「いずも型護衛艦」完全解説|日本最大の「空母」が切り開く新時代の海上防衛

目次

空母を持たない国が、空母を手に入れた日

「日本が空母を持つ日が来るなんて」

2018年12月、政府が発表した防衛計画の大綱改定。そこに記された「多用途運用護衛艦」という言葉に、私は震えるような興奮を覚えた。

遠回しな表現だが、意味は明確だった。いずも型護衛艦を改修し、F-35B戦闘機を運用する――。つまり、事実上の空母化である。

憲法9条の制約の中、専守防衛を貫いてきた日本。攻撃型空母の保有は長年タブーとされてきた。しかし、中国の軍事的台頭、北朝鮮の脅威、そして何より南西諸島の防衛という現実が、日本の安全保障政策を変えたのである。

全長248メートル。満載排水量27,000トン。海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦は、今や日本の海上防衛の中核を担う存在となった。

この記事では、いずも型護衛艦のすべてを徹底解説する。その生い立ち、能力、空母化改修の詳細、F-35B運用の実態、そして中国空母との比較まで――。

ゲームやアニメで興味を持った方も、本格的なミリタリーファンの方も、最後までお付き合いいただきたい。いずも型護衛艦の物語は、現代日本の安全保障そのものなのだから。

いずも型護衛艦とは何か【基本スペックと概要】

いずも型護衛艦の雄姿 - F-35B戦闘機を甲板に搭載した海上自衛隊最大の護衛艦

海自史上最大の護衛艦

いずも型護衛艦は、2015年に就役した「いずも(DDH-183)」と、2017年に就役した「かが(DDH-184)」の2隻からなる。

主要諸元:

  • 全長: 248メートル
  • 全幅: 38メートル
  • 満載排水量: 約27,000トン
  • 最大速力: 30ノット以上
  • 乗員: 約470名(航空要員含む)
  • 建造: ジャパンマリンユナイテッド(旧IHI マリンユナイテッド)
  • 建造費: 1隻あたり約1,200億円

この数字が何を意味するか。海上自衛隊の護衛艦の中で、いずも型は圧倒的な存在感を持つ。

比較してみよう:

  • ひゅうが型護衛艦: 全長197m、排水量19,000トン
  • 10式戦車(陸自): 全長9.42m、重量44トン

いずも型1隻で、10式戦車約600両分の重量がある。これがどれほど巨大な艦艇か、想像いただけるだろう。

実際、横須賀基地に停泊するいずもを初めて見たとき、私は言葉を失った。全通甲板を持つその姿は、どう見ても空母にしか見えなかったのだ。

「護衛艦」という名の空母

ここで重要な用語の整理をしておこう。

日本では、いずも型を「護衛艦(DDH: Helicopter Destroyer)」と呼ぶ。しかし国際的には、全通甲板を持つこの種の艦艇は「航空母艦(Aircraft Carrier)」あるいは「軽空母(Light Carrier)」と分類される。

なぜ「護衛艦」なのか。それは憲法9条と専守防衛の理念による。日本は「攻撃型空母」を保有しないという政府見解を堅持してきた。そのため、いずも型も建前上は「ヘリコプター搭載護衛艦」として建造されたのである。

しかし2018年の防衛大綱改定で、状況は変わった。F-35B戦闘機の運用能力を付与することが正式に決定。事実上の空母化が承認されたのだ。

政府は「多用途運用母艦」という新しい用語を使い、あくまで「防衛型空母」であることを強調している。攻撃型空母ではなく、防空や対潜水艦戦を主任務とする「防衛型」だというわけだ。

言葉の定義論争はさておき、重要なのは事実である。いずも型は固定翼機を運用できる。つまり、機能的には空母なのだ。

生い立ちの物語【開発の背景と歴史】

ひゅうが型からの進化

いずも型を理解するには、その前身であるひゅうが型護衛艦を知る必要がある。

2009年に就役したひゅうが型(ひゅうが、いせ)は、海自初の全通甲板型護衛艦だった。全長197メートル、排水量19,000トン。当時としては画期的な大型艦だった。

ひゅうが型の主任務は対潜水艦戦。中国やロシアの潜水艦に対抗するため、多数のヘリコプターを運用できる艦艇が必要とされたのだ。最大11機のヘリコプターを搭載可能で、艦隊の対潜中枢として活躍した。

しかし、ひゅうが型にも限界があった。甲板の耐熱処理が不十分で、ジェット戦闘機の運用は不可能。あくまでヘリコプター専用艦だったのである。

なぜさらに大型の護衛艦が必要だったのか

2010年代に入り、日本周辺の安全保障環境は急速に悪化した。

中国の軍事的台頭:

  • 空母「遼寧」の就役(2012年)
  • 東シナ海での活動激化
  • 南シナ海の軍事拠点化
  • 尖閣諸島周辺での領海侵入常態化

北朝鮮の脅威:

  • 核実験の継続
  • 弾道ミサイル開発の加速

島嶼防衛の必要性:

  • 南西諸島の防衛体制強化
  • 離島への迅速な展開能力

こうした状況下で、海上自衛隊はより大型で多機能な艦艇を必要とした。それがいずも型開発の背景である。

当初の設計思想は、ひゅうが型の拡大発展版――より多くのヘリコプターを運用できる対潜護衛艦だった。固定翼機の運用は想定されていなかったのである。

少なくとも、表向きは。

実は最初から想定されていた?空母化

これは私の推測だが、防衛省の一部には当初から「将来の空母化」を見据えていた関係者がいたのではないか。

根拠がある:

  1. 甲板の大きさ: ひゅうが型から大幅に拡大された甲板は、明らかにヘリコプター運用だけには過剰
  2. 船体構造: 後の空母化改修を前提としたような設計
  3. エレベーター配置: 艦首と艦尾の配置は、固定翼機運用を意識したもの

もちろん、当時は政治的に「空母」を明言できなかった。しかし技術者たちは、将来を見据えていたのではないか。

2015年、いずも就役。2017年、かが就役。両艦はヘリコプター護衛艦として配備され、対潜水艦戦や災害派遣で活躍を始めた。

そして2018年――ついに空母化が正式決定されるのである。

空母への変身【改修の全貌】

2018年、歴史的決断

2018年12月18日。政府は新たな防衛計画の大綱を閣議決定した。

その中に、こう記されていた:

「短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機の運用が可能となるよう、必要な措置を講ずる」

遠回しな表現だが、意味は明確。いずも型をF-35B戦闘機が運用できるよう改修する――すなわち空母化である。

この決定に至るまでには、激しい政治的議論があった。

反対派の主張: 「憲法9条に違反する」 「専守防衛の逸脱だ」 「近隣諸国を刺激する」

賛成派の主張: 「中国の空母に対抗するには必要」 「南西諸島防衛の要」 「あくまで防衛型であり、憲法違反ではない」

最終的に、政府は「攻撃型空母ではなく、多用途運用護衛艦」という位置づけで空母化を正当化した。

具体的な改修内容

空母化改修は2020年代前半から段階的に実施されている。主な改修内容は以下の通り:

  1. 甲板の耐熱処理 F-35Bのジェットエンジンは約1,700度の高温ガスを噴出する。既存の甲板ではこの熱に耐えられない。そのため、甲板全体に耐熱コーティングを施工。特に離着艦地点は、さらに強化された耐熱パネルに交換された。
  2. 艦首形状の変更 元々、いずもの艦首は対潜ソナーを格納するため、やや下向きの形状だった。しかしこの形状では、F-35Bの短距離離陸(STOVL)に支障がある。

そこで艦首を約12度の上向きに改修。これにより、F-35Bは短い距離で離陸できるようになった。いわゆる「スキージャンプ」ではなく、より緩やかな角度だが、離陸性能向上には十分だった。

  1. 航空管制システムの追加 ヘリコプター運用と固定翼機運用では、必要な管制システムが異なる。F-35Bの離着艦を支援するため、新しい航空管制装置、着艦誘導システムを搭載。
  2. 燃料・弾薬庫の拡張 F-35Bは航空燃料と専用の弾薬を必要とする。これらを貯蔵・供給するため、艦内の燃料タンクと弾薬庫を拡張・改修。
  3. 整備設備の追加 F-35Bの整備には専用の工具と設備が必要。格納庫内に整備エリアを新設し、必要な設備を配備。

改修費用は1隻あたり約500億円と見積もられている。決して安くはないが、新造空母を建造する数千億円に比べれば、はるかにコストパフォーマンスが高い。

実証実験の成功

2021年10月、歴史的な瞬間が訪れた。

アメリカ海兵隊のF-35Bが、いずも型護衛艦「いずも」の甲板に初めて着艦したのである。場所は太平洋上。日米共同訓練の一環として実施された。

F-35Bは垂直に降下し、いずもの甲板に静かに着艦。そして短距離離陸で再び飛び立った。

実験は完全な成功だった。いずもは、固定翼機を運用できる――事実上の空母としての能力を実証したのである。

その後も訓練は継続され、2024年現在、いずも型からのF-35B運用は実用段階に入っている。

F-35Bという切り札【ステルス戦闘機の衝撃】

いずも型護衛艦でのF-35B垂直着艦シーン - 次世代ステルス戦闘機の運用能力

なぜF-35Bなのか

いずも型が運用する戦闘機として選ばれたのが、F-35B「ライトニングII」である。

F-35Bの特徴:

  • 第5世代ステルス戦闘機
  • 短距離離陸・垂直着陸(STOVL)能力
  • 最大速度: マッハ1.6
  • 戦闘行動半径: 約900km
  • 搭載兵器: 空対空ミサイル、空対地ミサイル、精密誘導爆弾

F-35には3つのバリエーションがある:

  • F-35A: 通常離着陸型(空自が運用)
  • F-35B: 短距離離陸・垂直着陸型
  • F-35C: 空母艦載機型(米海軍が運用)

いずも型のような小型空母で運用できるのは、F-35Bだけ。垂直着陸能力により、カタパルトや着艦制動装置が不要だからだ。

航空自衛隊は当初F-35Aを導入していたが、2018年の決定を受けてF-35Bも追加購入。現在、計42機のF-35Bを取得予定である。

いずもが変える戦術

F-35Bを搭載したいずも型は、日本の防衛戦術を根本から変える。

従来の問題点: 南西諸島には航空自衛隊の基地が限られている。有事の際、戦闘機を展開するには時間がかかり、また基地が攻撃される危険性もあった。

いずも型+F-35Bの解決策: いずも型は移動する航空基地である。南西諸島近海に展開すれば、F-35Bをいつでも発艦させられる。敵は、固定された基地ではなく、移動する目標を攻撃しなければならない。これは極めて困難だ。

また、いずもから発艦したF-35Bは、陸上基地からでは届かない海域まで制空権を拡大できる。日本の防空圏が大幅に広がるのである。

運用想定:

  1. 平時: いずも型は通常の対潜護衛艦として活動
  2. 有事: F-35Bを搭載し、南西諸島近海に展開
  3. 制空: F-35Bが空中優勢を確保
  4. 連携: 陸上基地のF-35A、海自のイージス艦と連携

この柔軟性こそが、いずも型最大の強みである。

運用機数の制限

ただし、いずも型の運用能力には限界もある。

搭載可能機数: 最大約10機のF-35B

これは、アメリカの大型空母(70機以上搭載)に比べれば遥かに少ない。しかし、日本の防衛目的には十分とされている。

実際の運用では、おそらく6〜8機程度のF-35Bと、数機のヘリコプターを組み合わせることになるだろう。

「10機では少なすぎる」という批判もある。しかし重要なのは、ゼロから10機になったという事実だ。何もないより、10機のステルス戦闘機がある方が遥かに良い。

そして何より、いずもは単独で行動するわけではない。イージス艦、潜水艦、陸上基地の戦闘機――これらと連携することで、真の力を発揮するのである。

→ 関連記事: 航空自衛隊のF-35A/Bを徹底解説

中国空母との比較【太平洋の新たな競争】

中国の空母戦力

いずも型を語る上で避けて通れないのが、中国空母との比較である。

中国は現在、3隻の空母を運用・建造中:

  1. 遼寧(2012年就役)
  • 旧ソ連空母を改修
  • 満載排水量: 約67,000トン
  • 搭載機: 約40機(J-15戦闘機)
  1. 山東(2019年就役)
  • 中国初の国産空母
  • 満載排水量: 約70,000トン
  • 搭載機: 約40機
  1. 福建(2022年進水、未就役)
  • 電磁カタパルト搭載
  • 満載排水量: 約80,000トン
  • 搭載機: 約50〜60機と推定

数字で見る比較

いずも型 vs 中国空母:

項目いずも型遼寧/山東福建
排水量27,000トン67,000トン80,000トン
全長248m305m320m
搭載機数10機程度40機50〜60機
艦載機F-35BJ-15J-35?(予想)

数字だけ見れば、中国空母の圧勝である。いずも型は、中国空母の半分以下の排水量、4分の1の搭載機数しかない。

しかし、これは単純な比較はできない。

質と量、戦略の違い

重要なのは、両者の目的と戦略が異なるという点だ。

中国空母の目的:

  • 遠洋作戦能力(インド洋、南シナ海への展開)
  • パワープロジェクション(軍事力の誇示)
  • 制海権の確保
  • アメリカ空母への対抗

いずも型の目的:

  • 日本近海の防衛
  • 南西諸島の制空支援
  • 対潜水艦戦の中核
  • 災害派遣

中国は「攻撃的な遠洋海軍」を目指している。そのために大型空母が必要なのだ。

一方、日本は「専守防衛」である。日本近海を守るためには、いずも型の規模で十分――そういう設計思想なのである。

技術的な質の差

また、搭載機の質も考慮すべきだ。

F-35B vs J-15:

  • F-35B: 第5世代ステルス戦闘機
  • J-15: 第4世代戦闘機(ステルス性なし)

ステルス性の有無は決定的な差である。F-35Bはレーダーに映りにくく、敵が気づく前に攻撃できる。一方、J-15は従来型の戦闘機で、レーダーで容易に探知される。

1対1の戦闘では、F-35BがJ-15を圧倒すると多くの専門家が指摘している。

つまり:

  • 中国: 量で勝負(多数のJ-15)
  • 日本: 質で勝負(少数のF-35B)

もちろん、中国も次世代ステルス艦載機(J-35?)を開発中と言われており、将来的にはこの質的優位も失われる可能性がある。

運用経験の差

もう一つの重要な要素が、運用経験である。

中国の空母運用歴:

  • 遼寧: 2012年〜(約12年)
  • 山東: 2019年〜(約5年)
  • 福建: 未就役

日本のいずも型運用歴:

  • 空母として: 2021年〜(約3年)

数字上は中国が先行している。しかし、実は中国の空母運用も試行錯誤の段階なのだ。

空母の運用には膨大なノウハウが必要:

  • 艦載機の離着艦訓練
  • 航空管制
  • 整備・補給
  • 艦隊との連携
  • 実戦経験

アメリカは100年近い空母運用歴を持つが、中国はまだ10年少々。いずも型に至っては数年である。

ただし、日本には強力な味方がいる――アメリカである。日米同盟により、アメリカから空母運用のノウハウを学べるのは大きなアドバンテージだ。

結論: 単純比較は無意味

いずも型と中国空母、どちらが強いか――この質問に明確な答えはない。

中国空母は大型で搭載機数が多い。しかし、いずも型は質の高いF-35Bを運用し、イージス艦や潜水艦との連携が優れている。

そして何より、両者は異なる戦略目標を持っている。中国は遠洋進出、日本は近海防衛。単純な1対1の比較は、あまり意味がないのだ。

重要なのは、日本が初めて固定翼機を運用できる艦艇を手に入れたという事実。そしてそれが、中国の軍事的拡張に対する抑止力として機能しているという事実である。

→ 関連記事: 中国最新空母「福建」とは?電磁カタパルト搭載のモンスター空母の実力をわかりやすく解説

技術的特徴と能力【何ができるのか】

多目的運用という強み

いずも型の最大の特徴は、その多目的性にある。

運用可能な航空機:

  • F-35B戦闘機(最大10機程度)
  • SH-60K哨戒ヘリコプター
  • MCH-101掃海・輸送ヘリコプター
  • MV-22オスプレイ(垂直離着陸輸送機)

状況に応じて、これらを組み合わせて運用できる。例えば:

平時の対潜任務:

  • SH-60K × 7機 + 予備スペース

有事の制空任務:

  • F-35B × 8機 + SH-60K × 2機

災害派遣:

  • MCH-101 × 9機 + 指揮統制要員

島嶼防衛:

  • F-35B × 6機 + MV-22オスプレイ × 2機 + SH-60K × 2機

この柔軟性は、専用空母にはない強みである。

艦隊の司令塔として

いずも型のもう一つの重要な役割が、艦隊全体の指揮統制である。

いずも型は「DDH(Helicopter Destroyer)」の「H」が示すように、対潜ヘリコプター部隊の母艦が主任務だった。そのため、高度な指揮統制システムを搭載している。

搭載システム:

  • OYQ-12戦術情報処理装置
  • 統合戦術情報配信システム
  • データリンク16
  • 衛星通信システム

これにより、いずも型は:

  1. 周辺海域の潜水艦情報を統合
  2. 複数のヘリコプターを同時管制
  3. 他の護衛艦や潜水艦と情報共有
  4. 航空自衛隊とも連携

つまり、いずも型は単なる「戦闘機を載せる船」ではない。艦隊全体の頭脳として機能するのである。

この能力は、F-35Bを運用する際にも活かされる。いずもから発艦したF-35Bは、艦からの情報支援を受けながら戦闘する。まさに空と海の一体運用である。

自衛システム

いずも型自身の防御力も侮れない。

搭載兵器:

  • SeaRAM近接防空ミサイル × 2基
  • 高性能20mm機関砲 × 2基
  • 対潜魚雷発射管

SeaRAMは、対艦ミサイルを迎撃するための近接防空システム。11発のRAMミサイルを搭載し、接近する脅威を自動で迎撃する。

また、対潜魚雷発射管により、潜水艦に対する自衛能力も持つ。

ただし、いずも型は本格的な対空戦闘を想定していない。そのため、実際の運用では必ずイージス護衛艦などの護衛艦と共に行動する。

→ 関連記事: 日本のイージス艦「こんごう型・あたご型・まや型」を徹底解説

災害派遣能力

意外に重要なのが、災害派遣能力である。

いずも型は医療設備が充実している:

  • 手術室 × 1
  • 集中治療室
  • 病床 × 50床
  • 医療スタッフ対応可能

大規模災害時には、洋上病院として機能できる。実際、東日本大震災の教訓から、海自は災害派遣能力を重視している。

また、広大な甲板は救援物資の積み込みに便利。ヘリコプターを多数運用できるため、孤立した地域への物資輸送に威力を発揮する。

「空母は災害に役立たない」という批判もあるが、いずも型に関しては当てはまらない。平時は対潜・災害派遣、有事は空母――この多目的性こそが、いずも型の真価なのである。

課題と限界【何ができないのか】

正直に言おう、限界もある

ここまでいずも型の能力を称賛してきたが、公平を期すために限界も述べておかなければならない。

課題1: 搭載機数の少なさ

やはり、F-35B 10機程度というのは少ない。

アメリカの大型空母が70機以上を搭載できるのに対し、いずも型の10機は見劣りする。長期的な作戦継続や、消耗戦になった場合の予備機不足は懸念材料だ。

課題2: カタパルトの不在

いずも型にはカタパルト(射出機)がない。F-35Bは短距離離陸できるため問題ないが、これは制約でもある。

カタパルトがあれば:

  • より重い兵装を搭載して離陸可能
  • 燃料満載での離陸が容易
  • 早期警戒機(E-2Dなど)の運用も可能

しかしカタパルトの設置には、艦体の大幅な改修が必要。いずも型の船体規模では困難だろう。

課題3: 防御力の問題

いずも型の装甲は、正直言って薄い。対艦ミサイルの直撃を受けたら、大きなダメージを受けるだろう。

大型空母のような重装甲は、いずも型にはない。そのため、実戦では必ず護衛艦に守られながら行動する必要がある。

課題4: 運用コスト

F-35Bの運用には莫大なコストがかかる。

  • 機体価格: 1機約140億円
  • 整備費: 年間数億円/機
  • パイロット訓練費: 莫大

また、いずも型自体の運用コストも安くない。年間の維持費は数十億円規模と推定される。

限られた防衛予算の中で、これらのコストをどう捻出するかは大きな課題だ。

課題5: 人材不足

艦載機パイロット、整備員、航空管制官――これらの人材育成には時間がかかる。

海上自衛隊は伝統的に艦艇運用のプロだが、航空機運用については航空自衛隊に一歩譲る。いずも型の本格運用には、十分な訓練を受けた人材が不可欠だ。

現在、日米共同訓練を通じて人材育成を進めているが、一人前のパイロットを育てるには数年かかる。即座に戦力化できるわけではないのだ。

それでも、ないよりは遥かに良い

これらの限界を踏まえても、私はいずも型の価値は極めて高いと考える。

完璧な兵器など存在しない。重要なのは、限られた予算と制約の中で、最大限の能力を引き出すことだ。

10機のF-35Bでも、ゼロよりは遥かに良い。不完全な空母でも、空母がないよりは遥かに良い。

そして何より、いずも型は日本の造船技術、電子技術、運用ノウハウを結集した傑作である。その技術は、将来のより優れた艦艇開発の基礎となるだろう。

未来への展望【いずも型はどこへ向かうのか】

さらなる改修の可能性

いずも型の進化は、まだ終わっていない。

今後予想される改修:

  1. 電子戦システムの強化
  2. 対ドローン防御システムの追加
  3. レーザー兵器の搭載(将来的に)
  4. より高度なC4ISRシステム

特に注目されるのが、レーザー兵器である。アメリカはすでに艦艇用レーザー兵器の実用化を進めており、日本も研究開発中だ。

いずも型にレーザー兵器が搭載されれば、ドローンや小型ボートなどの非対称的脅威に対する防御力が大幅に向上する。

3番艦の建造は?

現在、いずも型は「いずも」「かが」の2隻のみ。

「3番艦を建造すべきだ」という声もある。確かに、2隻では有事の際の対応能力に限界がある。整備・訓練のローテーションを考えれば、最低でも3隻は欲しいところだ。

しかし、1隻1,200億円という建造費、さらに年間の維持費を考えると、財政的なハードルは高い。

現実的には、当面は2隻体制が続くだろう。ただし、将来的に「ひゅうが型」の後継艦として、いずも型の改良版が建造される可能性はある。

次世代「空母」の姿

2040年代、50年代を見据えたとき、日本の「空母」はどうなっているだろうか。

可能性1: より大型の多目的空母

排水量4万〜5万トン級の本格的な空母。カタパルトを搭載し、早期警戒機や無人機も運用可能。

可能性2: 無人機空母

有人機ではなく、無人戦闘機(UCAV)を主体とした空母。AIによる自律運用で、人的損失のリスクを最小化。

可能性3: 複数の中型艦による分散運用

大型空母1隻ではなく、いずも型クラスの中型艦を多数配備。分散することで、攻撃リスクを分散。

どの道を選ぶかは、今後の安全保障環境と技術発展次第だろう。しかし確実なのは、いずも型が切り開いた道――日本が空母を運用する道――は、もう後戻りできないということだ。

日米同盟の深化

いずも型の運用は、日米同盟をさらに深化させる。

すでに、いずもとアメリカ海軍の強襲揚陸艦(F-35B搭載)との共同訓練が実施されている。将来的には:

  • 日米空母部隊の共同作戦
  • F-35Bの相互運用(米軍機がいずもから発艦、など)
  • 統合的な航空作戦計画

こうした協力により、日米の相互運用性(インターオペラビリティ)はさらに向上するだろう。

中国から見れば、日本が事実上の空母を持ち、それがアメリカの空母部隊と連携する――これは大きな脅威である。そしてそれこそが、抑止力の本質なのだ。

まとめ── いずも型が切り開いた新時代

数字で振り返る、いずも型のすべて

ここまでの内容を、簡潔にまとめよう。

いずも型護衛艦:

  • 艦名: いずも(DDH-183)、かが(DDH-184)
  • 就役: 2015年、2017年
  • 全長: 248メートル
  • 排水量: 27,000トン
  • 最高速力: 30ノット以上
  • 搭載機: F-35B × 約10機、またはヘリコプター × 14機
  • 建造費: 約1,200億円/隻
  • 空母化改修費: 約500億円/隻

主な能力:

  • F-35Bステルス戦闘機の運用
  • 対潜水艦戦の中核
  • 艦隊指揮統制
  • 災害派遣・人道支援
  • 島嶼防衛支援

戦後日本の転換点

いずも型の空母化は、戦後日本の安全保障政策における大きな転換点である。

憲法9条と専守防衛という制約の中で、日本は長年「攻撃型兵器」を保有してこなかった。空母はその象徴的存在だった。

しかし、中国の台頭、北朝鮮の脅威、そして変化する戦略環境が、日本の政策を変えた。

いずも型は「攻撃型空母ではない」という建前を保ちながら、実質的には固定翼機を運用できる空母である。言葉遊びと批判する声もあるが、これは日本なりの現実的な解決策なのだ。

技術者たちへの敬意

この記事を書きながら、私は何度も思った。

いずも型を設計し、建造し、改修した技術者たちに、最大の敬意を表したい。

限られた予算、憲法上の制約、政治的な議論――様々な制約の中で、彼らは可能な限り優れた艦艇を作り上げた。

特に、将来の空母化を見据えた設計思想には脱帽する。表向きはヘリコプター護衛艦として建造しながら、後の改修を可能にする構造を密かに組み込んでいた――その先見性は見事というほかない。

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平和のための力

最後に、私の本音を述べたい。

私は軍艦が好きだ。いずも型の雄大な姿、洗練された設計、そして秘められた能力――すべてに魅了される。

しかし同時に、いずも型が実戦で戦う日が来ないことを心から願っている。

いずも型は「戦うため」の艦ではない。「戦わないため」の艦である。

その存在が抑止力となり、中国や北朝鮮に「日本を攻めても無駄だ」と思わせる。それによって戦争を防ぐ――それがいずも型の真の任務なのだ。

F-35Bが空を飛ぶのは、演習場だけであってほしい。いずもが実戦の海域に出る日が、永遠に来ないことを――私は願っている。

あなたも、いずもに会いに行こう

もしあなたがいずも型に興味を持ったなら、ぜひ実物を見に行ってほしい。

いずもは横須賀基地、かがは呉基地に配備されている。年に数回開催される基地開放イベントでは、一般公開されることもある。

全長248メートルの巨体を目の前にしたとき、あなたは圧倒されるだろう。そして、この艦に込められた技術者たちの情熱を感じ取れるはずだ。

プラモデルで楽しむのも良い。最近は、空母化改修後のいずも型のキットも発売されている。

ゲームで操作するのも面白い。「World of Warships」などでは、いずも型が登場する。

どんな形でも良い。いずも型に触れ、日本の海上防衛に思いを馳せてほしい。

それが、平和の大切さを考えるきっかけになれば――この記事を書いた意味がある。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

あなたの海への興味が、さらに深まることを願って。


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「いずも型護衛艦」完全解説|日本最大の「空母」が切り開く新時代の海上防衛

空母を持たない国が、空母を手に入れた日

「日本が空母を持つ日が来るなんて」

2018年12月、政府が発表した防衛計画の大綱改定。そこに記された「多用途運用護衛艦」という言葉に、私は震えるような興奮を覚えた。

遠回しな表現だが、意味は明確だった。いずも型護衛艦を改修し、F-35B戦闘機を運用する――。つまり、事実上の空母化である。

憲法9条の制約の中、専守防衛を貫いてきた日本。攻撃型空母の保有は長年タブーとされてきた。しかし、中国の軍事的台頭、北朝鮮の脅威、そして何より南西諸島の防衛という現実が、日本の安全保障政策を変えたのである。

全長248メートル。満載排水量27,000トン。海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦は、今や日本の海上防衛の中核を担う存在となった。

この記事では、いずも型護衛艦のすべてを徹底解説する。その生い立ち、能力、空母化改修の詳細、F-35B運用の実態、そして中国空母との比較まで――。

ゲームやアニメで興味を持った方も、本格的なミリタリーファンの方も、最後までお付き合いいただきたい。いずも型護衛艦の物語は、現代日本の安全保障そのものなのだから。

いずも型護衛艦とは何か【基本スペックと概要】

いずも型護衛艦の雄姿 - F-35B戦闘機を甲板に搭載した海上自衛隊最大の護衛艦
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海自史上最大の護衛艦

いずも型護衛艦は、2015年に就役した「いずも(DDH-183)」と、2017年に就役した「かが(DDH-184)」の2隻からなる。

主要諸元:

  • 全長: 248メートル
  • 全幅: 38メートル
  • 満載排水量: 約27,000トン
  • 最大速力: 30ノット以上
  • 乗員: 約470名(航空要員含む)
  • 建造: ジャパンマリンユナイテッド(旧IHI マリンユナイテッド)
  • 建造費: 1隻あたり約1,200億円

この数字が何を意味するか。海上自衛隊の護衛艦の中で、いずも型は圧倒的な存在感を持つ。

比較してみよう:

  • ひゅうが型護衛艦: 全長197m、排水量19,000トン
  • 10式戦車(陸自): 全長9.42m、重量44トン

いずも型1隻で、10式戦車約600両分の重量がある。これがどれほど巨大な艦艇か、想像いただけるだろう。

実際、横須賀基地に停泊するいずもを初めて見たとき、私は言葉を失った。全通甲板を持つその姿は、どう見ても空母にしか見えなかったのだ。

「護衛艦」という名の空母

ここで重要な用語の整理をしておこう。

日本では、いずも型を「護衛艦(DDH: Helicopter Destroyer)」と呼ぶ。しかし国際的には、全通甲板を持つこの種の艦艇は「航空母艦(Aircraft Carrier)」あるいは「軽空母(Light Carrier)」と分類される。

なぜ「護衛艦」なのか。それは憲法9条と専守防衛の理念による。日本は「攻撃型空母」を保有しないという政府見解を堅持してきた。そのため、いずも型も建前上は「ヘリコプター搭載護衛艦」として建造されたのである。

しかし2018年の防衛大綱改定で、状況は変わった。F-35B戦闘機の運用能力を付与することが正式に決定。事実上の空母化が承認されたのだ。

政府は「多用途運用母艦」という新しい用語を使い、あくまで「防衛型空母」であることを強調している。攻撃型空母ではなく、防空や対潜水艦戦を主任務とする「防衛型」だというわけだ。

言葉の定義論争はさておき、重要なのは事実である。いずも型は固定翼機を運用できる。つまり、機能的には空母なのだ。

生い立ちの物語【開発の背景と歴史】

ひゅうが型からの進化

いずも型を理解するには、その前身であるひゅうが型護衛艦を知る必要がある。

2009年に就役したひゅうが型(ひゅうが、いせ)は、海自初の全通甲板型護衛艦だった。全長197メートル、排水量19,000トン。当時としては画期的な大型艦だった。

ひゅうが型の主任務は対潜水艦戦。中国やロシアの潜水艦に対抗するため、多数のヘリコプターを運用できる艦艇が必要とされたのだ。最大11機のヘリコプターを搭載可能で、艦隊の対潜中枢として活躍した。

しかし、ひゅうが型にも限界があった。甲板の耐熱処理が不十分で、ジェット戦闘機の運用は不可能。あくまでヘリコプター専用艦だったのである。

なぜさらに大型の護衛艦が必要だったのか

2010年代に入り、日本周辺の安全保障環境は急速に悪化した。

中国の軍事的台頭:

  • 空母「遼寧」の就役(2012年)
  • 東シナ海での活動激化
  • 南シナ海の軍事拠点化
  • 尖閣諸島周辺での領海侵入常態化

北朝鮮の脅威:

  • 核実験の継続
  • 弾道ミサイル開発の加速

島嶼防衛の必要性:

  • 南西諸島の防衛体制強化
  • 離島への迅速な展開能力

こうした状況下で、海上自衛隊はより大型で多機能な艦艇を必要とした。それがいずも型開発の背景である。

当初の設計思想は、ひゅうが型の拡大発展版――より多くのヘリコプターを運用できる対潜護衛艦だった。固定翼機の運用は想定されていなかったのである。

少なくとも、表向きは。

実は最初から想定されていた?空母化

これは私の推測だが、防衛省の一部には当初から「将来の空母化」を見据えていた関係者がいたのではないか。

根拠がある:

  1. 甲板の大きさ: ひゅうが型から大幅に拡大された甲板は、明らかにヘリコプター運用だけには過剰
  2. 船体構造: 後の空母化改修を前提としたような設計
  3. エレベーター配置: 艦首と艦尾の配置は、固定翼機運用を意識したもの

もちろん、当時は政治的に「空母」を明言できなかった。しかし技術者たちは、将来を見据えていたのではないか。

2015年、いずも就役。2017年、かが就役。両艦はヘリコプター護衛艦として配備され、対潜水艦戦や災害派遣で活躍を始めた。

そして2018年――ついに空母化が正式決定されるのである。

空母への変身【改修の全貌】

2018年、歴史的決断

2018年12月18日。政府は新たな防衛計画の大綱を閣議決定した。

その中に、こう記されていた:

「短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機の運用が可能となるよう、必要な措置を講ずる」

遠回しな表現だが、意味は明確。いずも型をF-35B戦闘機が運用できるよう改修する――すなわち空母化である。

この決定に至るまでには、激しい政治的議論があった。

反対派の主張: 「憲法9条に違反する」 「専守防衛の逸脱だ」 「近隣諸国を刺激する」

賛成派の主張: 「中国の空母に対抗するには必要」 「南西諸島防衛の要」 「あくまで防衛型であり、憲法違反ではない」

最終的に、政府は「攻撃型空母ではなく、多用途運用護衛艦」という位置づけで空母化を正当化した。

具体的な改修内容

空母化改修は2020年代前半から段階的に実施されている。主な改修内容は以下の通り:

  1. 甲板の耐熱処理 F-35Bのジェットエンジンは約1,700度の高温ガスを噴出する。既存の甲板ではこの熱に耐えられない。そのため、甲板全体に耐熱コーティングを施工。特に離着艦地点は、さらに強化された耐熱パネルに交換された。
  2. 艦首形状の変更 元々、いずもの艦首は対潜ソナーを格納するため、やや下向きの形状だった。しかしこの形状では、F-35Bの短距離離陸(STOVL)に支障がある。

そこで艦首を約12度の上向きに改修。これにより、F-35Bは短い距離で離陸できるようになった。いわゆる「スキージャンプ」ではなく、より緩やかな角度だが、離陸性能向上には十分だった。

  1. 航空管制システムの追加 ヘリコプター運用と固定翼機運用では、必要な管制システムが異なる。F-35Bの離着艦を支援するため、新しい航空管制装置、着艦誘導システムを搭載。
  2. 燃料・弾薬庫の拡張 F-35Bは航空燃料と専用の弾薬を必要とする。これらを貯蔵・供給するため、艦内の燃料タンクと弾薬庫を拡張・改修。
  3. 整備設備の追加 F-35Bの整備には専用の工具と設備が必要。格納庫内に整備エリアを新設し、必要な設備を配備。

改修費用は1隻あたり約500億円と見積もられている。決して安くはないが、新造空母を建造する数千億円に比べれば、はるかにコストパフォーマンスが高い。

実証実験の成功

2021年10月、歴史的な瞬間が訪れた。

アメリカ海兵隊のF-35Bが、いずも型護衛艦「いずも」の甲板に初めて着艦したのである。場所は太平洋上。日米共同訓練の一環として実施された。

F-35Bは垂直に降下し、いずもの甲板に静かに着艦。そして短距離離陸で再び飛び立った。

実験は完全な成功だった。いずもは、固定翼機を運用できる――事実上の空母としての能力を実証したのである。

その後も訓練は継続され、2024年現在、いずも型からのF-35B運用は実用段階に入っている。

F-35Bという切り札【ステルス戦闘機の衝撃】

いずも型護衛艦でのF-35B垂直着艦シーン - 次世代ステルス戦闘機の運用能力
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なぜF-35Bなのか

いずも型が運用する戦闘機として選ばれたのが、F-35B「ライトニングII」である。

F-35Bの特徴:

  • 第5世代ステルス戦闘機
  • 短距離離陸・垂直着陸(STOVL)能力
  • 最大速度: マッハ1.6
  • 戦闘行動半径: 約900km
  • 搭載兵器: 空対空ミサイル、空対地ミサイル、精密誘導爆弾

F-35には3つのバリエーションがある:

  • F-35A: 通常離着陸型(空自が運用)
  • F-35B: 短距離離陸・垂直着陸型
  • F-35C: 空母艦載機型(米海軍が運用)

いずも型のような小型空母で運用できるのは、F-35Bだけ。垂直着陸能力により、カタパルトや着艦制動装置が不要だからだ。

航空自衛隊は当初F-35Aを導入していたが、2018年の決定を受けてF-35Bも追加購入。現在、計42機のF-35Bを取得予定である。

いずもが変える戦術

F-35Bを搭載したいずも型は、日本の防衛戦術を根本から変える。

従来の問題点: 南西諸島には航空自衛隊の基地が限られている。有事の際、戦闘機を展開するには時間がかかり、また基地が攻撃される危険性もあった。

いずも型+F-35Bの解決策: いずも型は移動する航空基地である。南西諸島近海に展開すれば、F-35Bをいつでも発艦させられる。敵は、固定された基地ではなく、移動する目標を攻撃しなければならない。これは極めて困難だ。

また、いずもから発艦したF-35Bは、陸上基地からでは届かない海域まで制空権を拡大できる。日本の防空圏が大幅に広がるのである。

運用想定:

  1. 平時: いずも型は通常の対潜護衛艦として活動
  2. 有事: F-35Bを搭載し、南西諸島近海に展開
  3. 制空: F-35Bが空中優勢を確保
  4. 連携: 陸上基地のF-35A、海自のイージス艦と連携

この柔軟性こそが、いずも型最大の強みである。

運用機数の制限

ただし、いずも型の運用能力には限界もある。

搭載可能機数: 最大約10機のF-35B

これは、アメリカの大型空母(70機以上搭載)に比べれば遥かに少ない。しかし、日本の防衛目的には十分とされている。

実際の運用では、おそらく6〜8機程度のF-35Bと、数機のヘリコプターを組み合わせることになるだろう。

「10機では少なすぎる」という批判もある。しかし重要なのは、ゼロから10機になったという事実だ。何もないより、10機のステルス戦闘機がある方が遥かに良い。

そして何より、いずもは単独で行動するわけではない。イージス艦、潜水艦、陸上基地の戦闘機――これらと連携することで、真の力を発揮するのである。

→ 関連記事: 航空自衛隊のF-35A/Bを徹底解説

中国空母との比較【太平洋の新たな競争】

中国の空母戦力

いずも型を語る上で避けて通れないのが、中国空母との比較である。

中国は現在、3隻の空母を運用・建造中:

  1. 遼寧(2012年就役)
  • 旧ソ連空母を改修
  • 満載排水量: 約67,000トン
  • 搭載機: 約40機(J-15戦闘機)
  1. 山東(2019年就役)
  • 中国初の国産空母
  • 満載排水量: 約70,000トン
  • 搭載機: 約40機
  1. 福建(2022年進水、未就役)
  • 電磁カタパルト搭載
  • 満載排水量: 約80,000トン
  • 搭載機: 約50〜60機と推定

数字で見る比較

いずも型 vs 中国空母:

項目
いずも型
遼寧/山東
福建
排水量
27,000トン
67,000トン
80,000トン
全長
248m
305m
320m
搭載機数
10機程度
40機
50〜60機
艦載機
F-35B
J-15
J-35?(予想)

数字だけ見れば、中国空母の圧勝である。いずも型は、中国空母の半分以下の排水量、4分の1の搭載機数しかない。

しかし、これは単純な比較はできない。

質と量、戦略の違い

重要なのは、両者の目的と戦略が異なるという点だ。

中国空母の目的:

  • 遠洋作戦能力(インド洋、南シナ海への展開)
  • パワープロジェクション(軍事力の誇示)
  • 制海権の確保
  • アメリカ空母への対抗

いずも型の目的:

  • 日本近海の防衛
  • 南西諸島の制空支援
  • 対潜水艦戦の中核
  • 災害派遣

中国は「攻撃的な遠洋海軍」を目指している。そのために大型空母が必要なのだ。

一方、日本は「専守防衛」である。日本近海を守るためには、いずも型の規模で十分――そういう設計思想なのである。

技術的な質の差

また、搭載機の質も考慮すべきだ。

F-35B vs J-15:

  • F-35B: 第5世代ステルス戦闘機
  • J-15: 第4世代戦闘機(ステルス性なし)

ステルス性の有無は決定的な差である。F-35Bはレーダーに映りにくく、敵が気づく前に攻撃できる。一方、J-15は従来型の戦闘機で、レーダーで容易に探知される。

1対1の戦闘では、F-35BがJ-15を圧倒すると多くの専門家が指摘している。

つまり:

  • 中国: 量で勝負(多数のJ-15)
  • 日本: 質で勝負(少数のF-35B)

もちろん、中国も次世代ステルス艦載機(J-35?)を開発中と言われており、将来的にはこの質的優位も失われる可能性がある。

運用経験の差

もう一つの重要な要素が、運用経験である。

中国の空母運用歴:

  • 遼寧: 2012年〜(約12年)
  • 山東: 2019年〜(約5年)
  • 福建: 未就役

日本のいずも型運用歴:

  • 空母として: 2021年〜(約3年)

数字上は中国が先行している。しかし、実は中国の空母運用も試行錯誤の段階なのだ。

空母の運用には膨大なノウハウが必要:

  • 艦載機の離着艦訓練
  • 航空管制
  • 整備・補給
  • 艦隊との連携
  • 実戦経験

アメリカは100年近い空母運用歴を持つが、中国はまだ10年少々。いずも型に至っては数年である。

ただし、日本には強力な味方がいる――アメリカである。日米同盟により、アメリカから空母運用のノウハウを学べるのは大きなアドバンテージだ。

結論: 単純比較は無意味

いずも型と中国空母、どちらが強いか――この質問に明確な答えはない。

中国空母は大型で搭載機数が多い。しかし、いずも型は質の高いF-35Bを運用し、イージス艦や潜水艦との連携が優れている。

そして何より、両者は異なる戦略目標を持っている。中国は遠洋進出、日本は近海防衛。単純な1対1の比較は、あまり意味がないのだ。

重要なのは、日本が初めて固定翼機を運用できる艦艇を手に入れたという事実。そしてそれが、中国の軍事的拡張に対する抑止力として機能しているという事実である。

→ 関連記事: 中国最新空母「福建」とは?電磁カタパルト搭載のモンスター空母の実力をわかりやすく解説

技術的特徴と能力【何ができるのか】

多目的運用という強み

いずも型の最大の特徴は、その多目的性にある。

運用可能な航空機:

  • F-35B戦闘機(最大10機程度)
  • SH-60K哨戒ヘリコプター
  • MCH-101掃海・輸送ヘリコプター
  • MV-22オスプレイ(垂直離着陸輸送機)

状況に応じて、これらを組み合わせて運用できる。例えば:

平時の対潜任務:

  • SH-60K × 7機 + 予備スペース

有事の制空任務:

  • F-35B × 8機 + SH-60K × 2機

災害派遣:

  • MCH-101 × 9機 + 指揮統制要員

島嶼防衛:

  • F-35B × 6機 + MV-22オスプレイ × 2機 + SH-60K × 2機

この柔軟性は、専用空母にはない強みである。

艦隊の司令塔として

いずも型のもう一つの重要な役割が、艦隊全体の指揮統制である。

いずも型は「DDH(Helicopter Destroyer)」の「H」が示すように、対潜ヘリコプター部隊の母艦が主任務だった。そのため、高度な指揮統制システムを搭載している。

搭載システム:

  • OYQ-12戦術情報処理装置
  • 統合戦術情報配信システム
  • データリンク16
  • 衛星通信システム

これにより、いずも型は:

  1. 周辺海域の潜水艦情報を統合
  2. 複数のヘリコプターを同時管制
  3. 他の護衛艦や潜水艦と情報共有
  4. 航空自衛隊とも連携

つまり、いずも型は単なる「戦闘機を載せる船」ではない。艦隊全体の頭脳として機能するのである。

この能力は、F-35Bを運用する際にも活かされる。いずもから発艦したF-35Bは、艦からの情報支援を受けながら戦闘する。まさに空と海の一体運用である。

自衛システム

いずも型自身の防御力も侮れない。

搭載兵器:

  • SeaRAM近接防空ミサイル × 2基
  • 高性能20mm機関砲 × 2基
  • 対潜魚雷発射管

SeaRAMは、対艦ミサイルを迎撃するための近接防空システム。11発のRAMミサイルを搭載し、接近する脅威を自動で迎撃する。

また、対潜魚雷発射管により、潜水艦に対する自衛能力も持つ。

ただし、いずも型は本格的な対空戦闘を想定していない。そのため、実際の運用では必ずイージス護衛艦などの護衛艦と共に行動する。

→ 関連記事: 日本のイージス艦「こんごう型・あたご型・まや型」を徹底解説

災害派遣能力

意外に重要なのが、災害派遣能力である。

いずも型は医療設備が充実している:

  • 手術室 × 1
  • 集中治療室
  • 病床 × 50床
  • 医療スタッフ対応可能

大規模災害時には、洋上病院として機能できる。実際、東日本大震災の教訓から、海自は災害派遣能力を重視している。

また、広大な甲板は救援物資の積み込みに便利。ヘリコプターを多数運用できるため、孤立した地域への物資輸送に威力を発揮する。

「空母は災害に役立たない」という批判もあるが、いずも型に関しては当てはまらない。平時は対潜・災害派遣、有事は空母――この多目的性こそが、いずも型の真価なのである。

課題と限界【何ができないのか】

正直に言おう、限界もある

ここまでいずも型の能力を称賛してきたが、公平を期すために限界も述べておかなければならない。

課題1: 搭載機数の少なさ

やはり、F-35B 10機程度というのは少ない。

アメリカの大型空母が70機以上を搭載できるのに対し、いずも型の10機は見劣りする。長期的な作戦継続や、消耗戦になった場合の予備機不足は懸念材料だ。

課題2: カタパルトの不在

いずも型にはカタパルト(射出機)がない。F-35Bは短距離離陸できるため問題ないが、これは制約でもある。

カタパルトがあれば:

  • より重い兵装を搭載して離陸可能
  • 燃料満載での離陸が容易
  • 早期警戒機(E-2Dなど)の運用も可能

しかしカタパルトの設置には、艦体の大幅な改修が必要。いずも型の船体規模では困難だろう。

課題3: 防御力の問題

いずも型の装甲は、正直言って薄い。対艦ミサイルの直撃を受けたら、大きなダメージを受けるだろう。

大型空母のような重装甲は、いずも型にはない。そのため、実戦では必ず護衛艦に守られながら行動する必要がある。

課題4: 運用コスト

F-35Bの運用には莫大なコストがかかる。

  • 機体価格: 1機約140億円
  • 整備費: 年間数億円/機
  • パイロット訓練費: 莫大

また、いずも型自体の運用コストも安くない。年間の維持費は数十億円規模と推定される。

限られた防衛予算の中で、これらのコストをどう捻出するかは大きな課題だ。

課題5: 人材不足

艦載機パイロット、整備員、航空管制官――これらの人材育成には時間がかかる。

海上自衛隊は伝統的に艦艇運用のプロだが、航空機運用については航空自衛隊に一歩譲る。いずも型の本格運用には、十分な訓練を受けた人材が不可欠だ。

現在、日米共同訓練を通じて人材育成を進めているが、一人前のパイロットを育てるには数年かかる。即座に戦力化できるわけではないのだ。

それでも、ないよりは遥かに良い

これらの限界を踏まえても、私はいずも型の価値は極めて高いと考える。

完璧な兵器など存在しない。重要なのは、限られた予算と制約の中で、最大限の能力を引き出すことだ。

10機のF-35Bでも、ゼロよりは遥かに良い。不完全な空母でも、空母がないよりは遥かに良い。

そして何より、いずも型は日本の造船技術、電子技術、運用ノウハウを結集した傑作である。その技術は、将来のより優れた艦艇開発の基礎となるだろう。

未来への展望【いずも型はどこへ向かうのか】

さらなる改修の可能性

いずも型の進化は、まだ終わっていない。

今後予想される改修:

  1. 電子戦システムの強化
  2. 対ドローン防御システムの追加
  3. レーザー兵器の搭載(将来的に)
  4. より高度なC4ISRシステム

特に注目されるのが、レーザー兵器である。アメリカはすでに艦艇用レーザー兵器の実用化を進めており、日本も研究開発中だ。

いずも型にレーザー兵器が搭載されれば、ドローンや小型ボートなどの非対称的脅威に対する防御力が大幅に向上する。

3番艦の建造は?

現在、いずも型は「いずも」「かが」の2隻のみ。

「3番艦を建造すべきだ」という声もある。確かに、2隻では有事の際の対応能力に限界がある。整備・訓練のローテーションを考えれば、最低でも3隻は欲しいところだ。

しかし、1隻1,200億円という建造費、さらに年間の維持費を考えると、財政的なハードルは高い。

現実的には、当面は2隻体制が続くだろう。ただし、将来的に「ひゅうが型」の後継艦として、いずも型の改良版が建造される可能性はある。

次世代「空母」の姿

2040年代、50年代を見据えたとき、日本の「空母」はどうなっているだろうか。

可能性1: より大型の多目的空母

排水量4万〜5万トン級の本格的な空母。カタパルトを搭載し、早期警戒機や無人機も運用可能。

可能性2: 無人機空母

有人機ではなく、無人戦闘機(UCAV)を主体とした空母。AIによる自律運用で、人的損失のリスクを最小化。

可能性3: 複数の中型艦による分散運用

大型空母1隻ではなく、いずも型クラスの中型艦を多数配備。分散することで、攻撃リスクを分散。

どの道を選ぶかは、今後の安全保障環境と技術発展次第だろう。しかし確実なのは、いずも型が切り開いた道――日本が空母を運用する道――は、もう後戻りできないということだ。

日米同盟の深化

いずも型の運用は、日米同盟をさらに深化させる。

すでに、いずもとアメリカ海軍の強襲揚陸艦(F-35B搭載)との共同訓練が実施されている。将来的には:

  • 日米空母部隊の共同作戦
  • F-35Bの相互運用(米軍機がいずもから発艦、など)
  • 統合的な航空作戦計画

こうした協力により、日米の相互運用性(インターオペラビリティ)はさらに向上するだろう。

中国から見れば、日本が事実上の空母を持ち、それがアメリカの空母部隊と連携する――これは大きな脅威である。そしてそれこそが、抑止力の本質なのだ。

まとめ── いずも型が切り開いた新時代

数字で振り返る、いずも型のすべて

ここまでの内容を、簡潔にまとめよう。

いずも型護衛艦:

  • 艦名: いずも(DDH-183)、かが(DDH-184)
  • 就役: 2015年、2017年
  • 全長: 248メートル
  • 排水量: 27,000トン
  • 最高速力: 30ノット以上
  • 搭載機: F-35B × 約10機、またはヘリコプター × 14機
  • 建造費: 約1,200億円/隻
  • 空母化改修費: 約500億円/隻

主な能力:

  • F-35Bステルス戦闘機の運用
  • 対潜水艦戦の中核
  • 艦隊指揮統制
  • 災害派遣・人道支援
  • 島嶼防衛支援

戦後日本の転換点

いずも型の空母化は、戦後日本の安全保障政策における大きな転換点である。

憲法9条と専守防衛という制約の中で、日本は長年「攻撃型兵器」を保有してこなかった。空母はその象徴的存在だった。

しかし、中国の台頭、北朝鮮の脅威、そして変化する戦略環境が、日本の政策を変えた。

いずも型は「攻撃型空母ではない」という建前を保ちながら、実質的には固定翼機を運用できる空母である。言葉遊びと批判する声もあるが、これは日本なりの現実的な解決策なのだ。

技術者たちへの敬意

この記事を書きながら、私は何度も思った。

いずも型を設計し、建造し、改修した技術者たちに、最大の敬意を表したい。

限られた予算、憲法上の制約、政治的な議論――様々な制約の中で、彼らは可能な限り優れた艦艇を作り上げた。

特に、将来の空母化を見据えた設計思想には脱帽する。表向きはヘリコプター護衛艦として建造しながら、後の改修を可能にする構造を密かに組み込んでいた――その先見性は見事というほかない。

→ 関連記事: 日本の防衛産業・軍事企業一覧【2025年最新】主要メーカーと得意分野・代表装備を完全網羅

平和のための力

最後に、私の本音を述べたい。

私は軍艦が好きだ。いずも型の雄大な姿、洗練された設計、そして秘められた能力――すべてに魅了される。

しかし同時に、いずも型が実戦で戦う日が来ないことを心から願っている。

いずも型は「戦うため」の艦ではない。「戦わないため」の艦である。

その存在が抑止力となり、中国や北朝鮮に「日本を攻めても無駄だ」と思わせる。それによって戦争を防ぐ――それがいずも型の真の任務なのだ。

F-35Bが空を飛ぶのは、演習場だけであってほしい。いずもが実戦の海域に出る日が、永遠に来ないことを――私は願っている。

あなたも、いずもに会いに行こう

もしあなたがいずも型に興味を持ったなら、ぜひ実物を見に行ってほしい。

いずもは横須賀基地、かがは呉基地に配備されている。年に数回開催される基地開放イベントでは、一般公開されることもある。

全長248メートルの巨体を目の前にしたとき、あなたは圧倒されるだろう。そして、この艦に込められた技術者たちの情熱を感じ取れるはずだ。

プラモデルで楽しむのも良い。最近は、空母化改修後のいずも型のキットも発売されている。

ゲームで操作するのも面白い。「World of Warships」などでは、いずも型が登場する。

どんな形でも良い。いずも型に触れ、日本の海上防衛に思いを馳せてほしい。

それが、平和の大切さを考えるきっかけになれば――この記事を書いた意味がある。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

あなたの海への興味が、さらに深まることを願って。


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【免責事項】 本記事の情報は2025年12月時点のものです。防衛装備品の詳細な仕様には機密情報が含まれるため、公開情報を基に執筆しています。最新の情報や詳細については、防衛省の公式発表をご確認ください。


「いずも型護衛艦」完全解説|日本最大の「空母」が切り開く新時代の海上防衛

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日本最大の護衛艦「いずも型」を徹底解説。F-35B運用による事実上の空母化、中国空母との比較、最新技術まで完全網羅。海自の切り札の全貌に迫る。
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【完全保存版】第二次世界大戦・日本の戦艦と空母全一覧|最強と言われた大日本帝国海軍の全艦艇を徹底解説


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