「これ、戦車じゃないの?」
富士総合火力演習で初めて16式機動戦闘車を見た人は、必ずこう思うだろう。
105mm砲を備えた近代的な砲塔。8つの巨大なタイヤ。時速100kmで疾走しながら、目標を次々と撃ち抜くその姿。見た目は完全に「戦車」である。しかし、これは戦車ではない。
「16式機動戦闘車」――通称MCV(Maneuver Combat Vehicle)。
2016年から配備が始まったこの車両は、陸上自衛隊の「新しい戦い方」を象徴する存在だ。本州から戦車が姿を消していく中、その穴を埋めるべく登場した新世代の戦闘車両。しかし、単なる戦車の代用品ではない。
では、16式機動戦闘車とは一体何なのか。なぜ日本はこの車両を必要としたのか。そして、台湾有事や尖閣諸島有事が現実味を帯びる今、この車両はどのような役割を担うのか。
この記事では、16式機動戦闘車の性能から開発背景、配備状況、そして島嶼防衛における戦略的意義まで、徹底的に解説する。
ミリタリーファンはもちろん、「戦車みたいなやつ、気になってた」という方も、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。この車両を知れば、日本の防衛の「今」が見えてくるのだから。
16式機動戦闘車とは何か

「装輪戦車」という新概念
16式機動戦闘車は、2016年(平成28年)に陸上自衛隊で制式採用された装輪装甲車である。
「装輪」とは、キャタピラ(履帯)ではなくタイヤで走行するタイプの車両を指す。そして「戦闘車」という名称が示すように、この車両は積極的に戦闘に参加することを前提として設計されている。
世界では「装輪戦車」「戦車駆逐車」とも呼ばれるこのカテゴリーの車両を、日本が本格的に導入したのはこれが初めてだ。
その姿は、まさに「タイヤで走る戦車」。8輪の大径タイヤに支えられた車体に、74式戦車と同等の105mm砲を備えた砲塔を搭載している。
16式機動戦闘車の基本諸元
まずは基本スペックを確認しよう。
16式機動戦闘車 主要諸元:
- 全長:8.45m
- 全幅:2.98m
- 全高:2.87m
- 全備重量:約26トン
- 乗員:4名(車長、砲手、装填手、操縦手)
- 主砲:52口径105mm低反動ライフル砲
- 副武装:12.7mm重機関銃M2
- エンジン:直列4気筒4ストローク水冷ターボチャージド・ディーゼル
- 出力:570馬力/2,100rpm
- 駆動方式:8輪駆動(8×8)
- 最高速度:約100km/h
- 製造:三菱重工業
ここで注目すべきは「26トン」という重量である。10式戦車が44トン、90式戦車が50トンであることを考えると、16式機動戦闘車は戦車の約半分の重量しかない。
この軽さが、16式機動戦闘車の最大の武器なのだ。
なぜ「戦車」ではないのか
装輪と装軌の決定的な違い
「105mm砲を積んでるのに、なぜ戦車じゃないの?」
この疑問はもっともだ。しかし、16式機動戦闘車が「戦車」ではない理由は明確に存在する。
まず、駆動方式の違い。
戦車はキャタピラ(履帯)で走行する。キャタピラの利点は、不整地での走破能力と安定性だ。泥濘地、砂地、瓦礫の山――どんな悪路でも突き進める。
一方、16式機動戦闘車はタイヤで走行する。タイヤは舗装路での速度と燃費に優れるが、不整地では戦車ほどの走破能力を発揮できない。
つまり、「戦場機動力」において、16式機動戦闘車は戦車に劣るのである。
防御力の差
次に、防御力の違い。
戦車は「敵の攻撃を受けながら戦う」ことを前提に設計されている。10式戦車の装甲は、敵の戦車砲や対戦車ミサイルに耐えられるように設計されている(詳細は機密だが、世界最高水準とされる)。
しかし、16式機動戦闘車は異なる。
26トンという軽量な車体では、戦車並みの装甲を搭載することは物理的に不可能だ。防御力の詳細は公表されていないが、一般に装輪装甲車は「正面で20mm機関砲弾、その他は12.7mm機関銃弾を防ぐ程度」と言われている。
つまり、敵の戦車と正面から撃ち合えば、16式機動戦闘車は圧倒的に不利なのだ。
「戦車の代わり」ではなく「戦車と並ぶ存在」
こうした違いから、16式機動戦闘車は戦車を完全に代替するものではない。
防衛省も明確に述べている通り、16式機動戦闘車は10式戦車と並行して配備される。両者は補完関係にあり、それぞれ異なる役割を担うのだ。
戦車は「重厚な盾と矛」。 16式機動戦闘車は「俊敏な剣」。
この違いを理解することが、16式機動戦闘車の本質を掴む第一歩である。
開発の背景と経緯

なぜ日本は装輪戦車を必要としたのか
16式機動戦闘車の開発は、2007年(平成19年)に開始された。しかし、その構想はさらに以前から存在していた。
背景にあったのは、日本の安全保障環境の変化だ。
冷戦時代、陸上自衛隊の主な任務は「ソ連の北海道侵攻を阻止すること」だった。そのため、戦車は主に北海道に集中配備されていた。
しかし冷戦が終結し、ソ連が崩壊。代わりに浮上してきたのが、南西諸島方面の脅威だった。
中国の急速な軍事力増強。尖閣諸島をめぐる緊張。台湾有事の可能性。これらの新しい脅威に対応するため、陸上自衛隊は「全国どこにでも迅速に展開できる部隊」を必要としていた。
しかし、ここで問題が生じる。
戦車は重い。50トンもある90式戦車を、日本全国に迅速に展開させることは困難だ。本州の多くの橋梁は、50トンの戦車の通行を想定していない。
そこで注目されたのが、「装輪戦車」という概念だった。
世界の装輪戦車を研究
日本が16式機動戦闘車を開発するにあたり、世界の類似車両を徹底的に研究した。
特に参考にされたのが、以下の車両である:
- イタリア「チェンタウロ戦闘偵察車」(1991年配備開始)
- フランス「AMX-10RC」(1978年配備開始)
- 南アフリカ「ルーイカット装甲車」(2000年配備開始)
- アメリカ「M1128ストライカーMGS」(2002年配備開始)
これらの車両に共通するのは、「105mm砲を装輪車体に搭載し、高い戦略機動性を持つ」という点だ。
イタリアの運用思想は、特に日本に参考になった。イタリアは国土が南北に長い半島であり、すべての海岸に重装備部隊を配置することは不可能。そこで、主力戦車は北部に集中配備し、チェンタウロ戦闘偵察車を全国に分散配置している。
南部で戦闘が発生した場合、チェンタウロは高速道路を使って迅速に展開し、戦車部隊が到着するまでの「時間稼ぎ」を行う。
日本も同様の運用を目指したのである。
「ステルス開発」の内幕
興味深いのは、16式機動戦闘車の開発が「ひっそりと」始まったことだ。
当時、自衛隊の予算は厳しく、新型装備の開発には常に批判がつきまとった。特に「装輪戦車」という新概念は、理解を得にくい面があった。
そこで防衛省は、あえて大々的な発表を避け、静かに開発を進めた。2013年になってようやく試作車が報道公開され、その存在が広く知られることとなった。
この「ステルス開発」のおかげで、16式機動戦闘車は大きな反発を受けることなく、スムーズに制式採用に至ったのである。
詳細スペックを徹底解説

主砲:52口径105mm低反動ライフル砲
16式機動戦闘車の主砲は、国産の52口径105mm低反動ライフル砲である。
「105mmライフル砲」と聞いて、ピンと来る人も多いだろう。そう、これは74式戦車が搭載していたのと同じ口径の砲だ。
ただし、16式機動戦闘車の105mm砲は単なるコピーではない。
新開発された「低反動砲」であり、発射時の反動を大幅に軽減している。これにより、軽量な装輪車体でも安定した射撃が可能になった。
砲弾は74式戦車と共通のものを使用可能で、93式装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)や91式多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)を発射できる。
火力としては、第二世代戦車クラス。現代の最新型主力戦車(120mm滑腔砲搭載)には劣るが、軽装甲車両や旧式戦車、歩兵陣地に対しては十分な威力を発揮する。
エンジンと機動力
16式機動戦闘車のエンジンは、直列4気筒4ストローク水冷ターボチャージド・ディーゼル。出力は570馬力。
「570馬力? 戦車と比べると少なくない?」
確かに、10式戦車の1,200馬力、90式戦車の1,500馬力と比較すると控えめに見える。
しかし、重要なのは「出力重量比」だ。
16式機動戦闘車の出力重量比は約22hp/t。これは同種の装輪戦車と比較しても優れた数値であり、優れた加速性能を実現している。
最高速度は約100km/h。これは公道を走行する際の速度であり、戦車(最高70km/h程度)を大きく上回る。
さらに特筆すべきは、「自走で長距離移動できる」という点だ。
戦車は自走での長距離移動が困難なため、トランスポーター(輸送車両)で運ぶのが一般的。しかし16式機動戦闘車は、公道をそのまま走って目的地に向かえる。
これが「戦略機動性」の差となって現れるのだ。
C-2輸送機による空輸
16式機動戦闘車の重量は約26トン。この数値には大きな意味がある。
航空自衛隊の最新鋭輸送機C-2は、約30トン程度の貨物を空輸できる。つまり、16式機動戦闘車はC-2で空輸可能なのだ。
これが意味するところは大きい。
例えば、南西諸島で事態が発生した場合。16式機動戦闘車はC-2に搭載され、本土から数時間で現場に到着できる。従来の戦車では、船舶での輸送に何日もかかっていたことを考えると、この即応性は革命的だ。
8輪駆動システム
16式機動戦闘車は、8つの大径タイヤを備えた8×8(全輪駆動)車両である。
前4輪が操舵可能で、小回りも効く。また、独立懸架式サスペンションにより、不整地でもある程度の走破能力を確保している。
タイヤのパンクリスクについても対策が施されている。ランフラット機能を備えており、タイヤが1〜2本損傷しても、そのまま走行を継続できる。
これは戦車のキャタピラとは異なる利点だ。戦車はキャタピラが切断されると行動不能になることが多いが、16式機動戦闘車は脚(タイヤ)を失っても戦い続けられる。
10式戦車譲りの驚異的技術
装輪車両の弱点を克服した射撃統制装置
「装輪車両は射撃精度が低い」
これは軍事の常識だった。タイヤは柔らかく、射撃時に車体が大きく動揺する。そのため、走行間射撃の精度は戦車に比べて著しく劣るとされていた。
しかし、16式機動戦闘車はこの常識を覆した。
その秘密は、10式戦車の開発で培われた技術にある。
16式機動戦闘車の射撃統制装置(FCS)と反動抑制機構には、10式戦車と同じ技術が応用されている。これにより、装輪車両でありながら、驚異的な射撃精度を実現したのだ。
富士総合火力演習で見せた「スラローム射撃」
2018年の富士総合火力演習。16式機動戦闘車は、その実力を世界に見せつけた。
S字カーブを描きながら高速で旋回する16式機動戦闘車。激しく動揺する車体。しかし、砲塔はピタリと目標を捉え続け、走行中に次々と射撃を命中させた。
この「スラローム射撃」の映像は、国内外の軍事関係者を驚愕させた。
「装輪車両でこの精度は信じられない」
各国の専門家からそんな声が上がったという。
これこそが、日本の技術力の証明である。10式戦車で培った射撃統制技術を、16式機動戦闘車に惜しみなく投入した結果なのだ。
→ 10式戦車の詳細については「【2025年最新版】陸上自衛隊の日本戦車一覧」をご覧いただきたい。
モジュール装甲の採用
16式機動戦闘車の砲塔形状は、10式戦車の砲塔と類似している。
特に注目すべきは、砲塔前面に装着された楔形の空間装甲(スペースドアーマー)だ。また、車体の前面と側面にも、モジュール式の増加装甲が取り付けられている。
このモジュール装甲は、10式戦車と同じ設計思想に基づいている。必要に応じて着脱・交換が可能であり、脅威レベルに応じた柔軟な対応ができる。
防御力の詳細は公表されていないが、開発時にカール・グスタフ84mm無反動砲を用いた耐弾試験が行われたとの情報もある。対戦車火器への一定の防護力を想定した設計であることがうかがえる。
他国の装輪戦車との比較
16式機動戦闘車は、世界的に見てどのような位置づけにあるのか。主要な類似車両と比較してみよう。
イタリア「チェンタウロ戦闘偵察車」
チェンタウロは、装輪戦車の先駆け的存在だ。1991年から配備が開始され、約400両が生産された。
チェンタウロ vs 16式機動戦闘車:
- 重量:25トン vs 26トン(ほぼ同等)
- 主砲:52口径105mmライフル砲 vs 52口径105mmライフル砲(同等)
- 最高速度:108km/h vs 100km/h(チェンタウロがやや優位)
- 乗員:4名 vs 4名(同等)
基本スペックは非常に似通っている。これは、両者が同じ運用思想に基づいて設計されているためだ。
しかし、射撃精度においては16式機動戦闘車が優位とされる。10式戦車譲りの射撃統制装置は、チェンタウロのそれを上回る。
なお、イタリアは「チェンタウロ2」として120mm滑腔砲を搭載した後継車両を開発している。日本も将来的には、より強力な火力を持つ車両を検討する可能性がある。
アメリカ「M1128ストライカーMGS」
アメリカ陸軍のストライカー旅団戦闘チームの火力支援車両として開発されたM1128ストライカーMGS。
こちらも105mm砲を搭載した装輪戦車だが、2022年に退役が発表された。理由は「故障が多く、運用コストが高い」こと。
16式機動戦闘車は、M1128の失敗から学んでいる。信頼性の高い国産エンジンと、実績ある技術の組み合わせにより、高い稼働率を実現している。
フランス「AMX-10RC」
AMX-10RCは1978年から配備された老舗の装輪戦車だ。6輪駆動で105mm砲を搭載する。
長年フランス陸軍の主力偵察車両として活躍し、ウクライナにも供与された。しかし、さすがに設計が古く、現代の基準では射撃統制装置や防護力で見劣りする。
16式機動戦闘車は、最新の技術を投入した点でAMX-10RCを大きく上回っている。
比較まとめ
16式機動戦闘車の国際的な位置づけをまとめると:
- 火力:他国の105mm搭載車両と同等
- 機動力:世界トップクラス
- 射撃精度:世界最高水準(10式戦車技術の恩恵)
- 信頼性:非常に高い(国産の安心感)
- コスト:約7億円(10式戦車の約半分)
総合的に見て、16式機動戦闘車は世界の装輪戦車の中でもトップクラスの性能を持つと評価できる。
即応機動連隊と島嶼防衛

新たな部隊構想「即応機動連隊」
16式機動戦闘車は、主に「即応機動連隊」と「偵察戦闘大隊」に配備されている。
即応機動連隊とは何か。
これは、従来の普通科連隊(歩兵部隊)を母体に、機甲科の機動戦闘車部隊と野戦特科の重迫撃砲部隊を一体化した、諸職種連合の緊急展開部隊である。
つまり、歩兵・戦車(的な火力)・砲兵がワンパッケージになった機動力の高い部隊なのだ。
有事の際、即応機動連隊は日本全国どこへでも迅速に展開し、初動対処を行う。16式機動戦闘車の高い戦略機動性は、まさにこの任務にぴったりなのである。
島嶼防衛における役割
南西諸島防衛において、16式機動戦闘車は極めて重要な役割を担う。
想定シナリオを考えてみよう。
ある日、南西諸島の離島に外国軍が上陸を試みた。この時、陸上自衛隊はどう対応するか。
戦車を送り込みたいところだが、戦車は重い。船舶での輸送には時間がかかる。その間に敵に橋頭堡を確保されてしまう可能性がある。
ここで登場するのが16式機動戦闘車だ。
C-2輸送機に搭載された16式機動戦闘車は、本土から数時間で離島に到着。到着後すぐに戦闘可能であり、105mm砲の火力で敵の上陸部隊を叩く。
戦車部隊が到着するまでの「時間稼ぎ」。これが、16式機動戦闘車に期待される最も重要な役割なのだ。
中国の水陸両用戦力への対抗
なぜ16式機動戦闘車が105mm砲を搭載しているのか。単なる火力支援であれば、機関砲でも十分ではないか。
その答えは、想定される敵にある。
中国軍は、大口径砲を装備した上陸・空輸装備を多数保有している。例えば「04式歩兵戦闘車」や「05式水陸両用戦車」などだ。
これらの車両に対抗するには、機関砲では火力不足。105mm砲であれば、十分な対抗手段となる。
16式機動戦闘車の105mm砲は、「歩兵支援」だけでなく「敵装甲車両の撃破」も視野に入れた選択なのである。
→ 中国の軍事力については、今後の記事で詳しく解説予定だ。
配備状況と将来展望
2025年現在の配備状況
16式機動戦闘車は2016年度から調達が開始され、2025年現在も継続的に生産されている。
現時点で約220両以上が配備されており、最終的には約260両が調達される見込みだ。
配備先は以下の通り:
即応機動連隊:
- 第3即応機動連隊(名寄)
- 第10即応機動連隊(滝川)
- 第15即応機動連隊(善通寺)
- 第42即応機動連隊(北熊本) など
偵察戦闘大隊:
- 第4偵察戦闘大隊(福岡) など
教育部隊:
- 機甲教導連隊(富士学校)
- 武器学校 など
注目すべきは、本州から戦車が完全に姿を消したことだ。2024年3月に74式戦車が全車退役し、本州の部隊には戦車が配備されていない。
その穴を埋めるのが、まさに16式機動戦闘車なのである。
進化するバリエーション
16式機動戦闘車は、配備開始以来、継続的に改良が施されてきた。
特に2020年度以降に製造された「C5」型では、以下の改良が行われている:
- 砲塔後部へのエアコンユニット搭載
- 牽引用ウインチの装備(一部車両)
- クリーニングロッドケースの追加
- アンテナガードの増設
これらの改良は、実際に車両を運用した隊員の意見を反映したものだ。現場の声を取り入れ、常に進化し続ける。これが日本の防衛装備品の強みである。
共通戦術装輪車ファミリーの誕生

16式を母体とした車両ファミリー
16式機動戦闘車の成功を受け、陸上自衛隊はさらに野心的な計画を進めている。
それが「共通戦術装輪車」ファミリーだ。
16式機動戦闘車の車体をベースに、複数の派生型を開発。部品の共通化により、取得・整備コストの低減を図る。
2024年度から予算計上が始まった共通戦術装輪車には、以下の3車種がある:
- 24式装輪装甲戦闘車
- 30mm機関砲搭載の歩兵戦闘車型
- 即応機動連隊の普通科部隊を強化
- 24式機動120mm迫撃砲
- フランス製120mm 2R2M半自動装填迫撃砲搭載
- 迅速な火力支援が可能
- 25式偵察警戒車
- ブッシュマスターII 30mm機関砲搭載
- 偵察戦闘大隊用
これらの車両は、16式機動戦闘車と同じ即応機動連隊などに配備される予定だ。16式と連携して作戦を遂行することで、より効果的な戦闘が可能になる。
三菱重工業の総合力
16式機動戦闘車と共通戦術装輪車ファミリーの開発・生産は、すべて三菱重工業が担当している。
三菱重工業は、10式戦車、90式戦車、74式戦車と、戦後日本の主力戦車をすべて手がけてきた名門だ。その技術と経験が、16式機動戦闘車にも遺憾なく発揮されている。
さらに、車両ファミリー化により生産効率が向上。これは防衛予算の有効活用にもつながる。
→ 日本の防衛産業については、日本の防衛産業・軍事企業一覧【2025年最新】主要メーカーと得意分野・代表装備を完全網羅
16式機動戦闘車の戦術的運用
「ヒット・アンド・アウェイ」の達人
16式機動戦闘車は、戦車のように敵陣に突入する車両ではない。
その真価は、「ヒット・アンド・アウェイ」戦術にある。
高速で機動し、有利な位置から敵を射撃。反撃を受ける前に離脱し、別の位置から再び攻撃。この繰り返しで、敵を翻弄するのだ。
装甲防御力では戦車に劣る16式機動戦闘車だが、時速100kmの機動力があれば、敵の射線から逃れることは難しくない。
「当たらなければどうということはない」
まさにこの言葉が、16式機動戦闘車の戦術思想を表している。
長距離からの精密射撃
16式機動戦闘車のもう一つの強みは、長距離からの精密射撃だ。
10式戦車譲りの射撃統制装置により、2,000m以上の距離から目標を正確に攻撃できる。敵が反撃してくる前に、一方的に攻撃を加えられるのだ。
これは、歩兵への火力支援において特に有効だ。敵の陣地や軽装甲車両を、安全な距離から撃破できる。
戦車との連携
「16式機動戦闘車は戦車の代わりにはならない」
この点は何度強調しても足りない。しかし、「戦車と連携する」ことで、16式機動戦闘車はその真価を発揮する。
例えば、こんなシナリオを考えてみよう。
敵の機甲部隊が侵攻してきた。陸上自衛隊は、10式戦車部隊を投入して迎撃する。
このとき、16式機動戦闘車は側面から機動し、敵の側面や後方を攻撃。敵は正面の戦車と側面の16式機動戦闘車に挟まれ、身動きが取れなくなる。
戦車と機動戦闘車。両者の連携が、日本の防衛力を最大化するのだ。
まとめ──日本防衛の「新しい形」
16式機動戦闘車が示すもの
ここまで、16式機動戦闘車について詳しく見てきた。
最後に、この車両が示す「日本防衛の新しい形」について考えたい。
冷戦時代、陸上自衛隊の主眼は「北海道防衛」だった。ソ連の大規模機甲部隊を、戦車で迎え撃つ。それが基本構想だった。
しかし時代は変わった。
今、日本が直面しているのは、南西諸島方面の脅威だ。中国の軍事力増強、尖閣諸島をめぐる緊張、台湾有事の可能性。これらの新しい脅威に対応するため、陸上自衛隊は変革を迫られた。
16式機動戦闘車は、その変革の象徴である。
「全国どこにでも、迅速に展開できる火力」
これが、現代の日本防衛に求められるものだ。16式機動戦闘車は、まさにその要請に応える存在なのである。
戦車と機動戦闘車の棲み分け
改めて整理しよう。
戦車(10式・90式)の役割:
- 本格的な地上戦闘での主力
- 高い防御力で敵陣に突入
- 敵の主力戦車と正面から戦闘
- 戦略的要地の死守
16式機動戦闘車の役割:
- 迅速な初動対処
- 広い地域をカバー
- 敵の軽装甲車両や歩兵に対処
- 状況に応じた柔軟な機動
- 戦車部隊到着までの時間稼ぎ
両者は補完関係にあり、どちらも欠かせない存在だ。
16式機動戦闘車の将来
16式機動戦闘車は、これからも進化を続けるだろう。
共通戦術装輪車ファミリーとの連携強化。対ドローン防御システムの追加。将来的には、より強力な120mm砲の搭載も検討されるかもしれない。
ただし、どれほど進化しても、16式機動戦闘車が「戦車の完全な代替」になることはないだろう。両者はそれぞれの役割を持ち、日本の防衛に貢献し続ける。
おわりに
「戦車みたいなやつ」と呼ばれることもある16式機動戦闘車。
しかし、この記事を読んでいただいた皆さんには、もうその本質がお分かりいただけたと思う。
16式機動戦闘車は、戦車ではない。しかし、戦車に劣るわけでもない。
「俊敏な剣」として、日本の防衛に欠かせない存在。それが16式機動戦闘車なのだ。
富士総合火力演習や各地の駐屯地記念行事で、ぜひ実物を見ていただきたい。時速100kmで疾走しながら、次々と目標を撃ち抜くその姿は、まさに圧巻である。
あなたの「防衛ライフ」に、新たな発見があることを願って。
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【免責事項】 本記事の情報は2025年12月時点のものである。防衛装備品の詳細な仕様には機密情報が含まれるため、公開情報を基に執筆している。最新の情報や詳細については、防衛省の公式発表を確認されたい。

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