「アメリカ海軍は何隻持っているのか」という問いに、私は最近あまり意味を感じなくなった。隻数だけを並べても、いまの米海軍で起きていることが見えないからだ。
2026年の米海軍を一枚の表として見たとき、真っ先に目に入るのは隻数ではない。垂直発射装置(VLS)のセル、つまり「ミサイルを何本積んで海に出られるか」という総量が、就役より退役のほうが速いペースで削れているという事実である。巡洋艦は消え、オハイオ級巡航ミサイル原潜も消え、その穴を埋めるはずだった新型フリゲートは計画ごと中止になった。
一方で予算は膨らみ、戦艦という単語が21世紀の造船計画書に復活した。艦隊は縮んでいるのに構想は肥大している。この歪みこそが2026年の米海軍の正体だと私は考えている。
この記事では、空母・水上戦闘艦・潜水艦・揚陸艦という順に現役艦艇を整理しながら、その裏側にある「火力の空洞」を通して読んでいく。海上自衛隊の艦艇構成については海上自衛隊の艦艇一覧で別途まとめているので、日米を並べて読むと構造の違いがはっきりする。
- 2026年時点の米海軍バトルフォースの全体像
- 空母・水上戦闘艦・潜水艦・揚陸艦の構成
- 退役と新造の時間差がVLSセル数に与える影響
- 建艦計画と米国造船企業を読むときの視点
2026年の米海軍は何隻あるのか|まず全体像から

- バトルフォースと総保有数は集計対象が異なる
- 保有隻数と実際に展開できる隻数は一致しない
- VLSセル数は艦隊のミサイル搭載余力を見る一つの指標になる
米議会予算局(CBO)が2026年5月に公表した艦隊分析によれば、同年5月1日時点の米海軍のバトルフォース(戦闘可能な戦力として数える艦艇の総称)は291隻。空母11隻に加え、水上戦闘艦と潜水艦が保有する垂直発射装置は約9,100セルとされている。
このバトルフォースという数え方が曲者で、ここには練習艦や小型の哨戒艇は入らず、逆に軍事海上輸送司令部(MSC)が運航する補給艦の一部が入る。だから資料によって「290隻」「296隻」「465隻」と数字が揺れる。465隻という数字は予備役や後方支援船まで含めた総数で、戦力を語る際には使いにくい。米海軍自身が使うバトルフォースの数値を基準にするのが最も混乱が少ない。
2026会計年度の海軍予算資料では、運用可能なバトルフォースを287隻と見積もっていた。内訳は水上戦闘艦115、潜水艦63、支援艦36、戦闘補給艦31、揚陸艦31、空母11である。法律が定める目標は355隻なので、実態はその8割ほどしかない。
| 艦種区分 | 概数(2026年) | 主な艦級 |
|---|---|---|
| 航空母艦(CVN) | 11 | ニミッツ級10、ジェラルド・R・フォード級1 |
| 巡洋艦(CG) | 3 | タイコンデロガ級(年内に3隻へ縮小) |
| 駆逐艦(DDG) | 75前後 | アーレイ・バーク級、ズムウォルト級3 |
| 沿海域戦闘艦(LCS) | 20台後半 | フリーダム級、インディペンデンス級 |
| 弾道ミサイル原潜(SSBN) | 14 | オハイオ級 |
| 巡航ミサイル原潜(SSGN) | 3→順次退役 | オハイオ級改造型 |
| 攻撃型原潜(SSN) | 約50 | ロサンゼルス級、シーウルフ級3、バージニア級 |
| 揚陸艦 | 31〜32 | アメリカ級、ワスプ級、サンアントニオ級ほか |
| 指揮艦(LCC) | 2 | ブルーリッジ級(うち1隻は横須賀) |
数字だけ見れば依然として世界最大の海軍だ。この規模感を各国と比べたい場合は世界海軍力ランキングTOP15を見てもらうとして、ここからは米海軍の内部構造に踏み込む。
空母|11隻の内訳と「太平洋に空母がいない夏」

- RCOH中の艦は年単位で実戦配備から外れる
- 退役延期は後継艦引き渡しの遅延と連動する
- 配備海域は世界的な運用需要で短期間に変わる
米海軍の空母は全艦が原子力推進で、現在11隻。ニミッツ級10隻とフォード級1隻という構成である。
| 艦名 | 艦番号 | 就役 | 状況(2026年8月時点) |
|---|---|---|---|
| ニミッツ | CVN-68 | 1975 | 退役準備。2027年3月まで延長 |
| ドワイト・D・アイゼンハワー | CVN-69 | 1977 | 現役 |
| カール・ヴィンソン | CVN-70 | 1982 | 現役 |
| セオドア・ルーズベルト | CVN-71 | 1986 | 現役 |
| エイブラハム・リンカーン | CVN-72 | 1989 | 中東展開から交代 |
| ジョージ・ワシントン | CVN-73 | 1992 | 横須賀を母港とする前方展開艦 |
| ジョン・C・ステニス | CVN-74 | 1995 | RCOH中。2026年10月引き渡し予定 |
| ハリー・S・トルーマン | CVN-75 | 1998 | 2026年6月からRCOH開始 |
| ロナルド・レーガン | CVN-76 | 2003 | 現役 |
| ジョージ・H・W・ブッシュ | CVN-77 | 2009 | 現役 |
| ジェラルド・R・フォード | CVN-78 | 2017 | 現役。フォード級1番艦 |
RCOHというのは中間寿命時の給油・大規模改修で、原子炉の燃料交換を含む数年がかりの入渠だ。ステニスは2021年5月に入渠して以来ずっと出てこられず、引き渡しは2026年10月、実戦復帰は2027年にずれ込む。5年半である。しかもトルーマンが2026年6月に同じ工程へ入ったので、11隻のうち2隻が同時に「船台の上」にいる状態が続く。
さらにニミッツが2027年3月まで在籍を延長された。当初は2026年5月退役の予定だったが、後継となるジェラルド・R・フォード級空母の2番艦が遅れているためだ。ニミッツ級10隻の全体像と退役スケジュールはニミッツ級空母とはで個別にまとめている。
建造中の空母|CVN-79からCVN-82まで
2番艦ジョン・F・ケネディ(CVN-79)は2026年2月に初の航行試験を終え、8月12日にニューポート・ニューズを出港して受領試験へ入った。引き渡し予定は2027年3月。当初計画から実に3年近い遅れである。原因は先進着艦装置(AAG)の認証作業と、先進兵器エレベーター(AWE)の工事で、後者は11基のうち7基が完成した段階だった。
3番艦エンタープライズ(CVN-80)、4番艦ドリス・ミラー(CVN-81)が建造中で、ミラーは2032年就役予定。5番艦CVN-82は2027会計年度計画で2030年度から2029年度へ調達が前倒しされた。フォード級は艦載機の運用能力そのものが上がる設計で、電磁カタパルトの実運用データはオペレーション・エピック・フューリーとEMALSで詳しく扱った。
2026年夏、アジア太平洋から米空母が消えた
日本の読者にとって最も重い話がこれだ。
横須賀を母港とする唯一の前方展開空母ジョージ・ワシントンは、2026年5月23日にインド太平洋哨戒へ出港した。ところが8月13日にマラッカ海峡を西進していることが確認され、8月19日には中東海域へ到着。1月からアラビア海で任務にあたっていたエイブラハム・リンカーンと交代した。米中央軍が20日にこれを発表している。
この結果、アジア太平洋地域に展開する米空母は一時的にゼロになった。中国が空母「福建」を戦力化しつつあるタイミングでこれが起きた意味は小さくない。福建就役の影響については中国空母3隻体制で何が変わるかにまとめてある。
11隻という数字は、2隻がRCOH、1隻が退役準備、数隻が整備・訓練サイクルに入ると、実際に投入できるのは3〜4隻にまで落ちる。艦隊の数え方が実感と乖離するのはここだ。
空母打撃群の運用を航空戦力側から理解したいなら、艦載早期警戒機のE-2Dアドバンスドホークアイと主力戦闘攻撃機のF/A-18E/Fスーパーホーネットを押さえておくと、甲板の上で何が起きているかが立体的に見えてくる。
空母と艦載機の全体像を紙の資料で手元に置いておきたい人には、図鑑形式のものが一冊あると調べ物が速くなる。
水上戦闘艦|巡洋艦の消滅と、駆逐艦一本足の艦隊

- タイコンデロガ級の退役で大容量のVLSが減る
- アーレイ・バーク級が防空・対潜・打撃任務の中心になる
- 次期フリゲートはコストと仕様がなお流動的である
ここが2026年の米海軍で最も構造変化が激しい領域である。
タイコンデロガ級巡洋艦|27隻が3隻になる
イージスシステムを世界で初めて搭載した艦級であり、1隻あたり122セルという米海軍史上最大の垂直発射装置を持つ。1980年から27隻が建造されたが、2026年末には3隻まで減る見込みだ。
生き残るのはゲティスバーグ(CG-64)、チョーシン(CG-65)、ケープ・セント・ジョージ(CG-71)の3隻。いずれも大規模近代化改修を受け、2024年11月に退役時期が2029年まで延長された。2026年4月に公表された同年度の非活性化リストでは、シャイローとレイクエリーが「後方支援資産」、要するに残った姉妹艦のための部品取りとして指定された。
会計検査院(GAO)はこの近代化計画を無駄と評価し、議会側からは「悪意ある服従」という言葉まで出た。37億ドルを投じて11隻を改修する計画が、実際には7隻しか着手されず、完全改修に至ったのは3隻だけ。その3隻も2030年前後には去る。
米海軍から巡洋艦という艦種が消えるのは、数世代ぶりの出来事になる。
アーレイ・バーク級駆逐艦|75隻の背骨
巡洋艦が抜けた穴を全部背負うのがこの艦級だ。2026年7月時点で引き渡し済みは75隻、就役中は73隻前後。さらに24隻が計画・契約・建造の各段階にある。
現行の生産型はフライトIIIで、SPY-6(V)1レーダーとイージス・ベースライン10を搭載する。満載9,700トン級、VLSは96セル。2026年5月にテッド・スティーブンス(DDG-128)がインガルス造船所を出港し、8月1日にはバス鉄工所でウィリアム・シャレット(DDG-130)が命名された。
ここで冒頭のセルの話に戻る。122セルの巡洋艦が抜けて96セルのフライトIIIが入ると、1隻あたり26セルの純減になる。タイコンデロガ級の退役だけで1,000セル以上が失われる計算だ。艦級の詳細はアーレイ・バーク級とはで、海自まや型との比較も含めて扱っている。
現代イージス艦の1/700キットとしては、この艦級が最も入手しやすい。海自イージス艦と並べると、船体設計の思想の違いが手に取るようにわかる。
ズムウォルト級|3隻で終わったステルス駆逐艦
当初32隻構想だったが3隻で打ち切られた艦級。主砲用の砲弾が高すぎて調達されず、いまは極超音速兵器(CPS)搭載艦への転換工事が進んでいる。2027年度予算でも6,651万ドルがこの改修支援に充てられた。経緯はズムウォルト級駆逐艦とはにまとめてある。
コンステレーション級フリゲート|計画そのものが消えた
2026年の米海軍を語るうえで外せないのがこれだ。
イタリア・フランスのFREMM設計をベースに20隻以上を建造する計画だったが、米海軍が設計変更を重ねた結果、船体は20フィート以上伸び、約500トン重くなり、原型との共通性はわずか15%まで落ちた。1番艦の引き渡しは2026年から2029年以降へ、3年以上遅れた。
2025年11月25日、当時のフェラン海軍長官が計画からの「戦略的転換」を発表。建造中の1番艦コンステレーション(FFG-62)と2番艦コングレス(FFG-63)を除く4隻を中止した。議会調査局の報告書には、この判断の理由がはっきり書かれている。駆逐艦の8割のコストで6割の能力しかない、それなら駆逐艦を造ればいい、という趣旨だ。2025年11月25日時点で1番艦の工程は約12%だった。
そもそもフリゲートと駆逐艦の線引きが国によって違う話はフリゲートと駆逐艦の違いで整理している。米海軍がこの区分に何を求めているかを理解すると、計画中止の意味が読み取りやすくなる。
FF(X)|沿岸警備隊のカッターから生まれる新型艦
代替として2025年12月19日に発表されたのがFF(X)である。ベースはHIIインガルス造船所が沿岸警備隊向けに建造してきたレジェンド級国家安全保障カッター。実績のある米国設計を使い、2028年に1番艦を進水させるという方針だ。
2027会計年度予算では1隻分として14億2,900万ドルが要求されている。満載5,000〜7,000トン級で、VLS・曳航式ソナー・対潜能力を備えた設計が想定されているが、要求仕様はまだ公表されていない。
沿海域戦闘艦(LCS)|静かな終焉
フリーダム級とインディペンデンス級の2系統で建造されたLCSは、2025年から2026年にかけて最終艦が就役し、2027会計年度では計画開始以来初めて造船予算がゼロになった。売り物だった任務モジュール(機雷戦・対水上戦・対潜)はいずれも約束された能力に届かず、フリーダム級は推進系の不具合で早期退役が始まっている。2026年度の解体リストにはフォートワースが載った。
残った艦は訓練艦や非戦闘海域でのプレゼンス任務へ回される。米海軍が「少数精鋭に戻す」方向へ舵を切った最大の理由が、このLCSの記憶である。
潜水艦|2,000セル超が海の底から消える

- SSBNは戦略核抑止の中核を担う
- SSGNは大量の巡航ミサイル搭載能力を持つ
- SSNはロサンゼルス級からバージニア級へ移行中である
水中戦力は米海軍の最大の優位だが、ここでも同じことが起きている。
弾道ミサイル原潜(SSBN)|オハイオ級14隻
トライデントII D5を搭載する戦略抑止の中核で14隻。後継のコロンビア級は12隻計画、総額1,300億ドル超という米海軍史上最も高価な建造計画である。1番艦ディストリクト・オブ・コロンビアは2026年のWEST会議時点で約65%完成、26モジュール全てがグロトンへ搬入済みで、引き渡しは2028年見込み。2番艦ウィスコンシンが約35%、3番艦グロトンも建造が本格化している。
ただしオハイオ級の退役スケジュールとコロンビア級の就役スケジュールはほぼ余裕がない。1か月の遅れがそのまま抑止パトロールの空白リスクになる構造だ。
巡航ミサイル原潜(SSGN)|代替なしで消える4隻
オハイオ級のうち4隻は2000年代にSSGNへ改造され、1隻あたりトマホーク154発と特殊部隊66名を積める「水中のミサイル倉庫」になった。この4隻が、後継艦なしで艦隊から消える。
ジョージア(SSGN-729)は2026年7月27日、42年以上の任務を終えてキングスベイへ最後の帰投をした。残るオハイオ、フロリダ、ミシガンも2027・2028・2029各会計年度に続く。4隻合計で616発分の打撃力が、代わりを用意されないまま失われる。
タイコンデロガ級の退役と合わせると、2030年までに2,000セル超が艦隊から消える。冷戦終結以降で最大規模の打撃力の一括喪失である。しかもオペレーション・エピック・フューリーでトマホークの消費が生産を上回った状態が続いており、セルを埋める弾のほうも足りていない。
攻撃型原潜(SSN)|世代交代の途中
現在約50隻。内訳はロサンゼルス級が20隻強、シーウルフ級が3隻、残りがバージニア級である。ロサンゼルス級は40年選手が並び、2026年度にはニューポートニューズとアレクサンドリアの解体が決まった。
バージニア級はブロックVからバージニア・ペイロード・モジュール(VPM)を搭載し、垂直発射管を76本追加した。2027会計年度予算では2隻分として139億8,593万ドルが要求され、これは単一計画としては最大の造船費目になっている。5か年で10隻という調達計画だ。
とはいえ湾岸戦争期と比べて造船所の能力が3割落ちているという指摘があり、年2隻の安定生産そのものがまだ課題として残る。日本が原子力潜水艦を持つかどうかという議論の背景にも、この米国の生産能力の話が横たわっている。関連論点は日本は原子力潜水艦を保有するのかで整理した。
潜水艦という兵器の政治性を物語で掴みたいなら、この分野の古典的な作品に一度触れておくと、艦隊の数字の裏にある論理が入ってきやすい。
揚陸艦・支援艦|数はあるが動けない31隻
- 法定保有数を満たしても実動艦が不足することがある
- LHAはF-35Bを積むことで軽空母的に運用できる
- 太平洋では補給艦・母艦・病院船も行動の持続性を左右する
海兵隊を運ぶ揚陸艦は、法律で31隻以上の維持が義務づけられている。保有数は32隻前後あるが、問題は稼働率だ。2025年8月時点で稼働率が41%まで落ちていたと国防当局者が明かしている。海兵隊が任務遂行に必要としているのは80%以上である。
| 種別 | 艦級 | 隻数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| LHA | アメリカ級 | 2隻就役・3隻建造中 | 満載45,000トン。世界最大の揚陸艦 |
| LHD | ワスプ級 | 7 | ウェルドックを持つ大型艦。ワスプは寿命5年延長 |
| LPD | サンアントニオ級 | 13 | フライトIIはSPY-6搭載へ移行 |
| LSD | ホイッドビーアイランド級・ハーパーズフェリー級 | 10 | 1980〜90年代建造。退役方針 |
| LSM | 中型揚陸艦(新造) | 建造開始 | 2027年度に6隻。16隻へ |
アメリカ級はF-35Bを積めば軽空母として機能する規模で、実質的に空母戦力の一部として数えられる。この「空母なのか揚陸艦なのか」という論点は強襲揚陸艦とはで扱った。
LSM(中型揚陸艦)は海兵隊の遠征前進基地作戦(EABO)に対応する新艦種で、1隻あたり3億1,400万ドル程度。大型艦を敵の射程内に近づけずに済ませるための、分散型の運び屋である。
補助艦では、潜水艦母艦の後継AS(X)に2隻で44億4,400万ドル、次世代病院船T-AH-Xに6億5,000万ドルが2027年度予算に計上された。派手さはないが、太平洋の距離を戦うには補給艦と母艦の数が効いてくる。
長い記事になったので、艦隊の話を耳から入れたい人向けに音声で読める戦史・軍事書の選択肢も挙げておく。移動中に艦隊史を頭に入れておくと、こういう一覧記事の情報が定着しやすい。
ゴールデン・フリート構想|21世紀に戦艦が復活する

- 予算要求・建艦計画・契約・進水はそれぞれ異なる段階
- BBG(X)は公式に計画化されているが、設計と価格は今後も変わり得る
- 無人艦は数量だけでなく、センサー・ネットワーク・搭載物との統合が前提になる
2026年5月11日、海軍省が2027会計年度造船計画を公表した。ここに書かれていた構想が「ゴールデン・フリート」である。
2027会計年度の海軍省予算は総額3,775億ドル、うち造船費は658億ドル。前年比48%増で、実質ベースでは1955年以降2番目の規模になる。5か年で75隻を調達し、2030年代前半に艦艇総数450隻超を目指すという内容だ。
構想の骨格は高低混成である。高価値艦は空母・SSBN・SSN・戦艦・駆逐艦・LHA・LPD。低価値艦はフリゲート・LCS・LSM。そこへ無人水上艇(MUSV)と無人潜航艇(UUV)を大量に重ねる。
トランプ級戦艦|BBG(X)という一大論点
構想の目玉が、DDG(X)次世代駆逐艦計画に代えて登場した新型大型水上戦闘艦だ。予算書上の呼称はBBG(X)、通称トランプ級戦艦である。
2027年度予算で先行取得費として10億ドル、2028年度に1番艦BBG-1「ディファイアント」の建造費として164億7,000万ドルが計上され、1番艦だけで170億ドルを超える。CBOは2026年1月時点で150億〜200億ドルと試算していた。
設計はまだ決まっていない。15,000トン級の通常動力砲艦、20,000トン級の原子力大型艦、10,000〜12,000トン級の原子力巡洋戦艦という3案が省内で競合している段階だ。原子力推進とし、場合によっては戦域核を搭載して敵の計算を難しくするという構想も語られている。
この計画を推進したフェラン海軍長官は2026年4月22日にヘグセス国防長官によって解任され、現在はホン・カオ長官代行が指揮を執る。ヘグセス側は戦艦の比重を下げ、フリゲートと無人艦の数を増やす方向へ修正を進めているとされる。170億ドルという1番艦価格に対しては、支持派からも財政的に危ういという評価が出ている。
米海軍の中では、DDG-51を年1隻に減らしてまで戦艦へ資源を振り向けることの是非が、まだ決着していない。
無人艦|数で埋めるという発想
2027年度にMUSVを171隻調達し、2026年度分36隻と合わせて艦隊へ組み込む計画が示された。30年間で3,000隻超という数字も出ている。大型無人水上艇はMk41相当の発射装置を積める設計で、要は「乗員のいないミサイル倉庫」を大量にばら撒く発想だ。
有人艦の隻数が増えないなら、セルを海に浮かべる手段を変える。理屈としては一貫している。実際に機能するかは別の話だが。
投資家の視点|この一覧表は、誰の受注表なのか
- 議会の承認と実際の造船契約を分ける
- 建造進捗と収益認識の時期を確認する
- 艦種ごとに造船所と主要サプライヤーを対応させる
ここからは軍事の話ではなく、数字の話をする。
艦艇の一覧表は、そのまま造船企業の受注構造を映した表でもある。2027〜2031年度で艦艇建造に3,057億ドルが計上される計画になっており、その配分先はかなりはっきりしている。
| 企業 | 担当する艦種 | 一覧表との対応 |
|---|---|---|
| ハンティントン・インガルス(HII) | 空母(ニューポート・ニューズ)、原潜、DDG・LPD・LHA・FF(X)(インガルス) | CVN-79〜82、バージニア級、フライトIII、FF(X) |
| ゼネラル・ダイナミクス(GD) | 原潜(エレクトリック・ボート)、DDG(バス鉄工所) | コロンビア級、バージニア級、DDG-130ほか |
| フィンカンティエリ・マリネット | コンステレーション級2隻 | 計画縮小の影響を最も受けた側 |
| オースタルUSA | インディペンデンス級LCSほか | LCS終了後の受注構造が焦点 |
空母と原潜という最も参入障壁の高い2分野を握るHIIの事業構造はハンティントン・インガルス(HII)株とはで、原潜と地上装備の両輪を持つGDについてはゼネラル・ダイナミクス(GD)株とはでそれぞれ整理している。この一覧表を読んだうえで両社の事業セグメントを見ると、どの艦級の遅延がどのセグメントに効くかが読めるようになる。
注意しておきたいのは、造船株は予算がついた瞬間に売上が立つ業種ではないという点だ。1番艦BBG-1の予算は2028年度で、引き渡しは2036年見込み。時間軸が10年単位で動く。予算計上と実際の収益計上の間に長いラグがあることは、この業界を見るうえで前提知識になる。
米国の造船・防衛関連銘柄は日本の証券口座からも取引できる。銘柄を追いかける前に、まず米国株を扱える口座を用意しておくと、決算資料や受注残(バックログ)の推移をリアルタイムで確認できるようになる。
投資判断はあくまで各自の責任で行うものであり、ここで挙げた企業は特定の売買を推奨するものではない。艦隊計画という「発注側の資料」から産業構造を読む、という読み方の一例として受け取ってほしい。
日本にとって、この一覧表は何を意味するのか
- 横須賀の前方展開拠点は米本土からの距離を短縮する
- 日米のイージス艦は同じセル数でも任務配分が異なる
- 造船所の設備・部品・熟練人材は日米共通の制約条件である
最後に、日本の読者にとっての含意を3点に絞る。
第一に、横須賀という拠点の重み。第7艦隊旗艦ブルーリッジ(LCC-19)が常駐し、唯一の前方展開空母が母港とする。米本土からの空母派遣は太平洋横断だけで数週間を要するが、横須賀からなら短時間で動ける。この地理的優位が、2026年夏のように空母が中東へ引き抜かれた瞬間に逆向きの意味を持つ。前方展開艦が1隻しかないということは、それが抜ければゼロになるということだ。
第二に、水上戦闘艦の質的な役割分担。米海軍のフライトIIIが96セル、海自まや型が96セル。数の上では同格だが、担う任務が違う。日本のイージス艦は弾道ミサイル防衛に重心があり、この設計思想の違いは日本のイージス艦「こんごう型・あたご型・まや型」と、SPY-7を採用したイージス・システム搭載艦を読み比べるとよく見える。
第三に、造船能力という共通課題。米海軍は今後10年で25万人の造船技能者を新規採用する必要があると試算している。艦を設計できても、造れる人がいなければ艦隊は増えない。日本の防衛産業が抱える課題と、実は同じ形をしている。
艦艇模型を通じて日米の艦を並べてみると、船体の寸法感や配置思想の差が数字よりも直感的に理解できる。艦船キットは公式ショップの品揃えが最も安定している。
よくある質問
アメリカ海軍の艦艇は全部で何隻あるのか
戦力として数えるバトルフォースでは、2026年5月時点で291隻。予備役や後方支援船まで含めた総数では450隻を超えるという集計もある。法定目標の355隻には達していない。
米海軍の空母は何隻か
11隻。ニミッツ級10隻とフォード級1隻である。ただし2隻がRCOH(給油・大規模改修)中で、実際に即応できる隻数はこれより大幅に少ない。
米海軍から巡洋艦がなくなるのは本当か
タイコンデロガ級は2026年末に3隻まで減り、その3隻も2029〜2030年ごろに退役予定である。後継のBBG(X)は2036年引き渡し見込みのため、数年間は巡洋艦不在の期間が生じる可能性が高い。
コンステレーション級フリゲートはなぜ中止になったのか
設計変更が重なり原型との共通性が15%まで落ち、コストは駆逐艦の8割、能力は6割という状態になった。1番艦の引き渡しも3年以上遅延した。代替として沿岸警備隊カッターをベースにしたFF(X)が始動している。
トランプ級戦艦は本当に建造されるのか
2027会計年度予算に先行取得費10億ドル、2028年度に1番艦分164億7,000万ドルが計上されている段階で、設計案は3つが競合中である。推進役だった海軍長官が解任され、国防長官側から規模縮小の圧力もかかっており、現時点で確定した計画とは言い難い。
日本に配備されている米空母はどれか
ジョージ・ワシントン(CVN-73)が横須賀を母港とする唯一の前方展開空母である。ただし2026年5月に出港し、8月には中東海域へ転出した。
まとめ|隻数ではなくセル数で読む艦隊
2026年の米海軍を一覧にして見えてくるのは、艦の数はほぼ横ばいでも、艦が海に持ち出せる火力の総量が減っているという構図だ。
122セルの巡洋艦が消え、トマホーク154発を積む原潜が代替なしで去り、その穴を96セルの駆逐艦が埋める。差分は積み上がって2,000セルを超える。予算は48%増えたが、その金の相当部分は2030年代半ばに引き渡される艦へ向かっている。つまり2026年から2030年代前半までは、構造的に薄い時期になる。
その谷間に、太平洋から空母が一時的に消える夏が来た。この一覧表を眺めながら私が最も強く感じるのは、艦隊とは資産ではなく工程だ、ということである。造船所と技能者と部品が揃って初めて、表の数字は海に浮かぶ。
各艦級をさらに掘り下げたい場合は、世界最強空母ランキング、世界の潜水艦10選、世界のイージス艦・大型防空艦10選の3本が、それぞれ空母・潜水艦・水上戦闘艦の国際比較の入口になる。米海軍という一つの艦隊を見たあとで各国と並べると、この30年の造船力の移動がはっきり見えてくるはずだ。







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