UH-60ブラックホークと聞いて、多くの人が思い出すのは映画『ブラックホーク・ダウン』かもしれない。黒く塗られたヘリが、砂ぼこりの舞う市街地の上を低く飛んでいく。あの映像の印象が強すぎて、ブラックホークといえば「黒い軍用ヘリ」だと思っている人も多いと思う。
ところが、日本の空を飛ぶブラックホークは黒くない。空自の救難ヘリUH-60Jは、青を基調にした洋上迷彩で、陸自のUH-60JAは濃い緑だ。名前も、自衛隊では型式の数字から「ロクマル」と呼ばれることが多い。同じブラックホークの血を引きながら、日本では「戦う黒いヘリ」より「人を助けるヘリ」として知られている。
この記事では、UH-60がどんな経緯で生まれたのかを押さえたうえで、米軍の型と、日本の陸自・空自・海自の型の違いを系譜として整理する。救難員の仕事や、海自の対潜ヘリSH-60の新旧比較は、それぞれの記事に任せることにする。
- UH-60は、ベトナム戦争で使われたUH-1の後継として、米陸軍が1970年代に選んだ多用途ヘリ
- 撃たれても落ちにくく、墜落しても乗員が助かりやすいことを重視して設計された
- 基本の形から、陸軍の輸送型、海軍の対潜型、空軍の救難型など、多くの派生型が生まれ、5,000機以上が作られた
- 日本では三菱重工がライセンス生産し、空自・海自の救難用UH-60J、陸自の多用途UH-60JA、海自の対潜用SH-60J・K・Lとして使われてきた
UH-60とはどんなヘリか
ベトナムの教訓から生まれた
UH-60の前に、米陸軍の主力ヘリだったのがUH-1、通称ヒューイだ。ベトナム戦争で兵士を運び、負傷者を運び、膨大な数が飛んだ。そして、膨大な数が撃ち落とされた。

写真:Staff Sgt. Richard Wrigley/出典(パブリックドメイン)
その教訓から、米陸軍は1970年代、UH-1の後継となる多用途ヘリを求めた。条件は、より多くの兵士を速く運べること、そして、撃たれても飛び続けられ、墜落しても乗員が助かりやすいことだった。この競争に勝ったのが、シコルスキーのUH-60だ。試作機は1974年10月に初飛行し、1979年6月から米陸軍で使われ始めた。
「落ちにくく、落ちても助かる」設計
UH-60の設計で何より大事にされたのは、生き残りやすさだった。エンジンを2基積み、片方が止まっても飛べる。重要な部品は撃たれても壊れにくく作られ、燃料タンクは墜落しても燃料が漏れにくい構造になっている。座席も、墜落の衝撃をやわらげるように作られている。
ベトナムでヘリの乗員を数多く失った経験が、そのまま設計図に書き込まれているわけだ。私は、UH-60の本当の強さは、速さや運べる量よりも、この「乗っている人を死なせない」ことへのこだわりにあると思っている。それが、のちに救難ヘリとして日本で重宝される理由にもつながっていく。
基本の姿
UH-60は、頭上のメインローター一つと、しっぽのテールローターを持つ、ふつうの形のヘリだ。胴体の左右には大きなスライドドアがあり、兵士を素早く乗り降りさせられる。米陸軍の最新のUH-60Mでは、兵士11人を乗せ、胴体の下に約4トンの荷物を吊るせる。エンジンは、GEのT700ターボシャフトを2基積んでいる。
5,000機の系譜|一つの機体から、陸・海・空へ
UH-60の基本設計は、とても素直で拡張しやすかった。そのため、陸軍の輸送型から始まり、海軍、空軍、沿岸警備隊、そして世界の軍や官庁へと、次々に派生型が生まれた。作られた機数は、2023年1月の時点で5,000機に達している。
| 系統 | 主な型 | 役割 |
|---|---|---|
| 米陸軍 | UH-60A/L/M | 兵士・物資の輸送 |
| 米陸軍 | HH-60M | 救急搬送 |
| 米陸軍 | MH-60K/M | 特殊作戦の輸送 |
| 米海軍 | SH-60、MH-60R/S | 対潜・艦艇での多用途 |
| 米空軍 | HH-60G/W | 戦闘捜索救難 |
| 米沿岸警備隊 | MH-60T | 海難救助 |
| 輸出・民間 | S-70系 | 各国の軍・警察・消防など |
| 日本 | UH-60J、UH-60JA、SH-60J/K/L | 救難・多用途・対潜 |

名前の頭の文字は、役割を表している。Uは多用途、Sは対潜、Hは救難、Mは特殊作戦や多任務だ。頭の文字を見れば、そのブラックホークが何をするための機体か、おおよそ分かる。
日本のブラックホーク|三菱重工の「ロクマル」
日本のUH-60系は、すべて三菱重工がライセンス生産している。同じ基本設計から、自衛隊のそれぞれの仕事に合わせて手を加えたものだ。
空自・海自のUH-60J|救難の専門家
最初に日本に入ってきたのは、救難用のUH-60Jだ。1991年に引き渡しが始まり、1992年から使われている。空自と海自が、遭難した人を救うために使ってきた。
UH-60Jには、米陸軍の輸送型にはない装備がたくさんある。機体の左右に張り出した大きな増槽、つまり追加の燃料タンク。遭難者を吊り上げるホイスト。夜や悪天候でも海の上の人を探せるレーダーと、機首の赤外線の暗視装置。そして、横を見張りやすいようにふくらませた窓。どれも、遠くの海で人を見つけ、吊り上げて連れ帰るための装備だ。
空自では、固定翼の救難捜索機U-125Aが広い海をすばやく探し、見つけた場所にUH-60Jが向かって吊り上げる、という二機一組で働く。空自の救難の全体像は航空自衛隊の救難隊にまとめている。
空自は2010年に、古いUH-60Jを置き換える新しいUH-60Jを40機発注した。新しい機体には、空中で燃料を受け取るためのプローブがついている。空自のKC-130Hから燃料をもらえば、さらに遠くの海まで救助に行ける。空中給油の仕組みは空中給油の解説で書いた。2022年3月の時点で、空自は37機を使っていた。
海自のUH-60Jは、1991年12月から30年以上働き、2024年7月に最後の機体が退役した。これからの海の救難は、空自と海上保安庁が担っていくことになる。
陸自のUH-60JA|多用途の働き手
陸自のUH-60JAは、1995年に発注され、1998年から引き渡しが始まった。米陸軍のUH-60Lをもとにした多用途型で、赤外線の暗視装置、カラーの気象レーダー、GPS、暗視ゴーグルに対応した操縦席、電線を切るためのワイヤーカッターなどを加えている。
仕事は、隊員や物資の輸送、ロープを使った隊員の降下、離島からの急患の輸送など、文字どおり何でも屋だ。武装した隊員を10人あまり乗せられ、山の多い日本のほとんどの地域で飛べる高さまで上がれる。
ただ、陸自は当初70機を買う計画だったが、2022年3月の時点で40機にとどまっている。高い値段が響いたのだ。陸自の多用途ヘリの主力は、より安いヘリに移っていった。SUBARUが作る新しい多用途ヘリについてはSUBARUの防衛事業の解説で触れている。
海自のSH-60|同じ血を引く対潜ヘリ
海自の対潜ヘリSH-60J、SH-60K、SH-60Lも、同じUH-60の系譜にある。艦艇に載って潜水艦を探すため、吊り下げ式のソナーやレーダーを積んだ型だ。ここでは系譜の中での位置づけだけにとどめて、新旧の違いはSH-60LとSH-60Kの比較に任せたい。
日本の型の早見表
| 型 | 使う自衛隊 | 主な仕事 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| UH-60J | 空自(海自は2024年に退役) | 救難 | 大きな増槽、ホイスト、捜索用レーダー、ふくらんだ窓、新しい機体は空中受油のプローブ |
| UH-60JA | 陸自 | 輸送・多用途 | 暗視装置、気象レーダー、ワイヤーカッター |
| SH-60J/K/L | 海自 | 対潜 | 吊り下げ式ソナー、捜索レーダー、艦艇での運用 |

なぜ救難にUH-60が選ばれたのか
空自がUH-60Jの前に救難に使っていたのは、前後に2枚のローターを持つKV-107だった。川崎重工が作り続けたタンデムローターのヘリで、胴体が広く、たくさんの人を乗せられた。それをUH-60Jに切り替えた理由を、私なりに整理すると三つになる。

写真:海上自衛隊舞鶴地方総監部/出典(CC BY 4.0)
一つ目は、遠くまで速く行けることだ。日本の救難は、海の上の遭難が多い。漁船や貨物船、訓練中の航空機の乗員が、陸地から何百kmも離れた場所で助けを待っていることもある。大きな増槽を積んだUH-60Jは、そこまで速く飛んで、帰ってこられる。
二つ目は、生き残りやすさだ。荒れた海の上、夜、吹雪の山。救難ヘリが飛ぶのは、ほかの誰も飛びたがらない天気のときだ。エンジンを2基積み、墜落しても乗員が助かりやすいように作られたUH-60の設計は、救難の現場にそのまま合っていた。
三つ目は、世界中で使われていることだ。部品や整備の知恵が世界中にあり、改良も続く。長く使う救難ヘリにとって、これは大きな安心になる。
東日本大震災では、空自と海自のUH-60Jが、津波に襲われた沿岸で捜索と救助にあたった。屋根の上や浮かんだがれきの上で助けを待つ人を、ホイストで一人ずつ吊り上げていく。救難のために作り込まれた機体が、想定をはるかに超える規模の災害で、その力を見せた。
陸自のUH-60JAも、離島の急患輸送で日々飛んでいる。島の病院では手に負えない患者を、夜でも本土の病院へ運ぶ。派手な戦闘の場面ではなく、こうした地味な仕事の積み重ねこそが、日本のロクマルの本当の顔だと私は思う。
米軍型と日本の型、どこが違うか
同じブラックホークでも、米陸軍の型と日本の型は、ずいぶん性格が違う。
| 項目 | 米陸軍のUH-60 | 日本のUH-60J・JA |
|---|---|---|
| 主な仕事 | 戦場での兵士の輸送 | 救難、災害派遣、輸送 |
| 色 | 濃い緑や黒系 | 空自は青系の洋上迷彩、陸自は濃い緑 |
| 武装 | ドアから撃つ機関銃を積むことが多い | 基本的に積まない |
| 燃料 | 任務に応じて増槽 | 救難型は大きな増槽が標準 |
| 作っている会社 | シコルスキー | 三菱重工(ライセンス生産) |

写真:Amayagan/出典(CC0)
アメリカのブラックホークが「戦場に兵士を運び込むヘリ」なら、日本のロクマルは「遠くから人を連れて帰るヘリ」だ。同じ機体が、使う国の事情によってここまで性格を変える。私はこの違いに、戦後の自衛隊の歩みそのものを見る気がする。
実戦のブラックホーク
1993年、モガディシュ
ブラックホークの名前を世界に知らしめたのは、1993年のソマリアの首都モガディシュでの戦いだ。アメリカの特殊部隊を運んだブラックホーク2機が、市街地で撃墜された。墜落した乗員を救おうとした部隊が激しい戦闘に巻き込まれ、多くの犠牲が出た。
この戦いは、のちに本と映画『ブラックホーク・ダウン』になった。落ちにくく、落ちても助かるように作られたヘリでも、市街地の低い空では、地上から狙われれば無事では済まない。その現実を突きつけた戦いだった。同じ戦いで特殊部隊が使った銃についてはMP5の解説でも触れている。
2011年、特殊作戦
2011年5月には、ウサマ・ビンラディンの拠点を急襲する作戦で、大きく改造されたH-60系のヘリが使われた。そのうち1機は着陸に失敗して大破し、部隊が自ら破壊して現場を去っている。見つかりにくいよう形を変えた特殊な機体だったとされ、その姿は今も謎が多い。
投資家目線|「心臓」と「組み立て」に日本企業
ブラックホークの心臓、T700エンジンを作るのはアメリカのGEエアロスペースだ。日本のUH-60Jは、このT700をIHIがライセンス生産したエンジンを積んできた。機体は三菱重工が組み立てる。一つのヘリの中に、日米の企業の仕事が重なっている。
GEのエンジン事業の全体像はGEエアロスペースの防衛事業に、三菱重工の防衛事業は三菱重工の防衛事業の解説にまとめている。
※この記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではない。株価や業績は変動し、元本割れの可能性もある。投資判断は自己責任で。
映画と模型でブラックホークを見る
ブラックホークの名前を一気に有名にしたのは、やはりこの映画だ。市街地に取り残された兵士たちと、彼らを救おうとする仲間の一晩を描いている。戦争映画として見ごたえがあるのはもちろん、ヘリが戦場でどれほど頼られ、どれほど狙われるかがよく分かる。
同じ系譜の機体を手元に置くなら、海自のSH-60Jのキットがある。UH-60の基本の形に、対潜用の装備を足した姿だ。頭の文字が「U」から「S」に変わると、何が増えるのかを見比べながら組むと面白い。
よくある質問
ブラックホークという名前の由来は?
アメリカの先住民族ソーク族の指導者、ブラック・ホークの名前から取られている。アメリカ陸軍のヘリには、先住民族やその指導者にちなんだ名前がつけられることが多い。
「ロクマル」とは何?
UH-60の「60」を、自衛隊の中で「ロクマル」と読んだ呼び名だ。UH-60J、UH-60JA、SH-60などをまとめて呼ぶときにも使われる。
UH-60JとUH-60JAの違いは?
UH-60Jは救難用で、空自と海自が使ってきた。大きな増槽、遭難者を吊り上げるホイスト、捜索用のレーダーなどを持つ。UH-60JAは陸自の多用途型で、隊員や物資の輸送、急患の輸送などに使う。
UH-60は何人乗れる?
米陸軍のUH-60Mで、兵士11人が基本だ。陸自のUH-60JAは、武装した隊員を10人あまり乗せられる。
CH-47とはどう違う?
CH-47は、前後に2枚のローターを持つ大型の輸送ヘリで、運べる量がずっと多い。UH-60はもっと小回りの利く中型の多用途ヘリだ。CH-47についてはCH-47チヌークの解説で書いた。
まとめ|同じ血を引いて、日本では「人を助けるヘリ」になった
UH-60ブラックホークは、ベトナム戦争の教訓から、撃たれても落ちにくく、落ちても乗員が助かりやすいように設計された多用途ヘリだ。その素直で拡張しやすい設計から、陸・海・空の多くの派生型が生まれ、5,000機に達した。
日本では三菱重工がライセンス生産し、空自・海自の救難用UH-60J、陸自の多用途UH-60JA、海自の対潜用SH-60として使ってきた。アメリカでは戦場に兵士を運ぶヘリが、日本では遠くの海から人を連れて帰るヘリになった。「乗っている人を死なせない」という設計の思想が、日本ではそのまま「遭難した人を死なせない」仕事に生かされているのだと、私は思う。
次に海の上を飛ぶ青いヘリを見かけたら、それが日本のブラックホークだ。ヘリ全体の比較は世界最強ヘリコプター15選でも整理している。







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