ハンティントン・インガルス(HII)株とは、アメリカ海軍の原子力空母を単独で建造できる唯一の企業であり、原子力潜水艦もゼネラル・ダイナミクスと二社独占で手がける、全米最大の軍事造船会社の株式のことだ。フォード級空母、バージニア級・コロンビア級潜水艦、イージス駆逐艦まで、アメリカの海の力を文字通り”造っている”会社と言っていい。
まず基本情報を整理しておこう。
- HIIの3事業と米海軍造船での位置づけ
- 空母・原潜の参入障壁と納期リスク
- 2025年通期・2026年Q1の業績とバックログ
- 配当、日本からの買い方、投資リスク
- 本記事は情報整理であり、購入・売却を勧める投資助言ではない
- 株価・利回り・NISA対象可否は確認時点や証券会社で変わる
- バックログと実際の売上・利益・キャッシュ創出は同じではない
- 国防予算、契約採算、納期、為替を継続確認する

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | Huntington Ingalls Industries, Inc.(ハンティントン・インガルス・インダストリーズ) |
| ティッカー | HII(NYSE) |
| 設立 | 造船所としては1886年創業、2011年にノースロップ・グラマンから独立分社 |
| 本社 | バージニア州ニューポート・ニューズ |
| CEO | クリス・カストナー |
| 従業員数 | 約44,000人 |
| 事業セグメント | ニューポート・ニューズ(空母・原潜)/インガルス(水上艦)/ミッション・テクノロジーズ(無人機・サイバー) |
| 2025年12月期売上高 | 124.8億ドル(前期比+8.2%) |
| 受注残高(バックログ) | 約540億ドル(2026年Q1時点) |
| 配当 | 14年連続増配、利回り1.7〜2.0%程度で推移 |
三菱重工と川崎重工が日本の潜水艦を二社独占で建造しているように、アメリカでも原潜を造れる造船所はHIIのニューポート・ニューズ造船所とゼネラル・ダイナミクスのエレクトリック・ボートの二社しかない。しかも空母に関してはHIIが唯一の建造企業だ。この記事では、HIIの事業の中身、2026年に入ってからの株価乱高下の理由、そして投資対象としての注目点を一次資料をもとに整理していく。
HIIの事業構造―3つのセグメントを解説

- FY2025売上高124.84億ドル
- 2026年3月末バックログ540億ドル
- 従業員約44,000人
- 米政府への依存度と高い参入障壁が共存
HIIは2011年、空母・原潜メーカーとしての性格が強かったノースロップ・グラマンの造船部門が分離独立する形で誕生した会社だ。現在は3つのセグメントで構成されている。
ニューポート・ニューズ・シップビルディングは、原子力空母と原子力潜水艦を手がける中核事業だ。アメリカ海軍の空母を建造できる造船所は全米でここ一つしかなく、潜水艦についてもゼネラル・ダイナミクスのエレクトリック・ボート(コネティカット州グロトン)と並ぶ二大拠点の一つとなっている。
インガルス・シップビルディング(ミシシッピ州パスカグーラ)は、アーレイ・バーク級駆逐艦、サンアントニオ級揚陸艦、アメリカ級強襲揚陸艦、沿岸警備隊の国家安全保障カッターなどを建造する部門です。HIIは2026年7月1日にフライトIII駆逐艦DDG-137(ジョン・F・レーマン)の建造開始を公表しました。人手不足が続く米造船業界で、見習い工養成や外部パートナーの活用による『分散型造船』を進め、生産能力の底上げを図っています。
ミッション・テクノロジーズは、無人水上艇(USV)や無人潜水機(UUV)、AI、サイバー・電子戦を担う成長部門です。HIIは2026年7月に無人水上艇ROMULUSの生産網へルイジアナ州のHalimar Shipyardを追加し、Lionfish UUVでも米海軍からオプション年度契約を獲得しました。会社の2026年見通しは、同部門の売上高30〜32億ドル、セグメント営業利益率約5%です。
原子力空母や潜水艦のような『国家の威信をかけた一点物』に目が向きがちですが、投資家としては無人艇・センサー領域も見逃せません。大型艦の建造技術に加え、量産可能な小型プラットフォームを海軍全体へどう行き渡らせるかが、次の10年の成長余地を左右する可能性があります。
フォード級空母―唯一の建造企業ゆえの強みとコスト超過

- 米国の原子力空母建造はニューポート・ニューズのみ
- CVN-79は2027年3月引き渡し予定
- CVN-80は2030年7月、CVN-81は2032年2月予定
- 独占的地位と納期・コスト超過リスクは表裏一体
HIIの看板商品は、何と言ってもフォード級原子力空母だ。電磁式カタパルト(EMALS)や新型原子炉、大幅な省人化を特徴とする最新鋭空母で、ニミッツ級の後継として建造が続いている。蒸気カタパルトを電磁式に置き換え、乗員をニミッツ級より数百人単位で減らしながら出撃率を高めるという設計思想は、正直に言って”よくこんな複雑な艦を実用化できたな”と技術ファンとしては素直に感心してしまう部分だ。
ただし、この分野は『唯一の建造企業』であることの裏返しとして、コスト超過と納期遅延が続く領域でもあります。CRSがまとめたFY2026予算資料では、CVN-79ジョン・F・ケネディの推定調達費は約132億ドル、引き渡しは2027年3月です。CVN-80エンタープライズは約142億ドル・2030年7月、CVN-81ドリス・ミラーは約152億ドル・2032年2月とされています。ニミッツ(CVN-68)は2026年6月にも展開を終えて寄港しており、『2026年5月に退役済み』ではありません。米海軍の2026年計画ではFY2026中の不活性化対象に位置づけられています。参入障壁は強みですが、納期とコストの管理はHIIの重要な課題です。
さらに、初代フォード(CVN-78)は2026年2月に開始された対イラン軍事作戦「オペレーション・エピック・フューリー」に投入され、紅海方面で運用された。この作戦の詳細はオペレーション・エピック・フューリー完全解説で扱っているので、EMALSの実戦運用に興味がある人はそちらを読んでほしい。フォード級を含む世界の空母全体のランキングは世界最強空母ランキングTOP10、排水量ベースの比較は世界最大の空母ランキングTOP15で詳しく扱っている。
バージニア級・コロンビア級原潜―"月産1.2隻"という構造問題

原潜事業では、HIIは主契約者ではなく”パートナーヤード”という立場にある。バージニア級攻撃型原潜もコロンビア級戦略原潜も、主契約者はゼネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボートであり、HIIのニューポート・ニューズはその艦首・艦尾モジュールを製造し、最終組み立てを行うグロトンへ輸送するという分業体制だ。原潜そのものの仕組みや通常動力潜水艦との違いは原子力潜水艦とはで解説しているので、そちらを参照してほしい。
投資家として押さえておきたいのは、米原潜建造が長年の生産能力不足を抱えている点です。海軍はバージニア級を年2隻建造する体制を目標にしていますが、実際の引き渡しペースは年1.2隻前後にとどまると説明されてきました。原案の『月産1.2隻』は誤りで、正しくは年率です。最優先のコロンビア級が人員・部材を必要とするため、バージニア級側を圧迫する構造も続いています。大きな需要があっても、生産能力が収益化の上限になる点が重要です。
米海軍の2026年シップビルディング・プランは、コロンビア級とバージニア級を長期の中核計画に置き、サプライチェーンと分散型造船への投資を重視しています。HIIも作業を主要造船所だけに集中させず、外部パートナーへ分散する方針を進めています。ただし、予算額やAUKUS向け艦の構成は議会審議と政府間調整で変わり得るため、断定的な投資材料ではなく、最新の海軍予算・CRS資料で継続確認する必要があります。
2026年第1四半期決算―増収でも株価が急落した理由

| 指標 | 2026年Q1 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 30.99億ドル | 27.34億ドル |
| 営業利益率 | 5.0% | 5.9% |
| セグメント営業利益率 | 5.6% | 6.3% |
| 希薄化後EPS | 3.79ドル | 3.79ドル |
| フリーキャッシュフロー | -4.61億ドル | -4.62億ドル |
ここからは決算の中身を見ていきます。2026年5月5日発表の第1四半期決算は、売上高30.99億ドル(前年同期比13.4%増)、純利益1.49億ドル、希薄化後EPS3.79ドルでした。公式資料だけを見ると増収ですが、利益率とキャッシュフローを分けて確認する必要があります。市場予想や時間外の値動きは情報源によって差が出るため、ここでは公式決算の数字を軸にします。
焦点は利益率とキャッシュフローです。セグメント営業利益率は前年同期の6.3%から5.6%へ低下し、フリーキャッシュフローはマイナス4.61億ドルでした。会社は2026年通期について、造船部門売上高97〜99億ドル・営業利益率5.5〜6.5%、ミッション・テクノロジーズ売上高30〜32億ドル・営業利益率約5%、全社フリーキャッシュフロー5〜6億ドルの見通しを維持しています。Q1の1株配当は1.38ドルで、前年同期の1.35ドルから増えました。HIIは株主還元と並行して、売上高の4〜5%にあたる設備投資を計画しており、生産能力への投資も重要な資本配分です。
HII株の値動き―防衛需要と株価は別に見る

- 造船部門の利益率
- フリーキャッシュフロー
- CVN・原潜の納期
- 外部パートナー活用と設備投資の効果
- 配当と自社株買いを含む資本配分
HII株は2026年に大きく変動しました。HII公式IRの表示では、2026年7月11日の確認時点で297.68ドルでした。株価、52週レンジ、移動平均、アナリスト目標は日々変わるため、固定値を投資判断の中心に置くべきではありません。確認時点を明記し、購入時には証券会社のリアルタイム画面とHII公式IRを見比べてください。
米国防総省は2026年2月28日にOperation Epic Furyを開始し、原子力空母などを投入したと公表しています。ただし『戦争が始まれば防衛株は必ず上がる』とは限りません。HIIの場合、需要の強さだけでなく、長期固定価格契約の採算、労働力、資材、納期、設備投資、キャッシュ創出が株価評価を左右します。国防予算案も議会審議で変化するため、予算総額の見出しとHIIへ実際に配分される契約を分けて見る必要があります。
防衛株では『有事なら株価も上がる』という単純な連想を避ける必要があります。バリュエーション、予算の実現可能性、契約採算、資本配分の方が、個別の軍事衝突より株価へ強く影響する場面もあります。防衛株全体の判断軸は防衛関連銘柄 完全投資ガイドも参考にしてください。
日本の造船重工株との比較―"二社独占"という共通の構図

造船重工株ランキングTOP7で扱った日本の潜水艦建造体制は、三菱重工と川崎重工の事実上の二社体制だ。アメリカも原潜に関してはHIIとゼネラル・ダイナミクスの二社しか建造できず、空母に至ってはHII一社しか造れない。国家の海洋戦力を支える基幹産業が、少数の企業に集約されるという構図は日米で共通している。
違うのは規模だ。HIIの2025年12月期売上高は124.8億ドル(約1.8兆円)で、造船重工株ランキングで扱った日本企業各社を大きく上回る。一方で、二社独占ゆえの生産能力の限界という課題を抱えている点は、日米どちらの造船セクターにも共通する投資家目線の論点と言えるだろう。川崎重工の防衛事業や三菱重工(7011)株価分析とあわせて読むと、日米の造船防衛産業を横断的に見比べられるはずだ。
ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクスとの違い

HIIはもともとノースロップ・グラマンの造船部門であり、2011年の分社によって誕生した経緯を持つ。ノースロップ・グラマン(NOC)株は現在B-21レイダーやICBM「センチネル」など航空・ミサイル分野が主力で、造船事業からは完全に手を引いている。一方のゼネラル・ダイナミクス(GD)株は原潜の主契約者という立場に加え、エイブラムス戦車やガルフストリーム・ビジネスジェットまで手がける多角経営が特徴で、造船一本足のHIIとはポートフォリオの分散度が異なる。空母・原潜という”海”に事業を集中させている分、海軍予算の増減がそのまま業績に直結しやすいのがHIIの特徴だと言える。
関連記事|防衛産業・造船株を比較
参考にした主な情報源
業績、バックログ、配当、株価時点、艦艇納期は企業IR・政府資料を優先して確認しました。
よくある質問
HIIの受注残高はどれくらいですか?
2026年3月末時点で540億ドルです。需要の厚さを示しますが、収益化は生産能力、納期、契約採算に左右されます。
HII株は防衛関連銘柄として買いですか?
空母・原潜の高い参入障壁は強みですが、利益率、キャッシュフロー、納期、株価水準も確認が必要です。本記事は投資助言ではありません。
HII株の配当はいくらですか?
2026年Q1に宣言された四半期配当は1株1.38ドルです。利回りは株価で変わるため、購入時点の公式IRと証券会社画面で確認してください。
HII株は日本から買えますか?
NYSE上場の米国株として、取扱証券会社から購入できる場合があります。取扱、手数料、為替、NISA対象可否は口座ごとに確認してください。
HIIの最大の投資リスクは何ですか?
需要不足より、長期契約の採算、労働力・資材不足、納期遅延、キャッシュ創出が主な論点です。
まとめ―唯一無二のポジションと、実行力という宿題

HIIは、米国で原子力空母を建造できる唯一の造船所を持ち、原潜もゼネラル・ダイナミクスとの分業体制で支える、代替の利きにくい会社です。2026年3月末のバックログは540億ドルに達します。一方で、フォード級空母の納期遅延、バージニア級潜水艦の年1.2隻前後という生産ペース、利益率とキャッシュフローが示す通り、『仕事はあるが、採算を確保して時間通りにこなせるか』という実行力へ投資家の視線が集まっています。
唯一無二のポジションという強みと、慢性的な生産能力不足という弱みの両方を抱える会社として、今後の四半期決算では利益率、フリーキャッシュフロー、納期、設備投資の効果を継続して確認する必要があります。
米国防衛株をさらに横断的に見たい人はロッキード・マーチン(LMT)株、防衛産業全体の世界地図を掴みたい人は世界の軍事・防衛産業企業ランキングTOP30、日本の防衛産業との比較には日本の防衛産業・軍需企業一覧もあわせてどうぞ。
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参考資料は、HII公式IR、米海軍、米国防総省、米議会調査局(CRS)の公開資料を優先しました。
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