「イージス艦って、結局どこの国のが一番強いの?」
軍事に興味を持ち始めた人なら、誰もが一度は抱く疑問だろう。
私自身、この疑問に長く向き合ってきた。1983年にタイコンデロガ級が就役して以来、イージス艦は世界の海軍力を測る最も重要な指標の一つとなった。そして今、米中の軍拡競争の中で、イージス艦の進化は新たな局面を迎えている。
正直に言おう。イージス艦のランキングを作ることは、非常に難しい。なぜなら、各国の艦艇は異なる設計思想に基づいており、単純な数値比較では本質を見誤るからだ。
それでも本記事では、火力、防御力、センサー能力、ネットワーク戦闘能力、そして実戦での信頼性を総合的に評価し、2025年現在の「世界最強イージス艦ランキング」を独自に作成した。
日本の「まや型」は世界でどのような位置にあるのか。中国の「055型(レンハイ級)」は本当に脅威なのか。そしてアメリカの最新「フライトIII」は何がそこまで凄いのか。
ミリタリーファンはもちろん、ニュースで「イージス艦」という言葉を聞いて興味を持った方にも、わかりやすく解説していく。最後まで読めば、イージス艦の世界が一変するはずだ。
そもそもイージス艦とは何か?── 神々の盾を持つ艦

イージスの名前の由来
「イージス(Aegis)」という名前は、ギリシア神話に登場する最高神ゼウスが娘アテナに与えたとされる「アイギス」に由来する。あらゆる邪悪を払う盾(または胸当て)を意味し、艦隊を敵の攻撃から守る「盾」としての役割を象徴している。
1970年代、ソ連は対艦ミサイルの飽和攻撃によって西側艦隊を撃破する戦術を確立しつつあった。数十発、時には数百発のミサイルが同時に襲来する状況で、従来の防空システムでは対処しきれない。
この危機に対応するため、アメリカ海軍が開発したのが「イージスシステム」である。
イージスシステムの核心── SPY-1レーダー
イージス艦の心臓部は、AN/SPY-1フェーズドアレイレーダーだ。
従来のレーダーは機械的に回転するアンテナで周囲を走査していたため、探知に時間がかかり、同時に追尾できる目標数も限られていた。
対してSPY-1レーダーは、約4,000個の素子を電子的に制御することで、機械的な動きなしに全周を監視できる。その結果、200を超える目標を同時に追尾し、10個以上の目標と同時に交戦することが可能となった。
従来の防空艦が2〜3目標との同時交戦しかできなかったことを考えれば、これは革命的な飛躍だった。
なぜイージス艦が「最強」と呼ばれるのか
イージス艦が世界最強の水上戦闘艦と呼ばれる理由は、単に対空能力が高いからではない。
イージス戦闘システムは、艦に搭載されたすべての兵器システムを統合的に管理する。対空戦闘だけでなく、対艦戦闘、対潜戦闘、さらにはトマホーク巡航ミサイルによる対地攻撃まで、あらゆる局面で脅威の捜索から攻撃までを迅速に行える。
さらに近年は、弾道ミサイル防衛(BMD)能力が付与され、北朝鮮や中国の弾道ミサイルを宇宙空間で迎撃する任務も担うようになった。
一隻で艦隊防空、弾道ミサイル迎撃、対地攻撃、対潜戦闘をこなせる万能艦。それがイージス艦なのである。
※日本のイージス艦についてより詳しく知りたい方は、「日本のイージス艦「こんごう型・あたご型・まや型」を徹底解説」もぜひご覧いただきたい。
イージス艦の性能を左右する5つの要素
ランキングを理解するために、イージス艦の性能を評価する際の重要な要素を整理しておこう。
1. レーダー性能(センサー能力)
イージス艦の「目」となるレーダーの性能は、艦の能力を決定づける最重要要素だ。
現在運用されているイージスレーダーには以下の種類がある。
SPY-1B/D:第1世代のイージスレーダー。タイコンデロガ級、こんごう型などに搭載
SPY-1D(V):改良型。まや型、世宗大王級などに搭載
SPY-6:最新世代。探知距離がSPY-1の約3倍。アーレイバーク級フライトIIIに搭載
SPY-7:弾道ミサイル防衛に特化。日本のイージス・システム搭載艦に搭載予定
レーダーの探知距離と精度は、敵を先に発見し、先に攻撃できるかどうかを決める。この差は戦場では生死を分ける。
2. VLS(垂直発射装置)のセル数
VLSは、ミサイルを垂直に発射する装置で、イージス艦の火力を示す重要な指標だ。
セル数が多いほど、より多くのミサイルを搭載でき、長期間の作戦行動や複数回の交戦に対応できる。
主要イージス艦のVLSセル数比較:
タイコンデロガ級:122セル
中国055型:112セル
世宗大王級:128セル(Mk.41が80セル+国産VLS48セル)
アーレイバーク級フライトIII:96セル
まや型:96セル
イージス・システム搭載艦:128セル(予定)
ただし、セル数だけで優劣は決められない。搭載するミサイルの種類や、VLSのサイズも重要な要素となる。
3. 弾道ミサイル防衛(BMD)能力
北朝鮮や中国の弾道ミサイル脅威が増大する中、BMD能力は現代のイージス艦に不可欠な要素となった。
BMD能力を持つイージス艦は、SM-3ミサイルを用いて大気圏外で弾道ミサイルを迎撃できる。さらにSM-6ミサイルは、従来の航空機や巡航ミサイルに加え、終末段階の弾道ミサイルや極超音速兵器への対処も可能だ。
日本のまや型やこんごう型はBMD能力を備えており、北朝鮮のミサイル発射に対する「盾」として常時警戒任務についている。
4. 共同交戦能力(CEC)
現代の海戦は、単艦ではなく艦隊全体でシステム的に戦う時代だ。
CEC(Cooperative Engagement Capability)は、艦隊内の各艦艇や航空機がリアルタイムでセンサー情報を共有し、一体となって交戦できるシステム。ある艦のレーダーで探知した目標を、別の艦から発射したミサイルで撃墜することも可能になる。
日本では、まや型が海上自衛隊で初めてCECを搭載した。これにより、日米艦隊の一体的な防空作戦が可能となった。
5. ステルス性と生存性
現代の水上戦闘艦は、敵のレーダーに探知されにくいステルス性能も重視される。
艦体の傾斜や構造物の配置を工夫することで、レーダー反射面積(RCS)を低減。また、赤外線放出を抑制する設計も取り入れられている。
中国の055型は、ステルス性を重視した船体設計が特徴で、その点では従来のアーレイバーク級より優れているとされる。
世界最強イージス艦ランキングTOP10【2025年版】
それでは、2025年現在の世界最強イージス艦ランキングを発表する。
評価基準は、レーダー性能、火力、BMD能力、ネットワーク戦闘能力、ステルス性、実績の6項目を総合的に判断した。
なお、本ランキングは筆者独自の評価であり、異論があることは承知している。ぜひコメント欄で議論していただきたい。
第1位:アメリカ海軍 アーレイバーク級 フライトIII

世界最強の座に君臨するのは、アメリカ海軍の最新イージス艦「アーレイバーク級フライトIII」である。
2023年に1番艦「ジャック・H・ルーカス」が就役したこの艦は、従来のイージス艦とは完全に別次元の存在だ。
アーレイバーク級フライトIIIの主要諸元:
満載排水量:約9,700トン
全長:155.3m
主砲:62口径127mm単装砲
VLS:96セル(Mk.41)
レーダー:AN/SPY-6(V)1(AMDR)
速力:30ノット以上
乗員:約330名
なぜ最強なのか?── SPY-6レーダーの革命
フライトIIIが最強である最大の理由は、新型レーダー「SPY-6」の搭載にある。
SPY-6は、SPY-1と比較して探知距離が約3倍に向上した。さらに、弾道ミサイルや極超音速兵器といった探知・追尾が困難な目標にも対応しながら、同時に迫りくる対艦ミサイルや航空機にも対処できる。
このレーダーの特徴は「RMA(Radar Modular Assembly)」と呼ばれるモジュール構造にある。37個のRMAで構成されており、一部に問題が生じても残りで機能を維持できる。整備性も大幅に向上し、サーキットカードを交換するだけで大半の不具合を解決できるという。
防空艦から艦隊の「頭脳」へ
フライトIIIの役割は、従来のイージス艦とは大きく異なる。
従来、空母打撃群の防空指揮は、タイコンデロガ級巡洋艦が担っていた。しかし、タイコンデロガ級が2027年までに全艦退役する予定の中、フライトIIIがその役割を引き継ぐことになる。
その能力の高さから、フライトIIIの艦長は従来の駆逐艦艦長(中佐)より上の大佐が就任する異例の措置が取られている。もはや「駆逐艦」という枠を超えた存在なのだ。
アメリカ海軍はフライトIIIを含め、アーレイバーク級を90隻まで建造する計画で、第二次大戦後に建造された水上戦闘艦としては最多の建造数となる。
第2位:中国人民解放軍海軍 055型(レンハイ級)駆逐艦
西側世界を震撼させた中国の巨艦が第2位にランクインする。
055型駆逐艦(NATOコードネーム:レンハイ級)は、基準排水量1万1,000トンを超える大型艦で、その規模はアメリカのタイコンデロガ級巡洋艦すら上回る。実際、アメリカ国防総省は055型を「ミサイル巡洋艦」として分類している。
055型の主要諸元:
基準排水量:約11,000トン
満載排水量:約13,000トン
全長:180m
主砲:130mm単装速射砲
VLS:112セル(大型汎用VLS)
速力:32ノット以上
乗員:約280名
圧倒的な火力── 世界最大級のVLS
055型の最大の特徴は、112セルという大量のVLSだ。
さらに注目すべきは、このVLSの大きさである。中国が独自開発した「GJB 5860-2006」VLSは、アメリカのMk.41 VLSより容積が60%以上大きく、より大型のミサイルを搭載できる。
2022年には、055型から「鷹撃21(YJ-21)」艦対艦弾道ミサイルの発射が公開された。射程1,500kmに達するとされるこの対艦弾道ミサイルは、アメリカの空母打撃群にとって深刻な脅威となりうる。
模倣から脱却した独自設計
かつて中国の軍艦は「パクリ」と揶揄されることが多かった。しかし055型は、ステルス性を重視した艦体設計や統合マストなど、完全に独自の設計思想に基づいている。
デュアルバンドレーダー「346B型(ドラゴンアイ)」は、CバンドとSバンドの両方に対応し、ステルス機の探知能力も有するとされる。
2025年現在、055型は8隻が就役しており、さらに改良型の055A型4隻を含む計12隻以上の建造が予定されている。中国海軍はこれらを空母「遼寧」「山東」「福建」の護衛艦として運用し、太平洋進出の尖兵とする構えだ。
第2位とした理由
055型を第2位としたのは、以下の理由からだ。
実戦経験がない:アメリカ艦艇のような実戦での検証がなく、システムの信頼性が未知数
ネットワーク能力:アメリカ艦隊のようなCECレベルの共同交戦能力があるかは不明
レーダー性能:SPY-6には及ばないとみられる
とはいえ、055型が西側にとって深刻な脅威であることは間違いない。今後の動向から目が離せない。
第3位:アメリカ海軍 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦
「元祖イージス艦」として1983年に就役を開始したタイコンデロガ級が第3位だ。
確かに設計は古い。最も新しい艦でも1994年就役で、すでに30年以上が経過している。しかし、その大きな船体とVLS 122セルという火力は、今なお世界有数の性能を誇る。
タイコンデロガ級の主要諸元:
基準排水量:約9,466トン
全長:172.8m
主砲:54口径127mm単装砲 2基
VLS:122セル(Mk.26搭載艦は61セル)
レーダー:AN/SPY-1A/B(後期型はSPY-1B)
速力:30ノット以上
乗員:約400名
空母打撃群の「番人」
タイコンデロガ級の最大の強みは、その拡張性とスペースの余裕にある。
ステルス性を考慮していない大きな艦橋構造物は、進化を続けるイージスシステムの収容に困ることがなく、継続的なアップグレードを可能にした。湾岸戦争、イラク戦争など数々の実戦で活躍し、その信頼性は実証済みだ。
また、CEC(共同交戦能力)を備えた改修艦は、リアルタイムで情報を共有しながら戦う現代的な戦闘能力も獲得している。
退役の運命
しかし、タイコンデロガ級は2027年までに全艦退役が予定されている(一部艦は延長の可能性あり)。その役割はアーレイバーク級フライトIIIに引き継がれ、さらに将来的にはDDG(X)が後継艦となる予定だ。
老兵は消え去るのみ──しかし、イージス艦の歴史を切り拓いたタイコンデロガ級の功績は永遠に記憶されるだろう。
第4位:日本 海上自衛隊 イージス・システム搭載艦
まだ建造中の艦を4位にランクインさせることには異論があるかもしれない。しかし、その予定性能を見れば、この順位は妥当だと確信している。
イージス・システム搭載艦は、イージス・アショア計画の中止を受けて計画された、日本独自の新型艦だ。西側諸国では最大の水上戦闘艦となる見込みである。
イージス・システム搭載艦の主要諸元(予定):
基準排水量:約12,000トン
全長:約190m
VLS:128セル
レーダー:AN/SPY-7(V)1
速力:30ノット以上
乗員:約240名
就役予定:1番艦2027年度、2番艦2028年度
なぜ世界最大なのか?
イージス・システム搭載艦が大型化した理由は、主に弾道ミサイル防衛(BMD)任務を長期間継続するためだ。
従来のイージス艦は、BMDパトロールのために長期間海上に拘束されると、乗員の疲労や艦の整備が問題となっていた。イージス・システム搭載艦は、居住性を大幅に向上させ、動揺に強い設計とすることで、長期間の洋上任務に対応する。
また、SPY-7レーダーはBMD任務に特化した設計で、高高度の弾道ミサイル迎撃に優れた性能を発揮する。
2隻で1兆9,416億円
40年間のライフサイクルコストは2隻で約1兆9,416億円。まや型護衛艦2隻(約1.4兆円)の約1.4倍となる高価な艦だ。
しかし、これにより既存のイージス艦8隻がBMD任務から解放され、南西諸島方面への展開が可能になる。費用対効果を考えれば、十分に意義ある投資だろう。
※日本のミサイル防衛システム全体について知りたい方は、「日本のミサイル防衛システム完全解説」もご参照いただきたい。
第5位:海上自衛隊 まや型護衛艦

海上自衛隊最新のイージス艦「まや型」が第5位にランクインだ。
2020年に1番艦「まや」が就役し、2021年には2番艦「はぐろ」が続いた。両艦とも横須賀を母港とし、日本の弾道ミサイル防衛と艦隊防空の要として活躍している。
まや型護衛艦の主要諸元:
基準排水量:約8,200トン
満載排水量:約10,250トン
全長:170m
主砲:62口径127mm単装砲
VLS:96セル(Mk.41)
レーダー:AN/SPY-1D(V)、AN/SPQ-9B
速力:30ノット以上
乗員:約300名
日本初のCEC搭載艦
まや型の最大の特徴は、海上自衛隊で初めてCEC(共同交戦能力)を搭載したことだ。
これにより、日米のイージス艦隊が一体となって防空作戦を行うことが可能となった。例えば、アメリカ艦のレーダーで探知した目標を、まや型から発射したミサイルで撃墜する──そんな連携が実現できる。
また、従来のこんごう型・あたご型と異なり、建造当初からBMD能力を完全に統合。SM-3ブロックIIA(日米共同開発)やSM-6の運用も可能だ。
COGLAG推進システム
機関面では、ガスタービンと電気推進を組み合わせた「COGLAG」方式を採用。燃費が向上し、静粛性も高まった。これは対潜戦闘において重要な要素だ。
まや型の就役により、海上自衛隊は安倍内閣以来の目標だった「イージス艦8隻体制」を確立した。
第6位:韓国海軍 正祖大王級駆逐艦(KDX-IIIバッチ2)
2024年11月に就役したばかりの韓国最新イージス艦が第6位だ。
「正祖大王(チョンジョデワン)」は、韓国国産駆逐艦開発計画「広開土III(KDX-III)」のバッチ2に分類される。既存の世宗大王級を大幅に改良した発展型で、弾道ミサイルの迎撃能力を獲得した点が最大の特徴だ。
正祖大王級の主要諸元:
基準排水量:約8,200トン
満載排水量:約10,455トン
全長:170m
VLS:88セル(Mk.41が48セル+KVLS-I 16セル+KVLS-II 24セル)
レーダー:AN/SPY-1D(V)
最高速力:34ノット
乗員:約300名
北朝鮮ミサイルを「撃墜」できる艦へ
従来の世宗大王級(バッチ1)は、弾道ミサイルを探知・追尾することはできても「撃墜」はできなかった。
正祖大王級は、SM-6ミサイルを搭載することで、終末段階での弾道ミサイル迎撃が可能となった。これは「韓国型3軸体系」の中核戦力として、北朝鮮の核・ミサイル脅威に対抗する上で重要な能力だ。
また、国産の新型VLS「KVLS-II」を搭載し、艦対地弾道ミサイル「玄武-IV-2」の運用も可能。攻撃力と防御力を兼ね備えた艦となっている。
計3隻の建造が予定されており、韓国イージス艦は最終的に6隻体制となる見込みだ。
第7位:海上自衛隊 あたご型・こんごう型護衛艦

日本のイージス艦の先駆けとなった「こんごう型」(4隻)と「あたご型」(2隻)を第7位とした。
これらは「第一世代」「第二世代」と区分されるが、いずれも継続的な改修により、BMD能力を獲得している。
こんごう型の主要諸元:
基準排水量:約7,250トン
全長:161m
VLS:90セル(Mk.41)
レーダー:AN/SPY-1D
就役:1993年〜1998年
あたご型の主要諸元:
基準排水量:約7,750トン
全長:165m
VLS:96セル(Mk.41)
レーダー:AN/SPY-1D(V)
就役:2007年〜2008年
30年の進化
1993年に就役した「こんごう」は、アメリカ以外で初のイージス艦だった。当時、「日本が世界最強の防空艦を保有した」として大きな話題となった。
そこから30年。継続的な改修によりBMD能力を獲得し、現在もなお日本防衛の第一線で活躍している。特にこんごう型は、2007年に海上発射型SM-3による弾道ミサイル迎撃試験に成功し、世界にその能力を示した。
設計は古くなりつつあるが、信頼性と実績では折り紙付きだ。
第8位:韓国海軍 世宗大王級駆逐艦(KDX-IIIバッチ1)
韓国初のイージス艦「世宗大王級」(バッチ1)が第8位だ。
2008年から2012年にかけて3隻が就役し、VLS 128セルという強力な火力を誇る。ただし、バッチ1にはBMD迎撃能力がなく、弾道ミサイルの探知・追尾にとどまる。
世宗大王級(バッチ1)の主要諸元:
満載排水量:約10,455トン
全長:165.9m
VLS:128セル(Mk.41が80セル+国産VLS48セル)
レーダー:AN/SPY-1D(V)
最高速力:30ノット
重武装の代償
世宗大王級は、アーレイバーク級フライトIIAをベースにしながら、国産巡航ミサイルや対潜ミサイル用の国産VLSを追加搭載した「重武装艦」だ。
単艦での戦闘力は高いものの、その代償として「トップヘビー」(重心が高い)という指摘がある。また、想定以上の水中雑音が問題視されたこともあった。
とはいえ、これらの問題は後続のバッチ2で改良されており、韓国造船技術の成長を示す艦でもある。
第9位:オーストラリア海軍 ホバート級駆逐艦
南半球唯一のイージス艦であるホバート級が第9位だ。
スペインのアルバロ・デ・バサン級をベースに、オーストラリア独自の要求を反映して設計された。2017年から2020年にかけて3隻が就役し、オーストラリア海軍の防空能力を飛躍的に向上させた。
ホバート級の主要諸元:
満載排水量:約7,000トン
全長:147.2m
VLS:48セル(Mk.41)
レーダー:AN/SPY-1D(V)
最高速力:28ノット以上
SM-6運用を前提とした設計
ホバート級の特徴は、建造当初から最新のSM-6ミサイルの運用を想定していた点だ。SM-6は従来の航空機や巡航ミサイルに加え、終末段階の弾道ミサイルへの対処能力も持つ多用途ミサイルである。
オーストラリアはアメリカとの同盟関係が深く、将来的にはより高度なBMD任務への参加も視野に入れている。
第10位:スペイン海軍 アルバロ・デ・バサン級フリゲート
ランキング最後は、「イージス艦のコンパクト化」を実現したスペインのアルバロ・デ・バサン級だ。
満載排水量6,000トン未満という小型艦にもかかわらず、本格的なイージスシステムを搭載することに成功した。この設計は、ノルウェーのフリチョフ・ナンセン級やオーストラリアのホバート級など、各国のイージス艦の原型にもなった。
アルバロ・デ・バサン級の主要諸元:
満載排水量:約5,800トン
全長:146.7m
VLS:48セル(Mk.41)
レーダー:AN/SPY-1D
最高速力:28ノット以上
「無敵艦隊」の末裔
艦名の由来である「アルバロ・デ・バサン」は、かの「無敵艦隊」の創設者であり、「スペイン海軍の父」と呼ばれる人物だ。
2025年7月には、4番艦「メンデス・ヌニェス」が日本の横須賀に寄港した。スペイン海軍の戦闘艦としては実に131年ぶりの来日だった。NATOとインド太平洋地域の連携強化を象徴する出来事として注目を集めた。
VLSは48セルと少なめだが、ESSMは1セルに4発搭載できるため、最大で「SM-2×32発、ESSM×64発」という陣容も可能だ。小型ながらも侮れない能力を持つ。
日本のイージス艦は世界でどの位置にあるのか?
ここまでランキングを見てきて、日本のイージス艦の位置づけを整理してみよう。
数で世界第2位
2025年現在、日本はアメリカに次いで世界で2番目に多くのイージス艦を保有している。
こんごう型:4隻
あたご型:2隻
まや型:2隻
合計:8隻
さらに、イージス・システム搭載艦2隻が建造中で、2027〜2028年度に就役予定だ。
質で世界トップクラス
日本のイージス艦は、単なる「量」だけでなく「質」も世界トップクラスだ。
BMD能力:8隻すべてがBMD能力を持ち、北朝鮮ミサイルへの24時間警戒を実施
CEC搭載:まや型は日米共同交戦が可能
SM-3ブロックIIA:日米共同開発の最新迎撃ミサイルを運用
特に、BMD能力を持つイージス艦を8隻も配備している国は、アメリカと日本だけだ。
課題と今後
一方で、日本のイージス艦には課題もある。
人員確保:高度なシステムを運用する乗員の確保が難しく、イージス・システム搭載艦では陸上自衛隊から269人分を振り替える予定
トマホーク導入:反撃能力保有に向けてトマホーク巡航ミサイルの導入が進むが、運用ノウハウはこれから
対中国:055型を8隻以上配備する中国海軍との相対的なバランス
とはいえ、日米同盟のもとで運用される日本のイージス艦隊は、単独での数の比較では測れない抑止力を発揮している。
※日本の艦艇全般については、「海上自衛隊の艦艇完全ガイド」で詳しく解説している。
イージス艦の未来── レールガン、レーザー、そして無人艦
イージス艦の進化は止まらない。今後10〜20年で、どのような変化が予想されるのか。
次世代レーダーの進化
SPY-6やSPY-7といった最新レーダーは、さらなる進化が見込まれる。
特に、極超音速兵器(マッハ5以上で飛行するミサイルや滑空体)への対処が喫緊の課題だ。従来の弾道ミサイルとは異なる不規則な軌道を描く極超音速兵器を探知・追尾・迎撃するには、レーダーとミサイルの両面で技術革新が必要となる。
レーザー兵器の実用化
2024年、アメリカ海軍のアーレイバーク級駆逐艦「プレブル」が横須賀に配備された。この艦には「HELIOS」と呼ばれる高出力レーザー兵器システムが搭載されている。
レーザー兵器は、ドローンや小型ボートなど、従来のミサイルでは「割に合わない」目標への対処に有効だ。一発のコストが極めて低く、「弾切れ」の心配もない(電力が続く限り)。
今後、イージス艦にもレーザー兵器が標準搭載される可能性は高い。
電磁レールガン
電磁力で砲弾を超高速で打ち出すレールガンは、長らく「夢の兵器」とされてきた。
アメリカではズムウォルト級への搭載計画があったが、技術的課題から断念。一方、中国は055型へのレールガン搭載実験を行っているとの報道もある。
実用化されれば、従来の艦砲とは比較にならない射程と威力を発揮し、対地攻撃や弾道ミサイル迎撃にも活用できる可能性がある。
DDG(X)── アメリカの次世代駆逐艦
アメリカ海軍は、タイコンデロガ級とアーレイバーク級の後継として「DDG(X)」の開発を進めている。2028年度から就役開始の予定だ。
DDG(X)は、SPY-6の大型版を搭載し、レーザー兵器や極超音速兵器への対応も視野に入れた「21世紀後半の海軍力の中核」となる艦だ。
無人化・自律化の波
将来的には、有人イージス艦と連携して行動する「無人水上艦(USV)」の導入も進むだろう。
センサーやミサイルを搭載した無人艦が、イージス艦の「手足」として活動し、危険な任務は無人艦が担う──そんな艦隊の姿が、そう遠くない将来に実現するかもしれない。
まとめ── 世界最強イージス艦ランキング
最後に、2025年版の世界最強イージス艦ランキングを改めて整理しよう。
世界最強イージス艦ランキングTOP10:
第1位:アメリカ・アーレイバーク級フライトIII(SPY-6搭載、世界最強のセンサー能力)
第2位:中国・055型レンハイ級(VLS 112セル、対艦弾道ミサイル運用)
第3位:アメリカ・タイコンデロガ級(VLS 122セル、実戦での信頼性)
第4位:日本・イージス・システム搭載艦(建造中、西側最大の水上戦闘艦)
第5位:日本・まや型(CEC搭載、日米共同交戦能力)
第6位:韓国・正祖大王級(最新型、BMD迎撃能力)
第7位:日本・あたご型/こんごう型(30年の実績、BMD改修済み)
第8位:韓国・世宗大王級バッチ1(VLS 128セル、重武装)
第9位:オーストラリア・ホバート級(SM-6運用、南半球唯一)
第10位:スペイン・アルバロ・デ・バサン級(小型イージスの先駆け)
おわりに── 海の守護者たちに敬意を
この記事を書きながら、私は改めてイージス艦という存在の重みを感じていた。
イージス艦は、単なる軍艦ではない。核ミサイルの脅威から国民を守る「盾」であり、平和の海を維持するための「抑止力」であり、災害時には救援活動の「拠点」にもなる。
日本のイージス艦は、北朝鮮がミサイルを発射するたびに警戒態勢につく。乗員たちは家族と離れ、いつ何時ミサイルが飛んでくるかわからない緊張の中、海の上で任務を続けている。
その姿を想像するとき、私は「最強」という言葉の重さを思わずにはいられない。
「最強」であることの意味
真に強い軍艦とは、戦争に勝つためではなく、戦争を起こさせないために存在する。
「これだけの防衛力があるから、攻めても無駄だ」と相手に思わせること──それが抑止力の本質であり、イージス艦の使命だ。
日本のまや型も、アメリカのフライトIIIも、そして中国の055型でさえ、願わくば実戦で使われることなく、平和の海の守護者として存在し続けてほしい。
そう願いながら、この記事を締めくくりたい。
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【免責事項】 本記事の情報は2025年12月時点のものです。防衛装備品の詳細な仕様には機密情報が含まれるため、公開情報を基に執筆しています。最新の情報や詳細については、各国の国防省の公式発表をご確認ください。

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