「2027年から所得税が1%上がるらしい」。
最近、こんな話を何度か耳にした。給料の手取りがまた減るのか、とうんざりした人も多いと思う。私も最初はそう思った。
結論から言うと、2027年1月から「防衛特別所得税」という新しい税金が始まるのは本当だ。でも、2027年の給料の手取りが、それで目に見えて減ることは、基本的にない。からくりがあるのだ。そして、そのからくりの本当の意味がわかるのは、ずっと先の2038年になってからだ。
この記事は、防衛増税の3本柱である法人税・たばこ税・所得税について、いつから、いくら、誰が負担するのかを、ざっくりした計算つきで整理する。最後に、投資家としてこの増税とどう付き合うかも書いておく。
防衛費そのものがなぜ増えているのか、次の5年でどこまで増えそうなのかは、安保3文書改定と防衛株の記事で書いた。この記事は、その「お金の出どころ」の話だ。
※税制は改正されることがある。実際の申告や手続きでは、必ず財務省・国税庁の最新の資料を確認してほしい。この記事は2026年10月時点の公開情報をもとにしている。
そもそも、なぜ防衛増税なのか

2022年12月に決まった今の防衛力整備計画では、2023年度から2027年度の5年間で、防衛力の強化に43兆円程度を使うことになった。そして2027年度以降は、それまでより毎年おおむね4兆円多いお金が必要になる。
政府は、この4兆円のうち、4分の3は歳出改革や決算の剰余金、税外収入といった増税以外の方法でまかない、残りの4分の1、つまり1兆円強を税金でまかなうと決めた。これが「防衛増税」だ。
その税金の中身が、法人税、たばこ税、所得税の3つになる。順番に見ていく。
全体像:3つの増税はいつから始まるのか
| 税 | 中身 | 開始 |
|---|---|---|
| 法人税(防衛特別法人税) | 法人税額から年500万円を引いた額に4%を上乗せ | 2026年4月1日以後に始まる事業年度から |
| たばこ税 | 加熱式たばこの課税を見直したうえで、1本あたり段階的に引き上げ | 2026年4月から段階的に |
| 所得税(防衛特別所得税) | 所得税額に1%を上乗せ。同時に復興特別所得税を2.1%から1.1%に下げる | 2027年1月1日以後の所得から |
法人税とたばこ税は、もう2026年4月から始まっている。所得税だけが、2027年1月からだ。
所得税:2027年の手取りは、なぜ変わらないのか
一番気になるのは所得税だと思うので、ここを丁寧に書く。
新しく「防衛特別所得税」1%が上乗せされる
2027年1月から、所得税の額に1%を上乗せする防衛特別所得税が始まる。
ここで、まず誤解しやすいポイントがある。1%がかかるのは「年収」ではなく「所得税の額」だ。年収500万円の人から5万円が引かれるわけではない。所得税として年に10万円払っている人なら、その1%の1,000円が上乗せされる、という仕組みだ。
同時に、復興特別所得税が1%下がる
そしてここが、からくりの部分だ。
今、私たちの給料からは、所得税と一緒に「復興特別所得税」が引かれている。東日本大震災からの復興の財源として、所得税の額に2.1%を上乗せしている税金だ。
2027年1月から、この復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に1%下がる。そして、下がった1%の代わりに、防衛特別所得税の1%が入る。
つまり、所得税に上乗せされる税金の合計は、
- 改正前:復興2.1%=合計2.1%
- 改正後:復興1.1%+防衛1%=合計2.1%
で、変わらない。給料の源泉徴収の計算方法も変わらない。だから、2027年の手取りが、この改正だけを理由に減ることはない。会社員なら、基本的に何も手続きをする必要はない。
個人事業主やフリーランスの人も、確定申告のときに計算する上乗せ税の合計は2.1%のままなので、当面の負担は変わらない。ただ、2027年分の確定申告からは、申告書の上で「復興」と「防衛」が分けて書かれるようになる可能性がある。申告ソフトや会計ソフトが新しい様式に対応しているかは、2027年分の申告が始まる前に確かめておくと安心だ。報酬から源泉徴収される税率(10.21%)も、合計が同じなので変わらない。
本当の負担増は「2038年から」
じゃあ、防衛増税は実質ゼロなのか。そうではない。ここからが本題だ。
復興特別所得税は、もともと2037年12月31日で終わる予定だった。それが、今回の改正で2047年12月31日まで、10年間延長された。税率を下げた分、期間を延ばして、復興に必要なお金の総額は確保する、という理屈だ。
そして、防衛特別所得税には、終わりの年が決められていない。「当分の間」とされているだけだ。
これを時系列で並べると、こうなる。
| 期間 | 改正前の上乗せ税率 | 改正後の上乗せ税率 | 差 |
|---|---|---|---|
| 2026年まで | 2.1%(復興) | 2.1%(復興) | 変わらない |
| 2027〜2037年 | 2.1%(復興) | 2.1%(復興1.1%+防衛1%) | 変わらない |
| 2038〜2047年 | 0%(復興は終了の予定だった) | 2.1%(復興1.1%+防衛1%) | +2.1% |
| 2048年以降 | 0% | 1%(防衛のみ、当分の間) | +1% |
つまり、本当なら2038年からなくなるはずだった上乗せ税が、そのまま続く。2038年以降に、実質的な増税がやってくるのだ。
ざっくり計算:あなたの負担はいくら増えるのか

年収で計算すると、家族構成や控除によって所得税の額が大きく変わってしまうので、ここでは「1年に払っている所得税の額」で計算する。自分の所得税の額は、源泉徴収票の「源泉徴収税額」の欄を見ればだいたいわかる(この欄の金額には復興特別所得税も含まれているので、ざっくりでいい)。
| 1年の所得税の額 | 2027〜2037年の増加 | 2038〜2047年の増加(年) | 2048年以降の増加(年) |
|---|---|---|---|
| 5万円 | 0円 | 約1,050円 | 500円 |
| 10万円 | 0円 | 約2,100円 | 1,000円 |
| 20万円 | 0円 | 約4,200円 | 2,000円 |
| 50万円 | 0円 | 約1万500円 | 5,000円 |
| 100万円 | 0円 | 約2万1,000円 | 1万円 |
たとえば、毎年20万円の所得税を払っている人なら、2038年から2047年までの10年間で、合計4万2,000円ほど負担が増える計算になる。その後も、毎年2,000円ずつ続く。
正直に言うと、1年あたりで見れば、大きな金額ではない。でも、「当分の間」続く税金だということは、頭に置いておいたほうがいい。
法人税:大企業には効くが、中小企業の多くは対象外
法人税の防衛増税は、「防衛特別法人税」という名前で、2026年4月1日以後に始まる事業年度から適用されている。
計算式はシンプルだ。
(法人税額 − 500万円)× 4%
ポイントは、年500万円の控除があることだ。法人税の額が年500万円以下の会社は、防衛特別法人税がかからない。日本の会社の大半を占める中小企業の多くは、これで対象外になる。
一方、大企業にはしっかりかかる。たとえば法人税の額が1億円の会社なら、(1億円 − 500万円)× 4% で380万円。法人税の額が100億円の会社なら、4億円近くになる。
ちなみに、防衛特別法人税は、防衛費で潤っている防衛関連の大企業自身にもかかる。三菱重工や川崎重工のような会社も、利益が増えるほど防衛特別法人税を多く払う。防衛費の増額で受注が増え、その利益の一部が防衛増税として国に戻っていく、というのはちょっと面白い構図だ。
たばこ税:段階的に1本あたりの税金が上がる
たばこ税は、二段構えで上がっていく。
まず2026年の4月と10月に、加熱式たばこの課税のしかたが見直された。これまで加熱式たばこは紙巻きたばこより税の負担が軽かったので、その差を縮める措置だ。
そのうえで、2027年4月、2028年4月、2029年4月の3回、国のたばこ税が1本あたり0.5円ずつ上がる予定だと報じられている。3年で合計1.5円の引き上げだ。
1日1箱(20本)吸う人なら、1本1.5円の値上がりがそのまま価格に乗った場合、1日30円、1年でおよそ1万1,000円の負担増になる計算だ。実際の値上げ幅は、たばこ会社の価格設定によって変わる。
防衛増税への賛否
ここまで中身を淡々と書いてきたが、防衛増税には、賛成と反対の両方の意見がある。どちらにも筋の通った理由があるので、両方を紹介しておく。
賛成する側の主な考え方
安全保障の環境が厳しくなる中で、防衛力の強化は避けられない。その費用を国債、つまり借金に頼れば、負担を将来の世代に押しつけることになる。防衛費は一時的なものではなく、ずっと必要になる経費なのだから、今を生きる世代が税金で安定して負担するのが筋だ、という考え方だ。
また、財源をはっきりさせておくことで、防衛費の増額に歯止めがかかり、財政への信頼も保てる、という見方もある。
反対・慎重な側の主な考え方
一方で、増税ではなく、ほかの予算の見直しや、経済成長による税収の増加でまかなうべきだ、という意見がある。物価が上がって家計が苦しい中で、増税は暮らしを圧迫する、という声も強い。
とくに批判が多いのは、復興特別所得税を使った仕組みだ。震災の復興のための税金の枠組みを、事実上、防衛費の財源に振り向けているのではないか、という指摘がある。政府は、復興財源の総額は期間の延長で確保するので、復興に必要なお金は減らないと説明しているが、被災地の側からは違和感の声も出ている。
もう一つは、防衛特別所得税に終わりの年がないことへの懸念だ。「当分の間」という書き方では、事実上の恒久的な増税になるのではないか、という見方だ。
どちらが正しいかは、この記事では決めない。ただ、仕組みを正確に知ったうえで議論したほうが、どちらの立場の人にとってもいいと思う。
防衛費が「GDP比3.5%」になったら、増税はどうなるのか

もう一つ、気にしておきたいことがある。
今の防衛増税は、2027年度にGDP比2%という今の目標を前提にした話だ。ところが、2026年末に予定されている安保3文書の改定では、それより高い目標が議論されている。米国は、同盟国にGDP比3.5%を求めている。
もし防衛費をさらに大きく増やすなら、そのお金をどこから持ってくるのか、という話は避けられない。今の1兆円強の増税だけでは、まるで足りなくなるからだ。追加の増税になるのか、国債になるのか、ほかの予算を削るのか。12月の文書と、その後の税制改正の議論は、家計にとっても無関係ではない。このあたりの見通しは、冒頭で紹介した安保3文書の記事で詳しく書いている。2027年度の防衛予算の要求の中身は令和9年度概算要求の解説を見てほしい。
大日本帝国ファンとして:戦争のために生まれた税は、なかなか消えない
ここで少し、歴史の話をさせてほしい。
今、私たちが当たり前のように払っている相続税は、もともと日露戦争の戦費をまかなうために、1905年に新しくつくられた税金だ。戦争が終わったあとも、相続税はなくならなかった。それから120年以上、形を変えながら続いている。
戦争や非常事態のために始まった税金は、一度始まると、なかなか終わらない。防衛特別所得税の「当分の間」という言葉を見ると、私はどうしてもこの話を思い出してしまう。
もちろん、だから防衛増税が悪いと言いたいわけではない。ただ、「一時的なもの」ではなく、長く付き合う税金になる可能性が高い、という前提で考えておいたほうがいいと思う。日露戦争の戦費と増税の話は、日露戦争の全体像の記事でも書いている。
投資家目線:増税に負けない家計をどうつくるか

最後に、投資家として、この増税とどう付き合うかを書いておく。
株の税金にも、防衛特別所得税はかかる
意外と知られていないのが、株の配当や売却益にかかる税金にも、防衛特別所得税が関係するということだ。
株の利益にかかる税金は、今は20.315%だ。内訳は、所得税15%、住民税5%、そして復興特別所得税の0.315%(所得税15%の2.1%)。2027年からは、この0.315%の部分が「復興1.1%+防衛1%」に置き換わるが、合計は同じなので、税率は20.315%のまま変わらない。ただ、2038年以降も、この0.315%の部分が続くことになる。
NISAなら、そもそも税金がかからない
ここで効いてくるのが、新NISAだ。NISAの口座で得た配当や売却益には、所得税も住民税もかからない。当然、復興特別所得税も、防衛特別所得税もかからない。ただし、上場株式の配当を非課税にするには、証券口座で受け取る「株式数比例配分方式」を選ぶ必要がある。
増税の時代に、税金がかからない枠を使わない手はない、と私は思っている。もちろん、投資には元本割れのリスクがあるので、生活に必要なお金まで回すのは論外だ。でも、長く続く増税への備えとして、非課税の枠を知っておく価値は大きい。新NISAの仕組みは、この入門書が一番わかりやすかった。
防衛費が増えるなら、その流れに乗るという考え方
もう一つの考え方は、防衛費の増額という大きな流れそのものに、投資として向き合うことだ。
防衛増税で集めたお金は、防衛費として使われ、その一部は装備品をつくる企業の売上になる。増税で家計から出ていくお金の流れを、投資で少しでも取り戻す、という発想だ。どの企業に防衛費が流れているかは、防衛予算の受益企業ランキングにまとめた。個別の株を選ぶのが不安なら、防衛関連の企業をまとめて持てる防衛ETFの比較も参考になると思う。
株やNISAを始めるには、まず証券口座が要る。私は、日本株も米国株もNISAも一つのアプリで扱える口座を使っている。
※この章は、制度と考え方を紹介するもので、特定の金融商品や銘柄の売買を勧めるものではない。投資には元本割れのリスクがあり、税制も変わることがある。投資の判断は、必ずご自身で行ってほしい。
まとめ:2027年は変わらない、でも「当分の間」続く
防衛増税のポイントを、最後にもう一度まとめておく。
所得税は、2027年1月から防衛特別所得税1%が始まるが、復興特別所得税が1%下がるので、当面の手取りは変わらない。ただし、復興特別所得税が10年延長され、防衛特別所得税には終わりの年がないので、2038年以降は実質的な負担増になる。
法人税は、2026年4月から、法人税額から500万円を引いた額に4%が上乗せされている。中小企業の多くは対象外で、大企業が主な負担者になる。
たばこ税は、2026年に加熱式たばこの見直しがあり、2027年から3年かけて1本あたり合計1.5円ほど上がる予定だ。
そして、防衛費がさらに増えれば、増税の話もまた動く可能性がある。12月の安保3文書の改定は、家計にとっても見ておきたいニュースだ。
免責事項:本記事は2026年10月6日時点の公開情報をもとに、制度の概要を一般的に説明したものであり、個別の税務相談や投資助言ではない。税額の計算は簡略化した目安であり、実際の税額は所得や控除の状況によって異なる。税制は今後の改正で変わる可能性がある。申告や手続きは国税庁・財務省の最新資料や税理士に確認し、投資の判断はご自身の責任で行ってほしい。







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