
世界最速の潜水艦ランキングを、公開資料で確認できる水中速力から整理する。結論を先に置けば、有人軍用潜水艦の史上最高記録は、ソ連の661型原子力潜水艦K-222が記録した44.7ノットである。時速に直すと約82.8kmだ。2位は705型/705K型、NATO名アルファ級の41ノットで、試験時に42ノットへ達したとの資料もある。
ただし、3位以下の数字は急に輪郭がぼやける。米海軍はシーウルフ級とロサンゼルス級を「25ノット以上」としか公表せず、ロシア艦も資料によって数ノットの差がある。潜水艦の最高速力は機密性が高く、同じ「最大速力」でも設計値、海上公試の実測値、短時間だけ出した値が混在するからだ。
- 世界記録はソ連K-222の44.7ノット
- 2位のアルファ級も41ノットを記録
- 現役艦は公表条件がそろわず厳密な1位を断定できない
- 現代潜水艦は最高速力より静粛性・探知力・持続性を重視
潜水艦の最高速力は、日常的に使う巡航速度というより、危機の数分間だけ抜く非常用の刃である。数字の大きさだけで強さを決めると、その刃を抜いた瞬間に失う静粛性や、建造費、整備負担を見落とす。公表値と推定値を分け、順位の確度まで含めて比較する。
世界最速の潜水艦ランキング一覧
- 公表実測値と推定値を分ける
- 艦級の最大値と個艦記録を区別
- ノットは1.852倍でkm/hへ換算
- 最高速力は総合戦闘力ではない
| 順位目安 | 潜水艦・艦級 | 国 | 公開される水中速力 | 約km/h | 数字の性格 | 確度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | 661型 K-222(旧K-162) | ソ連 | 44.7ノット | 82.8km/h | 造船所が示す実測記録 | A |
| 2位 | 705/705K型 アルファ級 | ソ連 | 41ノット、試験42ノット説 | 75.9〜77.8km/h | 公開資料・試験値 | B |
| 3位帯 | 945型 シエラ級 | ソ連/ロシア | 約34〜36ノット | 63.0〜66.7km/h | 二次資料の幅あり | C |
| 3位帯 | シーウルフ級 | 米国 | 推定35ノット、公式25ノット以上 | 64.8km/h以上 | 公式下限+推定 | B |
| 3位帯 | 971型改良型 アクラII級 | ソ連/ロシア | 推定35ノット | 64.8km/h | 二次資料の推定 | C |
| 6位帯 | スキップジャック級 | 米国 | 推定33ノット、公式20ノット以上 | 61.1km/h以上 | 公式下限+推定 | C |
| 6位帯 | ロサンゼルス級 | 米国 | 推定32ノット、公式25ノット以上 | 59.3km/h以上 | 公式下限+推定 | B |
| 6位帯 | 949A型 オスカーII級 | ソ連/ロシア | 推定32ノット | 59.3km/h | 二次資料の推定 | C |
| 6位帯 | トラファルガー級 | 英国 | 推定32ノット | 59.3km/h | 二次資料の推定 | C |
| 10位 | 885/885M型 ヤーセン級 | ロシア | 公開資料31ノット、推定上限35ノット説 | 57.4km/h以上 | 公開値に幅あり | B |
| 参考 | アスチュート級 | 英国 | 公式30ノット | 55.6km/h | 英海軍の公表値 | A |
序列には幅がある。
確度Aは実測値または運用国・建造企業が明示した数字、Bは公式の下限値と有力な推定を照合できる数字、Cは二次資料間の差が大きい数字とした。3位帯と6位帯の内部順位は固定しにくい。例えばシエラ級は34ノット、35〜36ノットと資料が割れ、ヤーセン級も31ノットと35ノットの双方が流通している。
私は、こうした艦へ無理に一つの数字を当てはめるより、幅を残した方が実態に近いと考える。軍用潜水艦の性能表は、陸上競技の公式記録と性格が違う。公開側が意図的に丸めた数値を、外部の推定で補う世界である。
潜水艦の総合性能や静粛性を含む比較は、別記事の領域となる。
この論点を広く比較するなら、「【2025年最新】世界の潜水艦ランキング!日本の「たいげい」は何位?海自が誇る静粛性の秘密と各国潜水艦を徹底比較」もあわせて確認したい。
ランキングの基準|公表値と推定値を分けて読む
- 海軍・建造所の公式値を優先
- 25ノット以上は正確な上限ではない
- 推定値は幅を残して表示
- 同条件の比較試験は存在しない
順位の対象は、実際に就役した有人軍用潜水艦とした。魚雷、無人潜水艇、深海調査艇、実用化されなかった超高速潜水艇構想は除外している。試験艦でも、戦闘用潜水艦として海軍へ引き渡されたK-222は対象に含めた。
1ノットは時速1.852kmである。44.7ノットなら約82.8km/h、35ノットなら約64.8km/h、20ノットなら約37.0km/hになる。自動車の速度として見れば驚きにくい数字だが、数千トンから1万トンを超える船体を高密度の海水中で動かす速度としては別物だ。
数字は三種類に分けた。
- 実測・公式値:公試記録、海軍、設計局、造船所が明示した値
- 公式の下限値:「25ノット以上」「20ノット以上」のように能力を伏せた表記
- 推定値:専門資料、艦艇年鑑、軍事データベースなどが示す値
ここが要点だ。
「25ノット以上」は25ノットが最高という意味ではない。米海軍の現行ファクトファイルは、シーウルフ級、ロサンゼルス級、バージニア級を一律に25ノット以上とする。実際の最大速力を比較するには推定値が必要になるが、推定を公式記録のように扱ってはならない。
また、海面状態や水深、排水量、原子炉出力、推進器、試験時間によって到達値は変わる。短時間の全力航走と、戦術上維持できる高速航走も別だ。ランキングは公開情報を整列させた目安であり、各国の機密資料を確定する用途には使えない。

1位|661型K-222は44.7ノットの世界記録を持つ
- 実測44.7ノット
- 時速換算で約82.8km
- チタン合金船体を採用
- 高速化の費用と騒音が量産を阻んだ
史上最速の潜水艦は、ソ連の661型原子力潜水艦K-222である。建造時の艦番号はK-162で、NATOからはパパ級と呼ばれた。建造したセヴマシュは、受領後に原子力機関を全出力として速力を確認し、44.7ノットの絶対記録を樹立したと説明している。記録は現在も破られていない。[^1]
狙いは明快だった。米空母機動部隊へ追いつき、P-70対艦ミサイルで攻撃する。そのため、船体には軽くて強いチタン合金を採用し、2基の原子炉と2軸推進を組み合わせた。当時のソ連が400を超える組織を動員した国家的開発であり、速力を最優先した設計だった。
代償も大きい。
チタン加工は高価で、K-222は「金の魚」と呼ばれた。セヴマシュの説明では、建造費が当時の国防予算の2%に達したとの説まである。全力航走時の騒音と振動も激しく、敵を追う速力は得たが、自艦の存在を隠す潜水艦本来の利点を削った。
K-222は量産されず、一隻で終わった。私はこの艦を、最速記録を取った成功作であると同時に、速度だけを極端に伸ばした設計の限界を示す実験結果だと見る。44.7ノットは勝利の数字だが、同じ設計を艦隊へ並べられなかった事実も記録の一部である。
2位|アルファ級は41ノットと加速力を両立した
705型/705K型アルファ級は、量産された潜水艦として最速級の存在だ。公開資料では最大41ノット、少なくとも一隻が試験で42ノットに達したとされる。停止に近い状態から全速まで約1分、180度の旋回に約42秒という記述もあり、最高速力だけでなく加速と旋回を重視していた。[^2]
発想は過激だった。
速さの核は、チタン製船体、40,000馬力級の一軸推進、液体金属冷却炉にある。船体を小型化し、乗員を約30人まで減らすために自動化も徹底した。敵潜水艦を捕捉した後、速力差で追尾位置を維持し、魚雷からの離脱も狙う「潜水艦ハンター」だった。
だが、液体金属冷却炉は扱いが難しい。冷却材を適温に保てなければ固化する恐れがあり、基地側にも特殊な支援設備が要る。先進的な自動化装置は信頼性に課題を抱え、少人数の乗員だけで故障へ対処する負担も重かった。
しかも高速を出せば騒音が増える。アルファ級は、見つからないまま待ち伏せする静かな狩人というより、発見後に速度と運動性で主導権を奪う迎撃機に近い。K-222が一発の記録挑戦なら、アルファ級はその思想を複数艦で運用しようとした艦級だった。
3位帯|35ノット前後にシエラ、シーウルフ、アクラが並ぶ
- シエラ級は34〜36ノット説
- シーウルフ級は公式25ノット以上
- アクラII級は35ノット説
- 厳密な順位は確定できない
3位以下は推定の海だ。
シエラ級|チタン船体の高速攻撃原潜
945型シエラ級は、資料によって水中34ノット、35〜36ノットと幅がある。チタン製の耐圧船体を採用し、高速性、深度性能、磁気的な被探知性の低減を狙ったソ連第3世代の攻撃原潜である。GlobalSecurityは35〜36ノットとするが、他の艦艇資料にはシエラIを34ノット、シエラIIを32ノットとする例もある。[^3]
したがって、36ノットを確定値としてシーウルフ級より上へ置くのは危うい。ここでは34〜36ノットの推定帯とした。チタン船体は強力だが、加工費と建造難度が高く、鋼製船体の971型アクラ級ほど多数をそろえられなかった。
シーウルフ級|速く走っても静かであることを狙った
米海軍が公表するシーウルフ級の速力は25ノット以上である。具体的な最大値は非公表だが、Naval Technologyなどの二次資料は35ノットとする。[^4][^5]
重要なのは、単純な全速記録より高速時の静粛性を重視した点だ。冷戦末期、静粛化したソ連潜水艦を追尾するため、シーウルフ級は大出力原子炉、ポンプジェット推進、強力なソナー、大量の兵装を組み合わせた。全力時に大音響を出すK-222とは、同じ高速原潜でも設計思想が違う。
その分、価格は膨らんだ。当初の大量建造計画は冷戦終結と予算事情で縮小され、完成は3隻にとどまった。速力、静粛性、深度、兵装を高水準で同居させれば、艦価が跳ね上がる。シーウルフ級はその現実を示す。
アクラII級|35ノット説と艦級全体33ノットを分ける
971型アクラ級について、Naval Technologyは艦級全体の最大水中速力を33ノット、船体を延長して静粛化したアクラII級を35ノットとしている。[^6] 同じ「アクラ級」でも改良段階を混ぜると数字がずれるため、ランキングではアクラII級を35ノット級、基本型を33ノット級と考えるのが妥当だ。
アクラ級はチタンを多用したシエラ級と異なり、鋼製船体で量産性を確保した。速さの追求に偏らず、静粛化、ソナー、魚雷・ミサイル兵装をまとめた実用的な攻撃原潜である。35ノット説が正しくても、常用前提の値とは考えにくい。
6位帯|32〜33ノット級には米英露の名艦が集中する
- 米英露の冷戦型原潜が集中
- 涙滴型船体と大出力炉が高速化
- 巨大なオスカーII級も約32ノット
- 公表値と推定値の混在に注意
32〜33ノットは、冷戦期の高速攻撃原潜が密集する帯である。数値差は1ノットほどしかなく、資料誤差や艦ごとの状態で順番が入れ替わり得る。
差はわずかだ。
スキップジャック級|涙滴型船体が米原潜を速くした
米スキップジャック級の公式記録は20ノット以上だが、公開推定では33ノットが広く使われる。米海軍歴史遺産司令部は、原子力推進とアルバコア型の流線形船体を組み合わせた先駆的な艦だったと説明している。[^7] 1959年の就役時には、米国で最も速い原子力潜水艦となった。
速さを生んだのは、潜航時に適した涙滴型船体である。第二次世界大戦型潜水艦は水上航走も重視したが、原子力潜水艦は長時間浮上する必要がない。船体を水中専用へ近づけることで、同じ出力でも抵抗を減らせた。
推定33ノットを実測公表値のように断定はできない。それでも、スキップジャック級が米原潜の水中高速化を決定づけた技術的転換点であることは揺らがない。
ロサンゼルス級|公式25ノット以上、推定32ノット
ロサンゼルス級は米海軍の公式ファクトファイルで25ノット以上、GlobalSecurityでは実際の最大水中速力を32ノットと推定する。[^5][^8] 長期にわたり米攻撃原潜の主力となった艦級であり、速力、静粛性、量産性、兵装の均衡が取れていた。
同級は空母機動部隊に随伴し、敵潜水艦を捜索する任務を想定した。必要な海域へ素早く移動し、接触後に位置を変える速力は重要である。それでも公表値が「25ノット以上」に止まるのは、速度別の音響特性や作戦能力を推測されないためだろう。
オスカーII級|約2万トンの巨体で32ノット
949A型オスカーII級は、水中排水量約2万トンに迫る大型巡航ミサイル原潜でありながら、推定32ノットとされる。2基の原子炉と2軸推進を備え、P-700対艦ミサイル24発を搭載して米空母群を攻撃する設計だった。[^9]
巨体を高速で動かす力は驚異的だ。ただし、オスカーII級の価値は速度競争だけにない。遠距離から大量の対艦ミサイルを撃つためのセンサー、通信、外部目標情報がそろって初めて任務を果たす。32ノットは射点への進出や離脱を助ける性能である。
トラファルガー級|英国の冷戦型SSNは推定32ノット
英国トラファルガー級は、二次資料で最大水中速力32ノットとされる。GlobalSecurityの仕様表も32ノットを掲げる。[^10] 英海軍の攻撃原潜として、ソ連潜水艦の追尾、艦隊護衛、情報収集、トマホーク巡航ミサイルによる対地攻撃を担った。
後継のアスチュート級が公式30ノットであるため、数字だけなら旧型の方が速く見える。ここで「新型ほど必ず高速」という思い込みが崩れる。新世代艦は静粛性、センサー、兵装、整備性、航海中の情報処理まで含めて設計され、最高速力だけを更新目標にしない。
10位|ヤーセン級は31ノット公表と35ノット推定が混在する
ロシアの885型/885M型ヤーセン級は、公開資料の扱いが難しい。ロシア国営通信タスの装備解説や、北方艦隊発表を基にした報道は、水中速力31ノットとする。GlobalSecurityは31ノットを中心値としながら、28〜35ノットという推定幅も併記している。[^11][^12]
幅は大きい。
ランキングでは確認しやすい31ノットを採用した。35ノット説を採れば3位帯へ上がるが、裏付けの強さが足りない。数字を大きく見せるより、確認可能な値を優先する方がよい。
ヤーセン級の主眼は、速度記録より多用途性と静粛性にある。大型ソナー、巡航ミサイル用垂直発射装置、魚雷兵装を備え、対潜水艦、対水上艦、対地攻撃を一隻で担う。設計元のマラヒートも、音響特性を下げた新世代の原子力機関を強調している。最高速力が31ノットでも、探知されにくい速度域でどれだけ戦えるかが重要だ。
参考|アスチュート級の公式30ノットは比較の物差しになる
英海軍はアスチュート級の速力を30ノットと明記している。全長97m、水中排水量7,400トン、航続距離は原子力推進により実質無制限とされ、現役艦の公式数値として信頼しやすい。[^13]
物差しとして堅い。
30ノットは約55.6km/hだ。推定35ノット級より低く見えるものの、英海軍はアスチュート級を同国史上最も先進的で強力な攻撃原潜と位置付け、静粛性も強調する。速力表の順位と海戦能力の順位は一致しない。
この30ノットは、他国の曖昧な数字を見る物差しにもなる。米海軍の25ノット以上は、アスチュート級より遅いという断定には使えない。下限値と確定値を同じ列で競わせないことが必要だ。

なぜ潜水艦は最高速力を出すほど不利になるのか
- 流体抵抗は速力とともに急増
- 推進器のキャビテーションが騒音化
- 自艦ソナーの性能も低下
- 構造・冷却・操縦性の負担が増える
水中では抵抗が重い。
流体抵抗は、条件が同じなら速度の二乗におおむね比例する。推進に必要な出力は抵抗と速度の積なので、単純化すれば速度の三乗に近い勢いで増える。20ノットから40ノットへ倍速化すると、必要出力は単純計算で約8倍になる。実際には流れや推進器効率も変わるため、さらに複雑だ。[^14]
高速化すると、プロペラやポンプジェット周辺で圧力が下がり、気泡が生じるキャビテーションも問題になる。気泡の生成と崩壊は騒音源となり、推進効率や材料にも影響する。米海軍の大型キャビテーション水路は、最大35ノット相当の流れで潜水艦模型の推進力、効率、プロペラ騒音、キャビテーション、音響を同時に測定している。[^15]
つまり、最高速力を出した潜水艦は速いが、同時に「聞こえやすい潜水艦」へ近づく。ソナー戦では、自分が相手を探す能力と、相手から探されない能力の両方が要る。大きな自己雑音は自艦ソナーの聴取も邪魔する。
高速にも明確な用途がある。魚雷回避、接触の断絶、重要海域への急行、味方艦隊への追随、射点の変更では価値がある。K-222やアルファ級が示したのは、最高速力そのものより「必要な時に戦場の位置関係を変える力」だった。
私は、潜水艦の速力をエンジン出力の自慢として読むより、いつ静粛性を捨てて走るのかという戦術上の選択として読む方が面白いと思う。高速は常用性能より緊急性能に近い。見つかる危険と引き換えに、距離と時間を買う性能である。

現役で世界最速の潜水艦はどれか
- 最高速力は重要な軍事機密
- 各国の公表方法が異なる
- 推定では35ノット級が候補
- 分からない部分を残すことも精度
断定はできない。
2026年7月時点の推定値だけなら、米シーウルフ級の約35ノット、ロシアのアクラII級の約35ノット、シエラ級の上限34〜36ノットが候補になる。ヤーセン級にも35ノット説がある。ところが、各国が同じ条件の公試記録を公開していないため、「現役1位」を証明する共通の計測表が存在しない。
公式に読み取れる範囲では、英海軍がアスチュート級を30ノットと明記し、米海軍はシーウルフ級を25ノット以上とする。ロシアの公開資料ではヤーセン級31ノットが確認しやすい。これらから、現役最速を一隻へ決めることはできない。
推定上の最速候補はシーウルフ級などの35ノット級、公開値を比較した有力候補はヤーセン級の31ノットとアスチュート級の30ノット、という二段構えで理解するのが安全だ。機密を含む分野では、分からない部分を残すことも精度の一部となる。

日本のたいげい型・そうりゅう型は何ノットか
- そうりゅう型の公式値は約20ノット
- たいげい型の速力は公式非公表
- 低速時の静粛性と蓄電池を重視
- 島嶼線や海峡での待ち伏せへ最適化
海上自衛隊は、そうりゅう型の速力を約20ノットと公表している。約37.0km/hだ。現行のたいげい型公式ページは、基準排水量、寸法、推進方式、兵装、乗員を載せているが、速力は掲載していない。[^16][^17]
そのため、たいげい型を20ノット、あるいは20ノット以上と断定するには別の根拠が要る。そうりゅう型と船体規模が近いことだけでは、公式値の空欄を埋める根拠にならない。
通常動力潜水艦が原子力潜水艦より遅いのは、主機の性格が違うためだ。原子炉は長時間にわたり大出力を供給できる。ディーゼル電気潜水艦は、潜航中に蓄電池と電動機を使い、速力を上げるほど電力を急速に消費する。最高速力より、低速で静かに待ち伏せできる時間の方が重要になる。
そうりゅう型やたいげい型を「20ノット級だから弱い」と見るのは的外れだ。日本近海の海峡や島嶼線で敵艦を待ち受けるなら、静粛性、ソナー、蓄電池、乗員練度、海底地形の利用が戦力を左右する。最速記録を狙ったK-222と、海自の通常動力潜水艦は、同じ競技へ参加していない。
この論点を広く比較するなら、「日本の潜水艦の歴史を完全解説|帝国海軍の野心から海自の世界最高峰技術まで【2025年版】」もあわせて確認したい。
この論点を広く比較するなら、「そうりゅう型潜水艦とは|AIPとリチウムイオン電池・たいげい型との違い」もあわせて確認したい。
よくある質問
世界最速の潜水艦は何か
ソ連の661型原子力潜水艦K-222で、セヴマシュが示す実測記録は44.7ノット、約82.8km/hである。
現役で最速の潜水艦は何か
公開情報だけでは確定できない。推定ではシーウルフ級、アクラII級、シエラ級などの35ノット前後が候補になるが、公式値の条件がそろっていない。
原子力潜水艦なら何ノットでも出せるのか
原子炉の出力だけでは決まらない。船体抵抗、推進器のキャビテーション、騒音、構造強度、操縦性、冷却能力が上限を決める。
最高速力と静粛速力は同じか
両者は別物だ。最高速力は短時間の全力性能、静粛速力は騒音を抑えながら追尾や捜索を行える速度であり、潜水艦戦では後者が重要になる。
44.7ノットは地上の時速でいくらか
1ノットを1.852km/hで換算すると、44.7ノットは約82.8km/hである。
スーパーキャビテーション潜水艇はランキングに入らないのか
実用化された有人軍用潜水艦に当たらないため除外した。気泡で船体を包む超高速構想やスーパーキャビテーション魚雷は、通常の潜水艦とは航続時間、操縦、センサー運用、任務が異なる。
日本の潜水艦は遅いのか
そうりゅう型の公式速力は約20ノットだが、通常動力潜水艦は最高速力より低速時の静粛性と潜航持続力を重視するため、原潜ランキングとの単純比較には向かない。
まとめ|最速記録と最強の潜水艦は一致しない
世界最速の潜水艦は、44.7ノットを記録したソ連のK-222である。2位は41ノットのアルファ級で、この2者は公開情報でも明確に抜けている。3位以下はシエラ級、シーウルフ級、アクラII級の35ノット前後が並ぶが、公式値と推定値が混ざるため順位は幅を持って読む必要がある。
現代の潜水艦がK-222の記録更新を狙わない理由は、技術後退ではなく設計目標の変化にある。理由は明快だ。高速化で増える抵抗、出力、騒音、建造費を考えれば、静粛性、センサー、兵装、情報処理、整備性へ資源を配った方が戦力になる場面が多いからだ。
最速記録は潜水艦技術の一つの頂点である。それでも、海中戦で最後に残る艦は、最も速く走った艦とは限らない。非常用の刃を持ちながら、抜かずに相手を先に見つける艦こそ厄介なのである。
主要参考資料
[^1]: AO PO Sevmash, “АПЛ «Золотая рыбка» празднует юбилей”, https://sevmash.ru/rus/news/2865-2019-12-31-08-55-45.html [^2]: Севастопольская кают-компания, “Проект 705 К”, https://wardroom.ru/museum/exhibits/proekt-705-k/ [^3]: GlobalSecurity.org, “Project 945 Sierra class”, https://www.globalsecurity.org/military/world/russia/945-specs.htm [^4]: Naval Technology, “SSN Seawolf Class”, https://www.naval-technology.com/projects/seawolf/ [^5]: U.S. Navy, “Attack Submarines – SSN”, https://www.navy.mil/Resources/Fact-Files/fact-files/display/display-factfiles/article/Article/2169558/attack-submarines-ssn/ [^6]: Naval Technology, “SSN Akula Class (Bars Type 971) Nuclear Submarine”, https://www.naval-technology.com/projects/akula/ [^7]: Naval History and Heritage Command, “Skipjack II (SSN-585)”, https://www.history.navy.mil/research/histories/ship-histories/danfs/s/skipjack-ii.html [^8]: GlobalSecurity.org, “SSN-688 Los Angeles-class”, https://www.globalsecurity.org/military/systems/ship/ssn-688-specs.htm [^9]: Naval Technology, “Oscar II Class Nuclear-Powered Cruise Missile Submarine”, https://www.naval-technology.com/projects/oscar-submarine/ [^10]: GlobalSecurity.org, “Trafalgar-class Submarines – Specifications”, https://www.globalsecurity.org/military/world/europe/hms-trafalgar-specs.htm [^11]: TASS, “Подводные лодки проекта 885 «Ясень». Досье”, https://tass.ru/info/3496563 [^12]: GlobalSecurity.org, “Project 885 Yasen / Graney”, https://www.globalsecurity.org/military/world/russia/885-specs.htm [^13]: Royal Navy, “Astute Class”, https://www.royalnavy.mod.uk/equipment/submarine/astute-class [^14]: NASA Glenn Research Center, “Drag Equation”, https://www1.grc.nasa.gov/beginners-guide-to-aeronautics/drag-equation/ [^15]: Naval Sea Systems Command, “William B. Morgan Large Cavitation Channel”, https://www.navsea.navy.mil/Home/Warfare-Centers/NSWC-Carderock/Who-We-Are/Memphis-Tennessee/ [^16]: 海上自衛隊「潜水艦『そうりゅう』型」, https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ss/souryu/ [^17]: 海上自衛隊「潜水艦『たいげい』型」, https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ss/taigei/
参考資料・主な出典
Sevmash|K-222高速記録|資料を確認
U.S. Navy|Attack Submarines – SSN|資料を確認
Royal Navy|Astute Class|資料を確認
NASA|Drag Equation|資料を確認
Naval Sea Systems Command|Large Cavitation Channel|資料を確認
海上自衛隊|潜水艦そうりゅう型|資料を確認
海上自衛隊|潜水艦たいげい型|資料を確認
関連記事
この記事が参考になったら、応援の意味で以下のリンクから何か購入いただけると幸いです。執筆の励みになります。リンク先以外の商品でも構いません。
コメント