戦闘機の名前を聞くと、多くの人はボーイングやロッキード・マーチンといった機体のメーカーを思い浮かべる。でも、その戦闘機を空に押し上げているエンジンは、たいてい別の会社が作っている。
たとえば、アメリカ空軍の最新のF-15EX、海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネット、韓国の国産戦闘機KF-21、そして航空自衛隊のF-2。メーカーも国もばらばらのこれらの機体には、一つの共通点がある。エンジンが、どれもアメリカのGEエアロスペースの設計だということだ。
GEと聞くと、家電や発電所、医療機器まで何でも作っていた巨大企業「ゼネラル・エレクトリック」を思い出す人も多いだろう。ところが、今の「GE」はもう昔のGEではない。2024年に会社を分け、航空エンジンだけに絞った会社として生まれ変わっている。
この記事では、GEエアロスペースの防衛事業を、主力の軍用エンジンを中心に整理する。機体のメーカーとエンジンのメーカーを分けて考えると、戦闘機のニュースの見え方が変わってくるはずだ。
- 今のGEエアロスペースは、2024年に旧GEから発電部門などを切り離して生まれた、航空エンジン専業の会社
- 売上の大半は旅客機のエンジンと整備で、防衛は「防衛・推進技術(DPT)」部門の一部。2025年のDPTの売上は約105億ドル
- 戦闘機用のF110・F414・F404、ヘリコプター用のT700、艦艇用のLM2500など、日米の多くの装備の心臓を担う
- 日本ではIHIが多くのGE系エンジンをライセンス生産しており、日本の防衛と深くつながっている
GEエアロスペースとは|基本情報

写真・素材:Service Depicted: Air Force Camera Operator: GENERAL ELECTRIC/Wikimedia Commons(Public domain)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | GEエアロスペース(GE Aerospace) |
| 本社 | アメリカ・オハイオ州シンシナティ近郊 |
| 上場 | ニューヨーク証券取引所(ティッカーは旧GEから引き継いだ「GE」) |
| 2025年の売上 | 約459億ドル(会計基準ベース) |
| 主な部門 | 民間エンジン・サービス(CES)、防衛・推進技術(DPT) |
| 主な軍用エンジン | F110、F414、F404、T700、LM2500(艦艇用)、F118、F101など |
「旧GE」と今のGEエアロスペースは何が違うのか
最初に、いちばん混同されやすい点を整理しておこう。
かつてのゼネラル・エレクトリックは、発電設備、医療機器、航空エンジン、金融、家電、テレビ局まで抱える、世界有数の複合企業だった。しかし2010年代以降、事業を次々に売却・分離し、最後は会社を三つに分ける道を選んだ。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2023年1月 | 医療機器部門が「GEヘルスケア」として独立 |
| 2024年4月 | 発電・電力部門が「GEバーノバ」として独立 |
| 2024年4月以降 | 残った航空部門が「GEエアロスペース」として、旧GEの法人と株式のティッカー「GE」を引き継ぐ |
つまり、今「GE」の名で株式市場にいるのは、航空エンジンの会社だ。発電所のガスタービンや風力発電はGEバーノバ、医療機器はGEヘルスケアの事業で、GEエアロスペースの防衛事業とは関係がない。昔の資料やニュースを読むときは、どの時点の「GE」の話なのかに気をつけたい。
ちなみに、艦艇用のガスタービンLM2500は、航空エンジンから派生した製品で、GEエアロスペース側の事業になっている。発電用のガスタービンとは別の扱いなので、ここも混同しやすいポイントだ。
事業の全体像|防衛は「一部」だが、要の一部
GEエアロスペースの事業は、大きく二つの部門に分かれている。
| 部門 | 主な中身 | 2025年の売上 |
|---|---|---|
| 民間エンジン・サービス(CES) | 旅客機のエンジン(合弁会社CFMのLEAPなど)、その整備・部品 | 約333億ドル |
| 防衛・推進技術(DPT) | 軍用エンジン、イタリアの子会社アビオ・アエロ、部品事業など | 約105億ドル |
数字を見ると分かるとおり、GEエアロスペースの稼ぎ頭は旅客機のエンジンと、その後の整備だ。防衛を含むDPT部門の売上は全体の4分の1に満たない。DPT部門には防衛以外の事業も含まれるので、純粋な防衛の比率はさらに小さくなる。
それでも、2025年のDPT部門は、受注が19%、売上が11%伸び、営業利益は22%増の約13億ドルに達した。軍用エンジンの納入数も前年から30%増えている。ヨーロッパやアジアの防衛費の増加、アメリカの戦闘機やヘリコプターの更新が追い風になっている。
機体のメーカーとエンジンのメーカーは別

写真・素材:Audra Flanagan/Wikimedia Commons(Public domain)
ここで、この記事の大事な前提を確認しておきたい。戦闘機は、機体のメーカーとエンジンのメーカーが別々であることが多い、ということだ。
これは昔からそうだ。旧日本海軍の零戦は、機体を三菱が作ったが、主力の21型や52型が積んだエンジン「栄」は、中島飛行機の製品だった。名機は、機体とエンジンという二つの会社の技術の組み合わせで生まれる。
今の戦闘機でも同じことが言える。GE系のエンジンを積む主な機体を並べると、その広がりがよく分かる。
| 機体 | 機体のメーカー | エンジン |
|---|---|---|
| F-15EX | ボーイング | F110 |
| F-16(ブロック50/70など) | ロッキード・マーチン | F110(P&W製のF100を積む型もある) |
| F-2 | 三菱重工業など | F110(IHIがライセンス生産) |
| F/A-18E/F、EA-18G | ボーイング | F414 |
| グリペンE/F | サーブ | F414 |
| KF-21 | 韓国航空宇宙産業 | F414(韓国のハンファがライセンス生産) |
| T-7A、T-50/FA-50 | ボーイング/韓国航空宇宙産業 | F404 |
| UH-60、AH-64、SH-60 | シコルスキー、ボーイングなど | T700 |
機体のメーカーが違っても、心臓は同じ会社。これが、エンジンメーカーという商売の強さだ。
主力の軍用エンジン

写真・素材:Department of Defense. American Forces Information Service. Defense Visual Information Center. 1994/Wikimedia Commons(Public domain)
F110|F-15EXとF-2の心臓
F110は、アフターバーナーつきの大推力ターボファンエンジンだ。もともとはF-16やF-14向けに生まれ、今はアメリカ空軍のF-15EXが積んでいる。航空自衛隊のF-2のエンジンも、F110をIHIがライセンス生産したF110-IHI-129だ。
1980年代、アメリカ空軍はF-15とF-16のエンジンを、プラット・アンド・ホイットニー(P&W)のF100だけに頼っていた。そこへF110を競争相手として採用したことで、信頼性と価格が改善したと言われる。この競争は「グレート・エンジン・ウォー」と呼ばれ、エンジンの調達先を複数持つことの大切さを示した例として知られている。
最近では、無人機を手がけるシールドAIとの協業で、自律型の新しい機体にF110を使う計画も発表された。半世紀近く前に生まれたエンジンが、無人機の時代にも使われようとしている。
F414|スーパーホーネットからKF-21、インドまで
F414は、F/A-18E/Fスーパーホーネットのために作られたエンジンだ。F110より一回り小さく、双発機に2基、あるいは中型の単発機に1基積むのにちょうどいい大きさになっている。
このエンジンは、輸出で大きく広がった。スウェーデンのグリペンE/Fは1基、韓国のKF-21は2基を積む。インドでは、国産戦闘機テジャスMk2や次世代機AMCAの試作機に使うため、GEとヒンドゥスタン航空機(HAL)がインドでの共同生産に合意している。
自前で大型エンジンを作れない国が戦闘機を開発するとき、F414は「手に入る中型エンジン」の代表格になっている。エンジンの選択が、機体の大きさやエンジンの数まで決めてしまう。そう考えると、GEのエンジンは各国の戦闘機開発の設計図そのものを左右していると言っていい。
F404|小さな名エンジン
F404は、F414の前の世代にあたる小型のエンジンだ。初期のF/A-18ホーネットや、ステルス攻撃機F-117が積んでいた。今も、アメリカ空軍の新しい練習機T-7A、韓国のT-50やFA-50、インドのテジャスなどで使われている。2025年には、HALから113基の追加注文を受けた。
T700とT901|ヘリコプターの心臓
T700は、ヘリコプター用のターボシャフトエンジンだ。アメリカ陸軍のUH-60ブラックホークやAH-64アパッチ、海軍のSH-60シーホークなど、西側の主力ヘリコプターの多くがこのエンジンを積んでいる。後継として、より強力で燃費のいいT901の開発も進められている。
日本でも、陸海空の自衛隊が使うUH-60JやSH-60J/Kなどに、IHIがライセンス生産したT700系のエンジンが積まれている。
LM2500|護衛艦を動かすガスタービン
軍艦の世界でもGEの存在は大きい。LM2500は、航空機のエンジンを艦艇用に作り変えたガスタービンで、アメリカ海軍のアーレイ・バーク級駆逐艦をはじめ、世界の多くの軍艦が積んでいる。
海上自衛隊でも、こんごう型やあたご型のイージス艦など、多くの護衛艦がLM2500系のガスタービンを使ってきた。ここでもIHIがライセンス生産を担っている。空だけでなく、海の上でも日本の防衛はGEの技術に支えられているのだ。
爆撃機のエンジン
ステルス爆撃機B-2のF118、超音速爆撃機B-1BのF101も、GEのエンジンだ。戦闘機ほど目立たないが、アメリカの長距離攻撃力の一角を担っている。
歴史|アメリカ初のジェットエンジンから
GEとジェットエンジンの関係は、第二次世界大戦の最中にさかのぼる。GEは、イギリスのフランク・ホイットルが開発したジェットエンジンをもとに、アメリカで初めてのジェットエンジンを作り、1942年に初飛行したアメリカ初のジェット機ベルXP-59に積んだ。
戦後は、朝鮮戦争で活躍したF-86セイバーのJ47、そしてマッハ2級の戦闘機を支えたJ79を生み出した。J79は、航空自衛隊のF-104JやF-4EJのエンジンとして、IHIがライセンス生産したことでも知られる。F-4ファントムIIの轟音を覚えている自衛隊ファンなら、その音の主はGEの設計だったわけだ。
その後も、小型戦闘機F-5や練習機T-38のJ85、攻撃機A-10のTF34、そしてF404、F110、F414と、GEは時代ごとの軍用エンジンを送り出してきた。
次の世代|適応サイクルエンジンと無人機
GEエアロスペースは、次の世代の軍用エンジンでも競争の最前線にいる。
次世代戦闘機のエンジン
アメリカ空軍の次世代戦闘機F-47などに向けた「次世代適応推進(NGAP)」計画では、GEのXA102とP&WのXA103が競っている。適応サイクルエンジンは、燃費を重視する飛び方と、推力を重視する飛び方を、飛行中に切り替えられる新しい形のエンジンだ。2026年には、両社とも試作エンジンの組み立てに向けた審査を終えている。
一方で、GEは苦い経験もしている。F-35のエンジンを適応サイクルエンジンに換える構想では、GEのXA100が試験で好成績を収めながら、アメリカ空軍は2023年、既存のP&W製F135を改良する道を選んだ。技術で勝っても、費用や計画の都合で採用されないことがある。防衛ビジネスの難しさだ。
無人機向けの小型エンジン
有人戦闘機と一緒に飛ぶ無人機、いわゆる協調戦闘機(CCA)の時代に向けて、GEはGEK800という小型で安価なエンジンも開発しており、2025年に高高度での試験を終えた。無人機が大量に使われる時代になれば、安いエンジンを大量に作る力が問われる。
日本との関係|IHIとアビオ・アエロ

写真:Toshi Aoki – JP Spotters/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
日本の防衛にとって、GEとの関係はとても深い。
IHIは、J79、F110、T700、LM2500など、GE系の多くのエンジンをライセンス生産してきた。航空自衛隊の戦闘機、陸海空のヘリコプター、海上自衛隊の護衛艦と、日本の防衛装備の心臓のかなりの部分が、GEの設計をIHIが国内で作る形で支えられている。ライセンス生産の仕組みについては兵器のライセンス生産とはで詳しく解説している。
もう一つ見逃せないのが、日英伊の次期戦闘機GCAPとの関係だ。GCAPのエンジンは、イギリスのロールス・ロイス、日本のIHI、イタリアのアビオ・アエロの3社で開発が進められている。このアビオ・アエロは、GEエアロスペースの子会社だ。アメリカのエンジンメーカーの傘下の企業が、日本が加わるヨーロッパ系の戦闘機計画にも関わっている。防衛産業のつながりは、国境で単純に分けられるものではない。日本の軍用エンジンの担い手については日本の軍用航空エンジンメーカーにまとめている。
投資家目線|「防衛株」として見るときの注意
GEエアロスペースは、防衛関連の銘柄として語られることもある。ただ、投資の目線で見るときは、事業の中身をよく確かめておきたい。
まず、売上の大半は旅客機のエンジンと整備だ。株価を大きく動かすのは、防衛費よりも、航空会社の旅客需要や、ボーイングとエアバスの生産のペース、エンジンの整備の需要のほうである。防衛費が増えれば追い風にはなるが、純粋な「防衛株」とは性格が違う。
そのうえで、防衛事業には安定した強みがある。一度採用された軍用エンジンは、何十年にもわたって部品と整備の仕事を生む。F110やF414のように、多くの国の多くの機体に採用されたエンジンほど、その積み重ねは大きい。同じ航空エンジンの大手として比べるなら、P&Wを抱えるRTXや、ロールス・ロイスとの違いを見ておくと、それぞれの性格がよく分かる。防衛関連の銘柄の全体像は防衛関連銘柄の完全投資ガイドでも整理している。
一方で、輸出には米国政府の許可が必要で、外交や政策の影響を受ける。部品の供給網の混乱も、ここ数年の航空業界全体の課題だ。
GEエアロスペースのような米国株と、IHIのような日本株をあわせて眺めてみたいなら、両方を扱える証券口座をひとつ持っておくと便利だ。
模型と本で「エンジンの目線」を持つ
GE系のエンジンを積む身近な機体といえば、航空自衛隊のF-2だ。機体の後ろのエンジンの排気口を眺めながら、「この中にIHIが作ったF110が入っている」と思うと、模型作りも少し違って見える。
防衛産業を、機体のメーカーだけでなく、エンジンや部品の会社まで含めて理解したい人には、産業と国際関係を一緒に読み解く本が役に立つ。
よくある質問
GEエアロスペースとGEは同じ会社?
今は同じ会社と考えていい。2024年4月に旧GEが発電部門をGEバーノバとして切り離したあと、残った航空部門がGEエアロスペースとして旧GEの法人と株式のティッカー「GE」を引き継いだ。医療機器はGEヘルスケア、発電はGEバーノバという別の会社になっている。
GEエアロスペースの軍用エンジンにはどんなものがある?
戦闘機用のF110、F414、F404、ヘリコプター用のT700、艦艇用のガスタービンLM2500、爆撃機用のF118やF101などがある。
F110とF414の違いは?
F110はF-15EXやF-2などが積む大推力のエンジン、F414はスーパーホーネットやグリペンE、KF-21などが積む一回り小さいエンジンだ。機体の大きさやエンジンの数に合わせて使い分けられている。
自衛隊はGEのエンジンを使っている?
使っている。F-2のF110、UH-60JやSH-60J/KのT700系、多くの護衛艦のLM2500系など、多くの装備がGEの設計のエンジンを、IHIがライセンス生産したものを積んでいる。かつてのF-104JやF-4EJのJ79もGEの設計だった。
F-35のエンジンはGE製?
違う。F-35のエンジンF135は、P&Wの製品だ。GEは、ロールス・ロイスと組んで代わりのエンジンF136を開発していたが、計画は2011年に中止された。
GEエアロスペースは防衛株なの?
防衛事業も持つが、売上の大半は旅客機のエンジンと整備だ。防衛費だけでなく、航空需要の動きにも大きく左右される点に注意したい。
まとめ|戦闘機を見たら、エンジンの会社も見る
GEエアロスペースは、2024年に旧GEから生まれた航空エンジン専業の会社だ。稼ぎ頭は旅客機のエンジンだが、防衛の分野でも、F110、F414、F404、T700、LM2500と、日米の多くの装備の心臓を担っている。
F-15EX、スーパーホーネット、KF-21、F-2。メーカーも国も違う戦闘機が、同じ会社のエンジンで飛んでいる。零戦が三菱の機体と中島のエンジンで生まれたように、今の戦闘機もまた、機体とエンジンという二つの会社の組み合わせでできている。次に戦闘機のニュースを見たら、「エンジンはどこの会社だろう」と考えてみてほしい。防衛産業の地図が、ぐっと立体的に見えてくるはずだ。
最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。
出典・参考資料
- GE Aerospace:軍用エンジン製品群
- GE Aerospace:2025年年次報告書
- GE Aerospace:2024年4月2日の独立会社化
- GE Aerospace:2026年サステナビリティ補足資料
表紙の写真素材:
写真・素材:Service Depicted: Air Force Camera Operator: GENERAL ELECTRIC/Wikimedia Commons(Public domain)。背景・レイアウト・文字を編集。







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