2023年12月、紅海。イギリスの駆逐艦ダイヤモンドが、商船を狙って飛んできたフーシ派の無人機をミサイル1発で叩き落とした。イギリス海軍がミサイルで空の標的を実戦で撃墜したのは、1991年の湾岸戦争以来だった。その後ダイヤモンドは何度もシー・ヴァイパーを撃ち、対艦弾道ミサイルまで迎撃したと発表された。就役から14年目にして、45型駆逐艦はようやく「実戦で使える防空艦」だと証明した。
ところが同じ2026年、この艦は別の意味でも有名だ。6隻あるのに動いているのは3隻。1番艦デアリングは3,000日以上も港から出ていない。エンジンが暖かい海で止まるという、防空艦としてあってはならない欠陥を抱えたまま15年たった。そして後継艦の83型は2026年6月に計画ごと消えた。
世界最高水準のレーダーとミサイルを積んだ、世界で一番動かない駆逐艦。私はこの艦を「イギリス海軍の縮図」だと思っている。今回はその全部を書く。
一言でいうと、空母を守るために生まれた「レーダーの塔」

写真:© Crown copyright/POA(PHOT) Paul A'Barrow/出典・利用条件(OGL v1.0)
45型はイギリス海軍の防空駆逐艦で、正式にはデアリング級と呼ぶ。2009年から2013年にかけて6隻が就役し、母港は全艦ポーツマスだ。満載排水量はおよそ8,500トン、全長152メートル。海自のまや型より少し小さい。
仕事はひとつ、空を守ることだ。空母クイーン・エリザベス級の打撃群に付いて、飛んでくる航空機と巡航ミサイル、そして最近では弾道ミサイルを落とす。対潜も対艦も「一応できる」程度で、本気で作り込んであるのは防空だけだ。ここが、何でも屋のアーレイ・バーク級やまや型と決定的に違う。
| 項目 | 45型(デアリング級) |
|---|---|
| 就役 | 2009〜2013年、6隻 |
| 満載排水量 | 約8,500トン |
| 全長 | 152.4m |
| 推進 | 統合電気推進(WR-21ガスタービン×2+ディーゼル発電機) |
| 主レーダー | サンプソン多機能レーダー、S1850M長距離捜索レーダー |
| 対空ミサイル | アスター15/30×48セル(+CAMM×24セル追加中) |
| 砲 | 4.5インチ砲、ファランクス×2 |
| 対艦 | NSM(順次搭載) |
| 母港 | ポーツマス |
なぜこの形なのか:フォークランドの記憶と、欧州共同開発の破談
45型を理解するには、1982年から始めるのがいい。
フォークランド紛争でイギリス海軍は、アルゼンチン空軍の低空攻撃で駆逐艦シェフィールドとコヴェントリーを失った。どちらも当時最新の42型防空駆逐艦だった。シェフィールドはエグゾセ対艦ミサイルの命中で失われ、コヴェントリーはスカイホークによる爆撃で沈んだ。この屈辱がイギリス海軍の中に「次の防空艦は絶対に低空とミサイルに強くする」という執念を残した。
1990年代、イギリスはフランス、イタリアと共同で次期防空艦を作ろうとした。ところが1999年にイギリスだけが離脱し、単独で45型を作ることにした。フランスとイタリアが作ったのがオリゾン級で、この2つの艦はミサイルと戦闘システムの骨格が同じ兄弟艦だ。イギリスが離脱した理由は、レーダーを自国製にしたかったからだ。それがサンプソンになる。
もともと12隻作る計画だった。それが8隻になり、6隻になった。1隻あたりの値段は10億ポンドを超え、当時のイギリス国防省の予算問題の象徴になった。フランスのオリゾン級が2隻で終わったことを考えると、6隻でも多いほうだが、12隻の予定で設計した整備体制を6隻で回すことになったのが、後の稼働率問題の遠因になっている。イギリス海軍の全体像はイギリス海軍の艦艇一覧で書いた。
サンプソンとシー・ヴァイパー:ここは本当に世界一線級

写真:© Crown copyright/LA(Phot) Keith Morgan/出典・利用条件(OGL v1.0)
この艦の価値はマストの上にある。
サンプソン・レーダーは、艦の一番高いところで回転している球体だ。中には2面のアクティブ・フェーズド・アレイが背中合わせに入っていて、それを回すことで全周を見る。イージス艦のSPY-1が船体に固定した4面のアンテナで全周を見るのと発想が逆で、高い位置に置けるぶん水平線の向こうの低空目標を早く見つけられる。フォークランドの教訓がそのまま形になったレーダーだ。
ミサイルはアスター15とアスター30。フランス、イタリアと共通で、45型ではこれとサンプソンと指揮システムをまとめて「シー・ヴァイパー」と呼ぶ。アスターの特徴は、終末段階で小さなロケットを噴射して機体を横滑りさせ、目標に直撃させることだ。破片で壊すのではなく当てて壊す。イギリス海軍はこの方式に自信を持っていて、紅海でそれが証明された。
そして今、シー・ヴァイパーは弾道ミサイル対処へ進化している。4億ポンド超をかけてアスター30を弾道ミサイル対処型に改修し、サンプソンと指揮システムを更新する計画で、最初の艦ダイヤモンドで2028年に運用開始、全艦で2032年完成の予定だ。ここまで来ると、海自のまや型がSM-3で弾道ミサイルを落とすのと同じ土俵に、ようやく上がることになる。
さらに、48セルのアスターに加えて短距離のCAMM(シー・セプター)を24セル追加する改修が進んでいて、ディフェンダーが最初に受けた。合計72発。CAMM追加は紅海での実戦以前、2021年に公表された計画で、アスターと異なる射程の防空ミサイルを組み合わせる。イギリスの防空ミサイルの系譜は26型フリゲートの記事でも触れている。
「暖かい海で止まる」:WR-21エンジンの欠陥

写真:© Crown copyright/LA(Phot) Caz Davies/出典・利用条件(OGL v1.0)
ここからが本題だ。
45型は統合電気推進という方式を取っている。ガスタービンとディーゼルで発電し、その電気でモーターを回す。将来のレーザー兵器や大出力レーダーに備えた先進的な設計だった。問題はそのガスタービン、ロールス・ロイスのWR-21だ。
WR-21は排気の熱を回収して燃費を上げる凝った設計で、その熱交換器が暖かい海では設計通りに働かない。ペルシャ湾やインド洋のような海域で出力が落ち、落ちた分をディーゼル発電機が支えきれず、艦全体が停電して漂流する。防空艦が敵の前で電気を失うということは、レーダーもミサイルも死ぬということだ。イギリス海軍のトップが公の場で「とんでもない恥」と言ったのも無理はない。
対策は「PIP」と呼ばれる電源改善計画で、ディーゼル発電機を丸ごと新型に載せ替え、船体を切り開いて工事する大改修だ。1隻1年以上かかり、6隻で1億6千万ポンド。2026年時点でドーントレス、ドラゴン、ダンカンの3隻が改修を終えて動いていて、ディフェンダーとダイヤモンドは改修中、そして1番艦デアリングは2017年に港に入ったまま3,000日以上、2026年後半にようやく戻る予定だ。就役から17年のうち、9年を港で過ごした駆逐艦。私はこの数字を見るたびに、設計の失敗が海軍にどれだけ長く祟るかを思う。
2026年春の時点で、実際に海外に展開していたのはドラゴン1隻だった。6隻中1隻。イギリス海軍は空母2隻を持っているが、その空母を守る防空艦が1隻しか出せない時期があるということだ。クイーン・エリザベス級の記事でも書いたが、空母の弱点は空母自身ではなく、護衛の数にある。
実戦:紅海、黒海、そしてカリブ

写真:© Crown copyright/Royal Navy/出典・利用条件(OGL v1.0)
それでも動いた艦は、ちゃんと仕事をした。
2021年6月、ディフェンダーはクリミア沖の黒海でロシアが主張する領海を通り抜け、ロシア側が警告射撃と爆弾投下をしたと発表した。冷戦後、英露の軍艦がここまで接近したのは初めてだった。イギリスは「国際法上の無害通航」と言い張り、ロシアは「撃った」と言い張った。この艦は最初から政治の道具として使われている。
2023年から2024年の紅海では、ダイヤモンドがフーシ派の無人機とミサイルを次々に落とし、シー・ヴァイパーが初めて実戦で撃たれた。CAMM追加の契約は2021年に公表されており、紅海での実戦を受けて初めて決まった改修ではない。
そして2025年、ダンカンが地中海で空母打撃群の護衛に入り、2026年はドラゴンが東地中海にいる。数は少ないが、動いている艦の練度は高い。紅海でのミサイル迎撃の詳しい話は世界最強駆逐艦ランキングで扱っている。
まや型・アーレイ・バーク級と比べると何が見えるか
日本の読者が一番知りたいのはここだと思う。
まや型はSPY-1Dレーダーを4面固定し、96セルにSM-2、SM-3、SM-6を積む。弾道ミサイル、航空機、巡航ミサイル、さらに対潜対艦まで一隻でこなす。45型は48セルにアスターだけ、対潜はヘリ頼み、対艦はようやくNSMが載り始めた。火力と汎用性では、まや型のほうが明らかに上だ。
ただしレーダーの置き方だけは45型のほうが理にかなっている。サンプソンはマストの上にあるので、水平線の向こうから低空で飛んでくるミサイルを、船体にレーダーを固定した艦より数十秒早く見つける。防空艦にとってこの数十秒は命だ。イギリスが40年前のフォークランドで学んだことを、まだ誰も追い越していない。
アーレイ・バーク級との比較はアーレイ・バーク級の記事、日本のイージス艦はまや型の記事と日本のイージス艦解説を読んでほしい。イージス艦の並びは世界最強イージス艦ランキングにある。
45型のキットは日本ではほとんど流通していないので、比較相手のアーレイ・バーク級を机に置いて、レーダーの位置の違いを眺めるのも面白い。
帝国海軍ファンとして書いておきたい、英国と日本の「防空駆逐艦」
ここは私の趣味の話だ。
日本の駆逐艦はイギリス生まれだ。明治の「雷」も「東雲」もイギリスのヤーロウとソーニクロフトで作られ、戦艦金剛もヴィッカースで作られた。日本海軍はイギリス海軍の弟子として始まった。
そして太平洋戦争で日本海軍は秋月型という防空駆逐艦を作った。長10センチ高角砲を8門積み、空母機動部隊の傘になる。発想は45型とまったく同じで、「空母を守る専用の艦」だ。ただし秋月型にはレーダー射撃も対空ミサイルもなく、結局アメリカの艦載機の数に押し切られた。
一方でイギリスは、1941年にマレー沖で戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを日本の陸攻に沈められた。艦隊が航空攻撃に勝てないことを、日本海軍がイギリスに教えた形だ。それから40年後、フォークランドでイギリスは同じ教訓をアルゼンチンから受け、その答えとして45型を作った。日本の教訓が回り回ってイギリスの防空艦になり、その45型と海自のまや型が、いま同じ弾道ミサイル対処という宿題に取り組んでいる。海自の現代のあきづき型が秋月型の名前を継いでいるのも、防空という仕事が80年変わっていないからだ。
後継艦83型の中止と、2038年までの延命
2026年6月、イギリス国防省は45型の後継として構想していた83型駆逐艦を正式に取りやめた。代わりに「共通戦闘艦」と呼ぶ新しい艦種を作り、2030年代初めから就役させる。防空専用の巨大な駆逐艦ではなく、無人機やミサイルを組み合わせた汎用艦にするという方針転換で、45型の思想の真逆だ。
そして2026年9月、イギリス海軍は45型の寿命をさらに延ばす検討を始めた。退役予定は2038年だが、電源改修とシー・ヴァイパー改修に大金を注いだ艦を早く捨てるわけにもいかない。2027年には45型にレーザー兵器ドラゴンファイアを試験搭載する計画もある。統合電気推進で余った電力をレーザーに回す、という当初の設計思想が、20年遅れでようやく使われることになる。
つまり45型は、動かない時期が長かったぶん船体が若く、これから2030年代の主力として使い倒される。イギリス海軍らしい、皮肉な話だ。
投資家目線:45型で損をしたのは誰か
私は防衛株を持っているので、ここも自分の目線で書く。
45型を作ったのはBAEシステムズで、エンジンはロールス・ロイスだ。WR-21の失敗はロールス・ロイスの黒歴史だが、その後の同社は民間エンジンと原潜と次期戦闘機で株価を十倍以上に戻した。ロールス・ロイス株の記事で書いたように、失敗した製品と儲かる会社は別の話だ。ミサイルのMBDAは非上場で、電源改修の工事はBAEとバブコックの造船所に落ちている。
日本から英国株を買うのは証券会社が限られるので、私のような普通の個人投資家はまず日本の防衛株で「軍艦の電気と電子機器を作る会社」を見るほうが早い。まや型のレーダーやミサイルを支える企業は防衛関連銘柄の投資ガイドにまとめた。
投資判断は自己責任で。本記事は特定銘柄の売買を勧めるものではなく、私自身の見立ては将来変わる。数字は公表資料と報道をもとにしているが、時点によって変わるので一次資料を確認してほしい。
見に行くなら

写真:© Crown copyright/POA(Phot) Amanda Reynolds/出典・利用条件(OGL v1.0)
45型は全艦ポーツマスにいる。港の隣にある歴史的造船所には、ネルソンの旗艦ヴィクトリーと引き揚げられたメアリー・ローズがあり、そのすぐ横の岸壁に45型と空母が並ぶ。港内の遊覧船からサンプソンの球体が回っているのが見える。ロンドンから列車で1時間半。軍艦好きなら丸一日いられる場所だ。
よくある質問
45型駆逐艦は何隻あるか
6隻だ。デアリング、ドーントレス、ダイヤモンド、ドラゴン、ディフェンダー、ダンカン。全艦ポーツマス所属。2026年時点で動けるのは3隻で、残りは電源改修中か改修明けの試験中だ。
45型駆逐艦の何が問題なのか
主機のWR-21ガスタービンが暖かい海域で出力を失い、発電機が支えきれずに停電する欠陥だ。対策として全艦のディーゼル発電機を載せ替える改修が進んでいて、2028年までに完了予定。1番艦デアリングは改修のため3,000日以上港にいた。
45型駆逐艦はイージス艦か
違う。イージスはアメリカのシステムの名前で、45型はイギリスとフランス・イタリアが作ったシー・ヴァイパーというシステムを積む。役割はイージス艦と同じ防空艦だが、レーダーを回転式にしてマストの上に置くなど、設計思想が異なる。
45型駆逐艦とまや型はどちらが強いか
火力と汎用性ではまや型が上だ。96セルにSM-3を含む多様なミサイルを積み、対潜対艦もこなす。45型は48セルの対空専用艦だが、レーダーを高い位置に置いているので低空目標の探知では優れる。弾道ミサイル対処は45型が2028年から追いつく形になる。
45型駆逐艦の後継は何か
83型駆逐艦が構想されていたが2026年6月に中止され、無人機と組み合わせる「共通戦闘艦」に置き換わった。45型自体は2038年の退役予定をさらに延ばす検討に入っている。
あわせて読みたい
ここまで読んでくれた人へ。この艦の資料を読むと、イギリス人が自国の海軍をどれだけ辛辣に批判しているかがわかって、それが一番面白かった。深夜の作業のお供はいつもこれだ。
出典・参考
- UK Defence Journal「Update given on British destroyer missile upgrade」(2026年1月30日)、同「The status of Britain’s destroyer fleet power improvements」(2025年2月13日)
- Naval Technology「Sea Viper upgrade passes halfway spend under Type 45 BMD plan」(2026年4月27日)
- Navy Lookout「Royal Navy to study extending Type 45 destroyers service life」(2026年9月)
- Defence Blog「Royal Navy abandons Type 83 destroyer for new hybrid warships」(2026年6月29日)
- 英国防省 DE&S「Type 45 destroyers receive significant upgrade」(2022年5月24日)
- Mane「Type 45 PiP Project」(2026年3月2日)、英国海軍公式サイト







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