
自衛隊には、20歳そこそこで「退職金」をもらえる制度がある。しかも辞めなくてもいい。任期制自衛官が任期を満了するたびに支給される特例退職手当、通称「任期満了金」あるいは「任満金」である。
2026年9月確認時点の防衛省資料では、任期満了金の目安は次のように示されている。陸上自衛隊の1任期目(2年)で約89万円、海上・航空自衛隊の1任期目(3年)で約136万円。2任期目を終えるとさらに186万から190万円が乗る。退職所得として控除は受けられるが、公務員の勤続5年以下では控除後の2分の1課税が適用されず、非課税とは限らない。
私はこの制度を「日本で最も過小評価されている若者向けの給付」だと思っている。この記事では、陸海空で額が違う理由、任期ごとに受け取るか貯めるかの損得、もらうと後で減るものの正体、そして「辞めるつもりがなくてももらえる」という制度の妙まで、2026年9月時点の公開情報で整理する。
30秒でわかる、任期満了金
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 特例退職手当(退職手当の一種) |
| もらえる人 | 任期制自衛官(2等陸・海・空士として採用された隊員) |
| もらえるタイミング | 任期満了ごと。退職しても、継続しても受け取れる |
| 陸上自衛隊 1任期目(2年) | 約89万円 |
| 海上・航空自衛隊 1任期目(3年) | 約136万円 |
| 2任期目(各2年) | 約186〜190万円 |
| 税金 | 退職所得控除あり。勤続5年以下の公務員は控除後の2分の1課税なし |
| 注意点 | 受け取ると、最終的な一般の退職手当の勤続期間から除外される |
金額は防衛省の現行自衛官募集サイト(2026年9月確認)に基づく目安で、俸給月額や退職日により前後する。
なぜ陸と海空で額が違うのか|「1任期」の長さが違う

最初に引っかかるのがここだ。陸上自衛隊の1任期目は2年、海上・航空自衛隊の1任期目は3年である。だから同じ「1任期満了」でも、海空のほうが1年長く働いており、その分だけ任期満了金が多い。部隊の格や重要度の差ではない。
海空の1任期目が長いのは、教育に時間がかかるからだ。艦艇の乗組員や航空機の整備員は、教育隊を出た後も術科学校や部隊での専門教育が続き、一人前になるのに2年では足りない。3年勤めてようやく戦力になる隊員を2年で帰してしまうと、教育のコストが回収できない。陸上自衛隊でも通信や施設などの一部の技術系職種は、同じ理由で1任期目が3年になることがある。
2任期目以降は陸海空とも1任期2年に揃う。だから2任期目の任期満了金は陸海空でほぼ同じ額になり、差がつくのは1任期目だけである。
| 陸上自衛隊 | 海上・航空自衛隊 | |
|---|---|---|
| 1任期目の長さ | 2年 | 3年 |
| 1任期目の任期満了金 | 約89万円 | 約136万円 |
| 2任期目の長さ | 2年 | 2年 |
| 2任期目の任期満了金 | 約186万円 | 約190万円 |
| 2任期(4〜5年)の累計 | 約275万円 | 約326万円 |
| 2任期の給与・賞与等を含む総所得の目安 | 約1,900万円超 | 海自 約2,700万円超、空自 約2,200万円超 |
総所得の欄で海自が突出しているのは、艦艇乗組手当や航海手当が乗るためで、任期満了金の差とは別の話だ。海自の給与の仕組みは海上自衛隊の給料・年収で書いた。陸海空のどれを選ぶかは、任期満了金の額ではなく、陸海空のどれを選ぶかで整理した仕事の中身で決めるべきである。
任期満了金の計算式|俸給月額×日数
特例退職手当の計算は、退職時の俸給月額を30で割った日額に、任期と所属に応じて定められた支給日数を掛ける仕組みである。
任期満了金 ≒ 退職時の俸給月額 ÷ 30 × 支給日数
支給日数は任期の回数と所属で決まり、俸給月額は学歴、号俸、昇給で変わる。だから「約89万円」は目安であり、大卒で入隊した隊員や、昇給が早かった隊員はもう少し多くなる。逆に、任期の途中で退職すると特例退職手当は出ず、通常の退職手当(自己都合)だけになる。
もう一つ、額が変わる要因がある。任期満了金は俸給月額に連動するため、俸給の改定は支給額にも影響する。ただし、2026年7月時点の資料が、その後の8月の人事院勧告を反映したという時系列にはならない。現在の公表額と、勧告を受けた今後の法改正は分けて考える必要がある。実際の受取額は、その任期の満了時点の制度と俸給で確認したい。
「辞めなくてももらえる」という制度の妙

多くの人が誤解するのがここだ。任期満了金は「辞めるときの退職金」ではない。任期を満了するたびに、辞めても、続けても、受け取れる。
陸上自衛隊に入って2年、任期満了で継続を選んだ隊員は、同じ部隊で勤務を続けながら、所定の手続を経て約89万円を受け取れる。4年目の任期満了でまた約186万円。継続すればするほど、任期満了のたびにまとまった金が入る。これが「任期制は稼げる」と言われる理由であり、自衛官の貯金で書いた「営内で貯まる」仕組みと合わせて、20代前半で数百万円の資産を作る隊員が珍しくない根拠になっている。
ただし、この制度には2つの落とし穴がある。
落とし穴1:受け取ると、最後の退職手当が減る
特例退職手当を受け取った任期は、最終的に退職するときの「一般の退職手当」の勤続期間から除外される。退職手当は勤続年数が長いほど支給率が上がる仕組みなので、任期満了金を受け取った分だけ、最後の退職手当の計算上の勤続年数が短くなる。
たとえば任期制から3曹に昇任し、そのまま定年まで勤め、通算の勤続期間が35年になったとする。任期制の4年間で任期満了金を2回受け取っていれば、定年時の退職手当は勤続35年ではなく31年で計算される。その差は、階級と俸給によるが数十万から百万円単位になりうる。「若いときにもらった金は、定年のときに少し返す」構造だと理解しておくといい。定年時の退職手当の計算は退職金シミュレーターで確かめられる。
落とし穴2:3曹への昇任で、退職手当の扱いが変わる
任期満了金は、受け取らずに次の任期に持ち越すこともできる。1任期目で受け取らず、2任期目の満了時にまとめて受け取ると、都度受け取るより合計額が多くなる。これは支給日数が任期の累計で増える設計になっているためだ。
しかし、持ち越したまま3曹に昇任すると、任期制の士を対象とする特例退職手当の扱いから外れる。一方、未受給の期間は将来の一般の退職手当での勤続期間の扱いが関係するため、積み上げがすべて消えるという意味ではない。曹を目指すなら、都度受給と持越しで何が変わるかを、継続任用の手続前に給与担当へ確認しておくべきである。
税金の話|控除はあるが、非課税とは限らない
投資家として、この制度で最も見逃されていると思うのが税金である。
特例退職手当は退職所得として扱われる。退職所得には退職所得控除があり、勤続年数が20年以下なら「40万円×勤続年数」、最低でも80万円が控除される。ただし国家公務員を含む「役員等」の勤続年数が5年以下の場合、その期間に対応する特定役員退職手当等では、控除後の額を2分の1にする措置は適用されない。
他の退職所得や勤続期間の重複がない例で、陸の1任期目を勤続2年、受取額89万円とすると、控除80万円を引いた9万円が課税対象になる。所得税率5%と復興特別所得税、住民税10%を仮定した税額は合計約1.4万円。海空を勤続3年、136万円とすると、控除120万円を引いた16万円が課税対象で、合計約2.4万円となる。控除の効果は大きいが、「ほぼ非課税の給与」と一律に扱うことはできない。端数処理や他の退職金の受給歴によって実額は変わる。
ただし、退職所得控除は退職所得を受け取るたびに勤続年数を数え直すため、2任期目の受け取り時の控除は、1任期目で使った期間が除かれる場合がある。額が大きくなる2任期目以降は、所属の給与担当に「退職所得の受給に関する申告書」の扱いを確認しておくべきだ。この申告書を出し忘れると一律20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されて、確定申告で取り戻す手間がかかる。
任用一時金と、1年3か月の壁
任期満了金と混同されやすいのが任用一時金である。これは採用後3か月の教育期間を終えて自衛官に任用されたときに支給される一時金で、令和7年度で約34万円だった。令和8年度からの新しい任期制自衛官では、入隊時から2等士の身分と俸給が付くよう制度が変わったため、任用一時金の位置づけは所属の地方協力本部で確認してほしい。
旧制度で任用一時金を受給した人が覚えておくべきは「1年3か月」の数字である。任用一時金を受け取った隊員が、任用後1年3か月以内に退職すると、一時金の償還義務が生じる。陸上自衛隊の1任期目は2年なので、1年半を過ぎれば償還の心配はなくなり、あとは半年で任期満了金が目前になる。自衛隊をすぐ辞めたくなる理由で書いたとおり、任期制は「逃げ道」を持った制度だが、逃げるなら1年3か月を過ぎてから、できれば2年を待ってからのほうが、金銭的にはまったく違う。
なぜ任期制にだけ「2回もらえる退職金」があるのか|帝国陸軍の満期除隊との比較
制度の意図を知ると、この金の意味が変わる。
帝国陸軍の現役兵は2年(後に短縮・延長あり)の兵役を終えると「満期除隊」で故郷に帰った。彼らに退職金はなかった。徴兵は義務であり、国家が若者に兵役の義務を課す制度だったからだ。兵にも給与は支給されており、無給という意味ではない。満期除隊の日に部隊から渡されるのは、除隊証書と、多少の餞別程度である。
自衛隊は志願制で、若い兵員を集めるために徴兵の代わりに金を使う。任期制自衛官は「2年か3年だけ自衛隊にいて、若いうちに社会へ戻る」ことを最初から想定した区分であり、部隊に若い士を常に一定数保つための回転装置である。回転させるには、入る動機と出る動機の両方が要る。入る動機が俸給などの待遇、出る動機が任期満了金だ。辞めなくてももらえるのに「退職手当」と名がついているのは、この金が本来「気持ちよく社会へ戻ってもらうための金」として設計されているからである。
私は帝国陸軍のファンだが、満期除隊の兵士が手ぶらで帰った時代より、22歳で数百万円を持って社会へ戻る今の制度のほうが、国と若者の関係としてはるかに健全だと思っている。帝国陸軍の2年間は「国に差し出す時間」だった。任期制自衛官の2年間は「国に売る時間」であり、値段がついている。値段がつくということは、若者が国と対等に取引できるということだ。私はそれを、戦後の日本が自衛隊という組織で達成した、あまり語られない進歩の一つに数えている。
任期満了金は「使う金」か「増やす金」か

私が任期制自衛官を、日本で最も恵まれた20代前半だと思う理由を書く。
陸上自衛隊に18歳で入り、2任期4年勤めて22歳で退職する隊員を想定する。営内生活で家賃と食費がかからず、月給とボーナスの手取りの大半が残る。そこに任期満了金が2回、合計約275万円。営内で暮らした4年間の貯金を月5万円としても240万円。税引前の任期満了金と手取りからの貯金を合わせれば約515万円になる計算で、22歳で500万円規模の資金を作る例になる。ただし任期満了金からの税金などを差し引く必要があり、無税で受け取れるわけではない。同じ年齢の大学卒業者は、多くが奨学金の返済を抱えて社会に出る。
この500万円を「車と旅行」に使うか、「元本」にするかで、その後の人生の傾きが変わる。任期満了金の受取時には退職所得の税金がかかりうる。一方、受取後の資金をNISAの年間投資枠の範囲内で運用すれば、その運用益は非課税になる。受取時の課税と運用益の非課税を分けて考えながら、22歳から複利を回せる資金を持てる職業は、日本にほとんどない。
もちろん任期満了後は民間への転職か、継続か、進学かを選ぶことになる。元自衛官の転職と資格で書いたとおり、任期中に取った資格が転職先の年収を決める。任期満了金はその転職までの生活費にもなるし、元本にもなる。どちらにするかは本人の自由だが、口座を「使う口座」と「増やす口座」に分けておくだけで、選択は現実になる。証券口座は日本株と米国株、NISAを一つのアプリで扱えるものを一つ持っておけば足りる。特定の商品の購入を勧めるものではなく、投資判断は自身の責任で行ってほしい。
よくある質問
自衛官候補生の任期満了金はいくらか
2026年9月確認時点の防衛省資料では、陸上自衛隊の1任期目(2年)で約89万円、海上・航空自衛隊の1任期目(3年)で約136万円、2任期目で約186〜190万円が目安である。俸給月額と退職日で前後する。
任期満了金は辞めないともらえないのか
辞めなくてももらえる。任期を満了すれば、継続任用を選んでも受け取れる。受け取らずに次の任期に持ち越すこともできるが、3曹への昇任後は特例退職手当と将来の一般退職手当の扱いが変わるため、未受給期間の通算を給与担当に確認したい。
任期満了金に税金はかかるか
退職所得として控除(勤続2年で80万円、3年で120万円)が適用される。ただし公務員の勤続5年以下の特定役員退職手当等は控除後の2分の1課税がない。本文の単純例では課税対象は9万円・16万円で、税額は約1.4万円・約2.4万円。2任期目以降や他の退職金との重複は給与担当に確認すること。
任期の途中で辞めたら任期満了金はもらえるか
もらえない。任期満了前の退職は自己都合退職となり、通常の退職手当のみが支給される。旧制度で任用一時金を受給した人は、任用後1年3か月以内の退職で償還義務が生じる場合がある。
陸と海空で任期満了金が違うのはなぜか
1任期目の長さが陸は2年、海空は3年と異なるため。2任期目以降は陸海空とも2年で、額もほぼ同じになる。
任期満了金をもらうとデメリットはあるか
受け取った任期が最終的な一般の退職手当の勤続期間から除外され、定年まで勤めた場合の退職手当がその分減る。数十万から百万円単位の差になりうる。
まとめ|辞めなくてももらえる、控除のある退職金
任期満了金は、任期制自衛官が任期を満了するたびに受け取れる特例退職手当で、2026年9月確認時点の公表額は陸1任期約89万円、海空1任期約136万円、2任期目約186〜190万円である。辞めても続けても受け取れ、退職所得控除はあるが、勤続5年以下の公務員は控除後の2分の1課税が適用されない。一方で、受け取った任期は定年時の退職手当の勤続期間から除外され、3曹昇任後は未受給期間の扱いも含めて確認が必要になる。
制度の要点は3つだ。任期を満了してから辞めること。曹を目指すなら都度受給と持越しの違いを確認すること。そして受け取った金を「使う口座」に置かないこと。18歳で入って22歳で500万円を持って出る道は、この制度を知っている者にだけ開いている。
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出典・参考
- 防衛省・自衛隊「自衛官の処遇改善パンフレット」令和8年度版(2026年7月29日更新)— 陸・海・空士の特例退職手当の改定額
- 防衛省 陸上自衛隊 自衛官募集サイト「自衛官の処遇改善」「処遇改善の詳細」— 任期の長さ、任用一時金、任期別の所得モデル
- 防衛省「防衛省の職員の給与等に関する法律」および同施行令 — 特例退職手当の支給要件と計算の枠組み
- 国税庁「退職金と税」— 退職所得控除と源泉徴収
- 国税庁「特定役員退職手当等」— 勤続5年以下の国家公務員等に適用する課税計算
- 防衛省「退職手当の支給手続等について」 — 特例退職手当の受給・通算の手続
- 内閣官房「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」参考資料 — 自衛官候補生の廃止と任期制自衛官の創設
- 本記事の金額はいずれも目安であり、俸給月額・号俸・退職日・制度改定により実額は異なる。令和8年度以降の任用一時金の扱いは各地方協力本部で確認のこと






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