ロシア海軍は、世界で最も評価の難しい海軍だ。
隻数だけ見れば約450隻で世界3位。核弾頭を積んだ弾道ミサイル原潜は米国に次ぐ規模で、巡航ミサイル原潜ヤーセンMは西側の海軍が最も警戒する潜水艦の一つだ。ところが同じ海軍が、唯一の空母の修理を2025年に断念し、黒海では巡洋艦モスクワを筆頭に20隻以上を失うか大破させ、2026年8月と9月には避難先のノヴォロシースクでフリゲートを繰り返しミサイルとドローンに叩かれている。原潜だけが増え、水上艦はソ連時代の老朽艦と小型ミサイル艦で持ちこたえている。
本記事は、その全体像を2026年9月時点で艦種別に整理する。艦名と就役年、状態は公開データベースと防衛省・欧米メディアの報道で照合し、ロシア側の発表と西側の推計が食い違う箇所は幅で書いた。とくに潜水艦は「保有」と「運用可能」の差が大きい海軍なので、そこは分けて示す。
結論——ロシア海軍の全体像を1枚で
一言でまとめると、ロシア海軍は「潜水艦の海軍」に戻りつつある。ソ連崩壊後の30年で大型水上艦の新造はゴルシコフ級フリゲート3隻にとどまり、外洋艦隊の看板だった空母は失われた。その代わり、弾道ミサイル原潜と巡航ミサイル原潜の建造は戦争中も止まらず、2026年6月には9隻目のヤーセンMが起工された。私はこの海軍を「衰退した海軍」と一言で片づける論調に同意しない。水上艦は衰退し、潜水艦は強化されている。両方を同時に見ないと、この海軍の危険度を見誤る。
組織——4つの艦隊と1つの小艦隊
| 艦隊 | 拠点 | 性格 |
|---|---|---|
| 北方艦隊 | セヴェロモルスク(ムルマンスク近郊) | 弾道ミサイル原潜と主力水上艦。ロシア海軍の本丸 |
| 太平洋艦隊 | ウラジオストク、カムチャツカ | 弾道ミサイル原潜、ウダロイ級、キロ級。日本の隣 |
| 黒海艦隊 | セヴァストポリ→ノヴォロシースクへ退避 | ウクライナ戦争で最も損耗した艦隊 |
| バルト艦隊 | カリーニングラード、クロンシュタット | コルベット中心。NATOに囲まれた内海 |
| カスピ小艦隊 | アストラハン、マハチカラ | ブーヤンM級からのカリブル発射で知られる |
北方艦隊と太平洋艦隊が核抑止を担う「原潜の艦隊」で、黒海とバルトは沿岸の小型艦が主力だ。艦隊間の艦艇の移動は地理的に困難で、黒海艦隊はトルコがボスポラス海峡を閉じた2022年以降、外からの補充を受けられていない。
空母——クズネツォフの終わり
| 艦名 | 状態 |
|---|---|
| アドミラル・クズネツォフ | 2017年から修理・改修。2018年に浮きドック沈没で損傷、2019年と2022年に火災。2025年7月に修理中断。2026年時点でムルマンスクに係留、除籍か売却の見込み |
ロシア唯一の空母は、事実上終わった。1991年就役のクズネツォフは2017年に長期改修に入ったが、浮きドックの沈没、二度の火災、費用の膨張が重なり、2025年7月に工事が中断された。2026年に入ってからは復帰を示す動きがなく、西側の分析はほぼ一致して除籍か売却と見ている。これでロシアは固定翼機を運用する空母を持たない海軍になった。
私はこの結末を、ロシアの造船業の現状を最も正直に映す出来事だと思っている。冷戦末期にウクライナのニコラエフで造られた艦を、ロシア国内で直せなかった。姉妹艦の未完成船体はソ連崩壊後に中国へ売られ、空母遼寧として就役し、いま日本近海に現れている。同じ設計の2隻が、片方は係留され、片方は3隻体制の中核になった。30年でここまで差がつく。
巡洋艦——27年ぶりに戻るナヒモフ

写真:George Chernilevsky/出典(Public domain)。掲載用に縮小・圧縮。
| 艦級 | 艦名 | 状態 |
|---|---|---|
| キーロフ級(原子力) | アドミラル・ナヒモフ | 1999年から改修。2025年7月に浮上、8月に28年ぶりに自力航行。2026年6月にセヴェロモルスク到着、就役手続き中 |
| キーロフ級(原子力) | ピョートル・ヴェリキー | 予備役。ナヒモフ復帰後に改修か退役の見込み |
| スラヴァ級 | マルシャル・ウスチノフ | 北方艦隊。現役 |
| スラヴァ級 | ヴァリャーグ | 太平洋艦隊旗艦。現役 |
| スラヴァ級 | モスクワ | 2022年4月、黒海でウクライナの対艦ミサイルにより沈没 |
アドミラル・ナヒモフは、世界で最も長く修理されていた軍艦だ。1988年に就役し、1999年に改修入り。当初の完成予定は2010年代前半だったが、費用は4倍に膨らみ、27年かかった。2025年7月に浮上し、8月には自力で白海の公試に出た。2026年6月25日、北方艦隊の母港セヴェロモルスクに到着したが、9月時点でまだ正式には就役していない。ロシア海軍は2026年中の受領を示唆し、西側の追跡者は2026年末から2027年と見ている。
改修後のナヒモフは80セルの汎用VLSを持ち、カリブル巡航ミサイル、オーニクス超音速対艦ミサイル、ジルコン極超音速ミサイルを撃てる。満載2万8,000トンの原子力巡洋艦としては世界で唯一の現役艦で、復帰すれば「水上艦で最も重武装の艦」になる。ただし、27年かけて完成したのは、米海軍が1980年代に手に入れた「巡洋艦から長距離対地攻撃をする」能力であり、その間に無人機と対艦ミサイルの時代が来た。私はこの艦を、ロシアの技術力の証明ではなく、ロシアの造船業が一隻の大型艦にどれだけ時間を要するかの証明として見ている。
姉妹艦ピョートル・ヴェリキーは1998年就役で、ナヒモフの復帰後に改修に入るか退役するかが決まる。予算と造船所の余力から見て、私は退役の可能性が高いと思う。
駆逐艦——1980年代の艦だけで、新造は35年ない

写真:日本防衛省・統合幕僚監部/出典(CC BY 4.0)。掲載用に縮小・圧縮。
| 艦級 | 艦名 | 艦隊 |
|---|---|---|
| ウダロイ級 | ヴィツェアドミラル・クラコフ、セヴェロモルスク、アドミラル・レフチェンコ | 北方艦隊 |
| ウダロイ級 | マルシャル・シャポシニコフ、アドミラル・トリブツ、アドミラル・パンテレーエフ | 太平洋艦隊 |
| ウダロイ級 | アドミラル・ヴィノグラードフ | 太平洋艦隊。改修中 |
| ウダロイII級 | アドミラル・チャバネンコ | 北方艦隊。長期改修中 |
ロシア海軍の駆逐艦は、1980年代に建造された対潜駆逐艦ウダロイ級6〜7隻だけだ。ソヴレメンヌイ級は事実上退役し、ソ連崩壊後にロシアが新造した駆逐艦は一隻もない。マルシャル・シャポシニコフは2021年の改修でカリブルとウランを積むフリゲート相当の艦に生まれ変わったが、船体は40年近い。
2026年9月、ロシアは満載9,500トン級の新型駆逐艦の建造計画を発表した。ただし、ゴルシコフ級フリゲートすら8年遅れで揃えている造船業の現状を見れば、この発表は実際の建造計画というより、「ロシアはまだ大型艦を造る」という国内外への信号だと私は読んでいる。太平洋艦隊のウダロイ級は日本海と対馬海峡をよく通航し、海自の護衛艦が監視する相手として最も見慣れたロシア艦でもある。
フリゲート——ゴルシコフ級だけが未来を担う

写真:Svetlov Artem/出典(CC0)。掲載用に縮小・圧縮。
| 艦級 | 艦名 | 艦隊 | 状態 |
|---|---|---|---|
| ゴルシコフ級 | アドミラル・ゴルシコフ、アドミラル・カサトノフ、アドミラル・ゴロフコ | 北方艦隊 | 現役。ジルコンを運用 |
| ゴルシコフ級 | アドミラル・イサコフ、アドミラル・アメリコ | 艤装中 | 2027〜28年就役予定 |
| ゴルシコフ級 | チチャゴフ、ユマシェフ、スピリドノフ、グロモフ、ヴィソツキー | 建造中・計画 | 9番艦グロモフは2026年5月起工 |
| グリゴロヴィチ級 | アドミラル・グリゴロヴィチ、アドミラル・エッセン、アドミラル・マカロフ | 黒海艦隊 | ノヴォロシースクで繰り返し被弾 |
| ネウストラシムイ級 | ネウストラシムイ、ヤロスラフ・ムードルイ | バルト艦隊 | 現役 |
| クリヴァク級 | ラードヌイ、ピトリヴイ | 黒海艦隊 | 1980年代の艦 |
| ゲパルト級 | タタールスタン、ダゲスタン | カスピ小艦隊 |
ゴルシコフ級は、ソ連崩壊後にロシアが設計した唯一の本格的な外洋水上戦闘艦だ。満載約5,400トンで、16セルのVLSにカリブル、オーニクス、そして極超音速ミサイルのジルコンを積む。1番艦は2006年起工、2018年就役で、12年かかった。理由は2014年のクリミア併合でウクライナ製ガスタービンの供給が止まり、国産化を一からやり直したからだ。国産推進系は再建され、現在は3隻が現役、2隻が艤装中、さらに複数が建造中で、9番艦が2026年5月に起工された。
グリゴロヴィチ級3隻は黒海艦隊の主力で、2022年以降はセヴァストポリからノヴォロシースクへ退避している。しかし2026年になるとウクライナの長距離攻撃はノヴォロシースクにも届き、8月12日にはエッセンとマカロフがミサイルとドローンの複合攻撃で損傷、9月9日にはエッセンがネプチューン対艦ミサイルの直撃を受けて上部構造物が炎上した。エッセンとマカロフは2026年だけで3回被弾している。艦隊が逃げた先まで攻撃が追いかけてくる。これが2026年の黒海の現実だ。
コルベット・小型ミサイル艦——「カリブルの運び屋」たち
| 艦級 | 隻数 | 満載排水量 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ステレグシチー級 | 9隻+建造中3隻 | 約2,200トン | 多用途コルベット。ウラン対艦ミサイル、レドゥート対空ミサイル |
| グレミャシチー級 | 1隻+建造中5隻 | 約2,500トン | ステレグシチー級の発展型。カリブル運用可能 |
| カラクルト級 | 7隻+建造中6隻 | 約800トン | カリブル8発。2026年5月にブーリャが就役、7月にシトルムが進水 |
| ブーヤンM級 | 12隻 | 約950トン | カリブル8発。2015年にカスピ海からシリアを攻撃 |
| ナヌチカ級 | 7隻 | 約670トン | ソ連時代の小型ミサイル艦 |
| タランタル級 | 16隻 | 約500トン | ソ連時代のミサイル艇 |
| グリシャ級 | 17隻 | 約980トン | ソ連時代の小型対潜艦 |
| パルヒム級 | 6隻 | 約950トン | 東ドイツ製の小型対潜艦 |
| ボーラ級 | 2隻 | 約1,050トン | 55ノットのホバー型ミサイル艦 |
ロシア海軍の実際の打撃力は、この小型艦の群れにある。排水量1,000トン以下のブーヤンM級とカラクルト級がそれぞれカリブル巡航ミサイル8発を積み、内水路を通って艦隊間を移動できる。2015年10月、カスピ海のブーヤンM級4隻がシリアの目標に向けてカリブル26発を発射したとき、西側は「小さな艦が1,500km先を撃つ」現実を初めて見た。
私は、この小型艦への集中を「大型艦を造れないから仕方なく」と見るべきではないと思っている。カリブル、オーニクス、ジルコンを積む小型艦と潜水艦と沿岸ミサイル部隊で海を拒否する。それはロシアの造船業とロシアの地理に合った、合理的な選択だ。ただしその代償として、外洋に長期展開できる艦隊は失われた。黒海で沈んだ艦の多くも、この小型艦とロプーチャ級揚陸艦だった。
潜水艦——ロシア海軍の本体

写真:Ministry of Defense of Russia/出典(CC BY 4.0)。掲載用に縮小・圧縮。
ロシア海軍を評価するなら、ここを見るべきだ。水上艦の衰退と対照的に、潜水艦、とくに原潜の建造は戦争中も優先され続けている。
弾道ミサイル原潜(SSBN)
| 艦級 | 隻数 | 主な艦名 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ボレイ級・ボレイA級 | 8隻 | ユーリー・ドルゴルーキー、アレクサンドル・ネフスキー、ウラジーミル・モノマフ、クニャージ・ウラジーミル、クニャージ・オレグ、ゲネラリシムス・スヴォーロフ、インペラートル・アレクサンドル3世、クニャージ・ポジャルスキー | 2025年に最新艦が就役。ブラヴァ16発。さらに複数建造中 |
| デルタIV級 | 5隻前後 | ヴェルホトゥリエ、エカテリンブルク、トゥーラ、ブリャンスク、カレリア | 1980〜90年代の艦。ボレイ級に順次交代 |
ボレイ級は北方艦隊と太平洋艦隊に分かれて配備され、ロシアの核抑止の海上部分を担う。太平洋艦隊のボレイ級はカムチャツカのヴィリュチンスクを母港とし、オホーツク海を「聖域」として哨戒する。この海はロシアにとって核戦力の裏庭であり、日本にとっては北海道の目の前だ。
巡航ミサイル原潜(SSGN)
| 艦級 | 隻数 | 主な艦名 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ヤーセン級・ヤーセンM級 | 6隻 | セヴェロドヴィンスク、カザン、ノヴォシビルスク、クラスノヤルスク、アルハンゲリスク、ペルミ | ペルミはジルコン運用艦として設計。9番艦ムルマンスクを2026年6月に起工 |
| オスカーII級 | 6隻前後 | オリョール、オムスク、トヴェリ、ヴォロネジ、スモレンスクほか | 改修艦はカリブル運用。運用可能数は少ない |
ヤーセンM級は、米海軍が最も警戒するロシア潜水艦だ。静粛性は西側の原潜に近づいたと評価され、カリブルとオーニクス、そしてジルコンを積む。2025年に進水したペルミはジルコンを主兵装とする初の艦で、6隻目として運用に入ったとされる。ロシアは2030年代半ばまでに、ソ連時代の第三世代原潜をすべてこの級で置き換える計画で、2026年6月には9隻目が起工された。戦争で造船所が圧迫されるなか、この計画だけは遅れながらも止まっていない。原潜の仕組みは原子力潜水艦とはで扱った。
攻撃型原潜(SSN)と特殊任務艦
| 艦級 | 隻数 | 備考 |
|---|---|---|
| アクラ級 | 9隻前後(運用可能は数隻) | 1980〜90年代の艦。改修が追いつかない |
| シエラ級 | 2隻 | チタン船殻 |
| ヴィクターIII級 | 2隻前後 | 退役間近 |
| ベルゴロド | 1隻 | 核魚雷ポセイドンの母艦。2022年就役 |
| ハバロフスク | 1隻 | ポセイドン搭載の特殊原潜。2025年進水 |
アクラ級は隻数こそ多いが、改修待ちで動けない艦が多く、実際に哨戒に出られるのは数隻とされる。ベルゴロドとハバロフスクは、核弾頭つきの大型魚雷ポセイドンを運ぶための艦で、通常の潜水艦戦力とは別の「戦略兵器の運搬手段」だ。
通常動力潜水艦(SSK)
| 艦級 | 隻数 | 配備 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 改キロ級(636.3型) | 12隻 | 黒海艦隊6、太平洋艦隊6 | カリブル運用。黒海の1隻はドックで損傷 |
| キロ級(877型) | 10隻前後 | 各艦隊 | 1980〜90年代の艦 |
| ラーダ級 | 2〜3隻 | バルト艦隊 | 開発難航。AIPは搭載せず |
改キロ級は太平洋艦隊に6隻が配備され、日本海での活動が最も頻繁なロシア潜水艦だ。カリブルを積むため、ウラジオストクから日本全域を射程に収める。通常動力潜水艦としての静粛性は海自のたいげい型に及ばないとされるが、隻数と巡航ミサイルの存在は無視できない。世界の通常動力潜水艦の序列は通常動力潜水艦ランキングと世界の潜水艦ランキングで扱っている。
ロシア海軍のミサイル——艦より重要な3つの名前
ロシア海軍の艦艇一覧を読むとき、艦の大きさより「何を積んでいるか」を見る方が実態に近い。小型艦も原潜も、同じ3種類のミサイルを共有しているからだ。
| ミサイル | 種類 | 射程 | 主な搭載艦 |
|---|---|---|---|
| カリブル | 亜音速巡航ミサイル(対地・対艦) | 対地型で約1,500〜2,500km | ブーヤンM級、カラクルト級、改キロ級、ヤーセン級、ゴルシコフ級 |
| オーニクス | 超音速対艦・対地ミサイル | 約300〜800km | ヤーセン級、ゴルシコフ級、ナヒモフ、沿岸部隊 |
| ジルコン | 極超音速対艦・対地ミサイル | 約1,000km(公称) | ゴルシコフ級、ヤーセンM級ペルミ、ナヒモフ |
ウクライナ戦争でロシアは黒海とカスピ海の艦艇と潜水艦からカリブルを大量に発射し、内陸の都市とインフラを攻撃した。艦隊が港に追い込まれた後も、潜水艦からの発射は続いている。ジルコンは2024年以降、ゴルシコフ級から実戦で使用されたと報じられ、艦艇の数が減っても一発あたりの脅威は増している。ロシア海軍の「衰退」を語るときに見落とされがちなのは、この点だ。
揚陸艦——黒海で最も削られた艦種
| 艦級 | 隻数 | 備考 |
|---|---|---|
| イワン・グレン級 | 2隻+艤装中3隻 | 満載約6,600トン。ソ連崩壊後唯一の新型揚陸艦 |
| ロプーチャ級 | 12隻 | 1970〜90年代の艦。黒海で複数を喪失 |
| タピール級 | 3隻 | 1960〜70年代の艦 |
| イワン・ロゴフ級(23900型) | 艤装中2隻 | 4万トン級の強襲揚陸艦。クリミアのザリフ造船所で建造 |
| ズーブル級 | 2隻 | 大型ホバークラフト |
黒海艦隊の揚陸艦は、開戦以来ウクライナの主要な標的になった。2022年3月のベルジャンスクでサラトフが失われ、ミンスク、ノヴォチェルカッスク、ツェーザリ・クニコフが2023年から2024年にかけて沈没または大破した。ウクライナへの海上補給を担う艦が、真っ先に狙われた。4万トン級の強襲揚陸艦イワン・ロゴフ級2隻は、ウクライナから奪ったクリミアの造船所で建造中で、完成の見通しは立っていない。
機雷戦艦艇と支援艦
機雷戦艦艇は約40隻で、新型のアレクサンドリト級掃海艦が10隻就役し、さらに6隻が艤装中だ。世界最大級のガラス繊維強化プラスチック製船体を持つ艦で、ロシア海軍で最も順調に量産されている艦種の一つでもある。支援艦は約100隻を数えるが、外洋補給艦の不足は長年の弱点で、外洋展開の際は民間タンカーを随伴させることが多い。
海軍航空——空母を失った艦載機
固定翼哨戒機はTu-142とIl-38が主力で、いずれも冷戦期の機体。艦載ヘリはKa-27系が中心だ。艦載戦闘機のSu-33とMiG-29Kは、母艦であるクズネツォフの退役で運用の場を失い、陸上基地からの運用に転じている。長距離対艦攻撃はむしろ海軍航空隊ではなく、Tu-160やTu-22M3といった空軍の爆撃機と、地上発射のミサイルが担う。ロシアの戦闘機全体はロシアの戦闘機一覧に整理してある。
黒海の損失——4年間で何を失ったか
| 時期 | 艦名 | 艦種 | 経緯 |
|---|---|---|---|
| 2022年3月 | サラトフ | 揚陸艦 | ベルジャンスク港でミサイル攻撃を受け炎上 |
| 2022年4月 | モスクワ | 巡洋艦 | ネプチューン対艦ミサイル2発が命中し沈没。黒海艦隊旗艦 |
| 2023年9月 | ミンスク、ロストフ・ナ・ドヌ | 揚陸艦、潜水艦 | セヴァストポリのドックで巡航ミサイルの直撃 |
| 2023年11月 | アスコルド | カラクルト級 | ケルチの造船所で艤装中に撃破 |
| 2023年12月 | ノヴォチェルカッスク | 揚陸艦 | フェオドシヤ港で撃破 |
| 2024年2〜3月 | イワノヴェツ、ツェーザリ・クニコフ、セルゲイ・コトフ | ミサイル艇、揚陸艦、哨戒艦 | いずれも無人水上艇の攻撃で沈没 |
| 2026年8〜9月 | アドミラル・エッセン、アドミラル・マカロフほか | フリゲート | ノヴォロシースクでミサイルとドローンの複合攻撃 |
ウクライナ側の発表では、黒海艦隊の艦艇の3分の1前後を撃沈または損傷させたとされる。数字の検証は難しいが、黒海艦隊がセヴァストポリを放棄し、黒海西部での活動をほぼ停止したことは、衛星画像と航行実績から確認できる。海軍を持たない国が、対艦ミサイルと無人水上艇で艦隊を港に追い込んだ。この4年間は、世界の海軍が「大型艦は沿岸の脅威にどこまで耐えられるか」を学び直した4年間でもあった。
2026年の注目点
| 出来事 | 時期 | 意味 |
|---|---|---|
| ナヒモフの母港到着 | 6月 | 27年の改修を経て就役目前。ロシア水上艦の新たな象徴 |
| クズネツォフの実質的な終焉 | 2025年7月〜2026年 | 固定翼空母を持たない海軍へ |
| 9隻目のヤーセンM起工 | 6月 | 原潜計画は戦争中も継続 |
| 9番艦ゴルシコフ級起工 | 5月 | 唯一の新型大型水上艦の建造継続 |
| カラクルト級ブーリャ就役、シトルム進水 | 5〜7月 | 小型ミサイル艦の量産は順調 |
| 新型9,500トン級駆逐艦の計画発表 | 9月 | 実現性は低く、信号としての意味が大きい |
| ノヴォロシースクへの反復攻撃 | 8〜9月 | 退避先でもフリゲートが被弾 |
日本にとって——太平洋艦隊は隣にいる

写真:Photo of press-service of Russian President/出典(CC BY 4.0)。掲載用に縮小・圧縮。
日本から見えるロシア海軍は、太平洋艦隊だ。ウラジオストクのスラヴァ級ヴァリャーグとウダロイ級、カムチャツカのボレイ級とヤーセンM級、そして改キロ級6隻。海自の護衛艦と哨戒機が日本海と対馬海峡、宗谷海峡で監視する相手として、中国海軍と並んで最も頻繁に現れる。2021年以降は中国海軍との合同艦隊が日本を周回する航行を繰り返し、両海軍の共同演習は2026年も続いている。
投資家の視点——ロシア海軍の衰退は、誰の需要になるか
ロシア企業は本記事の投資対象として扱わない。ただ、ロシア海軍の動向は北欧とバルト三国の海軍増強、NATOの対潜・機雷戦への投資を通じて、欧米の防衛企業の需要になっている。日本にとっては、太平洋艦隊の潜水艦への対処が海自の哨戒機・護衛艦・潜水艦の継続的な需要を支える構図だ。防衛産業全体の見取り図は防衛関連銘柄 完全投資ガイドとアメリカ軍事企業ランキングに整理してある。念のため書いておくと、この段落は特定銘柄の購入を勧めるものではなく、投資判断は各自の責任で行う必要がある。
まとめ——沈む水上艦と、増える原潜
ロシア海軍の2026年は、二つの正反対の光景でできている。修理を断念した空母、27年かけて戻る原子力巡洋艦、黒海で退避先まで追われるフリゲート。そして戦争中も起工が続くボレイ級とヤーセンM級。水上艦の海軍としては衰退し、潜水艦の海軍としては強化されている。
私はこの海軍を「もう脅威ではない」と語る論調にも、「依然として世界2位」と語る論調にも与しない。外洋に艦隊を出す力は失われた。海を拒否し、原潜で核と巡航ミサイルを運ぶ力は残っている。日本にとって重要なのは後者で、オホーツク海と日本海の水面下は、黒海の水上で起きたことを知ったうえで、なお警戒すべき海のままだ。
海軍と地政学の解説書を通勤中に耳で読みたい人には、Audibleに軍事・地政学の書籍が揃っている。
よくある質問
ロシア海軍に空母はあるのか?
事実上ない。唯一の空母クズネツォフは2017年から改修中だったが、2025年7月に工事が中断され、2026年時点でムルマンスクに係留されたまま除籍か売却の見込み。
アドミラル・ナヒモフはいつ復帰するのか?
2025年7月に浮上して公試を開始し、2026年6月にセヴェロモルスクに到着した。2026年9月時点で正式就役はしておらず、ロシア側は2026年中、西側の追跡者は2026年末から2027年と見ている。
ロシア海軍の潜水艦は何隻あるのか?
約60隻。ボレイ級8隻、ヤーセン級6隻、オスカーII級とアクラ級が各6〜9隻、改キロ級12隻、キロ級約10隻など。ただし改修待ちの艦が多く、運用可能な隻数はその半分程度とされる。
黒海艦隊はどのくらい損害を受けたのか?
巡洋艦モスクワ、揚陸艦4隻以上、潜水艦1隻、哨戒艦とミサイル艇などを喪失し、ウクライナ側は艦隊の3分の1前後を撃沈・損傷させたと発表している。主力はセヴァストポリからノヴォロシースクへ退避したが、2026年にはそこでもフリゲートが繰り返し被弾している。
ロシア海軍で最も警戒すべき艦は?
ヤーセンM級巡航ミサイル原潜。静粛性が西側に近づき、カリブル・オーニクス・ジルコンを運用する。9隻目が2026年6月に起工され、戦争中も建造が続いている。
日本の近くにいるロシア艦は?
太平洋艦隊の巡洋艦ヴァリャーグ、ウダロイ級駆逐艦、改キロ級潜水艦6隻、カムチャツカのボレイ級とヤーセンM級。中国海軍との合同航行も繰り返されている。
出典・参考
- GlobalMilitary.net「Russian Navy Fleet 2026」(艦名・就役年・状態の照合、2026年9月10日更新) https://www.globalmilitary.net/navies/rus/
- Navy Lookout「Russia plans new 9,500-tonne destroyer despite shipbuilding struggles」2026年9月 https://www.navylookout.com/russia-plans-new-9500-tonne-destroyer-despite-shipbuilding-struggles/
- 19FortyFive「Russia Spent 27 Years and $5,000,000,000 Rebuilding Just 1 Kirov-Class Battlecruiser」2026年8月 https://www.19fortyfive.com/2026/08/russia-spent-27-years-and-5000000000-rebuilding-just-1-kirov-class-battlecruiser-she-might-end-up-as-obsolete-as-an-old-battleship/
- 19FortyFive「No More Aircraft Carriers for Russia: Admiral Kuznetsov Will Never Sail Again」2026年3月 https://www.19fortyfive.com/2026/03/no-more-aircraft-carriers-for-russia-admiral-kuznetsov-will-never-sail-again/
- Zona Militar「The Russian Navy has yet to decide the fate of its only aircraft carrier」2026年7月 https://www.zona-militar.com/en/2026/07/21/with-no-news-on-its-modernization-the-russian-navy-has-yet-to-decide-the-fate-of-its-only-aircraft-carrier/
- United24 Media「Nuclear Cruiser Admiral Nakhimov Exposes Russia’s 40-Year Naval Gap」2026年2月 https://united24media.com/latest-news/nuclear-cruiser-admiral-nakhimov-exposes-russias-40-year-naval-gap-with-the-us-navy-15923
- Russian battlecruiser Admiral Nakhimov/Russian aircraft carrier Admiral Kuznetsov(Wikipedia英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/Russian_battlecruiser_Admiral_Nakhimov
- 防衛省 令和7年版防衛白書(ロシア軍の動向、太平洋艦隊) https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2025/
- 統合幕僚監部 報道発表(日本周辺におけるロシア海軍艦艇の動向) https://www.mod.go.jp/js/press/







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