Su-35とは|推力偏向・機動性・Su-57との違いを完全解説

山岳地帯上空で高迎角機動を行うSu-35級双発戦闘機
山岳地帯上空で高迎角機動を行うSu-35級双発戦闘機
推力偏向とデジタル飛行制御を組み合わせたSu-35の高迎角機動

Su-35とは、ロシアのスホーイ設計局がSu-27を徹底的に再設計して生み出した単座多用途戦闘機である。航空ショーでは失速寸前から機首を自在に振る驚異的な飛行を見せるため、「世界最高クラスの機動性を持つ戦闘機」として知られている。

しかし、Su-35の本当の価値は派手なコブラ機動だけではない。大推力エンジン、推力偏向ノズル、長い航続距離、大型レーダー、長射程空対空ミサイル、電子戦装置を一機にまとめたところにある。ロシア側は本機を第4++世代、すなわち第4世代機を限界まで進化させた「第5世代への橋渡し」と位置づけている。現在のSu-35は2008年2月19日に初飛行し、Su-35Sとしてロシア航空宇宙軍に配備されてきた。

この記事の要点

本記事のテーマは明確である。Su-35は「旋回性能だけが異常に高い戦闘機」ではなく、非ステルス戦闘機が持てる性能を一つの機体へ凝縮した、フランカー系列の完成形である。本稿では推力偏向の仕組み、機動性が高い理由、レーダーと兵装、実戦で見えた強みと限界、そしてSu-57との違いを整理する。

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目次

Su-35とは何か

Su-35は、冷戦期に開発された大型制空戦闘機Su-27を基礎としながら、機体構造、エンジン、飛行制御、センサー、電子戦装置、コックピット、兵装運用能力を更新した多用途戦闘機である。Su-27の単なる延命改修ではなく、外形を受け継いだ新世代機に近い。

任務は制空戦闘に限られない。遠距離での空中目標迎撃、味方攻撃隊の護衛、地上施設や艦艇への攻撃、偵察、無人機への対処などを想定する。製造元のUACは、空・地上・海上目標を昼夜、悪天候下、基地から離れた空域で攻撃できる機体として説明している。2026年にもロシア国防省向けの新造機引き渡しが公表されており、Su-57の生産が進む現在もSu-35Sは調達と運用が続く現役機である。

名称には少し注意が必要だ。1990年代にもSu-27Mを基礎とする機体が「Su-35」の名で航空ショーに登場したが、資金難で量産は停止した。現在一般にSu-35と呼ばれる機体は、2000年代に改めて設計されたSu-35BM系統であり、ロシア軍仕様がSu-35S、輸出仕様がSu-35SEと呼ばれる。

私は、Su-35を理解するときに「Su-27の改良型」という言葉だけで済ませるべきではないと考える。F-15が長期改良によってF-15EXへ到達したのと同じように、Su-35も原型機の余裕ある機体規模を利用し、別世代のセンサーと推進系を詰め込んだ機体だからである。

Su-35の基本性能

Su-35は大型双発戦闘機である。小型軽量機のように機数と運用コストで勝負するのではなく、大量の燃料と兵装を搭載し、高高度を高速で飛び、広い空域をカバーする設計だ。

項目Su-35の公表値
乗員1名
全長21.9m
全幅14.7m
全高5.9m
通常離陸重量25,300kg
最大離陸重量34,500kg
内部燃料11,300kg
最大兵装搭載量8,000kg
ハードポイント12か所
エンジン117Sターボファン2基
最大推力1基あたり14,500kgf級、アフターバーナー特殊モード
最大速度高高度でマッハ2.25
実用上昇限度18,000m
航続距離高高度巡航、空中給油なしで3,600km
最大荷重倍数9G

数値はUACの公表値であり、兵装、燃料、飛行高度、気象条件によって実際の行動半径や性能は変わる。それでも内部燃料11.3トン、最大兵装8トンという数字は、Su-35が長時間の防空哨戒と多様な兵装搭載を重視した大型機であることを示す。

この大きさは弱点にもなる。機体が大きければレーダー反射断面積を小さくしにくく、地上での整備や燃料消費も軽戦闘機より重くなる。一方、大きな機首には高出力レーダーを搭載でき、胴体と翼には大量の燃料を収容できる。Su-35の設計思想は、機体を小さく隠すことよりも、遠くを見て、長く飛び、高い位置から強いミサイルを撃つことへ向いている。

Su-35はなぜ機動性が高いのか

Su-35の機動性は、推力偏向ノズル一つで生まれているわけではない。空力設計、推力重量比、デジタル飛行制御、エンジン制御を組み合わせた結果である。

Su-27譲りの揚力を生む機体形状

Su-27系列は、主翼と胴体が滑らかにつながるブレンデッド・ウイング・ボディに近い形を持つ。幅の広い胴体中央部も揚力を生み、主翼だけに頼らず機体全体で空気を受ける。このため大型機でありながら、比較的高い迎角でも揚力と操縦性を維持しやすい。

翼の前縁付け根から機首へ伸びる部分も、迎角を増した際に渦を発生させ、翼上面の流れを助ける。Su-35は旧Su-35やSu-30SMに見られるカナード翼を持たないが、機体構造の軽量化、飛行制御の進歩、推力偏向によって必要な機首上げ能力を確保した。

強力な117Sエンジン

Su-35は117S、別名AL-41F1S系エンジンを2基搭載する。UAC公表値では、1基あたりの最大ドライ推力は8,800kgf、アフターバーナー特殊モードで14,500kgfに達する。2基合計では29,000kgf級となり、通常離陸重量付近なら高い推力重量比を得られる。

戦闘機の旋回では、向きを変えるほど抗力が増え、速度と高度というエネルギーを失う。エンジン推力が大きければ、失った速度を回復しやすく、上昇や加速へ移りやすい。機首を一瞬だけ大きく振れても、その後に鈍足となれば敵へ隙を与える。Su-35の強さは、大迎角機動を行えることに加え、双発大推力で次の動作へ戻る余力を持つ点にある。

デジタル飛行制御とエンジン制御の統合

従来の操縦系では、操縦桿、動翼、エンジンが別々に働く傾向が強かった。Su-35ではデジタル飛行制御が操縦者の入力、機体の姿勢、速度、迎角、各動翼、左右エンジンの推力偏向を統合して扱う。

パイロットが機首を上げたいと入力したとき、コンピューターは昇降舵だけを動かすのではない。必要に応じて推力の向きも変え、失速域に近づいても操縦不能へ陥らない範囲で姿勢を作る。UACもデジタル制御エンジンと推力偏向が飛行性能と機動性を大きく向上させたとしている。

私がSu-35で最も評価するのは、推力偏向を航空ショー用の曲芸装置ではなく、飛行制御系の一部として組み込んだ点である。ノズルが動くだけなら珍しい技術展示で終わる。機体の動翼と左右エンジンを協調させ、パイロットが通常の操縦感覚で使えるところまでまとめて初めて、戦闘機の能力になる。

推力偏向とはどのような仕組みか

推力偏向を理解する4つのポイント

推力偏向とは、ジェットエンジンが噴き出す排気の向きを変え、その反作用で機体の姿勢を制御する技術である。一般的な戦闘機は、主翼や尾翼の舵面へ空気を当てて向きを変える。速度が落ち、舵面を流れる空気が弱くなると、操縦力も低下する。

Su-35は左右のエンジン後部に可動ノズルを持つ。ノズルを傾ければ、排気が機体の中心線とは異なる方向へ噴射され、機首上げ、機首下げ、ヨー、ロールを助けるモーメントが生じる。左右ノズルを同じ方向へ動かすだけでなく、異なる方向へ動かすことで複雑な姿勢変化を作れる。

スホーイのテストパイロット、セルゲイ・ボグダンは、Su-35Sの高い機動性について、近距離かつ低速の空戦が依然として意味を持つというロシア側の考え方と結びつけて説明している。航空専門誌Aviation Weekも同機を三軸推力偏向装備機として紹介している。

ポストストール機動

通常の航空機は、翼の迎角が大きくなりすぎると気流が剥離し、揚力を失って失速する。Su-35は失速に近い、あるいは通常の安定した飛行領域を一時的に越えた状態でも、推力偏向を利用して機首方向を制御できる。これをポストストール機動、超機動と呼ぶ。

代表的な動きには、機首を急激に引き起こして一時的に進行方向と大きく異なる方向へ向けるコブラ機動、低速で機首を回し込むクルビット、極端に小さな半径で方向転換するように見える動きがある。ただし、名称や演目の派手さと実戦価値は分けて考えなければならない。

空戦で何に使えるのか

推力偏向が役立つ場面として、第一にミサイルや機関砲を撃つための機首方向を素早く作ることが挙げられる。機体の進行方向を完全に変える前でも、センサーや兵器の射界へ敵を入れられる可能性がある。

第二に、低速域で相手へオーバーシュートを強いる使い方がある。追尾する敵機が高速のまま接近している場合、急減速と機首上げで前へ出させられれば攻守を入れ替えられる。ただし成功には距離、速度差、高度、双方のミサイル残数が関係し、万能ではない。

第三に、失速や不安定姿勢からの回復を助ける。戦闘中の急激な操縦だけでなく、機体を安全に制御できる領域を広げる効果がある。

超機動には代償がある

大迎角機動は空気抵抗を急増させ、速度を大きく失う。航空ショーでは高度と安全空域が確保されているが、実戦では速度を失った機体は別の敵や地対空ミサイルに狙われやすい。現代の短距離空対空ミサイルは高いオフボアサイト能力を持ち、ヘルメット照準と組み合わせれば、機首を敵へ完全に向けなくても発射できる。

したがって、Su-35の推力偏向は「これがあれば格闘戦で必勝」という装置ではない。通常の空力操縦では作れない一瞬の射撃機会と、低速域の選択肢を増やす装置である。使うべき瞬間を誤れば、自らエネルギーを捨てる行為にもなる。

寒冷な海岸線上空で長距離哨戒を行うSu-35級戦闘機
大量の内部燃料と大型レーダーを生かすSu-35の広域防空任務

Su-35のレーダーとセンサー

Su-35の主レーダーはN035イルビスEである。AESAではなく、受動式フェーズドアレイ方式を採用する。電子的にビーム方向を変えられるうえ、アンテナ自体も機械的に動かせるため、広い走査範囲を持たせやすい。

UACは空中目標を最大350kmで探知し、30目標を追尾、最大8目標へ同時攻撃できると説明する。光学位置標定装置OLSは、条件次第で空中目標を最大80kmで探知・追尾するとされる。

ただし「350km」という数字を、そのまま戦闘機を確実に発見できる距離と理解してはいけない。レーダー探知距離は、相手のレーダー反射断面積、正面か側面か、飛行高度、妨害、捜索モード、必要な追尾精度によって変わる。大型支援機や爆撃機は遠方から見つけやすいが、正面を向いたステルス戦闘機は同じ距離では見えない。

Su-35は機首レーダーだけに頼らず、赤外線を使うOLS、レーダー警報受信機、電子戦装置、地上管制や早期警戒機からの情報を組み合わせる。赤外線センサーは電波を発しないため、相手にレーダー照射を知らせず接近を探知できる可能性がある。一方、雲、湿度、背景温度、目標の向きで性能が変わり、レーダーの完全な代替ではない。

Su-35のセンサー構成は強力だが、Su-57のような機体各部へ分散配置した多面レーダーや、ステルス設計と一体化した統合センサーとは世代が異なる。Su-35は大出力の主レーダーを中心に戦う設計であり、Su-57は複数の情報源を融合し、自機の位置を悟られにくい状態で状況認識を得る方向へ進んでいる。

Su-35の兵装と戦い方

Su-35は12か所のハードポイントへ最大8トンの兵装を搭載できる。空対空任務では短距離・中距離・長距離ミサイルを組み合わせ、対地・対艦任務では誘導兵器や対レーダーミサイルを外部搭載する。ロシアの国営輸出企業ロソボロンエクスポルトも、RVV-MD、RVV-SD、RVV-BD、Kh-58UShKEなどをSu-35の組み合わせ候補として掲載している。

重要なのは、搭載量の多さだけではない。長距離哨戒では複数の空対空ミサイルを積み、高高度で速度を保ちながら交戦空域を監視できる。高い位置から高速で発射されたミサイルは、低高度・低速で撃つ場合より多くの運動エネルギーを持ち、到達距離と終末段階の余力を得やすい。

ロシア・ウクライナ戦争初期を分析したRUSIの報告では、Su-35SとSu-30SMは高高度で戦闘空中哨戒を行い、イルビスEなどのレーダーとR-77-1の組み合わせで、旧式装備を使うウクライナ戦闘機に技術的優位を持ったと評価された。条件の良い長距離射撃では100kmを超える距離から発射され、命中しなくても相手を回避機動へ追い込み、任務を中断させる効果があったとされる。

この実例は、Su-35の本質が航空ショーの低速機動ではないことを示す。実戦で優先されたのは、高高度で待ち受け、レーダーで先に捕捉し、長射程ミサイルを有利なエネルギー条件で撃つ仕事だった。

空対空戦闘

空対空戦闘では、Su-35は長い航続力と大きなレーダーを生かして広域防空を担当する。敵戦闘機だけでなく、爆撃機、巡航ミサイル、無人機、支援機への迎撃も任務となる。2026年のロステック発表でも、長距離迎撃、攻撃隊や地上目標の防護、無人機撃破が現場任務として挙げられている。

中距離以遠では、先に探知し、相手より有利な高度と速度から撃てるかが重要になる。近距離へ入れば、機体の高迎角能力、推力偏向、短距離ミサイル、ヘルメット照準が生きる。ただし、どの距離でも地上レーダー、早期警戒機、データリンク、電子戦支援の有無が勝敗を大きく左右する。

防空制圧と対地攻撃

Su-35SはKh-31PやKh-58といった対レーダーミサイルを用いた防空制圧にも投入された。敵の地対空ミサイル用レーダーが電波を出した瞬間を捉え、長距離から対レーダーミサイルを発射して沈黙を強いる任務である。

一方、RUSIは、ロシア軍が多数の対レーダーミサイルを発射しても、移動式地対空ミサイル網を十分に破壊できず、ウクライナ上空の広範な制空権を確立できなかったと分析した。Su-35は危険なレーダーを抑圧する能力を持つが、一機種だけで分散・移動する防空網を消滅させられるわけではない。

実戦で見えたSu-35の強さ

Su-35の実戦評価は、宣伝映像と撃墜数だけで判断すべきではない。空中戦では相手を撃墜しなくても、長距離ミサイルで低高度へ押し込み、攻撃経路を制限し、任務を断念させれば効果がある。逆に、優秀な機体を持っていても、作戦計画、情報共有、早期警戒、整備、搭乗員の練度が不足すれば航空優勢は得られない。

高高度CAPでの圧力

Su-35Sは前線後方の高高度を飛ぶ戦闘空中哨戒で能力を発揮した。高高度はレーダーの見通しを広げ、空対空ミサイルへ大きな初期エネルギーを与える。低空を飛ぶ敵機は地形を利用して隠れられる一方、自機レーダーの視界とミサイル射程を失いやすい。

RUSI報告が示したSu-35Sの優位は、旋回戦の強さというより、レーダー、能動レーダー誘導ミサイル、高度、速度の組み合わせにあった。私は、Su-35の実戦上の最大の強みはコブラ機動ではなく、広い空域に長時間居座り、相手へ先に防御行動を強制する能力だと見る。

防空網を前にした限界

Su-35は非ステルス機である。強力な地対空ミサイル網の内部へ高高度で進入すれば、大型機体は探知・追尾されやすい。ロシア機はウクライナの中・長距離防空が再編されると、前線から距離を取った高高度哨戒やスタンドオフ攻撃へ比重を移した。これはSu-35が無力だったことを意味しないが、機動性が防空ミサイル網への不可視性を与えるわけではないことを示す。

空対空戦でも同じである。相手がステルス機、強力な早期警戒機、長距離AESAレーダー、ネットワーク化されたミサイルを持つ場合、Su-35は自機が探知する前に位置を把握される危険が高まる。大出力レーダーを使えば遠くを見られるが、電波を傍受されて存在を推定される可能性もある。

生産と運用の継続

ロステックは2026年4月とその後の時期にSu-35Sの新たな引き渡しを公表している。ただし各バッチの機数は明らかにしていない。公式発表から確実に言えるのは、Su-57への移行が進む一方で、Su-35Sの生産ラインと部隊補充が止まっていないことである。

Su-35の強み

長い航続距離と滞空力

内部燃料だけで11.3トンを積めるため、外部増槽への依存を抑えながら長距離任務へ出やすい。外部増槽を減らせれば、兵装用の搭載点と空力性能を確保できる。国土が広く、基地間距離も長いロシアの防空思想と相性がよい。

大型レーダーと長射程ミサイル

機首が大きいため、大型フェーズドアレイと高出力レーダーを搭載できる。敵機を必ず公称最大距離で捕捉できるわけではないが、非ステルス機や大型支援機に対しては長距離探知の余地が大きい。高高度・高速から長射程ミサイルを撃つ運用と組み合わせることで、広域防空機として脅威になる。

高い機動性

通常の旋回性能、上昇力、加速力に加え、推力偏向による低速・大迎角域の姿勢制御を持つ。近距離空戦に入った際の選択肢は多く、射撃姿勢を作る速度も速い。失速域からの回復余裕も大きい。

多用途性

空対空、対地、対艦、防空制圧、護衛、偵察などへ対応できる。専用機ほど一任務へ最適化されてはいないが、一つの飛行隊へ複数任務を担わせられる点は、保有機数と基地が限られる状況で有利になる。

Su-27系列の運用基盤を利用できる

完全な新設計機ではなく、長年運用されたフランカー系列の知見を引き継ぐ。パイロット教育、整備経験、兵装、地上支援設備を一定程度共有できる国にとって、Su-57のような第5世代機を一から導入するより現実的な場合がある。

冬季飛行場でSu-35級戦闘機を点検する地上整備員
大型双発機の即応性を支える整備と兵装準備

Su-35の弱点

Su-35を評価するときの注意点

ステルス性が限定的

Su-35最大の弱点は、機体外形がステルスを第一に設計されていないことである。大型のエンジン吸気口、垂直尾翼、外部搭載兵装、丸みを帯びた機首と胴体は、Su-57のような正面反射低減を狙った形状とは異なる。

一部にはレーダー反射を減らす材料や処理が使われるとされるが、兵器を外部へ多数搭載すれば反射源は増える。Su-35は「見つからない機体」ではなく、見つかる可能性を受け入れたうえで、速度、電子戦、長射程兵器、機動で生存性を高める機体である。

主レーダーがAESAではない

イルビスEは高出力で広い走査範囲を持つが、方式としてはPESAである。現代のAESAは多数の送受信モジュールを個別制御し、ビーム形成、信頼性、複数機能の並行処理、低被探知性などで利点を持つ。単純に「AESAなら必ず遠くまで見える」とは言えないが、電子戦とネットワーク戦を含む総合力では方式の世代差が現れる。

大型機ゆえの運用負担

双発大推力、大量燃料、大型機体は、燃料、部品、整備員、格納施設を必要とする。軽戦闘機より一機あたりの運用負担が重く、同じ予算で揃えられる機数も少なくなりやすい。Su-35一機の性能が高くても、必要な空域へ必要な数を常時出せるかは別問題である。

外部兵装が空力と被探知性を悪化させる

最大8トン搭載という数字は魅力的だが、重い兵装を満載すれば加速、旋回、航続力は落ちる。ミサイルや爆弾を外部搭載すれば抗力とレーダー反射も増す。カタログ上の最高速度、最大航続距離、最大兵装量は同時に達成する数字ではない。

ネットワーク全体の質に左右される

現代空戦は単機性能だけで決まらない。早期警戒機、衛星、地上レーダー、電子情報、データリンク、空中給油機、僚機、地上防空との連携が必要になる。Su-35が高性能でも、支援体系が弱ければセンサーの見通しとミサイルの射程を十分に生かせない。

Su-35とSu-57の違い

Su-35とSu-57は、どちらもスホーイ製の双発大型戦闘機で、高い機動性と多用途性を持つ。しかし設計の優先順位は大きく異なる。

Su-35はSu-27を起点とする第4++世代機であり、外部搭載を前提に、大推力、航続距離、大型レーダー、兵装搭載量を追求した。一方、Su-57は最初から第5世代機として設計され、低被探知形状、内部兵器庫、統合アビオニクス、情報融合、リアルタイムのデータ交換を重視する。UACはSu-57について、深く統合されたアビオニクス、高度な自動化、知的な操縦支援、外部指揮と自律運用の双方を特徴として挙げている。

比較項目Su-35Su-57
世代第4++世代第5世代
開発の起点Su-27の徹底改良新規ステルス戦闘機
初飛行2008年2010年
ステルス性限定的正面を中心に低被探知性を重視
兵装搭載主に外部ハードポイント内部兵器庫と外部搭載
センサー構成大型主レーダー中心統合アビオニクスと複数センサーを重視
情報処理近代化された第4世代型センサー融合と自動化を重視
航続・搭載量大型機として強力ステルスとの両立を重視
機動性推力偏向で極めて高い推力偏向と新設計機体で高い
成熟度量産・運用実績が比較的長い生産拡大と継続改良の段階
主な役割広域防空、護衛、制空、多用途攻撃防空網突破、制空、情報中枢、多用途攻撃

推力偏向と機動性の違い

Su-57も高迎角域での操縦性と推力偏向を重視する。したがって「Su-35は機動型、Su-57はステルス型」という単純な二分ではない。Su-57はSu-35が培った飛行制御や超機動の思想を引き継ぎながら、ステルスと情報融合を追加した機体と見るべきである。

ただし、公開展示で見せる低速機動の印象だけなら、Su-35のほうが分かりやすく派手に見える。Su-57の優位は、敵の目に映る前の段階、すなわち発見、識別、情報共有、接近、兵器発射までを含む戦闘全体にある。

エンジンの違い

Su-35の117Sは高い推力を持つが、Su-57は将来的な新世代エンジンを前提とする。ロステックは2025年12月、推力16,000kgf級で燃費と寿命を改善した「製品177」をSu-57へ搭載し、飛行試験を開始したと発表した。これは試験開始を示すもので、全ての量産Su-57が同エンジンへ換装済みという意味ではない。

レーダーと情報戦の違い

Su-35は強力な一基の主レーダーを中心に戦う。Su-57は機首レーダーだけでなく、機体各部のセンサー情報を統合し、パイロットへ一つの戦術状況として提示する方向を採る。重要なのは探知距離の数字だけでなく、誰がどこにいるかを早く理解し、僚機や地上部隊と共有し、最適な兵器へ任務を割り当てる能力である。

私はSu-35とSu-57の差を、「どちらが急旋回できるか」ではなく、「見つかることを前提に強く戦う機体か、見つかりにくい状態で先に戦闘を組み立てる機体か」で捉えるべきだと考える。

Su-35とSu-57はどちらが強いのか

同じ支援条件、同程度の搭乗員、同じ兵器技術を仮定するなら、総合的にはSu-57が上位となる。ステルス性、センサー融合、内部兵器搭載、将来のネットワーク戦能力は、相手を先に発見し、先に撃ち、反撃される前に離脱する現代空戦へ適している。

ただし、Su-57が常にSu-35を圧倒するとは限らない。長時間の平時防空、非ステルス目標の迎撃、外部へ大量のミサイルを積む任務、成熟した整備基盤での継続運用では、Su-35が費用と稼働率を含めて合理的な場合がある。視界内戦闘に入り、双方が互いを認識した状態なら、Su-35の推力偏向と大推力は依然として危険である。

Su-35はSu-57の未完成品ではない。レーダーに見つかりやすい宿命を抱えたまま、Su-27という一振りの刀を、刃先が透けるまで研ぎ澄ました機体である。Su-57はその刀をさらに研いだのではなく、戦う前から姿を隠し、情報の流れそのものを武器にする別の道へ進んだ。

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Su-35の運用国と輸出

Su-35Sの中心的運用国はロシアである。輸出先として公的に運用が確認されている中国では、人民解放軍空軍がSu-35を装備し、訓練や哨戒へ投入している。中国国防部もSu-35の配備を公式に認めている。

イランは2025年にSu-35購入を公表したが、数量と引き渡し日程は明らかにしなかった。その後も契約履行や生産をめぐる報道が続いており、実際の配備数と作戦可能時期は公開情報だけでは確定しにくい。

輸出状況を論じる際は、「発注」「製造」「引き渡し」「部隊配備」「初期作戦能力獲得」を同じ意味で扱わないことが重要である。公表の少ない国について、契約報道だけから実戦配備済みと断定するのは避けるべきだ。

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Su-35は「世界最強の非ステルス戦闘機」なのか

Su-35を世界最強の非ステルス戦闘機と呼ぶ評価には、一定の根拠がある。機動性、航続距離、搭載量、大型レーダー、長射程兵装を高い水準で併せ持ち、実戦配備された機体だからである。

しかし「最強」を決める評価軸によって答えは変わる。センサーと電子戦、データリンク、兵器の信頼性、整備性、出撃率、搭乗員訓練、早期警戒機との連携まで含めれば、F-15EX、ラファール、タイフーンなどにも異なる優位がある。Su-35が卓越しているのは、特に飛行性能、大型機としての航続・搭載余裕、長距離防空能力である。

さらに、第5世代ステルス機と比較すれば、正面から同じ条件で能力を測ること自体が適切ではない。Su-35が目指すのは、非ステルス機として遠くを見て強く撃つことだ。F-22やF-35、Su-57が目指すのは、相手のセンサーへ不利な条件を押しつけたまま先に戦闘を始めることである。

よくある質問

Su-35はコブラ機動ができるのか

できる。推力偏向、デジタル飛行制御、高迎角に強い機体形状を組み合わせ、コブラ機動やクルビットなどのポストストール機動を実演している。ただし、実戦で頻繁に使う標準戦術ではなく、条件が合う近距離戦や姿勢制御で使える選択肢と考えるべきである。

Su-35の推力偏向は何次元なのか

一般には三次元推力偏向、または三軸制御を可能にする方式として説明される。左右ノズルの偏向と差動制御を、動翼と統合してピッチ、ヨー、ロールへ利用する。ノズル単体の動く方向だけでなく、左右二基を組み合わせた機体全体の姿勢制御能力を見る必要がある。

Su-35はステルス戦闘機なのか

ステルス戦闘機ではない。レーダー反射低減への配慮はあっても、機体形状、外部兵装、吸気口、尾翼などは低被探知性を最優先した設計ではない。ロシア側の区分でもSu-35は第4++世代であり、第5世代のSu-57とは区別される。

Su-35とSu-57はどちらが機動性に優れるのか

双方とも非常に高い機動性を持つ。航空ショーでの分かりやすい低速機動はSu-35が強い印象を与えるが、Su-57もポストストール域を含む操縦性を備える。総合戦闘力ではSu-57がステルス、センサー融合、内部兵装で優位を目指すため、機動性一項目だけで上下を決める意味は小さい。

Su-35のレーダー探知距離は本当に350kmなのか

350kmは製造元が示す最大級の公表値であり、目標の大きさ、向き、高度、妨害、捜索モードなどに左右される。大型機を理想条件で捉える距離と、小型ステルス戦闘機を安定追尾してミサイル誘導できる距離は同じではない。カタログ値は比較の入口であり、実戦距離そのものではない。

Su-35は現在も生産されているのか

生産されている。ロステックは2026年にも複数回、新造Su-35Sのロシア国防省向け引き渡しを発表した。ただしバッチごとの機数や総生産数の詳細は公表していない。

まとめ

Su-35とは、Su-27を基礎にエンジン、推力偏向、飛行制御、レーダー、電子戦、兵装運用能力を刷新した第4++世代多用途戦闘機である。

その機動性は、推力偏向ノズルだけから生まれるものではない。揚力を生みやすい大型機体、2基の117Sエンジン、デジタル飛行制御、左右ノズルの統合制御がそろって初めて、低速・大迎角域でも機首を自在に扱える。

ただし、実戦での本当の強みは曲芸的な機動ではない。大量の内部燃料を積み、高高度で長時間哨戒し、大型レーダーと長射程ミサイルで敵へ先に防御行動を強いる能力にある。ウクライナでの運用も、高高度CAPと長距離空対空戦、防空制圧が中心となった。

一方で、Su-35はステルス機ではなく、強力な防空網や第5世代戦闘機を相手にすれば、探知されやすさが重大な弱点となる。Su-57との最大の違いは旋回性能ではない。Su-35が「見つかる前提で、より遠くを見て、より強く撃つ」機体であるのに対し、Su-57は「見つかりにくい状態で情報を集め、先に戦闘を設計する」機体である。

Su-35はステルス時代に取り残された旧式機でも、推力偏向だけを誇る航空ショー専用機でもない。非ステルス戦闘機という枠の中で、速度、航続力、火力、センサー、機動性を徹底して積み上げた完成形である。その完成度の高さと、ステルス性を欠く限界の両方を見てこそ、Su-35の実像が見えてくる。

参考資料

  • <a href="https://uacrussia.ru/en/aircraft/lineup/military/su-35/">United Aircraft Corporation: Su-35</a>
  • <a href="https://www.roe.ru/en/production/aerospace-forces/aircraft/multipurpose-fighters-and-fighter-bombers/su-35/">roe.ru</a>
  • <a href="https://roe.ru/pdfs/pdf_1957.pdf">Rosoboronexport: Su-35 product brochure</a>
  • <a href="https://rostec.ru/en/media/news/uac-delivered-new-su-35s-to-the-ministry-of-defence-of-the-russian-federation/">rostec.ru</a>
  • <a href="https://www.rostec.ru/media/news/oak-peredala-v-voyska-ocherednuyu-partiyu-samoletov-su-35s_/">rostec.ru</a>
  • <a href="https://static.rusi.org/SR-Russian-Air-War-Ukraine-web-final.pdf">static.rusi.org</a>
  • <a href="https://static.rusi.org/vulnerabilities-in-sukhoi-production_0.pdf">RUSI: Vulnerabilities in Sukhoi Production</a>
  • <a href="https://static.rusi.org/403-SR-Russian-Tactics-web-final.pdf">static.rusi.org</a>
  • <a href="https://media.defense.gov/2024/May/20/2003468926/-1/-1/0/20240520_PLA2023_UPDATED_FINAL.PDF">media.defense.gov</a>
  • <a href="https://dod.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2016%20China%20Military%20Power%20Report.pdf">dod.defense.gov</a>

参考資料・主な出典

United Aircraft Corporation: Su-35|資料を確認

roe.ru|資料を確認

Rosoboronexport: Su-35 product brochure|資料を確認

rostec.ru|資料を確認

rostec.ru|資料を確認

static.rusi.org|資料を確認

RUSI: Vulnerabilities in Sukhoi Production|資料を確認

static.rusi.org|資料を確認

media.defense.gov|資料を確認

dod.defense.gov|資料を確認

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