強襲揚陸艦トリエステとは|「空母ではない」と言いながらF-35Bを20機積める、イタリア海軍最大の艦──性能・カヴールとの違い・二重島型艦橋・日本のおおすみ後継への示唆

トリエステ(L9890) 記事表紙
要点

これは日本にとって他人事の艦ではない。日本もいずも型をF-35B空母化し、おおすみ型輸送艦の後継を議論し、水陸機動団の足をどうするかを考えている。イタリアが同じ問題に出した答えが、トリエステだ。この記事では、この艦が何をする艦で、なぜあの形になり、空母カヴールとどう役割を分け、日本の議論にどう関係するのかを、順に追っていく。

目次

トリエステを一言で言うと

イタリア海軍の強襲揚陸艦トリエステ。
イタリア海軍の強襲揚陸艦トリエステ。写真:Marina Militare Italiana/Wikimedia Commons/CC BY 4.0
トリエステを一言で言うと
項目トリエステ(L9890)
全長245m
全幅36m
満載排水量約38,000t
速力25ノット
機関CODOG。ロールス・ロイスMT30ガスタービン2基、MANディーゼル2基、電動機2基
飛行甲板230m×36m、約7,400平方m、スキージャンプ台付き
ヘリ発着点9か所
格納庫約2,600平方m
搭載機ヘリ・F-35B合わせて14〜20機。F-35Bのみなら最大20機
ウェルドック上陸用舟艇4隻、またはLCAC
収容人員乗員約460名+上陸部隊約600名
兵装76mm砲3門、25mm機銃3基。造船所資料ではCAMM-ERによる防空装備はオプション扱い
病院設備手術室、集中治療室を含む病院区画
建造フィンカンティエリ(カステランマーレ・ディ・スタービア造船所)
起工/進水/就役2018年2月/2019年5月/2024年12月7日
母港タラント

日本のいずも型(満載2万6,000t、全長248m)と比べると、長さはほぼ同じで排水量は1.5倍。アメリカのワスプ級(4万1,000t)に近い大きさで、ウェルドックを持ち、76mm砲を3門備える。強襲揚陸艦としては重武装で、これは地中海という狭い海で、駆逐艦の護衛が常に付くとは限らないイタリア海軍の事情による。

なぜ生まれたか──ガリバルディの後継を「揚陸艦」にした理由

2019年、建造・艤装が進むトリエステ。
2019年、建造・艤装が進むトリエステ。写真:Jack McAuliffe/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

前史から書く。イタリア海軍は長い間、法律で艦から戦闘機を飛ばすことを禁じられていた。空軍が固定翼機を独占する仕組みで、1985年に軽空母ガリバルディが就役した時も、載せられるのは対潜ヘリだけだった。この法律が1989年に改正され、ガリバルディは1990年代からハリアーIIを積むようになる。

2008年に空母カヴールが就役し、ガリバルディは補助的な立場になった。そのガリバルディも2020年代には40年に達し、後継が必要になった。ここでイタリア海軍は、もう1隻空母を作るのではなく、揚陸艦を作ってそれに空母の仕事もさせるという判断をした。

理由は3つある。一つは金で、空母1隻と揚陸艦1隻を別々に作る予算がなかった。二つ目は法律で、イタリアの海軍整備計画は艦に「二重用途」を求めていて、災害救援や避難民輸送のような民生用途にも使える艦でなければ予算が付きにくい。病院区画と大きな車両甲板とウェルドックを持つ揚陸艦は、この条件にぴったりだった。三つ目は運用で、イタリア海軍は空母カヴールを中心とする空母打撃群と、揚陸艦を中心とする水陸両用任務群の2本立てで動いていて、後者の旗艦が古いサン・ジョルジョ級(8,000t)では小さすぎた。

だからトリエステは「揚陸艦の旗艦」と「代わりの空母」と「病院船」を1隻でやる艦になった。イタリア海軍自身がこれを「一つで全部」と呼んでいる。

建造の遅れ──2022年の予定が2024年になった理由

トリエステは2017年7月に鋼材の切断が始まり、2018年2月に起工、2019年5月に進水した。ここまでは順調で、就役は2022年の予定だった。それが2024年12月まで2年半ずれた。

理由はいくつか重なっている。2020年からの感染症流行で造船所の作業が止まり、艤装が遅れた。ナポリ近郊のカステランマーレで船体を作り、リグーリアのムッジャーノで艤装し、パレルモで船底整備という、イタリア半島を一周する工程も時間を食った。さらに、戦闘システムの統合と試験が長引いた。レーダー、武装、航空管制などを一つの艦に統合して試験する工程を経た。

この遅れは日本にとっても参考になる。おおすみ型の後継艦は、ウェルドックとヘリ格納庫と病院を持つ艦になれば、日本の造船所にとっても前例のない艦になる。トリエステが起工から就役まで7年近くかかったことを考えると、日本が2020年代後半に後継艦を決めても、実際に水陸機動団を乗せられるのは2030年代半ばになる。

構造──二重島型艦橋とウェルドック

艤装中のトリエステ。前後に分かれた艦橋と広い飛行甲板。
艤装中のトリエステ。前後に分かれた艦橋と広い飛行甲板。写真:Iki90/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
構造──二重島型艦橋とウェルドック

飛行甲板は230m×36mで、艦首にスキージャンプ台がある。F-35Bは垂直離陸もできるが、燃料と爆弾を満載して短距離離陸するにはジャンプ台があった方がいい。この台は当初の計画図にはなく、後から追加された。ガリバルディの後継として「空母の仕事もさせる」と決まった段階で、平らな甲板がジャンプ台付きに変わった。

艦尾のウェルドックには上陸用舟艇4隻か、ホバークラフト型のLCACが入る。その上が車両甲板で、装甲車や水陸両用車を積む。さらにその上が航空機格納庫で、約2,600平方mはカヴールの格納庫より広い。つまり下から順に、舟艇、車両、航空機、飛行甲板と4層になっていて、これが揚陸艦を空母より複雑で高い艦にしている。

自衛用の武装は揚陸艦としては異例に重い。76mm砲3門はDART誘導弾を撃てて、これは紅海でフーシ派のドローンを落とした実績がある。造船所の公表資料ではCAMM-ERによる防空装備はオプションとされており、搭載済みの防空能力として数えることはできない。

カヴールとの役割分担──「空母打撃群」と「水陸両用任務群」

イタリア海軍は、空母カヴールとトリエステを一緒には使わない。役割を分けている。

項目空母カヴールトリエステ
艦種軽空母強襲揚陸艦
満載排水量約30,000t約38,000t
全長244m245m
F-35B最大16機程度最大20機(揚陸任務時は4〜6機)
ウェルドックなしあり
上陸部隊限定的約600名
病院限定的手術室付き病院区画
所属空母打撃群の旗艦水陸両用任務群の旗艦
就役2008年2024年
カヴールとの役割分担──「空母打撃群」と「水陸両

「代わりの空母」として使えるようになるのは、もう少し先だ。F-35Bを本格運用するには、甲板の耐熱処理や専用の整備設備を入れて、アメリカのF-35共同計画室の認証を受ける必要がある。フィンカンティエリの追加工事は2025年後半から、アメリカでの認証試験は2027年以降と見込まれている。就役はしたが、空母として使えるのは早くて2027年、というのが2026年時点の状況だ。

世界の強襲揚陸艦の中で

トリエステを同じ種類の艦と並べてみる。

艦国満載排水量全長ウェルドック固定翼機就役
ワスプ級アメリカ約41,000t257mありF-35B1989年〜
アメリカ級アメリカ約45,000t257m初期2隻はなしF-35B2014年〜
トリエステイタリア約38,000t245mありF-35B(2027年〜)2024年
フアン・カルロス1世スペイン約26,000t231mありハリアーII2010年
キャンベラ級オーストラリア約27,000t230mありなし2014年〜
ミストラル級フランス約21,000t199mありなし2006年〜
独島級韓国約19,000t199mありなし2007年〜
いずも型日本約26,000t248mなしF-35B2015年〜
おおすみ型日本約14,000t178mありなし1998年〜

こうして並べると、トリエステはアメリカ以外で最大の強襲揚陸艦で、しかもウェルドックと固定翼機の両方を持つ艦としてはアメリカ以外で唯一(スペインのフアン・カルロス1世はハリアーの退役で固定翼機を失う予定)になる。いずも型はF-35Bを積めるがウェルドックがなく、おおすみ型はウェルドックがあるが航空機を積めない。日本は2種類の艦で分けて持っているものを、イタリアは1隻に入れた。どちらが正しいかは、その海軍が何をしたいかによる。

イタリア海軍の「二重用途」──軍艦を災害と避難に使う

夜の港に停泊するトリエステ。
夜の港に停泊するトリエステ。写真:Maria Vittoria Maranzano/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

トリエステの病院区画と車両甲板は、軍事目的だけのものではない。イタリアの海軍整備計画は艦に「二重用途」を義務付けていて、平時には市民保護局の指揮下で災害救援や避難民輸送に使うことが前提になっている。地中海のイタリアにとって、地震、火山、そして北アフリカからの移民船の救助は、海軍の日常業務だ。

この発想は日本にも直接関係がある。海上自衛隊は東日本大震災でひゅうがとおおすみを災害救援に投入し、能登半島地震ではおおすみのLCACが浜に乗り上げて物資を運んだ。全通甲板と車両甲板とウェルドックを持つ艦が災害で役に立つことは、日本がすでに経験している。イタリアはそれを法律で艦の要求仕様に書き込み、その結果として、トリエステという艦が生まれた。おおすみ型の記事で書いた「強襲揚陸艦ではないと言い続けて28年」という話は、イタリアから見ればかなり不思議な話だと思う。

ある演習の一日──サン・マルコ海兵旅団の上陸

ある演習の一日──サン・マルコ海兵旅団の上陸

夜明け前、タラントを出たトリエステはサルデーニャ島沖に着く。艦尾のウェルドックに海水が入り、上陸用舟艇4隻が装甲車を積んで海に出る。同時に、飛行甲板からAW101輸送ヘリが海兵旅団の1個中隊を乗せて離陸し、海岸の後方に降ろす。攻撃ヘリのAW129が上空を旋回して、舟艇の進路を掩護する。

艦橋の後ろの島では航空管制が9か所の発着点を回し、前の島では艦の航海と、上陸部隊の指揮を執る幕僚が動いている。艦の病院区画は演習中でも開いていて、訓練中の負傷者はヘリで甲板に戻され、艦内の手術室に運ばれる。舟艇が浜に着き、装甲車が降り、ヘリで降りた中隊と合流する。ここまでで2時間。

将来、この演習に4機のF-35Bが加わる。艦首のジャンプ台から短距離離陸し、上陸部隊の頭上で近接航空支援を担う。揚陸艦から戦闘機が飛んで海兵隊を守る、というアメリカ海兵隊が数十年やってきたことを、イタリアがヨーロッパで初めて自前の艦でやることになる。日本の水陸機動団が同じことをする日が来るかどうかは、おおすみ後継艦の設計次第だ。

日本への示唆──おおすみ後継とトリエステ

日本の水陸機動団は2018年に発足したが、彼らを運ぶ艦は1990年代のおおすみ型3隻のままだ。おおすみ型は全通甲板を持つがヘリ格納庫がなく、ウェルドックにLCACを2隻積むのが精一杯で、部隊を上陸させる能力は限られている。後継艦の議論は2020年代に本格化し、防衛省は「多機能な輸送艦」という言い方でウェルドックと航空機運用能力を持つ艦を検討している。

トリエステはその一つの答えを見せている。日本の場合、F-35B空母はいずも型2隻が担うので、後継艦にジャンプ台は要らないかもしれない。だが、ヘリ格納庫と病院区画とウェルドックを1隻に収めた3万トン級の艦が、水陸機動団の足として、また災害救援の拠点として、どれだけ使えるかは、トリエステがこれから証明していくことになる。強襲揚陸艦とは何かの記事で整理した日本の保有状況を見ると、日本が持っていないのはまさにこの種の艦だ。

そしてもう一つ、トリエステの武装は日本の艦の設計思想への問いでもある。いずも型もおおすみ型も、自衛用の武装は近接防御火器だけで、防空は護衛艦に任せる。トリエステは76mm砲3門などの自衛用武装を備える。狭い地中海で単独行動する前提の艦と、広い太平洋で艦隊行動する前提の艦の違いだが、南西諸島のように護衛艦が足りない場面を考えると、揚陸艦に自衛防空を持たせる発想は検討に値する。

投資家として見るトリエステ──フィンカンティエリという会社

投資の目で言うと、トリエステはフィンカンティエリという会社の広告塔だ。イタリア国営の造船大手で、軍艦だけでなくクルーズ船で世界最大手の一つでもある。トリエステはこの会社がイタリア海軍向けに作った戦後最大の艦で、2024年の引き渡しは、同社の軍艦部門の技術力をアピールする場面になった。

フィンカンティエリはミラノ上場で、2024年から2025年にかけて欧州の防衛予算拡大を受けて株価が大きく上がった。アメリカ海軍のコンステレーション級フリゲートの設計元でもあり、欧州で数少ない「軍艦を輸出できる造船会社」の一つだ。同社はインドネシアやカタールにも艦を売っていて、日本のもがみ型の豪州輸出のような話が、イタリアでは10年前から普通に起きている。日本の艦艇建造を担うJMUや三菱重工が国内向けにほぼ限られているのと比べると、造船と防衛を輸出でつなぐ形の先例として見る価値がある。

欧州株は日本の主要ネット証券からは直接買いにくく、防衛株は予算と政治で大きく動く。この記事は特定銘柄の売買を推奨するものではなく、投資判断は自分で情報を集めたうえで行ってほしい。

トリエステという名前

艦名の由来となったアドリア海沿岸の都市トリエステ。
艦名の由来となったアドリア海沿岸の都市トリエステ。写真:Velvet/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

最後に名前の話を。トリエステはイタリア北東部の港町で、第一次世界大戦まではオーストリア・ハンガリー帝国の最大の港だった。戦後イタリア領になり、第二次世界大戦後は一時、連合国とユーゴスラビアの間で帰属が争われて自由地域になり、1954年にイタリアに戻った。イタリア海軍にとってトリエステは「取り戻した港」の名前で、この艦名は3代目にあたる。先代は第二次世界大戦の重巡洋艦トリエステで、1943年に空襲で沈んでいる。

まとめ──空母を1隻買えない国の答え

トリエステは、空母と揚陸艦と病院船を1隻でやる艦だ。3万8,000トンにウェルドックと車両甲板と格納庫とジャンプ台を4層で収め、自衛用に76mm砲3門などを備え、空母カヴールが動けない時には代わりに立つ。空母をもう1隻買えない国が、法律で二重用途を義務付けられた中で出した答えで、それは日本がおおすみ後継とF-35B空母化で向き合っている問題とほぼ同じ形をしている。

F-35Bを実際に載せて空母として使えるのは2027年以降で、この艦の評価はまだ定まっていない。だが245mの揚陸艦が地中海を動き始めたこと自体が、ヨーロッパの海軍が「空母か揚陸艦か」ではなく「両方できる艦」に向かっていることを示している。

各国の空母と揚陸艦の全体像は世界の空母一覧を、日本の全通甲板艦の話はいずも型の記事を合わせて読んでもらえると、トリエステがどの位置にいる艦なのかが見えてくるはずだ。


出典・参考資料

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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