「中国の戦闘機って、どれくらい強いの?」
そんな素朴な疑問を持ったことはないだろうか。尖閣諸島周辺での領空接近、台湾周辺での威嚇飛行。ニュースで耳にする機会は増えているのに、実際にどんな機体が飛んでいるのか、日本人の多くは知らない。
僕らが子供の頃、中国空軍といえば「旧ソ連のお下がり」というイメージが強かった。だが2025年現在、その認識は完全に時代遅れだ。
中国人民解放軍空軍(PLAAF)は、いまや世界第3位の規模と実力を誇る航空戦力へと変貌を遂げている。保有する戦闘機は約1,500機。第4世代機(西側基準では第3世代)から最新のステルス戦闘機まで、多彩なラインナップを揃え、急速に近代化を進めている。
「でも、所詮はコピー品でしょ?」
そう思う人もいるかもしれない。確かに、中国の航空機開発は旧ソ連の技術をベースにスタートした。だが現在では、独自設計のステルス機を実用化し、艦載機部隊を運用し、国産エンジンの開発にも成功している。もはや単なる「模倣」の段階は過ぎ去った。
この記事では、中国空軍が運用する主力戦闘機を一つ一つ解説していく。J-10、J-11、J-15、J-16、そして最新鋭のJ-20まで。それぞれの機体がどんな役割を担い、どんな特徴を持つのか。そして、日本の航空自衛隊の戦闘機と比べてどうなのか。
ミリタリー初心者でもわかるように、できるだけ平易な言葉で解説していきたい。では、中国空軍の「今」を見ていこう。
中国戦闘機開発の歴史──模倣から自主開発へ

本題に入る前に、中国の戦闘機開発の歩みを簡単に振り返っておこう。
1950〜70年代:ソ連機のライセンス生産時代
建国間もない中華人民共和国にとって、航空戦力の整備は最優先課題だった。朝鮮戦争では米軍のF-86セイバーと対峙し、技術力の差を痛感する。
中国が最初に手に入れた近代的戦闘機は、ソ連製のMiG-15やMiG-17だった。これらをライセンス生産し、「殲撃5型(J-5)」「殲撃6型(J-6)」として配備していく。Jは「殲撃機(せんげきき)」の頭文字で、戦闘機を意味する。
だが1960年代に中ソ関係が悪化すると、技術供与は途絶える。中国は自力での開発を余儀なくされ、独自設計の「J-7」(MiG-21の影響を受けた軽量戦闘機)や「J-8」(大型迎撃戦闘機)を開発した。しかし西側諸国との技術格差は開く一方だった。
1990年代:ロシアからの技術導入
冷戦終結後、中国は再びロシア(旧ソ連)に接近する。1990年代初頭、ロシアから第4世代戦闘機Su-27を購入。この機体は、当時の中国空軍にとって「革命」だった。
Su-27は大型の双発戦闘機で、高い機動性と長い航続距離を持つ。中国はこれをライセンス生産する権利を獲得し、「J-11」として国産化に成功する。
さらに、艦載機Su-33のプロトタイプを入手し、これを元に「J-15」を開発。多用途戦闘攻撃機Su-30MKKも導入し、のちの「J-16」開発の礎とした。
2000年代〜現在:独自開発とステルス機の実用化
2000年代に入ると、中国の航空技術は飛躍的に進歩する。
2006年、独自設計の軽量マルチロール戦闘機「J-10」が実戦配備される。これは中国初の完全な国産設計機として注目を集めた。
そして2011年、ステルス戦闘機「J-20」の試験飛行が公開される。西側諸国は衝撃を受けた。「中国がここまで来たのか」と。
2016年にJ-20は正式配備され、2025年現在では200機以上が配備されているとみられる。中国は、アメリカ、ロシアに次いで第5世代ステルス戦闘機を実用化した3番目の国となったのだ。
こうして中国空軍は、「模倣」から「自主開発」へ、そして「技術先進国」へと駆け上がっていった。
では、具体的な機体を見ていこう。
J-10「猛龍」──中国初の国産マルチロール戦闘機

開発の背景と特徴
「J-10」は、中国が完全に独自設計した初めてのマルチロール戦闘機だ。
開発が始まったのは1980年代後半。当時の中国空軍は、旧式化したJ-7やJ-8に代わる新世代機を必要としていた。設計はイスラエルの「ラビ」戦闘機の影響を受けたとも言われるが、中国側はこれを否定している。
J-10は単発エンジン、カナード(前翼)とデルタ翼を組み合わせた独特の機体形状を持つ。この設計により、高い機動性と優れた運動性能を実現している。
2006年に正式配備が開始され、現在では約400機が運用されている。
性能とスペック
- 全長: 約16.4m
- 全幅: 約9.8m
- 最大速度: マッハ2.0
- エンジン: AL-31FN(ロシア製)またはWS-10A/B(国産エンジン)
- 武装: 30mm機関砲、各種空対空ミサイル、空対地ミサイル、爆弾
J-10の大きな特徴は、その「軽さ」と「柔軟性」だ。
最大離陸重量は約19トンで、日本のF-2(約22トン)よりも軽い。このため運動性能が高く、空中戦(ドッグファイト)では侮れない相手となる。
また、マルチロール機として、制空任務だけでなく対地攻撃もこなせる。精密誘導爆弾やミサイルを搭載し、地上目標への攻撃も可能だ。
J-10の派生型
J-10にはいくつかのバリエーションがある。
- J-10A: 初期生産型。ロシア製エンジンAL-31FNを搭載。
- J-10B: アビオニクス(電子機器)を強化した改良型。パッシブ・フェーズドアレイ・レーダー(PESA)を搭載。
- J-10C: 最新型。アクティブ・フェーズドアレイ・レーダー(AESA)を搭載し、国産エンジンWS-10Bへの換装も進む。ステルス性も若干向上。
- J-10S: 複座練習機型。
現在の主力はJ-10Cで、最も近代化された型だ。レーダー性能の向上により、同時に複数の目標を追尾・攻撃できる能力が大幅に向上している。
日本のF-2との比較
「J-10って、日本のF-2に似てない?」
そう思った人は鋭い。両機とも単発エンジン、マルチロール機、カナード付きデルタ翼という共通点がある。
ただし設計思想は異なる。
F-2は、もともと「対艦攻撃」を主任務とする支援戦闘機として開発された。レーダーは対艦探知に特化し、対艦ミサイル4発を搭載できる。一方、J-10は「制空戦闘」と「対地攻撃」の両方をバランスよくこなすことを目指している。
また、F-2は日米共同開発でF-16をベースにしており、アメリカの技術が随所に入っている。J-10は完全に中国独自の設計だ(イスラエルの影響はあるかもしれないが)。
機動性ではJ-10が、電子戦能力ではF-2が優れているという評価が一般的だ。実戦でどちらが有利かは、パイロットの練度や作戦環境にもよるだろう。
実戦配備と運用
J-10は中国空軍の主力戦闘機として、各地の航空基地に配備されている。特に、東シナ海や南シナ海に面した沿岸部の基地には重点的に配備され、日本や台湾への対応を意識した配置となっている。
また、パキスタンへの輸出も行われており、「JF-17」との混同を避けるため「J-10CE」として輸出されている。これは中国製戦闘機の初の本格的な海外輸出となった。
中国空軍のアクロバットチーム「八一飛行表演隊」もJ-10を使用しており、国内外の航空ショーで華麗な飛行を披露している。
J-11シリーズ──Su-27の血を引く重戦闘機

Su-27からJ-11への系譜
中国空軍の「背骨」を支えてきたのが、J-11シリーズだ。
この機体の源流は、ロシアの名機Su-27フランカーにある。Su-27は1980年代にソ連が開発した大型双発戦闘機で、当時の西側F-15イーグルに対抗するために作られた。長大な航続距離と高い格闘戦能力を誇り、「空のバレリーナ」とも呼ばれた優美な機動性能を持つ。
中国は1990年代初頭、このSu-27を購入し、1998年にはライセンス生産の権利を獲得。「J-11A」として国産化を開始した。
だが中国はここで終わらなかった。
ロシアとのライセンス契約を一方的に打ち切り、独自に改良を進めて「J-11B」を開発。これはロシア側の反発を招いたが、中国は自国製のエンジンやアビオニクスを搭載した「純国産機」への道を歩み始めた。
J-11Bの特徴と性能
J-11Bは、J-11シリーズの中で最も重要な型だ。
- 全長: 約21.9m
- 全幅: 約14.7m
- 最大速度: マッハ2.35
- エンジン: WS-10A「太行」(国産ターボファンエンジン、双発)
- 武装: 30mm機関砲、PL-12中距離空対空ミサイル、PL-8短距離ミサイル
最大の変更点は、ロシア製エンジンAL-31Fから国産のWS-10Aへの換装だ。これにより、エンジン供給をロシアに依存しなくなった。また、レーダーもロシア製からAESAレーダーへと刷新され、探知距離と追尾能力が向上している。
機体構造も改良され、複合材料の使用比率が増加。重量が軽減され、機動性と航続距離が向上した。
J-11BSとJ-11D
J-11BSは、J-11Bの複座型(2人乗り)だ。練習機としての役割だけでなく、長距離攻撃任務での運用も想定されている。後席には兵器管制官が座り、レーダーや武器システムの操作を担当する。
J-11Dは、J-11シリーズの最新型で、さらなる近代化が施されている。AESAレーダーの性能向上、ステルス性の改善(吸気口の形状変更など)、空中給油プローブの追加などが行われた。ただし、J-11Dの生産数は限定的で、後述するJ-16の方が優先されている模様だ。
航続距離の長さが最大の武器
J-11シリーズの最大の強みは、その「航続距離」だ。
機内燃料だけで約3,000km以上の航続距離を持ち、増槽(外部燃料タンク)を装着すればさらに延びる。これは、広大な中国の国土を防衛するために不可欠な能力だ。
また、長い航続距離は、遠方への威嚇飛行や、空母打撃群への護衛任務でも有利に働く。尖閣諸島や台湾周辺での長時間の哨戒飛行も、この航続距離があってこそだ。
日本の航空自衛隊が運用するF-15Jも大型戦闘機で航続距離は長いが、J-11はそれに匹敵、あるいは上回る可能性がある。
日本のF-15Jとの比較
J-11シリーズとF-15Jは、よく比較される。
どちらも大型双発戦闘機で、制空任務を主としている。外見も似ているため、遠目には区別がつきにくい。
ただし、設計思想には違いがある。
F-15は「速度」と「上昇力」に特化した設計で、敵を見つけたら素早く接近し、ミサイルで撃墜する戦術を得意とする。一方、Su-27系列(J-11含む)は「機動性」と「格闘戦能力」を重視し、ドッグファイトでの優位性を追求している。
最新のアビオニクスでは、改修されたF-15Jの方が優れているという見方が多い。特に、日本が導入を進めているF-15J「Pre-MSIP」機の能力向上型は、AESAレーダーや最新のミサイルを搭載し、J-11Bに対して有利と考えられている。
ただし、中国のJ-11の配備数は日本のF-15Jを大きく上回る。数の差は無視できない要素だ。
J-15「飛鮫」──中国初の艦載戦闘機
空母運用のための改造
「空母を持っても、載せる飛行機がなければ意味がない」
中国が空母「遼寧」を手に入れたとき、まさにこの問題に直面した。
空母から運用する艦載機は、通常の戦闘機とは異なる。着艦フックを持ち、短距離での離陸能力が必要で、機体構造も着艦の衝撃に耐えられるよう強化しなければならない。
中国が手本にしたのは、ロシアの艦載機Su-33だった。ただし、ロシアはSu-33の輸出を拒否。そこで中国は、ウクライナから未完成のSu-33プロトタイプ(T-10K-3)を入手し、これをリバースエンジニアリング(分解して技術を解析すること)して独自の艦載機を作り上げた。
それが「J-15」だ。
J-15の特徴と性能
J-15は、J-11Bをベースに艦載機化した機体だ。
- 全長: 約21.9m
- 全幅: 約14.7m(翼は折りたためる)
- 最大速度: マッハ2.4
- エンジン: WS-10H(国産エンジン、双発)
- 武装: 30mm機関砲、各種空対空・空対艦ミサイル
機体の外見はJ-11とほぼ同じだが、艦載機としての特徴がいくつかある。
まず、着艦フックが機体後部に装備されている。空母の着艦ワイヤーを引っ掛けて停止するための装置だ。
また、主脚(ランディングギア)が強化され、着艦時の衝撃に耐えられるようになっている。さらに、前脚には「スキージャンプ台」からの離陸を補助するための牽引バーが取り付けられている。
空母「遼寧」と「山東」は、カタパルト(射出機)を持たない「スキージャンプ式」の空母だ。そのため、J-15は自力で加速して飛び立つ必要がある。これは燃料や武装の搭載量に制約をもたらす。
空母「福建」とカタパルト対応型
2022年、中国は3隻目の空母「福建」を進水させた。この空母は、中国初の「カタパルト式」空母で、電磁カタパルト(EMALS)を搭載している。
これにより、J-15はより重い状態で発艦できるようになる。すでにカタパルト射出に対応したJ-15の改良型(J-15T)の開発が進んでおり、福建での運用が予定されている。
カタパルト式空母の実用化は、中国海軍の航空戦力を大きく向上させる。より多くの燃料と武器を搭載した戦闘機が、短時間で連続発艦できるようになるからだ。
艦載機としての課題
ただし、J-15にも課題はある。
最大の問題は、機体が「重すぎる」ことだ。Su-33系列の機体は大型で、艦載機としては重量過多とされる。このため、スキージャンプ式空母からの運用では、燃料と武装の搭載量が制限される。
アメリカ海軍のF/A-18スーパーホーネットや、最新のF-35Cと比べると、運用の柔軟性では劣る。
また、エンジンの信頼性にも課題があるとされる。国産エンジンWS-10Hは改良が続けられているが、ロシア製エンジンと比べるとまだ差があるという指摘もある。
それでも、中国は着実に艦載機運用のノウハウを蓄積している。訓練も繰り返され、実戦配備可能なレベルに達している。
日本への影響
中国の空母打撃群が日本近海に展開した場合、J-15は脅威となる。
空母からの航空攻撃能力は、地上基地から飛ぶ戦闘機とは異なる柔軟性を持つ。空母が移動することで、攻撃の起点が変わるからだ。
日本の海上自衛隊も、「いずも型」護衛艦の空母化を進めており、F-35Bの運用を開始している。今後、東シナ海や南シナ海で、日中の艦載機が対峙する日が来るかもしれない。
【2025年最新版】海上自衛隊の艦艇完全ガイド|護衛艦から潜水艦まで全艦種を徹底解説
J-16──多用途戦闘攻撃機のエース

Su-30MKKの後継として
「戦闘機」と「攻撃機」の両方の役割をこなせる機体──それが「マルチロール機」だ。
J-16は、まさにその理想を追求した機体と言える。
開発のベースとなったのは、ロシアから導入した多用途戦闘攻撃機Su-30MKKだ。Su-30は、Su-27をベースに対地攻撃能力を強化した機体で、中国空軍は2000年代初頭に約100機を購入した。
中国はこのSu-30を徹底的に研究し、独自の改良を加えて「J-16」を開発した。初飛行は2011年、正式配備は2015年頃とされる。
J-16の特徴と性能
J-16は、見た目はJ-11に似ているが、中身は大きく異なる。
- 全長: 約21.9m
- 全幅: 約14.7m
- 最大速度: マッハ2.2
- エンジン: WS-10B(国産エンジン、双発、推力増強型)
- 武装: 30mm機関砲、最大12発の各種ミサイル・爆弾
最大の特徴は、複座(2人乗り)であることだ。前席にパイロット、後席には兵器システム操作員(WSO)が座る。この2人体制により、複雑な対地攻撃任務でもスムーズに遂行できる。
また、J-16は中国初の「AESAレーダー搭載戦闘機」として量産された。AESAレーダーは、従来のレーダーよりも探知距離が長く、複数の目標を同時に追尾できる。さらに、電子妨害にも強い。
多彩な兵装オプション
J-16の真骨頂は、その「兵装の多様性」にある。
機体には12のハードポイント(武器を取り付ける場所)があり、様々なミサイルや爆弾を搭載できる。
- 空対空戦闘: PL-10短距離ミサイル、PL-12/15中〜長距離ミサイル
- 対地攻撃: 精密誘導爆弾、クラスター爆弾、無誘導爆弾
- 対艦攻撃: YJ-83K対艦ミサイル
- 電子戦: 電子妨害ポッド
特に注目すべきは、PL-15長距離空対空ミサイルだ。射程は200km以上とされ、アメリカのAIM-120 AMRAAMを上回る可能性がある。これにより、J-16は敵機を遠距離から攻撃できる。
J-16Dという特殊な存在
J-16には、特殊な派生型がある。それが「J-16D」だ。
J-16Dは、電子戦専用機として開発された。機首のレーダーは撤去され、その代わりに電子妨害装置が搭載されている。翼端にも電子戦ポッドが取り付けられ、敵のレーダーや通信を妨害する能力を持つ。
役割としては、アメリカ海軍のEA-18Gグラウラー(電子戦機)に近い。敵の防空網を無力化し、味方の戦闘機や爆撃機が安全に侵入できるよう支援する。
台湾有事のシナリオでは、J-16Dが台湾の防空レーダーを妨害し、その隙にJ-16やJ-20が侵入する、という作戦が想定されている。
日本のF-2やF-15との比較
J-16の役割は、日本で言えばF-2に近い。
F-2も、対地・対艦攻撃を主任務とするマルチロール機だ。特に対艦攻撃では、日本独自の対艦ミサイルASM-2を4発搭載でき、中国海軍の艦艇にとって大きな脅威となる。
ただし、J-16は機体が大きく、搭載能力ではF-2を上回る。また、複座である点も、長時間の任務では有利だ。
一方、最新のF-15J改修型も、対地攻撃能力が付与されつつある。JDAM(精密誘導爆弾)の運用能力を持ち、制空戦闘だけでなく対地攻撃もこなせる。
今後、東シナ海や南シナ海で対峙する可能性が高いのは、このJ-16と日本のF-2、F-15J改だろう。
J-20──中国が誇る第5世代ステルス戦闘機

衝撃のデビュー
2011年1月11日。
この日、中国の航空ファンと世界の軍事専門家は、目を疑った。
成都の飛行場で、見たこともない黒い戦闘機が離陸したのだ。鋭角的な機首、菱形の機体形状、V字型の尾翼──明らかに「ステルス機」だった。
それが「J-20」の初飛行だった。
当時、第5世代ステルス戦闘機を実用化していたのは、アメリカのF-22とF-35だけだった。ロシアのSu-57はまだ試作段階。そこに、突如として中国が割り込んできたのだ。
「中国がここまで進んでいたとは…」
西側諸国の驚きは大きかった。そしてその衝撃は、今も続いている。
J-20の設計思想と特徴
J-20は、中国が独自に設計した第5世代戦闘機だ。
- 全長: 約20.3m
- 全幅: 約12.9m
- 最大速度: マッハ2.0(推定)
- エンジン: WS-10C、または最新のWS-15「峨眉」(国産エンジン、双発)
- 武装: 機内ウェポンベイに空対空ミサイル(PL-12、PL-15、PL-10)
J-20の最大の特徴は、その「ステルス性」だ。
レーダー反射を減らすため、機体表面は滑らかに設計され、鋭角的な形状をしている。エンジンの吸気口は上部に配置され、レーダー波がエンジンブレードに直接当たらないよう工夫されている。また、全ての武装は機内のウェポンベイに格納され、外部に武器を吊るすことでレーダー反射面積が増えるのを避けている。
カナード(前翼)の謎

J-20の特徴的な外見として、機首の後ろに小さな「カナード」(前翼)がある。
これは珍しい。
アメリカのF-22やF-35にはカナードがない。ロシアのSu-57にもない。なぜJ-20だけがカナードを持つのか?
理由は、「機動性の向上」だ。
カナードがあると、高い迎え角(機体を大きく傾けた状態)での飛行が安定し、急旋回がしやすくなる。ドッグファイト(近接空中戦)では有利だ。
ただし、カナードはレーダー反射を増やす可能性がある。つまり、ステルス性と機動性のトレードオフだ。中国は、「ステルス性を多少犠牲にしても、機動性を確保する」という判断をしたのかもしれない。
あるいは、中国のステルス技術がまだ発展途上だった時期の設計判断が、そのまま残っているのかもしれない。
エンジンの進化──WS-15の登場
J-20の最大の課題は、長らく「エンジン」だった。
初期型のJ-20は、ロシア製エンジンAL-31FNを搭載していた。これはJ-10にも使われているエンジンだが、J-20のような大型機には推力不足だった。そのため、超音速巡航(アフターバーナーを使わずに音速を超える飛行)ができず、機動性も制限されていた。
次に、国産エンジンWS-10Cへの換装が進んだ。これで推力は改善されたが、まだ理想には届かなかった。
そして2021年頃から、待望の新型エンジン「WS-15(峨眉)」の搭載が始まった。
WS-15は、推力18トン級のターボファンエンジンで、F-22に搭載されるF119エンジンに匹敵すると言われる。これにより、J-20はようやく「本来の性能」を発揮できるようになった。
超音速巡航が可能になり、機動性も大幅に向上。中国空軍の戦力は、一段階引き上げられたと見られている。
J-20の配備状況と運用
J-20は2017年に正式配備が開始され、2025年現在では約200〜250機が配備されているとみられる。
配備先は、中国空軍のエリート部隊だ。特に、東部戦区(台湾方面を担当)や南部戦区(南シナ海方面)に重点的に配備されている。
また、J-20には複座型(2人乗り)の開発も進んでおり、将来的には無人機を指揮する「マザーシップ」としての運用も視野に入れているとされる。
F-35やF-22との比較
「J-20は、F-22やF-35に勝てるのか?」
これは誰もが気になる疑問だが、答えは「わからない」だ。
ステルス戦闘機同士の戦いは、実戦ではまだ起きていない。シミュレーションや演習の結果も、公開されていない。
ただし、いくつかの推測はできる。
ステルス性: F-22が最も優れているとされる。J-20はカナードがあるため、完全なステルスではない可能性がある。F-35は汎用性を重視し、ステルス性はF-22よりやや劣る。
機動性: J-20はカナードと推力偏向ノズル(エンジンの噴射方向を変える装置)により、高い機動性を持つ。F-22も推力偏向ノズルを持ち、機動性は世界最高レベル。F-35は機動性よりも情報戦とネットワーク戦を重視している。
センサーとアビオニクス: F-35は、最先端のセンサー融合技術を持ち、戦場の情報を統合して表示できる。この点では、F-35が最も優れている。J-20のアビオニクスは急速に進化しているが、まだF-35には及ばないと見られる。
航続距離: J-20は大型機で、機内燃料タンクが大きい。航続距離ではF-22やF-35を上回る可能性がある。
結論として、J-20は「決して侮れない戦闘機」だが、F-22やF-35と比べて「明確に劣る」わけでも「明確に優れる」わけでもない。実戦での結果は、パイロットの技量、作戦環境、支援体制などに大きく左右されるだろう。
現役限定 世界最強戦闘機ランキングTOP10|徹底比較2025年版
その他の戦闘機──J-7、J-8、J-31
J-7──いまだ現役の軽量戦闘機
「J-7」は、中国空軍の「大ベテラン」だ。
ベースとなったのは、ソ連のMiG-21。1960年代から生産が始まり、改良を重ねながら1990年代まで製造が続いた。総生産数は2,000機以上とも言われる。
小型で軽量、整備が簡単、コストも安い。発展途上国への輸出も多く、今も世界各地で使われている。
中国空軍でも、2025年現在まだ一部のJ-7が現役だ。主に訓練機や二線級部隊で使用されている。
「いつまで飛ばすんだ」と思うかもしれないが、それだけ堅実な設計だったということだろう。
J-8──大型迎撃戦闘機の挑戦
「J-8」は、中国が独自に開発した大型迎撃戦闘機だ。
1960年代、中国はソ連との関係悪化で新型機の供給が途絶えた。そこで、独力で高性能機を作ろうと始まったのがJ-8プロジェクトだ。
J-7を拡大し、エンジンを2基にした設計で、高速・高高度飛行を重視した。初飛行は1969年。
ただし、開発は順調ではなく、実用化は1980年代に入ってからだった。J-8IIという改良型も作られたが、性能は西側の同世代機には及ばなかった。
2001年には、海南島沖でアメリカのEP-3電子偵察機と衝突する「海南島事件」が起き、J-8IIが墜落してパイロットが死亡した。この事件は、J-8の限界を象徴する出来事となった。
現在、J-8はほぼ全機が退役し、博物館や記念碑として残されている。
J-31/FC-31──第5世代の「弟分」?
「J-31」は、J-20と並ぶもう一つのステルス戦闘機だ。
ただし、その立ち位置は少し特殊だ。
J-31(FC-31「鶻鷹」とも呼ばれる)は、中国航空工業集団(AVIC)が自主開発した中型ステルス機で、J-20よりも小型だ。エンジンは双発で、外見はアメリカのF-35に似ている。
初飛行は2012年。だが、中国空軍はこの機体をすぐには採用しなかった。理由は、すでにJ-20の開発と配備に全力を注いでいたからだ。
では、J-31は何のために作られたのか?
一つの目的は「輸出」だ。J-20は中国の最高機密であり、輸出はされない。だが、J-31なら海外への販売が可能だ。パキスタンなどが関心を示しているとされる。
もう一つの目的は「艦載機」だ。J-15に代わる次世代艦載ステルス機として、J-31の艦載型が開発中という情報がある。機体サイズが小さいため、空母での運用に適しているからだ。
2025年現在、J-31はまだ正式には配備されていない。だが、中国の次の一手として、注目しておくべき機体だ。
中国空軍の戦闘機配備状況と戦略
総保有数と配置
中国人民解放軍空軍(PLAAF)と海軍航空隊が保有する戦闘機の総数は、約1,500機とされる。
内訳はおおよそ以下の通りだ。
- 第5世代(ステルス機): J-20 約200〜250機
- 第4.5世代(近代化された第4世代機): J-10C、J-11B、J-16、J-15など 約700〜800機
- 第4世代: J-10A/B、J-11A、Su-30MKKなど 約300〜400機
- 旧世代機: J-7、J-8など 約200機(段階的に退役中)
配備地域は、中国の5つの戦区に分かれている。
- 東部戦区: 台湾方面を担当。最新鋭のJ-20やJ-16が重点配備。
- 南部戦区: 南シナ海方面。海軍航空隊のJ-15や、J-11が配備。
- 北部戦区: 朝鮮半島やロシア国境方面。J-11やJ-16が配備。
- 西部戦区: インド国境方面。高地での運用を考慮した機体配備。
- 中部戦区: 首都防衛。エリート部隊が駐屯。
A2/AD戦略と「接近阻止・領域拒否」
中国空軍の戦略を語る上で欠かせないのが、「A2/AD」だ。
A2/ADとは、「Anti-Access / Area Denial(接近阻止・領域拒否)」の略で、敵(主にアメリカ軍)が中国近海に接近するのを阻止し、中国の影響圏内での活動を妨げる戦略のことだ。
戦闘機はこの戦略の重要な一部だ。
例えば、台湾有事の際、アメリカの空母打撃群が台湾海峡に接近しようとする。これを阻止するため、中国はJ-16やJ-11で空母艦載機を迎撃し、J-20で制空権を確保し、さらにロケット軍の弾道ミサイルで空母そのものを攻撃する。
このように、複数の手段を組み合わせて、敵を「近づけさせない」のがA2/AD戦略だ。
無人機との連携
中国空軍は、有人機と無人機の連携にも力を入れている。
最近では、「ロイヤル・ウィングマン」と呼ばれるコンセプトが注目されている。これは、有人戦闘機(J-20など)が無人機を指揮し、チームとして戦う方式だ。
無人機は偵察、電子戦、おとり、あるいは攻撃任務をこなし、有人機はそれらを統括する。こうすることで、有人機のパイロットのリスクを減らしつつ、戦力を拡大できる。
中国はすでに「GJ-11」という大型ステルス無人攻撃機を実用化しており、J-20との連携運用の試験も行われているとされる。
日本の航空自衛隊との比較──数と質の戦い
数の圧倒的な差
「数」だけで見れば、中国空軍は日本を圧倒している。
航空自衛隊の戦闘機は約300機(F-15J、F-2、F-35Aなど)。中国の1,500機と比べれば、5分の1だ。
もちろん、中国は広大な国土を防衛する必要があり、すべての戦闘機を日本方面に向けられるわけではない。それでも、東部戦区だけで数百機を日本方面に投入できる。
「数は力」だ。いくら質が高くても、圧倒的な数の差は覆しにくい。
質の優位性は日本に?
ただし、質では日本が優位という見方が多い。
航空自衛隊のF-35Aは、世界最先端のステルス戦闘機だ。センサー融合技術やネットワーク戦能力は、中国のどの戦闘機よりも優れている。
また、F-15Jも近代化改修が進んでおり、AESAレーダーや最新のミサイルを搭載した機体が増えている。
さらに、パイロットの練度も重要だ。航空自衛隊のパイロットは、年間約150〜200時間の飛行訓練を行う。一方、中国空軍のパイロットは、以前は訓練時間が少なかったが、近年は増加傾向にあり、エリート部隊では日本と同等レベルに達しているとも言われる。
在日米軍という「第三の要素」
忘れてはならないのが、在日米軍の存在だ。
日本には、嘉手納基地や三沢基地に米空軍のF-15CやF-16が常駐している。また、岩国基地には海兵隊のF-35Bが配備されている。さらに、横須賀を母港とする空母「ロナルド・レーガン」には、F/A-18やF-35Cが搭載されている。
つまり、日中が対峙した場合、実際には「日米連合 vs 中国」という構図になる。この場合、戦力バランスは大きく変わる。
中国空軍にとって、アメリカの介入は最大の懸念事項だ。だからこそ、A2/AD戦略で米軍の接近を阻止しようとしているのだ。
まとめ──模倣から自主開発へ、そして技術大国へ
中国空軍の戦闘機を一通り見てきて、どう感じただろうか。
僕が強く感じるのは、中国の「進化の速さ」だ。
30年前、中国空軍は旧式のMiG-21のコピーを飛ばしていた。それが今では、独自設計のステルス戦闘機を200機以上配備し、空母艦載機を運用し、国産エンジンの開発にも成功している。
この変化は、驚異的と言うほかない。
もちろん、すべてが完璧なわけではない。エンジン技術はまだ発展途上だし、ステルス性能も西側の最高水準には届いていないかもしれない。パイロットの練度にもばらつきがある。
だが、確実に差は縮まっている。
日本の航空自衛隊は、世界有数の練度と装備を誇る。だが、それに安住することはできない。中国空軍は、着実に力をつけている。そして、その背後には国家の膨大な投資と、技術者たちの努力がある。
我々日本人としては、相手を正しく理解し、冷静に対処することが必要だ。過小評価も、過大評価も、どちらも危険だ。
そして、自衛隊の装備と練度を維持・向上させ続けることが、平和を守る最良の方法だと僕は信じている。
この記事が、中国空軍の実態を知る一助となれば幸いだ。













コメント