洋上に浮かぶ航空基地。戦闘機が次々と発艦し、敵を圧倒する圧倒的な火力――。
空母という存在は、軍事マニアでなくとも心を揺さぶられる何かがある。
「空母を持つ国」と「持たない国」。その差は、単なる軍事力の違いにとどまらない。世界における発言力、プレゼンス、そして「何かあったときに遠く離れた場所で戦える力」を意味する。だからこそ、空母は「海軍力の象徴」であり続けてきた。
そして2025年現在、世界の空母情勢は激動の時代を迎えている。
アメリカは世界唯一の電磁カタパルト搭載空母「ジェラルド・R・フォード」を運用し、中国は同じく電磁カタパルトを搭載した最新鋭空母「福建」を2025年11月に就役させた。一方、ロシアの唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」は事実上の運用停止状態に陥り、「ロシアはもはや空母保有国ではない」とさえ言われている。
この記事では、2025年現在の世界の空母を徹底比較し、ランキング形式で解説する。
日本の「いずも型護衛艦」の空母化についても触れるので、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。きっと、世界の海軍力のリアルが見えてくるはずだ。
そもそも空母とは?──「洋上の航空基地」を理解する

ランキングに入る前に、「空母とは何か」を簡単に整理しておこう。
空母(航空母艦)とは、航空機を搭載・運用するための軍艦である。滑走路となる飛行甲板を持ち、戦闘機や哨戒機、早期警戒機、ヘリコプターなどを艦上から発艦・着艦させることができる。
空母の最大のメリットは「どこにでも航空基地を展開できる」という点だ。
例えば、中東で紛争が発生したとき、日本から戦闘機を飛ばして直接介入することは物理的に不可能だ。しかし空母があれば、その海域まで航行し、艦載機を発進させて作戦を遂行できる。空軍基地を持たない地域でも、空母さえあれば航空戦力を投射できるのだ。
これが「パワープロジェクション(戦力投射)」と呼ばれる概念であり、空母を持つ国と持たない国では、国際社会での影響力が根本的に異なる。
アメリカの元国防長官ウィリアム・コーエン氏は、かつてこう語った。
「空母なくして、アメリカは発言力も影響力も行使できない」
この言葉が、空母の戦略的価値を端的に表している。
空母の種類と発艦方式の違い
世界の空母を比較する上で、いくつかの重要な分類がある。
動力方式による分類
通常動力空母:ディーゼルエンジンやガスタービンで推進。定期的な燃料補給が必要
原子力空母:原子炉で推進。燃料補給なしで20年以上航行可能。発電量も桁違い
原子力空母は燃料補給の制約から解放されるため、長期間の作戦行動が可能となる。現在、アメリカとフランスのみが原子力空母を保有している。
発艦方式による分類
CATOBAR(カトバー):カタパルト射出・拘束着艦方式。蒸気または電磁カタパルトで航空機を射出し、アレスティングワイヤーで着艦。フル装備の重量級機体を運用可能
STOBAR(ストバー):短距離離陸・拘束着艦方式。スキージャンプ台で発艦、ワイヤーで着艦。カタパルトがないため、航空機の発艦重量に制約がある
STOVL(ストール):短距離離陸・垂直着陸方式。F-35Bなど垂直離着陸可能な機体を運用。スキージャンプ台から発艦し、垂直に着艦
CATOBAR方式は最も高度な技術を要するが、重い兵装と燃料を満載した機体を発艦させられるため、艦載機の戦闘行動半径が最も広くなる。これが空母の「打撃力」に直結するのだ。
【2025年版】世界最強空母ランキングTOP10
それでは、いよいよランキングの発表だ。
評価基準は以下の5項目を総合的に判断した。
- 排水量・サイズ(大きいほど搭載機数と継戦能力が向上)
- 発艦方式(CATOBAR>STOBAR>STOVL)
- 動力方式(原子力>通常動力)
- 搭載機の質と数
- 実戦経験・運用実績
なお、現在運用停止中の艦艇も含めて評価している。
第1位:ジェラルド・R・フォード級(アメリカ)──世界唯一の「次世代スーパーキャリア」

文句なしの世界最強。それがアメリカ海軍の「ジェラルド・R・フォード級航空母艦」だ。
ジェラルド・R・フォード級 主要諸元:
排水量:約100,000トン(満載)
全長:337m
全幅:78m(飛行甲板)
動力:原子力(A1B原子炉×2基)
最高速度:30ノット以上
発艦方式:CATOBAR(電磁カタパルト×4基)
搭載機数:75機以上
乗員:約4,500名
建造費:約130億ドル(約1兆9,000億円)
電磁カタパルト──革命的な技術
フォード級最大の革新は、世界初の実用電磁カタパルト「EMALS(イーマルス)」の採用だ。
従来の蒸気カタパルトは、蒸気を一気に放出してピストンを押し出す方式だった。これに対しEMALSは、リニアモーターの原理で航空機を加速させる。
電磁カタパルトのメリットは以下の通りだ。
機体への負荷が軽減される(蒸気式は「ドン」という衝撃があるが、電磁式は滑らかに加速)
加速度を機体ごとに細かく調整可能(小型の無人機から大型の早期警戒機まで対応)
メンテナンス効率の向上(蒸気配管が不要)
発艦間隔の短縮(より多くのソーティを飛ばせる)
フォード級は1日160ソーティの持続運用、緊急時には270ソーティの発艦能力を持つとされる。これはニミッツ級の120/240ソーティを大きく上回る。
2025年の運用状況
2017年に就役した1番艦「ジェラルド・R・フォード」は、2023年5月から初の本格的な展開任務を開始。2024年1月に帰港するまでの約8ヶ月間で、10,396ソーティ、83,476海里を航行した。
2025年6月には再び地中海に展開し、NATOの演習に参加。北海やノルウェー海での作戦行動を実施している。
2番艦「ジョン・F・ケネディ」は2027年就役予定。当初の2025年予定から遅延しているが、建造は順調に進んでいる。
フォード級の課題
ただし、フォード級にも問題がないわけではない。
EMALSと新型着艦拘束装置(AAG)は、開発当初は信頼性に問題があり、故障率が想定より高かった。2024年の展開では8,725回のカタパルト射出を実施したが、技術的課題は完全には解決されていない。
また、建造コストの高騰も問題視されている。当初は1隻あたり105億ドルの予定だったが、1番艦は130億ドル以上に膨れ上がった。後続艦も130~150億ドル規模になると予測されている。
それでも、世界最大・最強の空母であることに変わりはない。1隻で中小国の空軍に匹敵する戦力を持つ「洋上の超大国」だ。
第2位:ニミッツ級(アメリカ)──半世紀にわたり世界の海を支配した「不朽の名作」

「空母」と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、このニミッツ級だろう。
1975年の1番艦就役以来、半世紀にわたってアメリカ海軍の主力であり続けてきた名艦だ。
ニミッツ級 主要諸元:
排水量:約100,000トン(満載)
全長:333m
全幅:76.8m(飛行甲板)
動力:原子力(A4W原子炉×2基)
最高速度:30ノット以上
発艦方式:CATOBAR(蒸気カタパルト×4基)
搭載機数:約90機
乗員:約5,700名
10隻体制──世界の海をカバーする
ニミッツ級は全10隻が建造され、2025年現在も全艦が現役で運用されている(うち数隻は炉心交換・オーバーホール中)。
この「10隻の原子力空母」という体制が、アメリカの世界的プレゼンスを支えている。1隻が展開任務中、1隻が訓練中、1隻が整備中というローテーションを組むことで、常に複数の空母を世界各地に配置できるのだ。
実戦経験の豊富さ
ニミッツ級の強みは、その圧倒的な実戦経験だ。
湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争、対ISIS作戦、そして近年では紅海でのフーシ派対処作戦まで、あらゆる紛争に投入されてきた。
特に2024年の紅海展開では、「空母アイゼンハワー」が「第二次世界大戦以来最も激しい戦闘を経験した」と報じられるほどの高強度作戦を遂行した。
フォード級への更新
今後、ニミッツ級は順次フォード級に更新されていく予定だ。しかし、その信頼性と実績は「空母とはこうあるべき」という世界の基準を作り上げた。
ニミッツ級がなければ、現代の空母運用の概念そのものが存在しなかっただろう。
第3位:福建(003型)(中国)──電磁カタパルトを手に入れた「新たな脅威」

2025年11月5日、中国海軍に衝撃的な戦力が加わった。
3隻目の空母「福建」の就役である。
福建 主要諸元:
排水量:約80,000トン(満載)
全長:316m
全幅:約78m(飛行甲板)
動力:通常動力
最高速度:非公表
発艦方式:CATOBAR(電磁カタパルト×3基)
搭載機数:40機以上(推定)
乗員:非公表
アメリカ以外で初の電磁カタパルト
福建の最大の特徴は、アメリカ以外で初めて電磁カタパルトを実用化した点だ。
2025年9月、中国国営メディアはJ-35ステルス戦闘機、J-15T戦闘機、KJ-600早期警戒機が電磁カタパルトで発艦する映像を公開した。特にKJ-600は、中国海軍初の固定翼早期警戒機であり、空母打撃群の探知能力を飛躍的に向上させる。
これまでの中国空母「遼寧」「山東」はスキージャンプ方式のSTOBARだったため、艦載機の発艦重量に制約があった。福建のCATOBAR化により、より重い兵装と燃料を搭載した状態での発艦が可能となり、作戦行動半径が大幅に拡大する。
日本にとっての脅威
福建は2025年9月、沖縄県・魚釣島北西約200kmの海域を航行し、その後台湾海峡を通過して南シナ海で訓練を行った。
日本にとって、電磁カタパルト搭載の正規空母が尖閣諸島周辺を遊弋するという現実は、安全保障環境の根本的な変化を意味する。
課題は「運用経験」
ただし、福建にも課題はある。
中国は空母運用の歴史が浅く、実戦経験は皆無だ。アメリカが80年以上かけて蓄積してきた空母運用のノウハウを、中国がどれだけ習得できるかは未知数である。
また、通常動力であるため、原子力空母のような無制限の航続能力は持たない。定期的な燃料補給が必要となり、長期作戦には制約が生じる。
それでも、「世界で2番目に電磁カタパルトを実用化した国」という事実は重い。中国海軍の急速な近代化を象徴する存在だ。
日本の安全保障に関心のある方は、中国海軍の拡大についてもぜひ注目していただきたい。
第4位:クイーン・エリザベス級(イギリス)──「大英帝国の威信」を背負う巨艦

イギリス海軍史上最大の軍艦。それがクイーン・エリザベス級航空母艦だ。
クイーン・エリザベス級 主要諸元:
排水量:約65,000トン(満載)
全長:284m
全幅:約73m(飛行甲板)
動力:統合電気推進(ガスタービン×2、ディーゼル×4)
最高速度:25ノット以上
発艦方式:STOVL(スキージャンプ)
搭載機数:最大40機(通常24機程度)
乗員:約1,600名
F-35Bとの組み合わせ
クイーン・エリザベス級は、F-35Bステルス戦闘機を運用する前提で設計された。
当初はCATOBAR方式も検討されたが、コスト増大のため断念。STOVL方式に落ち着いた。
しかし、F-35Bの高いステルス性能と多用途性により、カタパルトがなくとも強力な打撃力を発揮できる。2021年には「クイーン・エリザベス」がインド太平洋に展開し、世界一周に近い大規模航海を成功させた。
2025年には「プリンス・オブ・ウェールズ」がOperation Highmastを率いてインド太平洋に展開。日本の海上自衛隊とも共同訓練を実施している。
機械的トラブルの影
ただし、クイーン・エリザベス級は機械的な故障に悩まされてきた。
2022年、「プリンス・オブ・ウェールズ」は推進軸の不具合で航行不能となった。2024年には「クイーン・エリザベス」もNATO演習「Steadfast Defender」への参加を直前で断念せざるを得なくなった。
これらの問題は建造段階での品質管理の問題が指摘されており、イギリス海軍の運用能力に疑問符がついている状況だ。
それでも「空母保有国」であることの意味
問題を抱えながらも、イギリスは世界でも数少ない正規空母保有国であり続けている。
EUを離脱した後のイギリスにとって、「グローバル・ブリテン」を体現する戦力としてクイーン・エリザベス級の存在価値は大きい。アメリカ、日本、オーストラリアとの連携において、空母打撃群を展開できる能力は外交カードとしても機能する。
第5位:シャルル・ド・ゴール(フランス)──欧州唯一の原子力空母

アメリカ以外で唯一の原子力空母。それがフランス海軍の旗艦「シャルル・ド・ゴール」だ。
シャルル・ド・ゴール 主要諸元:
排水量:約42,000トン(満載)
全長:261.5m
全幅:約64m(飛行甲板)
動力:原子力(K15原子炉×2基)
最高速度:27ノット
発艦方式:CATOBAR(蒸気カタパルト×2基)
搭載機数:最大40機
乗員:約1,950名
CATOBAR方式の価値
シャルル・ド・ゴールは、フォード級やニミッツ級と同じCATOBAR方式を採用している。
これは「カタパルトを持つ」という点で、クイーン・エリザベス級を上回る能力だ。ラファールM戦闘機を完全装備で発艦させることができ、E-2Cホークアイ早期警戒機も運用できる。
2025年現在、シャルル・ド・ゴールは中国の福建が就役するまで「アメリカ以外で唯一のカタパルト搭載空母」だった。
インド太平洋への展開
2025年、シャルル・ド・ゴールは「Clemenceau 25」作戦としてインド太平洋に展開。La Perouse演習では、日本、アメリカ、インド、オーストラリアなど8カ国の海軍と共同訓練を実施した。
フランスはインド太平洋地域に海外領土を持つため、この地域でのプレゼンス維持は国益に直結する。シャルル・ド・ゴールの存在は、フランスの「独自外交」を支える重要な柱なのだ。
後継艦PANGの計画
シャルル・ド・ゴールは2038年頃の退役が予定されており、後継の「PANG(次世代空母)」の建造が2025年に発注される見込みだ。
PANGは排水量75,000~80,000トン、電磁カタパルト3基、K22原子炉2基を搭載し、次世代戦闘機NGFを運用する計画。ヨーロッパ最大の軍艦となる。
第6位:遼寧・山東(中国)──中国空母の「第一世代」
福建の前に、中国は2隻の空母を保有している。「遼寧」と「山東」だ。
遼寧・山東 主要諸元(山東):
排水量:約70,000トン(満載)
全長:315m
全幅:約75m(飛行甲板)
動力:通常動力
最高速度:31ノット
発艦方式:STOBAR(スキージャンプ)
搭載機数:44機(推定)
乗員:約2,600名
遼寧──ウクライナから購入した「練習艦」
「遼寧」は、もともとソ連がウクライナで建造していた空母「ヴァリャーグ」を中国が購入し、完成させたものだ。
1998年にウクライナから「カジノとして使用する」という名目で購入されたが、その後中国軍によって改装・完成され、2012年に就役した。
現在は主に訓練艦として使用されており、空母運用のノウハウ蓄積に貢献している。
山東──中国初の国産空母
「山東」は2019年に就役した中国初の完全国産空母だ。
遼寧をベースに改良を加え、艦橋の設計を最適化し、格納庫スペースを拡大している。実戦配備可能な戦力として、西太平洋での活動を活発化させている。
STOBAR方式の限界
両艦ともSTOBAR方式であり、スキージャンプ台から発艦する。
この方式では、J-15艦上戦闘機が満載の兵装と燃料を搭載したまま発艦することが難しい。結果として、作戦行動半径が制限され、打撃力ではCATOBAR空母に劣る。
これが、福建でCATOBAR方式を採用した理由だ。
第7位:INSヴィクラント(インド)──「メイク・イン・インディア」の象徴

2022年、インドは悲願の国産空母を手に入れた。「INSヴィクラント」である。
INSヴィクラント 主要諸元:
排水量:約43,000トン(満載)
全長:262m
全幅:62m
動力:ガスタービン×4基(88MW)
最高速度:28ノット
発艦方式:STOBAR(スキージャンプ)
搭載機数:最大30機
乗員:約1,700名
インド初の国産空母
INSヴィクラントは、インド海軍の設計局とコーチン造船所が建造した、インド初の国産空母だ。
建造には紆余曲折があり、当初の計画から12年遅れての就役となったが、それでもインドの造船技術の集大成として高く評価されている。
2024年12月には完全作戦能力(FOC)を獲得し、インド海軍の西方艦隊に編入された。
ラファールM導入で戦力強化
2025年4月、インドはフランスから26機のラファールM艦上戦闘機を購入する契約を締結した。総額約6,300億ルピー(約1兆円)の大型契約だ。
ラファールMの導入により、INSヴィクラントの打撃力は飛躍的に向上する。現在運用しているMiG-29Kよりも性能が高く、インド洋における制空権確保能力が大幅に強化される。
二空母体制の確立
INSヴィクラントは、ロシアから購入した「INSヴィクラマーディティヤ」と合わせて、インド海軍の二空母体制を形成している。
インドは空母保有国として、中国に対抗する「インド洋の守護者」としての地位を確立しつつある。
第8位:INSヴィクラマーディティヤ(インド)──ロシア改装のベテラン

INSヴィクラマーディティヤ 主要諸元:
排水量:約45,000トン(満載)
全長:284m
全幅:約60m(飛行甲板)
動力:蒸気タービン
最高速度:32ノット
発艦方式:STOBAR(スキージャンプ)
搭載機数:最大30機
乗員:約1,600名
ロシアから購入した「中古空母」
INSヴィクラマーディティヤは、もともとソ連海軍の「アドミラル・ゴルシコフ」だった。キエフ級航空巡洋艦をSTOBAR方式の空母に改装し、2013年にインドに引き渡された。
ロシアでの改装には予想以上の時間とコストがかかり、当初の見積もりの倍以上の費用が発生した。しかし、完成したヴィクラマーディティヤはインド海軍の主力として活躍している。
ヴィクラントとの二空母体制
INSヴィクラントの就役により、インドは西太平洋で唯一、複数の空母を運用できる国となった(アメリカを除く)。
両空母は、西方艦隊と東方艦隊に分散配置され、インド洋全域をカバーする態勢を構築している。
第9位:カヴール/トリエステ(イタリア)──多用途の軽空母
イタリア海軍は、正規空母ではなく「軽空母」を運用している。
カヴール 主要諸元:
排水量:約27,000トン(満載)
全長:244m
全幅:39m
動力:ガスタービン
最高速度:28ノット
発艦方式:STOVL(スキージャンプ)
搭載機数:最大20機
乗員:約1,300名
軽空母の強み
カヴールは「軽空母」に分類されるが、F-35Bステルス戦闘機を運用できる。
強襲揚陸艦としての機能も持ち、陸上兵力の上陸支援も可能。多用途性に優れた艦艇だ。
2024年には「トリエステ」が就役。カヴールよりも大型で、より多くのF-35Bを運用できる。イタリア海軍の空母戦力は着実に強化されている。
第10位:アドミラル・クズネツォフ(ロシア)──「栄光の過去」だけが残る
かつてはソ連海軍の威信を象徴した空母。しかし今、その姿は悲惨というほかない。
アドミラル・クズネツォフ 主要諸元:
排水量:約59,000トン(満載)
全長:305m
全幅:72m(飛行甲板)
動力:蒸気タービン
最高速度:29ノット
発艦方式:STOBAR(スキージャンプ)
搭載機数:約50機
乗員:約2,600名
2017年から運用停止
アドミラル・クズネツォフは、2017年以降、一度も海に出ていない。
2016年のシリア作戦展開が最後の作戦行動だった。その際、着艦装置の故障でSu-33とMiG-29の2機を失う事故を起こしている。
帰国後は大規模オーバーホールに入ったが、2018年に修理用のドライドック「PD-50」が沈没し、空母のデッキを損傷。2019年には船内で火災が発生し、さらに修理が遅延した。
2025年──事実上の「放棄」
2024年9月、クズネツォフの乗組員約1,500名がウクライナ戦線に転属されたことが報じられた。
そして2025年7月、ロシア国防省が空母の修理・近代化を中断し、解体または売却を検討しているとの報道が出た。
元ロシア太平洋艦隊司令官のセルゲイ・アヴァキアンツ提督は、「古典的な空母は現代の紛争において高コストで非効率」と発言し、無人システムへの移行を示唆した。
ロシアは事実上、「空母保有国」の地位を失いつつある。
番外編:日本の「いずも型護衛艦」──空母化への道

日本も、空母の保有に向けて動き出している。
いずも型護衛艦 主要諸元:
排水量:約26,000トン(満載)
全長:248m
全幅:38m
動力:ガスタービン
最高速度:30ノット
発艦方式:STOVL(改修後)
搭載機数:F-35B×12機程度(想定)
乗員:約470名
F-35B運用に向けた改修
2019年、防衛省は「いずも」と「かが」の2隻をF-35B運用可能に改修することを決定した。
2024年には「かが」がアメリカ・サンディエゴに派遣され、米海兵隊のF-35Bを使用した発着艦試験を実施。必要な諸元データの収集を行った。
「攻撃型空母」ではない
日本政府は、いずも型の空母化について「攻撃型空母の保有にはあたらない」と説明している。
常時F-35Bを搭載するわけではなく、必要に応じて運用する「多用途運用母艦」という位置づけだ。
しかし実質的には、日本は第二次世界大戦後初めて「固定翼戦闘機を運用できる空母」を保有することになる。
いずも型護衛艦の詳細については、「いずも型護衛艦」完全解説|日本最大の「空母」が切り開く新時代の海上防衛で詳しく解説している。ぜひあわせてご覧いただきたい。
世界の空母情勢──2025年の現実
ここまで見てきた通り、2025年の世界の空母情勢は大きな転換点を迎えている。
アメリカの圧倒的優位
アメリカは11隻の原子力空母を保有し、そのうち1隻はフォード級という「次世代空母」だ。電磁カタパルト、原子力推進、圧倒的な搭載機数。どの指標を取っても他国の追随を許さない。
「米海軍の航空戦力は世界第2位」という言い方がある。1位は米空軍だ。つまり、米海軍の艦載機だけで、他のどの国の空軍よりも強いということになる。
中国の急追
しかし、中国の追い上げは凄まじい。
福建の就役により、中国は「電磁カタパルト搭載空母を持つ世界で2番目の国」となった。今後も004型、005型と建造を続け、2030年代には6隻体制を目指すとの観測もある。
電磁カタパルトの技術は、アメリカですら苦労した最先端技術だ。それを中国が独自に開発・実用化したという事実は、軽視できない。
ロシアの衰退
対照的に、ロシアは空母戦力を事実上喪失した。
アドミラル・クズネツォフの復帰は絶望的であり、新型空母の建造計画も凍結状態だ。ウクライナ戦争の長期化により、海軍への投資は後回しにされている。
ロシアは国連安保理常任理事国5カ国の中で、唯一空母を持たない国になりつつある。
空母の未来──生き残れるか、消えゆくか
最後に、空母の将来について考えてみたい。
「空母不要論」の台頭
近年、「空母はもはや時代遅れ」という議論が活発化している。
対艦弾道ミサイル(DF-21Dなど「空母キラー」)
極超音速ミサイル
無人機(ドローン)の大量運用
潜水艦からの対艦攻撃
これらの脅威に対し、巨大な空母は「動く標的」に過ぎないのではないか、という疑問だ。
ウクライナ戦争では、安価な無人機が高価な艦艇を撃破する事例が相次いだ。「1隻130億ドルの空母を、数百万ドルのミサイルで沈められるなら、費用対効果が合わない」という指摘もある。
それでも空母は必要か
しかし、空母の支持者はこう反論する。
「地上を制圧するには、地上部隊が必要だ。そして地上部隊を支援するには、航空戦力が必要だ。空母は、その航空戦力をどこにでも展開できる唯一の手段だ」
確かに、ミサイルやドローンでは「領土を占領」することはできない。最終的には人間が地上にいなければならない。空母機動部隊は、その人間を支援する航空基地を、世界のどこにでも展開できる能力を持つ。
この能力は、少なくとも当面は、代替不可能だろう。
将来の空母はどうなるか
今後の空母は、以下のような進化を遂げる可能性がある。
無人機の大量運用(有人機と無人機のハイブリッド運用)
電磁装甲など新しい防御システム
レーザー兵器による防空
小型化・分散化(大型空母1隻より、小型空母複数隻)
「空母」という形は変わるかもしれない。しかし「海上から航空戦力を投射する」という機能は、今後も必要とされ続けるだろう。
まとめ──世界最強空母ランキング2025
最後に、ランキングを振り返ろう。
第1位:ジェラルド・R・フォード級(アメリカ)──世界唯一の電磁カタパルト原子力空母
第2位:ニミッツ級(アメリカ)──半世紀の実績を持つ不朽の名作
第3位:福建(中国)──電磁カタパルトを手に入れた新たな脅威
第4位:クイーン・エリザベス級(イギリス)──F-35Bを運用する欧州最大の空母
第5位:シャルル・ド・ゴール(フランス)──米国外唯一の原子力CATOBAR空母
第6位:遼寧・山東(中国)──中国空母の第一世代
第7位:INSヴィクラント(インド)──国産空母の誇り
第8位:INSヴィクラマーディティヤ(インド)──ロシア改装のベテラン
第9位:カヴール/トリエステ(イタリア)──多用途の軽空母
第10位:アドミラル・クズネツォフ(ロシア)──事実上の運用停止
番外編:いずも型護衛艦(日本)──空母化への第一歩
空母は、国家の威信と実力を示す最高の象徴だ。
そして今、その象徴をめぐる競争は、かつてないほど激化している。
アメリカと中国の覇権争い、ロシアの衰退、そして日本の「空母化」への歩み。
この記事が、世界の海軍力を理解する一助となれば幸いだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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【免責事項】 本記事の情報は2025年12月時点のものです。軍事装備品の詳細な仕様には機密情報が含まれるため、公開情報を基に執筆しています。最新の情報や詳細については、各国の公式発表をご確認ください。

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