ホバート級駆逐艦とは|スペイン生まれのオーストラリア版イージス艦──性能、遅れた建造、2026年の大改修、まや型との違いまで

ホバート級駆逐艦の記事表紙

世界でイージス艦を持っている国は、ほんの一握りしかない。アメリカ、日本、韓国、スペイン、ノルウェー、そしてオーストラリア。そのオーストラリアのイージス艦が、ホバート級駆逐艦だ。

ホバート級は少し変わった生まれをしている。アメリカのアーレイ・バーク級でも、日本のこんごう型でもなく、スペイン海軍のフリゲートをもとに作られた。建造は3年以上遅れ、費用も膨らんだ。それでも就役後は、トマホーク巡航ミサイルを撃てる艦になり、2026年には弾道ミサイルにも対応できる大改修が始まった。

そして2026年、オーストラリアは日本のもがみ型をもとにした新しいフリゲートの導入も正式に決めた。日本とオーストラリアの海軍は、これまでになく近い関係になりつつある。

この記事では、ホバート級がどんな艦で、なぜスペインの設計を選んだのか、どんな性能を持ち、いまどう生まれ変わろうとしているのかを整理する。最後に、日本のまや型との違いも比べてみたい。

この記事のポイント
目次

ホバート級駆逐艦とは|基本データ

オーストラリア海軍のホバート。艦橋周囲にイージス用レーダーを配置する。
オーストラリア海軍のホバート。艦橋周囲にイージス用レーダーを配置する。
写真:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Jenna Dobson/Wikimedia Commons(Public domain)

ホバート級は、オーストラリア海軍が艦隊の防空のために作った駆逐艦だ。正式には「防空駆逐艦(Air Warfare Destroyer)」と呼ばれる。

項目 内容
隻数 3隻(ホバート、ブリスベン、シドニー)
就役 2017年〜2020年
原型 スペイン海軍のアルバロ・デ・バサン級フリゲート
満載排水量 約7,000トン
全長 約147m
速力 28ノット以上
乗員 約190人(航空要員を除く)
戦闘システム イージス(SPY-1Dレーダー)
垂直発射装置 Mk41 48セル
主な兵器 SM-2、ESSM、SM-6、トマホーク、NSM、5インチ砲、近接防御火器、魚雷
搭載機 MH-60R哨戒ヘリコプター1機

3隻の就役は、ホバートが2017年9月、ブリスベンが2018年10月、シドニーが2020年5月だ。

オーストラリア海軍の艦艇全体の中での位置づけはオーストラリア海軍の艦艇一覧【2026年版】にまとめている。

3隻それぞれの横顔

1番艦のホバート(DDG 39)は、2017年に就役した一番艦で、2026年からは3隻の中で最初に大改修に入った。改修を終えて戻ってくれば、オーストラリアで初めて弾道ミサイルに対応できる艦になる。

2番艦のブリスベン(DDG 41)は、2024年12月にアメリカ西海岸の沖でトマホークの発射に成功した艦だ。オーストラリア海軍として初めてのトマホーク発射で、「遠くの陸地を撃てる海軍」への第一歩になった。

3番艦のシドニー(DDG 42)は、2024年にSM-6とNSMの発射に成功している。最も新しい艦として、新しいミサイルの試験役を担うことが多い。

なぜスペインの設計?|アーレイ・バーク級を選ばなかった理由

上空から見たホバート。前甲板から後部のヘリコプター甲板までを見渡せる。
上空から見たホバート。前甲板から後部のヘリコプター甲板までを見渡せる。
写真:U.S. Marine Corps photo by Sgt. Jesus Sepulveda Torres/Wikimedia Commons(Public domain)

ホバート級の設計を決めるとき、オーストラリアには大きく2つの選択肢があった。アメリカのアーレイ・バーク級を発展させた設計と、スペインのアルバロ・デ・バサン級をもとにした設計だ。

2007年、オーストラリアはスペイン案を選んだ。理由は「リスクが小さい」ことだった。アルバロ・デ・バサン級は、すでにスペインで実際に建造され、就役していた艦だ。一方、アーレイ・バーク級を発展させる案は、まだ紙の上の設計にすぎなかった。それに、アーレイ・バーク級は約9,000トン級と大きく、乗員も多い。人手がそれほど多くないオーストラリア海軍にとって、7,000トン級のスペイン案はちょうどいい大きさだった。

スペインのアルバロ・デ・バサン級は、ヨーロッパで初めてイージスシステムを積んだ艦でもある。イージスはもともとアメリカの技術だが、それを小ぶりの船体に収めたスペインの設計を、オーストラリアが買った形だ。

アーレイ・バーク級についてはアーレイ・バーク級の解説、イージス艦を持つ国についてはイージス艦保有国ランキングで書いている。

遅れと予算超過|「問題プロジェクト」と呼ばれた建造

ホバート級の建造は、順調とは言いがたかった。

要点

最終的に、就役は当初の予定より3年以上遅れ、総費用も約80億オーストラリア・ドルの当初契約から、90億ドルを超えるまでに膨らんだ。

この苦い経験は、オーストラリアが次の艦を選ぶときの教訓になった。設計が固まっていない新しい艦より、すでに実績のある艦をもとにする。2025年に日本のもがみ型をもとにしたフリゲートを選んだ背景にも、この考え方があると私は見ている。

ホバート級の性能|小さな船体に詰め込んだ防空力

ミサイル発射を行うホバート。
ミサイル発射を行うホバート。
写真:Mass Communication Specialist 2nd Class Abigayle Lutz/Wikimedia Commons(Public domain)

イージスシステムとSPY-1Dレーダー

ホバート級の中心は、アメリカのロッキード・マーチン製のイージス戦闘システムと、SPY-1Dレーダーだ。艦橋の周りに貼り付けられた4枚の平たいレーダーが、全方位の空を同時に見張る。何十もの目標を同時に追いかけ、ミサイルを誘導できる。

さらに、水平線近くを低く飛んでくるミサイルを見つけるための別のレーダーも積んでいる。海面すれすれを飛ぶ対艦ミサイルへの備えだ。

48セルのミサイル発射装置

ミサイルは、甲板の下に埋め込まれたMk41垂直発射装置に48発分を収める。艦隊防空用のSM-2、射程の長いSM-6、近い距離の目標を落とすESSM(1つのセルに4発入る)、そして対地攻撃用のトマホークを、任務に応じて積み分ける。

2024年には、シドニーがSM-6の発射に、ブリスベンがトマホークの発射に成功した。ブリスベンのトマホーク発射によって、オーストラリアは当時、アメリカとイギリスに次いで世界で3番目にトマホークを撃った国になった。

対艦ミサイルは、これまでのハープーンから、ノルウェー製のNSM(ネーバル・ストライク・ミサイル)に切り替わりつつある。2024年にはシドニーがNSMの発射試験も行った。

トマホークについてはトマホーク巡航ミサイルの解説、SM-6はSM-6の解説で書いた。

ホバート級の弱点

もちろん、ホバート級にも弱いところはある。

一番よく言われるのは、ミサイルの数だ。48セルという数は、アーレイ・バーク級の半分ほどしかない。艦隊の防空用のミサイル、対地攻撃のトマホーク、射程の長いSM-6と、任務が増えるほど、1つ1つのセルの奪い合いになる。トマホークを多く積めば、そのぶん身を守るミサイルが減る。

もう一つは、設計の「混ざり方」だ。船体はスペイン、戦闘システムはアメリカ、それをオーストラリアで組み上げた。改修のたびに、スペイン側の設計とアメリカ側のシステム、さらにオーストラリア独自の装備をすり合わせる必要がある。2026年の大改修で、船体の設計を担うナバンティアのオーストラリア法人、戦闘システムを担うロッキード・マーチンやサーブ、工事を担うBAEシステムズが一緒に動いているのは、そのためだ。

そして、数が3隻しかないこと。後で触れるように、1隻が改修に入るだけで、使える防空艦は2隻に減る。

2026年の大改修|弾道ミサイルにも対応する艦へ

真珠湾へ入港するホバート。
真珠湾へ入港するホバート。
写真:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Charles Oki/Wikimedia Commons(Public domain)
要点

改修の中身は大がかりだ。イージスシステムを、これまでのベースライン8からベースライン9へと新しくする。これで、航空機や巡航ミサイルだけでなく、弾道ミサイルにも対応できるようになり、落ちてくる弾道ミサイルを最後の段階で迎え撃つ能力が加わる。SM-6、トマホーク、NSMを本格的に使える体制も整える。電子戦や通信の装備も新しくなる。

2026年8月には造船所での大きな工事を終え、9月には船体が再び水に浮かんだ。次は、新しい戦闘システムに初めて電源を入れて動かす段階に進む。ブリスベンとシドニーも、今後順番に同じ改修を受ける。3隻を同時に改修すると艦隊の防空がほとんど空っぽになるので、1隻ずつ進めるしかない。

改修の予算は3隻分で約43億オーストラリア・ドル。さらに、トマホーク200発以上に約13億ドル、SM-2とSM-6の調達に約70億ドルを投じるとされる。オーストラリアが、本気で「遠くから撃てる海軍」に生まれ変わろうとしているのがよく分かる。

オーストラリア海軍の将来像|ホバート級は「3隻だけ」の防空艦

オーストラリアは2024年、水上艦隊を大きく作り直す計画を打ち出した。示された姿は、改修したホバート級3隻、イギリス設計のハンター級フリゲート6隻、新しい汎用フリゲート11隻、そして乗員を減らしたり無人でも動かせたりする大型の水上艦6隻を中心にした艦隊だ。

この中で、イージスを積んだ本格的な防空駆逐艦はホバート級の3隻しかない。ハンター級も高い防空能力を持つ予定だが、ホバート級は当面、オーストラリア艦隊の「空の盾」を一手に担う存在であり続ける。1隻を改修に出すだけで、使える防空艦が3分の2に減る。この台所事情を考えると、ホバート級1隻1隻の価値はとても重い。

まや型との違い|日豪のイージス艦を比べる

日本のまや型と比べてみると、ホバート級の性格がよく見えてくる。

項目 ホバート級(豪) まや型(日)
隻数 3隻 2隻
原型 スペインのフリゲート 日本独自(あたご型の発展)
満載排水量 約7,000トン 約1万トン超
垂直発射装置 48セル 96セル
弾道ミサイル防衛 改修で追加中 当初から対応(SM-3)
対地攻撃 トマホーク トマホーク導入を進める

一番の違いは大きさとミサイルの数だ。まや型の発射装置は96セルで、ホバート級のちょうど2倍。日本は北朝鮮の弾道ミサイルに備えて、宇宙空間で迎え撃つSM-3を積み、弾道ミサイル防衛を最初から重視してきた。ホバート級は、艦隊を守る防空艦として生まれ、いま改修で弾道ミサイルへの対応を後から加えている。

ただし、ホバート級の小ささは弱点ばかりではない。オーストラリア海軍は人手が少なく、艦の数も限られる。小さな船体で、防空も対地攻撃も対艦攻撃もこなす艦は、オーストラリアの身の丈に合っているとも言える。

まや型についてはまや型護衛艦の解説、日本のイージス艦全体は日本のイージス艦の解説で詳しく書いた。世界のイージス艦の中での実力は世界最強イージス艦ランキングを見てほしい。

艦名の由来|日本の潜水艦に撃たれた先代「ホバート」

ホバート級の3隻の名前は、どれもオーストラリアの州都から取られていて、過去にも同じ名前の軍艦がいた。

旧海軍好きとしては、先代の軽巡洋艦ホバートの話は外せない。1943年7月20日、ソロモン諸島の近くで、日本海軍の潜水艦伊11が重巡洋艦オーストラリアを狙って魚雷を放った。1本は外れたが、そのまま進んでホバートに命中した。ホバートは竜骨が折れ、スクリューを失い、乗員13人が亡くなった。それでも沈まず、自力で港までたどり着き、1年半近くの修理を経て戦線に戻っている。

80年あまりたったいま、その名を継ぐホバートは、日本と訓練をともにする関係になった。そしてオーストラリアは、日本の造船所で作られるフリゲートを自国の海軍に迎えようとしている。歴史の巡り合わせを感じずにはいられない。

日本とオーストラリアの海軍|もがみ型の輸出で深まる関係

アメリカ海軍のジョン・フィンと航行するホバート。
アメリカ海軍のジョン・フィンと航行するホバート。
写真:U.S. Marine Corps photo by Sgt. Jesus Sepulveda Torres/Wikimedia Commons(Public domain)

2026年4月18日、オーストラリア政府は、三菱重工業のもがみ型を発展させた新しいフリゲート3隻の契約を発表した。最初の3隻は日本で建造され、1隻目は2029年に引き渡される見込みだ。計画全体では最大11隻を導入し、4隻目以降はオーストラリア西部で建造される予定になっている。

日本の護衛艦が丸ごと外国の海軍に採用されるのは、戦後初めてのことだ。

日豪の防衛協力は、ここ数年で一気に深まっている。2023年には、お互いの部隊が相手の国で訓練や活動をしやすくする「円滑化協定」が発効し、共同訓練も増えた。アメリカを除けば、日本にとってオーストラリアは最も近い防衛の相棒になりつつある。ホバート級は艦隊の防空の中心、もがみ型の新フリゲートは数をそろえる汎用艦として、これからのオーストラリア海軍を支えることになる。詳しくはもがみ型護衛艦の豪州輸出の解説に書いた。輸出の主役となる三菱重工については三菱重工の防衛事業で解説している。

※この記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではない。株価や業績は変動し、元本割れの可能性もある。投資判断は自己責任で。

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模型で日豪の艦を並べる

ホバート級そのもののキットは手に入りにくいが、オーストラリアが導入するもがみ型や、ホバート級と比べたいまや型、原型の候補だったアーレイ・バーク級なら、1/700で並べられる。

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よくある質問

ホバート級駆逐艦は何隻ある?

ホバート、ブリスベン、シドニーの3隻だ。2017年から2020年にかけて就役した。

ホバート級はイージス艦?

イージス艦だ。アメリカのイージス戦闘システムとSPY-1Dレーダーを積んでいる。オーストラリアは、世界でも数少ないイージス艦の保有国の一つである。

ホバート級はトマホークを撃てる?

撃てる。2024年12月にブリスベンが初めての発射に成功し、オーストラリアは当時、アメリカ・イギリスに次いで3番目にトマホークを撃った国になった。

ホバート級とまや型、どちらが強い?

ミサイルの数と弾道ミサイル防衛の能力では、96セルを持ち当初からSM-3を積むまや型が上だ。ホバート級は小さな船体で幅広い任務をこなす艦で、2026年からの改修で弾道ミサイル防衛の能力が加わる。

ホバート級の後継は?

ホバート級そのものの後継はまだ決まっていない。オーストラリアは並行して、イギリス設計のハンター級フリゲートや、もがみ型をもとにした新フリゲートの導入を進めている。

まとめ|スペインの船体、アメリカの頭脳、そして日本との新しい関係

ホバート級は、スペインの船体にアメリカのイージスという頭脳を載せた、オーストラリアのイージス艦だ。建造では苦労したが、就役後はトマホークとSM-6を撃てる艦になり、2026年からは弾道ミサイルにも対応する艦へと生まれ変わりつつある。

まや型と比べれば小ぶりだが、人手と艦の数が限られるオーストラリアにとっては、身の丈に合った万能の防空艦と言っていい。そして、そのオーストラリア海軍が、いま日本のフリゲートを迎えようとしている。80年前に日本の潜水艦に撃たれた艦の名を継ぐ駆逐艦と、日本で作られる新しいフリゲートが並んで走る日が、もうすぐやってくる。

最後まで読んでくれてありがとう。

出典・参考資料

表紙の写真素材:
写真:U.S. Marine Corps photo by Sgt. Jesus Sepulveda Torres/Wikimedia Commons(Public domain)。背景・レイアウト・文字を編集。

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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