戦車のプラモデルを作ってみたい。そう思って模型店の棚の前に立つと、たいていの人は箱絵に描かれた砲身の迫力に目を奪われる。タイガー、パンター、キングタイガー、10式。どれもかっこいい。けれど、最初の1台を選ぶときに本当に見てほしいのは、箱絵の砲塔ではなく、その下にある足まわりだ。
戦車のプラモデルには、飛行機や軍艦にはない難所がある。履帯、つまりキャタピラだ。履帯には、ゴムのような帯を輪にするベルト式と、小さな部品を何十枚もつないでいく連結式があり、どちらのキットを選ぶかで、完成までの手間がまるで変わる。もうひとつは色だ。同じ戦車でも、一色で塗れる国の車両と、三色の迷彩を吹き分ける車両では、塗装の難しさが段違いになる。
この記事では、戦車プラモデルの最初の1台を、大きさ、履帯の種類、塗装の色の数、そして金型の年で選ぶ方法をまとめた。そのうえで、私が初心者に勧めたいキットを6つ挙げる。戦闘機から入りたい人は戦闘機プラモデル初心者のおすすめを、道具の選び方をくわしく知りたい人はミリタリープラモデルの道具一式を先に読んでほしい。
- 最初の1台は、ベルト式か、直線部分が一体になった部分連結式の履帯のキットを選ぶ。1枚ずつつなぐ連結式は2台目以降でいい
- 塗装は一色で塗れる車両から。アメリカ戦車のオリーブドラブ、大戦初期のドイツ戦車のグレー、ソ連戦車の緑がねらい目
- 迷ったら、アメリカ戦車好きはタミヤ1/35のM4A3E8シャーマン、陸上自衛隊好きはタミヤ1/35の10式戦車
- 履帯がどうしても不安なら、タイヤで走る16式機動戦闘車という逃げ道がある
- 戦車は細長いので、1/35でも横幅は10cm前後。1/48の戦闘機より棚の場所を取らない
結論:最初の1台は「4つの質問」で絞れる
模型店や通販で迷ったら、次の4つを順番に自分に聞いてみてほしい。
| 順番 | 自分に聞くこと | ここで決まること | 初心者の目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | どの国・どの時代の戦車が好きか | 候補の車両 | 好きな国の戦車から選ぶ |
| 2 | 履帯の組み立てにどこまで付き合えるか | 履帯の種類 | ベルト式か、直線部分が一体の部分連結式 |
| 3 | 塗装に何色使えるか | 塗装のパターン | 一色、多くても二色 |
| 4 | その金型はいつ生まれたか | 作りやすさ | 新しいほど組みやすい傾向 |
1番目は、やはり好きな戦車がいちばんの燃料になるからだ。完成までには、接着剤や塗料が乾くのを待つ時間が何度もある。その待ち時間に「早く続きを作りたい」と思えるかどうかは、車両への愛着で決まる。
戦闘機の記事では、2番目に「どこに飾るか」を置いた。戦車ではそこに履帯を置いた。戦車の場合、置き場所の悩みは意外と小さく、それよりも足まわりの組み立てで手が止まる人のほうが多いと私は思っているからだ。大きさの話は、このあと書く。

大きさで選ぶ:戦車は細長いから、1/35でも場所を取らない
戦車のプラモデルの主な縮尺は、1/35、1/48、1/72の3つだ。いちばん種類が多いのは1/35で、戦車模型の「標準」と言っていい。1/48は1/35よりひと回り小さく、部品も少なめ。1/72はさらに小さく、手のひらに乗る。
代表的な戦車で、完成したときの大きさを比べるとこうなる。
| 車両 | 1/35で作ると | 1/48で作ると |
|---|---|---|
| I号戦車B型 | 12.3×6.0cm | 約9×4cm |
| M4A3E8シャーマン | 21.4×8.6cm | 約16×6cm |
| T-34-85 | 約23×9cm | 16.9×6.3cm |
| タイガーI | 24.2×10.6cm | 約18×8cm |
| 16式機動戦闘車 | 約24×9cm | 17.6×6.3cm |
| 10式戦車 | 27.3×9.5cm | 約20×7cm |
| キングタイガー | 約29×11cm | 約21×8cm |
※全長は砲身を含む。小数点のある数字はタミヤの公表値、「約」は実車の寸法を縮尺で割った目安。
表を見て気づくのは、戦車の横幅の細さだ。1/35でも、ほとんどの戦車は幅が10cm前後に収まる。長さは20〜30cmあるが、横から見て細長いので、本棚の一段に横向きに並べられる。1/48の零戦は約19×23cmと横にも広いので、実は1/35のタイガーIのほうが、1/48の零戦より棚の面積を取らない。
私が初心者に勧めるのは、まず1/35だ。理由は、キットの種類がいちばん多く、作りたい戦車がたいてい見つかること。そして、部品の大きさがちょうどよく、指でつまんで作業できることだ。1/35は、戦車だけでなく、兵士の人形や、ドラム缶、木箱、標識といった小物のキットも数多く出ていて、あとから情景を作りたくなったときに選択肢が広い。1/48は、1/35より部品が少なく、短い時間で形になるのが魅力で、棚が狭い人や、たくさん並べたい人に向いている。1/72は小さくて場所を取らないが、細かい部品を扱う指先の作業が増えるので、最初の1台には少し手ごわい。
履帯で選ぶ:ベルト式と連結式で、手間がまるで違う
ここが、戦車プラモデルでいちばん大事なところだ。履帯の作り方は、大きく3つに分かれる。
| 種類 | どんなものか | 良いところ | 気をつけたいところ |
|---|---|---|---|
| ベルト式 | 一本の帯になった履帯を、輪にして両端をつなぐ | 早い。部品が少ない | 実物のような「たるみ」は出しにくい |
| 部分連結式 | 直線の部分は一体の部品、曲がる部分だけ数枚ずつ組む | ベルト式に近い手軽さで、形はリアル | 曲がる部分の組み方にこつがいる |
| 連結式 | 小さな履帯の部品を1枚ずつ、何十枚もつなぐ | いちばんリアル | とにかく時間がかかる。最初の1台には不向き |
ベルト式は、とにかく早い。帯を転輪に巻きつけて、端と端をつなげば終わりだ。つなぎ方はキットによって違い、普通の接着剤でつけられるもの、瞬間接着剤を使うもの、ピンで留めるものがあるので、説明書の指示に従ってほしい。弱点は、実物の履帯が上側の転輪の間で垂れ下がる様子が、ベルト式だと出しにくいことだ。
部分連結式は、ベルト式と連結式のいいとこ取りだ。地面に接する下側や上側のまっすぐな部分は長い一体の部品になっていて、前後の起動輪や誘導輪に巻きつく曲がった部分だけを、数枚ずつつないで組む。この記事で挙げるタミヤのI号戦車B型や1/48のT-34-85も、この方式だ。
連結式は、1枚ずつの部品を何十枚、車両によっては百枚以上つないでいく。完成したときのリアルさは最高だが、作業量も最高だ。最初の1台で連結式を選ぶと、履帯だけで週末が終わってしまう。これは2台目、3台目の楽しみにしておきたい。
もうひとつ、どうしても履帯が不安な人のための逃げ道がある。タイヤで走る装輪式の車両を選ぶことだ。陸上自衛隊の16式機動戦闘車は、戦車と同じような砲塔と主砲を持ちながら、足まわりは8つの大きなタイヤになっている。履帯の組み立てが丸ごとないので、戦車らしい姿を、ずっと少ない手間で手にできる。
色の数で選ぶ:一色で塗れる国の戦車から
戦車の塗装は、国と時代でおおよその傾向がある。最初の1台は、一色で塗れる車両を選ぶと、ぐっと楽になる。
| 塗装のパターン | 代表的な車両 | 初心者にとって |
|---|---|---|
| オリーブドラブ一色 | 第二次世界大戦のアメリカ戦車(M4シャーマンなど) | やさしい |
| グレー一色 | 第二次世界大戦の初期のドイツ戦車(I号、II号など) | やさしい |
| 緑一色 | 第二次世界大戦のソ連戦車(T-34など) | やさしい |
| 二色の迷彩 | 陸上自衛隊の戦車(10式、16式など) | ふつう |
| 三色の迷彩 | 第二次世界大戦の後半のドイツ戦車(パンター、キングタイガーなど) | むずかしい |
アメリカ戦車のオリーブドラブは、缶スプレーで一気に塗れる色だ。ドイツ戦車は時期で塗装が大きく変わり、大戦の初期は暗いグレーが中心だったが、後半になると黄色っぽいダークイエローを基本に、赤茶と緑の迷彩を重ねるようになった。この三色迷彩は、境目をぼかして吹き付けるのが本来の姿で、きれいに仕上げるにはエアブラシがほしくなる。
陸上自衛隊の戦車は、茶色と緑の二色の迷彩だ。境目ははっきりしていて、マスキングテープや練り消しで区切れば筆でも塗れる。一色よりは手がかかるが、最初の1台でも十分に挑戦できる。
それから、戦車には飛行機にない強い味方がある。汚しだ。戦車は泥やほこりの中を走る乗り物なので、足まわりに泥を、車体にほこりを加えると、ぐっと実物らしくなる。そして汚しは、塗装のむらや小さな失敗を、うまく目立たなくしてくれる。戦車は、汚すほど上手に見える。最初の1台で塗装が思いどおりにいかなくても、汚しで仕上げれば、それは「使い込まれた戦車」として完成する。
作りやすさで選ぶ:「金型の年」を確かめる
戦闘機の記事でも書いたが、プラモデルは金型の生まれた年で作りやすさが大きく変わる。新しい金型ほど部品の合いがよく、説明書も親切になっている傾向がある。
タミヤの1/35ミリタリーミニチュアシリーズは、シリーズ番号がおおむね発売順についている。この記事で挙げるキットで見ると、番号と発売年はこう並ぶ。
| シリーズ番号 | キット | 発売 |
|---|---|---|
| No.216 | タイガーI 初期生産型 | 1997年 |
| No.329 | 10式戦車 | 2013年 |
| No.346 | M4A3E8シャーマン イージーエイト | 2015年 |
| No.388 | I号戦車B型 | 2024年 |
番号が大きいほど新しい。メーカーのサイトで製品ページを開けば発売日が書いてあるので、買う前に一度確かめておくといい。ただし、古い金型でも名作として長く売られているキットはある。タイガーIのように、古くても組みやすさで評判のキットもあるので、番号はあくまで目安だ。
最初にそろえたい道具
戦車のプラモデルを作るのに必要な道具は、基本的に飛行機や軍艦と同じだ。ガンプラを作ったことがある人なら、ニッパーとデザインナイフとやすりはそのまま使える。足りないのは、接着剤と塗料、そしてマスキングテープだ。
| 道具 | 戦車ならではの使い道 |
|---|---|
| プラモデル用ニッパー | 転輪がたくさんあるので、切り離す部品の数が多い |
| デザインナイフ | 転輪の切り口をそろえる |
| 接着剤(流し込みタイプ) | 部分連結式の履帯をつなぐのにも使う |
| 紙やすり | 転輪や車体の合わせ目をならす |
| マスキングテープ・練り消し | 迷彩の境目を作る |
| 塗料と筆、または缶スプレー | 車体色と、履帯の茶色や黒 |
| 汚し材 | 足まわりの泥とほこり |
戦車ならではの注意点は2つある。1つ目は転輪の多さだ。戦車によっては、片側だけで十数個から二十個を超える転輪があり、それぞれが2〜3個の部品でできていることも多い。同じ作業の繰り返しになるので、転輪だけは一気に切り出して並べ、流れ作業で仕上げると速い。2つ目は履帯の色で、履帯は車体と同じ色ではなく、さびた鉄のような暗い茶色や、黒に近い色で塗る。ここを塗り分けるだけで、足まわりが急に締まって見える。
道具の種類や、塗料の選び方・重ね方は、道具一式の記事でくわしく書いた。
初心者におすすめの戦車プラモデル6選
ここからが本題だ。ここまでの4つの質問に照らして、私が最初の1台に勧めたいキットを6つ選んだ。全部タミヤになったが、これは身びいきではない。新しい金型と組みやすい履帯の両方がそろったキットが、今のところタミヤにいちばん多いからだ。
| キット | 完成サイズ | 発売 | 履帯 | 塗装 | こんな人に |
|---|---|---|---|---|---|
| タミヤ 1/35 M4A3E8シャーマン | 21.4×8.6cm | 2015年 | ベルト式 | オリーブドラブ一色 | アメリカ戦車が好き、いちばん素直な1台目 |
| タミヤ 1/35 I号戦車B型 | 12.3×6.0cm | 2024年 | 部分連結式(直線一体) | グレー中心 | 小さく早く1台作りたい |
| タミヤ 1/48 16式機動戦闘車 | 17.6×6.3cm | 2019年 | なし(タイヤ) | 陸自の二色迷彩 | 履帯が不安、自衛隊が好き |
| タミヤ 1/35 10式戦車 | 27.3×9.5cm | 2013年 | ベルト式 | 陸自の二色迷彩 | 陸自の最新戦車を作りたい |
| タミヤ 1/48 T-34-85 | 16.9×6.3cm | ― | 部分連結式(直線一体) | 緑系の一色 | 小さく一色で、ソ連戦車 |
| タミヤ 1/35 タイガーI 初期生産型 | 24.2×10.6cm | 1997年 | ベルト式 | グレーか三色迷彩を選べる | どうしてもタイガーを作りたい |
※完成サイズはタミヤの公表値。
1. タミヤ 1/35 M4A3E8シャーマン イージーエイト|いちばん素直な1台目
最初の1台に、私が真っ先に勧めるのがこれだ。タミヤ1/35ミリタリーミニチュアシリーズのNo.346、2015年に発売された、アメリカ軍のM4A3E8シャーマン、通称イージーエイトのキットになる。
理由は3つある。1つ目は、塗装がオリーブドラブの一色で済むこと。缶スプレーで車体を塗ってしまえば、あとは履帯や工具などの小物を塗り分けるだけだ。2つ目は、履帯が幅の広いベルト式で、足まわりが短い時間で組み上がること。3つ目は、2015年の新しい金型で、砲塔や車体の鋳造の肌、溶接の跡まで細かく再現されていることだ。
キューポラから身を乗り出す車長の半身像が1体付いていて、ハッチを開けた状態で作ると、一気に「動いている戦車」の雰囲気が出る。人形の顔を塗るのが不安なら、ハッチを閉めて人形なしで作ってもいい。
シャーマンは「弱い戦車」と言われることが多いが、大量に作られ、どこでも修理でき、戦争の最後まで走り続けた。その実像はM4シャーマンの解説で検証した。作りながら読むと、この戦車がなぜ大量生産に向いていたのかが、手の中の部品で見えてくる。
2. タミヤ 1/35 I号戦車B型|小さく、早く、最新の金型
「とにかく1台を早く完成させたい」人には、タミヤ1/35のI号戦車B型(No.388)を勧めたい。2024年11月に発売された、この記事の中でいちばん新しいキットだ。
I号戦車は、第二次世界大戦の初めにドイツ軍が使った小さな戦車で、1/35でも全長12.3cm、幅6.0cmしかない。手のひらに乗る大きさなので、部品も少なく、完成までの時間が短い。履帯は、まっすぐな部分が一体になった部分連結式で、ベルト式に近い手軽さで、形はリアルに仕上がる。車体の上部と砲塔には複雑な形を一度に成形できるスライド金型が使われていて、新しい金型らしい部品の合いが期待できる。
マーキングはポーランド戦、フランス戦、ロシア戦線の3種類から選べる。大戦初期のドイツ戦車らしく、暗いグレーを基本にした塗装で仕上げられる。注意点は、排気管のカバーが金属の薄板(エッチングパーツ)になっていることで、ここは瞬間接着剤を使う。車長の半身像も1体付いている。
小さな戦車がどうして電撃戦の主力になれたのかは、次の世代のII号戦車の解説を読むとよくわかる。I号を作ったら、次はII号やIII号と、ドイツ戦車の進化を順番に作っていく楽しみ方もある。
3. タミヤ 1/48 16式機動戦闘車|履帯がない、という最強の入門
履帯の組み立てがどうしても不安な人に勧めたいのが、タミヤ1/48の16式機動戦闘車(No.96)だ。2019年2月に発売された。
16式機動戦闘車は、陸上自衛隊の「タイヤで走る戦車」だ。105mm砲を積んだ砲塔を持ちながら、足まわりは8つの大きなタイヤになっている。キットのタイヤは柔らかい樹脂製で、タイヤの溝まで再現されている。つまり、このキットには履帯の組み立てがない。戦車らしい姿を、戦車模型でいちばん手間のかかる工程を飛ばして手に入れられる。
完成サイズは17.6×6.3cmで、1/48らしくコンパクトだ。塗装は陸上自衛隊の二色の迷彩で、境目がはっきりしているので、マスキングテープや練り消しで区切れば筆でも塗れる。砲塔は回り、主砲は上下に動く。車長の半身像も1体付く。16式がどんな車両で、戦車と何が違うのかは16式機動戦闘車の解説に書いた。
4. タミヤ 1/35 10式戦車|陸上自衛隊の最新戦車を1/35で
陸上自衛隊の戦車が好きなら、タミヤ1/35の10式戦車(No.329)がある。2013年7月に発売されたキットで、完成サイズは27.3×9.5cm。6つの中ではいちばん大きく、棚に置いたときの存在感も一番だ。
組み立てやすい部品構成をうたっていて、履帯はベルト式。くさび形のシルエットや、モジュール装甲を備えた砲塔が、すっきりした部品で再現される。車長と砲手の全身像が2体付いていて、戦車の横に立たせて飾ることもできる。マーキングは3種類だ。
塗装は16式と同じ陸上自衛隊の二色の迷彩になる。16式で迷彩の感覚をつかんでから10式に進むと、同じ色で、より大きな戦車を仕上げる楽しさが味わえる。10式が本当に強いのかは10式戦車の解説で検証した。陸自の戦車の全体像は日本の戦車一覧にまとめている。
5. タミヤ 1/48 T-34-85|小さく、緑一色で、ソ連戦車
ソ連の戦車が好きな人や、とにかく小さく一色で作りたい人には、タミヤ1/48のT-34-85(No.99)を挙げたい。完成サイズは16.9×6.3cmで、1/48らしい手ごろな大きさだ。
履帯は、まっすぐな部分が一体になった部分連結式。車体は緑系の一色で塗れるので、塗装の手間はシャーマンと並んで少ない。傾斜した装甲や、大きな砲塔、長い85mm砲がT-34らしい姿をつくる。車体には溶接の跡や鋳造の肌が刻まれていて、スミ入れや汚しが映える。車長の半身像が1体付く。
T-34は、傾斜装甲と大量生産でドイツの戦車開発を変えた戦車だ。その衝撃はT-34の解説で書いた。1/48なので部品が少なく、1/35より短い時間で完成する。1/48で1台作ってから、1/35に進むのもいい。
6. タミヤ 1/35 タイガーI 初期生産型|どうしてもタイガーを作りたい人へ
最後は、戦車好きなら一度は作りたいタイガーIだ。タミヤ1/35のタイガーI 初期生産型(No.216)は1997年の発売で、この6つの中では金型がいちばん古い。それでも挙げたのは、履帯がベルト式で、メーカー自身も足まわりの組み立てやすさをうたっているキットだからだ。
正直に言うと、タイガーIは初心者向けの車両とは言いにくい。転輪が何重にも重なった足まわりは部品が多く、作業量はシャーマンより確実に多い。ただ、「どうしてもタイガーを作りたい」という気持ちは、最初の1台を完成させるいちばんの燃料になる。好きな戦車を作るのがいちばん、という言葉は、ここでこそ生きる。
塗装は、ジャーマングレー一色の車体と、ダークイエローに迷彩を重ねた車体から選べる。初心者なら、もちろんグレー一色のほうだ。マーキングは6種類で、東部戦線やチュニジア戦線の車両のほか、有名な戦車エース、ヴィットマンの乗った車両も選べる。戦車エースたちの戦いは戦車エースランキングで、タイガーIそのものはタイガーIの解説で書いた。
タミヤのキットや塗料、工具をまとめて見比べたいなら、公式のオンラインショップが早い。
ガールズ&パンツァーから入る人へ
アニメ『ガールズ&パンツァー』をきっかけに戦車が好きになった人も多いと思う。作中のチームの戦車をそのまま作れるキットも出ていて、好きなチームの1台から入るのは、とてもいい入り方だ。
ただ、作品の戦車には、IV号戦車のような扱いやすい車両もあれば、マーキングや塗装が凝っていて手がかかる車両もある。最初の1台にするなら、ここまでの話と同じく、履帯の種類と色の数を見て選んでほしい。作中で活躍した戦車のうち、ヘッツァーの実車がどんな車両だったかはヘッツァーの解説で書いた。
好みで選ぶ早見表と「次の1台」
最初の1台が完成したら、次は何を作るか。好みごとに、最初の1台と次の1台の組み合わせを表にした。次の1台には、最初の1台より一段だけ難しい要素を入れてある。
| こんな人 | 最初の1台 | 次の1台 | 次の1台で増える要素 |
|---|---|---|---|
| アメリカ戦車が好き | タミヤ 1/35 M4A3E8シャーマン | タミヤ 1/35 M26パーシング | 大きさと部品の数 |
| ドイツ戦車が好き | タミヤ 1/35 I号戦車B型 | タミヤ 1/35 パンサーG 後期型 | 三色の迷彩 |
| 陸上自衛隊が好き | タミヤ 1/48 16式機動戦闘車 | タミヤ 1/35 10式戦車 | 履帯と、大きな車体 |
| ソ連戦車が好き | タミヤ 1/48 T-34-85 | タミヤ 1/35 JS-2 | 縮尺が上がって、部品が増える |
| 旧日本軍の戦車が好き | タミヤ 1/35 M4A3E8シャーマン(練習) | ファインモールド 1/35 九七式中戦車 新砲塔チハ | 日本軍の迷彩 |
ドイツ戦車好きの次の1台にパンターを入れたのは、大戦後半のドイツ戦車の顔とも言える三色迷彩に挑戦できるからだ。ここでエアブラシを買うかどうか考える人も多いと思う。パンターがどんな戦車だったかはパンター戦車の解説で書いた。
旧日本軍の戦車が好きな人に、あえて最初はシャーマンを勧めたのは、チハのキットに入る前に、一色の戦車で接着と塗装の手順を一度通しておくと、日本軍の迷彩に集中できるからだ。九七式中戦車がどんな戦車だったかは九七式中戦車チハの解説にある。
ほかの戦車を探すなら、世界最強戦車ランキングや第二次世界大戦のドイツ戦車10選から、作りたい1台を選ぶのも楽しい。
最初の1台で避けたいキット
逆に、最初の1台には向かないキットもある。どれも魅力的なので、作るなとは言わない。順番を後ろに回してほしい、という話だ。
1つ目は、1枚ずつつなぐ連結式の履帯のキット。先に書いたとおり、履帯だけで週末が終わる。ドイツの大型戦車の上級者向けキットには、この方式のものが多い。
2つ目は、内部まで再現したキット。エンジンや車内を作り込めるキットは、完成後に見えない部分まで部品があるので、作業量が何倍にもなる。
3つ目は、三色迷彩が前提の車両。大戦後半のドイツ戦車は、ダークイエローに赤茶と緑を重ねる迷彩がほとんどで、境目をぼかすにはエアブラシがほしい。最初は一色で塗れる車両から入りたい。
4つ目は、古い在庫品。フリマアプリなどで見つかる古いキットは、デカールが黄ばんでいたり、水に浸けると割れたりすることがある。中身の部品が同じでも、デカールの状態は箱を開けるまでわからない。
履帯をきれいに組むこつ
最初の1台を選んだら、いちばん手を焼くのはやはり履帯だ。ここだけは、作る前にこつを知っておくと、仕上がりがずいぶん違う。
ベルト式の履帯は、つなぎ目の位置がいちばん大事だ。帯を輪にした継ぎ目は、どうしても少し目立つ。そこで、継ぎ目が転輪の真下、地面に接する側に来るように巻きつける。完成して飾ると、継ぎ目はほとんど見えなくなる。また、ベルト式は先に塗ってから転輪に巻きつけると、転輪の裏まで筆を入れずに済む。
部分連結式の履帯は、接着剤が固まりきる前に形を合わせるのがこつだ。起動輪や誘導輪に巻きつく曲がった部分を数枚ずつつないだら、接着剤が半乾きのうちに転輪へ当てて、カーブを実物に沿わせる。完全に固まってからだと、もう曲がらない。説明書の順番どおりに、上側の直線、前後の曲がり、下側の直線と組んでいけば、ずれずに輪がつながる。
どちらの方式でも、履帯は最後まで車体に接着しないで、外せる状態にしておくと楽だ。車体と履帯を別々に塗れるので、塗り分けの手間がぐっと減る。最後に履帯をはめて、足まわりに汚しを乗せれば完成だ。
戦車の汚しは3段階で
先に「戦車は汚すほど上手に見える」と書いた。汚しにはいろいろな方法があるが、最初は次の3段階で考えると迷わない。
| 段階 | やること | 使う道具 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 1 | スミ入れ:車体の溝や部品の境目に、薄めた暗い色を流す | スミ入れ用の塗料 | 細部がくっきり浮かぶ |
| 2 | 泥・ほこり:足まわりや車体の下側に、泥やほこりの色をのせる | 汚し材(パウダー状のもの) | 「走ってきた」感じが出る |
| 3 | ドライブラシ:筆の塗料をほとんどふき取り、角や出っ張りだけを明るい色でこする | 平筆と明るい色の塗料 | 角が光って、立体感が出る |
1段階目だけでも、成形色のままのような平たい印象がずいぶん変わる。2段階目は、化粧品のパウダーのような汚し材なら、指やスポンジでこすりつけるだけでできるし、気に入らなければふき取ってやり直せる。3段階目は少し練習がいるが、うまくいくと、塗装の上級者が仕上げたような立体感が出る。
汚しのいちばんのこつは、やりすぎないことだ。実物の写真を1枚横に置いて、泥がどこに、どれくらい付くのかを見ながら少しずつ足していく。足まわりは濃く、車体の上に行くほど薄く。この濃淡を意識するだけで、ずいぶん自然になる。
汚しに何を買えばいいかは、ウェザリング用品の選び方にまとめた。
完成したら:小さな地面に置いてみる
完成した戦車は、棚にそのまま置いてもいいが、小さな地面の台に乗せるだけで、見え方がまるで変わる。これがジオラマの入口だ。
難しく考えることはない。はがき大の板に、土の質感を出す塗料を塗り、乾く前に戦車を一度押しつけて履帯の跡をつける。それだけで、戦車が地面の上を走ってきたように見える。付属の車長の人形を乗せたり、車体の横に立たせたりすると、場面が生まれる。
最初からジオラマを作る必要はまったくない。ただ、1台完成させたあとに「この戦車をどこに置こうか」と考える時間は、戦車模型ならではの楽しみのひとつだと私は思っている。
最初の1台を「2回の週末」で完成させる段取り
最後に、作業の進め方の目安を書いておく。1/35の中くらいの戦車や1/48の戦車なら、2回の週末を使えば無理なく完成まで行ける、というのが私の感覚だ。大事なのは、接着剤や塗料が乾く時間を、寝ている間や平日に回すことだ。
| 日 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1週目の土曜 | 説明書を通して読む。車体の下部を組み、転輪を切り出して組む | 転輪は流れ作業でまとめて |
| 1週目の日曜 | 車体の上部と砲塔を組む。転輪と履帯を仮に付けてみる | 履帯は塗装のあとで最終的に付けると楽 |
| 2週目の土曜 | 車体を塗る。迷彩があるならマスキングして塗る | 一度に厚く塗らない |
| 2週目の日曜 | 履帯と小物を塗り分け、デカールを貼り、汚しで仕上げる | 汚しは足まわりから少しずつ |
履帯と転輪は、車体とは別に塗ってから最後に組み付けるほうが、塗り分けがずっと楽になる。キットの説明書では早めに付ける順番になっていても、塗装のあとに回せる部品は、あとに回していい。
よくある質問
初心者は1/35と1/48、どちらがいい?
キットの種類が多く、部品も扱いやすい1/35をまず勧める。戦車は細長いので、1/35でも横幅は10cm前後で、棚の場所もそれほど取らない。短い時間で完成させたい人や、たくさん並べたい人には1/48もいい。
ベルト式の履帯はリアルじゃない?
実物の履帯は、上側の転輪の間で少し垂れ下がる。ベルト式だとこの垂れを出しにくいのは事実だ。ただ、最初の1台では、完成させることのほうがずっと大事だと私は思う。リアルさを追いたくなったら、2台目で部分連結式や連結式のキットに進めばいい。
どの国の戦車から作るのがいちばん楽?
塗装の手間で選ぶなら、一色で塗れるアメリカ戦車、ソ連戦車、大戦初期のドイツ戦車が楽だ。なかでもアメリカ戦車のオリーブドラブは缶スプレーで一気に塗れるので、最初の1台にいちばん向いている。陸上自衛隊の戦車は二色の迷彩だが、境目がはっきりしているので、2台目どころか1台目からでも十分に挑戦できる。大戦後半のドイツ戦車は、三色迷彩に慣れてからの楽しみにしたい。
人形は塗らないとダメ?
付属の人形は、使わなくても完成する。顔を塗るのが不安なら、ハッチを閉めて人形なしで作ればいい。慣れてきたら、車長を1体乗せるだけで、戦車がぐっと生き生きして見える。
塗装はエアブラシがないと無理?
一色の車両なら、缶スプレーと筆で十分に仕上がる。陸上自衛隊の二色の迷彩も、境目がはっきりしているので筆で塗れる。エアブラシがほしくなるのは、大戦後半のドイツ戦車のように、境目をぼかした三色迷彩を塗りたくなったときだ。
子どもと一緒に作るなら?
部品が少なく小さいI号戦車B型や、履帯のない16式機動戦闘車が向いている。刃物は大人が受け持ち、子どもにはニッパーで転輪を切り離す作業や、デカール貼りを任せると、一緒に作っている感覚が出る。
まとめ
- 最初の1台は、好きな戦車に加えて、履帯の種類、色の数、金型の年で選ぶ
- 履帯はベルト式か、直線部分が一体の部分連結式から。1枚ずつつなぐ連結式は2台目以降
- 塗装は一色の車両から。アメリカ戦車のオリーブドラブ、大戦初期のドイツ戦車のグレー、ソ連戦車の緑
- 迷ったら、タミヤ1/35のM4A3E8シャーマン。陸自好きなら16式機動戦闘車か10式戦車
- 戦車は汚すほど上手に見える。塗装がうまくいかなくても、汚しで「使い込まれた1台」に仕上げられる
戦車のプラモデルは、組み上がった瞬間より、最後に足まわりへ泥を乗せたときに「完成した」と感じる不思議な模型だ。最初の1台で、ぜひその瞬間を味わってほしい。
塗料の乾燥を待つあいだのお供に。







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