、有人戦闘機(F-35など)と無人機がチームを組み、有人機が司令塔、無人機が実行部隊として機能するシステムだ。

日本も、こうした将来技術を見据えた開発を進めている。

F-35は、「最後の有人戦闘機」にはならないだろう。しかし、有人機と無人機・AIが融合する新しい時代への橋渡し役となるはずだ。

日本独自開発への道は?――F-3/F-Xの展望

ここまでF-35を称賛してきたが、率直に言えば、私には複雑な思いもある。

「なぜ日本は、自分で戦闘機を作れないのか」

第二次大戦中、日本は零戦や隼といった優れた戦闘機を独自開発した。戦後も、T-2/F-1、F-2と、国産戦闘機の系譜は続いてきた。

しかし、第5世代戦闘機は、日本独自では作れなかった。技術的にも、コスト的にも、あまりにハードルが高かったのだ。

F-3(次期戦闘機)開発の意義

だからこそ、現在進められているF-3(次期戦闘機)開発プロジェクトは、極めて重要だ。

F-3は、F-2の後継として開発される予定の第6世代戦闘機だ。三菱重工業を中心に、日本企業が主導して開発する。

目標性能は:

第6世代のステルス性 有人・無人機の協調運用 AI支援システム 長い航続距離と大きな搭載量 2035年頃の配備開始

開発には、イギリス・イタリアとの国際協力も進められている。完全な国産ではないが、日本が主導権を握る形での開発だ。

もしF-3が実現すれば、日本は再び「自前の戦闘機」を持つことになる。技術的独立性を保ち、防衛産業の基盤を維持できる。

私は、この挑戦を心から応援したい。

F-35とF-3の共存

F-35とF-3は、対立するものではない。

F-35:2020~2050年代の主力。実績があり、同盟国との連携も容易。 F-3:2035年以降の次世代戦力。日本独自の要求を反映し、技術的独立性を確保。

両者が共存することで、日本の防空体制はより強固になる。

F-35で現在と近未来を守り、F-3でさらにその先の未来を守る――。それが、日本の戦略だ。

F-35に乗るということ――パイロットの視点

最後に、F-35を実際に操縦するパイロットの視点について触れたい。

訓練の厳しさ

F-35パイロットになるには、極めて厳しい訓練が必要だ。

まず、航空学生または一般幹部候補生として入隊し、基礎課程を修了。次に、T-7初等練習機で基本的な飛行技術を習得。さらにT-4中等練習機で高度な訓練を受ける。

その後、戦闘機操縦課程に進み、T-4でジェット戦闘機の操縦を学ぶ。ここまでで数年かかる。

そして実用機種転換課程で、F-15やF-2の操縦を学び、実戦部隊に配属される。数年の実戦経験を積んだ後、ようやくF-35への機種転換訓練が始まる。

F-35の訓練は、アメリカのルーク空軍基地や、国内の三沢基地・岩国基地で実施される。シミュレーターでの訓練も多用されるが、実機での飛行訓練も不可欠だ。

初めてF-35に搭乗したパイロットは、その情報量の多さに圧倒されるという。画面に表示される無数の情報、ヘルメットに投影される映像――。すべてを処理し、適切に判断するには、高度な訓練と経験が必要だ。

コックピットからの視界

F-35のコックピットは、従来の戦闘機とは全く異なる。

計器盤の大半は、大型タッチスクリーンディスプレイに置き換えられている。必要な情報を、パイロットが自由にカスタマイズして表示できる。

そして、ヘルメット搭載ディスプレイ(HMD)が、パイロットの視界に情報を重ねて表示する。

前方を見れば、敵機の位置と距離が表示される。 下を見れば、機体の下の地形が見える(DASカメラの映像)。 ロックオンした目標には、緑の枠が表示される。

まるでビデオゲームのようだが、これは現実だ。そして、この情報の洪水の中で、冷静に判断し、的確に操作する――それがF-35パイロットの仕事なのだ。

責任の重さ

F-35は、1機140億円を超える高価な兵器だ。

そして何より、パイロットの命が乗っている。

2019年の墜落事故で殉職した細見彰里3佐のように、訓練中でも命を落とすリスクは常にある。

F-35パイロットたちは、この責任の重さを背負いながら、日々訓練に励んでいる。

私たちは、彼ら・彼女らに、最大の敬意を払うべきだろう。彼らが訓練を積み、技術を磨いてくれるからこそ、日本の空は守られているのだから。

まとめ――透明な龍は、日本の空を守る

ここまで、F-35A/Bの全貌を見てきた。

技術、戦略、課題、そして未来――。F-35という戦闘機は、単なる「空飛ぶ兵器」ではない。それは、21世紀の日本の防衛戦略そのものを体現する存在なのだ。

F-35が日本にもたらすもの

F-35の導入により、日本が得たものは大きい:

①制空能力の飛躍的向上 ステルス性により、中国やロシアの戦闘機に対して優位に立てる。

②同盟国との連携強化 アメリカや他のF-35運用国とのデータリンクにより、より強固な防空網を構築できる。

③柔軟な戦力投射 F-35Bといずも型の組み合わせで、南西諸島などへの迅速な展開が可能に。

④抑止力の向上 「日本を攻めても勝てない」と思わせることが、最大の防衛。F-35は、その抑止力の要。

完璧ではない、しかし最善

F-35は完璧な戦闘機ではない。コストは高く、技術的問題もあり、批判も多い。

しかし、現時点で日本が選択できる最善の戦闘機であることは間違いない。

F-22は買えない。国産第5世代機は技術的に困難。ならば、F-35しかない。

そして実際、F-35は優れた戦闘機だ。ステルス性、センサー、ネットワーク能力――。21世紀の空戦に必要な要素を、高いレベルで備えている。

技術への憧れと複雑な思い

正直に言えば、私はF-35を賞賛しながらも、複雑な思いを抱いている。

「日本が自分で作った戦闘機」ではない、という事実。

第二次大戦中、日本は零戦や隼を作った。資源も技術も限られた中で、世界と戦える戦闘機を独自開発した。その気概と技術力は、今でも誇りに思う。

戦後も、T-2、F-1、F-2と、日本は国産戦闘機を作り続けてきた。完全な国産ではなくとも、日本の技術者が中心となって開発した。

しかしF-35は、アメリカ製だ。日本は部品供給や最終組立に参加しているが、コア技術はブラックボックス。私たちは、「使わせてもらっている」に過ぎない。

これは、屈辱だろうか?

いや、違う。これは、現実的な選択だ。

技術立国としての矜持

しかし同時に、私たちは次の世代のために、技術を磨き続けなければならない。

だからこそ、F-3開発は重要なのだ。

F-35で現在を守りつつ、F-3で未来を切り開く。アメリカに依存しつつも、独自の技術基盤を維持し、次の世代に継承する。

これが、技術立国・日本の矜持だと、私は思う。

平和のために

最後に、もう一度繰り返したい。

F-35は、戦争のための兵器だ。しかし同時に、平和を守るための道具でもある。

「強い防衛力があるから、戦争にならない」 「攻めても無駄だと思わせることが、最大の抑止力」

F-35が、実戦で使われる日が来ないことを――私は心から願っている。

演習場で訓練を重ね、富士総合火力演習で雄姿を見せ、しかし実戦では一度もミサイルを撃つことなく――。そんな平和な日々が続くことを。

透明な龍――F-35は、見えない翼で日本の空を守っている。

その存在に感謝しつつ、平和な未来を信じたい。

関連情報とさらなる学び

F-35についてもっと知りたい方へ、おすすめの情報源をご紹介する。

実物を見る

航空自衛隊の基地公開イベント(年数回開催)では、F-35を間近で見られることがある。特に三沢基地や新田原基地の公開日は要チェックだ。

また、毎年8月末に静岡県の東富士演習場で開催される「富士総合火力演習」では、F-35の飛行展示が行われることがある(事前応募制、抽選)。

書籍・資料

F-35の技術的詳細を学ぶなら、専門書がおすすめだ。

『F-35ライトニングⅡ 最新ステルス戦闘機完全ガイド』(イカロス出版)は、豊富な写真と図解で、F-35のすべてを解説している。初心者にもわかりやすく、マニアも満足できる内容だ。

また、『航空自衛隊F-35A運用の全貌』(朝日新聞出版)は、空自でのF-35運用について詳しく記述している。

→ Amazonで「F-35 書籍」を探す

プラモデル

F-35の構造を理解するには、プラモデルの組み立てが最適だ。

タミヤやハセガワから、1/72スケール、1/48スケールのF-35キットが発売されている。精密なディテールと組み立てやすさで定評がある。

完成後は、部屋に飾れば立派なインテリアにもなる。

→ Amazonで「F-35 プラモデル」を探す

ゲーム

「エースコンバット7」「DCS World」などのフライトシミュレーターでは、F-35を操縦できる。

もちろんゲームだが、基本的な操縦感覚やセンサーの使い方を体感できる。ゲームを通じて、F-35への理解が深まるだろう。

当ブログの関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次