自衛隊の定年は、2026年時点で階級によって55歳から60歳までに分かれている。
一般の公務員や会社員の定年が60歳から65歳へ延びていくなか、自衛官の大半は50代半ばで制服を脱ぐ。2曹・3曹なら55歳、1尉から1曹なら56歳、2佐・3佐なら57歳、1佐でも58歳。将官だけが60歳だ。これを「若年定年制」と呼ぶ。部隊の体力と精強さを保つために、年齢で強制的に世代交代させる仕組みで、自衛隊という職業の最大の特徴であり、最大の弱点でもある。
ただし、この数字はいま動いている。2023年と2024年に階級ごとに1歳ずつ引き上げられ、防衛省は2028年から2032年にかけてさらに1佐から3曹までを対象に2歳引き上げる計画を示した。完了すれば2曹・3曹は57歳、1佐は60歳になる。人手不足で、経験を持つ隊員を長く使わざるを得なくなったからだ。
本記事は、2026年時点の階級別定年、退職日の決まり方、任期制との違い、今後の引き上げ計画、そして定年後に何が待っているかを、防衛省の公開資料で整理する。退職金や給付金の金額は自衛官の退職金と若年定年退職者給付金に、再就職の実態は元自衛官のリアル転職に譲り、ここでは「何歳で、なぜ辞めることになるのか」を軸にする。
結論——2026年時点の階級別定年
| 階級 | 2026年時点の定年 | 2032年までの引き上げ後(予定) |
|---|---|---|
| 将・将補 | 60歳 | 60歳(この2歳引上げの対象外) |
| 1佐 | 58歳 | 60歳 |
| 2佐・3佐 | 57歳 | 59歳 |
| 1尉・2尉・3尉・准尉・曹長・1曹 | 56歳 | 58歳 |
| 2曹・3曹 | 55歳 | 57歳 |
| 士(任期制) | 定年なし。任期満了で退職 | 同左 |
統合幕僚長など一部の最高位の役職は62歳とされ、医官・歯科医官などの専門職や、音楽・警務など一部の職域は別の定年が定められている。自衛官以外の事務官・技官は一般の国家公務員と同じ定年だ。退職日は、その年齢に達した日、つまり誕生日で、年度末ではない。同じ階級でも、誕生日によって退職の時期は一年中ばらつく。
一言でまとめると、自衛官の大半は「55〜58歳で強制的に退職する」職業であり、その年齢は「2032年までに2歳延びる」。以下、この制度の中身と、その先を見ていく。
なぜ自衛官の定年は早いのか——若年定年制の理由

自衛隊法は、自衛官の定年を一般の公務員より低く定めている。理由は防衛省の資料に明記されている。部隊の精強さを保つためだ。艦艇の乗組員、戦闘機の搭乗員、普通科の隊員は、体力と反応速度が任務に直結する。60代の隊員を前線に置けば部隊全体の能力が落ちる。だから年齢で一律に線を引き、若い隊員に世代交代させる。
この仕組みは、隊員個人にとっては過酷だ。56歳で退職した自衛官は、65歳まで働く同世代の会社員と比べて10年近く早く収入源を失う。防衛省自身が「若い年齢で定年退職するにもかかわらず、自衛官のその後の収入は現役時代に比べて低い」と資料で認めている。若年定年制は、部隊のための制度であって、隊員のための制度ではない。その埋め合わせとして、退職金と若年定年退職者給付金が手厚く設計されている。
定年の引き上げ——2023年、2024年、そして2028年から
すでに行われた引き上げ
| 時期 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 2023年10月 | 1尉から1曹 | 定年を1歳引き上げ |
| 2024年10月 | 1佐から3佐、2曹・3曹 | 定年を1歳引き上げ |
2022年12月の国家防衛戦略を受けて、防衛省は2年に分けて定年を1歳ずつ引き上げた。2023年10月に1尉から1曹まで、2024年10月に佐官と2曹・3曹。この結果が、上の表の2026年時点の数字だ。理由は、装備の高度化と任務の国際化に対応できる知識と経験を持つ隊員を、より長く活用するためとされる。
これから行われる引き上げ
防衛省は、2028年度以降、さらに1佐から3曹までを対象に2歳の引き上げを段階的に行う方針を示している。階級ごとに開始と完了の年が異なり、2032年までに完了する見込みだ。完了後は、2曹・3曹57歳、1尉から1曹58歳、2佐・3佐59歳、1佐60歳になる。将・将補の60歳は、この引上げの対象外だ。
私はこの引き上げを、自衛隊の人手不足がどれほど深刻かを示す数字として読んでいる。精強さのために早く辞めさせる制度を、精強さを保つ人が足りないから延ばす。矛盾しているようで、これが2020年代の自衛隊の現実だ。定年の引き上げは隊員にとって収入の延長であると同時に、50代後半まで転勤と訓練を続けることでもある。得か損かは、人による。制度全体の損得は自衛隊に入るメリット・デメリットで整理した。
定年年齢はどう変わってきたか——50歳台前半から、57歳へ
| 時期 | 2曹・3曹 | 1尉〜1曹 | 2佐・3佐 | 1佐 | 将・将補 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020年からの引き上げ前 | 53歳 | 54歳 | 55歳 | 56歳 | 60歳 |
| 2020〜2022年の引き上げ後 | 54歳 | 55歳 | 56歳 | 57歳 | 60歳 |
| 2023〜2024年の引き上げ後(現在) | 55歳 | 56歳 | 57歳 | 58歳 | 60歳 |
| 2032年までの引き上げ後(予定) | 57歳 | 58歳 | 59歳 | 60歳 | 60歳 |
この表の2曹・3曹では、2020年からの引き上げ前の53歳から、2032年の計画完了後の57歳へ、4歳延びる計算になる。ただし出発点が低いため、延びた後でも民間との差は縮まらない。自衛隊が「早く辞めさせる」職業であることは、引き上げが完了しても変わらない。
他国の軍隊と比べると
| 国 | 仕組み |
|---|---|
| 日本 | 階級ごとの若年定年。55〜60歳 |
| 米国 | 勤続20年で年金受給資格。多くは40代で退役し、階級ごとの在職年数上限で退役 |
| 英国 | 階級と契約期間で退役。多くは40代 |
| 韓国 | 階級定年制。大尉43歳、少佐45歳、中佐53歳、大佐56歳など |
日本の若年定年は、国際的に見れば遅い方に入る。米軍は勤続20年で年金がつき、40代前半で退役して第二の職業に就く隊員が多い。韓国軍は階級ごとの定年がさらに低く、佐官でも50代前半で退役する。日本の自衛官は、他国の軍人より長く勤め、他国の軍人より遅く辞め、それでも65歳までの雇用継続と比べれば10年早い。この中途半端な位置が、自衛官の定年後の生活設計を難しくしている。
定年と任期制の違い——「辞めさせられる」二つの仕組み
自衛官には、定年で辞める人と、任期満了で辞める人がいる。
| 区分 | 対象 | 退職の仕組み |
|---|---|---|
| 若年定年制 | 曹・准尉・幹部 | 階級ごとの定年年齢に達した誕生日に退職 |
| 任期制 | 士(2士・1士・士長) | 陸は2年、海空は3年の初任期の後、2年ごとに更新。一律に7年が上限という制度ではなく、更新は本人の希望と選考等による |
任期制の士には定年がない。代わりに任期ごとに継続か退職かを選び、勤務継続には選考などの条件がある。3曹に昇任すれば若年定年制へ移る。2026年度から自衛官候補生制度が廃止され、入隊初日から2士として採用される新しい任期制になったが、任期の構造は変わっていない。任期満了時には任期満了金が支給される。
つまり自衛隊には、任期満了で退職する道と、3曹以上に昇任して若年定年まで勤める道がある。任期満了で辞める時の年齢は、入隊年齢や更新回数によって異なる。階級と年齢の関係は自衛隊の階級と年齢の目安にまとめてある。
定年後に何が待っているか

退職金と若年定年退職者給付金
定年退職した自衛官には、退職金に加えて若年定年退職者給付金が支給される。若年定年で失われる収入を補う制度で、退職後に2回に分けて支給される。給付水準の引上げも進められており、適用条件は退職する年度の制度で確認する必要がある。金額は階級と勤続年数で異なり、退職金と合わせると数千万円規模になるが、それで65歳までの10年間の生活と、その後の年金までをつなぐ設計が必要になる。階級別の概算は退職金シミュレーターで試算できる。
再任用——定年後も自衛官として働く道
定年退職した自衛官が、引き続き自衛官として働く再任用の制度がある。年金の支給開始年齢までの間、フルタイムまたは短時間で勤務し、階級は募集する官職や採用条件による。教育、整備、事務に加え、補助艦船の乗組、航空機操縦、サイバーや宇宙関連など、従事できる業務は拡大されている。全員が再任用されるわけではなく、部隊の必要と本人の希望が一致した場合に限られる。
再就職——援護と、年収の現実
自衛隊には退職者の再就職を支援する援護組織があり、退職の数年前から職業訓練や企業の紹介を行う。運輸、警備、インフラ、製造の現場では元自衛官の採用実績が多い。ただし年収は現役時代より下がるのが普通で、防衛省自身がそれを課題として認めている。再就職先の実態と、資格を生かした転職は元自衛官の転職記事と元自衛官の資格転職に書いた。
予備自衛官——制服を完全には脱がない選択
退職した自衛官は、予備自衛官として登録し、年に数日の訓練に参加しながら、有事や災害時に招集される立場を続けることができる。手当は少ないが、自衛官としての身分と経験を保つ道だ。詳細は予備自衛官のメリット・デメリットを参照してほしい。
定年までのスケジュール——退職の何年前から何をするか

| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 定年の3〜4年前 | 援護組織による業務管理教育。退職後の生活設計と再就職の準備を始める |
| 定年の2年前 | 職業訓練、資格取得、企業説明会。希望する業種を絞る |
| 定年の1年前 | 企業への紹介と面接。この時期に内定を得る隊員が多い |
| 定年の数か月前 | 退職金と給付金の手続き、住居の確保、年金の確認 |
| 定年当日 | 誕生日に退職。退職手当の支給日程は所属部隊で確認 |
| 退職後 | 若年定年退職者給付金の1回目。年金支給開始まで自分で収入を確保 |
自衛隊の再就職支援は、退職の数年前から段階的に始まる。私が入隊前の人に伝えたいのは、この準備が始まる時点で、本人の年齢はすでに50代だということだ。50代で新しい職業訓練を受け、面接を受け、年収が下がる仕事に就く。それが自衛官の標準的な定年の迎え方だ。準備を制度に任せきりにするか、20代から資格と貯金で自分の選択肢を広げておくかで、50代の景色はまったく違う。
定年後の資産をどう設計するか

55歳から65歳までの10年間は、自衛官の人生で最も収入が不安定になる時期だ。退職金と給付金というまとまった現金を、この10年でどう使い、どう残すかが、その後の生活を決める。現役時代に営内生活で貯めた資金と退職金を合わせ、NISAなどの制度で長期運用に回す隊員は増えている。使う時間が少ない現役時代に、投資の基礎を学んでおく価値は大きい。投資判断は各自の責任で、本記事は特定の金融商品を勧めるものではない。
知っておきたい細かい仕組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 退職日 | 定年年齢に達した誕生日。年度末ではない |
| 定年と昇任の関係 | 定年による退職の日に特別昇任しても、定年は昇任前の階級で判定する |
| 定年前の昇任 | 一定の条件で退職時に1階級上の階級で退職する特別昇任の制度がある |
| 年金 | 老齢厚生年金の支給開始は原則65歳。定年から年金までの空白を給付金と再就職で埋める |
| 医官・歯科医官 | 一般の自衛官より高い定年が別に定められている |
| 継続勤務 | 定年後も一定期間、同じ階級で勤務を続ける制度が一部の職域にある |
| 早期退職 | 定年前の自己都合退職では退職手当の支給率が異なる。若年定年退職者給付金も退職理由などの要件による |
このうち最も見落とされやすいのが、年金までの空白だ。56歳で退職し、65歳から年金を受け取るとすれば、その間の9年間は退職金と給付金と再就職の収入だけで生活する。給付金は「若年定年で失われる収入を補う」名目で支給されるが、金額は現役時代の年収の数年分に相当する程度で、9年間を無収入で過ごせる額ではない。定年の年齢を知ることは、この空白の長さを知ることでもある。
幹部と曹で、定年後はどう違うか
| 項目 | 幹部(1佐以下) | 曹 |
|---|---|---|
| 定年 | 56〜58歳 | 55〜56歳 |
| 退職金 | 高い | 幹部より低い |
| 再就職の傾向 | 管理職、防衛関連企業、団体職員 | 現場職、技能職、警備・運輸 |
| 転勤の回数 | 生涯11回前後 | 6回前後 |
| 定年後の年収 | 現役時代から大きく下がる | 現役時代から下がるが幅は小さい |
幹部は定年が遅く退職金も多いが、現役時代の年収が高い分、再就職後の落差も大きい。曹は定年が早いが、技能と資格を持つ分、現場職への転職が比較的滑らかだ。どちらが有利かは一概に言えない。幹部の年収と現実は幹部自衛官は勝ち組かで扱った。
まとめ——55歳で辞める職業を、どう設計するか
自衛隊の定年は、2026年時点で2曹・3曹55歳、1尉〜1曹56歳、2佐・3佐57歳、1佐58歳、将・将補60歳。退職日は誕生日で、任期制の士には定年がなく任期満了で退職する。2028年から2032年にかけて1佐から3曹までを対象に2歳引き上げられ、完了後は最も低い階級でも57歳になる。
私がこの記事で伝えたいのは、定年の年齢そのものより、その年齢が「いつ、なぜ動くか」だ。自衛隊は精強さのために早く辞めさせ、人が足りないから遅らせる。隊員はその制度の中で、20代の貯金、40代の資格、50代の再就職を、自分で設計しなければならない。定年を知ることは、その設計の起点になる。
自衛隊の制度や退職後のキャリアをもっと知りたい人は、元自衛官の体験記やキャリア設計の本をAudibleで通勤中に聞くこともできる。
よくある質問
自衛隊の定年は何歳か?
2026年時点で、将・将補60歳、1佐58歳、2佐・3佐57歳、1尉から1曹まで56歳、2曹・3曹55歳。階級によって異なり、退職日はその年齢に達した誕生日。
自衛官の定年はなぜ早いのか?
部隊の体力と精強さを保つため、自衛隊法で一般の公務員より低い定年を定めている。若年定年制と呼ばれ、失われる収入は退職金と若年定年退職者給付金で補う設計になっている。
自衛官の定年は延長されるのか?
2023年と2024年に階級ごとに1歳ずつ引き上げられた。防衛省は2028年から2032年にかけてさらに1佐から3曹までを対象に2歳引き上げる方針を示しており、完了すれば2曹・3曹57歳、1佐60歳になる。将・将補の60歳は、この引上げの対象外だ。
任期制の自衛官に定年はあるのか?
ない。士は陸2年、海空3年の初任期の後、2年ごとに任期を更新し、一律に7年が上限という制度ではなく、更新は本人の希望と選考等によるとなる。3曹に昇任すれば定年まで勤務できる。
定年後も自衛隊で働けるのか?
再任用の制度があり、年金支給開始までの間、募集する官職・採用条件に応じた階級で、教育・整備・事務や、制度上対象となる操縦・サイバー等の業務に勤務できる。予備自衛官として登録する道もある。
定年退職の日は年度末か?
違う。定年年齢に達した誕生日が退職日で、同じ階級でも誕生日によって退職の時期は年間を通じてばらつく。
出典・参考
- 航空自衛隊:再任用制度等の案内、23ページ(2031・2032年の階級別定年延長) https://www.mod.go.jp/asdf/recruit/uploads/docs/202507saininpanfu.pdf
- 防衛省:令和7年版防衛白書「退職、再就職などの取組」 https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2025/html/n430106000.html
- 防衛省:2026年自衛官採用案内(任期更新) https://www.mod.go.jp/pco/toyama/content/09-nyuusatu/images/pannfuretto.pdf
- 自衛隊法施行令(自衛官の定年・退職日特別昇任の取扱い) https://laws.e-gov.go.jp/law/329CO0000000179
- 防衛省「自衛官の定年年齢の引上げについて」2023年9月(2023年10月と2024年10月の引き上げ) https://www.mod.go.jp/j/press/news/2023/09/22a.html
- Jディフェンスニュース「自衛官(1佐〜3佐、2曹〜3曹)の定年年齢が令和6年10月から引上げに」2024年9月 https://j-defense.ikaros.jp/docs/mod/001404.html
- 防衛省「自衛官の処遇・生活・勤務環境の改善について」(令和7年度予算案を含む処遇改善資料、2028年度以降の引き上げ方針) https://www.mod.go.jp/j/profile/treatment/pdf/treatment.pdf
- 内閣官房「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」参考資料(令和6年12月20日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jieikan/gijisidai/dai4/sankou.pdf
- 防衛省「人的基盤の強化について」(若年定年後の収入の課題) https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/drastic-reinforcement/pdf/siryo04_02.pdf
- 自衛隊法施行令(定年の規定)
- 自衛隊ナビ「【最新版】自衛官の定年延長について」2026年6月 https://mod.jpn.org/







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