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入隊前に持ち物のリストを眺めていて、「腕時計」のところで手が止まった人は多いと思う。自衛隊の時計と聞くと、ごついミリタリーウォッチや、パイロットが着けているような立派なクロノグラフを想像しがちだ。せっかくだから良いものを買っていこうか、と考えるのも自然なことだと思う。
ところが、地方協力本部が入隊予定者に勧めている腕時計は、その逆だ。青森地方協力本部が採用予定者に配った案内には、腕時計について「華美ではないもの、デジタル、安価なもの、衝撃に強いものがお奨め」とある。高い時計ほど、教育隊では持て余すことになる。
この記事では、なぜ自衛隊では「安くて丈夫なデジタル」がいいのかを、教育隊の生活から説明する。そのうえで、教育隊に持っていく1本と、配属されてから長く使う1本の選び方を書く。
- 教育隊に持っていくなら、安くて丈夫なデジタルの腕時計。地本の案内にも「華美ではないもの、デジタル、安価なもの、衝撃に強いもの」とある
- 最初の1本はカシオのF-91Wで十分。21gと軽く、ストップウォッチとライトがあり、電池は約7年もつ。走る練習もするなら、10気圧防水でラップを記録できるカシオのWS-1400H
- スマートウォッチは、教育隊によっては持ち込みが禁止されている。教育隊のメインの時計にはしない
- 配属後に長く使うなら、20気圧防水のG-SHOCK。電池交換や時刻合わせから解放されたいなら、電波ソーラーのGW-M5610U
- 迷ったら、入隊先から届く案内を最優先にする。この記事の内容より、着隊案内の指定が正しい
地本が勧める腕時計の4つの条件
地本の案内にある4つの条件には、それぞれ理由がある。
| 条件 | なぜ必要か |
|---|---|
| 華美ではない | 共同生活で目立つ物は持たないのが基本。派手な色や大きな飾りは避ける |
| デジタル | 分刻みの日課の中で、一瞬で時刻を読める。ストップウォッチも使いやすい |
| 安価 | 訓練で傷がつく。なくしたり壊したりしても、気持ちの面で困らない |
| 衝撃に強い | 体力の訓練や野外での訓練で、時計をぶつけることが多い |
いちばん大事なのは、「デジタル」と「安価」の組み合わせだと私は思う。
教育隊の1日は、時間で細かく区切られている。たとえば海上自衛隊の横須賀教育隊の平日は、6時に起床し、8時に国旗掲揚、午前と午後の課業をこなし、22時に消灯する。その間に食事、清掃、点検、自習が分単位で入る。時計を見るたびに針の位置を読み取るより、数字が目に飛び込んでくるデジタルのほうが、慌ただしい中で間違えにくい。教育隊の1日の流れは自衛隊の教育隊の解説に、配属後の日課は自衛官の1日のスケジュールにまとめた。
そして教育隊では、時計は道具として使い倒すものになる。走り、腕立て伏せをし、雨の中を動き、地面に伏せる。高い時計を大事に扱う余裕は、まずない。傷がつくたびに落ち込むくらいなら、最初から気にならない値段の時計を着けたほうが、訓練に集中できる。
教育隊で役に立つ機能
腕時計を選ぶときに見ておきたい機能を、教育隊で使う場面と合わせて並べる。
| 機能 | 使う場面 | 最低限の目安 |
|---|---|---|
| ストップウォッチ | 体力検定の練習。3,000m走のタイム、腕立て伏せと腹筋の2分間 | 1/100秒まで測れれば十分 |
| ライト | 夜間の訓練、消灯の前後、暗い場所での時刻の確認 | ボタンで光るLEDライト |
| 防水 | 雨、汗、洗顔のときの水はね | 日常生活用防水でも足りる。水に入る訓練が多いなら10気圧以上 |
| アラーム | 自習時間の区切り、外出から戻る時刻の確認 | 1本あれば足りる。音の大きさに注意 |
| 樹脂のバンド | 汗や泥で汚れても洗える。金属のように腕を挟まない | 樹脂(ウレタン)のバンド |

体力検定の種目は、3,000m走、2分間の腕立て伏せ、2分間の腹筋だ。どれも時間との勝負なので、ストップウォッチが付いた時計は練習で手放せなくなる。体力検定の基準は自衛隊の体力検定に、入隊前からできる練習は体力検定の8週間トレーニングに書いた。
防水の表示は、少しわかりにくい。カシオの説明では、「日常生活用防水」は弱い雨や汗、洗顔のときに少し水がかかる程度に耐えるもの。「10気圧防水」になると水泳にも使えて、「20気圧防水」は素潜りやサーフィンにも着けたまま使える。教育隊の生活なら日常生活用防水でもまず困らないが、雨の中の訓練や、配属後に海や川で動く機会が多くなりそうなら、10気圧以上を選んでおくと安心だ。
アラームは、使い方に気をつけたい。起床は日課の号令や放送で知らされることが多く、同じ部屋で寝起きする仲間がいる。自分の時計のアラームが鳴って周りを起こしてしまわないよう、教育隊では音を切っておくくらいでちょうどいい。
時計は24時間表示にしておく
もう1つ、時計を買ったらすぐにやっておきたい設定がある。表示を24時間表示に切り替えることだ。
自衛隊では、時刻を24時間制で扱う。午後6時は18時で、口で言うときは「ヒトハチマルマル」のように数字を1つずつ読み上げる。日課表も、訓練の予定も、すべてこの書き方になる。時計が午前と午後で表示を分ける12時間表示のままだと、頭の中で毎回「午後6時は18時」と変換することになり、慌ただしい中で間違いのもとになる。
F-91WもG-SHOCKも、ボタンの操作で12時間表示と24時間表示を切り替えられる。入隊の前から24時間表示で暮らしておけば、着隊した日から日課表の時刻がすっと頭に入ってくるはずだ。
スマートウォッチは、教育隊では避ける
最近は、スマートウォッチを毎日着けている人も多い。ただ、教育隊に持っていく時計としてはすすめない。
理由はいくつかある。まず、教育隊によっては持ち込みそのものが禁止されている。海上自衛隊の横須賀教育隊は、スマートウォッチを持ち込み禁止の物として挙げている。佐世保教育隊も、2026年秋の着隊案内ではスマートウォッチ等の持ち込みを認めていない。カメラや録音、通信の機能を持つ機器は、入隊先ごとに扱いが決められているからだ。
さらに、充電の問題もある。教育隊の生活の中で、毎日決まった時間に充電できるとは限らない。電池が切れた時計は、ただの腕輪になってしまう。
スマートフォンや通信機器の扱いは自衛隊でスマホは使えるかで教育隊ごとに整理した。スマートウォッチを持っていきたい人は、必ず入隊先の案内で確かめてほしい。
ランニング用のGPSウォッチは、入隊前のトレーニングや、配属後に許される範囲で使う道具として考えるといい。走った距離とペースが自動で記録されるので、3,000m走の練習の質はぐっと上がる。
教育隊に持っていく1本
ここからは具体的な時計を挙げる。まずは教育隊に持っていく1本だ。
カシオ F-91W:迷ったらこれ
教育隊の時計として、私がいちばんすすめるのがカシオのF-91Wだ。1980年代から作られ続けているデジタル時計の定番で、地本の4つの条件をほぼそのまま満たしている。
重さは21gしかなく、着けているのを忘れるほど軽い。厚さは8.5mmと薄いので、制服や作業服の袖にも引っかかりにくい。1/100秒まで測れるストップウォッチ、LEDのライト、アラームがあり、電池は約7年もつ。防水は日常生活用防水なので、水に入るような使い方には向かないが、教育隊の普段の生活には十分だ。
小ぶりなので、手首の細い人にも合わせやすい。
カシオ WS-1400H:走る練習もするなら
体力検定の3,000m走を意識して、入隊前から走り込みをする人には、カシオのWS-1400Hがいい。カシオのスポーツ向けのシリーズで、10気圧防水、電池は約10年もつ。
この時計のいいところは、ストップウォッチの記録を60本まで残せることだ。1周ごとのラップを記録しておけば、どの周でペースが落ちたかが後から見られる。F-91Wより一回り大きく、重さは43gある。
配属されてから長く使う1本
教育隊を終えて部隊に配属されると、時計の使い方も変わってくる。
陸上自衛隊なら、演習で何日も野外に出ることがある。泥や雨にさらされ、電池が切れても店に行けない。海上自衛隊なら、艦艇の上で潮風と湿気の中で暮らし、当直で夜通し起きていることもある。航空自衛隊なら、整備や警備の仕事で、時計を機材や金具にぶつける場面が増える。どの職場でも、教育隊のころより時計に求めるものが一段上がる。そういう生活の中で長く使うなら、もう少ししっかりした時計が欲しくなる。そこで出てくるのがG-SHOCKだ。
G-SHOCK DW-5600UE:定番の四角いG-SHOCK
G-SHOCKの中でも、四角い形の5600シリーズは、ずっと作られ続けている定番だ。DW-5600UEは、その基本の形を今の仕様にしたモデルで、20気圧防水、電池は約5年もつ。
ストップウォッチは1/100秒まで測れ、24時間まで計測できる。ライトは文字盤全体を白く照らすLEDで、暗い場所でも読みやすい。重さは52gで、F-91Wより重いが、そのぶん頑丈さは別物だ。
黒一色の定番の色なら、地本の言う「華美ではない」にも収まる。教育隊にG-SHOCKを持っていくのも悪くはないが、F-91Wより大きいので、袖に引っかかることはある。私は、教育隊はF-91W、配属後にG-SHOCK、という順番が無理がないと思う。
G-SHOCK GW-M5610U:電池交換も時刻合わせもしたくないなら
同じ5600シリーズで、電池交換と時刻合わせの手間を減らせるのがGW-M5610Uだ。光で充電するタフソーラーと、標準電波を受けて時刻を自動で合わせる電波時計の仕組みを持っている。
自衛隊では、全員が同じ時刻で動くことが何より大事になる。電波時計なら、自分の時計だけ時刻がずれていた、ということが起きにくい。アラームは5本まで設定でき、暗い場所で腕を傾けるとライトが自動で点く機能もある。20気圧防水で、重さはDW-5600UEと同じ52g。長く使う1本として、私はいちばんすすめたい。
1つ注意したいのは、同じGW-M5610Uでも、品番の末尾が「1BJF」のものは、黒地に数字が白く浮かぶ反転液晶になっていることだ。見た目は締まるが、暗い場所や斜めから見たときに読みにくいと感じる人もいる。時刻を一瞬で読むことを優先するなら、末尾が「1JF」の普通の液晶を選ぶといい。
時計を選ぶときの比較表
ここまでの時計を、教育隊で気にしたい項目で並べておく。
教育隊で時計に困らないための小さなこつ
時計そのもの以外にも、知っておくと助かることがある。
1つ目は、時計に名前を書いておくことだ。F-91WやG-SHOCKは人気があるので、同期の中に同じ時計を着けている人がいてもおかしくない。裏ぶたに名前のシールを貼っておくと、取り違えずに済む。
2つ目は、入隊の前に時刻を正確に合わせておくことだ。電波時計でなければ、時計は少しずつずれていく。着隊の日に時刻がずれていて慌てないよう、入隊の前日に合わせ直しておくといい。
3つ目は、入隊先の案内をよく読むことだ。地本や教育隊によって、持ち物の指定は少しずつ違う。時計について特別な指定があれば、そちらを優先する。持ち物全体の準備は入隊前にやることチェックリストにまとめている。
体力検定の練習を仲間と一緒にするなら、首から下げるストップウォッチが1つあると、走っている人のタイムを外から測れて便利だ。
自衛隊ファンが選ぶなら:記念モデルという楽しみ方
ここまでは入隊する人のための話だったが、自衛隊ファンとして時計を選ぶなら、話は変わる。
自衛隊の部隊や記念行事にちなんだ時計が、ときどき限定で作られている。たとえば2024年には、航空自衛隊の創設70周年にあわせて、ブルーインパルスの公式エンブレムを刻んだソーラー式のクロノグラフが、各色100本の限定でクラウドファンディングで売り出された。文字盤にT-4の機体をあしらった、ファンなら手が伸びる1本だった。
こうした記念モデルは数が少なく、出たときに買わないと手に入りにくい。航空祭の時期には関連するグッズも増えるので、気になる人はこまめに情報を追うといい。ブルーインパルスを見に行くなら、この秋冬の航空祭の選び方を航空祭ガイドに書いた。
買う前のチェックリスト
- 入隊先の案内に、時計についての指定がないか
- 華美ではないか。派手な色や大きな飾りがないか
- デジタルで、一瞬で時刻が読めるか
- ストップウォッチとライトが付いているか
- 防水は足りているか。水に入る訓練が多そうなら10気圧以上
- バンドは樹脂か
- なくしたり壊したりしても困らない値段か
- スマートウォッチなら、入隊先で持ち込めるか確かめたか
よくある質問
アナログの腕時計ではだめ?
地本の案内はデジタルを「お奨め」としているだけで、アナログを禁止しているわけではない。ただ、分刻みの日課の中で時刻を読む速さと、体力検定の練習に使うストップウォッチのことを考えると、教育隊ではデジタルのほうが使いやすい。入隊先の案内に指定があれば、そちらに従ってほしい。
G-SHOCKは目立たない?
黒一色の定番モデルなら、目立つことはまずない。避けたいのは、派手な色や、金属の飾りがたくさん付いたモデルだ。迷ったら黒を選べばいい。
時計はいつ買えばいい?
入隊が決まったら、早めに買って着け慣れておくのがいい。入隊前のランニングで使えば、ストップウォッチの操作にも慣れる。電池式の時計なら、新品のうちに電池の残りを気にしなくて済むのもいいところだ。
初任給で買い替えるなら?
教育隊を終えて生活が落ち着いてから、長く使う1本を選べば十分だ。電波ソーラーのG-SHOCKなら、その後の自衛官生活をずっと付き合える。最初の給料がどのくらいになるかは自衛官候補生の給料・手取りで計算した。
まとめ
- 地本が勧める腕時計は「華美ではないもの、デジタル、安価なもの、衝撃に強いもの」。高い時計ほど教育隊では持て余す
- 教育隊の1本目はカシオのF-91W。走る練習もするならWS-1400H
- スマートウォッチは、教育隊によって持ち込み禁止や使用制限がある。メインの時計にはしない
- 配属後に長く使うなら20気圧防水のG-SHOCK。時刻合わせも電池交換もしたくないなら電波ソーラーのGW-M5610U
- 最後は入隊先の案内がいちばん正しい。時計の指定があれば必ずそちらに従う
自衛隊の時計は、格好よさより、いつでも正しい時刻を一瞬で読めることが大事になる。安い時計を傷だらけになるまで使い込み、教育隊を出るころには、その時計が自分の相棒になっている。そういう1本を選んでほしい。
入隊準備の合間の一息に。







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