日本の防衛産業の話をするとき、三菱重工と川崎重工とIHIの「重工御三家」ばかりが語られる。だが防衛費倍増で実際に業績が跳ねているのは、重工よりむしろ電機の側だ。
三菱電機の防衛・宇宙システム事業は2026年3月期に売上4214億円、営業利益405億円を叩き出し、2027年3月期には売上5600億円へ3割以上伸ばす計画を出した。NECの航空宇宙・防衛事業は2026年4月から6月の四半期だけで売上が5割増え、利益は3倍になった。富士通のナショナルセキュリティ関連の国内受注は前年同期比139%。日立だけが、この波の中でほとんど数字を出していない。
同じ「電機大手」でも、防衛の中身はまるで違う。三菱電機はレーダーとミサイルの「モノ」を作る会社であり、NECは通信とソナーの会社であり、富士通は指揮のシステムを作る会社であり、日立は防衛を成長分野に位置づけていない会社だ。この記事では、4社の防衛事業を製品、規模、収益性、そして投資家としての見方で比較する。各社の個別解説は三菱電機、NEC、富士通、日立の記事に譲り、ここでは横に並べることに集中する。
一覧表|4社の防衛事業を横に並べる
数字は各社の決算資料と開示ベース。日立は防衛の売上を単独で開示しておらず、規模は数百億円台と推定されるが、会社の公表数値ではない。
なぜ重工より電機が先に跳ねるのか
本題に入る前に、一つ構造的な話をしておく。防衛費倍増の恩恵が、なぜ三菱重工より三菱電機やNECに先に、しかも利益率の高い形で表れるのか。
理由は装備のライフサイクルにある。護衛艦や戦闘機は設計から引き渡しまで5年10年かかり、売上は建造の進捗に応じて少しずつ計上される。一方、レーダーやミサイル、通信機器、ソフトウェアは開発と改修のサイクルが短く、契約から納入までが早い。防衛予算が積み増されたとき、最初に売上として現れるのは電子装備の側なのだ。統合防空ミサイル防衛やスタンド・オフ防衛能力、宇宙、サイバーといった今回の防衛力整備計画の重点分野が、いずれも電機の領域だったことも大きい。
そして4社とも、防衛との縁は戦前にさかのぼる。三菱電機は1921年に三菱造船から分離し、海軍の艦艇用電機で育った。NECは1899年創業で海軍の無線と通信を担い、富士通は1935年に富士電機の通信部門から分かれた。日立は1910年の創業以来、艦艇用のモーターや発電機で海軍と結びついてきた。戦後にコンピュータや家電で大きくなった4社が、防衛費倍増で再び軍需に引き寄せられているのは、系譜から見れば元の場所に戻っているだけだ、とも言える。
三菱電機|レーダーとミサイルの「モノ」で稼ぐ

4社の中で、防衛が最も大きく、最も儲かっていて、最も伸びているのが三菱電機だ。
防衛・宇宙システム事業の2026年3月期の売上は4214億円で前期比676億円増、営業利益は405億円で121億円増、営業利益率は9.6%。会社は「防衛システム事業の大口案件の増加により受注高・売上高ともに前年度を上回った」と説明している。2027年3月期の計画は売上5600億円、調整後営業利益560億円で、全社の増収3052億円のうち1385億円をこの事業が担う。三菱電機が2期連続で過去最高益を更新する見通しの最大の柱が、防衛だ。
中身は「モノ」だ。航空自衛隊の固定式警戒管制レーダーJ/FPS-5やJ/FPS-7、F-2戦闘機のレーダー、もがみ型護衛艦の多機能レーダーOPY-2、地対空ミサイルの中SAMの取りまとめ、空対空ミサイルAAM-4とAAM-5、そして情報収集衛星や準天頂衛星みちびき。防衛省が「統合防空ミサイル防衛」と「宇宙領域」を最優先課題に据えた以上、この2つの領域の国内最大手である三菱電機に予算が集中するのは当然の帰結になる。
輸出でも三菱電機は先頭を走る。2020年にフィリピン向け警戒管制レーダーを受注し、2023年に初号機を納入。これが日本初の完成装備品の海外移転になった。豪州向けのもがみ型改良型11隻にはOPY-2レーダーが載る。装備移転が本格化するほど、三菱電機の防衛は国内予算だけでなく海外の需要でも伸びる構造になってきた。
弱点を挙げるなら、この事業が防衛予算に直結しすぎている点だ。2027年度で現行の防衛力整備計画が終わり、次の計画で調達ペースが落ちれば、売上5600億円の先が見えなくなる。ただし三菱電機の連結売上は5兆9000億円で、防衛は全体の7%程度にすぎない。防衛が減速しても、FAシステムとデータセンター向けの電力機器が支える。
NEC|通信とソナーで、利益率が一気に倍になった

NECは2026年4月から6月の四半期で、航空宇宙・防衛の売上を741億円から1108億円へ49.6%伸ばし、利益を45億円から137億円へ3倍にした。利益率は6.1%から12.4%へ倍以上。四半期で1100億円という規模は、単純に年換算すれば4000億円を超え、三菱電機に並ぶ水準になる。
この決算でNECは、航空宇宙・防衛を初めて四半期ごとに単独開示した。これまでは社会インフラの中に埋もれていた数字を、わざわざ切り出して見せた。防衛を「隠す事業」から「見せる事業」に変えたということで、私はこれを三菱電機に続く意思表示だと受け取っている。社会インフラ全体の通期計画は利益534億円から990億円へ85%増で、その主役は防衛だ。
NECの防衛の中身は、三菱電機と重ならない。陸上自衛隊の野外通信システム、防衛省の衛星通信、指揮統制のC4I、そして潜水艦や護衛艦のソナーを含む水中音響。海洋システム事業も同じ四半期で売上が52%増え、赤字から黒字に転じた。レーダーが「見る」装備なら、NECは「聞く」「伝える」装備の会社で、この2社が組んで初めて自衛隊のセンサーネットワークが成立する。
もう一つ、NECは宇宙でも強い。JAXAの探査機はやぶさ2をはじめ科学衛星の多くをNECが作ってきた。防衛省の衛星コンステレーションが2027年度から本格運用に入れば、衛星本体とデータ処理の両面でNECの出番が増える。
リスクは、防衛以外のNECが「減収増益」に舵を切っていることだ。国内ITサービスのベース事業は意図的に売上を減らしており、防衛が伸びなければ全社の成長が止まる。防衛の利益率12.4%が一過性なのか定着するのかが、NECの株価にとって最大の論点になっている。
富士通|空自の頭脳を作る会社だが、数字は出さない

富士通の防衛は、4社の中で最も「システム」に寄っている。
航空自衛隊の自動警戒管制システムであるジャッジ、防衛省の基幹業務システム、陸自の通信基盤、暗号装置、そしてスパコン。日本の空を守る要撃管制の中枢を作っているのは富士通で、これは東芝がバッジの時代から関わってきた系譜を、富士通が計算機の側から引き継いだ形になる。2023年8月には防衛3社を統合して富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティを設立し、防衛と国家安全保障を一体で扱う体制にした。
問題は数字が出ないことだ。富士通は防衛の売上も利益も単独では開示せず、2026年4月から6月の決算で「ミッションクリティカル・ナショナルセキュリティ他」の国内受注が前年同期比139%だったことが分かる程度だ。NECが四半期開示に踏み切った同じ時期に、富士通は受注の伸び率だけを示した。防衛が伸びていることは間違いないが、どれだけ稼いでいるかは外からは見えない。
富士通の防衛の性格は、ハードよりソフト、装備より運用に近い。防衛省がサイバー要員を4000人規模へ拡充し、指揮統制をAIとデータで高度化しようとする流れは、富士通の得意領域そのものだ。日本の防衛サイバー企業の中でも富士通は最大級の存在で、この領域は今後、レーダーやミサイルより伸び率が高くなる可能性がある。ただしそれが利益にどう表れるかは、富士通が開示を変えるまで検証できない。
日立|防衛を成長分野に置いていない唯一の会社

日立は4社の中で最も異質だ。
防衛事業そのものは存在する。艦艇関連のシステム、電子装備、水中音響、そして防衛省向けの情報システム。歴史的には潜水艦のソナーや推進電動機でも実績があり、海上自衛隊との関係は長い。だが日立は2010年代以降、事業ポートフォリオを徹底的に組み替えて、鉄道、エネルギー、デジタルの3本柱に集中してきた。防衛はその3本柱のどれにも入らず、重点投資分野にも入っていない。売上の開示もない。
私はこれを「日立は防衛を捨てた」とは見ていない。日立は防衛を「伸ばす事業」ではなく「維持する事業」として、社会インフラの一部に静かに置いている。2027年3月期第1四半期の決算では主要5セグメントすべてで増収増益を達成し、エネルギー分野が急伸したが、防衛の話は一行も出てこない。防衛費倍増の恩恵を、日立はほとんど受けていないし、受けようともしていない。
投資家として言えば、日立の株価に防衛は関係ない。だが防衛省から見れば、日立が艦艇システムや電子装備から手を引いたら困る。三菱電機とNECが競い合いながら防衛を伸ばす一方で、日立のような「儲からないが続けている」企業が静かに撤退するリスクこそ、日本の防衛産業にとって本当の脅威だと私は思っている。
4社の棲み分け|一つの護衛艦で考える
もがみ型護衛艦を一隻思い浮かべてみる。
マストの上の多機能レーダーOPY-2は三菱電機。艦内の通信と衛星回線はNEC。艦底のソナーはNECとOKI。戦闘指揮所の画面は日本アビオニクス。艦隊全体の指揮統制システムはNTTデータ。そして日立は電子装備の一部で入る。富士通はこの艦には直接乗っていないが、この艦を空から支援する航空自衛隊の要撃管制は富士通のシステムで動いている。
つまり4社は競合というより、自衛隊という一つの巨大システムの中で役割を分け合っている。三菱電機がセンサー、NECがネットワーク、富士通が指揮系統、日立が周辺装備。この分業は数十年かけて固まったもので、防衛省の調達も「一度採用したベンダーが更改でも継続する」構造なので、簡単には崩れない。
崩れる可能性があるとすれば、ドローンとAIと宇宙の新領域だ。ここでは三菱電機もNECも既存の縄張りがなく、東芝やスタートアップ、そして海外企業が同じ土俵に立つ。4社の次の勝負は、レーダーの更改ではなくここで決まる。
日本の防衛電子機器企業の全体像はレーダー・電子戦企業一覧で整理している。
投資家目線で見る4社|防衛で買えるのは2社だけ
先に断っておく。私は各社株の売買を推奨する立場にないし、以下は公開情報に基づく私見であって、投資判断は自己責任でお願いしたい。
結論から言うと、防衛を理由に買える電機株は三菱電機とNECの2社で、富士通と日立は防衛では買えない。
三菱電機は防衛が連結の7%だが、成長の最大の柱として明確に位置づけられ、数字も出ている。防衛予算の伸びが株価に反映されやすく、2027年3月期の5600億円計画が達成できるかどうかが四半期ごとに検証できる。三菱電機の株価はFAシステムとデータセンター向け電力機器でも動くので「防衛一本足」ではないが、防衛の影響は4社で最も直接的だ。
NECは防衛が四半期開示になったことで、三菱電機と同じように検証可能になった。利益率12.4%は三菱電機の10%を上回っており、規模でも年換算4000億円台に迫る。ただし全社の売上は減収計画で、株価は「防衛の増益で国内ITの減収を吸収できるか」で決まる。防衛単体で見れば4社で最も勢いがあるが、全社の構造転換の途中にいる。
富士通は防衛が伸びていることは受注139%で分かるが、利益への寄与が開示されない。株価は国内サービスの利益率改善と海外事業の整理で動いていて、防衛は材料にならない。日立は言うまでもなく防衛と無関係に、エネルギーとデジタルで評価される株だ。
防衛関連株全体の見方は防衛関連銘柄の完全投資ガイドに、各社の受注残の比較は受注残ランキングにまとめている。個別株を選ぶのが面倒なら防衛ETFという手もあるが、電機4社は防衛比率が低いので、ETFの中での組入比率も三菱重工ほど大きくないことは覚えておいてほしい。
まとめ
三菱電機はレーダーとミサイルで防衛を成長の柱に据え、売上4214億円から5600億円へ伸ばす計画を出した。NECは通信とソナーで四半期売上1108億円、利益率12.4%と、勢いでは三菱電機を上回る。富士通は空自の指揮管制と防衛省の基幹システムで受注139%だが、数字を出さない。日立は防衛を維持はするが伸ばさない。
同じ電機大手の4社が、防衛費倍増という同じ追い風の中で、これほど違う姿勢を取っている。それは各社の事業ポートフォリオの違いであると同時に、日本の防衛産業がどの企業にどれだけ依存しているかの地図でもある。
投資家として言えば、防衛で買えるのは三菱電機とNEC。ミリタリーファンとして言えば、次にもがみ型の写真を見たら、マストのレーダーが三菱電機で、その裏の通信がNECで、その艦を空から守る管制が富士通だということを思い出してほしい。日本の防衛は、電機4社の分業の上に載っている。
投資に関する免責事項:本記事は公開情報に基づく個人的な分析であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。株式投資には元本割れのリスクがある。投資判断は必ず自身の責任で行ってほしい。







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